R1 諾伊庫洛姆(含日版)

「相違」

三三九八年。席道爾將軍所率領的擴大派已逐漸掌握了古朗德利尼亞帝國的軍力。

席道爾將軍主張要遵從『皇帝陛下的意向』,率領擴大派年輕精銳的巴爾茲大佐與美麗的女將軍貝琳達為所欲為地操控著軍力。



帝國軍中尉的吉恩,敲響了位於浮游戰艦武裝船底部的房門。

「我是由今天開始被派至武裝船的吉恩·福爾艾菲爾中尉」

過了一會兒,門的另一頭傳來了女性的聲音。

「門沒有上鎖,進來吧」

依照指示打開了門。房間裡擺滿了不知道用途的不明機械,然後在那剩餘的空間裡硬塞進了桌椅。

「初次見面,諾伊庫洛姆技官」

「福爾艾菲爾中尉,你有聽過我的事吧?」

不像女性的語調讓吉恩有些不知所措。之前聽說潘德莫尼的住民個性是相當抑制的,吉恩感覺非常的奇妙。

「是的。聽說以潘德莫尼的規則,在地上只允許在武裝船內部活動」

「對。也就因為這樣,我少不了像你這樣負責傳令的人。麻煩你」

「我……。沒,沒事」

『傳令』,聽了這句話的吉恩嘆了一口氣。但是,也不能對著初次見面的人唱反調。吉恩將已經到了嘴邊的話吞了回去。



吉恩生長在代代支撐著帝國的政治家族。本人也是個優秀的人物,為了守護帝國的理想而從軍。以不讓家門及理想蒙羞的行動及優秀表現,擔任做為將來帝國軍與政治局的橋樑,特別是統制派非常期待他未來的成就。

