突然,伊普西隆意識清醒,醒了過來。
視野被柔和的光線覆蓋,伊普西隆從充滿了果凍狀物質的床舖上起身。
「感覺如何?我的孩子。」
技師馬上前來詢問狀態。
「我想應該……沒事。」
伊普西隆雖然呆愣著,卻回答了技師的詢問。
剛醒來雖然腦袋還不是很清楚,但並沒有感覺到心情的變化或是身體的不適。
「太好了,邏輯思考會變得更快,更能進行深度思考,因為我這次在頭腦裡下了點功夫。」
「這樣啊。」
「還有,在神經系統發現了輕微損傷,所以幫你交換過了。是之前收集的金屬生命體的神經系統,那個實在很不錯,因為非常地堅固。啊啊,還有那個--」
技師一旦開始解說,不管伊普西隆有沒有理解都會一直說個不停。
伊普西隆一邊漫不經心地聽著技師的解說一邊起身,適當地扭動伸展身體。要是發現了什麼問題的話,在技師講到心滿意足之後,有詢問自己時再說就好了。
雖然技師在解說中的提到最重要的是頭腦因改造而產生變化,但是要明確搞清楚,應該都是前往異界探索的時候才會確實感受到。
技師定期為伊普西隆做身體檢查與進行改造。
主要是將收集到的生命體所具備的高度能力,調整成伊普西隆可以使用的程度植入。範圍從發達的神經系統的交換到強化思考邏輯等多方面。
如此一來,伊普西隆將繼承現有生命體的優點,成為無論在任何環境下,任何世界裡也都能存活的終極生命體。
這便是技師的目的
身體稍微習慣了之後,伊普西隆依照技師的指示在屋內四處走動。
忽然冒出了個想法,走進了保管著技師所中意的生命體房間。
因為,伊普西隆對於先前收集到的,樣子與自己相似的生命體感到好奇。
在那之後也有再進行過幾次探索,但是都沒有遇到相同的生命體。
保管房間裡,智慧型生命體的上半身與下半身被分割開來,浸泡在淡紅色液體裡保存著。
生命體的臉部,技師好像做了什麼處置似的,呈現睡著的表情。
「……一點感覺都沒有。」
與自身原型生命體相似的生命體。
本來以為再次親眼見到說不定會想起些什麼,才出此行動。
而不知道為什麼,技師對於伊普西隆表現出對某事感到興趣或是表現出情感,就會感到非常開心。而且,將回想起的東西告訴技師後,技師表現出極致愛的同時,親切地向伊普西隆說明帶有適當情感的名稱。
但是,即使看著眼前被保管著的生命體,也不帶有什麼特別的情感。
在習慣了身體之後,伊普西隆再次展開收集新生命體的異界之旅。
伊普西隆走在覆蓋著有毒色彩青苔的大地上。
將眼前這個與青苔同一顏色的職務切碎,植物如同生命體般,蜿蜒纏繞在伊普西隆身上。
看來這個青苔,可以預測大概是與樹木或岩石等周邊的東西纏繞繁殖的植物。
將這讓人不舒服的蠕動植物密封到小保管容器後,放入背在背上的箱子裡。
突然,尖銳高亢的叫聲從遠處傳來,朝那方向望去,看到四個頭四隻腳的生命體慢慢地闊步走著。
暫且朝著將那生命體所在地點前進,並一邊收集途中看到的植物或礦物,覆蓋甲殼的小生命體等,一邊繼續探索。
持續移動之後,眼前出現了一個四周被木製板子包圍的場所。
從會使用木材加工成板子這點看來,可以推測這裡應該住著具有高度智慧的生命體群。
比起沒有智慧的東西,技師更希望的是收集到具有智慧的東西。
伊普西隆停止對四腳生命體的探索後,在木板的周圍來回觀察。馬上便發現了像是出入口的分界線,於是將集音機放置於那旁邊的岩石縫隙處。
然後,隱身在與場所有點距離的岩石暗處,等待那四周包圍了木板的場所裡面的生命體出現。
等了沒多久後,有著二個頭二隻腳行走的生命體成群地走了過來。
先前看到在遠方用四腳行走的生命體也是,大概在這個世界的生命體有多個頭都是很基本的。
伊普西隆一邊這樣想著,一邊注意觀察二個頭的生命體如何行動與說話。
雙頭生命體發出聽起來不像是叫聲也不是話語的聲音。
過了一會兒,將集音機收集到的聲音,透過翻譯機轉換成伊普西隆能夠理解的語言聽到了
「珠子運過來了。快,那些傢伙來了。」
「知道了。」
翻譯機可以翻譯即表示,這雙頭生命體擁有他們體系的語言。
從談話的內容裡,可以推測這由木板圍著的場所,對雙頭生命體來說是像堡壘一般的地方。
