這是,在三三九八年結束後,一條直通毀滅的道路。
覆蓋了商業都市普羅維登斯的死亡瘴氣,各國即使付出再慘痛代價的策略,也都拿死亡瘴氣束手無策,而死亡瘴氣已逐漸包覆了整個世界。
|
槍聲作響。
異形集團,與露出白色骨架的戰鬥人偶激烈的展開戰鬥。
不是異形也不是戰鬥人偶的人們,遇上這突如其來的鬥爭,也只能四處逃竄。
「這裡!快點!」
在這當中,有一群身穿破舊戰鬥服配帶步槍的人,引導著要逃離的人們。
他們之中從年紀小小的少女到老人都有,年齡層非常地廣。
「好了,已經沒事了,搭乘這個去安全的城市吧」
「啊、啊……嗯嗯……」
讓還沒回過神來的人們,一個個坐上早已準備好的機械馬車。
異形與戰鬥人偶似乎不在意這邊的狀況,沒有要追趕的意思。
被救出的人們與身穿戰鬥服的團體乘坐馬車,往南方出發了。
|
古朗德利尼亞與魯比歐那的戰爭,由於死者軍隊越來越強,在雙方皆沒有分出輸贏的情況下結束,而這二個國家也被死的世界給吞噬滅亡了。
不過,即使發生了這樣的大災難,卻還是有新的戰爭開幕了。
在之前的戰爭中一直保持沈默的宗教國家米利加迪亞,將擁有超乎常人力量的超人送往各國,開始打算統一混亂的世界。
但是,米利加迪亞目的是要構築一個由超人支配的世界。若不贊成米利加迪亞所提出的世界,不接受超人化的儀式,就沒有辦法得救。
想要制止這個情況的,是在空中構築了第一大都市的導都潘德莫尼。
潘德莫尼主張他們才是能夠管理世界平定混亂的國家。為了排除米利加迪亞,派送了戰鬥人偶至世界各地。
當然,米利加迪亞的超人們極力反抗。
就這樣,潘德莫尼與米利加迪亞開始了一發不可收拾的長期戰爭。
|
「喂,究竟要把我們帶到哪裡?」
馬車裡接受了傷口緊急處理的男性,向負責治療的少女問道。
「作為我們反抗組織據點的城鎮」
少女,梅莉微笑回答道。
「那個,傳聞中的要塞都市嗎?」
「對。在那裡,暫時可以過安穩的生活」
對留在地上的人們來說,米利加迪亞也好潘德莫尼也好,同樣都是敵人。
先不說超人組織的米利加迪亞,潘德莫尼一邊說著要管理以及平定世界,但卻無視受到死者軍隊襲擊而逃竄的人們,從未伸手救助。
存活下來的人們為了逃離災厄一路向南退,於是在那裡發現了以前連隊對抗《渦》時,曾經使用過的設施,便以此為據點建築了城鎮。
並且,聯合了被潘德莫尼遺棄的地上派遣工程師們修理設施、整備武裝、將障壁改良成能夠對抗死者軍隊等等,讓這裡不再只是一般的城鎮,而是完整的要塞都市。
『地上獨一無二,人類可以安穩生活的城鎮』在經過口耳相傳,流入的人口數也越來越多。
就這樣聚集來的人們,開始希望世界能夠成為安穩生活的地方,便開始自稱為『反抗組織』。
他們一邊想讓米利加迪亞與潘德莫尼的戰爭結束而奮鬥,一邊保護人類。
|
超人與異形、戰鬥人偶、死者的軍隊,現在的情況是這些存在大肆地威脅著人類。但是,這個要塞都市就像是別的世界似地平穩,充滿著活力。
這都是多虧了可以阻擋死者軍隊的障壁,以及城裡的人們努力生產而來的。
|
回到了要塞都市的梅莉與被救出的人們一起接受檢疫,隨後直接前往作為反抗活動本部的建築物處理雜務。
「梅莉,調查部通知說找到了那個可能是妳『哥哥』的人哦」
壯年團員前來告訴梅莉這個消息,梅莉的表情隨即變得緊張僵硬。
「真、真的嗎!?」
梅莉在戰爭的混亂中,與一位重要的『哥哥』失去了聯絡。
那個人在被戰火包圍的米利加迪亞中,為了守護梅莉與其他小孩們所在的孤兒院對抗異形而行蹤不明。
梅莉在被反抗組織保護之後,為了找尋那位『哥哥』,便加入了救援隊四處奔走。
「對,聽說被囚禁在米利加迪亞研究所的名單中,有和你所說的『哥哥』特徵相符的人物。」
「研究所……」
但是並不能保證那個人就是『哥哥』。