但是,一切都因為祖父與父親的突然失蹤而完全改變了。雖然明顯是想讓統制派瓦解的擴大派所做的好事,但是遍尋不著痕跡與證據,事件的真相於是被深埋在黑暗之中。

在這個事件之後統制派失去了威權,之後,與統制派有牽連的政治家或是軍人,都被流放至不重要的職位或是偏遠的地方。

由於吉恩的家族也是統制派的緣故,除了今後再也沒有出人頭地的機會之外,也無法實現建立戰功的願望了。



在負責諾伊庫洛姆及作業員們之間的往來之後,過了一個多月。

早上前去諾伊庫洛姆所在的房間,收集報章雜誌資料。中午再將作業員、士官們交付的資料送去給諾伊庫洛姆。這就是吉恩主要的工作。

「有件事想請問中尉」

中午過後,送資料的時候諾伊庫洛姆難得地問道。

「你滿足於這個工作嗎?」

對於這個過於唐突的問題,吉恩張大了眼睛。

「就算您這麼說。但這是上面交待下來的命令」

「奇怪了。照你的經歷來看的話,應該早就升官的才是」

諾伊庫洛姆將視線對上吉恩。雖然沒有表情,但是強勢的語調讓吉恩有點招架不了。

「對軍人來說命令是絕對的」

吉恩心裡已經近似放棄的滿足於現狀之中。就算自己一個人引起騷動也不會有什麼改變。一直都是這麼想的。

「像這種不合理的事,你打算無視是嗎?」

「現在也只能這樣。至少,在席道爾將軍掌握著軍力的這段期間是這樣的」

糟了。吉恩突然驚覺。竟然跟武裝船的負責技官講了這樣的話,真是太失態了。

「正是因為以感情來推動軍事跟政治,才會產生這些扭曲的事啊」

「我還是不說了。要是跟工程師說了這些的事情傳到擴大派的耳裡的話,我就會連這裡也沒辦法繼續待了」

吉恩打斷諾伊庫洛姆的話,打開門想要離開房間。

「扭曲的軍政必定會產生破綻。席道爾能掌握軍事的時間,很快就會結束了吧」

吉恩沒能回答伊庫洛姆的話。不知道是不是有人在監聽。隨便亂說話很可能會毀了自己啊。



隔天,就在結束突然被命令的夜間待機沒多久,吉恩就被叫到了羅占布爾克航空基地的司令室。

「昨天中午到晚上這段時間,你人在哪裡?」

像在質問犯人般態度的司令官以及周圍待機的高階軍人們,整個氣氛充滿著殺氣。

「中午的時候將資料交給了在武裝船的諾伊庫洛姆技官。之後就在飛行場的辦公桌整理了資料。然後因為作業員有深夜工程的緣故所以保持夜間待機−−」

「不允許任何謊言。我再問你一次,昨天中午到晚上這段時間,你做了些什麼?」

「到底是發生了什麼事?我除了自己的職務之外什麼也沒做」

雖然吉恩請求司令官說明,但是司令官卻只是不斷沒完沒了的重複一樣的話。不過若是是將統制派有關人員給叫了過來的話,肯定是發生了些什麼對擴大派不利的事了吧。

不知道重複了幾次同樣的對話。就在吉恩也開始感到不耐煩的時候,通信兵表示有事情要報告給司令官。

就在一臉不悅的司令官問通信兵是什麼事的時候,就從通信兵裝備通信機裡傳出了諾伊庫洛姆的聲音。

「福爾艾菲爾中尉在你們那邊吧。我這邊的事務全耽擱住了,還請你們盡快結束」

「這我們可不能保證」

「請你們說明理由。依事情的輕重程度我可能會判斷你們妨礙導都命令的執行,並且向指導者建議停止技術提供」

「……昨晚,席道爾將軍被不明人士襲擊。我們判斷這是統制派的人幹的好事,於是對屬於統制派的人進行質問」

對於諾伊庫洛姆強硬的態度,司令官以一臉像是有苦說不出的表情回答道。

吉恩雖然從那句話中了解為什麼被叫來這裡的原因了,但還是努力讓自己維持著無表情。

「你是說福爾艾菲爾中尉有嫌疑嗎?中尉昨晚因為有深夜的工程要進行,所以在我的命令之下於飛行場待機」

「真的嗎?」

我不是都說了好幾次了嗎。吉恩雖然心裡這麼想,卻只是無言的肯定著。

「我明白了。你可以走了。諾伊庫洛姆技官、福爾艾菲爾中尉,這件事還請你們不要張揚」

司令官一邊將緊張的汗水擦去一邊說著,將吉恩給釋放了。



從司令室被釋放後,吉恩馬上就回到武裝船。

一進房間,就看到用手指敲著堆積如山資料的諾伊庫洛姆在等著他。

