教會的音樂室裡迴繞著練習讚美歌的歌聲。我也作為聖歌隊的一員參加著練習。
為了一星期後在由教會主辦的祭神儀式上獻唱,大家正不斷地練唱讚美歌中。
持續唱了一段時間後,瞬間有一股不協調感湧入腦海中,我的聲音走調了。
修女的伴奏停下來,周圍的視線都集中朝向我。
實在是太丟臉,害我的臉都發燙了。
「怎麼回事,夏洛特」
指導歌唱的凱倫貝克老師也一臉疑惑地看著我。
「啊……對不起」
「各位,先休息一下吧」
剛才並排站立的聖歌隊隊員們,使用音樂室裡的桌子椅子隨意休息起來。
站著看著大家發呆時,老師到我的身邊來了。
「對不起……」
「沒關係的。偶爾也是會有這種情況的」
老師溫柔地摸摸我的頭,像是要我安心般地面帶微笑說著。
我的心感到溫暖了起來,點了點頭。
「凱倫貝克老師!可以來一下嗎?」
「怎麼了?我現在過去」
被聖歌隊的一個人叫走,老師離開了。我只呆看著老師離去的背影。
我曾經認為只要能遠遠看著老師的身影,就很幸福了。
「凱倫貝克老師還是這麼寵夏洛特」
「蕾米……對不起」
聖歌隊的一員,跟我同寢室的蕾米,一臉受不了的樣子看著我。
「沒關係啦。倒是妳的臉好紅哦」
「咦,啊……討厭……」
「雖然我從以前就覺得很可疑了。不過,誰叫老師既溫柔又帥嘛」
「不是那樣的啦……」
被笑著的蕾米捉弄似地這麼一說,我一邊脹紅著臉一邊搖著頭。
雖然其實她說的沒錯。但是,在朋友面前,我怎麼也無法說出口。
|
聖歌隊的練習結束之後,我走向了教會的會談室。
「老師,現在可以打擾一下嗎?」
確認老師待在會談室裡後,我也進去了。
下午的這個時間,祭司大人跟修士們大家都去了食堂,會談室裡除了老師,沒有其他人在。
「嗯,沒關係。怎麼了嗎?」
「啊,是……那個……」
深呼吸一口氣,眼睛直視著老師。
老師露出溫柔的笑容看著我。
「老師,我……」
就在下定決心的那個瞬間,祭司大人從食堂回來了。
「啊,凱倫貝克。你在這裡啊」
「祭司大人,有什麼事嗎?」
「夏洛特,不好意思,請妳先離開」
祭司大人看著我說道。祭司大人的口氣強硬,我無法拒絕地走出了會談室。
|
在那之後,我好幾次都算好老師單獨一個人的時候接近想跟他說話。
「老師,之前的……」
「夏洛特!抱歉,現在我忙不過來。馬上就會結束!」
「啊……」
「結束後再過來找我吧」
「對不起……」
但是,就好像無形之中被什麼阻饒般,就算可以和老師說上話,話題也無法有所進展。
|
聖歌隊的練習時間快結束時,窗外開始飄起了雪。
「啊,下雪了。一旦開始下雪,就有節日也快到了的感覺」
「……嗯」
對著滿臉笑容的蕾米,我勉強地笑著回答她。
我已經沒有時間了。
|
隔天也是,雪毫不停歇地緩慢下著。
老師就是在這一天,沒有告訴任何人,一個人消失了。沒有人知道發生了什麼事。
但是,我知道這件事。
|
那一天,我在教會的大門看到身穿旅行用服飾的老師,追了上去。
跟在老師後面,來到了一間被廢棄且古老的大教堂。從大廳可以聽得到老師的小提琴聲。
跟老師平常拉的小提琴音色不同,我好奇地偷偷透過彩色鑲嵌玻璃往裡面看。
透過彩色鑲嵌玻璃看到的老師雖然一臉悲傷的表情,但卻顯的非常美麗。
老師正在拉的曲子,不是平常拉的那些莊嚴的讚美歌或聖歌。
那是一首,由有名的作曲家,在自己要結婚時為了自己的伴侶而做的『愛之歌』。
老師帶著悲傷的心情,專注地一直演奏著。不斷重複著『愛之歌』的旋律,每換一段樂章,就又比前一段更加地熱情。
|
老師的小提琴聲,好像有不可思議的力量。
從琴音中,我好像隱約可以看見什麼。憎恨,悲傷,後悔。還有,令人快發狂似的愛戀。
於是我發現了,老師是對著我以外的其他人演奏出這樣的音色。
如果老師的感情是要傳達給我的話,這個音色應該會傳達給我才對。
我蹲坐在地上,無法再多看老師一眼。
淚水不停地流出來。
我早就知道了,我知道對老師來說我只是他的學生而已。並不是愛著我。
|
老師就在我流淚的時候,不知道去了哪裡了。
