位在古朗德利尼亞帝國南方,被稱為『魔都』的大都市羅占布爾克。
在那大都市底層的地下市場裡,尤哈尼謹慎小心地走著。
這個黑暗市場,混雜著薄暮時代就存在的老舊大樓,以及大概是漆黑時代所建造的小攤販,是個不可思議的空間。
混合各時代的風貌使這個空間,讓尤哈尼覺得自己彷彿誤闖了異世界。
可不能就這樣被地下市場的氣氛給壓倒,尤哈尼看準一間攤販購買了速食食物,並假裝順便地隨口向老闆問道。
「大叔,你知道這附近最有名的自動人偶市場在哪裡嗎?」
「什麼,以前沒見過你。你是第一次來這個市場嗎?」
「沒錯,我會多給你點小費的,能告訴我嗎?如果沒找到的話,我的上司會生氣。」
「嗯……好吧。來這裡的途中不是有個廣場嗎? 回到廣場就這麼直直地前進到底,有一棟沒有標示住址的紫色招牌大樓。就是那裡。」
「謝謝,得救了。這個,是謝禮。」
向老闆點頭道謝後,尤哈尼給老闆稍微多點的錢,然後往那棟大樓前進。
邊走邊吃的速食食物,跟表面看起來一樣,有著對身體不好的壞油味。
這次的任務,始自某一位自動人偶製造者突然聯絡不上之事。
那個人是這世界上唯一能夠製造出,媲美人類般精巧的自動人偶之創造者。將只有腦袋的蕾格烈芙作為主體製造出少女型的人偶,光是這個事實,就能了解他的與眾不同了。
而擁有那樣的來歷,被大家稱作博士的男子,似乎被捲入了某個事件而行蹤不明。
搜查博士這件事,由蕾格烈芙所率領的理事會來主導進行。
而身為蕾格烈芙輔佐官的薩爾卡多和索克,從直接調查博士的研究所中,推測出事情的重大性1。
前往調查的薩爾卡多他們發現到的是,殘暴地將博士研究室給炸毀,還有彷彿想要連根拔起般把資料搶奪一空的研究所。
並持續調查後,理事會也發覺到過去尚未掌握到的自動人偶存在。
發現除了作為博士助手使用的自動人偶以外,另外還存有一具仍能運行的自動人偶痕跡。
為了取回這具自動人偶以及被搶奪走的研究資料,蕾格烈芙將搜索的一部分任務也交付給了尤哈尼等人所屬的自動人偶搜索部隊來進行。
因此,尤哈尼親自前往羅占布爾克進行調查。
羅占布爾克幾乎是唯一存有薄暮時代建築物和風貌的大都市,也因為如此,同時是藏有時代黑暗的魔窟。
遺失在各個時代富有歷史價值的物品,幾乎都在羅占布爾克的地下市場裡流竄著。像這樣似是而非的謠言。
真不愧是,被大家稱為魔都的地方啊。
馬上就找到了沒有標示住址號碼,但是掛有紫色招牌的大樓。
「有人在嗎。」
尤哈尼推開那稍有厚度的玻璃門後,小小聲地呼喚著。
但是,看起來像是櫃檯的地方卻一個人也沒有,當然能回應尤哈尼的人也不在。
「有誰在嗎?」
尤哈尼更加往櫃檯內靠近,再次出聲問道。
經過櫃檯,正想打開裡面的那扇門時,從背後傳來喀啦喀啦的金屬板聲響。
轉過身來,看到了隔著玻璃門的那道鐵門正往下降。
原本就稍嫌昏暗的室內又變得更加黑暗。想要觀察四周的狀況,但等待眼睛適應過來還需要一些時間。
「我才想說意外順利問到了地點,結果……」
尤哈尼嘆了口氣後,左手拿著燈,右手拿著光劍站在原地。呼吸也控制到最小,將注意力集中到聽覺上不錯過周圍任何聲響。
尤哈尼馬上懂了,原來自己被當成了肥羊。
在地下市場裡也算是比較棘手的自動人偶市場,有個明顯看起來是新人的傢伙在詢問,然後還給了比較多的小費。可以預料到會變成現在這種情況。
若有充分的時間大概就能順利迴避像這樣的危險,但此次蕾格烈芙急著要有成果,所以沒有太多時間準備。
從尤哈尼的背後傳來細微的腳步聲,一聽到腳步聲後,立即將左手拿的燈往背後一照,按下開關。
「呀啊!?」
不放過從背後走來的襲擊者害怕的瞬間,尤哈尼就用握著光劍的手向他的腹部出拳。聽到了一聲對方的慘叫聲。
馬上用左手的燈照亮四週,看見了男子們因被躲過襲擊而錯愕不已的表情。
快速的移動燈光大致掌握了男子們的人數與位置後,尤哈尼啟動光劍的衝擊模式。
首先把光劍刺向背後的男子,完全制止了他的行動。
