在西區大路上發生的暴動,最後在主謀們全體突然死亡而畫下句點。
要是暴動持續擴大的話,就必須得考慮防疫對策將希瑪迦地區全體隔離。
搜查本部為了能儘快解決這事件,四處奔走。
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由於暴動讓嫌疑人數增加,使得搜查的進度受到影響。因為從已經死亡的主謀們的房間內發現到幾個同種類的藥物。
於是隨即將那些帶回古斯塔夫的科學搜查室,進行調查。
調查的結果,這個藥看起來就和一般的抗菌藥沒兩樣,但發現實際上是偽裝成抗菌藥,裡面根本是別的東西。
而且也得知這個藥物的本身含有正在希瑪迦地區蔓延的不明細菌。
隨著這事件的相關驗證的進行,細菌的真相也漸漸地明朗化。
「這個細菌有被加工過的痕跡。並不是突然的變種,可以斷定為遺傳基因的改造」
古斯塔夫用冷淡的口吻報告著。
「假設有犯罪組織的存在,八九不離十,這個組織裡應該有學過遺傳基因工程的成員吧」
「知道了。會把這一點作為搜查的參考」
「嗯。我會準備好報告書,再一併看看就好」
克洛維斯將古斯塔夫的報告記錄了下來。
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據搜查官打聽的結果,也弄清楚了為什麼最初被發現的顆粒藥劑會出現在那縫隙裡。
「事發現場的那間店裡的証詞指出,死亡的男性經常打開膠囊取出藥物後服用,事發當天也是打開膠囊正在服用的時候發生的」
「原來如此,所以被發現的是開膠囊時不知道什麼原因飛散的東西」
「依據藥廠的說明,那個藥是要在餐後服用。從事發時間往回推算,我想,藥在事發現場的那個店裡服用的可能性很高」
搜查本部將事件的關係人們所利用的藥局、醫院,以及藥物的流通管道進行了徹底的地毯式搜查。
結果,在搜查線上一個批發業者的存在浮出了檯面。
那個公司是數年前創立的新興企業,但是創立資金的來源不明,並且對員工進行調查的結果發現,幾乎都是些有前科的人。
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「原來是偽裝成市面上的大廠藥物進行細菌恐攻的犯罪組織啊……」
「為了防止被害人數增加,首先請管理局回收這個藥品吧」
「秘密進行回收比較好吧。回收動作要是被犯罪組織察覺的話,有可能會被他們逃走」
「這樣的話,也不能使用傳達給市民的警報系統吧」
「那麼,市民手上持有的這藥物該怎麼辦?」
「只能從醫院或藥局的購入資料裡篩選出來個別接觸,提醒他們注意」
搜查本部快速地下了決定。
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不久,以現行犯逮捕了搬運假藥批發業者的員工,讓他吐出了背後的組織相關情報。
從那情報裡推測出犯罪組織據點的相關位置情報,隨即著手強制搜查行動。抵達據點的時候,剛好是他們正要將培養好的細菌搬出的時候,於是一舉全員逮捕。
犯罪組織的成員們雖然有抵抗,但是逮捕行動依然順利地進行。
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克洛維斯檢查了作為犯罪組織的據點大樓裡的沙發,發現了塞在沙發的縫隙裡的錄音機。
打開了錄音機的開關後,似乎有錄了些什麼對話的樣子。雖然很在意那對話的內容,但是現在好像沒有時間播放出來聽。
「杜瓦爾刑警,怎麼了?差不多該是收隊的時間了」
「是的。發現了可能錄有組織內部談話記錄的錄音機」
「這樣啊。那麼,記入查扣品項單裡吧」
在據點的搜索上花了不少時間。
但是,逮捕到的名單中沒有古斯塔夫所提到的『具有製作細菌的知識,學過遺傳基因工程的人』,還得繼續搜查這個人。
