「唔--嗯……」
看著放在眼前的乾燥香草山,威廉一個人默默地苦惱著。
在接納戰士們的巨大圖書館『烏拉尼恩伯魯克』裡,有各式各樣的物資會以數週為間隔運到這裡來。
回歸到地上的戰士們,除一部分人以外,變得在星幽界時不同,需要吃飯和睡覺了。這正是因為回到了所謂的血肉之軀。
對於像這樣的戰士們,侍者們會將食物或者嗜好品之類的,在生活中必要的各種物資定期發配給大家。
究竟是以什麼樣的原理﹑法則進行的還不清楚。但是,從像是在餐飲店等所使用的大包裝商品到包裝像是禮品般的商品,什麼樣的東西都有。
到底是什麼時代用怎樣的手段搬運過來的呢。雖然曾經向侍者們尋求過解釋,但他們似乎也不知道詳情的樣子,用曖昧的態度敷衍我,只能不了了之。
最近一段時間運來的物資中,有大量塞滿了乾燥香草的袋子。
和其他物資一樣,從分成小包像禮品一樣的規格到店家會用的大型包裝,形狀、容量不相同的貨都有,可以說是沒有什麼標準。
像這種東西交給威廉來使用是最恰當的,前幾天侍者們拜託威廉全權管理。
因為威廉曾經是以栽培藥草跟管理為生的人,侍者們的判斷可以說是正確的。
但,問題是這堆香草山藥怎麼消耗呢。
能作為調味料使用的種類已經送去了廚房,現在留在手邊的,只有能用來泡香草茶或者做芳香劑的種類而已了。
威廉自己的話因為喜歡所以會喝香草茶,但這是喜好分明的嗜好品。
就算作為芳香劑使用,會喜歡這種東西的人在戰士之中會有多少人也不清楚。
要是作為香水的代用品的話,因為香氣的種類相當多種,也沒法輕易推薦要用哪一種。
以威廉個人來說的話,希望能讓好吃的東西更加美味,使美妙的香氣更加馥郁,想要讓喜歡它們的人來使用。
畢竟是特別送來的東西,就想要有效率地去使用,也可以說是作為一位栽培者的心意吧。
「……這下,該怎麼辦才好呢。」
某一天的深夜,結束了在『編年史』中戰鬥的威廉,單手拿著包裝精美的小袋站在廚房。
因為被戰鬥之後的精神狀態給影響,想要喝喝香草茶讓自己平靜下來。
等待熱水燒開的時候,威廉心不在焉地回想起在『編年史』中的戰鬥。
在『編年史』內部進行的是,與想要讓多元世界陷入混沌的不明人物之戰。
也因如此,對戰的魔物有著完全不輸給星幽界的兇惡,還很狡猾。就算是依照引導者的指示和戰術全力以赴,受傷也是家常便飯。
但是,不知道是次元干涉還是什麼的作用,受了傷只要回到這個圖書館馬上就治癒了。
但是,進行戰鬥的記憶跟感情,理所當然不會消失。精神上的高昂感和倦怠感,就算回到了圖書館,也無法像傷口一樣立刻恢復到平常的樣子。
「以前是怎麼做來著……」
在隆茲布魯軍從軍的時候,從沒依賴過香草茶。那麼,那時候是怎樣讓心情沉澱下來的呢。
像這樣只要有簡單的解決辦法就會想要隨波逐流,漸漸變得無法回想起以前的事情。
像這樣一直忘掉真的是一件很困擾的事,威廉這麼想著,稍稍自嘲了一下。
心不在焉地等待水燒開時,突然從廚房入口傳來了聲音。
「這個時間你在幹嘛啊?」
原來是傑多。他邊摸著肚子走了進來,就直接走向了儲藏食物的櫃子。
「啊,傑多。晚上好,我有點睡不著。你呢?」
「就是有點肚子餓啦,威廉也是嗎?」
「是啊,跟你有點像。」
傑多把零嘴和香腸之類等的東西擺在桌上,都是不需要特別調理的食物。差不多同時間,水壺的壺嘴中開始噴出了熱氣。
威廉將熱水倒入放有香草的茶壺。
玻璃製的茶壺能夠清楚地看見內部,隨著倒入的熱水香草像跳舞般的翻動著。
「那是什麼?不可思議的香氣。檸檬嗎?但是沒有放檸檬進去啊……」
在那沏好的香草茶獨特的香氣中,傑多邊啃著香腸邊歪著頭問道。
「是香草茶,你第一次看到這個嗎?」
看著茶壺中乾燥香草葉慢慢舒展開來的樣子,威廉對著好像看見很稀奇東西般的傑多詢問後,傑多盯著茶壺點點頭。
看著這樣的傑多,威廉正打算也給他準備一份茶杯而起身時,再次從入口傳來了誰的聲音。
