在遼闊無盡的漆黑空間裡,瑪格莉特的意識正在其中。
雖然想移動身體,卻動彈不得。就像身體不知道去了哪裡似地。
瑪格莉特茫然地理解到,自己只剩下意識存在於這個空間之中而已了。
意識與肉體分離,既不會痛,也感覺不到重量。只剩下意識跟感情而已。這就是所謂的『死』嗎,瑪格莉特思考著。
緊接著,瑪格莉特的心情,就充滿了因為想到再也無法用自己的雙手,抱起自己孩子這件事而低落。
不過那孩子已經得救了。自己的使命也許已經完成了。
雖然跟那孩子相處的時間非常短暫,不過也許已經算是很幸福了。
「已經……沒有什麼遺憾了吧……」
瑪格莉特的想法一點一點地,在這漆黑的空間中消融。
回想著跟兒子所渡過的每一天,心中一邊規劃著他的未來,一邊慢慢地讓自己的意識關閉。
「還沒有。還不可以結束」
聽到了一個聲音。聽不出是男是女的不可思議聲音,就像是要將瑪格莉特籠罩其中般地響亮。
雖然想找出聲音的來源,但是瑪格莉特並沒有所謂的視野可以運用了。
「為什麼!?那孩子的命運應該已經被改變了啊!」
瑪格莉特很激動。難道自己所做的一切都是沒有意義的嗎。絕不容許有那種事情發生。
但是,那聲音並沒有回答瑪格莉特的問題。
不過像是要代替回答似地,在瑪格莉特朦朧的意識裡,浮現出了一個畫面。
長大成人的兒子,正埋頭在圖書館裡讀書。兒子就像一頭栽在書裡一樣地沉浸其中。
瑪格莉特看到他的那個樣子後感到欣慰。
但突然間,他壓著胸口開始呻吟。或許是心臟病發作了也不一定。
兒子將堆高的書本推倒後倒在地上。緊壓著胸口痛苦地掙扎著,但是卻不見任何人來幫忙。
動作慢慢地變小,到最後就一動也不動了。
瑪格莉特卻只能默默地看著這個景象,什麼也做不了。
「怎麼會……啊啊……」
那僅剩下一絲絲的意識發出了哀號聲。
結果自己根本沒有救成兒子嗎?還是說,是自己心中某處的不安與恐懼造成的幻覺呢?
瑪格莉特無法做出判斷。
「怎麼會這樣……」
可以感覺到原本已濱臨瓦解的意識,慢慢地恢復原有的輪廓。瑪格莉特的意識急遽地回復到像有人體時的活動狀態。
「脆弱存在的命運。結果是不會改變的」
那沒有生命但卻又像是被感情圍繞般黏人的聲音,淡淡地說道。
「那種事,我絕對不允許」
瑪格莉特的意識將所有的憤怒全都轉變成聲音,以奇怪的聲音回嘴。
「一定還有,一定還有什麼事是可以做的」
「也許吧。世界到處充滿了可能性」
「我一定會改變給你看!」
「世界是可能性的綜合體。然後,這裡是與那些所有現象有關連的邊獄,也可以稱作──忘卻界──」
「你是誰?」
「只有意志可以選擇可能性。物品是沒有意志的。只有人的意志可以進行選擇」
邊獄的主人無視了瑪格莉特的問題。
「就讓我改變世界讓你看看吧」
邊獄的主人聲音響起後,瑪格莉特的意識隨即被黑暗包圍。
與剛剛的感覺不一樣,意識急速地消失。
|
「這裡就是妳所選擇的世界」
跟著聲音的同時,瑪格莉特回復意識。
瑪格莉特在沒有見過的大地天空中緩緩飄浮著。
混合著黑與白的大海所支配的世界。唯一可以說是大地的,是那些散落在海面上色彩絢麗的發光島嶼。
略帶灰色蒼白的淡淡天空。閃耀著昏暗光芒的銀河漩渦還有從海浬冒出來的暗色的樹木,慢慢地從瑪格莉特的眼前飄過。
就好像是,浮在黑白之海上面似地。
「這裡是……」
好像有發出聲音又好像沒有。說出的言語就回響在自己的意識之中。
不知是自己的言語可以震動這世界的空氣,還是只是自己的想像而已。瑪格莉特無法做出判斷。
「可能世界。其中的一個世界,了解根植於原始的力量的,另一個世界」
話中的含意,瑪格莉特一點兒也不明白。要理解每一個單字都要花不少時間。
不過,瑪格莉特開始理解到,這裡該不會就是其中一個『渦世界』。
「人的選擇可以破壞因果。意志與力量是一體的」
那無感情的聲音,像是在吟唱般說著。
下一個瞬間,瑪格莉特站在岸邊。雖沒有身體,但是自我的意識在那裡。
腳邊有一個漆黑光滑,比人長上一倍左右的生物被沖上岸。被黑白交錯的浪花不斷地拍打,那生物微弱的呼吸著。
「這是……」
瑪格莉特摸到那異世界的生物。立刻就明白那黑色的生物已經是瀕死狀態了。
「還想活下去嗎?」
瑪格莉特問著那黑色異樣的生物。
