二八一四年。當瑪麗妮菈登上治理世界的舞台上時,年僅十五歲。
一般來說本來應該還是在準備就業的年齡,但是瑪麗妮菈卻已經有此成就。
|
「B-4地區發生武裝集團引起的暴動,不過國家保安局第八機動部隊已經依計畫鎮壓下來了」
瑪麗妮菈向著進來辦公室的蕾格烈芙,報告了由國家保安局所呈報上來的消息。
「知道了。那麼,報告一下B-4地區的發展係數與事前模擬的對照以及驗證結果」
蕾格烈芙一邊看著投映在螢幕上的鎮壓報告,一邊說出下一個指示。
「遵命」
瑪麗妮菈行禮後便離開了辦公室。
將蕾格烈芙的命令傳達給各局,快速地處理送上來的報告。然後將每日變動的市民需求數值化來正確掌握,並且進行將人類引導至繁榮與進步的輔佐,就是瑪麗妮菈的職務。
瑪麗妮菈作為蕾格烈芙的助手,在今後的三十年、四十年都會輔佐她,成為人類繁榮的基礎。
本來應該是這樣的。
|
二八三七年。這年發生自動人偶蜂擁群起的動亂,成為了世界驟變的開端。
為了收拾動亂,研究混沌元素的頭號人物,梅爾基奧開發了新兵器。那個兵器成功地解決了動亂。
但是,因為那個兵器太過急著製造而有缺陷。過度地使用不完整的兵器直到動亂結束,結果引起了作為動力的混沌元素核心暴走。
|
──造成了世界的邊界歪斜。而這個歪斜形成了《渦》出現在地上。──
|
《渦》給人類所帶來的巨大災害,是自然災害無法比擬的。
動員了所有高階工程師的頭腦,總算完成了能夠阻擋《渦》前進的『障壁』技術。但是,由於這個技術實現化的裝置太過於複雜,因此量產速度難以提昇。
即使在工業都市尹貝羅達所建造的設施裡不分晝夜地生產,光是生產羅占布爾克等主要都市的量都已經用盡全力了。
最後,大約統治了人類世界七十年的蕾格烈芙也為了從《渦》中拯救世界,不得不踏上長途之旅。
|
「瑪麗妮菈大人,篩選部門送來了第一批移住潘德莫尼的市民名單」
「放到螢幕上給我看」
螢幕上放印出從世界各地選出的市民名單。
瑪麗妮菈作為蕾格烈芙的接班人,成了統治世界的指導者之一。
指導者一共三位。因為是要代替執行蕾格烈芙的職務,並且要對應所有發生的事,只有一個人是不夠的。
三位指導者的職務幾乎都是從《渦》的災害中守護人類。但是即使如此,想要對付無法預測什麼時候會在什麼地方出現的《渦》是有極限的。
|
蕾格烈芙在出發之前,想出了從《渦》這個災害中守護人類的最後手段,也就是將空中都市建設計畫轉用於『潘德莫尼計畫』。1
一座浮在空中的巨大都市潘德莫尼,本來是要將人們與技術或研究保存下來用的守護都市。
但是,就算潘德莫尼再怎麼巨大,也不可能收容全人類。因此統治局只好成立『篩選部門』這個組織,經過各式各樣的審查後,挑選移住者。
|
瑪麗妮菈從頭至尾看了一遍像瀑布般的名單後,向秘書官提出了一個疑問。
「……這上面沒有古斯塔夫技師與格蘭特技師,怎麼回事?」
「古斯塔夫技師與格蘭特技師這兩位表示,他們的研究只能在地上才能完成,因此拒絕移住潘德莫尼」
這兩個人和蕾格烈芙同時期出生,是最頂尖的高階工程師。致力於人類發展的使命與能力,不需要等待被篩選早被歸類於確定移住的名單中。
「知道了。那麼,趕緊選定和這兩位做相同研究的高階工程師」
「已經準備好候補名單了,您要過目嗎?」
「給我看看」
雖然僅是少數,但仍有人會拒絕統治局的榮譽選定。
雖然將他們的優秀的頭腦與基因留在地上,是極為重大的損失,但已經沒有多餘的時間來說服他們了。
「通知各部門,第一批移住者的移動從明天早上十點開始」
「遵命」
「還有,報告一下研究技術資料的移送狀況」
「已移送狀況投映在螢幕上」
秘書官說完同時,螢幕被切換成被標示著不同顏色區塊的地圖。
「D-4地區與J-2地區的進展不太樂觀啊,發生了什麼事?」
「我會調查看看」
「沒時間了。在下個會議結束前調查清楚」
「遵命」
螢幕上的地圖消失後,另外一位秘書官的通訊來了。
