星星、愛心、圓形、花朵、四角形。
在那本書裡,有各種形狀的巧克力餅乾和點心
因為太在意那可愛的封面,讓多妮妲忍不住拿了起來,才知道這本書原來不是繪本,而是製作點心用的食譜。
「好可愛……」
雖然不是繪本讓多妮妲多少有點失望,隨意翻閱後,發現在書裡有著像蠟筆描繪般的各種可愛且裝飾複雜的點心糕點們。
那些點心的畫,縱使不是繪本也足以引起多妮妲的興趣。
多妮妲想要找個能夠舒服坐下的地方來好好閱讀這本書,然後離開了為戰士們開放的圖書館。
來到了有著玻璃天花板的入口大廳。
從這個地方能夠透過玻璃看到整個天空,讓人無法想像這棟建築外面,竟然是個到處荒廢而且什麼都沒有的世界。
在星幽界通過重重嚴苛考驗的戰士們,等待著他們的卻只是『虛無』。
當大家陷入絕望的深淵時,引導者聽到了不可思議的聲音,循著那聲音找到的,就是這一棟被玻璃所環繞的巨大建築物。
這個巨大建築物被稱為『烏拉尼恩伯魯克』圖書館。
在這裡收藏著的編年史--Chronicle--,不是現在多妮妲拿在手裡拿的紙製書本,而是匯集人類歷史與世界各地事物的特殊物品。
但是,『編年史』被謹慎收藏在了上了鎖的屋裡嚴格地管制著,就連引導者如果沒有『監視者』的邀請,也無法進入那個房間。
多妮妲雖然作為引導者的侍從曾進去過保存『編年史』的房間,但那時是被帶進了『編年史』的內側,與魔物們展開了戰鬥。
坐在擺放在大廳角落的沙發上,多妮妲打開了食譜。
雖然不清楚書上的內容,但光是看那手繪的點心就相當有趣了。
對於不需要進食的多妮妲,博士是不會將這類的知識傳輸給她的。
「哦,真稀奇。你竟然對點心食譜有興趣?」
不知道是太閒還是怎樣,正在大廳裡閒晃的希拉莉向我搭話。
自從跟隨引導者以來,除了一起戰鬥外平時幾乎毫無關聯的對象,讓多妮妲警戒了起來。
「……怎樣,不行嗎?」
「我沒說不行啊。啊,而且這個,不是高手看的嗎。」
剛好多妮妲打開的那一頁,畫著巧克力蛋糕上放著翻糖做出的蝴蝶結,以及雕刻很漂亮的草莓。
看到那一頁內容,讓希拉莉忍不住「哇」的發出聲音。
這個人似乎明白,多妮妲所無法理解的食譜內容。因此引起了多妮妲的興趣。
「這個有那麼難嗎?」
稍微緩和一下態度,選擇能讓人留下好印象的詞語。如果在這時用像對待雪莉那樣冷漠的態度,恐怕就會錯失了解這點心的機會了。
「嗯,對啊。要怎麼說才好,我想想。像這個做工精巧的雖然看起來很漂亮,但做起來非常困難呢。」
「哦,每一個看起來都好可愛,就是因為作法很困難又很花心思嗎。」
「也不是都很難才會可愛。等等,我想想看哦……」
看到不知道該怎麼解釋的希拉莉,多妮妲默默地把食譜遞給她。
希拉莉拿起書,快速地翻起來。
「啊,有了有了。」
說完翻給我看的是,前半部的頁面,在圓形巧克力上鋪著水果乾做成的巧克力點心。
「像這樣的畫就蠻簡單的,只要把巧克力加熱融化,再放上水果乾就差不多完成了。」
「是喔。簡單卻那麼漂亮,真是有趣。」
「材料準備起來也很方便,試著做看看或許很好玩。」
「我也做得出來嗎?」
因為多妮妲不需要進食所以當然也沒做過菜,但是在繪本中看過登場人物們做菜的畫面,所以從以前就一直很感興趣。
就連進食這個行為本身,博士也只告訴多妮妲這是一個單純的機能而已。
「只要照著這裡寫的做就可以了。」
「那,我現在就來試試看,教我怎麼做。反正人偶小姐也還沒回來所以很閒,有好幾個地方的說明我都看不懂。」
「我也只懂一點點而已,而且--」
「總比連食譜都看不懂的我一個人來做,好多了吧。」
「……呃,知道啦。那,我去問問侍者廚房在哪裡吧。」
希拉莉嘆了一口氣後,就投降般地舉起雙手。
在侍者帶領到的廚房裡,大多數的東西都齊全。
因為返回地上的戰士們需要進食,所以材料什麼的也都有存貨。
而零食那些,也準備了市售的巧克力與水果乾等等。
