當凱倫貝克要離開貧民區的廢棄聖堂時,突然感到一陣激烈的頭痛和心悸。
「嗚……嗚啊……」
雖然凱倫貝克因承受不了痛楚而屈膝於地,但是心想如果就這樣倒在這裡,可能會被組織發現也不一定。凱倫貝克邊忍受著痛苦邊藏匿在廢棄教堂的隱蔽處,就那樣靜靜地等待早晨的到來。
就在隨著太陽升起天色也漸漸亮起來的時候,頭痛和心悸終於好了。
雖然身體感覺還很沉重,凱倫貝克還是拖著這樣的身體回到隆戈那邊。
雖然知道碧姬緹的所在地了,但是,要是在敵人大本營的時候發生這樣的頭痛和心悸,絕對會輸的。
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「一定是你力量用過頭了,為了打倒康拉德太過勉強你自己了吧」
跟隆戈說了頭痛和心悸的問題後,他馬上這麼回答道。
「你的力量很強大。但是也正因如此,如果用錯方法的話就會像這次一樣感到身體不適」
「也就是說,為了要控制力量,需要訓練的意思嗎」
「沒錯。為了救出你重要的人,你必須先完美使用你的能力才行」
聽了隆戈的建議,凱倫貝克更加努力訓練。雖然為了訓練與調整能力需要花兩年左右的時間,但是為了要救出碧姬緹,凱倫貝克並沒有感到焦躁。
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正當凱倫貝克感覺到自己可以將能力運用自如時,收到了情報說碧姬緹在米利加迪亞西邊的某個聖堂中,擔任『大君直屬的祭司』。
凱倫貝克認為這是能奪回碧姬媞的大好機會,迅速趕到那個教堂去。
結果,凱倫貝克到達聖堂時,碧姬緹已經離去了。
而且這個聖堂裡有組織的超人化實驗設施,因此受到了組織成員粗暴的歡迎。
凱倫貝克將組織成員收拾掉之後,開始調查設施看看有沒有解開碧姬緹洗腦的線索。
就在凱倫貝克找不到線索打算放棄的時候,聽到不知道從哪裡傳來的小孩哭聲。
朝著聲音方向走去後,看到一個像是小孩房的小小房間內,有一名正在哭泣的小孩子。
「該怎麼辦才好……」
凱倫貝克思考了一下。
如果就這樣放著不管的話,就會死掉。要是運氣好活下來了,也只會成為超人實驗的犧牲者吧。
那麼自己將這個孩子保護起來,跟隆戈一起找養育這個孩子的地方比較好。就算只有一人也好,希望能夠減少像自己一樣被力量玩弄人生的孩子。
凱倫貝克這麼想著,就將什麼都還不懂,一直哭泣的孩子保護起來了。
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「你可以幫我找找看,適合養育這個孩子的設施嗎」
隆戈看到凱倫貝克帶來的孩子雖然感到驚訝,但是聽完凱倫貝克的話之後,馬上點頭同意。
「那麼,我在麥歐卡有熟人在經營養護院。如果是那裡的話,組織應該找不到」
凱倫貝克馬上決定好要將孩子寄放到麥歐卡去。
但是有一個問題,這個孩子實在是太黏凱倫貝克了,連離開她一下子都不行。
「這下……。麻煩了」
「等她再長大懂事一點還能說之以理,目前這個時候還真是無可奈何。總之,只能由你親自先帶去麥歐卡了」
「說的也是,這個孩子是我救的。我會負起責任將她帶去麥歐卡的」
「那,我先跟那邊的祭司連絡好。過去的路上就請暴風駕馭者帶路吧」