「上,上啊!把他幹掉!」
「喔,喔!」
一名男子發號著命令,讓原本停止動作的二人向尤哈尼進行攻擊。輕鬆避開它們的攻擊後,再絆倒其中一名男子的腳。
或許是因為空間昏暗的關係而沒有多注意腳邊,二人都一起被絆倒於地。
將光劍往他們一刺,二人的動作都停止了。
「可,可惡……」
最後剩下的男子手拿著電擊棒揮舞著。尤哈尼的眼睛已完全習慣了黑暗,男子的樣貌動作可以說是一目了然。
為了先處理掉電擊棒,尤哈尼集中意識在光劍上,靠著微微振動,將光劍轉換到雷射模式。
光劍透過連接神經的手套,可以靠尤哈尼的意識來轉換模式,也可以從殲滅用的雷射模式轉換到衝擊模式。
對常常陷入需要瞬間切換模式的尤哈尼來說,這個連接神經的手套是非常重要的裝備。
切換到雷射模式的光劍將男子的電擊棒給雷射成兩半。
「噫!?」
「然後換一下。」
趁男子害怕時,再次將光劍切換成衝擊模式然後刺向男子。
隨之大樓內又恢復回原本的寧靜。
全部共有4個人,確認沒有新的襲擊者後,尤哈尼大大地嘆了口氣。
「就是因為你們這樣,才會被他們說『地上的人類糟糕2』啊。」
然後,抓起了發號命令貌似領導的頭部,並將光劍的雷射槍口往喉嚨一刺3。
「唔,嗚嗚……」
「抱歉我不是隻弱肥羊。來吧,可以告訴我說真話了吧?不照做的話,你的喉嚨就等著被燒了喔?」
語氣雖然顯得輕鬆和緩,但是做的事卻事殘忍至極的。這是尤哈尼在地上黑社會活動時所領悟出的伎倆。
「知,知道了……」
癱軟無力而垂下頭的男子,用恐懼不已的聲音回覆著尤哈尼想要的情報。
從貌似領導的男子口中問出了這個地方,雖位於地下市場的區域,但也是一般市民都會利用的商店街一部分。
外表裝潢的與一般娃娃專賣店沒有兩樣,但只要跟老闆說出通關密語,就可以進入到販賣自動人偶的商店內部。
「我聽說這邊有適合下午茶的娃娃。」
「是嗎。那麼請先來這裡,我將為您帶路。」
向老闆說出聽來的通關密語後,順利地被帶到店內去。
店內和前面的櫃台不太一樣,跟人類大小一樣的人型零件被分類,像裝飾品般地被一一陳列著。
「您想要找什麼呢?」
「有這幾年在市場流動的自動人偶清單嗎?」
「您要清單做什麼用呢?」
「我正在找一具從某國的政治家官邸被偷走的自動人偶。」
「哦,原來如此……」
老闆點頭了幾次後,不發一語地從裡面的架上拿出清單來。
「清單是嚴格禁止拿到外面去的,請您在這裡看吧。」
「好,我知道。」
尤哈尼攤開清單,謹慎小心的對照內容。
沒多久,就發現了好幾個寫著有關男性型自動人偶的頭部和少女型自動人偶的零件,以及製造它們的研究交易資料。
「這裡和這裡,還有這一頁的明細可以讓我謄寫一份嗎?」
指出想要的部分,以及用來掩護用的部分。
「理由是?」
「為了要跟我的客戶確認一下,要是我搞錯就麻煩了。」
「這裡雖然收集著古朗德利尼亞內的自動人偶市場的情報,但是我們不打算增加有臟腑的人偶。請您務必小心使用這份資料。」
老闆銳利的視線像要射穿尤哈尼一樣。清單謄本假若外流出去的話就會要了你的命,那眼神就算不直接說出也能明白。
「那是當然的,我一定會謹慎注意的。」
順利的抄寫完清單後,離開了商店。
返回了作為據點的飯店後,將資料傳回潘德莫尼前再一次地確認好清單。
流通在市場上的這些,好像都是被一位名叫康托爾的收集家收購了。
應該不是為了作為營利使用4,每一個都買的比實際建議價格還高。
雖然不清楚康托爾這位人士的所在位置,但至少知道名字,之後潘德莫尼的專家們就會調查了吧。
完成了定期報告和資料傳送後,這次的任務就算結束了。也收到了返回命令,明天就回到潘德莫尼吧。
「唉~,我這次也好好努力了對吧。」
豪邁地躺進簡陋的床鋪上。
已經好久沒被捲入其他紛爭就好像完成任務了,讓尤哈尼有滿滿的解放感。
「-完-」
3394年 「リスト」
グランデレニア帝国の南方に位置する、『魔都』と呼ばれる大都市ローゼンブルグ。