「咦,巧克力用這個就可以了嗎?不是要從可可豆做出來的嗎?我在繪本上有看過。」
看著照著食譜內容準備的材料,多妮妲歪著頭提問。手上拿著的是外包裝設計有些老舊,一口尺寸的巧克力。
「那種需要專家跟機器才能做,因為我們是初學者,好好運用市售的東西就可以了。」
「這麼說來,這本書沒有介紹水果乾和巧克力的做法耶。」
「因為要做水果乾,還需要其他步驟。如果要從新鮮水果開始做的話,時間有多少都不夠用。」
「原來如此。」
光看繪本不太清楚調理和步驟。實際做做看的話,可能會有跟閱讀繪本時不一樣的樂趣。
多妮妲邊這麼想,邊照著希拉莉所教的步驟去做。
希拉莉的教法有別於她在戰鬥時那麼地勇猛粗暴,而是相當謹慎仔細。
面對多妮妲一連串的大量問題,也都仔細回答而且簡單明瞭,多妮妲感到相當意外。
「差不多就是這樣。」
「這成果比我想像中的好。」
花費了兩小時左右,做出了跟書上很像的巧克力點心。
初次成功的體驗,讓多妮妲內心感到很興奮。
「真是意外,我竟然也能做出點心」
「嗯,也是,出乎意料外的順利。」
多妮妲拿起一個剛做好的巧克力點心,放進嘴裡。
雖然多妮妲從來沒有使用過的味覺感應,不過還是正常發揮機能,那酸酸甜甜的感覺傳達到多妮妲的電子頭腦裡。
這就是巧克力點心嗎。多妮妲在心裡感到認同,覺得難怪啊,的確像是女性人類會喜歡上的食物啊。
將視線移到了希拉莉上,發現她並不打算試吃看看巧克力點心。
「妳不吃嗎?」
「啊,嗯~……我沒關係。如果吃不完的話就跟人偶一起吃,或是送給其他人也可以。」
希拉莉看起來有點困擾的回答道。
雖然覺得她怪怪的,但是自己和她有各自的目的,而且還在為此戰鬥著。
如果因為目的相衝的話,也有可能要跟她刀劍相向。
要是太了解對方的事情,等到要敵對時會因此猶豫下不了手的話,就麻煩了。所以決定還是不要問了。
從以前就有各種交流的人就算了,本來,就不應該輕易跟她有什麼關聯才對。
「是喔。那,就這麼辦吧。」
「不好意思。那,我先走了。」
「嗯,謝謝。」
希拉莉舉起單手回應多妮妲的答謝,就那樣離開了廚房。
留下的多妮妲,又拿了一個巧克力點心放進嘴裡。
恰當的甜度支配著整個嘴裡,對自動人偶的自己似乎有點太過刺激。這令人不習慣的刺激,雖然警戒程度很低,但是也足以使多妮妲的電子頭腦發出警戒信號了。
「剩下的,就隨便塞給人偶小姐他們吧。」
為什麼人類會喜歡這樣甜點的呢,也順便問問看他們吧。
或許就能理解,電子頭腦為什麼會發出低程度的警戒信號。
多妮妲邊這麼想著,邊開始將巧克力點心簡單的包裝起來。
「-完-」
「チョコレート色の警戒信号」
星、ハート、丸、花、四角。
その本には、様々な形をしたチョコレート菓子や焼き菓子が載っていた。
表紙のかわいらしさが気になってドニタが手に取った本は、絵本ではなく製菓用のレシピが書かれた本だった。
「可愛い……」
絵本ではなかったと多少落胆したものの、興味本位で読み進めると、そこにはなんとも可愛らしく複雑な装飾が施された様々な菓子達が、色鉛筆のようなタッチで描かれていた。
その菓子の絵は、絵本でなくともドニタの気を惹くには十分であった。
どこかゆったりと座れる場所でこの本を眺めよう。ドニタはそう考え、戦士達に開放されている蔵書室を後にした。
天井がガラス張りになっているエントランスホールまでやって来た。
この場所からガラス越しに空を見ている限りでは、建物の外が荒廃しきって何もない世界であるということは想像できない。
星幽界での苛酷な試練を乗り越えた戦士達を待ち受けていたのは、『虚無』だった。
皆が絶望の淵に沈んだが、導き手が不思議な声を耳にし、その声に導かれるままに進んで辿り着いたのが、このガラスのドームに囲われた巨大な建物であった。