於是凱倫貝克給無名的孩子取名為夏洛特,打算送去麥歐卡共和國的養護院。
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「在你來的前幾日,我收到隆戈寄來要給你的信,說是希望你一到就立刻交給你」
「立刻嗎,謝謝」
帶夏洛特到養護院之後,凱倫貝克收到隆戈的信,馬上打開看信的內容。
信中寫的是碧姬緹的目擊情報,凱倫貝克帶著夏洛特出門後,碧姬緹作為祭司參加了聖達瑞斯大聖堂的典禮。
「夏洛特就拜託您了」
「好的,她的事就交給我們吧」
「要是發生什麼事,請馬上連絡我」
凱倫貝克看完信之後,就匆匆與夏洛特道別,馬上前往首都魯貝斯。
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米利加迪亞王國的首都魯貝斯。在中央大道的前方,可以看到目的地聖達瑞斯大聖堂。
雖然已經半夜了,但是中央大道還是有很多人來來往往的。在這種大半夜會往大聖堂的人,一定是什麼可疑人物,但是來來往往的人群卻沒有人理會凱倫貝克。
凱倫貝克看了一眼毫無戒心與妨礙心的魯貝斯人們後,就迅速前往聖達瑞斯大聖堂。
聖達瑞斯大聖堂不愧是組織的大本營,異形與超人們接連猛攻而來,但是對已經能夠將力量控制自如的凱倫貝克來說,都不是對手。
凱倫貝克用扎吉的琴聲將敵人一一屠殺,尋找著碧姬緹。但是,連她的影子都沒有找到。
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凱倫貝克最後到了大聖堂最裡面,玉座之房。
在裡面,有一位看起來像是在等著凱倫貝克,拿著一隻杖的老人。
凱倫貝克看過這位老人。他是露比娜絲學園的創設者,曾經看過幾次掛在學園內的肖像畫。
而這位老人,就是凱倫貝克的父親提過的『偉大人物』,醜惡的組織首領,古斯塔夫。
「你把碧姬緹藏到哪裡去了!」
「並沒有藏啊。只讓那個女孩作為組織的象徵為組織盡心盡力工作而已」
「別開玩笑了!那才不是她自己的意願!」
凱倫貝克生氣地彈奏扎吉,但是老人用他的杖一揮,就將扎吉的音波給消除了。
扎吉的琴音與杖發出來的術法持續碰撞。
凱倫貝克想說對方是老人,近身戰應該比較有利,所以打算接近古斯塔夫。
但是古斯塔夫看出凱倫貝克的打算,與他保持距離。
互相為了站到有利的位置,邊用音波與術法攻擊邊移動。
「那個女孩是打從心底要效忠組織的,她沒有像你一樣背叛組織,就是證據」
「不要狡辯了!」
年輕人跟老人的體力還是有差,凱倫貝克開始壓制古斯塔夫。
「在殺你之前我再問一次,你把碧姬緹藏到哪裡去了!」
「一個毛頭小子,別得意了。想要那個女孩的話,就靠你自己的力量去找出來」
「你這個……!」
扎吉的琴音終於攻擊到,毫不打算回答的古斯塔夫身上。
正面受到音波攻擊的古斯塔夫倒下。
凱倫貝克看到古斯塔夫倒下,為了確認生死而靠近。
就在打算測量老人脈搏的瞬間,凱倫貝克的眼前出現發光的神奇紋路。
「糟──」
絕對不是凱倫貝克掉以輕心,但還是掉進古斯塔夫設下的巧妙陷阱了。
從紋路發出來的光與熱,襲擊了凱倫貝克。
(擋不下來!)
