二八三七年,羅占布爾克第十二階層蘇巴斯地區爆發了自動人偶叛亂。
就此,讓世界陷入了混亂之中。
一直以來控管災害跟疫病的統治局,卻無法收拾這個狀況。
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邊聽著自動人偶的叛亂都已經變成日常化的新聞,古斯塔夫大大地嘆了一口氣。
「果然啊」
「這下就證明了你的預測是正確的了。以前說你的論文是妄想並拋棄掉的統治局那些人,現在不知道是什麼表情」
擔任古斯塔夫秘書官的克洛維斯,邊苦笑邊回答道。
克洛維斯原本是一位優秀的國家保安局員,自從得知統治局執行控管市民的真相之後,就成了古斯塔夫的同志。
自從成為古斯塔夫的同志之後雖然已經過了數十年,因為成了古斯塔夫的專屬秘書官,所以也能定期接受保養,外貌還是一樣維持在三十五歲左右。
「那種小事,統治局早就已經忘了吧。那些傢伙們只要曾經判斷過是沒用的東西,就會當作不存在」
在自動人偶群起叛亂之前,古斯塔夫就發表過一篇論文。
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古斯塔夫在葛爾死後,分析了黃金時代技術者們留下來的研究資料,比對了一下現在的世界情況。比對之後,導出了一個恐怖的預測。
──由蕾格烈芙完全控制的治世。
──由格雷巴赫創造出的,陪伴人類的自動人偶。
──由梅爾基奧證實的,混沌元素能源的活用。
這些事雖然確實帶來了人類的繁榮,但是,同時也造成了人類放棄思考,最後停滯甚至是衰退的到來不是嗎。
這就是預測的內容。
讓這些預測轉變成確信的,是格雷巴赫在二八一四年,他去世前幾個月發表的論文。
那份論文的研究內容,寫到了讓自動人偶擁有跟人類一樣的思考能力,並且擁有自發性創造事物的可能性。
古斯塔夫看完那份論文之後,加速了古斯塔夫對人類衰退的危機感。
在蕾格烈芙治理下而放棄思考的人類,假設靠自我意志去思考行動的自動人偶叛亂的話,人類幾乎不可能應付得了。
那麼,如果就這樣使用格雷巴赫的論文研究或製造自動人偶的話,不就危險了嗎。
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古斯塔夫發表的論文對這些事都已經列出了假設,但是,這個論文被統治局斷言為危險的言論,之後,古斯塔夫也被視為是異類。
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「狀況演變成這個局面,就跟他國向我們發動戰爭是一樣的了」
螢幕內,正放映著人類和自動人偶激烈對抗的樣子。
「他們是想主張,自動人偶與人類同等嗎」
「自動人偶如果可以自己思考的話,就已經可以算是另一個生物了。要說他們跟我們有什麼不同,就只有身體是無機物還是有機物的差別了」
「而且自動人偶是仿人類做出來的,所以從某個意義上來看,已經跟人類沒有什麼不同了。甚至該說他們身體是機器做的,還比人類堅固優秀……」
「事情演變到這個地步,他們已經純粹變成了人類的威脅了」
關掉正播放著暴動情況的螢幕電源,古斯塔夫站了起來。
「走吧,做我們該做的事」
古斯塔夫不認為自己所發表的論文觀點是錯的。
並且認為既然統治局無視的話,就只好靠他們自己為了即將到來的時刻,預先做好萬全的準備是很重要的。
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古斯塔夫決定在南方鄉下的魯貝斯地區,買了一塊廣大的土地,設立了一間投入了最新設備的研究設施。
住家兼研究所的設施完成後,古斯塔夫就把現在的住家給解體,啟程離開了熟悉的中央。
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將生活跟主要研究都移轉到魯貝斯幾日後,同期的格蘭特突然來訪。
葛爾死後,在定期會議中遇到格蘭特時,多少有交談,但是沒有以前那麼頻繁了。
古斯塔夫很驚訝變得疏遠的同期突然來訪,但是本來也是交情深厚的對象,乾脆的就請格蘭特入內了。
「古斯塔夫,我有事想跟你商量」
格蘭特神情嚴肅面對古斯塔夫。
「我重新看了你那篇論文了,不得不說現在的情況跟你預測的一樣,統治局已經到了極限了」
格蘭特邊說邊向古斯塔夫低頭,但是馬上又將頭抬了起來。
「我也想跟與統治局擁有不同視點的你一起,摸索如何改善世界」
格蘭特看著古斯塔夫的眼睛,古斯塔夫覺得格蘭特的眼神看起來很真誠。