ここに収められている年代記――クロニクル――は、いまドニタが手にしているような紙の本ではなく、人類の歴史や世界そのものを収めた、特殊なものである。
しかし、その『クロニクル』が格納されている部屋は施錠の上で厳重に保管されており、導き手でさえも、自分たちを呼んだ『監視者』によって誘われない限りは、その部屋へ入ることはできない。
ドニタは導き手の供人として『クロニクル』のある部屋へ入ったことがあるが、その時は『クロニクル』の内側へと導かれ、魔物達との戦いを繰り広げたのだった。
エントランスの片隅にあったソファに座ると、ドニタはレシピ本を開く。
書かれている内容はわからないが、描かれている菓子をただ眺めるだけで十分に楽しめた。
食事を必要としないドニタに対し、ドクターはこういった類の知識を入れてくれなかった。
「お、珍しいな。お菓子のレシピなんかに興味があったのか?」
手持ち無沙汰なのか、エントランスをうろうろしていたシラーリーが声を掛けてきた。
導き手に連れられて戦う以外では殆ど関わりを持たない相手だけに、ドニタは警戒する。
「……何よ。悪い?」
「悪いとか言ってないだろ。あ、しかもそれ、結構上級者向けのじゃねえか」
ちょうどドニタが開いていたページには、チョコレートケーキの上にリボン状の飴細工や飾り切りの施された苺が乗っている菓子が描かれていた。
そのページの内容を見たシラーリーが「うわあ」と声を上げる。
この人物はドニタが理解できないレシピの内容がわかるらしい。そのことがドニタの興味を惹いた。
「そんなに難しいの?」
態度を少し和らげて、人当たりの良さそうな言葉を選ぶ。ここでシェリに対するようなつんけんした態度を取っては、この菓子を理解する機会を逃してしまう恐れがあった。
「あー、そうだな。えーと、うん。そういう凝った細工とかは見栄えがするけど、作るのがすごく難しいんだ」
「へえ。どれも可愛く見えるのは、難しくて凝ってるからってこと?」
「そういう訳でもないけどよ。えーっと、そうだな……」
言葉に迷うシラーリーに、ドニタはレシピ本を無言で差し出す。
シラーリーはそれを手に取ると、ぱらぱらとページを捲った。
「ああ、あったあった」
そういって見せられたのは、最初の方のページであった、丸いチョコっレートの上にドライフルーツが乗っているチョコ菓子であった。
「こういう奴は簡単だな。チョコレートも溶かすだけ、ドライフルーツも載せるだけって感じだ」
「へえ。簡単なのに綺麗ね。面白いわ」
「材料も手頃だし、作ってみるのも楽しいかもな」
「ワタシでも作れるかしら?」
食事の必要が無いために料理をしたことはないが、絵本の中で登場人物達が料理をしているシーンを見て、ずっと以前から興味自体はあったのだ。
食べるという行為自体も、機能として存在するとドクターに教えられていた。
「ここに書いてある通りにやればな」
「じゃあ、これから作ってみるからやり方教えて。お人形さんもまさ戻ってこないから暇だし、わからない説明がいくつもあるの」
「オレだってやり方が少しわかるだけだぞ。それに――」
「レシピが読まないワタシ一人でやるより、全然マシだわ」
「……うーん、わかったよ。じゃあ、アコライトに厨房の場所を聞いてみようぜ」
シラーリーは一つ溜息をはくと、降参したように手をあげた。
アコライトに案内された厨房には、大体のものが揃っていた。
地上に戻った戦士達は食事を必要とするため、材料なども確保されているのだという。
チョコレートやドライフルーツなども、嗜好品として市販品が用意されていた。
「あら、チョコレートはこれでいいの? カカオから作るものなんじゃないの? 絵本で読んだことがあるわ」