「非常感謝您,諾伊庫洛姆技官。多虧你我才沒有受到不合理的處罰」

「我非常討厭別人妨礙我做事進度。我只是為了事務可以順利進行而已」

一如往常諾伊庫洛姆的臉上一點表情都沒有。

「如果統制派暗殺席道爾將軍的事沒有失敗的話,或許事情也不會變成這樣了吧」

吉恩回想起被逼急的統制派以前有嘗試要暗殺席道爾將軍。結果卻遭到其他擴大派的妨害,以失敗告終。

「結果就是讓錯誤的軍閥崛起了嗎。但是考慮進昨天晚上的事情的話,席道爾是錯誤的存在這件事可以說是肯定的了」

「即使席道爾將軍死了,也只是讓擴大派另找其他優秀的人來代替首腦吧。勢力不是那麼輕易會改變的」

「你不認為即便如此也必須矯正錯誤嗎?你不也因為他們錯誤的行徑而受了不少苦嗎」

聽了諾伊庫洛姆的話,心中不禁浮現出被殺害的祖父跟父親的身影,以及因此傷心欲絕而過世的母親。

「我確實因為擴大派吃了很多苦。但是,我也不能怎樣」

吉恩甩去家族的幻影。依目前的情況來說要有什麼行動是不可能的。

「有時候確實是需要像這樣的達觀吧。但是,並不是現在」

諾伊庫洛姆說完這些,就轉回辦公桌了。



之後過了一段時間,一如往常前往諾伊庫洛姆的工作室時,除了要交給作業員的資料之外還拿到了一張便條。

「是帝國軍政治局馬許補佐官的連絡方式。你就拿去用吧」

馬許補佐官是長期在帝國軍政治局工作,是個總是為了帝國臣民的安全著想來行動而聞名,有著高尚人格的大人物。

在卡頓長官過世後,不時能聽到他為了從擴大派的粗暴下保護統制派的人而竭盡心力。

「您是怎麼弄到這個的?」

「只是問了問帝國各地的技官而已。要怎麼使用就看你自己了」

說完,諾伊庫洛姆就將吉恩趕出工作室了。



吉恩一邊交互看著便條跟通信機一邊思考著。腦袋裡不斷回響著諾伊庫洛姆所說的「要怎麼用就看你自己了」。

總有一天、很快就會、根本沒有那個閒時間了。很明顯要是不掌握住這個機會的話,在洗清家族的遺憾之前就會被軍方給利用到死了吧。

吉恩下定決心,靠著諾伊庫洛姆的便條跟馬許取得了連絡。

連絡方式是真的。就馬許所說,分崩離析的統制派正逐漸重整勢力,而且席道爾將軍對擴大派來說也變得有點礙事了。

吉恩表示要協助馬許,並且要利用自己就在席道爾將軍力量象徵的武裝船的立場來進行。



在跟馬許連絡上的隔天,到了工作室看到的是露出滿足微笑的諾伊庫洛姆。

「發生了什麼好事嗎?」

「是啊,因為正確的行動因果開始轉動了。這是我最後的幫助了」

伴隨著不可思議的發言,諾伊庫洛姆拿出一個招待狀給吉恩看。

「……這是?」

「在約二個月後,會在羅占布爾克航空基地舉辦武裝船乘員慰勞晚餐會」

「我從來沒聽說過有這樣的預定」

吉恩握緊了拳頭。對不把派閥鬥爭的敗者看作榮譽的帝國軍人這點,再次令人覺得憤怒。

「晚宴席道爾也會參加的樣子。那,你會怎麼行動呢?」

諾伊庫洛姆維持著微笑,直直的像是要看穿般的凝視著吉恩的雙眼。



知道晚餐會事情的吉恩馬上就跟馬許聯絡。跟其他統制派成員秘密討論,決定要利用羅占布爾克的地理環境來暗殺席道爾將軍了。

吉恩被選作執行者。因為決定要親手洗刷家族的遺憾了。



兩個月後,在羅占布爾克航空基地,舉辦了為了慰勞取得龐大戰果的武裝船乘員的盛大宴會。

吉恩讓席道爾將軍馬車的侍從喝下了摻有安眠藥的酒,趁他們昏睡之後搶走了他們的衣服。昏睡的侍從們由馬許秘密安排的軍人回收,監禁在航空基地的倉庫之中。

如此一來馬車的奪取就完成了。接下來就只要等席道爾將軍上車了。

沒多久有點喝醉的席道爾將軍就回到馬車上了。席道爾將軍沒有仔細確認侍從的長相就進入馬車裡。

看起來勢必是相當開心而喝的酩酊大醉。關上馬車的門,席道爾將軍就指示出發了。

吉恩在馬車出發後,就讓馬車跑向隔開羅占布爾克階層的隔牆。



在階層隔牆附近吉恩讓馬車停下。這附近的話,通常不會有人靠近。

「怎麼了?發生什麼事了?」

不知道是不是發現馬車突然停下來很可疑,席道爾將軍發出緊張的聲音。吉恩沒有回答就將馬車的門打開,舉槍對著席道爾將軍。