我又失敗了。就算我知道得不到老師的愛,但是,就算只有一點點的可能也想要賭賭看。
「老師……」
走進無人的大教堂後,我站在老師剛剛站的位置,看了看四周。
沒有整理的大教堂,雖然像要崩壞卻又不失其莊嚴性,一直存在於此。
我大大地吸了一口氣後,唱出了某個旋律。
老師說「只教給夏洛特妳而已」,而傳授給我的特別詩篇。
這是遵循古典音樂的法則而創作出來的曲子,向古老的神表達讚美之歌。
連同白色的氣息一起,投入對老師的感情持續唱著,我的心開始好像漂浮在宇宙中一樣。
一邊想著老師微笑的樣子跟溫柔的臉龐,然後像要把這份情感傳達出去似地,持續唱著。
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等我回過神來,我正在教會裡觀摩聖歌隊的練習。
聖歌隊的練習進入休息後,凱倫貝克老師慢慢走向我。
「夏洛特,妳還好吧?」
「啊……」
「不用勉強發出聲音沒關係」
老師摸摸我的頭之後,那天的事就慢慢地在腦海中流動。
我這次因為感冒的關係喉嚨很痛,所以才在旁邊看大家練習。
「如果很難受的話就躺下吧」
老師溫柔的話語,讓我確信我回來了。
期限是一週。到節日的前一天,到老師消失的那天為止。
我努力地忍住眼眶中的淚水,目不轉睛地凝視著回到練習的老師。
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「─完─」
3274年 「別れの日」
教会の音楽室に賛美歌を練習する声が響きます。私も聖歌隊の一人として練習に参加していました。
一週間後に行われる教会主宰の祭事で歌う、賛美歌の練習の最中です。
暫く歌い続けていましたが、一瞬だけ違和感が脳裏を襲い、声が裏返ってしまいました。
シスターの伴奏が止まり、周囲の視線が一斉に私に集まります。
恥ずかしくて、顔がとても熱くなりました。
「どうしたんだい、シャーロット」
歌唱を指導するカレンベルク先生も、不思議そうに私を見ておられます。
「あ……ごめんなさい」
「みんな、一度休憩にしよう」
立ち並んでいた聖歌隊の人達は、音楽室にある椅子や机で思い思いに休憩に入っていきます。
その様子を見ながらぼんやりと立ち尽くしていると、先生が私のところへいらっしゃいました。
「ごめんなさい……」
「大丈夫だよ。 たまにあることさ」
先生は私の頭を優しく撫でると、安心させるように微笑みながら仰いました。
私は心が温かくなるのを感じながら頷きます。
「カレンベルク先生! ちょっと良いですか?」
「なんだい? いま行くよ」
聖歌隊の一人に呼ばれて、先生は行ってしまわれました。私はその後ろ姿をぼんやりと見ているだけでした。
先生の姿を眺めているだけで、私は幸せだったのです。
「相変わらずカレンベルク先生はシャーロットに甘いこと」
「レミ……ごめんなさい」
聖歌隊の一人であり、同じ部屋で寝起きを共にするレミが、呆れたような顔で私を見ていました。
「気にしてないって。それよりアンタ、顔真っ赤よ」
「え、あ……やだ……」
「前々から怪しいとは思ってたけど。まぁ、先生は優しいしかっこいいもんね」
「そんなことは……」
からかうような笑い顔のレミに言われて、私はまた顔を熱くしながら首を振りました。
本当はその通りなのに。でも、それを友達に向かって面と言うことは、どうしてもできませんでした。
聖歌隊の練習が終わった後、私は教会の談話室に向かいました。
「先生、いま大丈夫ですか?」
談話室にいらっしゃった先生の姿を確認すると、私は談話室へ入りました。
夕方のこの時間は、司祭様や僧侶の方々は全員食堂へと出ていて、他には誰もいません。
「ああ、大丈夫だ。何かあったのかい?」
「あ、はい……あの……」
深呼吸して、先生を真っ直ぐに見つめます。
先生は優しい笑顔を浮かべて、私のことを見ておられます。