レシピの内容通りに並べられた材料を見て、ドニタは首を傾げる。手に取ったのは、やや古めかしいパッケージに包まれた一口サイズのチョコレートだ。
「そういったのはプロや機械がやる場合。オレ達は初心者だから、市販のものを上手く使うのさ」
「そういえば、この本にはドライフルーツの作り方やチョコレートそのものの作り方は書いてないわね」
「ドライフルーツ一つ作るのだって、また別の作業が必要だからな。生の果物から作ってたんじゃ、いくら時間があっても足りないぜ」
「そういうものなのね」
絵本だけでは調理や作業の工程まではわからない。実際にやってみることで、改めて絵本を読んだ時に違った面白さが出てくるかもしれない。
そんなことを思いながら、ドニタはシラーリーに教えられるがままに作業を進めていった。
シラーリーの教え方は戦闘時の勇猛さ、粗雑さにそぐわず、非常に穏やかで丁寧なものだった。
ドニタの質問攻めにもわかりやすく丁寧に答える姿に、ドニタは意外なものを見たような気がした。
「こんなもんだろ」
「我ながら上出来ね」
二時間ほどで、本に載っているのとよく似たチョコレート菓子が出来上がった。
初めての体験で成功したというのは、ドニタの胸を高鳴らせた。
「意外ね。こんなこともできるんだ」
「まあ、な。案外うまくいくもんだな」
ドニタは出来上がったチョコレート菓子を一つつまむと、口の中へ放り込んだ。
今まで一度も使ったことがない味覚センサーが、一応のところ正常に機能し、ドニタの電子頭脳に甘酸っぱいという感覚を伝える。
これがチョコレート菓子というものなのかと、ドニタは一人納得する。確かに、人間の女性が好んで食べるのもわかる気がした。
シラーリーに視線を移すと、彼女はチョコレート菓子を手に取ろうともしていなかった。
「アナタは食べないの?」
「あ、あー……オレはいい。食べきれないなら人形と一緒に食べるか、他の誰かにやってくれ」
シラーリーは言い淀むようにして返した。
不思議に思ったが、自分も彼女もそれぞれ別に目的があり、まだ戦いの最中にいるのだ。
その目的同士が衝突したとき、彼女と刃を交える可能性もあるだろう。
あまり相手の事情を知っても、いざ敵対した時に刃が鈍っては困ると考え、深入りはやめることにした
前々から交流のあった者ならともかく、本当なら、彼女に対して安易に関わるべきではなかったのかもしれない。
「そう。じゃ、そうするわ」
「悪いな。じゃ、オレはもう行くわ」
「ええ、ありがとう」
シラーリーはドニタの言葉に片手をあげて答えると、そのまま厨房を立ち去った。
残されたドニタは、もう一つチョコレート菓子を口に放り込む。
適度な甘さが口を支配するが、自動人形の自分には少し過剰な刺激かもしれない。この慣れない刺激は、低レベルではあるが、ドニタの電子頭脳が警戒信号を発するほどだ。
「さて、あとは適当にお人形さん達にでも押し付けましょうか」
どうしてこういった甘い物を好む人間がいるのか、押し付ける相手に尋ねてみよう。
電子頭脳が発する低レベルの警戒信号の意味もわかるかもしれない。
そう考えながら、ドニタは簡単なラッピングをチョコレート菓子に施す作業に入るのだった。
「―了―」
星、ハート、丸、花、四角。
その本には、様々な形をしたチョコレート菓子や焼き菓子が載っていた。
表紙のかわいらしさが気になってドニタが手に取った本は、絵本ではなく製菓用のレシピが書かれた本だった。
「可愛い……」
絵本ではなかったと多少落胆したものの、興味本位で読み進めると、そこにはなんとも可愛らしく複雑な装飾が施された様々な菓子達が、色鉛筆のようなタッチで描かれていた。
その菓子の絵は、絵本でなくともドニタの気を惹くには十分であった。
どこかゆったりと座れる場所でこの本を眺めよう。ドニタはそう考え、戦士達に開放されている蔵書室を後にした。