「聽說那個研究所打算使用人類進行某些實驗,所以救援隊打算即刻前往」
「我也一起去!」
聽了團員的話後,梅莉馬上說要加入救援隊。
「好,知道了。明天早上才出發,今天就到此先回家沒關係,趕緊做好準備」
「好的!」
|
依據調查團隊情報找到的地方,是位在要塞都市的東北方,曾經是古朗德利尼亞、尹貝羅達、米利加迪亞的國境交界處。
以前曾經是三國交易的重要都市,但是自從被米利加迪亞支配之後便喪失了交易機能,現在整個都市被當作研究設施使用。
並且,潘德莫尼得知這裡是米利加迪亞的重要設施,便不間斷地將戰鬥人偶送往這個都市,鬥爭持續不斷地擴大著。
|
梅莉與反抗組織趁著戰鬥人偶與異形的戰鬥正激烈的時候,衝進了研究設施。
雖然與異形交戰了幾次,但是戰力可能都被派到外頭去了吧,一行人不怎麼費力地就來到了人們被囚禁的地方。
在這當中,沒看到『哥哥』身影,梅莉即使沮喪但仍繼續著救援行動。
「等……等一下,別的房間裡,還有一個人」
最後的一個人用著虛弱聲音,告知還有一人被囚禁。
「我知道了,謝謝!」
將那最後一人的救出後,梅莉與二位團員一同前往他說的房間搜索。
|
那個房間是比囚禁剛剛那群人,還要再裡面的房間。
手術台上有一個男人正被束縛著。
「哥哥!」
那個人正是,梅莉一直在尋找的『哥哥』,威廉。
果然,威廉被囚禁在這個設施裡。
抑制著久別重逢的感動,梅莉往手術台靠近。
然後,就在正準備要解開威廉身上的束縛時。
「啊!啊……」
腹部突然遭受到沉重的一擊。梅莉的視線裡,好像看到沾滿血的彷彿粗大荊棘般的某樣東西貫穿自己。
雖然不知道發生了什麼事,但是知道自己可能是受到異形或是超人的攻擊,將會葬生於此。
一起來的兩位團員也發出非比尋常的叫聲,他們大概也和梅莉一樣身體被貫穿了。
|
看見威廉張開了眼睛。但是,他的束縛非常堅固,連要移動一下手都做不到。
從連嘴巴都被拘束住的他口中,只聽的到像是呻吟般的聲音。
──對不起。──
不成聲音的話語通過喉嚨。
梅莉的心中充滿著後悔。
一直在尋找的人就在眼前,卻幫不了他。
──對不起。──
雖然想再發出一次聲音,但也只是化作血塊傾注進了威廉體內。
|
梅莉在空虛的世界中靜靜地流著眼淚。
窺視了很多的世界,即使降臨到那個世界裡,也無法干涉那個世界。
即使知道自己無法干涉,梅莉還是繼續看著各式各樣的世界。
相信在某處一定有『梅莉』沒能實現的幸福世界存在。『梅莉』相信,為了找出那個世界而繼續觀測各種世界,就是自己的使命。
「那麼,來看看下個世界吧」
結晶閃閃發光著,映照出各式各樣的世界。隨著結晶的每個面映照出不同的世界。
正打算從那些結晶之中,找尋『梅莉』生存的世界時,下一個瞬間。
多面體的一角,也就是其中一個世界被刺眼的白光包圍著。然後,被白光包圍著的面將不再照出該世界,從結晶中消失。
「又消失了嗎……?」
雖然在這個地方的時間流逝很曖昧,對梅莉的感覺來說是最近,有幾個世界開始像這樣被白光包覆後消失。
一旦消失的世界,就再也無法觀測了。
梅莉非常討厭,這道因各種原因以及選擇分歧的世界消失時,發出的白光。
對要尋找幸福的『梅莉』來說,無法無視這個消失現象。
至今為止觀測的世界中,確實很難說有迎來幸福的結果。但是也有對某些人來說的幸福以及覺悟在裡面。絕對不可以就那樣否定,或是將其奪走的。
「看來,有什麼存在在否定多元世界的樣子」
在閃閃發光的結晶前,梅莉靜靜地發著怒。
|
「─完─」
「抵抗」
それは、三三九八年の終わりから続く、破滅への一本道だった。
商業都市プロヴィデンスを覆った死の瘴気は、各国の血の滲むような対策も虚しく、世界を包み込んでいったのである。
銃声が響く。
異形の集団と、白いフレームが剥き出しになった戦闘人形が激しい戦闘を繰り広げていた。
