在深夜裡有大量的物品,運到了中央統治局最底層的一個研究設施。
「這些就是全部了。」
「嗯,辛苦了。不過量還真多啊。」
這個研究設施的主人--一位叫菲姆--的年輕男子,面無表情的點了點頭。
菲姆的年紀雖然比尤哈尼小,但是繼承了已失傳的技術,『自動人偶研究』的工程師。
學習並持續研究著地上一位叫『博士』的人類,曾經擁有的自動人偶製造相關的稀有技術。
「我只是照蕾格烈芙大人交待的,全部搬過來而已。不過,跟你說件驚訝的事,這次取得了格雷巴赫製作的自動人偶。」
「哦,辛苦勞動終於有回報了啊。這樣的話,報酬多少也會增加吧。」
仍然面無表情的菲姆,回應著尤哈尼的玩笑話。
「我不會要求他們表揚我啦,不過至少希望能來筆大獎金也好啊。」
「畢竟我們的任務,不能公開接受表揚。」
指導者蕾格烈芙把跟自動人偶有關的,發掘法典以及研究都只交給一部分的人,是最高機密的任務。
極機密的選了適合且被認可的人,在地上各處探索,是菲姆負責的。不知道還有誰在進行這個任務,雖然也問過菲姆,但他說甚麼也不會透漏。
包含尤哈尼,被選中出任務的人所發掘到的法典,都由菲姆與另一個人負責解析,並將結果直接給蕾格烈芙過目。
雖然沒有親眼見過,但蕾格烈芙好像也會親自解析。
連幾乎不會離開中央統治局最高樓層的最高指導者,都特地來到最底層。光是這樣,就足以了解這個任務有多麼地重要。
「但是,至少希望他們能給我符合勞動力的報酬阿。」
「哈哈,那你要不要直接跟蕾格烈芙大人談看看啊?」
菲姆輕聲笑著回答。菲姆不露出任何表情笑出聲音,就連有一點程度交情的尤哈尼來看,都覺得奇怪,但這只是小事不太在意。
雖然尤哈尼跟菲姆是就任現在這個職位之後才認識的,但是因為年齡相近,也都是階級相近的下層出生的。而且又共有機密任務的內容,讓他們兩人有奇妙的連帶感,進而有同伴意識。
兩人在很短的期間內,就成了可以互開玩笑的好友了。
「咦呃……,饒了我吧。對方可是雲上的人耶?」
「那麼,就閉嘴接受吧。」
「唉~~。啊,差不多該回去了。」
深深嘆了一口氣的尤哈尼,看了裝置上顯示的時間便跳了起來,
因為明天一大早,就得向協定監視局長與蕾格烈芙報告這一次的探索內容。
「嗯,路上小心」
離開菲姆,尤哈尼慌忙地往自己寢室的官舍走回去。
「以上是我的報告。」
隔天早上,尤哈尼在協定監視局的局長室報告。
但其實幾乎沒有什麼口頭報告事項,差不多就是播放紀錄影片,然後回答二、三個蕾格烈芙的提問而已。
『辛苦了,尤哈尼。在下次任務開始前可以先做回一般工作內容。局長,接下來就交給你了。』
「是的。蕾格烈芙大人。」
螢幕上的蕾格烈芙消失了。
局長輕輕的吐了口氣緩解緊張的樣子,尤哈尼也看出來了。
「辛苦了。今天回去之後好好休養,明天開始的工作會再聯絡你。」
「好的。那麼,我先回去了。」
向局長行了禮後,尤哈尼便離開了局長室。
格雷巴赫製作的自動人偶運到研究設施過了幾個月之後,尤哈尼來到了巴拉克國的卡納諾地方一處廢墟。
原本的任務內容,是因為之前回收的日記本裡,記載了自動人偶的交易商有巴拉克國,為了調查交易的詳細內容與帶入巴拉克國的自動人偶蹤跡。
但是,在進行調查的途中,聽到了令人在意的消息。
在《渦》消滅的數年前起,聽說一個叫『Dweller』像骸骨般的存在會在廢墟裡出沒,危害著這地區的居民。
但是,差不多在《渦》消滅那時開始,『Dweller』就好像就沒有再出現過。
即使如此,因為不曉得『Dweller』會不會再出現,人們都會遠離廢墟附近不再靠近。
詳細打聽了『Dweller』的樣貌後,發現與自動人偶的骨架有多處相似。『Dweller』或許是由收藏家帶進來的自動人偶也不一定。
定時報告的時候將這消息告知上司後,蕾格烈芙便將這次的任務更換成尋找『Dweller』。
「協定審問官No-862235,尤哈尼。開始調查巴拉克國卡納諾地方5748號」
起動調查用裝置的錄影模式,說了制式化的句子後,尤哈尼便踏進了廢墟。
這裡的廢墟不曉得是什麼時候蓋的,所有的建築物幾乎都已經崩毀,無法得知過去是什麼樣子。
巴拉克國距離生產障壁的地區很遠,因此,僅有極少部分的主要都市備有障壁。雖然從紀錄上看來,這裡被《渦》造成的災害次數並不多,不過,這個廢墟沒有被《渦》吞噬,能夠殘存下來已經近乎奇蹟。