「嗯,當然沒問題。不如說,同志當然越多越好」
「謝謝……」
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迎接新同志加入之後,古斯塔夫開始準備慢慢脫離統治局。
但是這時,卻發生了顛覆古斯塔夫預測的大事。
梅爾基奧開發的自動人偶鎮壓兵器,讓混沌元素暴走了。
統治局發表的內容,是說因為自動人偶抵抗時攻擊了鎮壓兵器,所以才會造成這樣的結果。
而且還啟動了讓人類移居到空中都市『潘德莫尼』的計劃,逃到空中來遠離《渦》造成的影響。
「主張改善世界的統治者,竟然自己捨棄了世界……」
看了統治局發來的通知書後,古斯塔夫不知道嘆了第幾次的氣。
通知書上雖然寫的是『為了留下人類這個物種』,但事實上就是對留在地上大多數的人們見死不救。
「你打算怎麼辦?」
「還用問嗎,我要留在地上,我要用跟統治局不一樣的方法來改善世界給他們看」
「看來是多問的了,我也是同樣意見」
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在統治局幾乎管不到的地上,讓古斯塔夫原本在私底下進行的計劃,決定大幅度的開始進行。
但是為了實施計劃,最重要的是將他們的思想與研究實踐,這需要時間。
透過改良基因維護的技術,讓古斯塔夫得到超越常人的年輕與壽命。另外也準備了複製人以備不時之需。
但是,這個技術是在意外死亡非常稀少的時代準備的機能。在這個沒有安全兩字的地上,會發生什麼事都不奇怪。
為了避免這些意外,需要改造人類身體的基本構造,加以改良,做出不害怕壽命極限的身體。
「格蘭特,我需要借助你的力量」
「你打算做的事,是將人類變成非人類的研究。你確定嗎?」
「正是因為這樣才要做,這副身體的一切都不夠。如果當一個人類無法改善世界的話,我就不能當人類」
於是古斯塔夫跟格蘭特,開始著手研究基因跟身體的改造。
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首先檢查染色體的長度和細胞的老化,發展出預測壽命數值化的技術。
接著將壽命不長的老鼠作為實驗對象,成功的將牠的壽命延長十年左右。
之後又經歷了好幾次的動物實驗,古斯塔夫讓自己成為第一個改造體。
加工管理壽命的細胞,改良保養技術,理論上成功地將壽命大幅度延長了。但是在經過五十年、百年之後可能會出現什麼問題為止,也只能做出假設與預測而已。
古斯塔夫的改造體成功之後,又做了好幾次實驗。然後將這個技術也用在格蘭特跟克洛維斯身上。
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這下時間的問題總算看到一線曙光,但接踵而來的問題還是堆積如山。
雖然能夠靠障璧保護,但隨著《渦》停留的地點就會帶來的未知災難這件事還是沒有改變。
縱然竭盡古斯塔夫他們的智慧,所得到的也只有「想要根本的解決問題的話,需要花費數百年時間」這個結論。
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「……真是慘不忍睹啊」
淡淡顏色漩渦般的東西,佔滿整個螢幕的畫面。
這是將無人調查機送到障壁外傳送過來的影像。
魯貝斯雖然有障壁保護所以安全,但是障壁的有效範圍只能到一個都市的程度。
為了進行計劃,人員、土地、一切都不足夠。
土地問題只要把資產拿出來就能解決,但是沒有保護大片土地不被《渦》侵害的方法。雖然已經跟工業都市尹貝羅達購買了障壁的生產技術,但是只靠這個工業設施貧乏的魯貝斯,是無法量產的。
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正當煩惱的時候,古斯塔夫為了討論新製造的障壁使用方法,拜訪了魯貝斯地區的管理局。
拜訪魯貝斯地區管理局的局長,是為了詢問,要邊生產障璧,邊讓更多人的人逃離《渦》該怎麼辦才好。如果是治理地區而擁有廣博學識的局長,或許會有什麼好想法可衍生出解決方案也不一定。
這位局長是代代就信仰著從黃金時代以來就存在的土著宗教,一個特別的人物。而且相當的敬仰崇拜,在這個地區自費導入障壁的古斯塔夫,。
「您要不要在這個地區建立國家呢?」
「國家,嗎?」
「是的,之前我跟其他地區的局長連絡時,聽說北方的羅德地區進行了獨自的國家營運」
局長看到古斯塔夫點頭之後,繼續說道。