異形でも戦闘人形でもない町の人々は、突如として始まった戦闘に逃げ惑うしかなかった。
「こっちです! 早く!」
そんな中、ぼろぼろの戦闘服とライフルを装備した一団が、逃げ惑う人々を誘導していた。
彼らの年齢構成は年端も行かない少女から老人までと、非常に広範であった。
「さあ、もう大丈夫です。これに乗って安全な街まで行きましょう」
「あ、あ……あぁ……」
呆然とする人々を、待機させていた機械馬の馬車に次々と乗せていく。
異形と戦闘人形はこちらの様子には関心が無いらしく、追ってくる気配は無い。
救出した人々と戦闘服の団体を乗せた馬車は、南方に向けて出発した。
グランデレニアとルビオナとの戦争は、死者の軍勢によっていずれをも勝者にすることなく終わりを告げ、二つの国家は死の世界に飲み込まれて滅亡した。
しかし、この大事変でさえも、新たな戦争の幕開けでしかなかった。
先の戦争で沈黙を保っていた宗教国家ミリガディアが、常軌を逸した力を持つ超人と呼ばれる存在を各国に送り込み、混乱する世界を統一しようと動き始めたのだ。
しかし、ミリガディアの目的はあくまでも超人が支配する世界を構築することである。ミリガディアの掲げる世界の実現に賛同し、超人化の儀式を受け入れなければ、救いの道は存在しない。
その状相に制止を求めたのが、空中に一大都市を築く導都パンデモニウムであった。
パンデモニウムは自分達こそが世界を管理、平定する者であると主張し、ミリガディアを排斥するために世界各地に戦闘人形を送り込んだ。
当然ながら、ミリガディアの超人達はこれに反抗する。
こうして、パンデモニウムとミリガディアとの、泥沼の戦争が始まったのだった。
「なあ、俺達は一体どこに連れて行かれるんだ?」
馬車の中で怪我の応急処置を受けていた男性が、治療を担当している少女に尋ねた。
「私達レジスタンスが拠点としている街です」
少女、メリーは笑顔で答えた。
「あの、噂に聞く要塞都市か?」
「はい。そこであれば、しばらくは安全に暮せます」
地上に残された人々にとって、ミリガディアもパンデモニウムも、どちらも等しく敵であった。
超人組織と化したミリガディアは言わずもがな、パンデモニウムも世界の管理平定を謳っておきながら、死者の軍勢に襲われて逃げ惑う人々を無視し、救助の手を差し伸べることはなかった。
残された人々は災厄を逃れるために南へ南へと向かい、そこで、かつて《渦》に対抗する連隊が使っていたという施設を発見し、拠点として街を築いた。
更に、パンデモニウムに見捨てられた地上派遣のエンジニア達と協同することで、施設を修理し、武装を整え、障壁を死者の軍勢に対して効力が発揮するよう改良するなど、単なる街ではなく要塞都市としての完成を見たのである。
『地上でただ一つの、人間が安全に暮せる街』の噂は口々に伝搬されていき、流入する人々の数はどんどんと増えていった。
そうして集まった人間達は、世界を自分達が安全に暮せるようにしたいと求めるようになり、自らを『レジスタンス』と呼称するようになった。
彼らはミリガディアとパンデモニウムの戦争を終わらせようと各地で奮闘しながら、人間の保護を同時に行っていた。
超人と異形、戦闘人形、死者の軍勢、それらが闊歩して人間を脅かしているのが今の現実だ。だが、この要塞都市は別世界であるかのように平穏で、その上で活気に溢れている。
死者の軍勢を寄せ付けない障壁の存在と、街の人々が精一杯の産業を行って生活を支えているお陰であった。
要塞都市に戻ったメリーは救出した人々と一緒に検疫を受け、そのままレジスタンスが本部としている建物で雑務をこなしていた。
