R4 多妮妲(含日版)

3378年「暗闇之箱」

多妮妲在猶豫。在不能夠背叛博士的心情,以及對黑暗的恐懼間,不安的動搖著。

「多妮妲,妳最近的狀況似乎不太好的樣子」

因為遺跡的探索作業一直沒有進展,博士開始詢問起來了。

博士只是溫柔地問她,是不是需要稍微休息一下而已。但是對多妮妲來說,這卻無形中變成了她的壓力。



有一天晚上,多妮妲趁著博士睡著後悄悄潛進了研究室裡。她開始想調查蕾格烈芙想要得到的那個叫作法典的東西在哪。還沒有決定是否要將它偷出來。只不過,她想知道那到底是什麼樣的東西。

多妮妲操作著博士平常使用的作業控制台。

雖然古老,但大量的資料被電子化後儲存在這裡面。過去的法典在全部被解讀後,應該都存在這裡面才對。

自動人偶的生體機能,人工智能論,混沌元素機關的關聯性等等,各式各樣的項目全部顯示在畫面上。自己找到的東西也有好幾樣被收藏在這裡面。她得知了有大量的古代知識儲存在這裡面。

就在那時,研究室的電燈被打開了。

「怎麼了,又不睡著了嗎?」

沃肯站在研究室的入口處。多妮妲慌忙的關掉控制台,飛快的離開了桌子。

「妳好像在調查什麼東西的樣子」

沃肯走近多妮妲。

「我,很害怕。不知道該怎麼辦。啊,我該怎麼辦才好……」

多妮妲激烈的搖著頭。

「看來妳陷入混亂了。不能再不管妳了,調整看看好了」

「調整?」

「嗯。先把妳分解開,然後再嘗試將妳對黑暗的恐懼去除看看」

「分解……但是那樣的話,我……又會,回到黑暗裡」

抱著頭縮成一團的多妮妲。

「沒有什麼好怕的。不過跟妳這麼說也沒用的樣子,只是原地打轉而已」

突然,多妮妲心中對黑暗的恐懼向她襲來。不論做什麼都得逃出去,這樣的焦躁情感,她以暴力的方式表現了出來。

多妮妲一揮手向沃肯擊去。這是她帶有明確殺意的技巧。沃肯以不相上下的速度避開了。

「唔,這樣可不行」

多妮妲因這一全力出手被躲開的反動力,勢不可止的滑倒並跌倒在作業台上。但她立刻站起身來面對沃肯。放下腰擺出戰鬥的姿勢。

「沒辦法了」

沃肯用力一揮手。下一個瞬間,多妮妲就那樣跌落在地。多妮妲的額頭上插著沃肯射出的針。正中機能停止的裝置,絲毫沒有誤差的一擊。

「雖然很可憐,但這是最妥善的方法。我應該更早做出這決定才是」

機能停止的多妮妲,作為人偶被放在桌上。



沃肯在那一天之內將多妮妲分解,進行了挖掘記憶碎片的作業。

對沃肯來說,多妮妲是他投下心血製成的重要人偶。不僅僅只是修理或是製作實用的自動人偶,他做的是宛如人類少女的這個孩子,為什麼會想創造少女的人偶,他自己也不是很明白。多妮妲是自己的內心衝動下所創造出來的,不可思議的人偶。