就在凱倫貝克閉上眼打算放棄的時候。
突然有一個光芒包裹住凱倫貝克,讓凱倫貝克浮在空中,就那樣躲過古斯塔夫的光與熱,再降回到地上
「怎麼回事!?」
古斯塔夫可能以為凱倫貝克絕對躲不過這一擊,很明顯地動搖了。
凱倫貝克也不知道發生什麼事而困惑,但是比古斯塔夫早一步回神,就那樣用扎吉的樂曲攻擊古斯塔夫。
凱倫貝克彈奏的復仇樂曲,直擊了因動搖而一時大意的古斯塔夫。
「怎麼可能……會有,這種事……」
全身受到凱倫貝克攻擊的力量,古斯塔夫這次真的死亡了。呼吸停止,很明顯再也不會動了。
包裹著凱倫貝克的柔光漸漸地變弱,沒多久就消失了。
在光芒消失時,好像有人在凱倫貝克耳邊說了什麼,但是,凱倫貝克沒有聽清楚那個聲音。
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「……還沒結束」
不理會倒下的古斯塔夫,凱倫貝克離開了玉座之房。
雖然因為這場能力戰鬥,讓凱倫貝克的體力幾乎透支,但是他沒空理會自己的狀態。
凱倫貝克在寬廣的地下設施,一個房間一個房間的調查。
就算碧姬緹不在這裡,想說至少找到她去向的任何線索也好。
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結果,關於碧姬緹的情報一個也沒找到。
但是,凱倫貝克並沒有放棄,因為首領被消滅,超人組織應該會有變化吧。
凱倫貝克打算趁這混亂找出碧姬緹,並奪回她。
凱倫貝克決心之後,就離開了崩壞的組織大本營。
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「─完─」
3259年 「幼子」
スラムの廃聖堂を出たその時、カレンベルクは急に酷い頭痛と動悸に襲われた。
「う……ぐうぁ……」
堪らずに膝を突くが、このままここで倒れてしまえば組織に見つかってしまうかもしれない。カレンベルクは苦しみながらも廃聖堂の物陰に隠れ、そのまま朝がくるのをじっと待った。
夜明けと共に空が白んできた頃、ようやく頭痛と動悸が治まった。
体はまだ重いままだったが、カレンベルクは引き摺るようにして何とかロンゴの元へと戻った。
ビアギッテの居場所はわかった。だが、敵の本拠地でこのような事態が起きればどうなるか。敗北にしかならない。
「能力の使い過ぎだな。コンラッドに打ち勝つために無理をしたんだろう」
ロンゴに頭痛と動悸のことを話すと、すぐにそんな返答が戻ってきた。
「お前の力は強大だ。だがそれ故に、使い方を誤れば今回のような不調に見舞われることになる」
「力をコントロールするための訓練が必要、ということですね」
「その通りだ。大事な人を助け出すためには、まずはお前自身が能力を完璧に使いこなさねばならん」
ロンゴの助言に従って、カレンベルクは更なる訓練を重ねた。訓練や能力の調整には二年程の時間を要したが、確実にビアギッテを救い出すためであれば焦りも無かった。
能力を完璧にコントロールできると実感してきた頃、ビアギッテがミリガディアの西端にある聖堂に『大君直属の祭司』として遣わされているという情報を入手した。
カレンベルクはビアギッテを取り戻す契機であるとみなし、急いでその聖堂へと向かった。
結果から言えば、既にビアギッテは聖堂から去った後であった。
さらに、この聖堂には組織の超人化実験施設が存在していたため、組織の構成員から手荒い歓迎を受けてしまった。
組織の構成員をあらかた片付けたカレンベルクは、ビアギッテの洗脳を解く手掛かりがないか、施設を調査することにした。
手掛かりは無さそうだと諦めかけた頃、どこかから子供の泣き声が聞こえてきた。
声のする方へ足を運ぶと、子供部屋もかくやと言わんばかりの小さな部屋に、泣きじゃくる一人の幼子を発見した。
「どうしたものか……」
カレンベルクは思案した。
このままここに放置してしまえば、死んでしまうか、運よく生き残ったとしても、超人実験の犠牲者となるだけだろう。
それならば自分がこの子を保護し、ロンゴと共に生育に適切な場所を探すのがいい。一人でもいいから、自分と同じように力に翻弄される子供は減らしたい。
カレンベルクはそう考え、何もわからずに泣き続ける幼子を保護した。
「この子の生育に相応しい施設を探してくれませんか」
カレンベルクが連れてきた幼子にロンゴは驚いたが、カレンベルクから話を聞くとすぐに頷いた。
「ならば、マイオッカに私の個人的な知り合いが運営している養護院がある。そこなら組織の手も伸びてはこないだろう」
