「老師!我喜歡你!我好喜歡你!」
「……謝謝妳。我也很喜歡妳喔,夏洛特」
說完,凱倫貝克老師露出了我第一次見到的甜美笑容,緊緊地將我抱入懷中。
多麼幸福啊,我是多麼幸福的人啊。一這麼想,眼淚就自然地從眼眶中滿溢而出。
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正當我要享受在老師懷裡幸福的那一瞬間,我清醒了過來。
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對現在的我來說告白就是一切。就連本來應該感到幸福的這個夢境,對現在的我來說只是個惡夢。
畢竟,凱倫貝克老師心裡有著誰也不能撼動的重要存在。並且,老師心裡也沒有空隙能回應我這不成熟的愛慕。
雖然我懂,但我還是像暖爐的餘燼般不斷地祈求能向老師傳達這份思念。
不斷激勵自己感到挫折的心,不斷默默尋找著能夠跟老師告白的那個瞬間。
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祭事的前一天。也就是說凱倫貝克老師就要在大半夜悄悄離開的那天傍晚。我偶然在音樂教室裡遇到正在辦公的老師。
那時候,我是因為忘了東西在音樂教室,所以才要回去拿的。
「啊,老師……」
「真難得呢,夏洛特。是忘了什麼東西嗎?」
「是的。我好像忘了拿樂譜……」
在無數次輪迴的這一個禮拜中,終於找到了這個機會。
因為緊張而撲通撲通跳動著的心臟聲,不知道有沒有被老師給聽到。我已經緊張到全身都都緊繃起來了。
但是,要是錯過這次機會的話,又要從一個禮拜前重新來過了。
「那個……,老師」
「怎麼了嗎?」
「我,那個……」
硬是讓像早鐘般令人煩躁的心跳聲穩定下來之後,就是我一直在朝思暮想的那個時刻了。
「凱倫貝克,你在這裡啊」
祭司大人進入了音樂室。
「祭司大人,有什麼事嗎?」
「嗯。抱歉,是關於之前的那件事」
祭司大人的話語,明顯地看得出讓老師臉上的表情消失了。
「夏洛特,抱歉。我得走了」
「等等──」
「抱歉了,夏洛特。是很重要的事情」
被二人以嚴肅的表情這樣說道,像我這樣普通的少女沒有能夠拉住老師的可能性。
「明天就是正式演出了。早點回宿捨休息吧。明天見了」
一邊這個樣說著一邊溫柔地摸了摸我頭頂的老師,跟著祭司大人慌忙地離開了音樂教室。
為了我而硬是做出來的笑臉,像是抽筋扭曲般的溫柔表情,告訴了我殘酷的字句。
明明明天就見不到了,老師明明就知道明天他已經不在了。
這是何等殘酷的話語啊。
|
那天凱倫貝克老師離開的時候,我沒有在場。
之前老師一直都是在大半夜離開的,但是整個教會都沒有找到老師。
隔天問過祭司大人之後才知道,老師在跟祭司大人談完之後,就立刻啟程了。
|
沒能夠活用少數的機會而失敗了,然後又回到了一個禮拜之前。
已經重複幾次同樣的事情了呢。
沒能成功告白的記憶,就跟凱倫貝克老師離開那天下的雪一樣,在我的心中靜靜地堆積了起來。
已經下定決心不管要重複幾次這一個禮拜都無所謂,一定要成功告白。但是,在經歷過數不清的失敗之後,我的心境慢慢有了變化。
一點點地一點點地,我的心從決心逐漸轉變成了放棄。
|
就好像是反映出了我心靈的磨耗一般,我在重複一個禮拜中,有一半的時間都因為發燒而臥病在床。
「身體還好吧?夏洛特」
「老、師……」
臥病在床的日子雖然凱倫貝克老師一定會來探望我,但是我的喉嚨卻因為病魔發威的關係,無法說出話語。
但是,我心中的某個部分卻感覺到了滿足。
一直一直,只要永遠重複這些日子不就好了嗎。我的心被這樣的黑暗的感情給逐漸覆蓋。
既然沒辦法傳達自己心意的話,乾脆就不斷看著擔心自己而來探望的老師不就好了嗎,我不禁這樣想著。
|
就這樣,在開始輪迴的一個禮拜不斷重複讓老師來探望自己的時候,開始會夢到不可思議的夢了。
剛開始大約是個一個禮拜一次的程度,會做這個夢。
像是充滿了迷霧般不清不楚的,一開始還以為是發高燒的關係。
但是,在經過幾次的輪迴之後,終於變成每天晚上都會夢到這個夢了。
|
每次夢到這個夢,跟每次回到聖歌隊練習中時,本來模糊的這個夢就變得越來越鮮明。
|
變得鮮明的這個夢,是凱倫貝克老師跟不認識的老人,在像是豪華聖堂的地方戰鬥。