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克洛維斯回到搜查本部的時候,已經是深夜了。雖然其他的搜查員們為了明天的工作也經先解散了,但是克洛維斯對於錄音機的內容十分在意,來到了保管查扣品的倉庫。
倉庫裡由於古斯塔夫正在拆解遺傳基因改造用的裝置與器具,而傳出物品的聲響。
「嘿,杜瓦爾刑警。怎麼了嗎?」
「古斯塔夫技師,搜查員們都已經解散了。您也應該要休息了吧?」
「哦,已經這麼晚了啊。那麼,我該回去一趟了。是說,你來這裡做什麼?應該不是來接我的吧?」
「我是想來確認被查扣的錄音機內容」
「喔。有找到這種東西啊,我也可以一起聽嗎?」
「嗯,當然。也許這裡面有關於遺傳基因改造的記錄也不一定呢」
在古斯塔夫的會同下,開始播放錄音內容。
傳出了在組織據點逮捕到的領導等級的男子的聲音。好像醉得很厲害似的,雖然大概可以知道在說什麼,但是很多時候是口齒不清的。
『怎麼。還在懷疑啊?被逮捕的話,後續統治局會全~部幫我們搞定的。跟你講那麼多次也該懂了吧?』
『因為,不覺得那個統治局很奇怪嗎。難道我們真的被逮捕也沒關係嗎?』
『沒關係,沒關~係。你不也看到了嗎?統治局準備好的新住所和工作。只不過,被逮捕之後,暫時得待在看守所忍耐一下,之後就能到中央的特別醫院接受整形手術,完全就是一個新的人生了啊』
『會有這麼好的事嗎,這真可以相信嗎?』
『以前的伙伴啊,照著這樣做成功了呀。安心吧。全~部放心交給統治局大人的話,凡事都會很順利的啦』
特別把這個錄音機藏起來,也就表示不知道是哪個疑心生暗鬼的人,對領導的話產生不信任感,而故意要將承諾錄音下來的可能性非常地高。
「這,這個是……」
「嗯」
相較於無法掩飾內心激動的克洛維斯,古斯塔夫則面不改色地聽著錄音內容。
如果就這樣完全相信錄音內容的話,那麼這次的細菌恐攻事件就會變成是由統治局所佈局設計的。
「明天早上,在搜查本部公開這錄音機的內容吧」
「要公開嗎,知道了」
克洛維斯告訴了古斯塔夫這個決定,古斯塔夫點點頭,兩人就各自回去了。
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隔天早上,克洛維斯為了拿錄音機前往保管扣押品的倉庫。
但是,錄音機卻消失了。
克洛維斯內心覺得奇怪,向管理扣押品的部署詢問錄音機的下落,但卻反而看到事務官一臉詫異。
「錄有對話的錄音機嗎?清單上沒有這樣的扣押品。是不是搞錯了呢?」
「不可能,我的確……」
「那麼,我查詢一下」
「不好意思。還有,查詢用的清單出來的話也讓我看一下好嗎?」
「知道了」
沒多久,從犯罪組織據點那邊扣押的物品或通信記錄等等的清單送來了。
但是,上面也沒有錄音機的記錄。也看不出清單有被竄改過的痕跡。也就是說,只有錄音機消失在那清單上。
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克洛維斯走出倉庫後,便前往古斯塔夫常去的一個科學檢查室。
昨天晚上,聽了錄音機內容的就只有自己跟古斯塔夫。除了自己以外,知道錄音機存在過的人就只有他了。
而且,記得聽錄音機內容的時候,他一臉面不改色。
古斯塔夫是最高階層的高級工程師。因某些原因知情的可能性很高。
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「杜瓦爾刑警,有什麼事嗎?」
古斯塔夫面對表情嚴肅的克洛維斯,用著一如往常的柔和態度回應。
「你早就知道了吧?」
鑽牛角尖的克洛維斯,劈頭就對著古斯塔夫問道。
「怎麼突然這麼問?如果累了的話,再多休息一下比較好哦?」
「不,我不是在說這個。你早就知道這次的事件全都是統治局所佈的局對嗎?所以──」
在克洛維斯像硬擠出來的聲音下,古斯塔夫瞇眼笑了。
他那討人喜歡的柔和笑容卻感覺變得有些深沉。
「你有好好休息了嗎?為了搜查能順利進行,充份地休息可是不能少的喔」
