新啟用的人工智能,已預先設定了十三、四歲左右少女的人格。
不過這個人格過於年幼,要她在戰場上執行指揮工作,有點勉強。
必需要重新設定另一個假想人格,為此,泰瑞爾使用了解析法典所獲得的技術。
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貝琳達的修改已經到了尾聲。
「早安,主人」
貝琳達的假想人格,是依據事先匯入電子頭腦的知識與假想記錄,讓她成為與外貌相符的人格。
舉手投足之間就像是位優雅的女性,不知情的人大概不會認為她不是人類吧。
能做到這種程度,是以最接近人類的假想人格構築而成。
加上,搭載了凝固空氣中水份做出冰盾的自我防衛機制。
至此完成了貝琳達,並送往了古朗德利尼亞帝國。
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索克與古朗德利尼亞帝國的席道爾將軍握手。在那個場合裡,泰瑞爾身為貝琳達的製造負責人也在場。
「伊奧席夫導師近來好嗎?」
「是的。導師正在進行武裝船的最後調整」
貝琳達雖然已經完成了,但是武裝船還有部份小問題。
「這樣啊,反正我也想去看看武裝船的情況,等會兒我再去問伊奧席夫好了」
席道爾點頭敬個禮後,接著便將視線轉往在索克背後的貝琳達。
「貝琳達,向席道爾將軍問好」
在泰瑞爾的催促聲下,貝琳達優雅地走向席道爾面前敬禮。
「席道爾將軍,初次與您見面。我是貝琳達」
貝琳達給了席道爾一個微笑。那個微笑看起來有點像個稚氣的少女。
「那麼,席道爾將軍。貝琳達今後就請您多多指教」
「哈哈哈,交給我。有了她,必定會給帝國帶來龐大的戰果」
一路向領土擴張邁進,身為殘酷人物的席道爾,或許因為有女性在面前的緣故吧,刻意表現出大器的一面。
就這樣,貝琳達作為將校被分派於古朗德利尼亞帝國。
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一個月之後,貝琳達的初征戰果報告送到了泰瑞爾手中。
上面記載了貝琳達所率領的武裝船急襲部隊的戰果驚人,帝國軍得到完全的勝利。
武裝船與貝琳達配合狀況良好,足以確定沒有必要再進行調整。
看了報告的泰瑞爾,便將心力投入於下一個兵裝開發計畫中。
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正集中心力在新計畫概要時,泰瑞爾接到了所長的緊急召集。
到了所長室,艾格林所長與林奈烏斯已經表情嚴厲地在等著泰瑞爾。
「發生什麼事了嗎?」
「簡單來說,從地上傳來了緊急報告。說在托雷依德永久要塞攻略作戰時,貝琳達暴走,並且發現了不是原先內建的異常力量」
「怎麼回事?」
聽了報告的泰瑞爾,稍稍皺了眉頭。
貝琳達是個機械,假使暴走了,也不可能發揮規格以上的力量。
「貝琳達與古魯瓦爾多·隆茲布魯戰鬥後,向四周圍放射出紫色的瓦斯狀物質。然後,不論是帝國還是連合國的死者們都起身開始活動了起來」
艾格林將托雷依德永久要塞的戰鬥紀錄放映在螢幕上。
是由裝在武裝船上的監視錄影機所記錄的影像。貝琳達被敵國的將軍砍倒,受了相當大的損傷。
從貝琳達的腹部流出了人工體液,隨即功能全部停止。但是,在數十秒後貝琳達起身向四周圍放射出紫色的瓦斯狀物質。
同時,周圍的屍體也站了來。這個現象似乎是透過瓦斯散播,武裝船周邊瞬間被該稱為屍體的集團所覆蓋。
看了成了地獄的托雷依德永久要塞的影像,泰瑞爾啞口無言。
「報告上指出瓦斯至消散為止大約二十四小時,這些死者們持續地對活體做出攻擊行動,之後又恢復成一般的屍體」
「我最後有進行過運轉確認,我並沒有安裝會引起這個狀況的裝置!」
貝琳達的假想人格是使用從法典中所獲得的技術,因此,最後進行運轉確認時,是在理事會的監視下嚴密進行。也就可以證明,即使身為指導開發者的泰瑞爾,也不可能秘密安裝與規格不符的系統。
確實,曾經有在貝琳達身上安裝過甦醒裝置。但是,由於還是個半成品,所以在進行這次的修改之前就已經取出。