「這個地區若也能以國家為名,就能來呼籲周圍地區進行合併。要是合併的地區增加了,就能補足產業,要救濟更多的《渦》難民也會比較容易。
「原來如此,但是我治理國家的知識還很不足。在這個地區建立起國家之後,如果你能夠繼續協助治理的話,就幫大忙了」
「我瞭解了。雖說我只是一介駑鈍之材,但勢必會竭盡所能協助您的」
「別那麼拘謹,我們可是同志啊」
「謝謝您,古斯塔夫大人。您果然是能夠解救世界的人」
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局長從信仰的生命之神的隨從之中,挑選了「米利加迪亞」作為國名。
於是,『米利加迪亞國』就在此建立了。
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「─完─」
2839年 「国家」
二八三七年、ローゼンブルグ第十二階層スバース地区で起きたオートマタの反乱。
それを境に、世界は混迷の只中へ突き落とされた。
あらゆる災害や疫病をコントロールしてきた筈の統治局は、この状況を収拾できずにいた。
もはや日常と化したオートマタ暴動のニュースを聞きながら、ギュスターヴは盛大に溜息を吐いた。
「やはりこうなったか」
「君の予測が正しかったことが証明されたね。過去に君の論文を妄想と打ち棄てた統治局の面々は、どんな顔をしているやら」
ギュスターヴの秘書官を務めているクロヴィスが、苦笑交じりに答えた。
クロヴィスは優秀な国家保安局員であったが、統治局が行っていた市民コントロールの真実を知ってからは、ギュスターヴの同志となっていた。
同志となってから既に数十年が経っているが、ギュスターヴの専属秘書官という立場から特別に定期トリートメントを受けることができたため、未だ三十代中ごろといった容姿を保っている。
「そんなこと、統治局はとうに忘れているだろう。一度無意味と判断すれば、それは存在しなかったものと看做すのが奴らだよ」
オートマタの反乱が起きる以前に、ギュスターヴは一本の論文を発表していた。
ギュスターヴはゲイルの死後、黄金時代の技術者達が残した研究資料を解析して現在の世界の状況と照らし合わせていった。そして照合を進める内に、ある一つの恐ろしい予測を導き出したのである。
——レッドグレイヴによる、完全にコントロールされた治世。
——グライバッハによって作り出される、人に付き従うオートマタ。
——メルキオールが確立した、ケイオシウムエネルギーの活用。
確かにこれらは人類に繁栄をもたらした。だが、それは同時に人類が思考を放棄することに繋がり、最終的には停滞、ないし衰退を迎えてしまうのではないか。
そういう予測を導き出したのである。
予測を決定的な確信に変えたのは、グライバッハが二八一四年、自死の数ヶ月前に発表した論文だった。
その論文には、人間と同じく思考能力を有し、自発的に創造することが可能なオートマタに関する研究内容が書かれていた。
この論文を読んだギュスターヴは、人類の衰退に関する危機感を加速させた。
レッドグレイヴによって真に思考することを委棄した人類が、自らの意志で考えて動くようになったオートマタに反旗を翻されたと仮定した場合、的確な対処はほぼ不可能であろう。
であれば、このままグライバッハの論文と研究を使用して自意識のあるオートマタを製造するのは危険ではないか。
ギュスターヴが発表した論文はこれらの仮説について論じていた。だが、この論文は統治局によって危険な妄言であると断言され、以降、ギュスターヴは異端者であると見なされたのであった。
「こうなってしまうと、他国から戦争を仕掛けられている状況と変わらんな」
モニターの向こうでは、人間とオートマタが激しく争っている様子が映されている。
「オートマタが人間に等しい、とでも言いたげだね」
「自ら考えることが可能であれば、もはやそれは一つの生物と言っても過言ではない。相違点など、身体を構成するものが有機物か無機物かというだけだ」
「特に自動人形は人を模して姿形が作られているからね。であれば、ある意味人間と何ら変わりはない。むしろ頑強な機械である分、人より優れている部分もあるか……」
「こうなってしまった以上、それは人類にとって脅威でしかないな」
暴動の様子を映していたモニターの電源を落とすと、ギュスターヴは立ち上がる。
