戰鬥悽慘的結束了。米利安周遭盡是異形野獸的屍體。這些全都是死在他的手中。被強力劍壓給破壞的獸群,早已看不出原形。附近全都籠罩在充滿血腥味的空氣之中。
勝利之後,僅留下了徒勞感。
隨著留在廢墟狩獵野獸的日子過去。就連僅存的同伴也慢慢的在減少。
從渦現身的野獸無窮無盡。腦中早已清楚的知道,要奪回這都已化為廢墟的故鄉根本是不可能的事。
不過,就算這場戰鬥毫無幫助,但他仍深信其中有持續戰鬥下去的意義在。
米利安的家人都在這裡生活,而且也都被捲入這場渦的災難之中而喪命。心裡總覺得不能自己一個人就這樣逃走。
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為了補給而回到了鎮上。雖然這裡離故鄉有好長一段距離,不過有著從故鄉來的居民們像難民般的在這靜靜生活著。
難民的他們,聚集在城鎮的外部周圍以及化為半貧民區的區域中生活著。雖然與原本就住在這的居民們之間有點爭執,但鎮上的守備隊員們並沒有瞧不起米利安一行人。並不只是基於同情,也是因為有實際上的好處在,畢竟米利安他們代替了自己在外面擊退怪物。
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米利安得到守備隊的許可後,進入了城鎮之中。補充糧食,以交易得到的戰利品─異世界的野獸毛皮能以高價賣出─,以這點來看,進城是比較有效率的。
正想要在一如往常的商店中購買食物時,店主出聲說道。
「不好意思,我不能再賣你們東西了。我也是做生意的。很怕風評不好啊。真的很抱歉」
「這樣啊,至今為止謝謝了」
米利安並沒有覺得受到了過份的對待。站在對方的立場來想的話,就知道這也是沒辦法的事了。
「抱歉」
店主露出了看起來深感歉意的表情,再次的道了歉。
雖然在離開商店後,米利安也跟市場的攤販們交涉過,但不管去哪家店都沒看到好臉色。
路過的年輕男子們對被排擠的米利安說道。
「難民別在市內晃來晃去的」
「該死的瘟神」
「這裡沒東西給你們吃」
雖然已經習慣這些厭惡的言語,但是徒勞感加上這種羞辱,光是壓抑住衝動就相當辛苦了。
感受到不穩氣氛的米利安,打算默默的混進人群中離去。但是在那同時,不知道是誰朝他丟了腐壞的水果。
由於衝擊力相當的大,所以反射性的就將手伸到劍上。
在城內的武裝,是守備隊睜一隻眼閉一隻眼允許的。
在米利安察覺到不妙時已經太慢了,他明白這時候所有人都已用憎恨的心對著他。
罵聲跟各式各樣的東西同時砸在了米利安身上。
「這傢伙拿武器了」
「快把他趕出去!他想在這裡亂來了」
「守備隊到底在幹嘛」
雖然米利安試著要從市場離開,但憤怒的群眾卻開始將他給包圍起來。對手是一般人,只要揮幾劍就可以輕鬆解決了。但是如果真的出手的話,最後被毀掉的會是,現在被稱為難民且受到鄙視的那些同鄉夥伴們。
「把他的劍搶過來」
「殺了他」
只能互瞪的米利安跟民眾們。雖然僵持了好一段時間,但民眾的憤怒似乎沒有平息的跡象。
就在這時候,市場中響起了守備隊的槍聲。
「讓開,還不快讓開!」
數名武裝守備隊員趕來了市場之中。
守備隊員企圖將米利安架跪在地上。米利安沒有抵抗的屈膝跪下。
「混蛋傢伙。竟敢引起這麼大的騷動!」
說完,守備隊的指揮官就用槍托朝米利安的臉上砸去。鮮血四處飛散。
「這個人已經被我們逮捕了。大家趕快解散吧。這傢伙就交給我們處理」
當指揮官大聲的向周圍群眾喊完後,情緒激昂的民眾不情不願地慢慢散去。民眾對於對米利安的憎恨,因這位指揮官的態度而被轉移了焦點。
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米利安被守備隊員強押著,帶到了一處像是營倉的地方。
「剛剛出手有點重了,抱歉」