對泰瑞爾以及研究所,還有理事會來說,這次貝琳達的暴走完全是預料之外的事。
「理事會直接下達了命令,要求盡快查明原因。調查則由我與林奈烏斯以及理事會直屬的工程師跟你一起進行」
研究所的最高負責人與理事會直屬的工程師將參與調查,從此可以看出出貝琳達暴走的事件有多重大。
「明白了。我馬上調查,貝琳達現在在哪裡?」
「貝琳達在帝國軍的決死隊努力之下總算停止功能。現在正送來潘德莫尼的途中,有關調查的日期隨後再聯絡你」
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隔天,到了研究所後馬上就接到了貝琳達已運至中央統籌中心研究設施的消息。
「現在開始檢疫瓦斯是否有殘留,我們的調查將在檢疫完成後,在中央統籌中心進行」
「了解,我會先做好調查的準備工作」
「這次的調查,上面要求也要調查法典的解析檔案。無論解析的程度多少,所有檔案都先準備一下」
時間在泰瑞爾焦躁慌忙中經過。
泰瑞爾匯總了法典的解析資料及貝琳達的資料全部,包含失敗及成功的紀錄,將數年來龐大的研究結果傳給了中央統籌中心的研究設施。
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二天後,檢疫結束的通知來了。
檢疫的報告書中,指出並沒有散佈瓦斯的裝置,以及貝琳達身上沒有附著瓦斯成份等各種訊息。
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貝琳達的調查終於開始了。泰瑞爾邊將殘留在貝琳達電子頭腦的記錄重新播放,邊檢查貝琳達的機能發生了什麼事。
艾格林和林奈烏斯,則是將構成貝琳達軀體的裝置一個一個地調查是否有異常。
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重播貝琳達的記錄。將席道爾將軍和下士官的對話、首次對戰的記錄等等再次播放。
『戰場,劍戟交錯時的高亢聲響,還有血與塵埃的臭味。啊啊……』
貝琳達所說的一部分話語被播放出來,設定是在戰場指揮的女將軍,所以稍微有點偏激的想法。因此,像這樣的發言還屬於正常的範圍。
接著,首次對戰記錄被播放。記錄著初次實際對戰而導致的高昂情感,但如果是這樣的程度,也不算是特別顯著的異常。
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然後轉為托雷依德永久要塞的對戰記錄,看到緊急徵招時,播放著和敵人的戰鬥記錄。
敵人的劍襲來,大大的撼動著貝琳達的情緒波動。記錄著貝琳達的情緒波動變成對『死』的恐怖思考。
記錄中的思考演變出文字,然後將這個思考的流程與動搖的情緒波動,和那時正在運作的裝置記錄對照。
『……還不能死』
『在我死前,要有更多的死』
『要將更多的人置於死地』
『為了實現那些還需要什麼』
『是死亡的力量』
『追求死亡的力量吧!』
對於極盡完美力量的渴望。這樣的思考和情緒波動達到最高潮時,貝琳達的周圍出現了紫色瓦斯狀物質。
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泰瑞爾叫來艾格林他們,說明這個情緒波動是暴走的關鍵。
「或許與混沌元素電池的汙損有關係也不一定,看看電池的記錄吧」
對照艾格林他們的調查結果和泰瑞爾確認的情緒波動記錄。
結果,貝琳達在記錄這個思考前,確認出敵人的刀劍已損傷了貝琳達體內的混沌元素電池。
武裝船所記錄的各種數值和影像,然後依照貝琳達本身的測量記錄,得知混沌元素能量就像是被貝琳達挖出來似地漏出來。
「跟發現聖騎士力量的記錄很相似」
看過比對結果的理事會直屬工程師奇達拉,提出一個可能性。
「貝琳達是機械,應該不可能……」
「雖然是荒唐無稽的假設,但是貝琳達的電子頭腦是仿造人類頭腦的精巧設計。所以說,因混沌元素受到汙染而得到與『聖騎士力量』相同的能力也是十分有可能的」