「你這傢伙是誰!?」

「你可還記得政治局的福爾艾菲爾議員?」

不顧席道爾將軍狼狽的發言,吉恩問道。

「你說福爾艾菲爾?這樣啊,你這傢伙是統制派吧!到這種時候了還在掙扎−−啊!!」

吉恩在話說到一半就對席道爾將軍的腳開了一槍。只想搞清楚家族的失蹤事件跟席道爾有沒有直接關係。

「回答我!你記得福爾艾菲爾議員嗎?」

「記、記得啊。是、是個非常頑固的傢伙,要是乖乖聽我的話就不會死了啊!」

「你這傢伙!!」

吉恩憤怒的對席道爾將軍連開了好幾槍。馬車中只聽得見吉恩沉重的呼吸聲。



過了一陣子冷靜下來的吉恩,將席道爾將軍身上的裝飾品跟值錢的東西全都拿走。

席道爾將軍在慰勞會的回程在階層隔牆附近被犯罪組織襲擊殺害了。這是準備好的劇本。裝飾品跟值錢的物品塞進袋中,然後只要將袋子丟進隔牆間的水路的話,全部的事情就結束了。

就在這時候,背後傳來了聲音。

「辛苦你了。這樣一來世界的流動就會被矯正了」

回頭一看,在那裡的是諾伊庫洛姆。照理來說不能離開武裝船的她為什麼會在這裡,吉恩因為緊張而疲累的腦裡思索著。

「您是在說什麼?」

「這個世界的因果將收束。錯誤的世界將會消滅」

諾伊庫洛姆的手碰到席道爾將軍遺體的瞬間,席道爾將軍的身體就像是泥巴一般融化後收束成球體。

吉恩無法理解眼前發生的事情。只能在那邊看著事情發生。

「不需要擔心。由於這個人的死,世界正在被導向正確的因果」

就在說完的那瞬間,球體從汙泥般的顏色轉變成像珍珠一般的亮白色。球體的光芒逐漸增強,世界被染成一片白。

「導正因果之人啊。你的這個成就,總有一天會因為正確的因果而帶來極大的幸福吧」

這是,傳到吉恩耳裡最後的話語。



「−完−」

日文版
「相違」

三三九八年。シドール将軍率いる拡大派は、グランデレニア帝國の軍部を掌握しつつあった。

シドール将軍は『皇帝陛下の内意』という大義名分を振り翳し、拡大派の若き精鋭であるヴァルツ大佐や美しい女将軍ベリンダを率いて、我が物顔で軍部を操っている。

 

帝國軍中尉であるジーンは、浮遊戦艦ガレオンの底部に位置する部屋の扉を叩く。

「本日付でガレオンに配属されました、ジーン・フルエフル中尉です」

ややあって、扉の向こうから女性の声が聞こえる。

「鍵は開いている、入るといい」

言われた通りに扉を開ける。部屋は何の用途に使うのか不明な機械で溢れており、その余剰スペースに押し込まれる形で机と椅子が配置されていた。

「初めまして、ノイクローム技官」

「フルエフル中尉、私のことは聞いているかね?」

女性らしからぬ口調にジーンはやや面食らう。パンデモニウムの住民は抑制的であるとは聞いていたが、ジーンにはひどく奇妙なもののように思えた。

「はい。パンデモニウムの規則で、地上ではガレオン内部での活動のみを許可されていると」

「そうだ。そのため、私にはあなたのような伝令係が必要不可欠なのだ。よろしく」

「私は……。いえ、何でもありません」

『伝令』、その言葉を聞いてジーンは嘆息した。しかし、初対面の人間に対して何か異を唱えるわけにもいかない。ジーンは喉まで出掛かった言葉を飲み込んだ。

 

ジーンの出身は代々帝國を支えてきた政治家一族であった。当人も優秀な人物であり、帝國を守るという理想を掲げて従軍した。家柄と理想に恥じぬ行動と優秀さから、将来は帝國軍と政治局の橋渡しを担う人物として、特に統制派から将来を嘱望されていた。

しかし、祖父と父が突如失踪した事により状況は一変する。統制派の瓦解を狙う拡大派の仕業であると思われたが、痕跡や証拠が見つからず、事件は闇に葬り去られた。

この事件によって統制派の権威は失墜し、以降、統制派に関わりがある政治家や軍人は、軒並み閑職や僻地へと追い遣られていった。

ジーンも一族が統制派であったことから出世の道を外されてしまい、武勲を立てることも叶わない立場となった。

 