老師操控著我所不知道的小提琴聲,似乎在以此攻擊著那個老人。
一般來說,用聲音對人造成危害是不可能的。但是,要是就跟我唱出特別的歌不斷重複著最後的一個禮拜一樣,老師知道可以攻擊他人的樂曲的話,是十分有可能的。
老人也揮動拐杖使出可疑的術法,跟老師對峙著。
看老人的嘴巴在動,應該是在說些什麼吧。老師的嘴巴,看起來也像是在回應老人的話語般動著。
但是,不管是老師的話,還是老人的話,哪邊我都沒辦法聽清楚。
|
老師跟老人的戰鬥相當地激烈。
可以說是術法跟聲音在空中衝撞吧。
衝擊強到,連我周圍的空間都在震動的感覺。
夢中的我雖然就像是空氣般的存在,但是不知道為什麼就是能夠感受到那個衝擊。
然後,術法跟聲音的互不相讓的持續一陣子後,終於迎來了結束。
老人假裝被打倒,以偷襲的方式放出了發光的不可思議紋樣。
老師防不住這突如其來的一擊,總是必定輸掉。
|
老師膝蓋著地。雖然已經是看過無數次的景象,但每次我看到這景象都還是覺得心裡一緊。
老師的身體四處流出鮮血,看起來隨時都要倒下,但是卻死命撐著要站起身。
老人似乎對著老師在說著什麼,但聽不清楚。
老師以朦朧的意識,悔恨地聽著老人的話。
老人笑了出來。在我看起來,老人漏出露出醜惡的笑容,像是在嘲笑著老師一樣。
「老師!老師!!」
我忍不住叫出了聲,跑向了老師的身邊。
但是,這是夢。就只是夢。
我沒辦法碰觸到老師,就只能呆站在老師前方。
|
在老師完全倒下的同時,我就醒了過來。
|
「嗚、嗚……」
凱倫貝克老師受傷倒下的身影,讓我哭了出來。
這個夢到底是怎麼一回事。
是不斷告白失敗的我的心讓我看到的嗎。還是,特別的歌發揮了其他能力讓我看到了老師的未來嗎。
|
「請告訴我,凱倫貝克老師……」
這句話,被除了我以外誰也不在的房間給吸收,漸漸消失在寂靜之中。
|
「─完─」
3274年 「諦めの日」
「先生! 好きです! 好きなんです!」
「……ありがとう。僕も君のことが大好きだよ、シャーロット」
そう仰って、カレンベルク先生は私が初めて見るような甘い甘い笑みを浮かべ、私を抱き締めてくださいました。
なんて幸せなのだろう。私はなんて幸福な人間なのだろう。そう思うと、自然と目から涙が溢れ出てきます。
先生の腕の中で幸福を噛み締めようとしたその刹那、私は目を覚ましました。
今の私にとっては思いを告げることが全てです。本来なら幸せに感じる筈のこの夢も、今は悪夢以外の何ものでもありません。
そもそも、カレンベルク先生には何者にも揺るがされないほどに大切な誰かがいらっしゃるのです。そして、私の幼い恋慕に応えてくれる心の隙間は、先生には存在しません。
それを理解してなお、私はこの暖炉の残り火のように燻り続ける思いを先生に伝えたいと願っています。
挫けそうな心を何とか奮い立たせ、私は先生に思いを告げるその瞬間を、じっと探し続けるしかないのです。
祭事の一日前。つまりカレンベルク先生が真夜中にひっそりと旅立ってしまわれる日の夕方。偶然にも私は音楽室で作業をしている先生と会うことができました。
その時、私は音楽室に忘れ物をしていて、それを取りに行ったのです。
「あ、先生……」
「珍しいね、シャーロット。忘れ物かな?」
「はい。楽譜を忘れたみたいで……」
何度も繰り返した一週間の中で、ようやっと巡ってきた機会でした。
緊張でどくどくと脈打つ心音が先生に聞こえてしまわないだろうか。それくらいに緊張で硬くなってしまいます。
でも、この機会を逃せば、また一週間前からのやり直しです。
「あの……、先生」
「何だい?」
「私、その……」
早鐘のように煩い心音を無理矢理に落ち着かせ、思いを伝えようとしたその時でした。
「カレンベルク、ここにいたのか」
司祭様が音楽室に入ってこられました。
「司祭様、どうかなさいましたか?」
「ああ。すまないが例の件で話がある」
司祭様の言葉で、先生のお顔から表情が消えるのが見て取れました。
「シャーロット、すまない。行かなければ」
「待って——」
「すまないな、シャーロット。大事な用なのだ」
お二人に厳しい表情でそう言われてしまえば、ただの少女である私が先生を引き止めることなど、できる筈がありません。