「但是,依照現在貝琳達的狀況,要驗證是幾乎不可能的」
林奈烏斯說出所憂慮的事。
確實奇達拉的假設說到了重點,有必要測試貝琳達的力量和聖騎士的力量是否有類似性。
但是,不管多麼嚴密的管理,貝琳達的力量是足以翻覆托雷依德永久要塞的程度。在無法保證能夠正確控制那個力量的情況下,要做實驗和檢證太過於危險。
泰瑞爾的腦裡浮現了『報廢』兩個字,理事會一定不會允許潘德莫尼無法操控的力量存在。
要是被下令報廢,泰瑞爾的法典研究也就一起報廢了。這讓泰瑞爾的心變得沉重起來,對研究者來說自己的努力被歸零,等於跟死沒兩樣。
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貝琳達的調查全部結束了。
調查中得到的假設和結論整理好之後,在艾格林檢查過後,泰瑞爾帶著極為悲傷的心情交出報告書。
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交出貝琳達力量的報告書後隔月,泰瑞爾被喚到所長室去。
「修復好貝琳達,並且完全去掌控那個能力的命令下來了」
等待著泰瑞爾的是,來自指導者蕾格烈芙的命令。
「不是要報廢,而是修復嗎?」
「地上的混亂仍舊持續著。現階段下,需要貝琳達的日子終究會到來的。這是蕾格烈芙大人的指示」
艾格林淡淡地繼續說著。
「因此命令你,在需要貝琳達之前把那能力搞清楚,確實地控制那股力量」
泰瑞爾認為,這是蕾格烈芙賜予的機會。
既然都得到機會了,無論如何也要駕馭那個力量,加以控制才行。
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一定要挽回這次的失敗,去證明自己的研究是正確的,才有可能去實現潘德莫尼所提倡的『地上的平定』來讓世人知道。
泰瑞爾一個人靜靜地下定了決心。
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「─完─」
3394年 「汚染」
新規に使用される人工知能には、既に十三、四歳くらいの少女の人格が与えられていた。
しかしこの人格はあまりにも幼く、戦場で指揮を執ることには到底無理がある。
対応策として別の仮想人格を上書きする必要があり、そのために、タイレルが解析したコデックスの技術が使われることになった。
ベリンダの改修は大詰めを迎えていた。
「おはようございます、マスター」
ベリンダの仮想人格は、電子頭脳に予めインプットされた知識と仮想記録によって、外見相応の完成した人格として目覚めた。
立ち居振る舞いは優雅な女性そのものであり、何も知らない者には人間であるとしか思えないだろう。
それ程までに、限りなく人間に近い仮想人格が構築できていた。
加えて、新たに空中の水分を凝固させて氷の盾を作り出す自己防御機構を搭載した。
これによってベリンダは完成し、グランデレニア帝國へ送り込まれることとなった。
ソングとグランデレニア帝國のシドール将軍が握手を交わす。その場面に、タイレルはベリンダの製造責任者として立ち会っていた。
「イオースィフ導師は元気かね?」
「はい。導師は現在ガレオンの最終調整を行っています」
ベリンダは完成したものの、ガレオンには少々の問題が残っていた。
「そうか。いずれにせよガレオンの様子も見たい。後程こちらから伺うとしよう」
シドールは大きく頷く。そして、ソングの背後にいるベリンダに視線を移した。
「ベリンダ、シドール将軍にご挨拶を」
タイレルに促されると、ベリンダは優雅な足取りでシドールの前に立って一礼する。
「お初にお目にかかります。ベリンダと申します、シドール将軍」
ベリンダはシドールに微笑を向けた。その微笑は、どこかあどけない少女を思わせる。
「では、シドール将軍。ベリンダをよろしくお願いします」
「ははは、任せろ。彼女によって、帝國は必ずや絶大な戦果を上げるに違いない」