「請認真地回答我!」
面對敷衍回覆的古斯塔夫,克洛維斯語氣強硬地打斷。
得知了自己一直以來所相信的正義以及體制,像是要被推翻般的一部分事實,不想再繼續被謊言欺瞞玩弄。
「這樣啊,那就這樣吧……。如果無論如何都想要知道那個問題的答案,就到我現在傳到你接收器上的地點吧」
古斯塔夫操作了自己的機器,向克洛維斯的接收器傳送了地址訊息。
「只要到那裡,就可以聽到真實的回答對吧?」
「我不知道能不能給你滿意的答覆,但我可以跟你保証沒有謊言也不會有任何欺瞞」
「請問什麼時候可以過去?」
「隨你高興什麼時候都可以。下定決心後就給我個聯絡」
眼前的這位高級工程師臉上的柔和笑容消失了,以認真地神情看著克洛維斯。
克洛維斯也用相同的眼神回敬,從他的眼中看不到任何虛偽。
「我知道了……。打擾了,我先回去了」
克洛維斯敬了個禮後,轉身要走出科學搜查室。
「但是,我先給你一個忠告。知道了之後就回不去了,至少要先做好這樣的覺悟」
古斯塔夫的聲音就像是在背後撞了一下的感覺。
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走出了科學搜查室的克洛維斯,確認了傳到自己這裡的地址訊息。那個地點位於高級工程師們的研究設施與豪宅的所在區域裡。
要是在那個地方聽了古斯塔夫說的內容之後,自己至今所深信不移抱持著的價值觀應該就會全部崩壞了吧。突然,有這種預感。
等待著克洛維斯的『某件事』,讓他的心情越來越沉重。
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「─完─」
2779年 「懐疑」
西区大通りで起きた暴動は、首謀者達が全員突然死するという結末で幕を下ろした。
これ以上暴動が拡がるようであれば、防疫対策としてヒマガ地区全体を隔離することも考えなければならない。
捜査本部は一刻も早く事件を解決しようと、奔走していた。
暴動によって被疑者の数が増えたことは、捜査の進展に影響した。死亡した首謀者達の部屋から、同じ種類の薬がいくつか発見されたのだ。
それらはすぐさまギュスターヴの科学捜査室に運ばれ、調査が行われた。
調査の結果、この薬は一見ごく一般的な抗菌薬に見えるが、実は本物の薬に偽装したもので、中身は全くの別物であることが発覚した。
加えてこの薬の中身には、ヒマガ地区に蔓延る謎の細菌が含まれていたことも判明した。
本事件に関する検証が進むにつれて、細菌の正体が徐々に明らかになっていった。
「この細菌には何者かによって手が加えられた形跡がある。突然変異などではなく、遺伝子改造であると断定しても問題ない」
ギュスターヴは淡々と報告する。
「犯罪組織が存在すると仮定して、ほぼ間違いなく、その組織には遺伝子工学を学んだ構成員がいるだろう」
「わかりました。捜査の参考にします」
「うん。それと報告書を提出しておくから、併せて読んでおくといい」
クロヴィスはギュスターヴの報告を記録した。
捜査官による聞き込みの結果、最初に発見した顆粒剤がどうしてあんな隙間にあったのかも判明した。
「現場となった店での証言なんですが、死亡した男はいつもカプセルの中身を開封して薬を服用しており、事件当日も同じように開封して服用していたとのことです」
「なるほど、開封時に何らかの要因で飛び散ったものの一部が発見された、という訳か」
「メーカーの説明によりますと、あの薬は食後に服用するものとのことです。事件が発生した時間から逆算すると、薬は現場であるあの店で服用した可能性が高いと思われます」
捜査本部は事件の関係者達が利用したドラッグストアや病院、そして薬の流通ルートの徹底的な洗い出しに着手した。
その結果、捜査線上に一つの卸売業者の存在が浮かび上がってきた。