「明日は本番だからね。早く宿舎に戻って休むんだよ。じゃあ、また明日」
そう仰って私の頭を優しく撫でてくださった先生は、司祭様と慌ただしく音楽室を出て行ってしまいました。
私のために無理に作った笑顔で、引き攣った優しげな顔で、酷い言葉を私に告げて。
明日なんて無いのに。先生はそれを知っているというのに。
何と残酷な言葉なのでしょう。
その日のカレンベルク先生が旅立たれる瞬間に、私は立ち会うことができませんでした。
いつもであれば真夜中に旅立たれるのですが、教会のどこにも先生はいらっしゃいません。
翌日司祭様に尋ねると、司祭様とのお話を終えた後、先生はすぐに旅に出てしまったと聞かされました。
数少ない機会を生かすことができずに失敗し、そしてまた一週間前に戻る。
何度同じことを繰り返したでしょうか。
思いを伝えられなかった記憶が、カレンベルク先生の旅立ちの日に降る雪のように、私の中に静かに積もっていきました。
思いを告げることができるその日まで、一週間を何度でも繰り返し続けるようと決意しました。ですが、数え切れないほどの失敗を繰り返した私の心は、少しずつ変わっていったのです。
少しずつ少しずつ、私の心は決意から諦めへと変貌していったのです。
そんな心の磨耗を映し出すかのように、私は繰り返される一週間の半分以上を、熱を出して寝込むようになりました。
「調子はどうだい? シャーロット」
「せん、せ……」
寝込んだ日は私を必ず見舞ってくれるカレンベルク先生ですが、私の喉は病魔に冒されていて、言葉を紡ぐことができません。
ですが、私の心はどこか満ち足りた気分を感じているのです。
ずっとずっと、永遠にこの日々を繰り返していけばいいのではないか。そういった黒く暗い感情が、私の心を覆い尽くそうとしていきます。
自分の思いを先生に告げることが成し得ないのであれば、私を気に掛けて見舞ってくれる先生の姿を見続けていたい。そう思ってしまうのです。
そうやって、繰り返す一週間を先生に見舞ってもらうだけになった頃、不思議な夢を見るようになったのです。
最初は一週間に一度くらいの頻度でその夢を見ていました。
霞が掛かったような不鮮明なものでしたので、最初は高熱のせいだと思っていました。
ですが、幾度とない繰り返しを行っているうちに、ついにはその夢を毎晩見るようになってしまったのです。
その夢を見る度に、聖歌隊の練習の最中に戻る度に、霞が掛かっていた夢は徐々に鮮明になっていきました。
鮮明になっていったその夢は、カレンベルク先生と見知らぬ老人が、豪奢な聖堂のような場所で戦っている夢でした。
先生は私の知らないバイオリンを爪弾いて音を操り、それによって老人を攻撃しているようでした。
普通に考えて、音で人に危害を加えることなどできるわけがありません。ですが、私が特別な歌を歌うことで最後の一週間を繰り返しているように、先生は他人を攻撃できる楽曲を知っているとしたら。その可能性は十分にありました。
老人も杖を振るって怪しげな術を繰り出し、先生と渡り合っています。
老人の口が動いていることから、何かしらの言葉を喋ってはいるのでしょう。先生の口も、老人に対して言い返すように動いているのが見えました。
ですが、先生の言葉も、老人の言葉も、どちらも聞き取ることはできませんでした。
先生と老人の戦いは熾烈を極めます。
術と音のぶつかり合い、とでも言えばよいのでしょうか。
衝撃によって、私の周囲の空間が震えているのがわかる程です。
夢の中では私は空気のような存在ですが、何故かその衝撃だけは体感できました。
そして、術と音の打ち合いが暫く続き、ついに終わりを迎えます。
老人が倒れたと見せかけて、不意打ちで光り輝く不思議な紋様を出現させるのです。
先生はその不意の一撃を防ぐことができず、いつも必ず負けてしまいます。
先生が膝を突きました。もう何度も何度も見ている光景ですが、私はその光景を見る度に胸が締め付けられます。
先生の体のそこかしこから血が流れ出し、今にも倒れそうでしたが、必死に痛みを堪えて立ち上がろうとしています。
老人が先生に向かって何かを喋っているのですが、聞き取ることはできません。