領土拡張に邁進し、苛烈な人物であるシドールだが、女性の前であると考えたのか、鷹揚に頷いてみせた。
こうして、ベリンダはグランデレニア帝國の将校として配属された。
それから一ヶ月後、ベリンダの初陣に関する戦果報告がタイレルの元に届けられた。
ベリンダ率いるガレオン急襲部隊の戦果は凄まじく、帝國軍の完勝であったことが記されていた。
ガレオンとベリンダの同調も良好であり、これ以上の再調整や改修の必要性はないと判断するに足りるものであった。
その結果を見たタイレルは、次の兵装開発プランに力を入れるのであった。
新たなプランの概要が纏まってきた頃、タイレルは緊急召致によって所長に呼び出された。
所長室では、オルグレン所長とリンナエウスが険しい表情でタイレルを待っていた。
「何かあったのですか?」
「手短に済ませよう。地上からの緊急報告が入った。トレイド永久要塞攻略作戦においてベリンダが暴走し、仕様にはない異常な力を発現したとのことだ」
「どういうことですか?」
報告を聞いたタイレルは、僅かながら眉を顰めた。
ベリンダは機械である。例え暴走したとしても、スペック以上の力を発揮することなど有り得ない話だ。
「ベリンダはグリュンワルド・ロンズブラウとの戦闘後、周囲に紫色のガス状物質を放出。その後、帝國、連合国を問わず、死者が起き上がって活動を開始した」
オルグレンはモニターにトレイド永久要塞での戦闘記録を映し出す。
ガレオンに搭載された監視カメラによる記録映像だ。ベリンダが敵国の将軍によって切り伏せられ、甚大な損傷を負っている。
ベリンダの腹部からは人工体液が溢れており、間もなく全ての機能を停止した。だが、その十数秒後にベリンダは立ち上がり、周囲に紫色の毒々しいガス状物質を撒き散らした。
同時に、周囲の死体が起き上がる。その現象はガスの散布によって伝播しているようで、瞬く間にガレオンの周辺は死者の集塊とも称すべきものに覆い尽くされた。
地獄と化したトレイド永久要塞の映像に、タイレルは絶句するしかできなかった。
「ガスが霧散するまでの約二十四時間、この死者達は生体への攻撃行動を続け、その後、通常の死体へ戻ったと報告されているね」
「最終稼働チェックも行いました。私はこの様な状況を引き起こす装置などは搭載していません!」
ベリンダの仮想人格にはコデックスから得た技術を使用している。そのため、最終稼働チェックはカウンシル立会いの下で厳密に行われた。つまりそれは、主任開発者であるタイレルであろうと、秘密裏に仕様とは異なるシステムを組み込むことは不可能であることを証明している。
確かに、ベリンダに死者蘇生装置を組み込んだことはあった。がしかし、あまりにも未完成であったため、それは今回の改修が行われる以前に取り外している。
タイレルや研究所、そしてカウンシルにとっても、今回のベリンダの暴走は完全に想定外の事態であった。
「速やかに原因を究明せよと、カウンシルから直々に命が下った。調査には私とリンナエウス、そしてカウンシル直下のエンジニアも加わる」
研究所の最高責任者とカウンシル直属のエンジニアが調査に参加する。ベリンダの暴走が引き起こした事の重大さを物語っている。
「わかりました。究明を急ぎます。ベリンダは今どこに?」
「ベリンダは帝國軍の決死隊によって何とか機能を停止。現在、パンデモニウムに輸送中だ。調査の日時については追って連絡する」
ベリンダが中央統括センターの研究施設に運ばれたとの報告を受けたのは、翌日、研究所に出所してすぐのことであった。
「これから例のガスが残留していないか等の検疫が開始される。我々の調査は検疫で問題ないことが確認され次第、中央統括センターで開始する」
「わかりました。調査の準備を進めておきます」
「今回の調査では、併せてコデックスの解析データも調査せよとの命令が出ている。解析の程度に関わらず、全てのデータを用意してくれ」
落ち着かず慌しい時間がタイレルの中で過ぎていく。