「先生、私は……」
意を決したその瞬間のことでした。食堂から司祭様が戻ってこられたのです。
「ああ、カレンベルク。ここにいたか」
「司祭様、どうかされましたか?」
「シャーロット、すまないが席を外しておくれ」
司祭様は私を見るとそう仰いました。司祭様の言葉には深刻なものがあり、私は逆らうことができずに談話室を出ていきました。
それから、私は何度か先生が一人になるときを見計らって声を掛けました。
「先生、この間の……」
「シャーロット! ごめん、ちょっと手が離せないんだ。 すぐ終わるから!」
「あ……」
「終わった頃にまたおいで」
「ごめんなさい……」
ですが、何かに邪魔をされるように、先生に声を掛けることはできても、そこから先に進むことはできませんでした。
聖歌隊の練習が終わりを迎える頃、窓の外には雪がちらつき始めていました。
「あ、雪だ。雪が降ってくると祭事もいよいよって感じだよね」
「……そうだね」
屈託なく笑いかけるレミに、私は無理に笑って答えました。
もう私には時間がないのです。
次の日も、雪は止む事なくゆっくりと降り続けていました。
先生はこの日、誰にも知られることなく、ひっそりといなくなってしまわれたのです。何があったのかはわかりません。
でも、私はそのことを知っていました。
その日、私は旅装を身に纏う先生を教会の出入り口で見つけ、後を追いました。
先生を追っていくと、もう使われていない古びた大聖堂に辿り着きました。ホールから先生のバイオリンの音が聞こえてきます。
いつも先生が弾いているバイオリンとは違う音色に、私は不思議に思いながらもそっとステンドグラス越しに中を覗きました。
ステンドグラス越しに見る先生の顔はどこか憂いを帯びていらっしゃいましたが、とても綺麗に写っていました。
先生が弾いておられた曲は、いつもの讃美歌や聖歌のような荘厳なものではありませんでした。
それは、とある著名な作曲家が、結婚式に際して己の伴侶となる女性のために作った『愛の歌』でした。
それを先生は切なく、一心不乱に弾き続けていらっしゃいました。何度も何度も繰り返される『愛の歌』は、一つの区切りを向かえるごとに、より熱情を増していったのです。
先生のバイオリンから発せられる音には、不思議な力があるようでした。
バイオリンの音から、先生の想いが垣間見えたような気がしました。憎しみ、悲しみ、後悔。そして、狂おしいまでに高まった恋慕。
そこで私は気付いてしまったのです。先生の奏でる音色は、私ではない他の誰かに向けられたものだと。
先生の想いが私に向けられたものであるならば、この音は私に届く筈なのです。
私は地面に蹲ってしまいました。それ以上、先生を見続けることはできませんでした。
私の目からは止め処なく涙が流れ続けました。
わかっていたのです、先生にとって私はただの生徒であるのだと。私を愛してくれることなどないのだと。
先生は、私が涙を流している間にどこかへと立ち去っていかれました。
私はまたしても失敗したのです。愛を得られないとわかっていながら、もしかしたらと、僅かな可能性に賭けていたのに。
「先生……」
人気のなくなった大聖堂へ入ると、私は先生が立っていたところに立ち、周りを見回しました。
手入れのされていない大聖堂は、滅びの気配に曝されながらも荘厳さを失うことなく、そこにあり続けていたのです。
私は大きく息を吸うと、一つの旋律を口ずさみます。
先生が「シャーロットにだけ教えてあげよう」と、伝授してくれた特別な詩篇。
古典音楽の法則によって作曲されたそれは、古の神への賛美を表した歌です。
白い息と共に先生への想いを込めて歌い続けていると、私の心は宙に浮いたような感覚がし始めました。
先生の笑った姿や優しい顔を思い浮かべながら、次こそは想いを伝えようと、私は歌い続けました。