その会社は数年前に起業された新興企業であったが、起業資金の出所に不明瞭な点があり、更に従業員に関する調査を進めた結果、その殆どが後ろ暗い過去を持つ人間ばかりであることが明らかになった。
「メーカー販売薬を偽装して細菌テロを行う犯罪組織か……」
「被害の拡大を防ぐために、まずは販売されている当該薬の回収を管理局に要請しよう」
「回収は隠密に進めた方がいいだろう。回収が犯罪組織に感付かれると、逃亡される可能性がある」
「となると、市民への警報システムを利用するのも駄目ですね」
「それと、既に市民が所持している当該薬についてはどうしましょう?」
「病院やドラックストアの購入情報から洗い出して個別に接触、その上で注意喚起を行うしかあるまい」
捜査本部で物事が急速に決定されていった。
間もなく、偽装した薬を運搬していた卸売業者の従業員を現行犯逮捕し、バックに付いていた組織に関する情報を吐かせた。
その情報から犯罪組織の拠点に関する位置情報を割り出し、間髪入れずに強制捜査に着手。乗り込んだ拠点では培養した細菌を搬出しようとしていた最中であり、全員が一斉検挙と相成った。
犯罪組織の構成員達は抵抗したが、検挙自体はスムーズに進んでいった。
犯罪組織の拠点となっていたビルにあるソファを調べていたクロヴィスは、ソファの隙間に押し込まれているレコーダーを発見した。
レコーダーの電源を入れると、何らかの会話を記録した形跡が見受けられた。会話の内容が気に掛かったが、今は再生できるほどの時間的余裕は無さそうだった。
「デュバル刑事、どうした? そろそろ撤収の時間だ」
「はい。組織内の会話を記録したと思われるレコーダーを発見しました」
「そうか。では、押収品のリストに入れておいてくれ」
拠点の捜索には、かなりの時間を要した。
だが、逮捕者の中にギュスターヴが示唆した『細菌を作り出せる知識を持つ、遺伝子工学を学んだ人物』の存在は見当たらず、この該当人物に関しては継続捜査がされることになった。
クロヴィスが捜査本部に帰ったときは、既に真夜中であった。他の捜査員達は翌日に備えて解散となっていたが、レコーダーの内容が気になったクロヴィスは、押収品が保管された倉庫を訪れていた。
倉庫ではギュスターヴが遺伝子改造に使われていた装置や器具を分別するために作業をしており、物音が響いていた。
「やあ、デュバル刑事。どうかしたかね?」
「ギュスターヴ技師こそ。もう捜査員達は解散しています。貴方もお休みになった方がよろしいのでは?」
「おっと、もうそんな時間だったのか。では、一度戻るとしよう。ところで君は何をしにここへ? 私を迎えに来たのではあるまい?」
「押収したレコーダーの内容を確認しようと思いまして」
「ほう。そんな物が見つかっていたのか。私も一緒に確認していいかな?」
「ええ、勿論。遺伝子改造についても何かが記録されているかもしれませんし」
ギュスターヴ立会いの下、レコーダーの再生が始まった。
組織の拠点で逮捕したリーダー格の男の声が聞こえてきた。随分と酔っ払っているようで、何とか話している内容は聞き取れるものの、呂律が回っていない箇所が多々あった。
『なんだよ。まだ疑ってんのか? 逮捕されたって、その後はぜ〜んぶ統治局が何とかしてくれるんだって。何べん言やあ理解すんだよ?』
『だから、その統治局ってのが怪しいんじゃねえか。なぁ、本当に俺達、捕まっても大丈夫なのか?』
『だいじょうぶ、だ〜いじょうぶ。お前だって見ただろ? 統治局が用意した新しい住居と職をよ。それにだぜ、逮捕されたあと、ちょっとの間だけブタ箱を我慢すりゃ、それだけで中央の特別病院で整形手術までしてくれるってんだぜ? まさに新しい人生を歩めるってもんじゃねえか』
『そんな都合のいい話、本当に信じて大丈夫なのかよ?』