コデックスの解析資料やベリンダの資料を全て纏め、失敗も成功も含め、数年間の膨大な研究結果を中央統括センターの研究施設に転送した。
検疫の終了告知があったのは、それから二日後であった。
検疫の報告書には、ガスを散布する装置が存在していないこと、ガスの成分がベリンダに付着していないことなど、様々な内容が書かれていた。
いよいよベリンダの調査が開始された。タイレルはベリンダの電子頭脳に残された記録を再生しながら、ベリンダの機能に何が起きたのかを探っていく。
オルグレンやリンナエウスは、ベリンダの躯体を構成する一つ一つの装置に不具合がないかを調査していく。
ベリンダの記録が再生される。シドール将軍や下士官との会話、初陣の記録などが再生される。
『戦場、音高く響く剣戟、そして血と埃の臭い。ああ……』
ベリンダの言葉の一部が再生された。戦場で指揮を執る女将軍を想定し、やや過激な思考をするように構築している。そのため、この種の発言は正常な範囲に納まるといってよい。
次いで、初陣の記録が再生される。初めての実戦による感情の高揚が記録されていたが、あくまでもその程度であり、特に目立った異変は起きていなかった。
そしてトレイド永久要塞での戦闘記録に移り、緊急召致の際に見た、敵将との戦闘記録が再生される。
敵将の剣が迫り、ベリンダの情動が激しく揺れ動く。ベリンダの情動は『死』への恐怖と、ある思考を記録していく。
記録された思考を文字として起こす。そしてこの思考の流れを、揺れ動く情動記録やその時に稼働していた装置の記録などと照合していく。
『……まだ死ねない』
『私が死ぬ前に、もっと多くの死を』
『もっと多くの者を死に追い遣るのだ』
『そのためには何が必要か』
『死の力だ』
『死の力を求めよ!』
凄まじいまでの力への渇望。この思考と情動が最高潮に高まったとき、ベリンダの周囲に紫色のガス状物質が出現していた。
タイレルはオルグレン達を呼び、この情動に暴走の鍵があると説明した。
「ケイオシウムバッテリーの汚損と関係があるかもしれんな。バッテリーの記録を参照してみよう」
オルグレン達の調査結果とタイレルが確認した情動の記録を照合する。
結果、ベリンダがこの思考を記録する直前に、敵将の剣戟がベリンダの体内にあるケイオシウムバッテリーを傷付けていたことが確認された。
ガレオンが記録していた様々な数値と映像記録、そしてベリンダ自身の計測記録によって、ケイオシウムのエネルギーがベリンダを取り巻くように漏れ出した形跡が認められた。
「聖騎士の力が発現した記録とよく似ているな」
照合結果を見ていたカウンシル直属エンジニアであるキュトラが、一つの可能性を提示した。
「ベリンダは機械です。そのようなことが起こる筈が……」
「荒唐無稽な仮説ではあるが、ベリンダの電子頭脳は人間の脳を模した精巧なものだ。であれば、ケイオシウム汚染によって『聖騎士の力』と同様の力を得た可能性は十分に考えられる」
「ですが、今のベリンダの状況では、それを検証することは不可能に近いかと」
リンナエウスが危惧を口にする。
確かにキュトラの仮説は的を射ており、ベリンダの力と聖騎士の力の類似性を検証する必要があった。
しかし、どれほど厳密に管理しようとも、ベリンダの力はトレイド永久要塞を覆い尽くす程のものだ。その力を適切にコントロールできるという保障はどこにもなく、実験や検証を進めるにはあまりにも危険すぎる。
タイレルの脳裏に『破棄』の二文字が浮かぶ。パンデモニウムがコントロールできない力など、カウンシルは存在を許さない。
結局、コデックスの研究は無駄になってしまう。そのことがタイレルの心に重くのし掛かっていた。研究者にとって自らの成果が無に帰すということは、死にも等しいのだ。
ベリンダの調査が全て終了した。
調査中に導き出された仮説と結論についても纏め、オルグレンの監修の下、タイレルは断腸の思いで報告書として提出した。