完成之後,對自己言聽計從的多妮妲,讓沃肯有了想接納她的心情。但同時,總是會感覺到一些詭異的違和感也是事實。他覺得就好像是,自己失去的記憶創造了這個孩子似的。

「能夠去除這個孩子恐懼的源頭就好了」

作業台連接著多妮妲的頭部,操作著螢幕觀察著多妮妲記憶的時間軸。從作為印象留下來鮮明的部分,到已經被壓縮處理過作為故事保存的記憶為止,全部仔細的調查了一遍。

「這是……」

沃肯將多妮妲記憶中留下特別鮮明的印象捕捉下來。那是多妮妲被帶到潘德莫尼的記憶。

「早知道之前應該做更確實的檢查」

多妮妲被一個叫作蕾格烈芙的奇怪怪物引誘進行了交易。

「可惡的潘德莫尼,竟敢算計我」

沃肯在只有自己跟動也不動的人偶多妮妲所在的房間中小聲說著。



「索克先生,我不太喜歡被騙的感覺」

「請問您在說什麼?」

當潘德莫尼的代表索克來取貨的時候,沃肯開門見山的說了。他是以有了成果物的報告這個理由把他找來的。

「有個叫蕾格烈芙的人物,為了從我這裡搶奪法典而誘惑了多妮妲。」

索克臉上再次浮出了不知情的表情。

「一開始明明說好是為了互相的利益,但卻因為你們的所做所為讓我不得不分解多妮妲」

「那,那種事情……我沒聽說過。讓我確認一下」

感受到沃肯平靜的憤怒,索克有些害怕的想要離開坐位。

「我對於傷害人沒有興趣」

說完這句話的沃肯,靜靜的喝光了杯子裡的紅茶。

「讓我跟蕾格烈芙說說話吧」



「你還特地過來了啊」

蕾格烈芙的房間充滿了奇妙的機械。在那個房間的中心,有個浮在巨大水槽中的大腦。

「明明就騙了我,我希望妳不要再搞這種小聰明了」

沃肯站在蕾格烈芙前。將他帶來這個房間的薩爾卡多,正站在入口處監視著。

「你在說那個人偶的事嗎?我的確做了些類似的麻煩事」

蕾格烈芙毫不掩飾的說道。

「一開始,我沒有注意到你就是『那個男人』」

「那個男人?」

「就是失去記憶前的你。要說是『本來的你』也可以」

有關自己的過去,蕾格烈芙似乎知道些什麼。

「我就是我」

沃肯對於煩惱自己的過去這件事,已經感到很疲憊。比起已經無法取回的過去,他選擇了有意義的現在。

「但是,你承認自己的記憶是有缺陷的對吧?」

「那跟妳有什麼關係嗎?」

沃肯知道自己有點情緒化了。

「那就看你怎麼做了。不過當你全部想起來的時候,你是不會讓吾活下去的」

「我從來沒有想過要殺誰」

「那太好了」

腦的周圍發出了氣泡破裂的聲音。就好像是在笑一般。

「我叫做沃肯。跟過去無關」

「那很好。這樣的話就照之前的契約一樣,大家各取所需吧」

「我再說最後一次。……不要再做出想欺騙我的事情」

「交易就是交易。我們需要你的知識以及技術,這是不管發生什麼事都不會變的事實」



自從去了潘德莫尼與蕾格烈芙交涉結束後,沃肯對於重組多妮妲這件事情猶豫了。出問題的原因仍然曖昧不明,也考慮到關於自己過去的記憶。但是也沒有其他可以擔任助手的人物,而且要放棄已經俱備相當機能的多妮妲也是不可能的。沃肯下定決心要重新組裝多妮妲了。

但是,他將她的記憶完全消除,一切從零開始啟動。雖然這樣子很殘酷,但為了找出故障的原因,這也是沒有辦法的事。

「早安,博士」

多妮妲作為率直的助手,一如往常的運作著。

但是過了幾個月後,又開始對黑暗產生恐懼。就算調整給與她的知識或機能,最後也一定會陷入同樣的瘋狂狀態。

「博士拜託,請不要關掉我!」

哀求著的多妮妲,反抗著的多妮妲,沃肯重新啟動了各式各樣的多妮妲。每一次消除掉她的記憶,就會再一次有帶著同樣笑容的少女甦醒。

對她來說或許不會痛苦。但是,持續觀察著那個現象的沃肯心裡,像是有什麼沉重的東西不斷累積下去。



經歷了一連串令人快要失去意識的失敗之後,沃肯開始嘗試著重新創造另一個與多妮妲一樣的身體。

也將名字改變後試著養育。暫時觀察了一陣子後,似乎非常地安定。

為了查出究竟是哪裡失敗,他將多妮妲與複製品的零件一個個的交換,調查究竟是哪一種機能,或是哪一個零件的問題導致了瘋狂的狀態。雖然花了很長一段時間,他發現了一個AI所管理的電腦機能有故障。

「就是這個嗎!」

在修正了AI之後,沃肯重新啟動了多妮妲。

「早安,博士」

就像往常那樣睜開眼睛的多妮妲,沃肯用笑容迎接她。她看起來似乎非常安定。但是,究竟是不是已經完全修正了,是必須經過一段時間才能知道的。

沃肯將為了調整多妮妲的錯誤而創造的另一具少女型自動人偶,送到了人類的世界。除了是老顧客的請託之外,他也想利用這個機會讓這個人偶累積各式各樣的經驗。他想最後將帶回來的經驗與多妮妲的整合可能也不錯。多妮妲的複製品名叫『雪莉』,將記憶重啟後送到了人類世界。