在廢墟中,尤哈尼腳踩到了由瓦礫形成的小石子或沙礫以外的東西。
「這什麼?金屬的,板子?」
板子雖然生鏽了,但上面好像刻了什麼文字。
用快船上面載的解析機也許可以知道是什麼。就算解析的結果沒有什麼意義,以目前關於廢墟的情報只有這個鐵片來看,這可說是重要的情報源。
尤哈尼回收了鐵片,繼續在廢墟裡探索。
此次任務要尋找的『Dweller』出沒紀錄是在數年前。雖然是以這個廢墟為據點,但想要找出什麼蹤跡也已經隔了太長時間。
只能用地毯式搜尋這個廢墟。
雖然持續在這廢墟找,但是完全沒有發現『Dweller』的痕跡。
會不會是數年前發生了什麼事而離開了呢,才在想說或是被魔物什麼的給吃掉之類的,就從一個高處看到了一個奇怪的建築物1。
建築物的門緊閉著,想要看看裡面的話,得把門打開才行。
門前有幾個舊足跡,因此,裡面已經被盜挖破壞的可能性很高。
但是,也不能因此不調查。即使覺得會徒勞無功,尤哈尼仍走進了建築物裡。
「發現洞窟般的建築物,將進入內部調查。」
建築物裡感覺不是很大,由於很陰暗,便點亮了攜帶用燈照亮四周。
「嗚哇!?」
尤哈尼不由得發出了驚叫聲。
被光線照亮的眼前,是層層堆疊像白色遺骸的東西,看上去像是人類的骸骨。
不過,仔細一看就會發現和人類的完全不同。
像遺骸的東西垂著暗沉色的電線、人工皮膚剝落、露出樹脂製的骨架。
「這,全都是自動人偶的……」
這些,可說是自動人偶的遺骸。
尤哈尼繞過堆積成山的自動人偶,往建築物內部走進。
前進不久的地方,發現有疑似發生過爭鬥的痕跡,以及地上倒了一具自動人偶。
與堆積成山的自動人偶不同,是沒有頭部的自動人偶。
雖然不清楚這個自動人偶是不是『Dweller』,但是周圍有像是爭鬥的痕跡以及被尖銳物刺傷的痕跡。
這個自動人偶具有警衛機能,可能是對盜挖者或是什麼人有所反應,結果被打倒並打飛了頭部。
大概吧。
「但是,這傢伙的頭部在哪裡呢?」
拿起了掉在附近的頭部比對看看,但大小卻都不吻合。這時,才發現堆積成山的自動人偶全都是較小的孩童型。
失去頭部的自動人偶骨骼尺寸和尤哈尼差不多。也就是說,這是模擬成人男性的自動人偶。
當然不可能與孩童型的大小吻合。
「應該先跟蕾格烈芙大人報告等待指示比較好……」
在薄暮時代還是再更之前已經不清楚了,殘留了像這樣連年代都搞不清楚的廢墟,大量的孩童型自動人偶殘骸。
而且,在這當中有唯一一具,失去了頭部的成人男性型的自動人偶。
雖然不曉得與格雷巴赫製的自動人偶有沒有關係,但這個建築物內部的一切都很怪異。
也許自己發現了非常麻煩的東西也說不定。
(唉~搞不好又得因此做麻煩的任務了……)
尤哈尼一邊這麼想著而心情沉重,一邊準備回去快船上要向蕾格烈芙報告。
「-完-」
3392年 「廃墟」
中央統括センターの最深部にある研究施設に大量の荷物が運び込まれたのは、深夜のことだった。
「これで全部っす」
「ああ、お疲れ様。それにしてもかなり多いな」
この研究施設の主である歳若い男――フェムという名だ――は、無表情のまま頷いた。
フェムはユハニよりも少し年下だが、失われた技術である『自動人形の研究』を継承するエンジニアだ。
地上の人間である『ドクター』が所持していた自動人形の製造に関する希有な技術を学び、研究を続けている。
「レッドグレイヴ様が全部運べって言うから、全部持ってきただけさ。でもな、聞いて驚け。今回はグライバッハ製の自動人形を確保できた」
「ほう。重労働の甲斐があったな。それなら、多少は手当てに色がつくだろう」
無表情ながら、フェムはユハニの軽口に応じる。
「ぱーっと褒賞金でも出してもらいたいもんだね。表彰しろとまでは言わないけど」
「我々の任務は表立って賞賛されるものじゃないからな」
自動人形に関するコデックスの発掘及び研究は、指導者レッドグレイヴがごく一部の者にのみ与える、最高機密の任務であった。
適正があると認められた数人が極秘裏に選ばれ、地上の各所で探索任務に就いている、とはフェムの弁だ。他の誰がこの任務に就いているのか知らない。それをフェムに聞いたこともあったが、決して教えてくれることはなかった。