指揮官跟米利安是認識的。指揮官想讓米利安擦擦沾滿鮮血的嘴,而將毛巾遞給了他。
「得救了」
要是沒有守備隊來制止的話,米利安應該就會被群眾給殺了吧。米利安雖然沒有打算抵抗,但他也不是會求饒的男人。
「從你們鎮上來的難民犯罪事件不斷在增加。大家都很暴躁」
對於民眾的行為沒感覺到憤怒或悲傷。就只想放棄。
「如果我們被趕出這個地方的話,就無法奪回故鄉了」
「嗯,我知道。不過啊,現在的狀況也無法允許你繼續武裝了。抱歉,你的武器得先讓我保管。等回去的時候再還給你」
米利安默默的交出腰上的劍。
「我們不會說要你們離開的。我們的城鎮不知道哪天也會被襲擊,或許也許會變成跟你們一樣的立場也說不定。但是啊,你有沒有考慮要放棄了?人死不能復生的」
「放棄?那個城鎮跟記憶都是我的一部分。我無法放棄」
「這樣呀…。我們也沒有阻止你的權利就是了…」
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米利安從營倉被放了出來。
在回同伴那邊之前,繞道去了酒館。在老街的骯髒酒館裡,沒有人會去在意米利安。
廉價的酒喝再多,也無法灌醉自己。
接下來的事情,也根本無法想像。
死。這件事在腦海中閃過。
城外的同伴正在等著自己。大家是否都打算要持續奮戰到死。隨著故鄉的一切一起從這片土地上消失。
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「怎麼了,一臉陰沉」
穿著黑色外套的高齡男子向米利安搭話。他坐在隔壁桌招著手。
「來這邊吧」
說著便叫米利安過來一起坐。
男子的穿著頗為端正,跟這間酒館不太相稱。
「我身上太多舊傷,有點不方便走過去你那邊」
「你是誰」
「我叫史達林。這我請客,總之先過來坐下吧」
男子隨興的將酒瓶遞了出來。
「你是軍人吧」
光從臉上的傷跟體格就能馬上判斷出來。
「我是長期以來為帝國做事的人」
「帝國的軍人在這種地方做什麼?」
米利安將收到的酒瓶放在桌上,跟史達林面對面的坐了下來。
「我是為了見你而來的。聽說你一直在外面跟渦的怪物戰鬥」
「嗯,是為了奪回故鄉」
「你有勝算嗎?」
那不是挑釁的語氣,但是史達林的問題一時之間讓米利安無言以對。
「那不是一場求勝負的戰鬥。我視死如歸」
米利安以像是硬擠出的聲音回答著。
「真是懦弱的想法啊。你不過就只是在逃離眼前所看到的本質罷了」
史達林冷漠地對米利安說道。
「你又懂什麼了」
「嗯,我是不懂為什麼要為輸而戰。戰鬥是為了勝利,有價值才值得付出性命啊」
「是帝國的話或許還有可能吧。但如果只是個會被渦吞噬的小鎮的話,那種事就跟笑話一樣」
「我也與渦的威脅戰鬥過。早在你出生好久之前就開始啦。全都是敗戰後的脫逃戰。一逃再逃一直都在逃。就連築城,然後閉門長期抗戰都試過了。然後就像現在這樣存活了下來」
「那些算是榮耀的戰鬥?」
「但我還像現在這樣可以用兩腳站著。雖然現在的確沒辦法好好走路。但我並沒有捨棄榮耀與希望」
「你是來對我說教的嗎?」
「不,我是來找你幫忙的」
傾斜杯子,史達林倒了酒喝。雖然看起來喝了不少,但態度卻沒什麼變化。
「話雖如此,但你盡是說了些難聽的話」
「我口才不太好。畢竟是軍人啊。也不太會說謊。不過我自認看人的眼光不錯。特別是戰士」
「戰士嗎」
「我們正在召集可以與渦戰鬥的人。不只是與渦的怪物,而是連對渦本身都能戰鬥的人」
「帝國嗎?」
「不,是從這個尤拉斯大陸全面召集的,一個新的組織」
「跟渦戰鬥?要怎麼戰?靠近渦的人沒有一個能回來的」
「沒錯。不過,我們可是有潘德莫尼的工程師一起啊。就是他們在召集戰士。而我是負責整合那些戰士」
「工程師嗎。那不是靠他們那些什麼科技的就可以解決了嗎?」