將某一個新的人型自動人偶交付給潘德莫尼時,蕾格烈芙出現在那裡。現在的她已經得到了沃肯所製造的機械身體了。

「這種東西,是要做什麼用的?」

潘德莫尼所訂購的女性型自動人偶的身上,裝著奇妙的裝置。

「我們這裡也在進行著各種研究。是身為和平主義者的你不會感興趣的事」

沃肯迴避著這個知道自己過去的高級工程師。因為她會讓他對過去的自己所抱持的恐懼無所遁形。

「另外一個女孩怎麼了?跟你不像,不是和平主義者的那個女孩」

「妳說雪莉嗎?」

他知道雪莉正在執行著殺人的委託。對人類沒有興趣的自己,那種事情怎麼樣都無所謂。自己傷害別人,跟自己所創造的機械傷害別人,在沃肯的心中是兩件事。他並不是博愛主義者,只是害怕由自己驅使暴力而已。

「地上傳來了奇妙的報告。惡作劇還是克制一下比較好喔。咯咯咯」

蕾格烈芙說完這句話後就離開了。



回到地上的沃肯,讓多妮妲去找雪莉。因為他聯絡不上寄放雪莉的基普林老翁。

「真是麻煩的女孩」

多妮妲很安定,從再啟動開始已經過了一年以上,到目前為止都沒有發生問題。

「嗯,不過她是妳的妹妹。拜託妳了」

「我知道了。不過這是我第一次去都市呢,有點期待」

多妮妲對於要去的地方不是荒野或是遺跡,而是帝都斐度這件事感到非常快樂。

「妳們之間有簡單的共感機能。雪莉的所在地,只要到附近的話應該就可以知道了」

「那個機能,就算是死了也有效嗎?」

多妮妲對於雪莉並沒有很好的印象。沃肯認為可能是因為兩個人太過相似了。

「雪莉跟妳都不會死的。就算是停止。地上的人類要也無法完全將妳們破壞的」

「這樣呀,真無聊。找不到的話,我可以稍微在斐度逛一逛嗎?」

「不可以。一週以內回到這裡來」

「好啦」

「真是隨便的孩子」

但是,對於安定的多妮妲,沃肯十分放心。



來到斐度的多妮妲,充滿活力的在街上快樂逛著。不過,博士的命令對她來說是絕對的。首先,她朝著雪莉應該住著的基普林老翁宅邸走去。

「妳在哪裡啊?雪莉」

多妮妲在已經荒廢了的宅邸前大聲叫著。但是沒有任何反應。

「真是沒辦法」

為了要搜索內部,多妮妲進入了房子裡面。她已經很習慣尋找東西了。

正面大門被拆掉的入口已經荒廢了。多妮妲只看了一眼,就得到了有意義的情報。從大量的足跡和灰塵堆積的狀況看起來,是怎麼樣體格的人類,隔了多少時間等都可以推測出來。其中也有雪莉的足跡。她找到了一個不是雪莉的新足跡。那個足跡一直線的朝向大廳而去。

尋著足跡,來到了原本應該是非常豪華的大廳。巨大的桌子被打碎放在靠牆壁的位置,小件的物品和有價值的物品已經全部被拿走。足跡持續到這個已經荒廢的大廳中央。

在那裡放了一個箱子。

多妮妲立刻就知道那是什麼。就算是離寬廣的入口處4.5阿爾雷遠的地方,也不可能看錯的,熟悉的『那樣東西』。

「雪莉……」

多妮妲慢慢的走到箱子附近。

箱子中隨便放置著的,是已經變的支離破碎的雪莉。還穿著鞋子的腳從肚子中央穿出,旁邊還堆放著已經彎成奇怪角度的手腕。

對多妮妲來說,那是她十分熟悉的自己的腳和自己的手。被從身體上摘下來的頭正面對著她,毫無反應。機能似乎完全性的停止了。

在昏暗的大廳中多妮妲僵著身體站著。

盯著與自己同種人型破碎的手腳以及被摘下來的頭顱,一種視線像是要逐漸融化那樣的感覺襲向了多妮妲。



「─完─」

日文版
3378年 「暗闇の箱」

ドニタは迷っていた。ドクターを裏切る事などできないという気持ちと、闇への恐怖との間で不安定になっていた。

「ドニタ、最近調子がよくないようだな」

遺跡の探索作業がうまく進まず、ドクターにそう聞かれるようになっていた。

ドクターはただ優しく問い、少し休むかどうかを聞くだけだった。がしかし、ドニタにはそういう思いが、却って追い詰められる形になっていた。

 