「兩位,這麼晚的時間在做什麼呢?」
應該是在深夜巡邏吧,一隻手拿著煤油燈的梅倫探頭問道。
「這個嘛,吃宵夜?」
先和梅倫對上眼的傑多回答道。
「原來是這樣,威廉也是嗎?」
「差不多,梅倫是在巡邏嗎?」
「是的,因為這個圖書館裡還有很多未知的部分,也許不知道什麼時候會遇到危險。」
「還有連你們也不知道的地方嗎?」
「是的,我們侍者也是和各位一樣,被引導來這個地方而已。」
梅倫的話使威廉稍稍睜大了眼睛,還以為侍者們與身為聖女使者時一樣,對這一塊或多或少都有了解。
「我還在想說真奇怪,你們怎麼不能像以前一樣什麼都能回答出來,原來是這樣啊。」
傑多像是理解般點了點頭。
「真是十分抱歉。那麼,我還得繼續巡邏才行。」
臉上也露出抱歉表情的梅倫垂下了眉頭,威廉或許是看著那副表情想到了什麼,叫住了準備離開的梅倫。
「請等一下,梅倫。要不要稍微休息一下?啊,對了,要是你能喝的話要不要來點香草茶。」
「也好,那我就不客氣了。我是有安裝喝茶的機能。」
「還有點心哦!」
威廉沏好的香草茶,配上傑多準備的點心,三位男性的小小茶會就這麼開始了。
「明明沒有放檸檬但是卻有檸檬的味道。」
「這就是所謂『美妙的香氣』吧。」
「嗯,是的。而且,這個香氣據說還有寧神的效果,說不定對入睡會有幫助。」
「是哦,真有趣。」
像這樣在午夜中品嘗香草茶和茶點,與日常相比不一樣的行為,讓三人的心情稍微有點高漲。
雖然三人平常沒怎麼說過話,但是在這樣的日子,也有些激動地打開了話匣子。
『編年史』中的戰鬥簡直像不存在一樣,悠閒的時光在緩緩流動。
威廉開始覺得,不想失去這種度過時間的方式。
從那天以後,威廉開始會以幾天一次左右的頻率,在午夜裡的廚房泡著香草茶。
有時候會與什麼人一起享受茶會時間,有時候也會一個人將各種香草調和起來試味道。
這段時間就像是曾經在植物園工作時般,平穩祥和。
--雖然平時的廚房會有戰士們來來往往在這裡吃飯,到了深夜就是一個沒有光亮的寂靜地方。
--在這樣的場所,今夜也會有因為某些理由悄悄到訪。
「嗯……?」
「殿下,您有什麼事嗎?」
「不,只是有一點睡不著而已。你們在幹什麼?」
「拜託威廉幫我泡了茶哦,他手藝超好的。」
瑪格莉特看了看威廉和古魯瓦爾多,露出了一絲絲微笑。
「這樣啊……」
「殿下也來一杯嗎?」
「……給我吧。」
據說在午夜中到訪漏出微光的廚房,會遇到有著一臉柔和笑容的青年,在和疲憊的戰士一起度過祥和的茶會時間。
「-完-」
「真夜中のティータイム」
「ふーむ……」
目の前に置かれた乾燥ハーブの山を見て、ヴィルヘルムは一人で唸っていた。
戦士たちを受け入れる巨大図書館『ウラニエンボルク』には、様々な物資が数週間おきに運ばれてくる。
地上へ戻った戦士達は、一部を除いて、星幽界に存在していた時とは違って食事と睡眠を必要とするようになった。まさに生身といえる状態に戻ったのだ。
そういった戦士達に対して、アコライト達は食料や嗜好品など、生活に必要な様々な物資を定期的に配ってくれた。
どういった原理、法則なのかはわからない。しかし、飲食店などで使うような大袋入りのものから丁寧に包装が施された贈答品のようなものまで、様々なものが存在する。
いつどんな時代から、どういった手段で運ばれてくるのか。アコライト達に説明を求めていたが、彼らも詳細は知らないようで、曖昧に誤魔化されて終わるだけだった。
ここ最近になって運ばれてきた物資の中に、大量の乾燥ハーブが詰められた袋があった。
他の物資と同様小分けにされた贈答品のようなものから業者が扱うような大袋に入っているものまで、形状、容量共に様々で、基準は不明といってもよかった。
こういったものはヴィルヘルムが扱うのが適当であろうと、アコライト達から管理を一任されたのはつい先日のことだ。