気が付くと、私は教会で聖歌隊の練習を見学しているところでした。
聖歌隊の練習が休憩に入ると、カレンベルク先生がゆっくりとした足取りでこちらにやってこられました。
「シャーロット、大丈夫かい?」
「あ……」
「無理して声を出さなくても良いからね」
先生に頭を撫でられていると、ゆっくりとその日のことが頭の中に流れてきます。
今度の私は風邪で喉を痛めてしまっていて、練習を見学しているのでした。
「辛かったら横になるんだよ」
先生の優しい言葉に、私は戻ってきたことを確信しました。
期限は一週間。聖なる催しの前日、先生がいなくなってしまうその日まで。
私は潤む目を必死に堪えながら、練習に戻られる先生のことをじっと見つめていました。
「—了—」
教会の音楽室に賛美歌を練習する声が響きます。私も聖歌隊の一人として練習に参加していました。
一週間後に行われる教会主宰の祭事で歌う、賛美歌の練習の最中です。
暫く歌い続けていましたが、一瞬だけ違和感が脳裏を襲い、声が裏返ってしまいました。
シスターの伴奏が止まり、周囲の視線が一斉に私に集まります。
恥ずかしくて、顔がとても熱くなりました。
「どうしたんだい、シャーロット」
歌唱を指導するカレンベルク先生も、不思議そうに私を見ておられます。
「あ……ごめんなさい」
「みんな、一度休憩にしよう」
立ち並んでいた聖歌隊の人達は、音楽室にある椅子や机で思い思いに休憩に入っていきます。
その様子を見ながらぼんやりと立ち尽くしていると、先生が私のところへいらっしゃいました。
「ごめんなさい……」
「大丈夫だよ。 たまにあることさ」
先生は私の頭を優しく撫でると、安心させるように微笑みながら仰いました。
私は心が温かくなるのを感じながら頷きます。
「カレンベルク先生! ちょっと良いですか?」
「なんだい? いま行くよ」
聖歌隊の一人に呼ばれて、先生は行ってしまわれました。私はその後ろ姿をぼんやりと見ているだけでした。
先生の姿を眺めているだけで、私は幸せだったのです。
「相変わらずカレンベルク先生はシャーロットに甘いこと」
「レミ……ごめんなさい」
聖歌隊の一人であり、同じ部屋で寝起きを共にするレミが、呆れたような顔で私を見ていました。
「気にしてないって。それよりアンタ、顔真っ赤よ」
「え、あ……やだ……」
「前々から怪しいとは思ってたけど。まぁ、先生は優しいしかっこいいもんね」
「そんなことは……」
からかうような笑い顔のレミに言われて、私はまた顔を熱くしながら首を振りました。
本当はその通りなのに。でも、それを友達に向かって面と言うことは、どうしてもできませんでした。
聖歌隊の練習が終わった後、私は教会の談話室に向かいました。
「先生、いま大丈夫ですか?」
談話室にいらっしゃった先生の姿を確認すると、私は談話室へ入りました。
夕方のこの時間は、司祭様や僧侶の方々は全員食堂へと出ていて、他には誰もいません。
「ああ、大丈夫だ。何かあったのかい?」
「あ、はい……あの……」
深呼吸して、先生を真っ直ぐに見つめます。
先生は優しい笑顔を浮かべて、私のことを見ておられます。
「先生、私は……」
意を決したその瞬間のことでした。食堂から司祭様が戻ってこられたのです。
「ああ、カレンベルク。ここにいたか」
「司祭様、どうかされましたか?」
「シャーロット、すまないが席を外しておくれ」
司祭様は私を見るとそう仰いました。司祭様の言葉には深刻なものがあり、私は逆らうことができずに談話室を出ていきました。
それから、私は何度か先生が一人になるときを見計らって声を掛けました。
「先生、この間の……」
「シャーロット! ごめん、ちょっと手が離せないんだ。 すぐ終わるから!」
「あ……」
「終わった頃にまたおいで」
「ごめんなさい……」
ですが、何かに邪魔をされるように、先生に声を掛けることはできても、そこから先に進むことはできませんでした。