對於能遇到了智慧生命體感到開心,但是對於『珠子』『那些傢伙』等的話語卻感到在意。
是被什麼追著嗎。
伊普西隆便再仔細觀察。
要是雙頭生命體所說的那個來追討『珠子』的話,應該馬上會引起騷動。
若可以趁著騷動時收集雙頭生命體,就可以避免引起額外不必要的騷動。
雙頭生命體拿著武器從木板圍牆的那頭出現了。
「無論如何都要保住珠子。」
「鞏固守衛,絕對不能允許它們入侵。」
「已經沒有退路了。」
「無論如何都要保住啊!」
透過翻譯機聽到的兩頭生命體對話,看來事態似乎相當危急。
自己藏身的地方也可能即將成為戰場,如果有什麼萬一也只能馬上回去次元了。
從地平線的那一方傳來了刺耳的驅動聲。
空中,出現了長著一對翅膀像箱型的物體正在飛著,發出驅動聲大概就是那個吧。
將視線移往地面,在空中飛翔著看似箱型物體的前方,看見了在那個金屬物質世界遇到之後再也沒有見過的,似乎是自己原型的雙足步行生物。
那個生命體,難道也跟技師一樣擁有能往來異世界的技術嗎。
雙頭生命體嘶吼了起來,開始向現身的雙腳步行生命體進行攻擊。
不久,堡壘的周圍瞬間變成戰場。
槍聲、怒聲、各種聲音響起。
沒多久,這些聲響漸漸消失。
從岩石陰影下探頭環視周圍情況,兩個頭和一個頭的屍體散布在那一帶。
之中有不成原型,或是已經化成碳的屍體。
「核心回收成功了!」
「能回收的遺體就回收!不要放鬆對周遭的戒備!」
「確認武裝艇撤退後,我們也撤退!」
所謂的『核心』大概就是那雙頭生命體搬運來的『珠子』吧。對雙頭生命體來說似乎是很重要的東西,看來而對一個頭的也相當重要。
無論如何都想要確保住珠子,但似乎很困難。
放棄珠子,一定要去回收兩個頭和一個頭的屍體才行。
正在考慮時,打算躲回岩石陰影下的瞬間,感覺到似乎被什麼東西注視著。
緊急將身體壓低,伊普西隆的上頭好像有什麼正通過著。
一通過後也不知道是不是時間差的關係,響起刺耳令人不舒服的聲音。
「……沒打中嗎,明明好像看到了敵性生命體,是看錯了嗎?」
透過翻譯機聽到了不知道是誰的聲音。
這才知道,應該是被那個兩腳生命體給攻擊了。
和兩腳生命體保有一定的距離,照理說要用目視確認這邊的位置應該是相當困難的。即使如此,那個生命體竟然可以攻擊自己,那個生命體到底是什麼呢。
不管如何都想要採取回去,但是他們都已經奪走了珠子,而且看起來戰力也很充沛。
硬來的話自己反而會變成被採取的對象也說不定,勢必不能掉以輕心。
如果,又被追擊的話,一定得逃回次元才行。
伊普西隆屏住氣息,等待著兩腳生命體進行下一次的行動。
「怎麼了?阿奇波爾多,有什麼嗎?」
「好像看到了殘活的敵性生命體,但似乎是看錯了。」
「可能是覬覦這些傢伙屍體的其他生命體?」
「如果是這樣就好了。」
「赫姆霍茲隊長,阿奇波爾多副隊長。武裝艇已經確定撤退了,還請下指示!」
「明白!我們也撤退吧!」
翻譯機聽到的對話聲越來越遠。
確認聲音完全聽不見後,伊普西隆便開始進行屍體的回收。
「-完-」
「生命体」
ふと、意識が浮上する。エプシロンは目を覚ました。
柔らかな光が視界を覆う。エプシロンはゼリー状の物質で満たされたベッドから起き上がった。
「気分はどうかな? 我が子」
すぐに技師が状態を尋ねてくる。
「問題はない、……と思う」
ぼうっとしていたが、エプシロンは技師の質問に答える。
覚醒直後ではっきりとしていないが、気分の変化や体の不具合を感じることはない。
「よかった。理論的思考をより素早く、より高度に行えるよう、今回は頭脳に手を加えたからね」
「そうか」
「あと、神経系に軽い損傷が見つかったから交換したよ。この間採取した鉄の生命体の神経糸だ。あれは素晴らしいね。なにせ頑丈だ。ああ、あとそれと――」
技師は一度説明を始めると、エプシロンが理解している、していないに関わらず話し続ける。
技師の説明を聞き流しながらエプシロンは体を起こし、適当に体を曲げ伸ばしする。何か問題が見つかれば、技師が喋ることに満足した後か、尋ねられときに伝えればいい。