その大都市の下層にある闇市場を、ユハニは注意深く見回っていた。
この闇市場は、薄暮の時代から存在する古ぼけたビルと漆黒の時代に作られたらしい露店が入り混じった、不思議な空間だった。
様々な時代の様式がまぜこぜになったこの空間の様相に、ユハニは異世界に迷い込んだかのような感覚を覚えていた。
闇市場の雰囲気に圧倒されてばかりではいけないと、ユハニは目に留まった屋台でジャンクフードを買い、そのついでを装って店主に尋ねた。
「オジサン、この辺で一番有名な自動人形のマーケットを知らないかい?」
「なんだ、見慣れない顔だな。お前さん、この市場は初めてか?」
「そーなんだよ。チップは奮発するからさ。教えてくれないかい? じゃないと俺、雇い主に怒られちゃうのよ」
「ふむ……まぁいいだろう。ここに来る途中に広場があっただろう? 広場に戻ってそのまま真っ直ぐ進んだ先に、屋号の書いてない紫の看板を出しているビルがある。そこだ」
「ありがとー、助かったよ。じゃあ、これお礼ね」
店主の言葉に頷くと、ユハニは少々多めに金を渡し、そのビルに向けて歩き出した。
道中で齧るジャンクフードは、見た目どおり身体に悪そうな油の味がした。
今回の任務は、一人の自動人形制作者と連絡が付かなくなったことから始まった。
その人物は世界で唯一、人間と違わぬ精巧な自動人形を制造することができる創造者であった。脳だけの存在であるレッドグレイヴが端末として使用する少女型人形を製作した、という事実から、彼の特別性が納得できる。
そのような来歴を持つ、通称ドクターと呼ばれる男が、何らかの事件に巻き込まれて行方が知れなくなった。
ドクターの捜索は、レッドグレイヴ率いるカウンシルの主導で行われていた。
レッドグレイヴの補佐官であるサルガドとソングが直々にドクターの研究所跡地を調査したということからも、事の重大さが推し量れた。
調査に赴いたサルガドらが発見したのは、無残に爆破されたドクターの研究室と、あらゆる資料が根こそぎ奪われて空っぽになった研究所であった。
さらに調査を進めていくと、カウンシルが詳細を把握していなかった自動人形の存在が浮かび上がった。
ドクターが自身の助手として稼働させていた自動人形の他にもう一体、稼働状態にあったと思われる自動人形の痕跡が発見されたのだ。
この自動人形といずこかに奪われた研究資料を取り戻すため、レッドグレイヴは捜索の一部をユハニらの自動人形捜索部隊へ命令した。
そうして、ユハニはローゼンブルグへと調査に赴いた。
ローゼンブルグは薄暮の時代の建築物や様式を現代に伝えるほぼ唯一の大都市であり、それ故に、あらゆる時代の闇をも抱える魔窟でもあった。
各時代で失われた歴史的価値のある物品は、そのほぼ全てがローゼンブルグの闇市場に流れている。そのような噂もまことしやかに囁かれている。
まさに、魔都と呼ぶに相応しい場所である。
屋号の書いていない紫の看板が掲げられたビルはすぐに見つかった。
「ごめんくださーい」
ユハニは分厚いガラスの扉を開けると、暗がりに声を掛けた。
しかし、受付らしき場所には誰もおらず、ユハニの声に応える者もいない。
「誰かいませんかー?」
ユハニは受付の奥に首を出すと、もう一度声を掛けた。
受付を通り過ぎ、奥にある扉に手を掛けた辺りで、背後からガラガラという金属版の音が鳴り響いた。
振り向くと、ガラスの扉を隔てた向こう側のシャッターが下りてきているのが見える。
元々薄暗い室内が更に暗くなる。周囲の様子を伺おうにも、眼が順応するのに時間が掛かりそうだ。
「すんなりと教えてくれたなー、とは思ったけどね……」
ユハニは溜息を吐くと、左手にライト、右手に光剣を持ってその場所に立ち止まる。呼吸も小さく抑え、周囲の物音を聞き逃さないよう聴覚に意識を集中させる。