ベリンダの力に関する報告書を提出した翌月、タイレルは所長室へ召致された。
「ベリンダを修復し、その能力を完全にコントロールせよとの勅命が下った」
タイレルを待ち受けていたのは、指導者レッドグレイヴからの命令であった。
「破棄、ではなく?」
「地上の混乱は未だに続いている。現況下では、いずれベリンダが必要となる日が来るであろう。これがレッドグレイヴ様のお言葉だ」
オルグレンは淡々と言葉を続ける。
「よって、ベリンダが必要となる時までにその能力を解明し、確実にコントロール可能にせよとの命令だ」
レッドグレイヴによってチャンスが与えられた。タイレルはそう感じた。
ならば、何としてもあの力を制御下に置き、コントロール可能としなければならない。
今回の失敗を挽回し、己の研究が正しいことを証明し、延いてはパンデモニウムが提唱する『地上の平定』が実現可能だということを世に知らしめるのだ。
タイレルは一人静かに決意するのだった。
「—了—」
新規に使用される人工知能には、既に十三、四歳くらいの少女の人格が与えられていた。
しかしこの人格はあまりにも幼く、戦場で指揮を執ることには到底無理がある。
対応策として別の仮想人格を上書きする必要があり、そのために、タイレルが解析したコデックスの技術が使われることになった。
ベリンダの改修は大詰めを迎えていた。
「おはようございます、マスター」
ベリンダの仮想人格は、電子頭脳に予めインプットされた知識と仮想記録によって、外見相応の完成した人格として目覚めた。
立ち居振る舞いは優雅な女性そのものであり、何も知らない者には人間であるとしか思えないだろう。
それ程までに、限りなく人間に近い仮想人格が構築できていた。
加えて、新たに空中の水分を凝固させて氷の盾を作り出す自己防御機構を搭載した。
これによってベリンダは完成し、グランデレニア帝國へ送り込まれることとなった。
ソングとグランデレニア帝國のシドール将軍が握手を交わす。その場面に、タイレルはベリンダの製造責任者として立ち会っていた。
「イオースィフ導師は元気かね?」
「はい。導師は現在ガレオンの最終調整を行っています」
ベリンダは完成したものの、ガレオンには少々の問題が残っていた。
「そうか。いずれにせよガレオンの様子も見たい。後程こちらから伺うとしよう」
シドールは大きく頷く。そして、ソングの背後にいるベリンダに視線を移した。
「ベリンダ、シドール将軍にご挨拶を」
タイレルに促されると、ベリンダは優雅な足取りでシドールの前に立って一礼する。
「お初にお目にかかります。ベリンダと申します、シドール将軍」
ベリンダはシドールに微笑を向けた。その微笑は、どこかあどけない少女を思わせる。
「では、シドール将軍。ベリンダをよろしくお願いします」
「ははは、任せろ。彼女によって、帝國は必ずや絶大な戦果を上げるに違いない」
領土拡張に邁進し、苛烈な人物であるシドールだが、女性の前であると考えたのか、鷹揚に頷いてみせた。
こうして、ベリンダはグランデレニア帝國の将校として配属された。
それから一ヶ月後、ベリンダの初陣に関する戦果報告がタイレルの元に届けられた。
ベリンダ率いるガレオン急襲部隊の戦果は凄まじく、帝國軍の完勝であったことが記されていた。
ガレオンとベリンダの同調も良好であり、これ以上の再調整や改修の必要性はないと判断するに足りるものであった。
その結果を見たタイレルは、次の兵装開発プランに力を入れるのであった。
新たなプランの概要が纏まってきた頃、タイレルは緊急召致によって所長に呼び出された。
所長室では、オルグレン所長とリンナエウスが険しい表情でタイレルを待っていた。
「何かあったのですか?」
「手短に済ませよう。地上からの緊急報告が入った。トレイド永久要塞攻略作戦においてベリンダが暴走し、仕様にはない異常な力を発現したとのことだ」
「どういうことですか?」