「這作戰光靠工程師是無法順利進行的。畢竟得在渦之中進進出出,光靠那些薄弱的工程師們是不可能的」
說完,大笑了起來。
「我們需要像你一樣身經百戰的勇士。你不害怕那些怪物」
米利安感覺無法去討厭這個人。米利安對他那種不在乎曾在戰場上嘗盡了數不清絕望,並且也絕不會喪失希望的那種態度,抱有一點崇拜的感情。
「原來如此」
「或許也能奪回你的故鄉。你要跟我們合作嗎?」
「戰場在哪兒都可以。只要能奪回我的故鄉」
「這樣啊,那真是太好了」
史達林舉杯高乾。米利安覺得老人的笑容就像是少年般的充滿著活力。
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「─完─」
3373年 「胎動」
戦いは無残に終わった。ミリアンの周りには異形の獣達の屍がある。全て彼の手によって葬られたものだ。圧倒的な剣圧で破壊された獣達に、原型は残っていない。血生臭い空気が辺りを包んでいる。
小さな勝利の後には、ただ徒労感だけが残っていた。
廃墟に残って獣達を狩る日々。僅かな仲間達も少しずついなくなっていった。
渦から現れる獣達に限りはなかった。この廃墟となった故郷を取り戻すことなど不可能だと、頭では理解していた。
しかし、この戦いが無駄であったとしても、そこに戦い続ける意味はある、と信じていた。
ミリアンの家族はここで暮らし、渦の厄災に巻き込まれて死んでいった。自分だけ逃げるわけにはいかない、という想いがあった。
補給のために街へと戻った。故郷からはかなりの距離があるが、そこで故郷の住民達と、難民として細々と暮らしていた。
難民としての彼らは、この街の外周や、半ばスラムと化した城下町に、押し込められるようにして生活していた。元から住む住民達との間に軋轢はあったが、街の守備隊の連中がミリアン達を無下に扱うことは無かった。同情だけでなく、外の世界で自分達の代わりに化け物共を退治してくれる訳だから、実利もあった。
ミリアンは守備隊から許可をもらい、街の中へ入った。食糧の補給や、得られた戦利品——異界の獣の毛皮などは高く売れることもあった——を取引するには、こちらの方が効率がいい。
いつもの商店で食料を買おうとすると、店主が言った。
「悪いな、これ以上あんたらに物は売れないんだ。こっちも商売でな、評判ってやつがあるんだ。すまないな」
「そうか、いままでありがとう」
ミリアンはひどい扱いを受けたとは思わなかった。相手の立場を考えれば、仕方のないことだと思った。
「すまんな」
ばつの悪そうな顔をして、店主はもう一度あやまった。
店を後にしたミリアンは市場の露天商とも交渉したが、どの店でも冷たくあしらわれた。
そんな様子のミリアンに向かって、通りすがりの若い男達が毒突いてきた。
「難民風情が市内をうろちょろするな」
「疫病神め」
「おまえらに食わせるものなんてねえよ」
慣れっこになっていた嫌がらせの言葉だったが、徒労感と恥辱が合わさり、衝動を抑えるのに苦労をした。
不穏な空気を感じたミリアンは、黙って人混みから去ろうとした。しかしその時、誰かが腐った果物を投げつけてきた。
結構な衝撃に、思わず剣に手が伸びた。
城内での武装は、守備隊のお目こぼしで許してもらっていた。
ミリアンがしまったと感じたときには既に遅く、一斉に憎悪が自分へ向けられたのがわかった。
罵声と共に様々な物がミリアンに投げつけられる。
「こいつ、武器を手に取ったぞ」
「追い出せ! ここで暴れる気だ」
「守備隊は何をやってんだ」
ミリアンは市場から離れようとしたが、怒った群衆が自分を取り囲み始めていた。相手は一般人だ、自分が剣を振るえば簡単に収められるだろう。しかしそんなことをすれば、最後に破滅するのは、今は難民と呼ばれて蔑まされている同郷の仲間達だ。