「……我想活下去」
雖然是異形,但牠的心聲卻可以直接傳達給,只有意識的瑪格莉特。
瑪格莉特集中在那生物的意識上。牠是這個世界的異端者。跟自己一樣,被混沌元素的力量迷惑後,遭到同伴的放逐。接著就以瀕死的狀態被沖上岸。
「也就是說,你就是這世界裡的我」
「窗外的……那邊…的…自己」
同樣意思的話語,兩個意識一起說著。
「有辦法救牠嗎?」
「兩者合一的話,就能得到彼此的力量吧。合而為一的意志,將開啟新的可能性」
邊獄主人那不可思議的聲音再次響起。
「我知道了」
瑪格莉特當機立斷。很不可思議地竟然毫無猶豫。不管怎麼看都是有著怪異身形的生物,但卻不知道從哪裡開始對牠產生了親近感。
瑪格莉特再次的將意識集中。同時,那生物也閉起了牠那複數的眼睛。
黑與白的影像充滿了瑪格莉特的心中。
白與黑逐漸地混合,一邊畫起條紋,描繪出像家徽般的圖樣後,逐漸變成了一個灰色的球體。
緊接著,瑪格莉特很明顯地感覺到自己取回了身體的感覺。
不過,那不是她原來的身體。瑪格莉特清楚地意識到,自己是變成了那個黑色生物在眺望著世界。
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瑪格莉特蠕動著新的身體,進到海裡去。
異世界的大海很美麗。在黑色海面扭動的白,是海中會發光的微生物。就像是美麗的黑曜石之中,飄著閃爍星塵一般。
該朝哪裡去才好。瑪格莉特很清楚。
記憶,意識,都跟異形生物一起共享。對彼此而言對方都是不可分的。
揮動那黑色的尾巴,就像是在海中滑動般的游動。深一點,再深一點,朝著目標直線前進。
雖然那個目標應該從來都沒看過,但是卻很清楚的浮現在腦海之中。
支撐著異形們所住的海底都市神殿。裝飾在神殿中的混沌元素發出耀眼的光芒,與復仇的感情一起深深地虜獲了瑪格莉特的心。
|
「─完─」
3378年 「白と黒」
どこまでも広がる真っ暗な空間。マルグリッドの意識はそこにあった。
体を動かそうとするが、動かすことができない。体は何処かへ行ってしまったようだ。
意識だけの存在となってこの空間に存在している。そう漠然とマルグリッドは理解した。
肉体と意識は離れ、痛みもなく、重みもなかった。あるのは意識と感情だけだった。これが『死』なのかと、マルグリッドは思った。
そして、もう二度と我が子をこの手に抱くことはできないのだという思いが心を覆った。
しかしあの子は助かったのだ。自分の役目は終わったのかもしれない。
あの子と過ごした時間は僅かではあったけれど、それでも幸せだったのかもしれない。
「もう……思い残すことは何もないのね……」
マルグリッドの思考は少しずつ、暗い空間に融け消えていく。
息子と暮らした日々を思い出し、彼の未来を思い描きながら、ゆっくりと意識を閉ざしてゆこうとする。
「まだだ。 まだ終わってはおらぬ」
声がした。男とも女ともつかない不可思議な声質が、マルグリッドを包むように響き渡る。
声の正体を突き止めようにも、マルグリッドには動かす視界が存在しない。
「なぜ!? あの子の運命は変わったはずよ!」
マルグリッドは激昂した。自分がやってきたことが無意味になる。そんなことは断じて許されなかった。
だが、声はマルグリッドの言葉に答えない。
代わりにマルグリッドの意識に、朧気ではあるが一つのビジョンが浮かんだ。
すっかり成長したであろう息子が、図書館で本を読み耽っていた。かじり付くように本を読み漁る我が子。
マルグリッドはその様子を見て安堵した。
だがそれも束の間、突然、彼は胸を押さえて呻き始めた。心疾患の発作が出たのかもしれない。
息子は積み上がった本を倒壊させながら床に倒れ込んだ。胸を押さえたまま藻掻いているが、誰一人として助けには来ない。
動きが少しずつ小さくなってゆき、最後には動かなくなった。
マルグリッドはその光景を、何もできずにただ見ているだけだった。
「そんな……あぁ……」
僅かに残った意識が悲鳴を上げる。
息子は助かってなどいなかったのか? それとも、心のどこかにあった不安と恐れが見せる幻影なのか?