「瑪麗妮菈大人,阿薩多計畫的會議時間到了」
「放出來」
投影螢幕上映出幾位與阿薩多計畫相關的工程師。
固定的禮儀招呼結束後,開始進行計畫的進度報告。
「複製人製造設施的建設部份,正依照進度進行中」
影像切換到建設中的複製人製造設施的影片。影片中,特殊的工程機械正往地下挖掘中,在堅固的避難所中建設設施。
「管理這個設施的AI,也差不多可以進入測試的階段了」
「測試時我會出席。沒問題吧?」
「是的,沒有問題。測試的日期稍後再通知您」
「知道了」
影片播放結束後,螢幕再度出現幾位工程師的臉。
「但是,這麼做真的可以嗎?」
「事到如今怎麼了?這全是為了將我們的統治留在地上而做的」
瑪麗妮菈瞪向工程師。
|
結束了這天業務的瑪麗妮菈來到了一間醫院。
「歡迎,瑪麗妮菈大人」
醫院的院長慎重地迎接瑪麗妮菈。
「那孩子情況如何?」
「一切良好,您方便的話要不要直接確認一下呢?」
「好」
在院長的帶路下,瑪麗妮菈前往了育嬰室。
在擺滿了最新設備的育嬰室裡,只有一個嬰兒靜靜地睡著。
那嬰兒的面貌,感覺與瑪麗妮菈有些相似。
「那麼,我先離開了。您要回去的時候請到護士站來一下」
「嗯,知道了」
院長走出了育嬰室,只留下瑪麗妮菈與嬰兒。
|
睡著的樣子和一般的嬰兒並沒有什麼不同。但是,這個孩子並不是普通的嬰兒。這個孩子,是為了讓他擁有能夠統治社會的最大才能,而進行了遺傳基因調整,是阿薩多計畫中重要的存在。
|
阿薩多計畫,是由現在統治世界的三個指導者所提出的計畫。
瑪麗妮菈他們聽從蕾格烈芙命令,將治世的場所移至空中都市潘德莫尼。但是如此一來,便等同於捨棄殘存於地上的人們與文明。
即使要捨棄,也盡可能地想要給予殘留在地上的人們秩序與統治。這便是阿薩多計畫的根基。
為了從《渦》中守護人們,留下了名為障壁的裝置。如此一來,便能給予殘留在地上的人們有延續生命的可能性。
接下來,在潘德莫尼撤離地上後,需要能夠統治率領存活人們的人才。根據各式各樣的討論與調查的結果所引導出的答案,選定的人才是以瑪麗妮菈的基因作為基礎而設計出的嬰兒。
|
瑪麗妮菈輕撫在躺在小小的床上,熟睡的嬰兒頭部。
也許是因為繼承了自己的遺傳基因吧,只要想到等待著這孩子的未來,不禁覺得有幾分感傷。
為了能應付無法預測的情況,而被調整遺傳基因的這個孩子,會成長成什麼樣子呢。
「瑪爾瑟斯,地上就靠你拯救了哦……」
瑪麗妮菈對躺在床上的嬰兒,像祈禱般地說道。
|
「─完─」
2839年 「計画」
二八一四年。マリネラが自身に課せられた治世という舞台へ上がったのは、一五歳の時だった。
一般的にはまだ就業準備段階の年齢であるが、マリネラはそうではなかった。
「B−4地区に発生させた武装集団による暴動ですが、国家保安局第八機動部隊によって予定通りに鎮圧されました」
執務室に入ってきたレッドグレイヴに、国家保安局から上がってきた一報の報告を行う。
「わかった。では、B−4地区の発展係数について事前のシミュレーション結果と照合し、検証結果を報告せよ」
レッドグレイヴはモニターに映し出されている鎮圧報告に目を通しながら、次の指示を出す。
「承知しました」
マリネラは一礼して執務室を退室した。
レッドグレイヴの命令を関係各局に通達し、上がって来た報告に手早く対応する。そして日々変動する市民の欲求を数値化して正確に把握し、人類を繁栄と進歩へ導くための補佐を行う。それがマリネラの職務であった。
マリネラはレッドグレイヴの側近として、今後三十年、四十年と彼女を補佐し、人類の繁栄の礎となる。
その筈だった。
二八三七年。この年に発生したオートマタの一斉蜂起による動乱は、世界が一変する端緒であった。
動乱を収束させるために、ケイオシウム研究の第一人者であるメルキオールによって新兵器が開発された。そしてその兵器は、動乱を完全に収束するのに成功した。