ノイクロームと作業員達の間を取り持つようになって、ひと月が過ぎていた。

朝にノイクロームのいる部屋へ行き、紙媒体に印刷した書類を集める。昼に一度、作業員や士官達から渡された書類をノイクロームのところへ届ける。それがジーンの主な職務だった。

「中尉に尋ねたいことがある」

昼を過ぎた頃、書類を届けた際にノイクロームが珍しく問い掛けてきた。

「あなたはこの職務に満足しているのか?」

あまりに唐突過ぎる問い掛けに、ジーンは目を丸くした。

「そう言われましても。上からの命令ですので」

「歪だな。あなたの経歴を見れば、とうに昇進している筈だ」

ノイクロームはジーンに目線を合わせる。無表情だが強い口調にジーンは気を呑まれた。

「軍において命令は絶対ですので」

ジーンは諦めにも似た境地で現状に甘んじていた。自分一人が騒ぎ立てたところで何が動く筈もない。そう思っていた。

「そのような不当を、あなたは看過するのかね?」

「今は罷り通ります。少なくとも、シドール将軍が軍部を掌握している間は」

しまった。ジーンはそんな風に思った。ガレオンの担当技官にこのような話をしてしまうなど、あってはならない事だった。

「感情で軍や政を動かすから、このような歪みが生じるのだな」

「やめましょう。こんな話をエンジニアとしていることが拡大派の耳に入れば、私はここにすらいられなくなる」

ジーンはノイクロームの言葉を遮って、部屋から出ようと扉を開ける。

「歪んだ軍政はすべからく破綻する。シドールが軍を掌握していられるのも、あと僅かだろう」

ノイクロームの言葉にジーンは答えなかった。どこで誰が聞いているかわからない。不用意な一言は自らの破滅を招きかねなかった。

 

翌日、突然命じられた夜間待機から解放されてすぐに、ジーンはローゼンブルグ航空基地の司令室に呼び出されていた。

「昨日の昼から夜にかけて、何処にいた?」

詰問するような態度の司令官と周囲に控える上位の軍人達は、殺気立った雰囲気を纏っていた。

「昼はガレオンのノイクローム技官に書類を届けに。その後は飛行場のデスクで書類の整理を行っておりました。それと作業員の深夜作業があったので夜間待機を——」

「嘘は一切許さん。もう一度聞く、昨日の昼から夜にかけて、何をしていた?」

「一体何があったのですか? 私は自分の職務以外何もしておりません」

ジーンは司令官に説明を求めたが、司令官は同じ言葉を繰り返すだけで埒が明かなかった。だが統制派に関わる者を呼び出したのだ。拡大派にとって何か不都合な事が起こったのだろう。

何度同じやりとりをしたのか。いい加減ジーンがうんざりし始めた頃、通信兵が司令官に耳打ちする。

渋い顔をした司令官が通信兵に何事かを告げると、通信兵が装備している通信機からノイクロームの声が聞こえてきた。

「フルエフル中尉がそちらに伺っているだろう。こちらの業務が滞っている、早く用件を終わらせてくれ」

「それは承伏できかねます」

「理由の提示を求める。事の次第によっては導都の勅命を妨害したものとみなし、技術提供の打ち切りを指導者に提言する」

「……昨夜、シドール将軍が何者かによって襲撃を受けた。我々はこれを統制派の人間の仕業であるとみなし、統制派に属していた者に尋問を行っている」

ノイクロームの強硬な態度に、司令官は苦虫を噛み潰したような顔をして言った。

ジーンはその言葉にこの場に呼び出された理由を納得したが、無表情でいる事に努めた。

「フルエフル中尉にその嫌疑が掛けられていると? 中尉なら昨夜は私の命で飛行場に待機してもらっていた。深夜の作業があったのでね」

「本当か?」

何度も言っているじゃないか。ジーンはそう思ったが、口には出さず肯定する。

「わかった。もう下がっていい。ノイクローム技官、フルエフル中尉、くれぐれもこの事は口外しないように」

司令官は脂汗を拭いながらそう告げ、ジーンを解放した。

 