幼子の保護先はすぐに決まった。
しかし、一つだけ問題が起きた。幼子がカレンベルクに懐いてしまい、傍を離れるのを嫌がってしまったのだ。
「これは……。困ったな」
「もう少し自我がはっきりすれば諭すこともできるだろうが、この成長具合ではどうしようもない。ひとまず、マイオッカまではお前が連れて行くしかなさそうだ」
「そうですね。この子は僕が助けた子です。責任を持ってマイオッカまで連れて行きます」
「では、向こうの司祭に連絡を入れておく。道中は交易をやっているストームライダーに案内してもらうといい」
そうして、名もない幼子はシャーロットと名付けられ、カレンベルクによってマイオッカ共和国にある養護院へ預けられることになった。
「君がここに来る数日前、ロンゴから君宛の手紙が届いた。君が到着したら至急渡して欲しいとのことだ」
「至急、ですか。ありがとうございます」
シャーロットを連れて到着した養護院には、ロンゴからの手紙が届いていた。手紙を受け取ったカレンベルクは、すぐにその内容を確認する。
手紙にはビアギッテの目撃情報が書かれていた。カレンベルクがシャーロットと共に旅立った後、聖ダリウス大聖堂で行われた式典にビアギッテが祭司として参加していたとのことだった。
「シャーロットをよろしくお願いします」
「ああ。彼女のことは我々に任せてくれ」
「何かあったら、すぐにご連絡を」
手紙を読み終えたカレンベルクは、シャーロットとの別れもそこそこに、すぐに首都ルーベスに向けて旅立った。
ミリガディア王国の首都ルーベス。その中央通りとされる通りの先に、目的地である聖ダリウス大聖堂が見える。
中央通りは真夜中にも関わらず人の往来が多かった。こんな夜更けに大聖堂へ向かう者など、不審者以外の何者でもない。だが、往来する人々はカレンベルクのことを見向きもしない。
妨害も警戒するような視線も寄越さないルーベスの人々を一瞥しつつ、カレンベルクは聖ダリウス大聖堂への道を急いだ。
聖ダリウス大聖堂は組織の本拠地なだけあって、異形や超人による猛攻が相次いだ。だが、繊細な能力のコントロールを可能にしたカレンベルクに敵う者はいない。
妨害してくる敵を次々とザジの音で屠り、ビアギッテを探した。だが、彼女の影すらどこにも見あたらなかった。
カレンベルクは大聖堂の最深部、玉座の間へと到達した。
そこには、カレンベルクを待ち構えるように、杖を手にした一人の老人が佇んでいた。
この老人には見覚えがあった。ルピナス・スクールの創設者であるとされる老人で、スクールに飾られていた肖像画で幾度も目にしていた。
そしてこの老人こそが、かつて父が語った『偉大な人物』その人であり、醜悪なこの組織の首領、ギュスターヴであった。
「ビアギッテを何処へ隠した!」
「隠してなどはおらぬよ。あの娘には組織のシンボルとして尽くしてもらっている。それだけだ」
「ふざけるな! それが彼女の意志だとでもいうのか!」
カレンベルクは怒りのままにザジの弦を弾く。しかし、老人はザジから発せられる音波を杖の一振りで掻き消した。
ザジの音と杖から発せられる術がぶつかり続ける。
相手が老体ならば接近戦が有利であろうと、カレンベルクはとにかくギュスターヴへ近付こうとする。
カレンベルクの考えを見抜いているギュスターヴは、距離を取ろうとする。
互いに優位な位置を確保すべく、音波と術の応酬の合間に巧みに位置取りを変えていく。
「あの娘は心の底から組織に尽くしておる。貴様のように離反などせぬのが、その証左よ」
「詭弁を弄するな!」
若者と老人とでは基礎体力にそもそも大きな開きがある。少しずつギュスターヴが圧され始めた。
「貴様を殺す前にもう一度聞く、ビアギッテを何処へ隠した!」
「若造が、ほざくなよ。あの娘が欲しくば自らの力で探し出すがよい」
「この……!」
答える気など欠片もないギュスターヴに、ついにザジが発する音波が届く。
音波をまともに受けたギュスターヴは倒れ伏した。
それを見たカレンベルクは、ギュスターヴが完全に動かなくなったのを確認しようと近付く。
老体の脈を測ろうとしたその瞬間、カレンベルクの目の前に光り輝く不思議な紋様が出現した。
「しまっ——」
油断したつもりはなかった。だが、ギュスターヴの巧妙な罠にはまってしまった。
紋様から放たれた光と熱が、うねりとなってカレンベルクに襲い掛かる。
(防ぎきれない!)