マルグリッドには判断がつかなかった。
「どうして……」
融けて崩れていた意識が輪郭を取り戻すように感じられた。マルグリッドの意識は、急速に人身があった頃のように活動し始める。
「脆弱な実存の末路だ。 結果は変わっておらぬ」
無機質だが感情にまとわりつくような粘着性を持つ声は、淡々と言い募る。
「そんなの、絶対に許さない」
マルグリッドの意識はありったけの怒りを込めて、奇怪な声に言い返した。
「まだ、まだ何かできることがあるはずよ」
「かもしれぬ。 常に世界は可能性で満ちている」
「絶対に変えてみせる!」
「世界は可能性の総体。 そして、ここはその全事象とつながるリンボ——忘却界——ともいえる」
「お前は誰なの?」
「思いだけが可能性を選択することができる。物は思わぬ。 人の意識だけが選択を行うのだ」
リンボの主はマルグリッドの質問を無視した。
「世界を変えてみせよ」
リンボの主の声が響くと、マルグリッドの意識を暗闇が包んだ。
先程のような感覚とは違い、急速に意識が落ちていく。
「ここがお前の選んだ世界だ」
声と同時に、マルグリッドの意識が戻った。
マルグリッドは見知らぬ土地の空をゆっくりと漂っていた。
白と黒が混ざり合う大海原が支配する世界。大地と思しきものは、海上に点在する極彩色に輝く孤島のみだった。
灰掛かった淡い色の空。昏く光る銀河の渦と海から突き出る暗色の木々が、マルグリッドの視界を横切ってゆく。
まるで、白黒の海に浮かんでいるようだった。
「ここは……」
音はあるようで無い。意識の内で思った言葉が響く。
自分の言葉がこの世界の空気を震わせているのか、それともただ思っただけなのか。マルグリッドには判別がつかなかった。
「可能世界。 その内の一つ、原始に根差す力を知る、もう一つの世界」
声が紡ぐ言葉の意味は、マルグリッドには酷く不明瞭だった。単語の一つ一つを理解するのに時間を取られる。
ただ、これは『渦の世界』の一つではないか、ということは理解し始めていた。
「人の選択だけが因果を崩す。 力と意識は一体だ」
声は無機質に朗々と、歌うように言い放つ。
次の瞬間、マルグリッドは岸辺に立っていた。身体は無かったが、自意識としてそこにあった。
足下には黒くぬめった、人の身長の倍くらいの生物が打ち上げられていた。白と黒のさざ波に何度も打ち付けられながら、その生物は小さな呼吸をしていた。
「これは……」
マルグリッドはこの異界の生物に触れた。その黒い生物が死にかけていることがすぐに伝わった。
「生きたいの?」
マルグリッドは黒い異形の生物に聞いた。
「……イキタイ」
異形であったが、意識だけとなったマルグリッドには、その心が伝わった。
マルグリッドは異形の生物の意識に集中した。彼はこの世界の異端者だった。自分と同じようにケイオシウムの力に取り憑かれて力を弄んだ挙げ句、仲間に放逐されたのだった。そして、瀕死の状態でこの浜辺に打ち上げられたていた。
「この世界の私なのね。貴方は」
「マドノ……ムコウ…ノ…ジブン」
同じ意味の言葉を、二つの意識は共に語った。
「助けてあげられる?」
「二つが一つになれば、互いの力を得ることができるであろう。 束ねられた一つの意志は、新たな可能性を開く」
不可思議なリンボの主の声が再び響いた。
「わかったわ」
マルグリッドは即決した。不思議と迷いは無かった。どう見ても異様な姿をした不気味な生物だったが、どこかしら親近感すら抱き始めていた。