カモとして標的にされた、とうことはすぐに理解した。
闇マーケットの中でも厄介な部類に入る自動人形のマーケットにつして新参者丸出して尋ねた上、多額のチップまで弾んだ。となれば、こうなることは予測の範疇だ。
時間があれば危険を回避して上手く立ち回ることもできただろうが、こと今回の任務に関してレッドグレイヴは成果を急いでいるため、その手を使う時間は無い。
ユハニの背後から微かな足音が聞こえた。足音が聞こえた直後、左手に持っていたライトを背後に向け、スイッチを入れた。
「ぎゃっ!?」
背後の襲撃者が怯んだ隙を逃さず、ユハニは襲撃者の腹部めがけて光剣を握り混んだままの左拳を突き出した。ゴボッという呻き声が聞こえる。
すぐさま左手のライトで周囲を照らすと、襲撃を躱されたことに驚愕している男達の顔が見えた。
素早くライトを動かして男達の人数と位置を大まかに把握すると、ユハニは光剣をショックモードにして起動させる。
まずは背後の男に光剣を突き刺し、動きを完全に止める。
「い、いけ! やっちまえ!」
「は、はい!」
一人の男の号令で、固まっていた二人の男がユハニ突進してきた。それを軽々と回避すると、片方の男の足を払う。
元々暗がりで足元が覚束ないためか、二人まとめて倒れ込んだ。
そこに光剣を突き刺し、二人の動きを止める。
「く、くそ……」
最後に残った男がスタンバトンを構えて振りかぶる。ユハニの眼はすでに暗闇への順応が終わっている。男の様子はもはや丸わかりであった。
スタンバトンを無力化するため、ユハニは光剣に意識を向ける。僅かな振動を合図に、光剣はレーザーモードへと切り替わった。
光剣は神経接続グローブによって、ユハニの意志一つで殲滅用のレーザーモードと鎮圧用のショックモードを切り替えることができる。
瞬間的なモードの切り替えが求められる状況に陥ることが多いユハニにとって、この神経接続グローブはなくてはならない装備であった。
レーザーに切り替わった光剣が男のスタンバトンを真っ二つに焼き切る。
「ひっ!?」
「よ、っと」
男が怯んだその隙に、再び光剣をショックモードに切り替えて男に突き刺す。
ビルの中は元の静けさを取り戻した。
全部で四人。新手の襲撃者がいないことを確認すると、ユハニは大きく溜息を吐く。
「こんなだから、『地上の人間はヤバンだ』なんて言われちゃうんだよなー」
そうして、号令を出していたリーダー格の頭を掴み上げ、光剣のレーザー口を喉元に突きつける。
「ぐ、うう……」
「弱いカモじゃなくて残念だったねー。さ、本当のことを教えてくれないかな? じゃないと、これがアンタの喉を焼くことになるよ?」
口調はあくまでも緩く。しかしやることは容赦なく。ユハニが地上の裏社会で活動するにあたって体得した技だ。
「わ、わかった……」
ぐったりと項垂れた男は、怯えた声でユハニは求める情報を打ち明けた。
リーダー格の男から聞き出した場所は、闇市場の存在する地区でも、ごく普通の市民が利用するようなショッピング街の一角に存在していた。
見掛けは一般的なドーンの専門店を装っているが、店主に合言葉を告げると自動人形を取り扱う店の奥へ入れる仕組みになっているという話だった。
「ティータイムに相応しいドールがここにあるって聞いてきたんですが」
「そうですか。ではこちらへどうぞ。ご案内します」
聞き出していた合言葉を店主に言うと、すんなりと奥へ入ることができた。
店の奥は表と違い、人間サイズの人形のパーツが部品ごとに分類され、飾られるように陳列されている。
「何を探している?」
「ここ数年でマーケットに流された自動人形のリストはありますか?」
「リストの使用目的は?」
「ある国の政治家邸宅から盗まれた自動人形を探していましてね」
「ほう、ほう……」