だが、この兵器は急造のために不完全であった。不完全な兵器を動乱の収束まで酷使し続けた結果、動力としていたケイオシウムコアの暴走を引き起こしてしまったのだ。
——世界の境界は歪んだ。そしてその歪みは、《渦》となって地上に出現した。——
《渦》は自然災害と比べようもない程の脅威となり、人類に多大な厄災をもたらした。
テクノクラートの頭脳を総動員して、どうにか《渦》の進行を妨げる『障壁』の技術は完成を見ることができた。しかしこの技術を具現化する装置はあまりにも複雑化してしまい、量産速度の向上は困難を極めた。
工業都市インペローダに建造した施設で昼夜を問わない生産を行っているものの、未だローゼンブルグなどの主要都市に配備するだけの数を揃えるのが精一杯だった。
そしてついには、約七十年に渡って人間世界を統治し続けたレッドグレイヴも、《渦》から世界を救うために、長い旅路へ出立せざるを得ない事態に至ってしまった。
「マリネラ様、選分課からパンデモニウムに移住する市民の第一次リストが到着しています」
「モニターに開示してくれ」
世界各地から選定された市民のリストが映し出される。
マリネラはレッドグレイヴの後継として、世界を統治する指導者の一人となっていた。
指導者には三人が据えられた。これは、レッドグレイヴの代わりを務め、且つあらゆる事態に備えるためには、到底一人では足るべくもないためであった。
三人の指導者は職務の殆どを《渦》の災害から人類を守ることに充てていた。だがそれでも、いつどこに出現するのか予測不可能な《渦》に対応するには限界があった。
レッドグレイヴは出立の直前、《渦》の災害から人類を守るための最終手段として、空中都市建設計画であった『パンデモニウム計画』の転用を策定していた。
それは、空に浮かぶ巨大な空中都市パンデモニウムを、人々と技術や研究を残すための守護都市として運用するというものであった。
だが、パンデモニウムがいくら巨大であるといっても、全人類を収容することなど到底不可能だ。統治局は『選分課』と呼ばれる新たな組織を設置し、様々な審査の上で移住者を選定するしかなかった。
滝のように流れるリストを一通り見終わったマリネラは、一つの疑問を秘書官へ投げ掛けた。
「……ギュスターヴ技師とグラント技師の名が無いな。どうなっている?」
「ギュスターヴ技師とグラント技師の両名は、地上でのみ達成可能な研究があると申し出た上で、パンデモニウムへの移住を拒否しました」
この二人はレッドグレイヴと同時期に生まれた、最上位のテクノクラートだ。人類の発展に尽くす使命と能力は、選定を待つまでもなく移住が確定する類のものだ。
「わかった。では、この者達と同様の研究を行うテクノクラートの選定を急げ」
「候補のリストはすでに用意してあります。ご覧になりますか?」
「見せてくれ」
僅かではあるが、統治局による栄誉ある選定を拒む者が存在した。
彼らの優秀な頭脳と遺伝子を地上に残すことは極めて重大な損失であるが、彼らを説得するような時間は、すでに残っていなかった。
「第一次移住者の移住作業を明朝十時から開始する。各所に通達を出せ」
「承知しました」
「それと、研究技術資料の移送状況を報告せよ」
「モニターに移送状況を表示します」
秘書官の言葉と同時に、モニターの表示が色分けされた地図に切り替えられた。
「D−4地区とJ−2地区の進捗が芳しくないな。どうなっている?」
「調査します」
「時間がない。次のミーティングが終了するまでに調査を終わらせておくように」
「承知しました」
モニターから地図が消えると、別の秘書官から通信が入る。
「マリネラ様、アザト計画に関するミーティングのお時間です」
「映せ」