技師が説明してくれた中で重要なのは頭脳の改造による変化だが、それがはっきりとわかるのは、きっと異界へ探索に赴いたときであろう。
技師は定期的にエプシロンの身体検査と改造を行う。
主な内容は、採取した生命体が揃えている高度な能力を、エプシロンに調整して組み入れることだ。その範囲は発達した神経糸への交換から思考回路の強化にまで、多岐に渡る。
そうやってエプシロンに既存の生命体の良いところを継承させ、どんな環境でも、どんな世界でも生き残れる究極の生命体に仕上げる。
それが技師の目的であった。
少し身体を慣らしてくるようにと技師から指示を受けたエプシロンは、家屋の中を歩き回る。
ふと思い立ち、技師が気に入った生命体を保管している部屋へと足を運んだ。
以前採取してきた、エプシロンの姿に似た生命体のことが気になったのだ。
あれから幾度か探索へ出たが、同じ生命体に遭遇することはなかった。
保管部屋には上半身と下半身に分割された知的生命体が、薄赤い液体に浸されて保管されている。
生命体の顔は技師が何かしらの処置を施したようで、眠っているような表情に整えられていた。
「……何も感じないな」
自分の基となった生命体に似た知的生命体。
もう一度直接目にすれば何かしらの感情を想起するかもしれないと思っての行動だった。
何故かはわからないが、技師はエプシロンが何かに興味を示したり、感情を表に出したりする行為を非常に喜ぶ。そして想起した思いを技師に伝えると、技師は最大限の愛情表現と共に適切であろう感情の名前をエプシロンに丁寧に説明するのだ。
しかし、目の前で保管されている生命体を見つめてみたものの、特段何かの感情を抱くことはなかった。
身体の慣らしが終わると、エプシロンは新たな生命体採取のために異界へと旅立った。
毒々しい色合いの苔に覆われた大地をエプシロンは歩く。
目についた苔と同じ色の植物を一つ千切る。植物は生き物のようにうねり、エプシロンにまとわりつこうとした。
どうやらこの苔は、木や岩など周辺のものにまとわりついて繁殖する植物だと想定される。
不快な蠢きを見せる植物を小さな保管容器に密封すると、背負っている箱に放り込んだ。
ふいに、鋭く甲高い鳴き声のようなものが遠くから聞こえてきた。その方向を見やると、四つの頭を持つ四足歩行の生命体がゆったりと闊歩しているのが見えた。
ひとまずその生命体のいる場所を目指すことにし、道中目に付いた植物や鉱物、甲殻に覆われた小さな生命体などを採取しながら探索を続けた。
暫く移動を続けていると、木製の板で周囲を囲んだ場所が目の前に現れた。
木材を板に加工できているということは、高度な知性を有する生命体が群れとなって暮らしていることが推考される。
知的のないものよりも、知性のあるものを採取してくることを技師は望む。
エプシロンは四足歩行生命体の探索を取り止めると、板の周囲を見て回る。すぐに出入り口らしき境目を見つけ、その傍らにあった岩の隙間に集音機を設置した。
そして、離れた場所にあった岩陰に身を隠し、この張り巡らされた板の内部にいる生命体が姿を現すのを待つことにした。
暫く待っていると、二つの頭部を持つ二足歩行の生命体が群れを成してやって来た。
遠目に見た四足歩行の生命体といい、この世界の生命体は多頭であることが標準なのだろうか。
そんなことを考えながら、エプシロンは二つ頭の生命体がどのような動きや喋りをするのかを注意深く窺う。
二つ頭の生命体の、鳴き声とも言葉ともつかない音が聞こえてくる。
ややあって、集音機が拾った音が翻訳機を通してエプシロンに理解できる言葉に変換されて聞こえてきた。
「珠を運んできた。急げ、奴らが来る」
「わかった」
翻訳機が翻訳できるということは、この二つ頭の生命体は体系化された言語をもっているということだ。
会話の内容から、この板で囲われた場所は、二つ頭の生命体にとって砦のようなものだと推測できた。
知的生命体に早くも遭遇できたことは喜ばしいが、『珠』『奴ら』等の気に掛かる言葉がいくつかある。
