離羅占布爾克第七管區有點距離的鬧區,在那條大路上有間高級的夜店。
這間店的老闆里卡多,在VIP包廂裡被美女群圍繞著喝酒。
當里卡多正喝到興頭上時,身穿西裝臉色鐵青的男子們慌張地衝了進來。
男子們看起來很嚴肅,里卡多一臉不悅的樣子看著男子們。
「里卡多,有事要跟你報告……」
「這種時間是有什麼大事啊。沒辦法,小姐們很抱歉,請妳們暫時離開吧」
美女們不高興地離開房間。
等她們離開,確認聽到入口的防音門關上之後,里卡多與男子們面對面。
「發生什麼事了?」
「貝爾薩的地盤,被Upstarts襲擊了」
「是趁他們跟Chiara會合時下手的嗎……。然後呢,被害情況如何?」
這一天,Serpiente與Chiara之間,為了締結某項條約而會面。
明明應該是極度機密的會面,場所跟時間的情報,應該都只有少數的幹部與正式成員才知道的。
而Upstarts在那個會面場所被襲擊了,不可能是偶然,Bielsa跟Chiara的幹部確實被盯上了。
「雖然一間酒店報銷了,但是Bielsa跟Chiara的幹部都只受到輕傷而已,護衛有兩位死亡,其他輕傷」
「是嗎,傷害只有這種程度的話,還算好的吧。老爸……不對,Boss知道這件事了嗎?」
「我們這邊離的比較近,應該還沒有……」
「是嗎,那我回去一趟,貝爾薩呢?」
「是,現在在本部給醫生治療中」
里卡多站起來,開始準備回去。
「走吧,幫我隨便跟這裡的經理說一聲」
「好的」
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羅占布爾克與附近的州比起來,是一個保有很多文明的大都市。
被稱為魔都的這個都市,邊保護留下來的文明,也同時發展出了犯罪文化,並將自身隱藏於那份繁榮之下。
里卡多便是這不法象徵裡其中一個犯罪組織『Serpiente』,剛被指定接班人沒多久的一位青年。
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坐車回到Serpiente本部之後,處理襲擊事件的成員們正在慌張地來來去去。
「里卡多大人,歡迎回來」
「嗯,Boss呢?」
「在辦公室」
聽到回答之後,里卡多就快步走向辦公室。
「來啦?」
辦公室裡,纖瘦的老人與護衛們一同在等里卡多。
雖然年紀已大,但是這位老人的眼神並未衰退,就連親生兒子的里卡多都會感到畏懼。
「我聽說,跟Upstarts會面時被盯上了?」
「是的,Chiara有說什麼嗎?」
只要是組織的成員,就跟是否是親生父親沒有關係。里卡多就是把自己當成是UnderBoss,自我約束著自己。
「對方,以為我們要跟Upstarts聯合,要幹什麼事」
「Chiara才是有跟Upstarts私下聯繫吧?」
「確實令人懷疑,但是首先要做個結束,無論如何都要先對Upstarts報復才行」
「Chiara會讓我們這麼做嗎?」
「對方跟我們狀況一樣,那麼就算要再跟Chiara結約,到時帶著報復過Upstarts這件事當禮物帶去也有用」
「我知道了,馬上準備向Upstarts報仇」
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Boss的話是絕對要遵守的,里卡多深深地鞠躬之後,離開了辦公室。
但是,里卡多沒有直接往集合了幹部的會議室去,而是叫自己信賴的成員過來。
「塞韋羅,幫我仔細調查知道這次會合的幹部成員動向」
塞韋羅是疑心病重的男人,因為他不適合跟其他組織抗爭,所以在組織內的地位很低。但是這個男人疑心病重的個性,很適合當諜報員。
雖然說黑社會都是靠暴力在解決事情的,但是里卡多認為情報戰也很重要,所以從以前開始就常常委託他調查各種事情。
「你的意思是組織內有人背叛?」
「你有聽說過Upstarts給錢很大方的事吧?我們跟Chiara組織中,就算有人為了金錢去幫他們也不奇怪吧?」
「我知道了,我會給你最好的調查結果」
「嗯,拜託你了」
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里卡多給塞韋羅指示之後,就直接往會議室去了。
里卡多一進到會議室,本來還在互相交換意見跟閒聊的幹部們,馬上靜下來。
「聽著,Boss命令我們向Upstarts報復了」
幹部們臉色一變。