聖歌隊の練習が終わりを迎える頃、窓の外には雪がちらつき始めていました。
「あ、雪だ。雪が降ってくると祭事もいよいよって感じだよね」
「……そうだね」
屈託なく笑いかけるレミに、私は無理に笑って答えました。
もう私には時間がないのです。
次の日も、雪は止む事なくゆっくりと降り続けていました。
先生はこの日、誰にも知られることなく、ひっそりといなくなってしまわれたのです。何があったのかはわかりません。
でも、私はそのことを知っていました。
その日、私は旅装を身に纏う先生を教会の出入り口で見つけ、後を追いました。
先生を追っていくと、もう使われていない古びた大聖堂に辿り着きました。ホールから先生のバイオリンの音が聞こえてきます。
いつも先生が弾いているバイオリンとは違う音色に、私は不思議に思いながらもそっとステンドグラス越しに中を覗きました。
ステンドグラス越しに見る先生の顔はどこか憂いを帯びていらっしゃいましたが、とても綺麗に写っていました。
先生が弾いておられた曲は、いつもの讃美歌や聖歌のような荘厳なものではありませんでした。
それは、とある著名な作曲家が、結婚式に際して己の伴侶となる女性のために作った『愛の歌』でした。
それを先生は切なく、一心不乱に弾き続けていらっしゃいました。何度も何度も繰り返される『愛の歌』は、一つの区切りを向かえるごとに、より熱情を増していったのです。
先生のバイオリンから発せられる音には、不思議な力があるようでした。
バイオリンの音から、先生の想いが垣間見えたような気がしました。憎しみ、悲しみ、後悔。そして、狂おしいまでに高まった恋慕。
そこで私は気付いてしまったのです。先生の奏でる音色は、私ではない他の誰かに向けられたものだと。
先生の想いが私に向けられたものであるならば、この音は私に届く筈なのです。
私は地面に蹲ってしまいました。それ以上、先生を見続けることはできませんでした。
私の目からは止め処なく涙が流れ続けました。
わかっていたのです、先生にとって私はただの生徒であるのだと。私を愛してくれることなどないのだと。
先生は、私が涙を流している間にどこかへと立ち去っていかれました。
私はまたしても失敗したのです。愛を得られないとわかっていながら、もしかしたらと、僅かな可能性に賭けていたのに。
「先生……」
人気のなくなった大聖堂へ入ると、私は先生が立っていたところに立ち、周りを見回しました。
手入れのされていない大聖堂は、滅びの気配に曝されながらも荘厳さを失うことなく、そこにあり続けていたのです。
私は大きく息を吸うと、一つの旋律を口ずさみます。
先生が「シャーロットにだけ教えてあげよう」と、伝授してくれた特別な詩篇。
古典音楽の法則によって作曲されたそれは、古の神への賛美を表した歌です。
白い息と共に先生への想いを込めて歌い続けていると、私の心は宙に浮いたような感覚がし始めました。
先生の笑った姿や優しい顔を思い浮かべながら、次こそは想いを伝えようと、私は歌い続けました。
気が付くと、私は教会で聖歌隊の練習を見学しているところでした。
聖歌隊の練習が休憩に入ると、カレンベルク先生がゆっくりとした足取りでこちらにやってこられました。
「シャーロット、大丈夫かい?」
「あ……」
「無理して声を出さなくても良いからね」
先生に頭を撫でられていると、ゆっくりとその日のことが頭の中に流れてきます。
今度の私は風邪で喉を痛めてしまっていて、練習を見学しているのでした。
「辛かったら横になるんだよ」
先生の優しい言葉に、私は戻ってきたことを確信しました。
期限は一週間。聖なる催しの前日、先生がいなくなってしまうその日まで。
私は潤む目を必死に堪えながら、練習に戻られる先生のことをじっと見つめていました。
「—了—」