何かに追われているのだろうか。
エプシロンはさらに様子を窺うことにした。
二つ頭の生命体の言う『珠』を追って何かがやって来るとすれば、遠からず騒動が起きる。
その騒動に乗じて一体なりでも二つ頭の生命体を確保できれば、余計な騒ぎを起こさずに済むと考えた。
二つ頭の生命体が武器を持って板の向こうから出てきた。
「何としても珠を守れ」
「守りを固めろ。絶対に侵入を許すな」
「もう、あとはないぞ」
「何としても守るんだ!」
二つ頭の生命体の会話が翻訳機越しに聞こえる。事態はかなり切迫しているようだ。
自分が隠れている場所も戦場になる恐れがあったが、いざとなれば次元を渡るだけである。
地平線の向こうから耳障りな駆動音が聞こえてきた。
空中に、一対の翼が生えた箱のようなものが飛んでいる。駆動音を鳴らしているのはあれなのだろう。
視線を地上の方に移すと、空飛ぶ箱のようなものの手前に、あの金属質の世界で遭遇して以来出会うことのなかった、自身の基となったらしい二足歩行生命体の姿が見えた。
あの生命体も、技師と同じように異世界を渡る技術を持っていたのか。
二つ頭の生命体が雄叫びを上げると、姿を現した二足歩行生命体に攻撃を開始した。
程なくして、砦の周囲は戦場となる。
銃声、怒声、様々な音が響き渡る。
やがて、それらは聞こえなくなった。
岩陰から身を乗り出して周囲の様子を窺うと、二つの頭と一つ頭の死骸がそこら一帯に転がっていた。
中には原型すらなく、炭となっている死骸さえあった。
「コアの回収に成功しました!」
「回収できる遺体は回収しろ! 周囲の警戒を怠るな!」
「アーセナルキャリアの撤退を確認したら、俺達も撤退だ!」
『コア』とは、二つ頭が運んできた『珠』のことだろう。二つ頭にとって重要なものであるように、一つ頭にとっても重要なもののようだ。
是非とも珠を確保したかったが、それは難しそうだ。
珠のことは諦めて、二つ頭と一つ頭の死骸を回収しなければ。
そう考え、岩陰に戻ろうとした瞬間、何かに見られているような感覚を覚えた。
咄嗟に身を屈めると、エプシロンの頭上を何かが通り過ぎていく。
何かが通り過ぎてからの時間差で、鋭く痛い音が響いた。
「……外したな。敵性生物に見えたが、違ったか?」
何者かの声が翻訳機越しに聞こえてきた。
漸くそこで、あの武装した二足歩行生命体に攻撃されたことに気付く。
二足歩行生命体とは距離がある。こちらの位置を視認するのは難しい筈だ。それでも、あの生命体は自分を攻撃してきた。この生命体は一体何なのだ。
是非とも採取したいが、珠を奪ってなお、相手には戦力に余裕があるようだ。
無理をすれば自分が採取される側になってしまう。迂闊なことはできなかった。
もし、更なる追撃があるようなら、次元を渡って逃げなければならない。
エプシロンは息を潜めて、二足歩行生命体が次の行動に移るのを待つ。
「どうした? アーチボルト、何かあったか?」
「敵性生物の生き残りに見えたが、どうやら違ったらしい」
「奴らの死骸を狙ってる別の生命体か?」
「それだったら平和なんだがな」
「ヘルムホルツ隊長、アーチボルト副長。アーセナルキャリアの撤退を確認しました。指示を!」
「わかった! 俺達も撤収するぞ!」
翻訳機の会話が遠ざかっていく。
完全に声が聞こえなくなったのを確認したエプシロンは、死骸を回収する作業に入るのだった。
「―了―」
ふと、意識が浮上する。エプシロンは目を覚ました。
柔らかな光が視界を覆う。エプシロンはゼリー状の物質で満たされたベッドから起き上がった。
「気分はどうかな? 我が子」
すぐに技師が状態を尋ねてくる。
「問題はない、……と思う」
ぼうっとしていたが、エプシロンは技師の質問に答える。
覚醒直後ではっきりとしていないが、気分の変化や体の不具合を感じることはない。
「よかった。理論的思考をより素早く、より高度に行えるよう、今回は頭脳に手を加えたからね」