「さて、我々は我々が為すべきことをしよう」
ギュスターヴは自らが発表した論文が間違っているとは考えていなかった。
自らの考えを統治局が無視するのであれば、自らの手によって来るべき時に備え、万全の準備をしておくことが大事だと考えていた。
新たな拠点を南方の片田舎であるルーベス地区へと定め、広い土地を一つ買い取って、そこに最新設備を惜しまず投入した研究施設を作り上げた。
邸宅兼研究所の完成後、すぐにギュスターヴは今の邸宅を完全に解体し、慣れ親しんだ中央から旅立った。
そうしてルーベスに生活や主要研究の拠点を移してから数日後、同期のグラントが突如来訪した。
ゲイルの死後、グラントとは定例会で会った際に多少の会話を交わすものの、以前ほどは連絡を取り合っていなかった。
疎遠となっていた同期の来訪に少々驚くも、元は親交の深かった者である。ギュスターヴは快くグラントを招き入れた。
「ギュスターヴ、折り入って相談がある」
グラントは神妙な面持ちでギュスターヴと相対した。
「例の論文を改めて読ませてもらった。今の状況は君の予測に合致していると言わざるを得ない。統治局はもう限界だ」
そう言いながらグラントはギュスターヴに頭を垂れると、すぐに顔を上げる
「私も統治局とは違う視点で、君と共に世界の改善を模索したい」
グラントはギュスターヴの目を見る。グラントの真摯な眼差しに嘘偽りはない。ギュスターヴはそう考えた。
「ああ、もちろん構わない。むしろ、同志は多ければ多いほどいい」
「ありがとう……」
新たな同志を迎え入れ、ギュスターヴは少しずつ統治局からの脱却を目指していった。
しかし、ギュスターヴ達の予測を大きく覆す事態が起きてしまった。
メルキオールの開発したオートマタ鎮圧兵器が、ケイオシウムコアを暴走させたのである。
統治局の発表によれば、抵抗するオートマタによって鎮圧兵器が攻撃されたことによって引き起こされたものであるという。
更に、統治局は空中都市『パンデモニウム』に限られた人類を移住させ、《渦》の影響が及ばない空中へ逃避する計画を発動させた。
「世界の改善を謳う統治者が、自ら世界を捨てるとはな……」
統治局から届いた通達を見て、ギュスターヴは何度目かもわからない大きな溜息を吐いた。
通達された文面では『人類という種を残すため』ということであったが、結局は地上に残された大多数の人間を見捨てるということに他ならない。
「どうする?」
「決まっている。私は地上に残り、統治局とは違った方法で世界を改善してみせるまでだ」
「聞くまでもなかったな。私も同意見だ」
統治局の目がほぼ届かなくなった地上で、ギュスターヴは水面下で進めていた計画の大々的な開始を決定した。
しかし計画を実行するためには、何よりも自らの思想と研究を体言できる時間が必要であった。
遺伝子改良とトリートメント技術により、ギュスターヴは常人を遥かに超える若さと寿命を持ち得ている。バックアップとしてクローンも用意してあった。
だが、これらは不慮の死が極めて稀であった時代でのみ機能するものだ。安全という言葉が無意味になってしまったこの地上では、何が起きてもおかしくはない。
そういった不慮の事態を避けるため、ヒトの身体を根本的に改造、改良し、寿命に怯えることのないものを作り出す必要があった。
「グラント、君の力を借りたい」
「君のやろうとしていることは、人間を人間でなくする研究だ。それでもいいのか?」
「だからこそだ。この身では何もかもが足りない。人間であることで世界を改善できないのなら、私は人間でなくならねばならない」
ギュスターヴとグラントは、遺伝子と身体を改造する研究に着手した。
まずはテロメアの長さや細胞の老化を検査し、寿命を予測して数値化する技術を作り上げた。
次に寿命の短いマウスを実験体として、その寿命を十年単位で延ばすことに成功した。
その後も幾度かの動物実験を経て、ギュスターヴは自らを最初の改造体とすることとした。
寿命を司る細胞に手を加え、トリートメント技術を改良し、理論上は大幅に寿命を伸ばすことに成功した。だが五十年、百年と時間が経過することによって顕在化するかもしれない問題までは、仮定と予測に基づく他なかった。
改造体の作成に成功した後も実験を重ねたギュスターヴは、同様の処置をグラントやクロヴィスにも施した。