「メリー、調査部から連絡だ。例の『お兄さん』らしい人が見つかったってよ」
メリーの所へやって来た壮年の団員がそう告げたとたん、メリーの表情は緊張で強張った。
「ほ、本当、ですか!?」
メリーには、戦争の混乱で離れ離れになってしまった、大事な『お兄さん』がいた。
その人物は戦火に包まれるミリガディアで、メリーのいた養護院の子供達を守るために異形に立ち向かい、行方不明となった。
メリーはレジスタンスに保護された後、その『お兄さん』を探し出すために救出チームに入り、各地を飛び回っていたのだ。
「ああ。ミリガディアの研究所に囚われてる人のリストに、お前さんの言う『お兄さん』の特徴に当てはまる人物がいるって話だ」
「研究所……」
その人物が『お兄さん』であるという保障はどこにもない。
「あの研究所は人間を使って何かの実験をしようとしてるって話だから、急いで救出チームを向かわせる予定だ」
「私も一緒に行きます!」
団員の言葉に、メリーはすぐさま救出チームに加わる意思を見せた。
「よし、わかった。出発は明朝だから、今日はもう帰宅して構わない。急いで準備してくれ」
「はい!」
調査チームの情報を元に辿り着いたのは、要塞都市の北東にある、かつてグランデレニア、インペローダ、ミリガディアの国境が交わる場所であった。
以前は三国の交易を担う都市が築かれていたが、ミリガディアに支配されてからはその機能を失っており、今では都市全体が研究施設として使われていた。
そして、ミリガディアの重要施設であると認識したパンデモニウムは絶え間なく戦闘人形をこの都市へ送り込み、間断なき戦闘を繰り広げていた。
メリー達レジスタンスは戦闘人形と異形との戦闘が激しくなる頃合を見計らい、研究施設に突入した。
幾度かは異形との交戦があったが、外の戦闘に戦力を割いている影響だろうか、さほど労することなく、人々が囚われている場所に辿り着いた。
その中に『お兄さん』の姿は見えず、メリーは落胆しながらも救出活動を続ける。
「ま……待ってくれ、別の部屋に、もう一人残されてるんだ」
最後の一人が弱弱しい声で、囚われている人物がもう一人いると告げた。
「わかりました、ありがとうございます!」
最後の一人を救出すべく、メリーは二人の団員と共に該当する部屋を探し出す。
その部屋は人々が囚われていた部屋の、更に奥にある部屋だった。
手術台の上に一人の男性が拘束されていた。
「お兄さん!」
その人物こそ、メリーがずっと探し続けていた『お兄さん』こと、ヴィルヘルムであった。
やはり、ヴィルヘルムはこの施設に囚われていたのだ。
やっと出会えた感動をぐっと押さえ、メリーは手術台に近付く。
そして、ヴィルヘルムの拘束を解こうとしたその時だった。
「あ! がっ……」
腹部が鈍く重い衝撃に襲われた。メリーの視界には、血に塗れた太い棘のような何かが自分を貫いているのが見えた。
何が起きたのかはわからなかったが、異形か超人の攻撃を受け、自分がここで死ぬのだということは理解できた。
一緒に行動していた二人の団員達も、尋常ならざる叫び声を上げた。彼らもメリーと同じように体を貫かれたのだろう。
ヴィルヘルムが目を見開くのが見えた。だが、彼の拘束は頑強で、腕の一本を動かすことすら叶わないようだった。
声さえ出せぬように拘束されている彼からは、唸り声のようなものしか聞こえない。
——ごめんなさい。——
声にならない声が喉を過ぎていく。
メリーの胸中を後悔が塗り潰していく。
ずっと探していた人が目の前にいるのに、助けられなかった。
——ごめんなさい。——