「剣を取り上げろ」
「殺せ」
睨み合うことしかできないミリアンと民衆達。しばらく互いに牽制していたが、民衆の憎悪が収まることはなかった。
その時、守備兵の銃声が市場に響いた。
「どけ、どかんか!」
数人の武装した守備兵が市場に駆け付けてきた。
守備兵はミリアンを組み伏せようとする。ミリアンは抵抗せずに膝をついた。
「馬鹿者が。騒乱などを起こしおって!」
と、守備兵の指揮官が銃床でミリアンの顔を殴った。鮮血が辺りに飛び散る。
「この者は我々が逮捕した。みなとっとと立ち去れ。こいつの処理は我々に任せろ!」
指揮官が居丈高に周りに言いつけると、激昂していた市民達もしぶしぶと立ち去っていった。ミリアンへの憎悪は、この指揮官の態度に焦点をそらされた格好になった。
守備兵に引き摺られるようにして、ミリアンは営倉らしき場所に連れられてきた。
「さっきは手荒なことをして、すまなかったな」
指揮官はミリアンと顔見知りだった。鮮血で汚れた口を拭くようにと、タオルを手渡してきた。
「助かったよ」
守備兵が止めていなければ、民衆に殺されていただろう。ミリアンは抵抗するつもりは無かったが、かといって、命乞いをすることもできない男だった。
「お前らの街から来た難民の犯罪が増えていてね。みな苛立ってるんだ」
怒りも悲しみも無かった。ただ、諦観だけがあった。
「俺達は、この街から追い出されれば、故郷を取り戻すことができなくなる」
「ああ、わかってる。だがな、今の状況がそれを許さんのだ。 悪いが武器を預からせてもらう。帰るときに返す」
ミリアンは黙って腰の剣を渡した。
「街を出て行けとは言わん。いつ俺達の街も襲われるか、そしてお前の立場になるかわからん世の中だ。だがな、もう諦めたらどうだ。死んだ者は帰ってこない」
「諦める? あの街も、記憶も、俺自身なんだ。それはできない」
「そうか……。俺達にお前を止める権利は無いがな……」
ミリアンは営倉から出された。
仲間の元に戻る前に酒場に寄った。下町の汚い酒場では、ミリアンを気にする者はいない。
安い酒をいくら飲んでも、酔うことはできなかった。
これからの事など、全く想像できなかった。
死。その事が頭をよぎった。
街の外では仲間が待っている。皆が死ぬまで戦いを続けるのか。故郷と共に何もかもがこの地上から消えて無くなるまで。
「どうした、暗い顔だな」
黒いコートを羽織った老齢の男が声を掛けてきた。隣のテーブルに座って手招きをしている。
「こっちに来い」
そう言ってミリアンを呼びつけた。
風体はしっかりしており、この酒場には似つかわしくない。
「いろいろ古傷が痛んでな、そっちに行くのが億劫だ」
「誰だ」
「ワシはスターリング。 これはおごりだ、とりあえず座れ」
ぶっきらぼうに酒瓶を差し出してきた。
「軍人か」
顔の傷や身なりから十分類推できた。
「長いこと帝國で働いていた者だ」
「帝國の軍人が、こんなところで何をしている?」
ミリアンは受け取った酒瓶を机に置き、向かい合う形で席に座った。
「お前に会いに来た。外で渦の化け物共と戦っているそうだな」
「ああ、故郷を取り戻すためだ」
「その戦いに勝ち目はあるのか?」
挑発するような言い方ではなかったが、スターリングの質問にミリアンは一瞬言い淀んだ。
「勝ち負けで戦ってるわけじゃない。 あの場所は俺の死に場所なんだ」
絞り出すようにミリアンは言った。
「惰弱な考えだ。目の前の本質から逃げてるだけだな」
スターリングはミリアンを突き放すように言った。
「お前に何がわかる」
「ああ、わからん。負けるための戦いなどな。戦いは勝利のため、価値のためにこそ命を捧げられるものだ」