Serpiente跟Upstarts有很多據點都在鄰近的地方,所以衝突一直不斷,已經有好幾次受到不小的傷害了,而且也有組織想趁Upstarts跟Serpiente互槓的時候來攻擊,讓Serpiente疲於奔命。
幹部跟成員們的憤怒跟鬱悶積存已久。
Boss的這個命令,是可以讓他們盛大地出氣的機會。
「首先先攻擊他們的分部,殺他們一兩個幹部來給我看看」
「要跟Chiara聯手嗎?」
「對方懷疑我們跟Upstarts有串通」
「條約的事吹了啊……」
「到時就只好讓Chiara也嘗嘗苦頭了」
幹部們說道。
「話不要說得太早,這次Chiara也有受到Upstarts的襲擊」
負責當顧問的幹部建言。
Chiara除了Serpiente之外就是跟Upstarts在抗爭。基本上這次的條約,就是準備要一起合作跟Upstarts抗爭的。
「那要怎麼做?就結論上我們跟Chiara的條約還沒談成,可不知道他們會做些什麼哦」
「那就趁Chiara被攻擊時,我們在旁邊補槍就好。對方可是Upstarts,一定沒過幾日,就會再襲擊我們跟Chiara的」
里卡多回答了中年幹部的疑慮,反正知道他們一定會打過來,只要趁機也打過去就好。
「反正本來要做條約的理由就是Upstarts,趁機賣點人情給Chiara的意思?」
「沒錯,但是別大意,不然搞不好就會換Chiara要這樣對我們」
「知道」
決定好詳細的報復方針之後,會議就解散了。
|
但是就在報復行動正要開始的時候,狀況變了。
以前就常常受到Upstarts攻擊的一個據點,那個據點的管理幹部跟他的心腹殺了成員們1,向Upstarts倒戈了。
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「沒想到據點整個背叛了,怎麼可以發生這種事?」
「為什麼我們會沒發現,到底發生什麼事了……」
至今為止,組織內的抗爭竟然會演變成這種結果,Boss跟老幹部們都藏不住他們的焦躁情緒。
「先調查一下組織內跟據點,然後把背叛者抓出來比較好吧,至今為止的方法對他們沒有用」
里卡多冷靜地在會議室說道。雖然沒有預料到這件事的里卡多也一樣焦躁,但是跟腦袋頑固的老幹部跟Boss比,比較能冷靜接受已發生的事實。
「說,說得也是,但是,負責調查的人也有可能是背叛者……」
可能是因為整個據點被搶走,所以內心動搖的很厲害,幹部們都互相在猜忌著。
「這次被盯上性命的是幹部跟Wiseguy。所以讓他們去調查是最確實的吧」
「但是,那是在他們可以守規矩的前提下吧?」
「沒有時間在這邊猜東猜西了,Boss,請下決定吧」
「……知道了,只好這樣了」
Boss只能接受里卡多的提議。
|
一直以來都在接受被社會排斥的人們來擴張組織。然後用規定來束縛那些人,管理他們。才能管理這個黑暗街道,並且將這個地區的治安維持在一定的程度上。在這儼然的事實下,偶爾靠豐富的賄絡來掌握警察權力,讓組織的經營能圓滑進行。
至今為止雖然都沒有問題,組織就是這樣靠維持均衡存活下來的。
但是,這樣的犯罪組織,竟然會被一個小組織給弄得差點崩壞。
Upstarts就像他們的組織名『突起之星』一樣,一切都是新的組織,至今為止的那些套路對他們都不管用。
對抗這個新的潮流,到底要怎麼活下去,怎麼勝過他們。
作為一個組織是該轉型的時候了。自己這個世代的要做出怎樣的選擇讓組織長存下去,要怎樣才能夠讓Serpiente站上黑社會的頂端。
里卡多看著作為現Boss的父親與老幹部們狼狽的樣子,靜靜地持續思量著,自己作為率領組織之人該做些什麼。
|
「─完─」
3371年 「後継者」
ローゼンブルグ第七管区の外れに位置する繁華街。そこの大通りに店を構える高級ナイトクラブ。
この店のオーナーでもあるリカルドは、VIPルームで美女達を囲んで酒を嗜んでいた。
程よく酒が進んでいい気分になってきた頃、スーツ姿の厳つい男達が慌てた様子で駆け込んできた。
男達の様子に厄介な気配を感じたのか、リカルドは不服そうな顔で男達を視界に入れる。
「リカルド、お耳に入れたいことが……」
「こんな時に何だ。仕方ねえ、すまんなお嬢さん方、しばらく席を外してくれ」
不満そうな顔で女達が出て行く。
彼女らが退室し、入り口の防音ドアが閉まったことを確認すると、リカルドは男達に正対した。