もう一度声を出そうとしたが、それは血の塊となってヴィルヘルムに降り注ぐだけだった。
メリーは、空虚な世界の中で静かに涙を流していた。
たくさんの世界を覗き、その世界に降り立つことはできても、その世界に干渉することはできない。
そのことに気付いてからも、メリーは多様な世界を見続けた。
必ず何処かに『メリー』が叶えられなかった幸せな世界が存在すると信じていた。その世界を発見し、『メリー』のために観測することこそが、自身の使命であると確信していた。
「さあ、次の世界を観測しましょう」
結晶が煌めき、再び様々な世界を映し出す。結晶のそれぞれの面に異なる世界が映る。
それらの中から、『メリー』が生きる世界を見つけようとした次の瞬間だった。
多面体の一角、つまり一つの世界が白く目映い光に包まれた。そして、白い光に包まれた面は二度と世界の姿を映すことなく、結晶から消えていった。
「またですの……?」
この場所は時間の流れが曖昧ではあるが、メリーの感覚で言うところの最近、こうやって白い光に包まれて消失する世界がいくつか現れ始めていた。
そうなってしまった世界は、過去の観測をすることさえもできなくなってしまう。
様々な要因、選択によって枝分かれした世界を消滅させるこの光を、メリーは酷く嫌悪していた。
『メリー』の幸せを探す自身にとって、この消失現象は見過ごせない。
今まで観測してきた世界は、確かに幸せな結末を迎えたとは言い難い。それでも、誰かにとっての幸せや決意、覚悟があったのだ。それを否定し、奪うことなどあっていい筈がない。
「多元世界を否定したい何かが存在するようですわね」
煌めく結晶を前に、メリーは静かに怒気を発するのだった。
「—了—」
それは、三三九八年の終わりから続く、破滅への一本道だった。
商業都市プロヴィデンスを覆った死の瘴気は、各国の血の滲むような対策も虚しく、世界を包み込んでいったのである。
銃声が響く。
異形の集団と、白いフレームが剥き出しになった戦闘人形が激しい戦闘を繰り広げていた。
異形でも戦闘人形でもない町の人々は、突如として始まった戦闘に逃げ惑うしかなかった。
「こっちです! 早く!」
そんな中、ぼろぼろの戦闘服とライフルを装備した一団が、逃げ惑う人々を誘導していた。
彼らの年齢構成は年端も行かない少女から老人までと、非常に広範であった。
「さあ、もう大丈夫です。これに乗って安全な街まで行きましょう」
「あ、あ……あぁ……」
呆然とする人々を、待機させていた機械馬の馬車に次々と乗せていく。
異形と戦闘人形はこちらの様子には関心が無いらしく、追ってくる気配は無い。
救出した人々と戦闘服の団体を乗せた馬車は、南方に向けて出発した。
グランデレニアとルビオナとの戦争は、死者の軍勢によっていずれをも勝者にすることなく終わりを告げ、二つの国家は死の世界に飲み込まれて滅亡した。
しかし、この大事変でさえも、新たな戦争の幕開けでしかなかった。
先の戦争で沈黙を保っていた宗教国家ミリガディアが、常軌を逸した力を持つ超人と呼ばれる存在を各国に送り込み、混乱する世界を統一しようと動き始めたのだ。
しかし、ミリガディアの目的はあくまでも超人が支配する世界を構築することである。ミリガディアの掲げる世界の実現に賛同し、超人化の儀式を受け入れなければ、救いの道は存在しない。
その状相に制止を求めたのが、空中に一大都市を築く導都パンデモニウムであった。
パンデモニウムは自分達こそが世界を管理、平定する者であると主張し、ミリガディアを排斥するために世界各地に戦闘人形を送り込んだ。
当然ながら、ミリガディアの超人達はこれに反抗する。