天井がガラス張りになっているエントランスホールまでやって来た。
この場所からガラス越しに空を見ている限りでは、建物の外が荒廃しきって何もない世界であるということは想像できない。
星幽界での苛酷な試練を乗り越えた戦士達を待ち受けていたのは、『虚無』だった。
皆が絶望の淵に沈んだが、導き手が不思議な声を耳にし、その声に導かれるままに進んで辿り着いたのが、このガラスのドームに囲われた巨大な建物であった。
ここに収められている年代記――クロニクル――は、いまドニタが手にしているような紙の本ではなく、人類の歴史や世界そのものを収めた、特殊なものである。
しかし、その『クロニクル』が格納されている部屋は施錠の上で厳重に保管されており、導き手でさえも、自分たちを呼んだ『監視者』によって誘われない限りは、その部屋へ入ることはできない。
ドニタは導き手の供人として『クロニクル』のある部屋へ入ったことがあるが、その時は『クロニクル』の内側へと導かれ、魔物達との戦いを繰り広げたのだった。
エントランスの片隅にあったソファに座ると、ドニタはレシピ本を開く。
書かれている内容はわからないが、描かれている菓子をただ眺めるだけで十分に楽しめた。
食事を必要としないドニタに対し、ドクターはこういった類の知識を入れてくれなかった。
「お、珍しいな。お菓子のレシピなんかに興味があったのか?」
手持ち無沙汰なのか、エントランスをうろうろしていたシラーリーが声を掛けてきた。
導き手に連れられて戦う以外では殆ど関わりを持たない相手だけに、ドニタは警戒する。
「……何よ。悪い?」
「悪いとか言ってないだろ。あ、しかもそれ、結構上級者向けのじゃねえか」
ちょうどドニタが開いていたページには、チョコレートケーキの上にリボン状の飴細工や飾り切りの施された苺が乗っている菓子が描かれていた。
そのページの内容を見たシラーリーが「うわあ」と声を上げる。
この人物はドニタが理解できないレシピの内容がわかるらしい。そのことがドニタの興味を惹いた。
「そんなに難しいの?」
態度を少し和らげて、人当たりの良さそうな言葉を選ぶ。ここでシェリに対するようなつんけんした態度を取っては、この菓子を理解する機会を逃してしまう恐れがあった。
「あー、そうだな。えーと、うん。そういう凝った細工とかは見栄えがするけど、作るのがすごく難しいんだ」
「へえ。どれも可愛く見えるのは、難しくて凝ってるからってこと?」
「そういう訳でもないけどよ。えーっと、そうだな……」
言葉に迷うシラーリーに、ドニタはレシピ本を無言で差し出す。
シラーリーはそれを手に取ると、ぱらぱらとページを捲った。
「ああ、あったあった」
そういって見せられたのは、最初の方のページであった、丸いチョコっレートの上にドライフルーツが乗っているチョコ菓子であった。
「こういう奴は簡単だな。チョコレートも溶かすだけ、ドライフルーツも載せるだけって感じだ」
「へえ。簡単なのに綺麗ね。面白いわ」
「材料も手頃だし、作ってみるのも楽しいかもな」
「ワタシでも作れるかしら?」
食事の必要が無いために料理をしたことはないが、絵本の中で登場人物達が料理をしているシーンを見て、ずっと以前から興味自体はあったのだ。
食べるという行為自体も、機能として存在するとドクターに教えられていた。
「ここに書いてある通りにやればな」
「じゃあ、これから作ってみるからやり方教えて。お人形さんもまさ戻ってこないから暇だし、わからない説明がいくつもあるの」
「オレだってやり方が少しわかるだけだぞ。それに――」
「レシピが読まないワタシ一人でやるより、全然マシだわ」