「そうか」
「あと、神経系に軽い損傷が見つかったから交換したよ。この間採取した鉄の生命体の神経糸だ。あれは素晴らしいね。なにせ頑丈だ。ああ、あとそれと――」
技師は一度説明を始めると、エプシロンが理解している、していないに関わらず話し続ける。
技師の説明を聞き流しながらエプシロンは体を起こし、適当に体を曲げ伸ばしする。何か問題が見つかれば、技師が喋ることに満足した後か、尋ねられときに伝えればいい。
技師が説明してくれた中で重要なのは頭脳の改造による変化だが、それがはっきりとわかるのは、きっと異界へ探索に赴いたときであろう。
技師は定期的にエプシロンの身体検査と改造を行う。
主な内容は、採取した生命体が揃えている高度な能力を、エプシロンに調整して組み入れることだ。その範囲は発達した神経糸への交換から思考回路の強化にまで、多岐に渡る。
そうやってエプシロンに既存の生命体の良いところを継承させ、どんな環境でも、どんな世界でも生き残れる究極の生命体に仕上げる。
それが技師の目的であった。
少し身体を慣らしてくるようにと技師から指示を受けたエプシロンは、家屋の中を歩き回る。
ふと思い立ち、技師が気に入った生命体を保管している部屋へと足を運んだ。
以前採取してきた、エプシロンの姿に似た生命体のことが気になったのだ。
あれから幾度か探索へ出たが、同じ生命体に遭遇することはなかった。
保管部屋には上半身と下半身に分割された知的生命体が、薄赤い液体に浸されて保管されている。
生命体の顔は技師が何かしらの処置を施したようで、眠っているような表情に整えられていた。
「……何も感じないな」
自分の基となった生命体に似た知的生命体。
もう一度直接目にすれば何かしらの感情を想起するかもしれないと思っての行動だった。
何故かはわからないが、技師はエプシロンが何かに興味を示したり、感情を表に出したりする行為を非常に喜ぶ。そして想起した思いを技師に伝えると、技師は最大限の愛情表現と共に適切であろう感情の名前をエプシロンに丁寧に説明するのだ。
しかし、目の前で保管されている生命体を見つめてみたものの、特段何かの感情を抱くことはなかった。
身体の慣らしが終わると、エプシロンは新たな生命体採取のために異界へと旅立った。
毒々しい色合いの苔に覆われた大地をエプシロンは歩く。
目についた苔と同じ色の植物を一つ千切る。植物は生き物のようにうねり、エプシロンにまとわりつこうとした。
どうやらこの苔は、木や岩など周辺のものにまとわりついて繁殖する植物だと想定される。
不快な蠢きを見せる植物を小さな保管容器に密封すると、背負っている箱に放り込んだ。
ふいに、鋭く甲高い鳴き声のようなものが遠くから聞こえてきた。その方向を見やると、四つの頭を持つ四足歩行の生命体がゆったりと闊歩しているのが見えた。
ひとまずその生命体のいる場所を目指すことにし、道中目に付いた植物や鉱物、甲殻に覆われた小さな生命体などを採取しながら探索を続けた。
暫く移動を続けていると、木製の板で周囲を囲んだ場所が目の前に現れた。
木材を板に加工できているということは、高度な知性を有する生命体が群れとなって暮らしていることが推考される。
知的のないものよりも、知性のあるものを採取してくることを技師は望む。
エプシロンは四足歩行生命体の探索を取り止めると、板の周囲を見て回る。すぐに出入り口らしき境目を見つけ、その傍らにあった岩の隙間に集音機を設置した。
そして、離れた場所にあった岩陰に身を隠し、この張り巡らされた板の内部にいる生命体が姿を現すのを待つことにした。
暫く待っていると、二つの頭部を持つ二足歩行の生命体が群れを成してやって来た。
遠目に見た四足歩行の生命体といい、この世界の生命体は多頭であることが標準なのだろうか。
そんなことを考えながら、エプシロンは二つ頭の生命体がどのような動きや喋りをするのかを注意深く窺う。