先生は朦朧とする意識で、老人の言葉を悔しそうに聞いています。
老人は笑っていました。背をのけぞらせ、醜悪な笑みを浮かべ、先生を嘲笑しているように私には見えました。
「先生っ! 先生!!」
私は堪らずに叫びだし、先生の元へと走ります。
ですが、これは夢です。夢でしかないのです。
私は先生に触れることすらできず、ただただ先生の前で立ち尽くすのです。
先生が完全に倒れ付したと同時に、私は目を覚ますのでした。
「う、うぅ……」
カレンベルク先生が傷つき倒れる姿に、私は涙してしまいます。
この夢は一体何なのでしょうか。
思いを伝えることに失敗し続けている私の心が見せているものなのでしょうか。それとも、特別な歌が何か別の力を発揮して先生の未来の姿を見せているのでしょうか。
「教えてください、カレンベルク先生……」
その言葉は、私以外の誰もいない部屋に吸い込まれて、静かに消えていきました。
「—了—」
「先生! 好きです! 好きなんです!」
「……ありがとう。僕も君のことが大好きだよ、シャーロット」
そう仰って、カレンベルク先生は私が初めて見るような甘い甘い笑みを浮かべ、私を抱き締めてくださいました。
なんて幸せなのだろう。私はなんて幸福な人間なのだろう。そう思うと、自然と目から涙が溢れ出てきます。
先生の腕の中で幸福を噛み締めようとしたその刹那、私は目を覚ましました。
今の私にとっては思いを告げることが全てです。本来なら幸せに感じる筈のこの夢も、今は悪夢以外の何ものでもありません。
そもそも、カレンベルク先生には何者にも揺るがされないほどに大切な誰かがいらっしゃるのです。そして、私の幼い恋慕に応えてくれる心の隙間は、先生には存在しません。
それを理解してなお、私はこの暖炉の残り火のように燻り続ける思いを先生に伝えたいと願っています。
挫けそうな心を何とか奮い立たせ、私は先生に思いを告げるその瞬間を、じっと探し続けるしかないのです。
祭事の一日前。つまりカレンベルク先生が真夜中にひっそりと旅立ってしまわれる日の夕方。偶然にも私は音楽室で作業をしている先生と会うことができました。
その時、私は音楽室に忘れ物をしていて、それを取りに行ったのです。
「あ、先生……」
「珍しいね、シャーロット。忘れ物かな?」
「はい。楽譜を忘れたみたいで……」
何度も繰り返した一週間の中で、ようやっと巡ってきた機会でした。
緊張でどくどくと脈打つ心音が先生に聞こえてしまわないだろうか。それくらいに緊張で硬くなってしまいます。
でも、この機会を逃せば、また一週間前からのやり直しです。
「あの……、先生」
「何だい?」
「私、その……」
早鐘のように煩い心音を無理矢理に落ち着かせ、思いを伝えようとしたその時でした。
「カレンベルク、ここにいたのか」
司祭様が音楽室に入ってこられました。
「司祭様、どうかなさいましたか?」
「ああ。すまないが例の件で話がある」
司祭様の言葉で、先生のお顔から表情が消えるのが見て取れました。
「シャーロット、すまない。行かなければ」
「待って——」
「すまないな、シャーロット。大事な用なのだ」
お二人に厳しい表情でそう言われてしまえば、ただの少女である私が先生を引き止めることなど、できる筈がありません。
「明日は本番だからね。早く宿舎に戻って休むんだよ。じゃあ、また明日」
そう仰って私の頭を優しく撫でてくださった先生は、司祭様と慌ただしく音楽室を出て行ってしまいました。
私のために無理に作った笑顔で、引き攣った優しげな顔で、酷い言葉を私に告げて。
明日なんて無いのに。先生はそれを知っているというのに。
何と残酷な言葉なのでしょう。
その日のカレンベルク先生が旅立たれる瞬間に、私は立ち会うことができませんでした。
いつもであれば真夜中に旅立たれるのですが、教会のどこにも先生はいらっしゃいません。
翌日司祭様に尋ねると、司祭様とのお話を終えた後、先生はすぐに旅に出てしまったと聞かされました。
数少ない機会を生かすことができずに失敗し、そしてまた一週間前に戻る。
何度同じことを繰り返したでしょうか。
思いを伝えられなかった記憶が、カレンベルク先生の旅立ちの日に降る雪のように、私の中に静かに積もっていきました。