こうして、パンデモニウムとミリガディアとの、泥沼の戦争が始まったのだった。
「なあ、俺達は一体どこに連れて行かれるんだ?」
馬車の中で怪我の応急処置を受けていた男性が、治療を担当している少女に尋ねた。
「私達レジスタンスが拠点としている街です」
少女、メリーは笑顔で答えた。
「あの、噂に聞く要塞都市か?」
「はい。そこであれば、しばらくは安全に暮せます」
地上に残された人々にとって、ミリガディアもパンデモニウムも、どちらも等しく敵であった。
超人組織と化したミリガディアは言わずもがな、パンデモニウムも世界の管理平定を謳っておきながら、死者の軍勢に襲われて逃げ惑う人々を無視し、救助の手を差し伸べることはなかった。
残された人々は災厄を逃れるために南へ南へと向かい、そこで、かつて《渦》に対抗する連隊が使っていたという施設を発見し、拠点として街を築いた。
更に、パンデモニウムに見捨てられた地上派遣のエンジニア達と協同することで、施設を修理し、武装を整え、障壁を死者の軍勢に対して効力が発揮するよう改良するなど、単なる街ではなく要塞都市としての完成を見たのである。
『地上でただ一つの、人間が安全に暮せる街』の噂は口々に伝搬されていき、流入する人々の数はどんどんと増えていった。
そうして集まった人間達は、世界を自分達が安全に暮せるようにしたいと求めるようになり、自らを『レジスタンス』と呼称するようになった。
彼らはミリガディアとパンデモニウムの戦争を終わらせようと各地で奮闘しながら、人間の保護を同時に行っていた。
超人と異形、戦闘人形、死者の軍勢、それらが闊歩して人間を脅かしているのが今の現実だ。だが、この要塞都市は別世界であるかのように平穏で、その上で活気に溢れている。
死者の軍勢を寄せ付けない障壁の存在と、街の人々が精一杯の産業を行って生活を支えているお陰であった。
要塞都市に戻ったメリーは救出した人々と一緒に検疫を受け、そのままレジスタンスが本部としている建物で雑務をこなしていた。
「メリー、調査部から連絡だ。例の『お兄さん』らしい人が見つかったってよ」
メリーの所へやって来た壮年の団員がそう告げたとたん、メリーの表情は緊張で強張った。
「ほ、本当、ですか!?」
メリーには、戦争の混乱で離れ離れになってしまった、大事な『お兄さん』がいた。
その人物は戦火に包まれるミリガディアで、メリーのいた養護院の子供達を守るために異形に立ち向かい、行方不明となった。
メリーはレジスタンスに保護された後、その『お兄さん』を探し出すために救出チームに入り、各地を飛び回っていたのだ。
「ああ。ミリガディアの研究所に囚われてる人のリストに、お前さんの言う『お兄さん』の特徴に当てはまる人物がいるって話だ」
「研究所……」
その人物が『お兄さん』であるという保障はどこにもない。
「あの研究所は人間を使って何かの実験をしようとしてるって話だから、急いで救出チームを向かわせる予定だ」
「私も一緒に行きます!」
団員の言葉に、メリーはすぐさま救出チームに加わる意思を見せた。
「よし、わかった。出発は明朝だから、今日はもう帰宅して構わない。急いで準備してくれ」
「はい!」
調査チームの情報を元に辿り着いたのは、要塞都市の北東にある、かつてグランデレニア、インペローダ、ミリガディアの国境が交わる場所であった。
以前は三国の交易を担う都市が築かれていたが、ミリガディアに支配されてからはその機能を失っており、今では都市全体が研究施設として使われていた。
そして、ミリガディアの重要施設であると認識したパンデモニウムは絶え間なく戦闘人形をこの都市へ送り込み、間断なき戦闘を繰り広げていた。