「……うーん、わかったよ。じゃあ、アコライトに厨房の場所を聞いてみようぜ」
シラーリーは一つ溜息をはくと、降参したように手をあげた。
アコライトに案内された厨房には、大体のものが揃っていた。
地上に戻った戦士達は食事を必要とするため、材料なども確保されているのだという。
チョコレートやドライフルーツなども、嗜好品として市販品が用意されていた。
「あら、チョコレートはこれでいいの? カカオから作るものなんじゃないの? 絵本で読んだことがあるわ」
レシピの内容通りに並べられた材料を見て、ドニタは首を傾げる。手に取ったのは、やや古めかしいパッケージに包まれた一口サイズのチョコレートだ。
「そういったのはプロや機械がやる場合。オレ達は初心者だから、市販のものを上手く使うのさ」
「そういえば、この本にはドライフルーツの作り方やチョコレートそのものの作り方は書いてないわね」
「ドライフルーツ一つ作るのだって、また別の作業が必要だからな。生の果物から作ってたんじゃ、いくら時間があっても足りないぜ」
「そういうものなのね」
絵本だけでは調理や作業の工程まではわからない。実際にやってみることで、改めて絵本を読んだ時に違った面白さが出てくるかもしれない。
そんなことを思いながら、ドニタはシラーリーに教えられるがままに作業を進めていった。
シラーリーの教え方は戦闘時の勇猛さ、粗雑さにそぐわず、非常に穏やかで丁寧なものだった。
ドニタの質問攻めにもわかりやすく丁寧に答える姿に、ドニタは意外なものを見たような気がした。
「こんなもんだろ」
「我ながら上出来ね」
二時間ほどで、本に載っているのとよく似たチョコレート菓子が出来上がった。
初めての体験で成功したというのは、ドニタの胸を高鳴らせた。
「意外ね。こんなこともできるんだ」
「まあ、な。案外うまくいくもんだな」
ドニタは出来上がったチョコレート菓子を一つつまむと、口の中へ放り込んだ。
今まで一度も使ったことがない味覚センサーが、一応のところ正常に機能し、ドニタの電子頭脳に甘酸っぱいという感覚を伝える。
これがチョコレート菓子というものなのかと、ドニタは一人納得する。確かに、人間の女性が好んで食べるのもわかる気がした。
シラーリーに視線を移すと、彼女はチョコレート菓子を手に取ろうともしていなかった。
「アナタは食べないの?」
「あ、あー……オレはいい。食べきれないなら人形と一緒に食べるか、他の誰かにやってくれ」
シラーリーは言い淀むようにして返した。
不思議に思ったが、自分も彼女もそれぞれ別に目的があり、まだ戦いの最中にいるのだ。
その目的同士が衝突したとき、彼女と刃を交える可能性もあるだろう。
あまり相手の事情を知っても、いざ敵対した時に刃が鈍っては困ると考え、深入りはやめることにした
前々から交流のあった者ならともかく、本当なら、彼女に対して安易に関わるべきではなかったのかもしれない。
「そう。じゃ、そうするわ」
「悪いな。じゃ、オレはもう行くわ」
「ええ、ありがとう」
シラーリーはドニタの言葉に片手をあげて答えると、そのまま厨房を立ち去った。
残されたドニタは、もう一つチョコレート菓子を口に放り込む。
適度な甘さが口を支配するが、自動人形の自分には少し過剰な刺激かもしれない。この慣れない刺激は、低レベルではあるが、ドニタの電子頭脳が警戒信号を発するほどだ。
「さて、あとは適当にお人形さん達にでも押し付けましょうか」
どうしてこういった甘い物を好む人間がいるのか、押し付ける相手に尋ねてみよう。
電子頭脳が発する低レベルの警戒信号の意味もわかるかもしれない。
そう考えながら、ドニタは簡単なラッピングをチョコレート菓子に施す作業に入るのだった。
「―了―」