かつて薬草栽培から管理までを生業としていた身のため、アコライトの判断は正しいといえた。
しかし、問題はこのハーブの山をどうやって消費するかである。
料理の風味付けに使うものはすでに厨房へ運ばれており、いま手元に残っているのはハーブティーや芳香剤として使うようなものだけだ。
ヴィルヘルム自身は好んでハーブティーを飲むが、それは好き嫌いの分かれやすい嗜好品である。
芳香剤として使うにしても、そういったものを好む者が戦士の中にどれだけ存在するかもわからない。
香水の代用品として使うにも、香りの種類がバラバラのために、おいそれと勧めることはできない。
個人的なことを言ってしまえば、美味しいものはより美味しく、良い香りのものはよりよく、それを好む者に使ってもらいたい。
せっかく送られてきたものだ。効果的に使用したいと思うのは、栽培者としての心意気とも言うべきだろうか。
「……さて、どうするかな」
ある日の深夜、『クロニクル』での戦闘を終えたヴィルヘルムは、綺麗にラッピングされた小袋を片手に厨房に立っていた。
戦闘直後の精神状態を引き摺ってしまっていたため、ハーブティーを飲んで気分を落ち着けようと考えたのだ。
ケトルを火にかけて湯が沸くのをじっと待つ間、ヴィルヘルムはぼんやりと『クロニクル』での戦闘を振り返っていた。
『クロニクル』の内側で行われたことは、多元世界を混沌へ陥れようと願う何者との戦いであった。
それ故、対峙する魔物は星幽界にいた魔物に勝るとも劣らないほどに凶悪であり、狡猾だ。導き手の指示や戦術を用いて善戦するも、怪我を負うことが少なくなかった。
だが、次元干渉が何らかの作用を及ぼすのか、傷についてはこの図書館へ戻ってくればすぐさま癒えた。
しかし、戦闘を行ったという記憶や感情は、当然消えることはない。精神的な高揚感や倦怠感については、図書館に戻ってきたとしても、傷のようにすぐ平常時に戻るわけではなかった。
「以前はどうしていたのやら……」
ロンズブラウ軍に従軍していた頃は、ハーブティーに頼ることはなかった。では、どうやって気分を落ち着いていたのだったか。
安易な解決方法があればそちらに流され、以前の状況を思い出せなくなってしまうとは。
何とも困ったものであると、少しだけ自嘲した。
ぼんやりと湯が沸くのを待っていると、ふいに厨房の入り口から声がした。
「こんな時間に何してるの?」
ジェッドだった。彼はお腹をさすりながら入ってくると、まっすぐに食料の貯蔵されている棚へと向かう。
「やあ、ジェッド。こんばんは。ちょっと寝付けなくてね。君はどうしたんだ?」
「なんか腹が減っちゃってさー。ヴィルヘルムも?」
「そうだな、似たようなものさ」
ジェッドがテーブルの上に菓子やソーセージなど、調理の必要がない食料を置く。それと同時くらいに、ケトルの注ぎ口から湯気が噴き出し始めた。
ヴィルヘルムはハーブの入ったティーポットに湯を注いだ。
ガラスのティーボットの中身がよく見え、注がれた湯でハーブが踊っているのがわかる。
「なにそれ? 不思議な匂いだね。レモン? でもレモンは入ってないし……」
ふわりと立ち上がるハーブティー独特の香りに、ジェッドはソーセージを齧りながら少しだけ首を傾げる。
「ハーブティーさ。こういうのは初めてかい?」
ティーポットの中で乾燥していたハーブの葉が開いていくのを物珍しそうに眺めるジェッドに尋ねると、ジェッドはティーポットを凝視したまま頷いた。
そんなジェッドの様子を見て、彼の分のカップも用意しようと立ち上がった時、再び入り口の方から誰かの声が聞こえてきた。
「お二人とも、こんな遅くに何をしているのですか?」