何とか時間の問題に光明が見えたが、それでも問題は山積していた。
障壁によって守られてこそいるが、《渦》が留まるところを知らぬ厄災であることに変わりはない。
ギュスターヴ達の頭脳をもってしても、得られた結論は「根本的解決を図るには何百年もの時間を必要とする」というものでしかなかった。
「……酷い有様だな」
淡い色彩で渦巻くものが、大きなモニターの画面を覆い尽くしている。
障壁の外の様子を観察するために飛ばした無人調査機から送られてきた映像だった。
ルーベスは障壁により安全が保たれてはいたが、その障壁の有効範囲は一つの都市を覆う程度の大きさしかない。
計画を推進していくには、人員も、土地も、何もかもが足りない。
土地の拡大に関しては資産の投入で解決できるが、拡大した土地を《渦》の脅威から守る術がない。工業都市インペローダから障壁生産技術を買い取ってはいるが、工業施設の乏しいルーベスだけで障壁を量産するには限界があった。
どうすべきか悩みながら、ギュスターヴは新しく製造された障壁の使い道を相談するために、ルーベス地区管理局を訪れた。
ルーベス地区管理局の局長に、障壁の生産を進めつつ、更に多くの人々を《渦》の脅威から逃すにはどうしたらいいかと訪ねてみた。地域を治めるための知識に明るい局長ならば、何か打開策に繋がるアイディアを持っているのではないかと考えたのだ。
この局長は黄金時代以前から存在する土着の宗教を代々信仰しているという一風変わった人物であったが、この地区に自費で障壁を導入したギュスターヴに対しても、強い信仰を捧げている。
「この地区を国家として樹立させませんか?」
「国、とな?」
「はい。以前、他地区の局長との通信を行った際、北方のローデ地区が独自の国家運営を行っているという話を聞きまして」
局長はギュスターヴが一つ頷いたのを見て、話を続ける。
「この地区も国家として名乗りを上げ、周辺地区に合併を呼び掛けるのです。それによって連携できる地区が増えれば産業の補完に繋がるでしょうし、《渦》による難民の救済も多少は容易となります」
「なるほどな。私は国を治める知識には疎い。この地区を国家として樹立させた後も、君が引き続き治めてくれると助かる」
「わかりました。不肖な身ではありますが、懸命に努めさせていただきます」
「そんなに畏まらないでほしい。私達は同志なのだ」
「ありがとうございます、ギュスターヴ様。やはり貴方こそが世界を救うお方なのです」
局長が信仰する命の神に仕えた従者の名前から、国号を「ミリガディア」と定めた。
かくして、ここに『ミリガディア国』が樹立されたのであった。
「—了—」
二八三七年、ローゼンブルグ第十二階層スバース地区で起きたオートマタの反乱。
それを境に、世界は混迷の只中へ突き落とされた。
あらゆる災害や疫病をコントロールしてきた筈の統治局は、この状況を収拾できずにいた。
もはや日常と化したオートマタ暴動のニュースを聞きながら、ギュスターヴは盛大に溜息を吐いた。
「やはりこうなったか」
「君の予測が正しかったことが証明されたね。過去に君の論文を妄想と打ち棄てた統治局の面々は、どんな顔をしているやら」
ギュスターヴの秘書官を務めているクロヴィスが、苦笑交じりに答えた。
クロヴィスは優秀な国家保安局員であったが、統治局が行っていた市民コントロールの真実を知ってからは、ギュスターヴの同志となっていた。
同志となってから既に数十年が経っているが、ギュスターヴの専属秘書官という立場から特別に定期トリートメントを受けることができたため、未だ三十代中ごろといった容姿を保っている。
「そんなこと、統治局はとうに忘れているだろう。一度無意味と判断すれば、それは存在しなかったものと看做すのが奴らだよ」
オートマタの反乱が起きる以前に、ギュスターヴは一本の論文を発表していた。
ギュスターヴはゲイルの死後、黄金時代の技術者達が残した研究資料を解析して現在の世界の状況と照らし合わせていった。そして照合を進める内に、ある一つの恐ろしい予測を導き出したのである。
——レッドグレイヴによる、完全にコントロールされた治世。
——グライバッハによって作り出される、人に付き従うオートマタ。
——メルキオールが確立した、ケイオシウムエネルギーの活用。
確かにこれらは人類に繁栄をもたらした。だが、それは同時に人類が思考を放棄することに繋がり、最終的には停滞、ないし衰退を迎えてしまうのではないか。