『昔の仲間がよ、同じようにやって成功してんだ。安心しろって。ぜ〜んぶ統治局様に任せておけば、万事上手くいくんだよ』
このレコーダーはわざわざ隠されていた。つまりそれは、リーダー格の話が信用できずに疑心暗鬼となった誰かが、言質を記録するために仕込んだ可能性が非常に高い。
「こ、これは……」
「ふむ」
動揺を隠せないクロヴィスに対し、ギュスターヴは顔色一つ変えずに記録を聞いていた。
この会話記録をそのまま受け取れば、今回の細菌テロ事件は全て統治局によって仕組まれたものである、ということになってしまう。
「明日の朝、このレコーダーを捜査本部で公開しましょう」
「そうか、わかった」
クロヴィスはギュスターヴにそう告げる。ギュスターヴはそれに頷き、その場は解散となった。
翌朝、クロヴィスはレコーダーを持ち出すために押収品が保管された倉庫へ向かった。しかし、件のレコーダーは忽然と消えていた。
おかしいと思い、押収品を管理する部署でレコーダーのことを尋ねたが、逆に事務官の一人に訝しげな顔で見られてしまった。
「会話記録が残ったレコーダーですか? そのような物が押収されたという記録はありません。何かの間違いでは?」
「そんな筈はない、私は確かに……」
「では、一応照会してみます」
「すまない。それと、照会用のリストが出たらこちらにも開示してもらえるかな?」
「わかりました」
程なくして、犯罪組織の拠点から押収した物品や通信記録などのリストが送られてきた。
しかし、レコーダーの存在はそのどこにもなかった。記録が改竄された形跡も見当たらない。つまり、レコーダーの存在だけが消え失せているのだ。
クロヴィスは倉庫を出たその足で、ギュスターヴが常駐しているであろう科学検査室を訪れた。
昨晩、レコーダーの記録を聞いたのは自分とギュスターヴである。自分以外にあのレコーダーの存在を知っている人間は彼しかいない。
それに、レコーダーの記録を聞いても彼は少しも動揺しなかった。その事に引っ掛かりを覚えていた。
ギュスターヴは最上位のテクノクラートだ。何か理由を知っている可能性が高かった。
「デュバル刑事、何かあったのか?」
ギュスターヴは必死な表情を浮かべるクロヴィスを、いつも通りの柔和な態度で迎え入れた。
「貴方は知っていたのですか?」
思い詰めたクロヴィスは、いきなりギュスターヴにそう問い掛けた。
「急にどうした? 疲れているのなら、少し休んだほうがいいぞ?」
「いいえ、そうじゃありません。貴方は今回の事件の全てが統治局によって仕組まれたものだと知っていたのですか? だから——」
クロヴィスの搾り出すような声に、ギュスターヴは目を細めた。
彼の人好きのしそうな柔和な笑みが、少しだけ深くなったような気がした。
「君はちゃんと寝ているのか? 捜査を円滑に進めるためには、十分な休息が必要不可欠だぞ」
「真面目に答えてください!」
茶化すようなギュスターヴの物言いに、クロヴィスは語気を強めて静かに言い放つ。
自らが信じている正義や体制が覆されるような事実の一端を知ってしまった以上、更なる欺瞞や嘘に翻弄されたくはなかった。
「そうか、そうだな……。どうしてもその疑問に答えが欲しいと言うのなら、今から君の端末に送る場所に来るといい」
ギュスターヴは自身の端末を操作すると、クロヴィスの端末に位置情報のデータを送信した。
「ここに行けば嘘の無い発言を聞かせていただけると、そう考えてよろしいのですね?」
「君が納得できる答えを用意できるかはわからないが、嘘や誤魔化しなどは存在しないことを保障しよう」
「いつ頃お伺いすればよろしいですか?」
「君の好きな時で構わんよ。覚悟が決まったら連絡を寄越してくれたまえ」
目の前のテクノクラートは柔和な笑みを消し、真剣な面差しでクロヴィスを見る。