深夜の見回りでもしていたのだろうか。ランプを片手に携えたメレンが顔を覗かせた。
「ええっと、夜食中?」
先にメレンと目が合ったジェッドが答える。
「そうでしたか。ヴィルヘルムも?」
「そんなところだ。メレンは見回りか?」
「ええ。この図書館にはまだ謎の部分が多く、危険がいつやって来るかわかりませんので」
「君達でもわからないところがあるのかい?」
「はい。我々アコライトも皆様と同じで、ただこの場所へ導かれただけに過ぎませんから」
メレンの言葉にヴィルヘルムは少しだけ目を見開いた。かつてアコライト達が聖女の従者であった頃と同様、この周辺のことは大なり小なり把握していると考えていたからだ。
「前みたいに色々答えてくれなくてヘンだなとは思ってたけど、なるほどなあ」
ジェッドが納得したように頷く。
「申し訳ありません。では、見回りの続きをしなければなりませんので」
言葉通りの表情でメレンは眉を下げた。その顔に思うところがあったのか、ヴィルヘルムは立ち去ろうとするメレンを呼び止めた。
「待ってくれ、メレン。少し休憩しないか? あー、その、もし飲めるならハーブティーでもどうだろう」
「そうですね、いただきます。機能としては一応備えていますし」
「お菓子もあるよ!」
ヴィルヘルムの淹れたハーブティー、ジェッドの用意したお菓子が揃い、男三人での小さなお茶会が開始された。
「レモンが入ってないのにレモンっぽい感じがする」
「こういうものを『良い香り』と言うのですね」
「ああ、そうだね。それに、この香りにはリラックス効果があるとも言われている。寝つきが良くなるかもしれないな」
「へえ、面白いね」
真夜中にハーブティーと茶菓子を嗜むという、日常とは違う行為。それが、少しだけ三人の気分を昂揚させる。
普段あまり会話をすることのない三人だが、この日ばかりは上擦った声色で会話が弾んだ。
『クロニクル』での戦いが嘘のような、ゆっくりとした時間が流れている。
ヴィルヘルムは、この時間の流れ方を失いたくはないなと感じ始めていた。
その日以降、ヴィルヘルムは何日置きかに一度くらいの頻度で、真夜中の厨房でハーブティーを淹れるようになった。
誰かと共にティータイムに興じることもあれば、一人で色々なハーブを調合して味を確かめることもあった。
かつて植物園で働いていた時のような、穏やかな時間がそこにはあった。
――普段の厨房は戦士達が食事を求めて行き交うが、夜が更けると明かりが落とされる静かな場所だ。
――そんな場所に、今宵も何らかの理由で誰かがひっそりと訪れる。
「む……?」
「これは殿下。どうされましたか?」
「いや、少しばかり寝付けないだけだ。お前達は何をしている?」
「ヴィルヘルムにお茶を入れてもらってたのよ。彼、とても上手よ」
マルグリッドがヴィルヘルムとグリュンワルドを交互に見やり、微かな笑みを溢す。
「そうか……」
「殿下もいかがですか?」
「……いただこう」
真夜中に明かりが漏れている厨房を訪れると、そこでは柔らかな笑みを湛えた青年が、疲れた戦士と共に密やかなティータイムを過ごしているという。
「―了―」
「ふーむ……」
目の前に置かれた乾燥ハーブの山を見て、ヴィルヘルムは一人で唸っていた。
戦士たちを受け入れる巨大図書館『ウラニエンボルク』には、様々な物資が数週間おきに運ばれてくる。
地上へ戻った戦士達は、一部を除いて、星幽界に存在していた時とは違って食事と睡眠を必要とするようになった。まさに生身といえる状態に戻ったのだ。
そういった戦士達に対して、アコライト達は食料や嗜好品など、生活に必要な様々な物資を定期的に配ってくれた。
どういった原理、法則なのかはわからない。しかし、飲食店などで使うような大袋入りのものから丁寧に包装が施された贈答品のようなものまで、様々なものが存在する。