「帝國ならそれも可能なんだろう。だが渦に飲み込まれた小さな街じゃ、そんなことは戯言みたいなもんだ」
「ワシも渦の脅威と戦ったさ。お前が生まれるずっと前にな。すべて負け戦で撤退戦だった。逃げて逃げて逃げまくった。城を築き、鍵を掛けて引き籠もりもした。そして、こうして生き残った」
「それが誇りある戦いだったと言うのか?」
「ワシはこうして二本の足で立っている。たしかに、今じゃうまくは歩けなくなった。だがな、誇りも希望も失っていない」
「俺に説教をしに来たのか?」
「いや、協力を頼みに来た」
グラスを傾け、酒をぐいとスターリングは飲んだ。随分と飲んでいるようだが、あまり態度に変化はない。
「それにしては、ずいぶんと腐してくれる」
「ワシは口がうまくない。所詮、軍人だ。嘘も苦手だ。だがな、男を見る目はあるつもりだ。戦士としてのな」
「戦士か」
「我々は渦と戦える男達を集めている。渦の化け物だけじゃない、渦自体と戦うことのできる男だ」
「帝國がか?」
「いや、このヨーラス大陸全土から集める。新しい組織だ」
「渦と戦う? どうやってだ。渦に近寄って帰ってきた者などいないぞ」
「そう。だが、我々にはパンデモニウムのエンジニア達がついている。奴らが戦士を集めているのだ。ワシは戦士をまとめる立場となっている」
「エンジニアか。ならば、あいつらのテクノロジーとやらで片付ければいい話じゃないのか?」
「エンジニアだけでは遂行できない作戦だ。何しろ渦まで行って帰ってくることなど、あの青瓢箪のエンジニア共には不可能だからな」
そう言うと、大きな声で笑った。
「お前のような歴戦の勇士の力が必要なのだ。お前は化け物を恐れていない」
憎めない人物だとミリアンは感じていた。戦場において何度も絶望を味わってきたであろうにも関わらず、決して希望を失わないその姿勢に、憧れに似た感情を抱いた。
「なるほど」
「失ったお前の街を取り戻すことができるかもしれん。協力してくれるか?」
「戦う場所はどこでもいい。あの街を取り戻すことができるのなら」
「そうか、よかった」
スターリングは乾杯のグラスを掲げた。その老人の笑顔は少年のような力の満ちたものに、ミリアンは感じた。
「—了—」
戦いは無残に終わった。ミリアンの周りには異形の獣達の屍がある。全て彼の手によって葬られたものだ。圧倒的な剣圧で破壊された獣達に、原型は残っていない。血生臭い空気が辺りを包んでいる。
小さな勝利の後には、ただ徒労感だけが残っていた。
廃墟に残って獣達を狩る日々。僅かな仲間達も少しずついなくなっていった。
渦から現れる獣達に限りはなかった。この廃墟となった故郷を取り戻すことなど不可能だと、頭では理解していた。
しかし、この戦いが無駄であったとしても、そこに戦い続ける意味はある、と信じていた。
ミリアンの家族はここで暮らし、渦の厄災に巻き込まれて死んでいった。自分だけ逃げるわけにはいかない、という想いがあった。
補給のために街へと戻った。故郷からはかなりの距離があるが、そこで故郷の住民達と、難民として細々と暮らしていた。
難民としての彼らは、この街の外周や、半ばスラムと化した城下町に、押し込められるようにして生活していた。元から住む住民達との間に軋轢はあったが、街の守備隊の連中がミリアン達を無下に扱うことは無かった。同情だけでなく、外の世界で自分達の代わりに化け物共を退治してくれる訳だから、実利もあった。
ミリアンは守備隊から許可をもらい、街の中へ入った。食糧の補給や、得られた戦利品——異界の獣の毛皮などは高く売れることもあった——を取引するには、こちらの方が効率がいい。
いつもの商店で食料を買おうとすると、店主が言った。