二つ頭の生命体の、鳴き声とも言葉ともつかない音が聞こえてくる。
ややあって、集音機が拾った音が翻訳機を通してエプシロンに理解できる言葉に変換されて聞こえてきた。
「珠を運んできた。急げ、奴らが来る」
「わかった」
翻訳機が翻訳できるということは、この二つ頭の生命体は体系化された言語をもっているということだ。
会話の内容から、この板で囲われた場所は、二つ頭の生命体にとって砦のようなものだと推測できた。
知的生命体に早くも遭遇できたことは喜ばしいが、『珠』『奴ら』等の気に掛かる言葉がいくつかある。
何かに追われているのだろうか。
エプシロンはさらに様子を窺うことにした。
二つ頭の生命体の言う『珠』を追って何かがやって来るとすれば、遠からず騒動が起きる。
その騒動に乗じて一体なりでも二つ頭の生命体を確保できれば、余計な騒ぎを起こさずに済むと考えた。
二つ頭の生命体が武器を持って板の向こうから出てきた。
「何としても珠を守れ」
「守りを固めろ。絶対に侵入を許すな」
「もう、あとはないぞ」
「何としても守るんだ!」
二つ頭の生命体の会話が翻訳機越しに聞こえる。事態はかなり切迫しているようだ。
自分が隠れている場所も戦場になる恐れがあったが、いざとなれば次元を渡るだけである。
地平線の向こうから耳障りな駆動音が聞こえてきた。
空中に、一対の翼が生えた箱のようなものが飛んでいる。駆動音を鳴らしているのはあれなのだろう。
視線を地上の方に移すと、空飛ぶ箱のようなものの手前に、あの金属質の世界で遭遇して以来出会うことのなかった、自身の基となったらしい二足歩行生命体の姿が見えた。
あの生命体も、技師と同じように異世界を渡る技術を持っていたのか。
二つ頭の生命体が雄叫びを上げると、姿を現した二足歩行生命体に攻撃を開始した。
程なくして、砦の周囲は戦場となる。
銃声、怒声、様々な音が響き渡る。
やがて、それらは聞こえなくなった。
岩陰から身を乗り出して周囲の様子を窺うと、二つの頭と一つ頭の死骸がそこら一帯に転がっていた。
中には原型すらなく、炭となっている死骸さえあった。
「コアの回収に成功しました!」
「回収できる遺体は回収しろ! 周囲の警戒を怠るな!」
「アーセナルキャリアの撤退を確認したら、俺達も撤退だ!」
『コア』とは、二つ頭が運んできた『珠』のことだろう。二つ頭にとって重要なものであるように、一つ頭にとっても重要なもののようだ。
是非とも珠を確保したかったが、それは難しそうだ。
珠のことは諦めて、二つ頭と一つ頭の死骸を回収しなければ。
そう考え、岩陰に戻ろうとした瞬間、何かに見られているような感覚を覚えた。
咄嗟に身を屈めると、エプシロンの頭上を何かが通り過ぎていく。
何かが通り過ぎてからの時間差で、鋭く痛い音が響いた。
「……外したな。敵性生物に見えたが、違ったか?」
何者かの声が翻訳機越しに聞こえてきた。
漸くそこで、あの武装した二足歩行生命体に攻撃されたことに気付く。
二足歩行生命体とは距離がある。こちらの位置を視認するのは難しい筈だ。それでも、あの生命体は自分を攻撃してきた。この生命体は一体何なのだ。
是非とも採取したいが、珠を奪ってなお、相手には戦力に余裕があるようだ。
無理をすれば自分が採取される側になってしまう。迂闊なことはできなかった。
もし、更なる追撃があるようなら、次元を渡って逃げなければならない。
エプシロンは息を潜めて、二足歩行生命体が次の行動に移るのを待つ。
「どうした? アーチボルト、何かあったか?」
「敵性生物の生き残りに見えたが、どうやら違ったらしい」
「奴らの死骸を狙ってる別の生命体か?」
「それだったら平和なんだがな」
「ヘルムホルツ隊長、アーチボルト副長。アーセナルキャリアの撤退を確認しました。指示を!」
「わかった! 俺達も撤収するぞ!」
翻訳機の会話が遠ざかっていく。
完全に声が聞こえなくなったのを確認したエプシロンは、死骸を回収する作業に入るのだった。
「―了―」