思いを告げることができるその日まで、一週間を何度でも繰り返し続けるようと決意しました。ですが、数え切れないほどの失敗を繰り返した私の心は、少しずつ変わっていったのです。
少しずつ少しずつ、私の心は決意から諦めへと変貌していったのです。
そんな心の磨耗を映し出すかのように、私は繰り返される一週間の半分以上を、熱を出して寝込むようになりました。
「調子はどうだい? シャーロット」
「せん、せ……」
寝込んだ日は私を必ず見舞ってくれるカレンベルク先生ですが、私の喉は病魔に冒されていて、言葉を紡ぐことができません。
ですが、私の心はどこか満ち足りた気分を感じているのです。
ずっとずっと、永遠にこの日々を繰り返していけばいいのではないか。そういった黒く暗い感情が、私の心を覆い尽くそうとしていきます。
自分の思いを先生に告げることが成し得ないのであれば、私を気に掛けて見舞ってくれる先生の姿を見続けていたい。そう思ってしまうのです。
そうやって、繰り返す一週間を先生に見舞ってもらうだけになった頃、不思議な夢を見るようになったのです。
最初は一週間に一度くらいの頻度でその夢を見ていました。
霞が掛かったような不鮮明なものでしたので、最初は高熱のせいだと思っていました。
ですが、幾度とない繰り返しを行っているうちに、ついにはその夢を毎晩見るようになってしまったのです。
その夢を見る度に、聖歌隊の練習の最中に戻る度に、霞が掛かっていた夢は徐々に鮮明になっていきました。
鮮明になっていったその夢は、カレンベルク先生と見知らぬ老人が、豪奢な聖堂のような場所で戦っている夢でした。
先生は私の知らないバイオリンを爪弾いて音を操り、それによって老人を攻撃しているようでした。
普通に考えて、音で人に危害を加えることなどできるわけがありません。ですが、私が特別な歌を歌うことで最後の一週間を繰り返しているように、先生は他人を攻撃できる楽曲を知っているとしたら。その可能性は十分にありました。
老人も杖を振るって怪しげな術を繰り出し、先生と渡り合っています。
老人の口が動いていることから、何かしらの言葉を喋ってはいるのでしょう。先生の口も、老人に対して言い返すように動いているのが見えました。
ですが、先生の言葉も、老人の言葉も、どちらも聞き取ることはできませんでした。
先生と老人の戦いは熾烈を極めます。
術と音のぶつかり合い、とでも言えばよいのでしょうか。
衝撃によって、私の周囲の空間が震えているのがわかる程です。
夢の中では私は空気のような存在ですが、何故かその衝撃だけは体感できました。
そして、術と音の打ち合いが暫く続き、ついに終わりを迎えます。
老人が倒れたと見せかけて、不意打ちで光り輝く不思議な紋様を出現させるのです。
先生はその不意の一撃を防ぐことができず、いつも必ず負けてしまいます。
先生が膝を突きました。もう何度も何度も見ている光景ですが、私はその光景を見る度に胸が締め付けられます。
先生の体のそこかしこから血が流れ出し、今にも倒れそうでしたが、必死に痛みを堪えて立ち上がろうとしています。
老人が先生に向かって何かを喋っているのですが、聞き取ることはできません。
先生は朦朧とする意識で、老人の言葉を悔しそうに聞いています。
老人は笑っていました。背をのけぞらせ、醜悪な笑みを浮かべ、先生を嘲笑しているように私には見えました。
「先生っ! 先生!!」
私は堪らずに叫びだし、先生の元へと走ります。
ですが、これは夢です。夢でしかないのです。
私は先生に触れることすらできず、ただただ先生の前で立ち尽くすのです。
先生が完全に倒れ付したと同時に、私は目を覚ますのでした。
「う、うぅ……」
カレンベルク先生が傷つき倒れる姿に、私は涙してしまいます。
この夢は一体何なのでしょうか。
思いを伝えることに失敗し続けている私の心が見せているものなのでしょうか。それとも、特別な歌が何か別の力を発揮して先生の未来の姿を見せているのでしょうか。
「教えてください、カレンベルク先生……」
その言葉は、私以外の誰もいない部屋に吸い込まれて、静かに消えていきました。
「—了—」