いつどんな時代から、どういった手段で運ばれてくるのか。アコライト達に説明を求めていたが、彼らも詳細は知らないようで、曖昧に誤魔化されて終わるだけだった。
ここ最近になって運ばれてきた物資の中に、大量の乾燥ハーブが詰められた袋があった。
他の物資と同様小分けにされた贈答品のようなものから業者が扱うような大袋に入っているものまで、形状、容量共に様々で、基準は不明といってもよかった。
こういったものはヴィルヘルムが扱うのが適当であろうと、アコライト達から管理を一任されたのはつい先日のことだ。
かつて薬草栽培から管理までを生業としていた身のため、アコライトの判断は正しいといえた。
しかし、問題はこのハーブの山をどうやって消費するかである。
料理の風味付けに使うものはすでに厨房へ運ばれており、いま手元に残っているのはハーブティーや芳香剤として使うようなものだけだ。
ヴィルヘルム自身は好んでハーブティーを飲むが、それは好き嫌いの分かれやすい嗜好品である。
芳香剤として使うにしても、そういったものを好む者が戦士の中にどれだけ存在するかもわからない。
香水の代用品として使うにも、香りの種類がバラバラのために、おいそれと勧めることはできない。
個人的なことを言ってしまえば、美味しいものはより美味しく、良い香りのものはよりよく、それを好む者に使ってもらいたい。
せっかく送られてきたものだ。効果的に使用したいと思うのは、栽培者としての心意気とも言うべきだろうか。
「……さて、どうするかな」
ある日の深夜、『クロニクル』での戦闘を終えたヴィルヘルムは、綺麗にラッピングされた小袋を片手に厨房に立っていた。
戦闘直後の精神状態を引き摺ってしまっていたため、ハーブティーを飲んで気分を落ち着けようと考えたのだ。
ケトルを火にかけて湯が沸くのをじっと待つ間、ヴィルヘルムはぼんやりと『クロニクル』での戦闘を振り返っていた。
『クロニクル』の内側で行われたことは、多元世界を混沌へ陥れようと願う何者との戦いであった。
それ故、対峙する魔物は星幽界にいた魔物に勝るとも劣らないほどに凶悪であり、狡猾だ。導き手の指示や戦術を用いて善戦するも、怪我を負うことが少なくなかった。
だが、次元干渉が何らかの作用を及ぼすのか、傷についてはこの図書館へ戻ってくればすぐさま癒えた。
しかし、戦闘を行ったという記憶や感情は、当然消えることはない。精神的な高揚感や倦怠感については、図書館に戻ってきたとしても、傷のようにすぐ平常時に戻るわけではなかった。
「以前はどうしていたのやら……」
ロンズブラウ軍に従軍していた頃は、ハーブティーに頼ることはなかった。では、どうやって気分を落ち着いていたのだったか。
安易な解決方法があればそちらに流され、以前の状況を思い出せなくなってしまうとは。
何とも困ったものであると、少しだけ自嘲した。
ぼんやりと湯が沸くのを待っていると、ふいに厨房の入り口から声がした。
「こんな時間に何してるの?」
ジェッドだった。彼はお腹をさすりながら入ってくると、まっすぐに食料の貯蔵されている棚へと向かう。
「やあ、ジェッド。こんばんは。ちょっと寝付けなくてね。君はどうしたんだ?」
「なんか腹が減っちゃってさー。ヴィルヘルムも?」
「そうだな、似たようなものさ」
ジェッドがテーブルの上に菓子やソーセージなど、調理の必要がない食料を置く。それと同時くらいに、ケトルの注ぎ口から湯気が噴き出し始めた。
ヴィルヘルムはハーブの入ったティーポットに湯を注いだ。
ガラスのティーボットの中身がよく見え、注がれた湯でハーブが踊っているのがわかる。