店主は何度か頷くと、それ以上は何も言わずに奥の棚からリストを取り出してきた。
「リストの持ち出しは厳禁だ。ここで見ていってもらう」
「ええ、わかってますって」
ユハニはリストを捲り、慎重に中身を検分する。
程なくして、男性型自動人形の頭部や少女型自動人形のパーツ、そしてそれらを製造するための研究資料の取引について書かれている箇所を発見した。
「こことここ、あとこっちのページのリストを写してもいいですかね?」
目当てのリストとそうでないフェイクのためのリストを指差す。
「理由は?」
「クライアントに確認を取るためですよ。間違いがあっちゃまずいんで」
「ここはグランデレニアで扱う全ての自動人形マーケットの情報が集まるが、我々としては臓腑の詰まった人形を取り扱う気は無いのでね。それの扱いは慎重にな」
店主の視線が鋭くユハニを射抜いた。リストの写しが流出すれば命はない、と言われているも同然だった。
「もちろん。扱いは十分に気をつけますよ」
無事にリストを写させてもらい、店を出る。
拠点にしている寂れた宿に戻ると、パンデモニウムに送る前にもう一度リストを確認する。
マーケットに流されたこれは、カントールという好事家が一切を買い取っているようだった。
金に糸目をつけなかったのだろう。どれもが提示金額以上で売買されていた。
このカントールとやらの所在は不明だが、名前がわかれば、あとはパンデモニウムにいる専門家が調査をするだろう。
定時報告とリストの送付を済ませる。これで今回の任務は終わりだ。帰還命令も下ったことだし、明日にはパンデモニウムに戻れるだろう。
「はー、今回も頑張ったなー、俺」
安普請のベッドに豪快に寝転がる。
久しぶりに大した厄介事に巻き込まれることなく任務が終わりそうな状況に、ユハニは開放感に包まれていた。
「―了―」
グランデレニア帝国の南方に位置する、『魔都』と呼ばれる大都市ローゼンブルグ。
その大都市の下層にある闇市場を、ユハニは注意深く見回っていた。
この闇市場は、薄暮の時代から存在する古ぼけたビルと漆黒の時代に作られたらしい露店が入り混じった、不思議な空間だった。
様々な時代の様式がまぜこぜになったこの空間の様相に、ユハニは異世界に迷い込んだかのような感覚を覚えていた。
闇市場の雰囲気に圧倒されてばかりではいけないと、ユハニは目に留まった屋台でジャンクフードを買い、そのついでを装って店主に尋ねた。
「オジサン、この辺で一番有名な自動人形のマーケットを知らないかい?」
「なんだ、見慣れない顔だな。お前さん、この市場は初めてか?」
「そーなんだよ。チップは奮発するからさ。教えてくれないかい? じゃないと俺、雇い主に怒られちゃうのよ」
「ふむ……まぁいいだろう。ここに来る途中に広場があっただろう? 広場に戻ってそのまま真っ直ぐ進んだ先に、屋号の書いてない紫の看板を出しているビルがある。そこだ」
「ありがとー、助かったよ。じゃあ、これお礼ね」
店主の言葉に頷くと、ユハニは少々多めに金を渡し、そのビルに向けて歩き出した。
道中で齧るジャンクフードは、見た目どおり身体に悪そうな油の味がした。
今回の任務は、一人の自動人形制作者と連絡が付かなくなったことから始まった。
その人物は世界で唯一、人間と違わぬ精巧な自動人形を制造することができる創造者であった。脳だけの存在であるレッドグレイヴが端末として使用する少女型人形を製作した、という事実から、彼の特別性が納得できる。
そのような来歴を持つ、通称ドクターと呼ばれる男が、何らかの事件に巻き込まれて行方が知れなくなった。
ドクターの捜索は、レッドグレイヴ率いるカウンシルの主導で行われていた。
レッドグレイヴの補佐官であるサルガドとソングが直々にドクターの研究所跡地を調査したということからも、事の重大さが推し量れた。