ある夜、ドニタはドクターが眠ったのを見計らって研究室に忍び込んだ。レッドグレイヴが欲しいという、コデックスがどこにあるのかを調べたくなったのだ。盗むかどうかは決めていなかった。ただ、どんなものかを知りたかったのだ。

ドニタは、ドクターが普段使っている作業コンソールを操作した。

古いものだったが、たくさんの資料がこの中に電子化されて所蔵されている。過去のコデックスは全て読み取られ、この中に取り込まれている筈だ。

オートマタの生体機能、人工知能論、ケイオシウム機関のチューニングなど、様々な項目が画面一杯に表示されている。自分が探し出してきたものもいくつか収蔵されていた。古の知識がかなり、ここに存在するのがわかる。

その時、研究室に電気が点いた。

「どうした、また眠れないのか?」

ウォーケンが研究室の入り口に立っていた。ドニタは慌ててコンソールを消し、飛び退くように机から離れた。

「何か調べ物のようだな」

ウォーケンがドニタの傍まで歩いてくる。

「ワタシ、怖いんです。 まだどうしても。ああ、どうしたらいいのか……」

激しく首を振るドニタ。

「混乱しているようだな。 もう放っておくことはできない。 調整してみよう」

「調整?」

「そうだ。君を一度分解して、暗闇への恐怖を取り除いてみよう」

「分解……でもそれは、ワタシが……また、闇に」

頭を抱えてしゃがみこむドニタ。

「何も恐れることはない。 といっても無駄か。 堂々巡りだな」

突然、ドニタの中で暗闇への恐怖がフラッシュバックした。何としても逃げ出さないと、という焦りが、暴力として吹き出した。

ドニタの抜き手がウォーケンを貫こうとする。明確に殺意を持った技だった。ウォーケンは紙一重で避ける。

「ふむ、これはいかんな」

ドニタは全力の抜き手を躱された反動で、作業台の上を転がるように滑った。が、すぐに体勢を立て直してウォーケンに向き直る。腰を落とした戦闘態勢だ。

「仕方ない」 

ウォーケンが手を強く振った。次の瞬間、ドニタはその場に崩れ落ちた。ドニタの額にはウォーケンの放った針が突き立っている。機能停止へと至る装置への、寸分違わぬ一撃だった。

「かわいそうだが、これが最善だ。 もう少し早く決断すべきだったな」

機能停止したドニタは、人形として机の上に置かれた。

 

ウォーケンはその日の内にドニタを分解し、記憶の断片を掘り下げる作業に取り掛かった。

ウォーケンにとって、ドニタは思い入れのある大切な人形だった。実用的なオートマタの修理や製作ではなく、まるで人間のようなこの娘を、なぜ少女の人形を創ろうと思ったのかは、よくわからない。ドニタは、自分の内なる衝動が創らせた不思議な人形だった。

完成した後、自分によく尽くしてくれるドニタを受け入れている気持ちはあった。と同時に、不気味な違和感を覚えていたのも事実だった。まるで、失われた記憶がこの娘を創らせたのではないか、という思いがあった。

「この子の恐怖の源、取り除けるといいが」

作業台にドニタの頭部を繋ぎ、コンソールを操作してドニタの記憶を時系列に眺めた。イメージとして残る鮮烈なものから、すでに圧縮処理されてエピソードとして保存された記憶まで、注意深く調べていった。

「これは……」

ウォーケンはドニタの記憶の中に鮮烈なイメージとして残っていたものを拾い上げた。それは、ドニタがパンデモニウムに連れて行かれるという記憶だった。

「きちんとチェックしておくべきだったか」

ドニタはレッドグレイヴと名乗る奇怪な化け物から取引を持ち掛けられていた。

「パンデモニウムめ、謀ったな」

ウォーケンは、今は物言わぬ人形となったドニタしかいない部屋で呟いた。

 