諦念から目を瞑ってしまうカレンベルク。
その時、突如カレンベルクの身体が光に包まれ、宙を舞った。そのままカレンベルクは光と熱の奔流から回避し、床に降り立つ。
「何だ!?」
術を回避されるとは思っていなかったのか、ギュスターヴは明らかに動揺を見せた。
カレンベルクも何が起こったのかわからずに困惑したが、ギュスターヴよりも早く我に返ると、そのままギュスターヴに向かってザジの楽曲をぶつける。
動揺した隙を突かれたギュスターヴは、カレンベルクが奏でる復讐の楽曲をまともに浴びてしまう。
「こ、こんな……こと、が……」
カレンベルクの力を全身に受けてしまったギュスターヴは、今度こそ絶命した。呼吸も止まり、もはや二度と動き出さないことが明白であった。
カレンベルクを包んでいた柔らかな光は徐々に弱まり、間もなく消え失せた。
光が消える間際、誰かの囁き声が耳に届いた気がした。だが、カレンベルクはその声を聞き取ることはできなかった。
「……まだ終わってはいない」
動かなくなったギュスターヴから視線を外すと、カレンベルクは玉座の間から立ち去った。
能力のぶつかり合いによって体力は殆ど残っていなかったが、そんなことに構ってなどいられなかった。
広大な地下施設の一部屋一部屋をカレンベルクは調べて回った。
ビアギッテがこの場にいないとしても、行方を知る何かしらの手掛かりを掴めればそれでいいと考えた。
結局、ビアギッテに関する情報は何も得られなかった。
だが、諦める訳にはいかない。首領が滅したことで、超人組織の有り様も変化するだろう。
その混乱に乗じてビアギッテを探し出し、取り戻す。
カレンベルクは決意を新たに、崩壊した組織の本拠地から立ち去るのだった。
「—了—」
スラムの廃聖堂を出たその時、カレンベルクは急に酷い頭痛と動悸に襲われた。
「う……ぐうぁ……」
堪らずに膝を突くが、このままここで倒れてしまえば組織に見つかってしまうかもしれない。カレンベルクは苦しみながらも廃聖堂の物陰に隠れ、そのまま朝がくるのをじっと待った。
夜明けと共に空が白んできた頃、ようやく頭痛と動悸が治まった。
体はまだ重いままだったが、カレンベルクは引き摺るようにして何とかロンゴの元へと戻った。
ビアギッテの居場所はわかった。だが、敵の本拠地でこのような事態が起きればどうなるか。敗北にしかならない。
「能力の使い過ぎだな。コンラッドに打ち勝つために無理をしたんだろう」
ロンゴに頭痛と動悸のことを話すと、すぐにそんな返答が戻ってきた。
「お前の力は強大だ。だがそれ故に、使い方を誤れば今回のような不調に見舞われることになる」
「力をコントロールするための訓練が必要、ということですね」
「その通りだ。大事な人を助け出すためには、まずはお前自身が能力を完璧に使いこなさねばならん」
ロンゴの助言に従って、カレンベルクは更なる訓練を重ねた。訓練や能力の調整には二年程の時間を要したが、確実にビアギッテを救い出すためであれば焦りも無かった。
能力を完璧にコントロールできると実感してきた頃、ビアギッテがミリガディアの西端にある聖堂に『大君直属の祭司』として遣わされているという情報を入手した。
カレンベルクはビアギッテを取り戻す契機であるとみなし、急いでその聖堂へと向かった。
結果から言えば、既にビアギッテは聖堂から去った後であった。
さらに、この聖堂には組織の超人化実験施設が存在していたため、組織の構成員から手荒い歓迎を受けてしまった。
組織の構成員をあらかた片付けたカレンベルクは、ビアギッテの洗脳を解く手掛かりがないか、施設を調査することにした。