アザト計画に携わるエンジニアが数人、スクリーンに映し出される。
定型の挨拶を済ませると、計画の進捗報告へと移った。
「クローン製造施設の建設ですが、進捗は予定通りです」
スクリーンの映像が切り替わり、建設中のクローン製造施設の様子を写した動画が流れてくる。動画の中では特殊な作業機械が地下を掘り進め、頑丈なシェルターの中に施設を建設していた。
「この施設を管理するAIにつきましても、間もなくテストが可能な段階に入ります」
「テストには私も同席する。問題はないな?」
「はい、問題ありません。テストの日程は追ってお知らせいたします」
「わかった」
動画の再生が終わり、再びエンジニア数人の顔が映った。
「しかし、本当によろしいのですか?」
「何を今さら。全ては我々の統治を地上に残すためだ」
マリネラはエンジニアを睨むように見据えた。
その日の業務を終えたマリネラは、とある病院を訪れていた。
「ようこそ、マリネラ様」
病院の院長が丁重にマリネラを迎え入れた。
「あの子の様子は?」
「全て順調です。よろしければ直接ご確認なさいますか?」
「そうしよう」
院長に先導され、新生児室へと足を運ぶ。
最新の設備が所狭しと置かれているこの新生児室には、たった一人の赤子が静かに眠っていた。
その面差しは、どこかマリネラに似ている。
「では、私は席を外します。お帰りの際はナースステーションにお立ち寄りください」
「ああ、わかった」
院長は新生児室を出て行き、マリネラと赤子だけが残された。
眠っている様子は何処にでもいる普通の赤子と何も変わらない。だが、この子は普通の赤子ではない。この子は、社会統治の才覚を最大限に行使できるよう遺伝子調整が施された、アザト計画の要となる存在なのだ。
アザト計画とは、現在の世界を統治する三人の指導者によって発案された計画だ。
マリネラ達はレッドグレイヴの命によって治世の場を空中都市パンデモニウムへと移す。しかしそれは、地上に残された人々と文明を見捨てるということと同義であった。
それでも、可能な限り地上に残された人々に秩序と統治を与えよう。それがアザト計画の根幹であった。
《渦》から人々を守るために障壁という装置を置いた。これによって、地上に残された人々には生き延びる可能性が与えられた。
あとは、パンデモニウムが地上を去った後に、生き延びた人々を率いて治める能力を持った人材が必要となる。様々な議論や調査の末に導き出された答えとして、その人材にはマリネラの遺伝子を基礎としたデザイナーベビーを充てることになった。
小さなベッドで眠る赤子の頭を、マリネラは軽く撫でた。
自身の遺伝子を継いでいるせいだろうか。この子を待ち受ける未来を想像すると、幾許か感傷的な気分に陥った。
不測の事態にも対応できるよう、あらゆる遺伝子調整が施されたこの子は、どのように成長していくのだろうか。
「マルセウス、貴方が地上を救うのよ……」
マリネラはベッドの中にいる赤子に、祈るように語り掛けるのだった。
「—了—」
二八一四年。マリネラが自身に課せられた治世という舞台へ上がったのは、一五歳の時だった。
一般的にはまだ就業準備段階の年齢であるが、マリネラはそうではなかった。
「B−4地区に発生させた武装集団による暴動ですが、国家保安局第八機動部隊によって予定通りに鎮圧されました」
執務室に入ってきたレッドグレイヴに、国家保安局から上がってきた一報の報告を行う。
「わかった。では、B−4地区の発展係数について事前のシミュレーション結果と照合し、検証結果を報告せよ」
レッドグレイヴはモニターに映し出されている鎮圧報告に目を通しながら、次の指示を出す。
「承知しました」
マリネラは一礼して執務室を退室した。