「ソングさん、私は騙されるのはあまり好きじゃない」

「何のことです?」

パンデモニウムの代表として取引を持ち掛けてきたソングへ、ウォーケンは切り出した。成果物の報告があると呼び出したのだ。

「レッドグレイヴという人物が、私からコデックスを奪おうとドニタを誘惑してきた」

ソングは改めて意味がわからないといった表情を浮かべた。

「初めは互いの利益ということだった筈だが、その所為でドニタを分解しなければならなくなったよ」

「そ、それは……私は聞いていない。 確認させてくれ」

ウォーケンの静かな怒りを感じ取り、怯えたソングが席を立とうとする。

「安心したまえ、私は誰かを傷付けたりする趣味は無い」

そう言うとウォーケンは、黙ってカップの紅茶を飲み干した。

「ただし、レッドグレイヴと話をさせてもらおう」

 

「わざわざ来たか」

レッドグレイヴの居室は奇妙な機械で溢れていた。そしてその部屋の中心に、巨大な水槽に浮かぶ脳があった。

「私を騙すのに、小賢しい真似はしないでもらいたい」

ウォーケンはレッドグレイヴの前にいた。彼を居室に連れてきたサルガドは、入り口に立って辺りを監視している。

「あの人形のことか。 確かに回りくどい真似をさせてもらった」

レッドグレイヴははぐらかさずに言った。

「初めは、お前が『あの男』だと気付かなかったのだよ」

「あの男?」

「記憶を失う前のお前だ。 『本来のお前』と言ってもいい」

自分の過去について、レッドグレイヴは何かを知っているらしい。

「私は私だ」

ウォーケンは自分の過去に惑わされることに疲れていた。取り戻すことのできぬ過去より、有意義な今を選択したのだった。

「しかし、記憶が欠けていることは認めるのだろう?」

「貴様にそれが関係あるのか」

自分でも感情的になっているのがわかった。

「それはお前次第だ。 だが全てを思い出した時、お前は余を生かしておくまい」

「私は誰かを殺めたいなどと思ったことは無い」

「それは好都合」

脳の周りの泡が音を立てて弾ける。まるで笑ったかのようだ。

「私はウォーケンだ。 過去は関係ない」

「よろしい。ならば元の契約どおり、互いの利益になるよう取り計らおう」

「最後にもう一つ言っておく。……二度と私を騙すような真似はするな」

「取引は取引だ。 我々にお前の知識や技術が必要なのは、紛れもない事実だからな」

 

パンデモニウムで行ったレッドグレイヴとの交渉を終えた後、ウォーケンはドニタを再び組み立てることに躊躇した。不具合の原因も曖昧なままであったし、己の記憶について考えるところもあった。しかし他に誰か助手となる人物がいる訳でもなく、ここまでの機能をもった彼女を放っておく訳にはいかなかった。ウォーケンはドニタを組み立て直すことを決心した。

ただし、全ての記憶を消去することにし、一切をゼロから起動させた。残酷なことだったが、不具合の原因を探るためには仕方のないことだった。

「こんにちは、ドクター」

ドニタは素直な助手として、変わらずに機能していた。

しかし数ヶ月が経つと、また暗闇を恐れるようになった。与える知識や機能の微調整を行っても、必ず同じような狂気に陥った。

「お願い、ワタシを切らないで。 ドクター」

哀願するドニタ、反抗するドニタ、どのドニタもウォーケンはリセットした。記憶を消され、その度に同じような笑顔を浮かべて蘇る少女。

彼女に苦しみは無いかもしれない。しかし、それを観察し続けるウォーケンの心には、重たい澱のようなものが溜まっていった。

 

気が遠くなるほどの失敗を繰り返した後、ウォーケンはドニタと同じ体をもう一つ、一から創り直してみることにした。

名前も変えて育て直してみた。しばらく様子を見ると、かなり安定しているように思えた。

どこが失敗したのかを調べるために、今度はドニタとそのコピーを少しずつ差し替えていき、どの機能、またはパーツのせいで狂気に陥るのかを調べることにした。随分と時間が掛かったが、あるAIを司る電脳機能に不具合があることがわかった。

「これか!」

AIの修正を行った後、ドニタを起動させた。

「おはよう、ドクター」

いつもと同じように目覚めたドニタを、ウォーケンは笑顔で迎えた。彼女はとても安定しているかのように見えた。しかし、完全に修正されたかどうかは、ある程度の時間が経過しなければわからない。