司令室から解放されて、ジーンはすぐにガレオンへ赴く。

部屋に入ると、溜まった書類をゆったりと指で叩いているノイクロームに迎えられた。

「ありがとうございます、ノイクローム技官。お陰で理不尽な処分を下されずに済みました」

「私は他者によって作業が妨害されることを最も嫌悪する。作業を滞りなく進めるためにやっただけにすぎない」

相変わらずノイクロームの顔に表情は無かった。

「統制派がシドール将軍の暗殺にしくじっていなければ、こんな事にはならなかったかもしれませんね」

ジーンは追い詰められた統制派が以前にシドール将軍の暗殺を試みた事を思い出す。結局それは他の拡大派の妨害に遭い、失敗に終わっていた。

「その結果が錯誤的な軍閥の台頭を許したわけか。だが昨夜の件を考えれば、シドールが間違った存在であることは確定的だ」

「シドール将軍が死んだとしても、拡大派は別の優秀な人間を首魁とするだけでしょう。勢力はそう簡単には変わりません」

「それでも過ちは正すべきだとは思わんのかね? あなたも彼らの間違った行いに相当苦しめられている筈だ」

ノイクロームの言葉に、無念の内に殺されたであろう祖父と父の姿や、その事で心を病んで夭逝した母の姿が思い浮かんだ。

「私とて拡大派には苦しめられました。ですが、これ以上はどうしようもないのです」

ジーンは家族の幻像を振り払う。今の状況では行動する事自体に無理があると考えていた。

「諦念も時には必要だろう。だが、今はその時ではない」

ノイクロームはそれだけを言うと、デスクに向かった。

 

それから暫くして、いつものようにノイクロームの作業室に赴くと、作業員に渡す書類以外に一枚のメモを渡された。

「帝國軍政治局マーシュ補佐官の連絡先だ。使うといい」

マーシュ補佐官は帝國軍政治局に長く勤める人物で、常に帝國臣民の安全を考えて行動する人格者と知られている。

カンドゥン長官亡き後、拡大派の横暴から統制派の人間を守ろうと尽力していると漏れ聞いていた。

「どうやってこれを?」

「帝國各地にいる技官に尋ねただけだ。どう使うかはあなた次第と言っておこう」

それだけを言うと、ノイクロームはジーンを作業室から追いやった。

 

ジーンはメモと通信機を交互に見やりながら思案していた。頭の中にはノイクロームの「どう使うかはあなた次第」という言葉がずっと響いている。

いつか、そのうち、そんな余裕は無いのだ。この機会を逃せば家族の無念を晴らす事なく軍に使い潰されるのは目に見えていた。

ジーンは意を決すると、ノイクロームのメモを頼りにマーシュに連絡を取った。

連絡先は本物だった。マーシュの言葉から、散り散りになった統制派の人間が立ち上がりつつある事や、シドール将軍が拡大派の中でも邪魔な存在になっている事を知らされた。

ジーンはマーシュに協力を申し出た。シドール将軍の力の象徴であるガレオンの傍にいる立場を利用したいと考えたからだった。

 

マーシュに連絡を取った次の日、作業室に赴くと満足そうに微笑むノイクロームに出迎えられた。

「何か良いことでもありましたか?」

「ああ、正しき行いにより因果は動き出す。これは私の最後の助けだ」

不思議な言い回しと共に、ノイクロームは一つの招待状をジーンに見せる。

「……これは?」

「約二ヶ月後、ローゼンブルグ航空基地でガレオン搭乗員に対する慰労の晩餐会が開かれる」

「そのような事は一言も聞かされていませんね」

ジーンは拳を握り締めた。派閥争いに敗れた者は栄光在る帝國軍人とみなされないことに、改めて怒りを覚えた。

「宴にはシドールも参加するそうだ。さあ、あなたはどう行動する?」

ノイクロームは微笑みを湛えたまま、ジーンの目を真っ直ぐ射抜くように見つめていた。

 