「何があった?」
「ビエルサのシマが、アップスターズの襲撃に遭いました」
「キアーラとの会合を狙われたのか……。で、被害は?」
この日はセルピエンテとキアーラの間に、ある協定を締結するための会合を開いていた。
極秘裏に進めていた会合だけに、場所や日時などの情報は、ごく限られたカポや護衛の正規構成員しか知らされていない。
その会合がアップスターズの襲撃に遭った。偶然とは到底考えられない。明確にビエルサとキアーラの幹部が狙われたのだ。
「酒場を一つ駄目にしましたが、ビエルサとキアーラの幹部は軽傷で済みました。護衛の連中は二人が死亡、他は軽傷です」
「そうか。その程度で済んだなら、まぁ上等な方だろう。オヤジ……いや、ボスの耳にこの件は入っているのか?」
「こちらの所在の方が近かったので、おそらくはまだ……」
「そうか。では、俺は屋敷に戻る。ビエルサは?」
「はい、本部で医者に治療させています」
リカルドは立ち上がると、帰り支度を始める。
「行くぞ。支配人には適当に話をつけておけ」
「承知しました」
ローゼンブルグは、周辺の州と比べて遥かに文明が保たれた大都市である。
魔都とも呼ばれるこの都市は、残された文明を守りながらも悪徳を栄えさせ、その栄華に自ら影を落としていた。
リカルドはそんな悪徳の象徴である犯罪組織の一つ『セルピエンテ』の後継者に指名されたばかりの青年であった。
セルピエンテの本部に車で乗りつけると、襲撃の事後処理に追われる構成員達が慌しく屋敷を行き来していた。
「リカルド様、お帰りなさいませ」
「ああ。ボスは?」
「執務室にいらっしゃいます」
構成員の言葉を聞き、早足でボスのいる執務室へと向かう。
「来たか」
執務室では、痩せ細った老人が護衛の構成員と共にリカルドを待っていた。
老体でこそあるものの、その眼光は未だ衰えを見せておらず、実の息子であるリカルドでさえも畏怖の念を覚えるほどだ。
「アップスターズに会合を嗅ぎ付けられた、という話は聞いているな?」
「ええ。それで、キアーラは何と言っているんですか?」
組織の構成員である以上、たとえ実父であれども関係ない。リカルドは只のアンダーボスとして接することを、自らに課していた。
「向こうは、うちがアップスターズと繋がってタレこんだんじゃねぇかと勘繰っている」
「キアーラの方こそ、アップスターズと繋がっているのでは?」
「そこは確かに疑うべきところだ。だが、まずはケジメが必要だ。何よりも先にアップスターズに報復をくれてやらねばならん」
「その時間を、キアーラが許しますかね?」
「向こうも状況は変わらん。であれば、再度キアーラとの協定を進めるにしても、この報復を手土産にするのが有用だ」
「わかりました。すぐに報復の手筈を整えます」
ボスの言葉は絶対だ。リカルドは深く一礼すると執務室を出た。
しかし、そのままカポ達が集合しているであろう会議室には向かわず、信頼の置ける構成員を探して声を掛けた。
「セベロ、今回の会合のことを知っていたカポと構成員の動向について、洗いざらい調べ上げろ」
セベロは臆病で慎重な男だ。他組織との抗争には向いていないため、組織内での地位は低い。だが、この男の引き際を弁えた臆病な性質は、諜報に向いていた。
裏社会は暴力が全てとはいえ、情報戦も重要であると捉えるリカルドは、以前からセベロにこういった調査を任せていた。
「裏切り者が組織内にいると?」
「アップスターズの羽振りが相当いいってのは聞いたことがあるだろう? うちもキアーラも、金で抱き込まれた奴がいたとしても不思議じゃない」
「わかりました。最良の結果を提示してみせます」
「ああ、頼んだぞ」
セベロに指示を出した後、真っ直ぐに会議室へと向かった。
リカルドが入室した瞬間、意見とも雑談ともつかない言葉を交わしていたカポ達が静まり返る。
「聞け、ボスからアップスターズへの報復命令が下った」
カポ達が色めき立つ。
セルピエンテはアップスターズが拠点を構えている場所に隣接したシマをいくつも抱えていた。そのため大小関わらずの衝突が絶えず、幾度となく煮え湯を飲まされてきた。しかもアップスターズとの軋轢を好機と見た他組織からも狙われ、セルピエンテは疲弊しつつあった。
カポや構成員達はそのことに苛立ち、鬱憤を溜めていた。