ユハニを含め、任務に当たる者が発掘したコデックスは、フェムともう一人のテクノクラートが解析し、結果は全てレッドグレイヴが直接目にする。
現場に居合わせたことはないが、レッドグレイヴが直々に解析を見分することもあるらしい。
中央統括センターの最上階から動くことなど有り得ない最高指導者が、わざわざ最深部に足を運ぶ。それだけでも、この任務が重大なものであるということが明白だ。
「でも、労働に見合った報酬はほしいよなあ」
「はは、なら、レッドグレイヴ様に直談判してみたらどうだ?」
フェムは軽い笑い声で応じる。表情の伴わないそれは、そこそこに付き合いのあるユハニの目から見ても奇妙なものだったが、それは些細なことだった。
ユハニがフェムと知り合ったのはこの任務に就いてからだが、年齢が近かったこと、階級の近い下級層の出身だったこと。それと、機密任務の内容を共有する者同士という状況が、二人に奇妙な連帯感と仲間意識を持たせていた。
二人は短い期間でお互いに冗談を言い合うような仲になっていた。
「えぇ……、それは勘弁。あちら様は雲上人であらせられるんだぜ?」
「ならば、黙って受け入れるしかないな」
「はぁぁぁ。おっと、そろそろ戻らないと」
深い溜息を吐いたユハニだが、デバイスに表示される時間を見ると飛び上がった。
明朝早い時間から協定監視局長とレッドグレイヴに対して、今回の探索報告をしなければならないのだ。
「ああ、気をつけて」
フェムの声を背に、ユハニは慌てて自室のある官舎へ戻るのだった。
「報告は以上です」
翌朝、ユハニは協定監視局の局長室で報告を行った。
といっても口頭での報告事項は殆ど無く、記録された動画を映写しながらレッドグレイヴの質問に二、三答える程度である。
『ご苦労だった、ユハニ。次の任務までは通常の業務に戻って構わない。局長、後は任せた』
「はい。レッドグレイヴ様」
モニターのレッドグレイヴが消える。
局長が小さく息を吐いて緊張を解いたのを、ユハニはなんとなく見つけ出した。
「ご苦労だった。本日は戻って休養を取るように。明日からの業務は追って連絡が行く」
「はい。では、失礼します」
局長に一礼すると、ユハニは局長室を後にした。
グライバッハ製の自動人形を研究施設に運び込んでから数ヶ月後、ユハニはバラク国カナノ地方にある廃墟はとやって来ていた。
元々の任務内容は、先般回収した日記帳に自動人形の取引先としてバラク国の名が記されており、その取引の詳細に関する調査と、バラク国に持ち込まれたであろう自動人形の足取りを追うことだった。
しかし、調査を進める内に気掛かりな話を耳にしたのだ。
《渦》が消滅する数年前から『ドウェラー』という動く骸骨のような存在が廃墟を中心に出没し、地域の住民に被害を及ぼしていたのだという。
しかし、《渦》が消滅したのと時を同じくして『ドウェラー』は姿を現さなくなったらしい。
それでも、いつ『ドウェラー』が出没するかわからないため、人々は廃墟の周辺に近付かないようにして生活をしているとのことだった。
その『ドウェラー』の容貌を細かく聞いていくと、自動人形のフレームに似た箇所が多く存在していた。『ドウェラー』こそ、愛好家の取引によって持ち込まれた自動人形かもしれない。
定時報告の際にそれを告げたところ、レッドグレイヴの命により、今回の任務は『ドウェラー』の捜索に切り替えられた。
「協定審問官No-862235、ユハニ。バラク国カナノ地方5748番の調査を開始する」
調査用デバイスの録画モードを起動し、決まりきった文句を述べると、ユハニは廃墟へと足を踏み入れた。
この廃墟はいつからこの場所にあるのだろうか。殆どの建物は崩れ去っており、往時の様子を窺い知ることはできない。
バラク国は障壁を生産していた地区から遠く離れている。そのため、障壁が配備されたのはごく一部の主要都市に限られていた。記録によれば、《渦》の被害はさほど多くなかったらしいが、それでも、この廃墟が《渦》に飲み込まれずに残っているというのは奇跡に近い。