レッドグレイヴの命令を関係各局に通達し、上がって来た報告に手早く対応する。そして日々変動する市民の欲求を数値化して正確に把握し、人類を繁栄と進歩へ導くための補佐を行う。それがマリネラの職務であった。
マリネラはレッドグレイヴの側近として、今後三十年、四十年と彼女を補佐し、人類の繁栄の礎となる。
その筈だった。
二八三七年。この年に発生したオートマタの一斉蜂起による動乱は、世界が一変する端緒であった。
動乱を収束させるために、ケイオシウム研究の第一人者であるメルキオールによって新兵器が開発された。そしてその兵器は、動乱を完全に収束するのに成功した。
だが、この兵器は急造のために不完全であった。不完全な兵器を動乱の収束まで酷使し続けた結果、動力としていたケイオシウムコアの暴走を引き起こしてしまったのだ。
——世界の境界は歪んだ。そしてその歪みは、《渦》となって地上に出現した。——
《渦》は自然災害と比べようもない程の脅威となり、人類に多大な厄災をもたらした。
テクノクラートの頭脳を総動員して、どうにか《渦》の進行を妨げる『障壁』の技術は完成を見ることができた。しかしこの技術を具現化する装置はあまりにも複雑化してしまい、量産速度の向上は困難を極めた。
工業都市インペローダに建造した施設で昼夜を問わない生産を行っているものの、未だローゼンブルグなどの主要都市に配備するだけの数を揃えるのが精一杯だった。
そしてついには、約七十年に渡って人間世界を統治し続けたレッドグレイヴも、《渦》から世界を救うために、長い旅路へ出立せざるを得ない事態に至ってしまった。
「マリネラ様、選分課からパンデモニウムに移住する市民の第一次リストが到着しています」
「モニターに開示してくれ」
世界各地から選定された市民のリストが映し出される。
マリネラはレッドグレイヴの後継として、世界を統治する指導者の一人となっていた。
指導者には三人が据えられた。これは、レッドグレイヴの代わりを務め、且つあらゆる事態に備えるためには、到底一人では足るべくもないためであった。
三人の指導者は職務の殆どを《渦》の災害から人類を守ることに充てていた。だがそれでも、いつどこに出現するのか予測不可能な《渦》に対応するには限界があった。
レッドグレイヴは出立の直前、《渦》の災害から人類を守るための最終手段として、空中都市建設計画であった『パンデモニウム計画』の転用を策定していた。
それは、空に浮かぶ巨大な空中都市パンデモニウムを、人々と技術や研究を残すための守護都市として運用するというものであった。
だが、パンデモニウムがいくら巨大であるといっても、全人類を収容することなど到底不可能だ。統治局は『選分課』と呼ばれる新たな組織を設置し、様々な審査の上で移住者を選定するしかなかった。
滝のように流れるリストを一通り見終わったマリネラは、一つの疑問を秘書官へ投げ掛けた。
「……ギュスターヴ技師とグラント技師の名が無いな。どうなっている?」
「ギュスターヴ技師とグラント技師の両名は、地上でのみ達成可能な研究があると申し出た上で、パンデモニウムへの移住を拒否しました」
この二人はレッドグレイヴと同時期に生まれた、最上位のテクノクラートだ。人類の発展に尽くす使命と能力は、選定を待つまでもなく移住が確定する類のものだ。
「わかった。では、この者達と同様の研究を行うテクノクラートの選定を急げ」
「候補のリストはすでに用意してあります。ご覧になりますか?」
「見せてくれ」
僅かではあるが、統治局による栄誉ある選定を拒む者が存在した。
彼らの優秀な頭脳と遺伝子を地上に残すことは極めて重大な損失であるが、彼らを説得するような時間は、すでに残っていなかった。
「第一次移住者の移住作業を明朝十時から開始する。各所に通達を出せ」