ボスの下知は、この鬱憤を盛大に吹き飛ばす機会であると湧いたのだ。
「手始めに奴らの支部を襲撃し、幹部の一人か二人でも殺ってみせろとのお達しだ」
「キアーラとの連携は?」
「向こうは俺達がアップスターズと繋がっているんじゃないかと疑っている」
「協定は振り出しか……」
「であれば、キアーラの連中にも痛い目を見てもらうしかないだろうな」
カポ達は口々に言い募る。
「逸るな。アップスターズに煮え湯を飲まされているのはキアーラも同じだ」
相談役がカポ達を諫める。
キアーラはセルピエンテに次いでアップスターズから抗争を仕掛けられている。そもそも今回進めていた協定は、アップスターズとの抗争に対して相互協力体制をとろうというものだった。
「だがどうする? 結果的に協定は流れたんだ、キアーラがどう動くかわからんぞ」
「ならば、キアーラが襲撃を受けているところに横槍を入れればいい。アップスターズのことだ、どうせ日を置かずに、うちにもキアーラにも襲撃を仕掛けてくるだろう」
中年のカポの疑問にリカルドは淀みなく返す。襲撃を受けることがわかりきっているのなら、それを逆手に取ればいい。
「結ぶ筈だった協定を理由に、キアーラに恩を売るってわけか」
「そういうことだ。だが、隙は見せるなよ。キアーラに逆のことをされてはかなわん」
「わかっている」
細かな打ち合わせを進めて報復の方針が定まり、会議は解散となった。
しかし、報復を実行する直前に事態は一変した。
以前からアップスターズによる襲撃を受けていたシマの一つが、シマの管理者であるカポとその腹心であるメイドマン達を殺害し、アップスターズに寝返ったのだ。
「まさかシマそのものが裏切るなんて、そんなことが起きていいのか?」
「なぜ気付かなかった。一体何が起きたというんだ……」
今までの組織間の抗争からは考えられないような手口に、ボスと古参のカポ達は焦燥を隠しきれなかった。
「一度、組織内とシマを調査し、裏切り者を炙り出した方がいいでしょう。奴らには今までのやり方は通用しない」
リカルドは会議室で冷静に言い放った。今回の件を予測できなかったのはリカルドも同じだが、考えの凝り固まった古参カポやボスよりは、冷静に事実を受け止めていた。
「そ、そうだな。だが、調査する者に裏切り者が混じっている可能性も……」
シマ一つが丸ごと寝返ったという事態に動揺しているのか、カポの声には猜疑心がありありと混じっていた。
「今回の件で命を狙われたのはカポとワイズガイです。ならば、彼らに調査させるのが一番確実でしょう」
「だが、それは掟を守っているのなら、だろう?」
「それを疑っている時間はありません。ボス、ご決断を」
「……わかった、そうするしかあるまい」
リカルドの言葉に、ボスは渋々と頷くしかなかった。
社会から零れ落ちた者達を受け入れて組織を拡充し続けた。そして、そういった者達を様々な掟で縛り、管理することで、暗黒街を取り仕切ることができ、また地域の治安を一定に保ってきた。この厳然たる事実を振り翳し、また賄賂も潤沢に渡すことで警察権力を抱き込み、組織の運営を円滑に進めてきた。
今まではそれでよかった。そうやってどの組織も均衡を保ちながらやって来た。
だが、その犯罪組織の有り様が、小さくも苛烈な一つの組織によって崩されようとしている。
アップスターズはその『成り上がり』という名前の通り、何もかもが新しい組織だ。今まで使ってきた常套手段など通用しない。
この新しい流れに対応し、生き延び、勝ち抜けるにはどうすればいいか。
組織としての転換期が来ている。自身の世代でどんな選択をすれば組織を生き長らえさせ、セルピエンテを暗黒街の首魁とさせることができるのか。
父親である現ボスと古参カポ達が狼狽する姿を眺めつつ、リカルドは組織を率いる者として何をするべきか、それを静かに考え続けていた。
「—了—」
ローゼンブルグ第七管区の外れに位置する繁華街。そこの大通りに店を構える高級ナイトクラブ。
この店のオーナーでもあるリカルドは、VIPルームで美女達を囲んで酒を嗜んでいた。
程よく酒が進んでいい気分になってきた頃、スーツ姿の厳つい男達が慌てた様子で駆け込んできた。
男達の様子に厄介な気配を感じたのか、リカルドは不服そうな顔で男達を視界に入れる。