マルグリッドは再び意識を集中した。同時に、黒い生物もその複数の眼を瞑った。
白と黒のイメージがマルグリッドの心を満たした。
それは少しずつ混ざり合い、縞を作り、うねるような文様を描きながら、一つの灰色の球体となった。
そして、マルグリッドの感覚にはっきりとした身体の感覚が戻った。
しかし、それは元の身体ではなかった。黒い生物として世界を眺めているのが、はっきりと意識できた。
マルグリッドは新しい身体をもぞもぞと動かし、海へと入っていった。
異界の海は美しかった。黒い海面でうねっていた白は、海中では光を発する微生物だった。まるで美しい黒曜石の中を、輝く星屑と共に漂っているかのようだった。
どこに行けば良いのか。マルグリッドにはわかっていた。
記憶も、意志も、異形の生物と共有していた。互いが互いにとって不可分であった。
その黒く長い尾を振るい、海の中を滑るように泳いでいく。深く、より深く、目標に向かって一直線に進んでいった。
その目標を目にした事は一度も無い筈だが、はっきりと脳裏に浮かんでいた。
異形達が暮らす海底都市を支える神殿。その神殿に飾られたケイオシウムの輝きが、復讐の感情と共にマルグリッドの心を捕らえていた。
「—了—」
どこまでも広がる真っ暗な空間。マルグリッドの意識はそこにあった。
体を動かそうとするが、動かすことができない。体は何処かへ行ってしまったようだ。
意識だけの存在となってこの空間に存在している。そう漠然とマルグリッドは理解した。
肉体と意識は離れ、痛みもなく、重みもなかった。あるのは意識と感情だけだった。これが『死』なのかと、マルグリッドは思った。
そして、もう二度と我が子をこの手に抱くことはできないのだという思いが心を覆った。
しかしあの子は助かったのだ。自分の役目は終わったのかもしれない。
あの子と過ごした時間は僅かではあったけれど、それでも幸せだったのかもしれない。
「もう……思い残すことは何もないのね……」
マルグリッドの思考は少しずつ、暗い空間に融け消えていく。
息子と暮らした日々を思い出し、彼の未来を思い描きながら、ゆっくりと意識を閉ざしてゆこうとする。
「まだだ。 まだ終わってはおらぬ」
声がした。男とも女ともつかない不可思議な声質が、マルグリッドを包むように響き渡る。
声の正体を突き止めようにも、マルグリッドには動かす視界が存在しない。
「なぜ!? あの子の運命は変わったはずよ!」
マルグリッドは激昂した。自分がやってきたことが無意味になる。そんなことは断じて許されなかった。
だが、声はマルグリッドの言葉に答えない。
代わりにマルグリッドの意識に、朧気ではあるが一つのビジョンが浮かんだ。
すっかり成長したであろう息子が、図書館で本を読み耽っていた。かじり付くように本を読み漁る我が子。
マルグリッドはその様子を見て安堵した。
だがそれも束の間、突然、彼は胸を押さえて呻き始めた。心疾患の発作が出たのかもしれない。
息子は積み上がった本を倒壊させながら床に倒れ込んだ。胸を押さえたまま藻掻いているが、誰一人として助けには来ない。
動きが少しずつ小さくなってゆき、最後には動かなくなった。
マルグリッドはその光景を、何もできずにただ見ているだけだった。
「そんな……あぁ……」
僅かに残った意識が悲鳴を上げる。
息子は助かってなどいなかったのか? それとも、心のどこかにあった不安と恐れが見せる幻影なのか?