調査に赴いたサルガドらが発見したのは、無残に爆破されたドクターの研究室と、あらゆる資料が根こそぎ奪われて空っぽになった研究所であった。
さらに調査を進めていくと、カウンシルが詳細を把握していなかった自動人形の存在が浮かび上がった。
ドクターが自身の助手として稼働させていた自動人形の他にもう一体、稼働状態にあったと思われる自動人形の痕跡が発見されたのだ。
この自動人形といずこかに奪われた研究資料を取り戻すため、レッドグレイヴは捜索の一部をユハニらの自動人形捜索部隊へ命令した。
そうして、ユハニはローゼンブルグへと調査に赴いた。
ローゼンブルグは薄暮の時代の建築物や様式を現代に伝えるほぼ唯一の大都市であり、それ故に、あらゆる時代の闇をも抱える魔窟でもあった。
各時代で失われた歴史的価値のある物品は、そのほぼ全てがローゼンブルグの闇市場に流れている。そのような噂もまことしやかに囁かれている。
まさに、魔都と呼ぶに相応しい場所である。
屋号の書いていない紫の看板が掲げられたビルはすぐに見つかった。
「ごめんくださーい」
ユハニは分厚いガラスの扉を開けると、暗がりに声を掛けた。
しかし、受付らしき場所には誰もおらず、ユハニの声に応える者もいない。
「誰かいませんかー?」
ユハニは受付の奥に首を出すと、もう一度声を掛けた。
受付を通り過ぎ、奥にある扉に手を掛けた辺りで、背後からガラガラという金属版の音が鳴り響いた。
振り向くと、ガラスの扉を隔てた向こう側のシャッターが下りてきているのが見える。
元々薄暗い室内が更に暗くなる。周囲の様子を伺おうにも、眼が順応するのに時間が掛かりそうだ。
「すんなりと教えてくれたなー、とは思ったけどね……」
ユハニは溜息を吐くと、左手にライト、右手に光剣を持ってその場所に立ち止まる。呼吸も小さく抑え、周囲の物音を聞き逃さないよう聴覚に意識を集中させる。
カモとして標的にされた、とうことはすぐに理解した。
闇マーケットの中でも厄介な部類に入る自動人形のマーケットにつして新参者丸出して尋ねた上、多額のチップまで弾んだ。となれば、こうなることは予測の範疇だ。
時間があれば危険を回避して上手く立ち回ることもできただろうが、こと今回の任務に関してレッドグレイヴは成果を急いでいるため、その手を使う時間は無い。
ユハニの背後から微かな足音が聞こえた。足音が聞こえた直後、左手に持っていたライトを背後に向け、スイッチを入れた。
「ぎゃっ!?」
背後の襲撃者が怯んだ隙を逃さず、ユハニは襲撃者の腹部めがけて光剣を握り混んだままの左拳を突き出した。ゴボッという呻き声が聞こえる。
すぐさま左手のライトで周囲を照らすと、襲撃を躱されたことに驚愕している男達の顔が見えた。
素早くライトを動かして男達の人数と位置を大まかに把握すると、ユハニは光剣をショックモードにして起動させる。
まずは背後の男に光剣を突き刺し、動きを完全に止める。
「い、いけ! やっちまえ!」
「は、はい!」
一人の男の号令で、固まっていた二人の男がユハニ突進してきた。それを軽々と回避すると、片方の男の足を払う。
元々暗がりで足元が覚束ないためか、二人まとめて倒れ込んだ。
そこに光剣を突き刺し、二人の動きを止める。
「く、くそ……」
最後に残った男がスタンバトンを構えて振りかぶる。ユハニの眼はすでに暗闇への順応が終わっている。男の様子はもはや丸わかりであった。
スタンバトンを無力化するため、ユハニは光剣に意識を向ける。僅かな振動を合図に、光剣はレーザーモードへと切り替わった。
光剣は神経接続グローブによって、ユハニの意志一つで殲滅用のレーザーモードと鎮圧用のショックモードを切り替えることができる。