手掛かりは無さそうだと諦めかけた頃、どこかから子供の泣き声が聞こえてきた。
声のする方へ足を運ぶと、子供部屋もかくやと言わんばかりの小さな部屋に、泣きじゃくる一人の幼子を発見した。
「どうしたものか……」
カレンベルクは思案した。
このままここに放置してしまえば、死んでしまうか、運よく生き残ったとしても、超人実験の犠牲者となるだけだろう。
それならば自分がこの子を保護し、ロンゴと共に生育に適切な場所を探すのがいい。一人でもいいから、自分と同じように力に翻弄される子供は減らしたい。
カレンベルクはそう考え、何もわからずに泣き続ける幼子を保護した。
「この子の生育に相応しい施設を探してくれませんか」
カレンベルクが連れてきた幼子にロンゴは驚いたが、カレンベルクから話を聞くとすぐに頷いた。
「ならば、マイオッカに私の個人的な知り合いが運営している養護院がある。そこなら組織の手も伸びてはこないだろう」
幼子の保護先はすぐに決まった。
しかし、一つだけ問題が起きた。幼子がカレンベルクに懐いてしまい、傍を離れるのを嫌がってしまったのだ。
「これは……。困ったな」
「もう少し自我がはっきりすれば諭すこともできるだろうが、この成長具合ではどうしようもない。ひとまず、マイオッカまではお前が連れて行くしかなさそうだ」
「そうですね。この子は僕が助けた子です。責任を持ってマイオッカまで連れて行きます」
「では、向こうの司祭に連絡を入れておく。道中は交易をやっているストームライダーに案内してもらうといい」
そうして、名もない幼子はシャーロットと名付けられ、カレンベルクによってマイオッカ共和国にある養護院へ預けられることになった。
「君がここに来る数日前、ロンゴから君宛の手紙が届いた。君が到着したら至急渡して欲しいとのことだ」
「至急、ですか。ありがとうございます」
シャーロットを連れて到着した養護院には、ロンゴからの手紙が届いていた。手紙を受け取ったカレンベルクは、すぐにその内容を確認する。
手紙にはビアギッテの目撃情報が書かれていた。カレンベルクがシャーロットと共に旅立った後、聖ダリウス大聖堂で行われた式典にビアギッテが祭司として参加していたとのことだった。
「シャーロットをよろしくお願いします」
「ああ。彼女のことは我々に任せてくれ」
「何かあったら、すぐにご連絡を」
手紙を読み終えたカレンベルクは、シャーロットとの別れもそこそこに、すぐに首都ルーベスに向けて旅立った。
ミリガディア王国の首都ルーベス。その中央通りとされる通りの先に、目的地である聖ダリウス大聖堂が見える。
中央通りは真夜中にも関わらず人の往来が多かった。こんな夜更けに大聖堂へ向かう者など、不審者以外の何者でもない。だが、往来する人々はカレンベルクのことを見向きもしない。
妨害も警戒するような視線も寄越さないルーベスの人々を一瞥しつつ、カレンベルクは聖ダリウス大聖堂への道を急いだ。
聖ダリウス大聖堂は組織の本拠地なだけあって、異形や超人による猛攻が相次いだ。だが、繊細な能力のコントロールを可能にしたカレンベルクに敵う者はいない。
妨害してくる敵を次々とザジの音で屠り、ビアギッテを探した。だが、彼女の影すらどこにも見あたらなかった。
カレンベルクは大聖堂の最深部、玉座の間へと到達した。
そこには、カレンベルクを待ち構えるように、杖を手にした一人の老人が佇んでいた。
この老人には見覚えがあった。ルピナス・スクールの創設者であるとされる老人で、スクールに飾られていた肖像画で幾度も目にしていた。