報告を聞いたタイレルは、僅かながら眉を顰めた。
ベリンダは機械である。例え暴走したとしても、スペック以上の力を発揮することなど有り得ない話だ。
「ベリンダはグリュンワルド・ロンズブラウとの戦闘後、周囲に紫色のガス状物質を放出。その後、帝國、連合国を問わず、死者が起き上がって活動を開始した」
オルグレンはモニターにトレイド永久要塞での戦闘記録を映し出す。
ガレオンに搭載された監視カメラによる記録映像だ。ベリンダが敵国の将軍によって切り伏せられ、甚大な損傷を負っている。
ベリンダの腹部からは人工体液が溢れており、間もなく全ての機能を停止した。だが、その十数秒後にベリンダは立ち上がり、周囲に紫色の毒々しいガス状物質を撒き散らした。
同時に、周囲の死体が起き上がる。その現象はガスの散布によって伝播しているようで、瞬く間にガレオンの周辺は死者の集塊とも称すべきものに覆い尽くされた。
地獄と化したトレイド永久要塞の映像に、タイレルは絶句するしかできなかった。
「ガスが霧散するまでの約二十四時間、この死者達は生体への攻撃行動を続け、その後、通常の死体へ戻ったと報告されているね」
「最終稼働チェックも行いました。私はこの様な状況を引き起こす装置などは搭載していません!」
ベリンダの仮想人格にはコデックスから得た技術を使用している。そのため、最終稼働チェックはカウンシル立会いの下で厳密に行われた。つまりそれは、主任開発者であるタイレルであろうと、秘密裏に仕様とは異なるシステムを組み込むことは不可能であることを証明している。
確かに、ベリンダに死者蘇生装置を組み込んだことはあった。がしかし、あまりにも未完成であったため、それは今回の改修が行われる以前に取り外している。
タイレルや研究所、そしてカウンシルにとっても、今回のベリンダの暴走は完全に想定外の事態であった。
「速やかに原因を究明せよと、カウンシルから直々に命が下った。調査には私とリンナエウス、そしてカウンシル直下のエンジニアも加わる」
研究所の最高責任者とカウンシル直属のエンジニアが調査に参加する。ベリンダの暴走が引き起こした事の重大さを物語っている。
「わかりました。究明を急ぎます。ベリンダは今どこに?」
「ベリンダは帝國軍の決死隊によって何とか機能を停止。現在、パンデモニウムに輸送中だ。調査の日時については追って連絡する」
ベリンダが中央統括センターの研究施設に運ばれたとの報告を受けたのは、翌日、研究所に出所してすぐのことであった。
「これから例のガスが残留していないか等の検疫が開始される。我々の調査は検疫で問題ないことが確認され次第、中央統括センターで開始する」
「わかりました。調査の準備を進めておきます」
「今回の調査では、併せてコデックスの解析データも調査せよとの命令が出ている。解析の程度に関わらず、全てのデータを用意してくれ」
落ち着かず慌しい時間がタイレルの中で過ぎていく。
コデックスの解析資料やベリンダの資料を全て纏め、失敗も成功も含め、数年間の膨大な研究結果を中央統括センターの研究施設に転送した。
検疫の終了告知があったのは、それから二日後であった。
検疫の報告書には、ガスを散布する装置が存在していないこと、ガスの成分がベリンダに付着していないことなど、様々な内容が書かれていた。
いよいよベリンダの調査が開始された。タイレルはベリンダの電子頭脳に残された記録を再生しながら、ベリンダの機能に何が起きたのかを探っていく。
オルグレンやリンナエウスは、ベリンダの躯体を構成する一つ一つの装置に不具合がないかを調査していく。
ベリンダの記録が再生される。シドール将軍や下士官との会話、初陣の記録などが再生される。
『戦場、音高く響く剣戟、そして血と埃の臭い。ああ……』
ベリンダの言葉の一部が再生された。戦場で指揮を執る女将軍を想定し、やや過激な思考をするように構築している。そのため、この種の発言は正常な範囲に納まるといってよい。