瞬間的なモードの切り替えが求められる状況に陥ることが多いユハニにとって、この神経接続グローブはなくてはならない装備であった。
レーザーに切り替わった光剣が男のスタンバトンを真っ二つに焼き切る。
「ひっ!?」
「よ、っと」
男が怯んだその隙に、再び光剣をショックモードに切り替えて男に突き刺す。
ビルの中は元の静けさを取り戻した。
全部で四人。新手の襲撃者がいないことを確認すると、ユハニは大きく溜息を吐く。
「こんなだから、『地上の人間はヤバンだ』なんて言われちゃうんだよなー」
そうして、号令を出していたリーダー格の頭を掴み上げ、光剣のレーザー口を喉元に突きつける。
「ぐ、うう……」
「弱いカモじゃなくて残念だったねー。さ、本当のことを教えてくれないかな? じゃないと、これがアンタの喉を焼くことになるよ?」
口調はあくまでも緩く。しかしやることは容赦なく。ユハニが地上の裏社会で活動するにあたって体得した技だ。
「わ、わかった……」
ぐったりと項垂れた男は、怯えた声でユハニは求める情報を打ち明けた。
リーダー格の男から聞き出した場所は、闇市場の存在する地区でも、ごく普通の市民が利用するようなショッピング街の一角に存在していた。
見掛けは一般的なドーンの専門店を装っているが、店主に合言葉を告げると自動人形を取り扱う店の奥へ入れる仕組みになっているという話だった。
「ティータイムに相応しいドールがここにあるって聞いてきたんですが」
「そうですか。ではこちらへどうぞ。ご案内します」
聞き出していた合言葉を店主に言うと、すんなりと奥へ入ることができた。
店の奥は表と違い、人間サイズの人形のパーツが部品ごとに分類され、飾られるように陳列されている。
「何を探している?」
「ここ数年でマーケットに流された自動人形のリストはありますか?」
「リストの使用目的は?」
「ある国の政治家邸宅から盗まれた自動人形を探していましてね」
「ほう、ほう……」
店主は何度か頷くと、それ以上は何も言わずに奥の棚からリストを取り出してきた。
「リストの持ち出しは厳禁だ。ここで見ていってもらう」
「ええ、わかってますって」
ユハニはリストを捲り、慎重に中身を検分する。
程なくして、男性型自動人形の頭部や少女型自動人形のパーツ、そしてそれらを製造するための研究資料の取引について書かれている箇所を発見した。
「こことここ、あとこっちのページのリストを写してもいいですかね?」
目当てのリストとそうでないフェイクのためのリストを指差す。
「理由は?」
「クライアントに確認を取るためですよ。間違いがあっちゃまずいんで」
「ここはグランデレニアで扱う全ての自動人形マーケットの情報が集まるが、我々としては臓腑の詰まった人形を取り扱う気は無いのでね。それの扱いは慎重にな」
店主の視線が鋭くユハニを射抜いた。リストの写しが流出すれば命はない、と言われているも同然だった。
「もちろん。扱いは十分に気をつけますよ」
無事にリストを写させてもらい、店を出る。
拠点にしている寂れた宿に戻ると、パンデモニウムに送る前にもう一度リストを確認する。
マーケットに流されたこれは、カントールという好事家が一切を買い取っているようだった。
金に糸目をつけなかったのだろう。どれもが提示金額以上で売買されていた。
このカントールとやらの所在は不明だが、名前がわかれば、あとはパンデモニウムにいる専門家が調査をするだろう。
定時報告とリストの送付を済ませる。これで今回の任務は終わりだ。帰還命令も下ったことだし、明日にはパンデモニウムに戻れるだろう。
「はー、今回も頑張ったなー、俺」
安普請のベッドに豪快に寝転がる。
久しぶりに大した厄介事に巻き込まれることなく任務が終わりそうな状況に、ユハニは開放感に包まれていた。
「―了―」