そういう予測を導き出したのである。
予測を決定的な確信に変えたのは、グライバッハが二八一四年、自死の数ヶ月前に発表した論文だった。
その論文には、人間と同じく思考能力を有し、自発的に創造することが可能なオートマタに関する研究内容が書かれていた。
この論文を読んだギュスターヴは、人類の衰退に関する危機感を加速させた。
レッドグレイヴによって真に思考することを委棄した人類が、自らの意志で考えて動くようになったオートマタに反旗を翻されたと仮定した場合、的確な対処はほぼ不可能であろう。
であれば、このままグライバッハの論文と研究を使用して自意識のあるオートマタを製造するのは危険ではないか。
ギュスターヴが発表した論文はこれらの仮説について論じていた。だが、この論文は統治局によって危険な妄言であると断言され、以降、ギュスターヴは異端者であると見なされたのであった。
「こうなってしまうと、他国から戦争を仕掛けられている状況と変わらんな」
モニターの向こうでは、人間とオートマタが激しく争っている様子が映されている。
「オートマタが人間に等しい、とでも言いたげだね」
「自ら考えることが可能であれば、もはやそれは一つの生物と言っても過言ではない。相違点など、身体を構成するものが有機物か無機物かというだけだ」
「特に自動人形は人を模して姿形が作られているからね。であれば、ある意味人間と何ら変わりはない。むしろ頑強な機械である分、人より優れている部分もあるか……」
「こうなってしまった以上、それは人類にとって脅威でしかないな」
暴動の様子を映していたモニターの電源を落とすと、ギュスターヴは立ち上がる。
「さて、我々は我々が為すべきことをしよう」
ギュスターヴは自らが発表した論文が間違っているとは考えていなかった。
自らの考えを統治局が無視するのであれば、自らの手によって来るべき時に備え、万全の準備をしておくことが大事だと考えていた。
新たな拠点を南方の片田舎であるルーベス地区へと定め、広い土地を一つ買い取って、そこに最新設備を惜しまず投入した研究施設を作り上げた。
邸宅兼研究所の完成後、すぐにギュスターヴは今の邸宅を完全に解体し、慣れ親しんだ中央から旅立った。
そうしてルーベスに生活や主要研究の拠点を移してから数日後、同期のグラントが突如来訪した。
ゲイルの死後、グラントとは定例会で会った際に多少の会話を交わすものの、以前ほどは連絡を取り合っていなかった。
疎遠となっていた同期の来訪に少々驚くも、元は親交の深かった者である。ギュスターヴは快くグラントを招き入れた。
「ギュスターヴ、折り入って相談がある」
グラントは神妙な面持ちでギュスターヴと相対した。
「例の論文を改めて読ませてもらった。今の状況は君の予測に合致していると言わざるを得ない。統治局はもう限界だ」
そう言いながらグラントはギュスターヴに頭を垂れると、すぐに顔を上げる
「私も統治局とは違う視点で、君と共に世界の改善を模索したい」
グラントはギュスターヴの目を見る。グラントの真摯な眼差しに嘘偽りはない。ギュスターヴはそう考えた。
「ああ、もちろん構わない。むしろ、同志は多ければ多いほどいい」
「ありがとう……」
新たな同志を迎え入れ、ギュスターヴは少しずつ統治局からの脱却を目指していった。
しかし、ギュスターヴ達の予測を大きく覆す事態が起きてしまった。
メルキオールの開発したオートマタ鎮圧兵器が、ケイオシウムコアを暴走させたのである。
統治局の発表によれば、抵抗するオートマタによって鎮圧兵器が攻撃されたことによって引き起こされたものであるという。
更に、統治局は空中都市『パンデモニウム』に限られた人類を移住させ、《渦》の影響が及ばない空中へ逃避する計画を発動させた。
「世界の改善を謳う統治者が、自ら世界を捨てるとはな……」
統治局から届いた通達を見て、ギュスターヴは何度目かもわからない大きな溜息を吐いた。
通達された文面では『人類という種を残すため』ということであったが、結局は地上に残された大多数の人間を見捨てるということに他ならない。
「どうする?」
「決まっている。私は地上に残り、統治局とは違った方法で世界を改善してみせるまでだ」
「聞くまでもなかったな。私も同意見だ」