クロヴィスもギュスターヴの目を見返した。彼の目には何かを偽ろうとするような意思は見て取れない。
「わかりました……。すみません、戻ります」
クロヴィスは頭を下げると、科学捜査室を退室すべく踵を返す。
「だが、一つだけ忠告しておこう。知れば戻れなくなるぞ。それだけは覚悟しておくように」
ギュスターヴの声が背中にぶつかるような感覚があった。
科学捜査室を出たクロヴィスは、自身の端末に送られてきた位置情報を確認した。その場所はテクノクラート達の研究施設と邸宅が置かれている区画であった。
その場所でギュスターヴの話を聞いてしまえば、今まで絶対的に抱いてきた価値観が全て崩れ去ってしまうのではないか。ふと、そんな予感がした。
クロヴィスを待ち受ける『何か』が、彼の心に重くのしかかってくるのであった。
「—了—」
西区大通りで起きた暴動は、首謀者達が全員突然死するという結末で幕を下ろした。
これ以上暴動が拡がるようであれば、防疫対策としてヒマガ地区全体を隔離することも考えなければならない。
捜査本部は一刻も早く事件を解決しようと、奔走していた。
暴動によって被疑者の数が増えたことは、捜査の進展に影響した。死亡した首謀者達の部屋から、同じ種類の薬がいくつか発見されたのだ。
それらはすぐさまギュスターヴの科学捜査室に運ばれ、調査が行われた。
調査の結果、この薬は一見ごく一般的な抗菌薬に見えるが、実は本物の薬に偽装したもので、中身は全くの別物であることが発覚した。
加えてこの薬の中身には、ヒマガ地区に蔓延る謎の細菌が含まれていたことも判明した。
本事件に関する検証が進むにつれて、細菌の正体が徐々に明らかになっていった。
「この細菌には何者かによって手が加えられた形跡がある。突然変異などではなく、遺伝子改造であると断定しても問題ない」
ギュスターヴは淡々と報告する。
「犯罪組織が存在すると仮定して、ほぼ間違いなく、その組織には遺伝子工学を学んだ構成員がいるだろう」
「わかりました。捜査の参考にします」
「うん。それと報告書を提出しておくから、併せて読んでおくといい」
クロヴィスはギュスターヴの報告を記録した。
捜査官による聞き込みの結果、最初に発見した顆粒剤がどうしてあんな隙間にあったのかも判明した。
「現場となった店での証言なんですが、死亡した男はいつもカプセルの中身を開封して薬を服用しており、事件当日も同じように開封して服用していたとのことです」
「なるほど、開封時に何らかの要因で飛び散ったものの一部が発見された、という訳か」
「メーカーの説明によりますと、あの薬は食後に服用するものとのことです。事件が発生した時間から逆算すると、薬は現場であるあの店で服用した可能性が高いと思われます」
捜査本部は事件の関係者達が利用したドラッグストアや病院、そして薬の流通ルートの徹底的な洗い出しに着手した。
その結果、捜査線上に一つの卸売業者の存在が浮かび上がってきた。
その会社は数年前に起業された新興企業であったが、起業資金の出所に不明瞭な点があり、更に従業員に関する調査を進めた結果、その殆どが後ろ暗い過去を持つ人間ばかりであることが明らかになった。
「メーカー販売薬を偽装して細菌テロを行う犯罪組織か……」
「被害の拡大を防ぐために、まずは販売されている当該薬の回収を管理局に要請しよう」
「回収は隠密に進めた方がいいだろう。回収が犯罪組織に感付かれると、逃亡される可能性がある」
「となると、市民への警報システムを利用するのも駄目ですね」
「それと、既に市民が所持している当該薬についてはどうしましょう?」
「病院やドラックストアの購入情報から洗い出して個別に接触、その上で注意喚起を行うしかあるまい」
捜査本部で物事が急速に決定されていった。