「リカルド、お耳に入れたいことが……」
「こんな時に何だ。仕方ねえ、すまんなお嬢さん方、しばらく席を外してくれ」
不満そうな顔で女達が出て行く。
彼女らが退室し、入り口の防音ドアが閉まったことを確認すると、リカルドは男達に正対した。
「何があった?」
「ビエルサのシマが、アップスターズの襲撃に遭いました」
「キアーラとの会合を狙われたのか……。で、被害は?」
この日はセルピエンテとキアーラの間に、ある協定を締結するための会合を開いていた。
極秘裏に進めていた会合だけに、場所や日時などの情報は、ごく限られたカポや護衛の正規構成員しか知らされていない。
その会合がアップスターズの襲撃に遭った。偶然とは到底考えられない。明確にビエルサとキアーラの幹部が狙われたのだ。
「酒場を一つ駄目にしましたが、ビエルサとキアーラの幹部は軽傷で済みました。護衛の連中は二人が死亡、他は軽傷です」
「そうか。その程度で済んだなら、まぁ上等な方だろう。オヤジ……いや、ボスの耳にこの件は入っているのか?」
「こちらの所在の方が近かったので、おそらくはまだ……」
「そうか。では、俺は屋敷に戻る。ビエルサは?」
「はい、本部で医者に治療させています」
リカルドは立ち上がると、帰り支度を始める。
「行くぞ。支配人には適当に話をつけておけ」
「承知しました」
ローゼンブルグは、周辺の州と比べて遥かに文明が保たれた大都市である。
魔都とも呼ばれるこの都市は、残された文明を守りながらも悪徳を栄えさせ、その栄華に自ら影を落としていた。
リカルドはそんな悪徳の象徴である犯罪組織の一つ『セルピエンテ』の後継者に指名されたばかりの青年であった。
セルピエンテの本部に車で乗りつけると、襲撃の事後処理に追われる構成員達が慌しく屋敷を行き来していた。
「リカルド様、お帰りなさいませ」
「ああ。ボスは?」
「執務室にいらっしゃいます」
構成員の言葉を聞き、早足でボスのいる執務室へと向かう。
「来たか」
執務室では、痩せ細った老人が護衛の構成員と共にリカルドを待っていた。
老体でこそあるものの、その眼光は未だ衰えを見せておらず、実の息子であるリカルドでさえも畏怖の念を覚えるほどだ。
「アップスターズに会合を嗅ぎ付けられた、という話は聞いているな?」
「ええ。それで、キアーラは何と言っているんですか?」
組織の構成員である以上、たとえ実父であれども関係ない。リカルドは只のアンダーボスとして接することを、自らに課していた。
「向こうは、うちがアップスターズと繋がってタレこんだんじゃねぇかと勘繰っている」
「キアーラの方こそ、アップスターズと繋がっているのでは?」
「そこは確かに疑うべきところだ。だが、まずはケジメが必要だ。何よりも先にアップスターズに報復をくれてやらねばならん」
「その時間を、キアーラが許しますかね?」
「向こうも状況は変わらん。であれば、再度キアーラとの協定を進めるにしても、この報復を手土産にするのが有用だ」
「わかりました。すぐに報復の手筈を整えます」
ボスの言葉は絶対だ。リカルドは深く一礼すると執務室を出た。
しかし、そのままカポ達が集合しているであろう会議室には向かわず、信頼の置ける構成員を探して声を掛けた。
「セベロ、今回の会合のことを知っていたカポと構成員の動向について、洗いざらい調べ上げろ」
セベロは臆病で慎重な男だ。他組織との抗争には向いていないため、組織内での地位は低い。だが、この男の引き際を弁えた臆病な性質は、諜報に向いていた。
裏社会は暴力が全てとはいえ、情報戦も重要であると捉えるリカルドは、以前からセベロにこういった調査を任せていた。
「裏切り者が組織内にいると?」
「アップスターズの羽振りが相当いいってのは聞いたことがあるだろう? うちもキアーラも、金で抱き込まれた奴がいたとしても不思議じゃない」
「わかりました。最良の結果を提示してみせます」
「ああ、頼んだぞ」
セベロに指示を出した後、真っ直ぐに会議室へと向かった。
リカルドが入室した瞬間、意見とも雑談ともつかない言葉を交わしていたカポ達が静まり返る。
「聞け、ボスからアップスターズへの報復命令が下った」
カポ達が色めき立つ。