「承知しました」
「それと、研究技術資料の移送状況を報告せよ」
「モニターに移送状況を表示します」
秘書官の言葉と同時に、モニターの表示が色分けされた地図に切り替えられた。
「D−4地区とJ−2地区の進捗が芳しくないな。どうなっている?」
「調査します」
「時間がない。次のミーティングが終了するまでに調査を終わらせておくように」
「承知しました」
モニターから地図が消えると、別の秘書官から通信が入る。
「マリネラ様、アザト計画に関するミーティングのお時間です」
「映せ」
アザト計画に携わるエンジニアが数人、スクリーンに映し出される。
定型の挨拶を済ませると、計画の進捗報告へと移った。
「クローン製造施設の建設ですが、進捗は予定通りです」
スクリーンの映像が切り替わり、建設中のクローン製造施設の様子を写した動画が流れてくる。動画の中では特殊な作業機械が地下を掘り進め、頑丈なシェルターの中に施設を建設していた。
「この施設を管理するAIにつきましても、間もなくテストが可能な段階に入ります」
「テストには私も同席する。問題はないな?」
「はい、問題ありません。テストの日程は追ってお知らせいたします」
「わかった」
動画の再生が終わり、再びエンジニア数人の顔が映った。
「しかし、本当によろしいのですか?」
「何を今さら。全ては我々の統治を地上に残すためだ」
マリネラはエンジニアを睨むように見据えた。
その日の業務を終えたマリネラは、とある病院を訪れていた。
「ようこそ、マリネラ様」
病院の院長が丁重にマリネラを迎え入れた。
「あの子の様子は?」
「全て順調です。よろしければ直接ご確認なさいますか?」
「そうしよう」
院長に先導され、新生児室へと足を運ぶ。
最新の設備が所狭しと置かれているこの新生児室には、たった一人の赤子が静かに眠っていた。
その面差しは、どこかマリネラに似ている。
「では、私は席を外します。お帰りの際はナースステーションにお立ち寄りください」
「ああ、わかった」
院長は新生児室を出て行き、マリネラと赤子だけが残された。
眠っている様子は何処にでもいる普通の赤子と何も変わらない。だが、この子は普通の赤子ではない。この子は、社会統治の才覚を最大限に行使できるよう遺伝子調整が施された、アザト計画の要となる存在なのだ。
アザト計画とは、現在の世界を統治する三人の指導者によって発案された計画だ。
マリネラ達はレッドグレイヴの命によって治世の場を空中都市パンデモニウムへと移す。しかしそれは、地上に残された人々と文明を見捨てるということと同義であった。
それでも、可能な限り地上に残された人々に秩序と統治を与えよう。それがアザト計画の根幹であった。
《渦》から人々を守るために障壁という装置を置いた。これによって、地上に残された人々には生き延びる可能性が与えられた。
あとは、パンデモニウムが地上を去った後に、生き延びた人々を率いて治める能力を持った人材が必要となる。様々な議論や調査の末に導き出された答えとして、その人材にはマリネラの遺伝子を基礎としたデザイナーベビーを充てることになった。
小さなベッドで眠る赤子の頭を、マリネラは軽く撫でた。
自身の遺伝子を継いでいるせいだろうか。この子を待ち受ける未来を想像すると、幾許か感傷的な気分に陥った。
不測の事態にも対応できるよう、あらゆる遺伝子調整が施されたこの子は、どのように成長していくのだろうか。
「マルセウス、貴方が地上を救うのよ……」
マリネラはベッドの中にいる赤子に、祈るように語り掛けるのだった。
「—了—」
- 翻譯錯誤。原文為「蕾格烈芙在出發之前,為了作為成從《渦》這個災害中守護人類的最後手段,制定了空中都市建設計畫『潘德莫尼計畫』的轉用政策。」。 ↩