「悪いな、これ以上あんたらに物は売れないんだ。こっちも商売でな、評判ってやつがあるんだ。すまないな」
「そうか、いままでありがとう」
ミリアンはひどい扱いを受けたとは思わなかった。相手の立場を考えれば、仕方のないことだと思った。
「すまんな」
ばつの悪そうな顔をして、店主はもう一度あやまった。
店を後にしたミリアンは市場の露天商とも交渉したが、どの店でも冷たくあしらわれた。
そんな様子のミリアンに向かって、通りすがりの若い男達が毒突いてきた。
「難民風情が市内をうろちょろするな」
「疫病神め」
「おまえらに食わせるものなんてねえよ」
慣れっこになっていた嫌がらせの言葉だったが、徒労感と恥辱が合わさり、衝動を抑えるのに苦労をした。
不穏な空気を感じたミリアンは、黙って人混みから去ろうとした。しかしその時、誰かが腐った果物を投げつけてきた。
結構な衝撃に、思わず剣に手が伸びた。
城内での武装は、守備隊のお目こぼしで許してもらっていた。
ミリアンがしまったと感じたときには既に遅く、一斉に憎悪が自分へ向けられたのがわかった。
罵声と共に様々な物がミリアンに投げつけられる。
「こいつ、武器を手に取ったぞ」
「追い出せ! ここで暴れる気だ」
「守備隊は何をやってんだ」
ミリアンは市場から離れようとしたが、怒った群衆が自分を取り囲み始めていた。相手は一般人だ、自分が剣を振るえば簡単に収められるだろう。しかしそんなことをすれば、最後に破滅するのは、今は難民と呼ばれて蔑まされている同郷の仲間達だ。
「剣を取り上げろ」
「殺せ」
睨み合うことしかできないミリアンと民衆達。しばらく互いに牽制していたが、民衆の憎悪が収まることはなかった。
その時、守備兵の銃声が市場に響いた。
「どけ、どかんか!」
数人の武装した守備兵が市場に駆け付けてきた。
守備兵はミリアンを組み伏せようとする。ミリアンは抵抗せずに膝をついた。
「馬鹿者が。騒乱などを起こしおって!」
と、守備兵の指揮官が銃床でミリアンの顔を殴った。鮮血が辺りに飛び散る。
「この者は我々が逮捕した。みなとっとと立ち去れ。こいつの処理は我々に任せろ!」
指揮官が居丈高に周りに言いつけると、激昂していた市民達もしぶしぶと立ち去っていった。ミリアンへの憎悪は、この指揮官の態度に焦点をそらされた格好になった。
守備兵に引き摺られるようにして、ミリアンは営倉らしき場所に連れられてきた。
「さっきは手荒なことをして、すまなかったな」
指揮官はミリアンと顔見知りだった。鮮血で汚れた口を拭くようにと、タオルを手渡してきた。
「助かったよ」
守備兵が止めていなければ、民衆に殺されていただろう。ミリアンは抵抗するつもりは無かったが、かといって、命乞いをすることもできない男だった。
「お前らの街から来た難民の犯罪が増えていてね。みな苛立ってるんだ」
怒りも悲しみも無かった。ただ、諦観だけがあった。
「俺達は、この街から追い出されれば、故郷を取り戻すことができなくなる」
「ああ、わかってる。だがな、今の状況がそれを許さんのだ。 悪いが武器を預からせてもらう。帰るときに返す」
ミリアンは黙って腰の剣を渡した。
「街を出て行けとは言わん。いつ俺達の街も襲われるか、そしてお前の立場になるかわからん世の中だ。だがな、もう諦めたらどうだ。死んだ者は帰ってこない」
「諦める? あの街も、記憶も、俺自身なんだ。それはできない」
「そうか……。俺達にお前を止める権利は無いがな……」
ミリアンは営倉から出された。
仲間の元に戻る前に酒場に寄った。下町の汚い酒場では、ミリアンを気にする者はいない。
安い酒をいくら飲んでも、酔うことはできなかった。
これからの事など、全く想像できなかった。