晩餐会の存在を知ったジーンはすぐさまマーシュに連絡を取った。他の統制派とも密に話し合い、ローゼンブルグの地理を生かしてシドール将軍の暗殺を狙う事が決まった。

ジーンはその実行者として名乗りを上げた。家族の無念を自らの手で晴らそうと決意したからだった。

 

二ヶ月後、ローゼンブルグの航空基地で、多大な戦果を上げるガレオンの搭乗員を慰労するための盛大な宴が開かれた。

ジーンはシドール将軍が乗ってきた馬車の従者に睡眠薬入りの酒を振る舞って昏睡させると、彼等の衣服を奪った。昏睡した従者達はマーシュが極秘裏に手を回した軍人が回収し、航空基地の倉庫に監禁した。

こうして馬車の乗っ取りが完了した。あとはシドール将軍が乗り込むのを待つだけだ。

暫くしてほろ酔い状態のシドール将軍が馬車に戻ってきた。シドール将軍は従者の顔をよく確認もせずに馬車に乗り込んだ。

随分といい気持ちで酔っ払っているようにも見えた。馬車の扉が閉まり、シドール将軍が出発の合図を出す。

ジーンは馬車を出発させると、ローゼンブルグの階層を隔てる隔壁へと走らせた。

 

階層隔壁付近でジーンは馬車を止める。この付近は、普通ならば誰も近寄る事はない。

「どうした? 何があった?」

急に止まった馬車に不審を覚えたのか、シドール将軍が緊張したような声を出す。ジーンはそれに答えずに馬車の扉を開け放つと、シドール将軍に銃を突きつける。

「なんだ貴様は!?」

「政治局のフルエフル議員を覚えているか?」

狼狽するシドール将軍の言葉を無視し、ジーンは尋ねた。

「フルエフルだと? そうか、さては貴様、統制派だな! この期に及んで悪あがき——が!!」

ジーンは言葉の途中でシドール将軍の足に一発、銃を放った。家族の失踪事件にシドール将軍が直接関わっているか、それだけは知りたかったのだ。

「答えろ! フルエフル議員を覚えているか?」

「お、覚えているさ。ご、強情な奴だった、儂の言葉を素直に聞いていれば死なずに済んだものを!」

「貴様!!」

ジーンは怒りに任せてシドール将軍に銃を何発も撃ち込んだ。ジーンの荒い息遣いだけが、馬車の中に響く。

 

少しして我に返ったジーンは、シドール将軍が身に付けていた装飾品や金目の物を剥ぎ取った。

シドール将軍は慰労会の帰りに階層隔壁付近で犯罪組織に襲われ、強殺された。これが用意されたシナリオだった。装飾品や金品を袋に詰め、あとはその袋を隔壁間に流れる堀へ投げ入れれば、全ての仕事は完了する。

その時、背後から声が聞こえた。

「ご苦労だった。これで世界の流れは正される」

振り返ると、そこにはノイクロームがいた。ガレオンから出られない筈の彼女が何故ここにいるのか、ジーンは緊張に疲れた頭で考えていた。

「何を言っているのですか?」

「この世界の因果は収束する。違えた世界は消滅する」

ノイクロームがシドール将軍の遺体に手を当てると、シドール将軍の身体が泥のように溶けて球体へと収束する。

目の前で起きる事象にジーンは付いていけない。ただそれを眺めているしかできなかった。

「案ずる必要はない。この者の死により、世界は正しい因果へと導かれる」

そう言い終わるが早いか、球体が汚泥のような色から真珠のように煌めく白に変貌した。球体は輝きを増し、世界を白く染め上げる。

「因果を正した者よ。お前のその偉業、いずれ正しき因果にて素晴らしい幸福をもたらすことになるだろう」

それが、ジーンの耳に届いた最期の言葉であった。

「—了—」