間もなく、偽装した薬を運搬していた卸売業者の従業員を現行犯逮捕し、バックに付いていた組織に関する情報を吐かせた。
その情報から犯罪組織の拠点に関する位置情報を割り出し、間髪入れずに強制捜査に着手。乗り込んだ拠点では培養した細菌を搬出しようとしていた最中であり、全員が一斉検挙と相成った。
犯罪組織の構成員達は抵抗したが、検挙自体はスムーズに進んでいった。
犯罪組織の拠点となっていたビルにあるソファを調べていたクロヴィスは、ソファの隙間に押し込まれているレコーダーを発見した。
レコーダーの電源を入れると、何らかの会話を記録した形跡が見受けられた。会話の内容が気に掛かったが、今は再生できるほどの時間的余裕は無さそうだった。
「デュバル刑事、どうした? そろそろ撤収の時間だ」
「はい。組織内の会話を記録したと思われるレコーダーを発見しました」
「そうか。では、押収品のリストに入れておいてくれ」
拠点の捜索には、かなりの時間を要した。
だが、逮捕者の中にギュスターヴが示唆した『細菌を作り出せる知識を持つ、遺伝子工学を学んだ人物』の存在は見当たらず、この該当人物に関しては継続捜査がされることになった。
クロヴィスが捜査本部に帰ったときは、既に真夜中であった。他の捜査員達は翌日に備えて解散となっていたが、レコーダーの内容が気になったクロヴィスは、押収品が保管された倉庫を訪れていた。
倉庫ではギュスターヴが遺伝子改造に使われていた装置や器具を分別するために作業をしており、物音が響いていた。
「やあ、デュバル刑事。どうかしたかね?」
「ギュスターヴ技師こそ。もう捜査員達は解散しています。貴方もお休みになった方がよろしいのでは?」
「おっと、もうそんな時間だったのか。では、一度戻るとしよう。ところで君は何をしにここへ? 私を迎えに来たのではあるまい?」
「押収したレコーダーの内容を確認しようと思いまして」
「ほう。そんな物が見つかっていたのか。私も一緒に確認していいかな?」
「ええ、勿論。遺伝子改造についても何かが記録されているかもしれませんし」
ギュスターヴ立会いの下、レコーダーの再生が始まった。
組織の拠点で逮捕したリーダー格の男の声が聞こえてきた。随分と酔っ払っているようで、何とか話している内容は聞き取れるものの、呂律が回っていない箇所が多々あった。
『なんだよ。まだ疑ってんのか? 逮捕されたって、その後はぜ〜んぶ統治局が何とかしてくれるんだって。何べん言やあ理解すんだよ?』
『だから、その統治局ってのが怪しいんじゃねえか。なぁ、本当に俺達、捕まっても大丈夫なのか?』
『だいじょうぶ、だ〜いじょうぶ。お前だって見ただろ? 統治局が用意した新しい住居と職をよ。それにだぜ、逮捕されたあと、ちょっとの間だけブタ箱を我慢すりゃ、それだけで中央の特別病院で整形手術までしてくれるってんだぜ? まさに新しい人生を歩めるってもんじゃねえか』
『そんな都合のいい話、本当に信じて大丈夫なのかよ?』
『昔の仲間がよ、同じようにやって成功してんだ。安心しろって。ぜ〜んぶ統治局様に任せておけば、万事上手くいくんだよ』
このレコーダーはわざわざ隠されていた。つまりそれは、リーダー格の話が信用できずに疑心暗鬼となった誰かが、言質を記録するために仕込んだ可能性が非常に高い。
「こ、これは……」
「ふむ」
動揺を隠せないクロヴィスに対し、ギュスターヴは顔色一つ変えずに記録を聞いていた。
この会話記録をそのまま受け取れば、今回の細菌テロ事件は全て統治局によって仕組まれたものである、ということになってしまう。
「明日の朝、このレコーダーを捜査本部で公開しましょう」
「そうか、わかった」
クロヴィスはギュスターヴにそう告げる。ギュスターヴはそれに頷き、その場は解散となった。