メリー達レジスタンスは戦闘人形と異形との戦闘が激しくなる頃合を見計らい、研究施設に突入した。
幾度かは異形との交戦があったが、外の戦闘に戦力を割いている影響だろうか、さほど労することなく、人々が囚われている場所に辿り着いた。
その中に『お兄さん』の姿は見えず、メリーは落胆しながらも救出活動を続ける。
「ま……待ってくれ、別の部屋に、もう一人残されてるんだ」
最後の一人が弱弱しい声で、囚われている人物がもう一人いると告げた。
「わかりました、ありがとうございます!」
最後の一人を救出すべく、メリーは二人の団員と共に該当する部屋を探し出す。
その部屋は人々が囚われていた部屋の、更に奥にある部屋だった。
手術台の上に一人の男性が拘束されていた。
「お兄さん!」
その人物こそ、メリーがずっと探し続けていた『お兄さん』こと、ヴィルヘルムであった。
やはり、ヴィルヘルムはこの施設に囚われていたのだ。
やっと出会えた感動をぐっと押さえ、メリーは手術台に近付く。
そして、ヴィルヘルムの拘束を解こうとしたその時だった。
「あ! がっ……」
腹部が鈍く重い衝撃に襲われた。メリーの視界には、血に塗れた太い棘のような何かが自分を貫いているのが見えた。
何が起きたのかはわからなかったが、異形か超人の攻撃を受け、自分がここで死ぬのだということは理解できた。
一緒に行動していた二人の団員達も、尋常ならざる叫び声を上げた。彼らもメリーと同じように体を貫かれたのだろう。
ヴィルヘルムが目を見開くのが見えた。だが、彼の拘束は頑強で、腕の一本を動かすことすら叶わないようだった。
声さえ出せぬように拘束されている彼からは、唸り声のようなものしか聞こえない。
——ごめんなさい。——
声にならない声が喉を過ぎていく。
メリーの胸中を後悔が塗り潰していく。
ずっと探していた人が目の前にいるのに、助けられなかった。
——ごめんなさい。——
もう一度声を出そうとしたが、それは血の塊となってヴィルヘルムに降り注ぐだけだった。
メリーは、空虚な世界の中で静かに涙を流していた。
たくさんの世界を覗き、その世界に降り立つことはできても、その世界に干渉することはできない。
そのことに気付いてからも、メリーは多様な世界を見続けた。
必ず何処かに『メリー』が叶えられなかった幸せな世界が存在すると信じていた。その世界を発見し、『メリー』のために観測することこそが、自身の使命であると確信していた。
「さあ、次の世界を観測しましょう」
結晶が煌めき、再び様々な世界を映し出す。結晶のそれぞれの面に異なる世界が映る。
それらの中から、『メリー』が生きる世界を見つけようとした次の瞬間だった。
多面体の一角、つまり一つの世界が白く目映い光に包まれた。そして、白い光に包まれた面は二度と世界の姿を映すことなく、結晶から消えていった。
「またですの……?」
この場所は時間の流れが曖昧ではあるが、メリーの感覚で言うところの最近、こうやって白い光に包まれて消失する世界がいくつか現れ始めていた。
そうなってしまった世界は、過去の観測をすることさえもできなくなってしまう。
様々な要因、選択によって枝分かれした世界を消滅させるこの光を、メリーは酷く嫌悪していた。
『メリー』の幸せを探す自身にとって、この消失現象は見過ごせない。
今まで観測してきた世界は、確かに幸せな結末を迎えたとは言い難い。それでも、誰かにとっての幸せや決意、覚悟があったのだ。それを否定し、奪うことなどあっていい筈がない。
「多元世界を否定したい何かが存在するようですわね」
煌めく結晶を前に、メリーは静かに怒気を発するのだった。
「—了—」