廃墟を探索していくうちに、ユハニの足が瓦礫によってできた小石や砂利以外の何かを踏みつけた。
「なんだこれ? 金属、のプレート?」
プレートは錆び付いていたが、何かしらの文字が刻まれていた。
クリッパーに積んである解析機に掛かれば何かわかるかもしれない。解析結果が意味の無いものだったとしても、現状で廃墟に関する情報がこのプレートしかないため、貴重な情報源といえた。
ユハニはプレートを回収し、廃墟の探索を続行する。
件の『ドウェラー』が出没していたのは数年前だ。この廃墟を拠点にしていたとしても、何かしらの痕跡を見つけ出すには時間が経ちすぎている。
廃墟を隈なく探していくしかなかった。
暫く廃墟を探索していたが、『ドウェラー』の痕跡は何処にも見当たらなかった。
やはり数年前に何かが起きてこの地を去ったか、魔物にでも食われたかと思い始めたころ、高台の崖に掘られた奇妙な建物を発見した。
建物の扉は閉まっている。内部を見るには扉を開けて中に入るしか方法はなさそうだ。
扉の前には古い足跡がいくつか存在していた。となると、内部は盗掘されているか壊されている可能性が高い。
だからといって、調査しない訳にもいかない。収穫は無いだろうと思いながらも、ユハニは建物の中へ足を踏み入れた。
「洞窟のような建物を発見。内部の調査に入ります」
建物の中は広くはなさそうだった。薄暗いため、携帯ライトを点けて辺りを照らす。
「うわっ!?」
ユハニは思わず上ずった声を上げた。
光に照らされた目の前に、白い遺骸のようなものが積み重ねられていた。それが人間の骸骨に見えたのだ。
しかし、よく見れば人間とは全く違っている。
遺骸のようなものから垂れ下がるくすんだ色のコード、人工皮膚が剥がれ、剥き出しになった樹脂製のフレーム。
「これ、全部自動人形の……」
それは、自動人形達の遺骸と言って差し支えなかった。
山積みの自動人形を脇目に、ユハニは建物の奥へと進む。
少し進んだ所で、何者かが争った形跡と、床に倒れている一体の自動人形を発見した。
山積みの自動人形とは違い、首のない自動人形だった。
この自動人形が『ドウェラー』であるかどうかは不明だが、周囲には争ったような形跡や刃物がぶつかったような痕跡がある。
この自動人形は警備機能を備えており、盗掘者か何かに反応して攻撃を加え、反撃を喰らってそのまま首を跳ね飛ばされた。
そんなところかもしれない。
「しっかし、コイツの首は何処だ?」
周辺に転がている頭部を当ててみるが、どれもサイズが一致しない。ここでようやく、山積みになった自動人形が全て小さな子供型であると気が付いた。
首のない自動人形はユハニと同じくらいの体骨格。つまり、成人男性を模した自動人形だ。
子供型ではサイズが合う筈がなかった。
「レッドグレイヴ様に指示を仰いだほうがよさそうだな……」
薄暮の時代かそれより前か。そんな年代もわからない廃墟に残された、大勢の子供型自動人形の残骸。
そして、その中にたった一体だけ存在する、首のない成人男性型の自動人形。
グライバッハ製の自動人形と関係があるかはわからないが、この建物の内部の有り様は奇怪だ。
中々に厄介なものを見つけてしまったかもしれない。
(あぁ、これのせいでまた無茶振りされるんだろうなあ……)
そう考えて気が重くなるのを感じつつ、ユハニはクリッパーへと報告に戻るのだった。
「―了―」
中央統括センターの最深部にある研究施設に大量の荷物が運び込まれたのは、深夜のことだった。
「これで全部っす」
「ああ、お疲れ様。それにしてもかなり多いな」
この研究施設の主である歳若い男――フェムという名だ――は、無表情のまま頷いた。
フェムはユハニよりも少し年下だが、失われた技術である『自動人形の研究』を継承するエンジニアだ。
地上の人間である『ドクター』が所持していた自動人形の製造に関する希有な技術を学び、研究を続けている。
「レッドグレイヴ様が全部運べって言うから、全部持ってきただけさ。でもな、聞いて驚け。今回はグライバッハ製の自動人形を確保できた」