そしてこの老人こそが、かつて父が語った『偉大な人物』その人であり、醜悪なこの組織の首領、ギュスターヴであった。
「ビアギッテを何処へ隠した!」
「隠してなどはおらぬよ。あの娘には組織のシンボルとして尽くしてもらっている。それだけだ」
「ふざけるな! それが彼女の意志だとでもいうのか!」
カレンベルクは怒りのままにザジの弦を弾く。しかし、老人はザジから発せられる音波を杖の一振りで掻き消した。
ザジの音と杖から発せられる術がぶつかり続ける。
相手が老体ならば接近戦が有利であろうと、カレンベルクはとにかくギュスターヴへ近付こうとする。
カレンベルクの考えを見抜いているギュスターヴは、距離を取ろうとする。
互いに優位な位置を確保すべく、音波と術の応酬の合間に巧みに位置取りを変えていく。
「あの娘は心の底から組織に尽くしておる。貴様のように離反などせぬのが、その証左よ」
「詭弁を弄するな!」
若者と老人とでは基礎体力にそもそも大きな開きがある。少しずつギュスターヴが圧され始めた。
「貴様を殺す前にもう一度聞く、ビアギッテを何処へ隠した!」
「若造が、ほざくなよ。あの娘が欲しくば自らの力で探し出すがよい」
「この……!」
答える気など欠片もないギュスターヴに、ついにザジが発する音波が届く。
音波をまともに受けたギュスターヴは倒れ伏した。
それを見たカレンベルクは、ギュスターヴが完全に動かなくなったのを確認しようと近付く。
老体の脈を測ろうとしたその瞬間、カレンベルクの目の前に光り輝く不思議な紋様が出現した。
「しまっ——」
油断したつもりはなかった。だが、ギュスターヴの巧妙な罠にはまってしまった。
紋様から放たれた光と熱が、うねりとなってカレンベルクに襲い掛かる。
(防ぎきれない!)
諦念から目を瞑ってしまうカレンベルク。
その時、突如カレンベルクの身体が光に包まれ、宙を舞った。そのままカレンベルクは光と熱の奔流から回避し、床に降り立つ。
「何だ!?」
術を回避されるとは思っていなかったのか、ギュスターヴは明らかに動揺を見せた。
カレンベルクも何が起こったのかわからずに困惑したが、ギュスターヴよりも早く我に返ると、そのままギュスターヴに向かってザジの楽曲をぶつける。
動揺した隙を突かれたギュスターヴは、カレンベルクが奏でる復讐の楽曲をまともに浴びてしまう。
「こ、こんな……こと、が……」
カレンベルクの力を全身に受けてしまったギュスターヴは、今度こそ絶命した。呼吸も止まり、もはや二度と動き出さないことが明白であった。
カレンベルクを包んでいた柔らかな光は徐々に弱まり、間もなく消え失せた。
光が消える間際、誰かの囁き声が耳に届いた気がした。だが、カレンベルクはその声を聞き取ることはできなかった。
「……まだ終わってはいない」
動かなくなったギュスターヴから視線を外すと、カレンベルクは玉座の間から立ち去った。
能力のぶつかり合いによって体力は殆ど残っていなかったが、そんなことに構ってなどいられなかった。
広大な地下施設の一部屋一部屋をカレンベルクは調べて回った。
ビアギッテがこの場にいないとしても、行方を知る何かしらの手掛かりを掴めればそれでいいと考えた。
結局、ビアギッテに関する情報は何も得られなかった。
だが、諦める訳にはいかない。首領が滅したことで、超人組織の有り様も変化するだろう。
その混乱に乗じてビアギッテを探し出し、取り戻す。
カレンベルクは決意を新たに、崩壊した組織の本拠地から立ち去るのだった。
「—了—」