マルグリッドには判断がつかなかった。
「どうして……」
融けて崩れていた意識が輪郭を取り戻すように感じられた。マルグリッドの意識は、急速に人身があった頃のように活動し始める。
「脆弱な実存の末路だ。 結果は変わっておらぬ」
無機質だが感情にまとわりつくような粘着性を持つ声は、淡々と言い募る。
「そんなの、絶対に許さない」
マルグリッドの意識はありったけの怒りを込めて、奇怪な声に言い返した。
「まだ、まだ何かできることがあるはずよ」
「かもしれぬ。 常に世界は可能性で満ちている」
「絶対に変えてみせる!」
「世界は可能性の総体。 そして、ここはその全事象とつながるリンボ——忘却界——ともいえる」
「お前は誰なの?」
「思いだけが可能性を選択することができる。物は思わぬ。 人の意識だけが選択を行うのだ」
リンボの主はマルグリッドの質問を無視した。
「世界を変えてみせよ」
リンボの主の声が響くと、マルグリッドの意識を暗闇が包んだ。
先程のような感覚とは違い、急速に意識が落ちていく。
「ここがお前の選んだ世界だ」
声と同時に、マルグリッドの意識が戻った。
マルグリッドは見知らぬ土地の空をゆっくりと漂っていた。
白と黒が混ざり合う大海原が支配する世界。大地と思しきものは、海上に点在する極彩色に輝く孤島のみだった。
灰掛かった淡い色の空。昏く光る銀河の渦と海から突き出る暗色の木々が、マルグリッドの視界を横切ってゆく。
まるで、白黒の海に浮かんでいるようだった。
「ここは……」
音はあるようで無い。意識の内で思った言葉が響く。
自分の言葉がこの世界の空気を震わせているのか、それともただ思っただけなのか。マルグリッドには判別がつかなかった。
「可能世界。 その内の一つ、原始に根差す力を知る、もう一つの世界」
声が紡ぐ言葉の意味は、マルグリッドには酷く不明瞭だった。単語の一つ一つを理解するのに時間を取られる。
ただ、これは『渦の世界』の一つではないか、ということは理解し始めていた。
「人の選択だけが因果を崩す。 力と意識は一体だ」
声は無機質に朗々と、歌うように言い放つ。
次の瞬間、マルグリッドは岸辺に立っていた。身体は無かったが、自意識としてそこにあった。
足下には黒くぬめった、人の身長の倍くらいの生物が打ち上げられていた。白と黒のさざ波に何度も打ち付けられながら、その生物は小さな呼吸をしていた。
「これは……」
マルグリッドはこの異界の生物に触れた。その黒い生物が死にかけていることがすぐに伝わった。
「生きたいの?」
マルグリッドは黒い異形の生物に聞いた。
「……イキタイ」
異形であったが、意識だけとなったマルグリッドには、その心が伝わった。
マルグリッドは異形の生物の意識に集中した。彼はこの世界の異端者だった。自分と同じようにケイオシウムの力に取り憑かれて力を弄んだ挙げ句、仲間に放逐されたのだった。そして、瀕死の状態でこの浜辺に打ち上げられたていた。
「この世界の私なのね。貴方は」
「マドノ……ムコウ…ノ…ジブン」
同じ意味の言葉を、二つの意識は共に語った。
「助けてあげられる?」
「二つが一つになれば、互いの力を得ることができるであろう。 束ねられた一つの意志は、新たな可能性を開く」
不可思議なリンボの主の声が再び響いた。
「わかったわ」
マルグリッドは即決した。不思議と迷いは無かった。どう見ても異様な姿をした不気味な生物だったが、どこかしら親近感すら抱き始めていた。
マルグリッドは再び意識を集中した。同時に、黒い生物もその複数の眼を瞑った。
白と黒のイメージがマルグリッドの心を満たした。
それは少しずつ混ざり合い、縞を作り、うねるような文様を描きながら、一つの灰色の球体となった。
そして、マルグリッドの感覚にはっきりとした身体の感覚が戻った。
しかし、それは元の身体ではなかった。黒い生物として世界を眺めているのが、はっきりと意識できた。
マルグリッドは新しい身体をもぞもぞと動かし、海へと入っていった。
異界の海は美しかった。黒い海面でうねっていた白は、海中では光を発する微生物だった。まるで美しい黒曜石の中を、輝く星屑と共に漂っているかのようだった。
どこに行けば良いのか。マルグリッドにはわかっていた。
記憶も、意志も、異形の生物と共有していた。互いが互いにとって不可分であった。
その黒く長い尾を振るい、海の中を滑るように泳いでいく。深く、より深く、目標に向かって一直線に進んでいった。
その目標を目にした事は一度も無い筈だが、はっきりと脳裏に浮かんでいた。
異形達が暮らす海底都市を支える神殿。その神殿に飾られたケイオシウムの輝きが、復讐の感情と共にマルグリッドの心を捕らえていた。
「—了—」