「ほう。重労働の甲斐があったな。それなら、多少は手当てに色がつくだろう」
無表情ながら、フェムはユハニの軽口に応じる。
「ぱーっと褒賞金でも出してもらいたいもんだね。表彰しろとまでは言わないけど」
「我々の任務は表立って賞賛されるものじゃないからな」
自動人形に関するコデックスの発掘及び研究は、指導者レッドグレイヴがごく一部の者にのみ与える、最高機密の任務であった。
適正があると認められた数人が極秘裏に選ばれ、地上の各所で探索任務に就いている、とはフェムの弁だ。他の誰がこの任務に就いているのか知らない。それをフェムに聞いたこともあったが、決して教えてくれることはなかった。
ユハニを含め、任務に当たる者が発掘したコデックスは、フェムともう一人のテクノクラートが解析し、結果は全てレッドグレイヴが直接目にする。
現場に居合わせたことはないが、レッドグレイヴが直々に解析を見分することもあるらしい。
中央統括センターの最上階から動くことなど有り得ない最高指導者が、わざわざ最深部に足を運ぶ。それだけでも、この任務が重大なものであるということが明白だ。
「でも、労働に見合った報酬はほしいよなあ」
「はは、なら、レッドグレイヴ様に直談判してみたらどうだ?」
フェムは軽い笑い声で応じる。表情の伴わないそれは、そこそこに付き合いのあるユハニの目から見ても奇妙なものだったが、それは些細なことだった。
ユハニがフェムと知り合ったのはこの任務に就いてからだが、年齢が近かったこと、階級の近い下級層の出身だったこと。それと、機密任務の内容を共有する者同士という状況が、二人に奇妙な連帯感と仲間意識を持たせていた。
二人は短い期間でお互いに冗談を言い合うような仲になっていた。
「えぇ……、それは勘弁。あちら様は雲上人であらせられるんだぜ?」
「ならば、黙って受け入れるしかないな」
「はぁぁぁ。おっと、そろそろ戻らないと」
深い溜息を吐いたユハニだが、デバイスに表示される時間を見ると飛び上がった。
明朝早い時間から協定監視局長とレッドグレイヴに対して、今回の探索報告をしなければならないのだ。
「ああ、気をつけて」
フェムの声を背に、ユハニは慌てて自室のある官舎へ戻るのだった。
「報告は以上です」
翌朝、ユハニは協定監視局の局長室で報告を行った。
といっても口頭での報告事項は殆ど無く、記録された動画を映写しながらレッドグレイヴの質問に二、三答える程度である。
『ご苦労だった、ユハニ。次の任務までは通常の業務に戻って構わない。局長、後は任せた』
「はい。レッドグレイヴ様」
モニターのレッドグレイヴが消える。
局長が小さく息を吐いて緊張を解いたのを、ユハニはなんとなく見つけ出した。
「ご苦労だった。本日は戻って休養を取るように。明日からの業務は追って連絡が行く」
「はい。では、失礼します」
局長に一礼すると、ユハニは局長室を後にした。
グライバッハ製の自動人形を研究施設に運び込んでから数ヶ月後、ユハニはバラク国カナノ地方にある廃墟はとやって来ていた。
元々の任務内容は、先般回収した日記帳に自動人形の取引先としてバラク国の名が記されており、その取引の詳細に関する調査と、バラク国に持ち込まれたであろう自動人形の足取りを追うことだった。
しかし、調査を進める内に気掛かりな話を耳にしたのだ。
《渦》が消滅する数年前から『ドウェラー』という動く骸骨のような存在が廃墟を中心に出没し、地域の住民に被害を及ぼしていたのだという。
しかし、《渦》が消滅したのと時を同じくして『ドウェラー』は姿を現さなくなったらしい。
それでも、いつ『ドウェラー』が出没するかわからないため、人々は廃墟の周辺に近付かないようにして生活をしているとのことだった。
その『ドウェラー』の容貌を細かく聞いていくと、自動人形のフレームに似た箇所が多く存在していた。『ドウェラー』こそ、愛好家の取引によって持ち込まれた自動人形かもしれない。
定時報告の際にそれを告げたところ、レッドグレイヴの命により、今回の任務は『ドウェラー』の捜索に切り替えられた。