次いで、初陣の記録が再生される。初めての実戦による感情の高揚が記録されていたが、あくまでもその程度であり、特に目立った異変は起きていなかった。
そしてトレイド永久要塞での戦闘記録に移り、緊急召致の際に見た、敵将との戦闘記録が再生される。
敵将の剣が迫り、ベリンダの情動が激しく揺れ動く。ベリンダの情動は『死』への恐怖と、ある思考を記録していく。
記録された思考を文字として起こす。そしてこの思考の流れを、揺れ動く情動記録やその時に稼働していた装置の記録などと照合していく。
『……まだ死ねない』
『私が死ぬ前に、もっと多くの死を』
『もっと多くの者を死に追い遣るのだ』
『そのためには何が必要か』
『死の力だ』
『死の力を求めよ!』
凄まじいまでの力への渇望。この思考と情動が最高潮に高まったとき、ベリンダの周囲に紫色のガス状物質が出現していた。
タイレルはオルグレン達を呼び、この情動に暴走の鍵があると説明した。
「ケイオシウムバッテリーの汚損と関係があるかもしれんな。バッテリーの記録を参照してみよう」
オルグレン達の調査結果とタイレルが確認した情動の記録を照合する。
結果、ベリンダがこの思考を記録する直前に、敵将の剣戟がベリンダの体内にあるケイオシウムバッテリーを傷付けていたことが確認された。
ガレオンが記録していた様々な数値と映像記録、そしてベリンダ自身の計測記録によって、ケイオシウムのエネルギーがベリンダを取り巻くように漏れ出した形跡が認められた。
「聖騎士の力が発現した記録とよく似ているな」
照合結果を見ていたカウンシル直属エンジニアであるキュトラが、一つの可能性を提示した。
「ベリンダは機械です。そのようなことが起こる筈が……」
「荒唐無稽な仮説ではあるが、ベリンダの電子頭脳は人間の脳を模した精巧なものだ。であれば、ケイオシウム汚染によって『聖騎士の力』と同様の力を得た可能性は十分に考えられる」
「ですが、今のベリンダの状況では、それを検証することは不可能に近いかと」
リンナエウスが危惧を口にする。
確かにキュトラの仮説は的を射ており、ベリンダの力と聖騎士の力の類似性を検証する必要があった。
しかし、どれほど厳密に管理しようとも、ベリンダの力はトレイド永久要塞を覆い尽くす程のものだ。その力を適切にコントロールできるという保障はどこにもなく、実験や検証を進めるにはあまりにも危険すぎる。
タイレルの脳裏に『破棄』の二文字が浮かぶ。パンデモニウムがコントロールできない力など、カウンシルは存在を許さない。
結局、コデックスの研究は無駄になってしまう。そのことがタイレルの心に重くのし掛かっていた。研究者にとって自らの成果が無に帰すということは、死にも等しいのだ。
ベリンダの調査が全て終了した。
調査中に導き出された仮説と結論についても纏め、オルグレンの監修の下、タイレルは断腸の思いで報告書として提出した。
ベリンダの力に関する報告書を提出した翌月、タイレルは所長室へ召致された。
「ベリンダを修復し、その能力を完全にコントロールせよとの勅命が下った」
タイレルを待ち受けていたのは、指導者レッドグレイヴからの命令であった。
「破棄、ではなく?」
「地上の混乱は未だに続いている。現況下では、いずれベリンダが必要となる日が来るであろう。これがレッドグレイヴ様のお言葉だ」
オルグレンは淡々と言葉を続ける。
「よって、ベリンダが必要となる時までにその能力を解明し、確実にコントロール可能にせよとの命令だ」
レッドグレイヴによってチャンスが与えられた。タイレルはそう感じた。
ならば、何としてもあの力を制御下に置き、コントロール可能としなければならない。
今回の失敗を挽回し、己の研究が正しいことを証明し、延いてはパンデモニウムが提唱する『地上の平定』が実現可能だということを世に知らしめるのだ。
タイレルは一人静かに決意するのだった。
「—了—」