セルピエンテはアップスターズが拠点を構えている場所に隣接したシマをいくつも抱えていた。そのため大小関わらずの衝突が絶えず、幾度となく煮え湯を飲まされてきた。しかもアップスターズとの軋轢を好機と見た他組織からも狙われ、セルピエンテは疲弊しつつあった。
カポや構成員達はそのことに苛立ち、鬱憤を溜めていた。
ボスの下知は、この鬱憤を盛大に吹き飛ばす機会であると湧いたのだ。
「手始めに奴らの支部を襲撃し、幹部の一人か二人でも殺ってみせろとのお達しだ」
「キアーラとの連携は?」
「向こうは俺達がアップスターズと繋がっているんじゃないかと疑っている」
「協定は振り出しか……」
「であれば、キアーラの連中にも痛い目を見てもらうしかないだろうな」
カポ達は口々に言い募る。
「逸るな。アップスターズに煮え湯を飲まされているのはキアーラも同じだ」
相談役がカポ達を諫める。
キアーラはセルピエンテに次いでアップスターズから抗争を仕掛けられている。そもそも今回進めていた協定は、アップスターズとの抗争に対して相互協力体制をとろうというものだった。
「だがどうする? 結果的に協定は流れたんだ、キアーラがどう動くかわからんぞ」
「ならば、キアーラが襲撃を受けているところに横槍を入れればいい。アップスターズのことだ、どうせ日を置かずに、うちにもキアーラにも襲撃を仕掛けてくるだろう」
中年のカポの疑問にリカルドは淀みなく返す。襲撃を受けることがわかりきっているのなら、それを逆手に取ればいい。
「結ぶ筈だった協定を理由に、キアーラに恩を売るってわけか」
「そういうことだ。だが、隙は見せるなよ。キアーラに逆のことをされてはかなわん」
「わかっている」
細かな打ち合わせを進めて報復の方針が定まり、会議は解散となった。
しかし、報復を実行する直前に事態は一変した。
以前からアップスターズによる襲撃を受けていたシマの一つが、シマの管理者であるカポとその腹心であるメイドマン達を殺害し、アップスターズに寝返ったのだ。
「まさかシマそのものが裏切るなんて、そんなことが起きていいのか?」
「なぜ気付かなかった。一体何が起きたというんだ……」
今までの組織間の抗争からは考えられないような手口に、ボスと古参のカポ達は焦燥を隠しきれなかった。
「一度、組織内とシマを調査し、裏切り者を炙り出した方がいいでしょう。奴らには今までのやり方は通用しない」
リカルドは会議室で冷静に言い放った。今回の件を予測できなかったのはリカルドも同じだが、考えの凝り固まった古参カポやボスよりは、冷静に事実を受け止めていた。
「そ、そうだな。だが、調査する者に裏切り者が混じっている可能性も……」
シマ一つが丸ごと寝返ったという事態に動揺しているのか、カポの声には猜疑心がありありと混じっていた。
「今回の件で命を狙われたのはカポとワイズガイです。ならば、彼らに調査させるのが一番確実でしょう」
「だが、それは掟を守っているのなら、だろう?」
「それを疑っている時間はありません。ボス、ご決断を」
「……わかった、そうするしかあるまい」
リカルドの言葉に、ボスは渋々と頷くしかなかった。
社会から零れ落ちた者達を受け入れて組織を拡充し続けた。そして、そういった者達を様々な掟で縛り、管理することで、暗黒街を取り仕切ることができ、また地域の治安を一定に保ってきた。この厳然たる事実を振り翳し、また賄賂も潤沢に渡すことで警察権力を抱き込み、組織の運営を円滑に進めてきた。
今まではそれでよかった。そうやってどの組織も均衡を保ちながらやって来た。
だが、その犯罪組織の有り様が、小さくも苛烈な一つの組織によって崩されようとしている。
アップスターズはその『成り上がり』という名前の通り、何もかもが新しい組織だ。今まで使ってきた常套手段など通用しない。
この新しい流れに対応し、生き延び、勝ち抜けるにはどうすればいいか。
組織としての転換期が来ている。自身の世代でどんな選択をすれば組織を生き長らえさせ、セルピエンテを暗黒街の首魁とさせることができるのか。
父親である現ボスと古参カポ達が狼狽する姿を眺めつつ、リカルドは組織を率いる者として何をするべきか、それを静かに考え続けていた。
「—了—」
- 翻譯錯誤。原文為「管理幹部跟他的心腹被殺」。 ↩