「なにそれ? 不思議な匂いだね。レモン? でもレモンは入ってないし……」
ふわりと立ち上がるハーブティー独特の香りに、ジェッドはソーセージを齧りながら少しだけ首を傾げる。
「ハーブティーさ。こういうのは初めてかい?」
ティーポットの中で乾燥していたハーブの葉が開いていくのを物珍しそうに眺めるジェッドに尋ねると、ジェッドはティーポットを凝視したまま頷いた。
そんなジェッドの様子を見て、彼の分のカップも用意しようと立ち上がった時、再び入り口の方から誰かの声が聞こえてきた。
「お二人とも、こんな遅くに何をしているのですか?」
深夜の見回りでもしていたのだろうか。ランプを片手に携えたメレンが顔を覗かせた。
「ええっと、夜食中?」
先にメレンと目が合ったジェッドが答える。
「そうでしたか。ヴィルヘルムも?」
「そんなところだ。メレンは見回りか?」
「ええ。この図書館にはまだ謎の部分が多く、危険がいつやって来るかわかりませんので」
「君達でもわからないところがあるのかい?」
「はい。我々アコライトも皆様と同じで、ただこの場所へ導かれただけに過ぎませんから」
メレンの言葉にヴィルヘルムは少しだけ目を見開いた。かつてアコライト達が聖女の従者であった頃と同様、この周辺のことは大なり小なり把握していると考えていたからだ。
「前みたいに色々答えてくれなくてヘンだなとは思ってたけど、なるほどなあ」
ジェッドが納得したように頷く。
「申し訳ありません。では、見回りの続きをしなければなりませんので」
言葉通りの表情でメレンは眉を下げた。その顔に思うところがあったのか、ヴィルヘルムは立ち去ろうとするメレンを呼び止めた。
「待ってくれ、メレン。少し休憩しないか? あー、その、もし飲めるならハーブティーでもどうだろう」
「そうですね、いただきます。機能としては一応備えていますし」
「お菓子もあるよ!」
ヴィルヘルムの淹れたハーブティー、ジェッドの用意したお菓子が揃い、男三人での小さなお茶会が開始された。
「レモンが入ってないのにレモンっぽい感じがする」
「こういうものを『良い香り』と言うのですね」
「ああ、そうだね。それに、この香りにはリラックス効果があるとも言われている。寝つきが良くなるかもしれないな」
「へえ、面白いね」
真夜中にハーブティーと茶菓子を嗜むという、日常とは違う行為。それが、少しだけ三人の気分を昂揚させる。
普段あまり会話をすることのない三人だが、この日ばかりは上擦った声色で会話が弾んだ。
『クロニクル』での戦いが嘘のような、ゆっくりとした時間が流れている。
ヴィルヘルムは、この時間の流れ方を失いたくはないなと感じ始めていた。
その日以降、ヴィルヘルムは何日置きかに一度くらいの頻度で、真夜中の厨房でハーブティーを淹れるようになった。
誰かと共にティータイムに興じることもあれば、一人で色々なハーブを調合して味を確かめることもあった。
かつて植物園で働いていた時のような、穏やかな時間がそこにはあった。
――普段の厨房は戦士達が食事を求めて行き交うが、夜が更けると明かりが落とされる静かな場所だ。
――そんな場所に、今宵も何らかの理由で誰かがひっそりと訪れる。
「む……?」
「これは殿下。どうされましたか?」
「いや、少しばかり寝付けないだけだ。お前達は何をしている?」
「ヴィルヘルムにお茶を入れてもらってたのよ。彼、とても上手よ」
マルグリッドがヴィルヘルムとグリュンワルドを交互に見やり、微かな笑みを溢す。
「そうか……」
「殿下もいかがですか?」
「……いただこう」
真夜中に明かりが漏れている厨房を訪れると、そこでは柔らかな笑みを湛えた青年が、疲れた戦士と共に密やかなティータイムを過ごしているという。
「―了―」