統治局の目がほぼ届かなくなった地上で、ギュスターヴは水面下で進めていた計画の大々的な開始を決定した。
しかし計画を実行するためには、何よりも自らの思想と研究を体言できる時間が必要であった。
遺伝子改良とトリートメント技術により、ギュスターヴは常人を遥かに超える若さと寿命を持ち得ている。バックアップとしてクローンも用意してあった。
だが、これらは不慮の死が極めて稀であった時代でのみ機能するものだ。安全という言葉が無意味になってしまったこの地上では、何が起きてもおかしくはない。
そういった不慮の事態を避けるため、ヒトの身体を根本的に改造、改良し、寿命に怯えることのないものを作り出す必要があった。
「グラント、君の力を借りたい」
「君のやろうとしていることは、人間を人間でなくする研究だ。それでもいいのか?」
「だからこそだ。この身では何もかもが足りない。人間であることで世界を改善できないのなら、私は人間でなくならねばならない」
ギュスターヴとグラントは、遺伝子と身体を改造する研究に着手した。
まずはテロメアの長さや細胞の老化を検査し、寿命を予測して数値化する技術を作り上げた。
次に寿命の短いマウスを実験体として、その寿命を十年単位で延ばすことに成功した。
その後も幾度かの動物実験を経て、ギュスターヴは自らを最初の改造体とすることとした。
寿命を司る細胞に手を加え、トリートメント技術を改良し、理論上は大幅に寿命を伸ばすことに成功した。だが五十年、百年と時間が経過することによって顕在化するかもしれない問題までは、仮定と予測に基づく他なかった。
改造体の作成に成功した後も実験を重ねたギュスターヴは、同様の処置をグラントやクロヴィスにも施した。
何とか時間の問題に光明が見えたが、それでも問題は山積していた。
障壁によって守られてこそいるが、《渦》が留まるところを知らぬ厄災であることに変わりはない。
ギュスターヴ達の頭脳をもってしても、得られた結論は「根本的解決を図るには何百年もの時間を必要とする」というものでしかなかった。
「……酷い有様だな」
淡い色彩で渦巻くものが、大きなモニターの画面を覆い尽くしている。
障壁の外の様子を観察するために飛ばした無人調査機から送られてきた映像だった。
ルーベスは障壁により安全が保たれてはいたが、その障壁の有効範囲は一つの都市を覆う程度の大きさしかない。
計画を推進していくには、人員も、土地も、何もかもが足りない。
土地の拡大に関しては資産の投入で解決できるが、拡大した土地を《渦》の脅威から守る術がない。工業都市インペローダから障壁生産技術を買い取ってはいるが、工業施設の乏しいルーベスだけで障壁を量産するには限界があった。
どうすべきか悩みながら、ギュスターヴは新しく製造された障壁の使い道を相談するために、ルーベス地区管理局を訪れた。
ルーベス地区管理局の局長に、障壁の生産を進めつつ、更に多くの人々を《渦》の脅威から逃すにはどうしたらいいかと訪ねてみた。地域を治めるための知識に明るい局長ならば、何か打開策に繋がるアイディアを持っているのではないかと考えたのだ。
この局長は黄金時代以前から存在する土着の宗教を代々信仰しているという一風変わった人物であったが、この地区に自費で障壁を導入したギュスターヴに対しても、強い信仰を捧げている。
「この地区を国家として樹立させませんか?」
「国、とな?」
「はい。以前、他地区の局長との通信を行った際、北方のローデ地区が独自の国家運営を行っているという話を聞きまして」
局長はギュスターヴが一つ頷いたのを見て、話を続ける。
「この地区も国家として名乗りを上げ、周辺地区に合併を呼び掛けるのです。それによって連携できる地区が増えれば産業の補完に繋がるでしょうし、《渦》による難民の救済も多少は容易となります」
「なるほどな。私は国を治める知識には疎い。この地区を国家として樹立させた後も、君が引き続き治めてくれると助かる」
「わかりました。不肖な身ではありますが、懸命に努めさせていただきます」
「そんなに畏まらないでほしい。私達は同志なのだ」
「ありがとうございます、ギュスターヴ様。やはり貴方こそが世界を救うお方なのです」
局長が信仰する命の神に仕えた従者の名前から、国号を「ミリガディア」と定めた。
かくして、ここに『ミリガディア国』が樹立されたのであった。
「—了—」