翌朝、クロヴィスはレコーダーを持ち出すために押収品が保管された倉庫へ向かった。しかし、件のレコーダーは忽然と消えていた。
おかしいと思い、押収品を管理する部署でレコーダーのことを尋ねたが、逆に事務官の一人に訝しげな顔で見られてしまった。
「会話記録が残ったレコーダーですか? そのような物が押収されたという記録はありません。何かの間違いでは?」
「そんな筈はない、私は確かに……」
「では、一応照会してみます」
「すまない。それと、照会用のリストが出たらこちらにも開示してもらえるかな?」
「わかりました」
程なくして、犯罪組織の拠点から押収した物品や通信記録などのリストが送られてきた。
しかし、レコーダーの存在はそのどこにもなかった。記録が改竄された形跡も見当たらない。つまり、レコーダーの存在だけが消え失せているのだ。
クロヴィスは倉庫を出たその足で、ギュスターヴが常駐しているであろう科学検査室を訪れた。
昨晩、レコーダーの記録を聞いたのは自分とギュスターヴである。自分以外にあのレコーダーの存在を知っている人間は彼しかいない。
それに、レコーダーの記録を聞いても彼は少しも動揺しなかった。その事に引っ掛かりを覚えていた。
ギュスターヴは最上位のテクノクラートだ。何か理由を知っている可能性が高かった。
「デュバル刑事、何かあったのか?」
ギュスターヴは必死な表情を浮かべるクロヴィスを、いつも通りの柔和な態度で迎え入れた。
「貴方は知っていたのですか?」
思い詰めたクロヴィスは、いきなりギュスターヴにそう問い掛けた。
「急にどうした? 疲れているのなら、少し休んだほうがいいぞ?」
「いいえ、そうじゃありません。貴方は今回の事件の全てが統治局によって仕組まれたものだと知っていたのですか? だから——」
クロヴィスの搾り出すような声に、ギュスターヴは目を細めた。
彼の人好きのしそうな柔和な笑みが、少しだけ深くなったような気がした。
「君はちゃんと寝ているのか? 捜査を円滑に進めるためには、十分な休息が必要不可欠だぞ」
「真面目に答えてください!」
茶化すようなギュスターヴの物言いに、クロヴィスは語気を強めて静かに言い放つ。
自らが信じている正義や体制が覆されるような事実の一端を知ってしまった以上、更なる欺瞞や嘘に翻弄されたくはなかった。
「そうか、そうだな……。どうしてもその疑問に答えが欲しいと言うのなら、今から君の端末に送る場所に来るといい」
ギュスターヴは自身の端末を操作すると、クロヴィスの端末に位置情報のデータを送信した。
「ここに行けば嘘の無い発言を聞かせていただけると、そう考えてよろしいのですね?」
「君が納得できる答えを用意できるかはわからないが、嘘や誤魔化しなどは存在しないことを保障しよう」
「いつ頃お伺いすればよろしいですか?」
「君の好きな時で構わんよ。覚悟が決まったら連絡を寄越してくれたまえ」
目の前のテクノクラートは柔和な笑みを消し、真剣な面差しでクロヴィスを見る。
クロヴィスもギュスターヴの目を見返した。彼の目には何かを偽ろうとするような意思は見て取れない。
「わかりました……。すみません、戻ります」
クロヴィスは頭を下げると、科学捜査室を退室すべく踵を返す。
「だが、一つだけ忠告しておこう。知れば戻れなくなるぞ。それだけは覚悟しておくように」
ギュスターヴの声が背中にぶつかるような感覚があった。
科学捜査室を出たクロヴィスは、自身の端末に送られてきた位置情報を確認した。その場所はテクノクラート達の研究施設と邸宅が置かれている区画であった。
その場所でギュスターヴの話を聞いてしまえば、今まで絶対的に抱いてきた価値観が全て崩れ去ってしまうのではないか。ふと、そんな予感がした。
クロヴィスを待ち受ける『何か』が、彼の心に重くのしかかってくるのであった。
「—了—」