死。その事が頭をよぎった。
街の外では仲間が待っている。皆が死ぬまで戦いを続けるのか。故郷と共に何もかもがこの地上から消えて無くなるまで。
「どうした、暗い顔だな」
黒いコートを羽織った老齢の男が声を掛けてきた。隣のテーブルに座って手招きをしている。
「こっちに来い」
そう言ってミリアンを呼びつけた。
風体はしっかりしており、この酒場には似つかわしくない。
「いろいろ古傷が痛んでな、そっちに行くのが億劫だ」
「誰だ」
「ワシはスターリング。 これはおごりだ、とりあえず座れ」
ぶっきらぼうに酒瓶を差し出してきた。
「軍人か」
顔の傷や身なりから十分類推できた。
「長いこと帝國で働いていた者だ」
「帝國の軍人が、こんなところで何をしている?」
ミリアンは受け取った酒瓶を机に置き、向かい合う形で席に座った。
「お前に会いに来た。外で渦の化け物共と戦っているそうだな」
「ああ、故郷を取り戻すためだ」
「その戦いに勝ち目はあるのか?」
挑発するような言い方ではなかったが、スターリングの質問にミリアンは一瞬言い淀んだ。
「勝ち負けで戦ってるわけじゃない。 あの場所は俺の死に場所なんだ」
絞り出すようにミリアンは言った。
「惰弱な考えだ。目の前の本質から逃げてるだけだな」
スターリングはミリアンを突き放すように言った。
「お前に何がわかる」
「ああ、わからん。負けるための戦いなどな。戦いは勝利のため、価値のためにこそ命を捧げられるものだ」
「帝國ならそれも可能なんだろう。だが渦に飲み込まれた小さな街じゃ、そんなことは戯言みたいなもんだ」
「ワシも渦の脅威と戦ったさ。お前が生まれるずっと前にな。すべて負け戦で撤退戦だった。逃げて逃げて逃げまくった。城を築き、鍵を掛けて引き籠もりもした。そして、こうして生き残った」
「それが誇りある戦いだったと言うのか?」
「ワシはこうして二本の足で立っている。たしかに、今じゃうまくは歩けなくなった。だがな、誇りも希望も失っていない」
「俺に説教をしに来たのか?」
「いや、協力を頼みに来た」
グラスを傾け、酒をぐいとスターリングは飲んだ。随分と飲んでいるようだが、あまり態度に変化はない。
「それにしては、ずいぶんと腐してくれる」
「ワシは口がうまくない。所詮、軍人だ。嘘も苦手だ。だがな、男を見る目はあるつもりだ。戦士としてのな」
「戦士か」
「我々は渦と戦える男達を集めている。渦の化け物だけじゃない、渦自体と戦うことのできる男だ」
「帝國がか?」
「いや、このヨーラス大陸全土から集める。新しい組織だ」
「渦と戦う? どうやってだ。渦に近寄って帰ってきた者などいないぞ」
「そう。だが、我々にはパンデモニウムのエンジニア達がついている。奴らが戦士を集めているのだ。ワシは戦士をまとめる立場となっている」
「エンジニアか。ならば、あいつらのテクノロジーとやらで片付ければいい話じゃないのか?」
「エンジニアだけでは遂行できない作戦だ。何しろ渦まで行って帰ってくることなど、あの青瓢箪のエンジニア共には不可能だからな」
そう言うと、大きな声で笑った。
「お前のような歴戦の勇士の力が必要なのだ。お前は化け物を恐れていない」
憎めない人物だとミリアンは感じていた。戦場において何度も絶望を味わってきたであろうにも関わらず、決して希望を失わないその姿勢に、憧れに似た感情を抱いた。
「なるほど」
「失ったお前の街を取り戻すことができるかもしれん。協力してくれるか?」
「戦う場所はどこでもいい。あの街を取り戻すことができるのなら」
「そうか、よかった」
スターリングは乾杯のグラスを掲げた。その老人の笑顔は少年のような力の満ちたものに、ミリアンは感じた。
「—了—」