「協定審問官No-862235、ユハニ。バラク国カナノ地方5748番の調査を開始する」
調査用デバイスの録画モードを起動し、決まりきった文句を述べると、ユハニは廃墟へと足を踏み入れた。
この廃墟はいつからこの場所にあるのだろうか。殆どの建物は崩れ去っており、往時の様子を窺い知ることはできない。
バラク国は障壁を生産していた地区から遠く離れている。そのため、障壁が配備されたのはごく一部の主要都市に限られていた。記録によれば、《渦》の被害はさほど多くなかったらしいが、それでも、この廃墟が《渦》に飲み込まれずに残っているというのは奇跡に近い。
廃墟を探索していくうちに、ユハニの足が瓦礫によってできた小石や砂利以外の何かを踏みつけた。
「なんだこれ? 金属、のプレート?」
プレートは錆び付いていたが、何かしらの文字が刻まれていた。
クリッパーに積んである解析機に掛かれば何かわかるかもしれない。解析結果が意味の無いものだったとしても、現状で廃墟に関する情報がこのプレートしかないため、貴重な情報源といえた。
ユハニはプレートを回収し、廃墟の探索を続行する。
件の『ドウェラー』が出没していたのは数年前だ。この廃墟を拠点にしていたとしても、何かしらの痕跡を見つけ出すには時間が経ちすぎている。
廃墟を隈なく探していくしかなかった。
暫く廃墟を探索していたが、『ドウェラー』の痕跡は何処にも見当たらなかった。
やはり数年前に何かが起きてこの地を去ったか、魔物にでも食われたかと思い始めたころ、高台の崖に掘られた奇妙な建物を発見した。
建物の扉は閉まっている。内部を見るには扉を開けて中に入るしか方法はなさそうだ。
扉の前には古い足跡がいくつか存在していた。となると、内部は盗掘されているか壊されている可能性が高い。
だからといって、調査しない訳にもいかない。収穫は無いだろうと思いながらも、ユハニは建物の中へ足を踏み入れた。
「洞窟のような建物を発見。内部の調査に入ります」
建物の中は広くはなさそうだった。薄暗いため、携帯ライトを点けて辺りを照らす。
「うわっ!?」
ユハニは思わず上ずった声を上げた。
光に照らされた目の前に、白い遺骸のようなものが積み重ねられていた。それが人間の骸骨に見えたのだ。
しかし、よく見れば人間とは全く違っている。
遺骸のようなものから垂れ下がるくすんだ色のコード、人工皮膚が剥がれ、剥き出しになった樹脂製のフレーム。
「これ、全部自動人形の……」
それは、自動人形達の遺骸と言って差し支えなかった。
山積みの自動人形を脇目に、ユハニは建物の奥へと進む。
少し進んだ所で、何者かが争った形跡と、床に倒れている一体の自動人形を発見した。
山積みの自動人形とは違い、首のない自動人形だった。
この自動人形が『ドウェラー』であるかどうかは不明だが、周囲には争ったような形跡や刃物がぶつかったような痕跡がある。
この自動人形は警備機能を備えており、盗掘者か何かに反応して攻撃を加え、反撃を喰らってそのまま首を跳ね飛ばされた。
そんなところかもしれない。
「しっかし、コイツの首は何処だ?」
周辺に転がている頭部を当ててみるが、どれもサイズが一致しない。ここでようやく、山積みになった自動人形が全て小さな子供型であると気が付いた。
首のない自動人形はユハニと同じくらいの体骨格。つまり、成人男性を模した自動人形だ。
子供型ではサイズが合う筈がなかった。
「レッドグレイヴ様に指示を仰いだほうがよさそうだな……」
薄暮の時代かそれより前か。そんな年代もわからない廃墟に残された、大勢の子供型自動人形の残骸。
そして、その中にたった一体だけ存在する、首のない成人男性型の自動人形。
グライバッハ製の自動人形と関係があるかはわからないが、この建物の内部の有り様は奇怪だ。
中々に厄介なものを見つけてしまったかもしれない。
(あぁ、これのせいでまた無茶振りされるんだろうなあ……)
そう考えて気が重くなるのを感じつつ、ユハニはクリッパーへと報告に戻るのだった。
「―了―」
- 翻譯錯誤。原文為「就發現一棟挖開台地岩壁而建的奇妙建築物」。 ↩