ドニタの不具合を調べるために創ったもう一体の少女型オートマタは、人間の世界に送ることにした。クライアントから請われたのもあったが、この人形に様々な経験を積ませてみたいという気持ちもあった。最終的には、持ち帰った記憶をドニタと統合してもいいと思っていた。ドニタのコピーは『シェリ』と名付けられ、記憶をリセットした上で人間界に送られた。

 

とある新たな人型オートマタをパンデモニウムに納品する時、そこにレッドグレイヴが現れた。今の彼女はウォーケンが作った機械の身体を手に入れている。

「こんなもの、どうするのだ」

パンデモニウムに作成を依頼されたこの女性型オートマタには、奇妙な装置を付けさせられていた。

「こちらも様々な研究をしている。 平和主義者のお前には興味の無いことだろうがな」

ウォーケンは、自分の過去を知るこのテクノクラートを避けていた。そこには、過去の自分への恐れが隠しようもなく存在していた。

「もう一人の娘はどうしている? お前に似ず、平和主義者でない娘の方だ」

「シェリのことか」

シェリが殺人を請け負っていることは知っていた。人間に興味を無くしている自分にとって、それはどうでもいいことだった。自分が人を傷つけることと、自分の創った機械が誰かを傷つけることは、ウォーケンの中では別のことだった。彼は博愛主義者でも何でもなく、ただ自分が振るう暴力を恐れているだけだった。

「地上から奇妙な報告があってな。 悪い遊びは控えさせた方がいいぞ。 くくく」

最後にレッドグレイヴはそう言って去っていた。

 

地上に戻ったウォーケンは、ドニタにシェリを探させた。シェリを預けてあるギブリン翁と連絡が付かなかったのだ。

「世話の焼ける娘ね」

ドニタは安定している。再起動から一年以上経つが、今のところ問題は出ていない。

「ああ、でも君の妹だ。 頼むよ」

「わかりました。 でも、都市に出るのなんて初めてだから、ちょっと愉しみ」

ドニタは代わり映えのしない荒野や遺跡ではない、帝都ファイドゥに行けることを楽しみにしていた。

「君達には簡易的な共感機能がある。 シェリの居場所は、近くまで行けばわかるはずだ」

「それは、たとえ死んでいても?」

ドニタはシェリのことをあまり良くは思っていない。似すぎている所為だろうかと、ウォーケンは思った。

「シェリも君も死にはしない。 止まることはあってもね。 完全に破壊することも、地上の人間達では無理だろう」

「そう、つまんない。 見つからなかったら、しばらくファイドゥを見て回ってもいい?」

「だめだ。一週間で帰ってきなさい」

「はーい」

「暢気なものだな」

ただ、安定しているドニタに、ウォーケンは安心もしていた。

 

ファイドゥに辿り着いたドニタは、活気に満ちたこの街を巡るのを愉しんでいた。しかし、ドクターの命令は彼女にとって絶対だ。まず、シェリが住んでいる筈のギブリンの屋敷へ向かった。

「どこなの? シェリ」

荒れ果てた屋敷の前で声を張るドニタ。何の反応も無い。

「仕方ないわね」

中を探るために屋敷へと入った。ものを探すことには慣れている。

正面の扉を抜けたエントランスは荒れ果てていた。ドニタは一瞥しただけで、有意義な情報を取り出す走査を終えた。沢山の足跡とその埃の積み重なり具合から、どんな体格の人間が、どれくらいの時間差を置いて歩いたかを導き出した。その中にはシェリの足跡もあった。そしてシェリのものではない、一際新しい足跡を見つけた。それは一直線に大広間へと続いていた。

足跡を追って、元は豪奢だったであろう大広間に辿り着いた。巨大なテーブルは砕かれて壁際に置かれており、調度類も金目の物は全て持ち去られている。その荒れ果てた広間の中央に向かって、足跡は続いていた。

そこに箱が置かれていた。

ドニタはすぐにそれが何かわかった。広間の入り口から4.5アルレ離れた場所にあっても、見慣れた『それ』を見間違う筈がなかった。

「シェリ……」

ゆっくりとドニタは箱に近付いていった。

箱に無造作に詰められていたのは、バラバラになったシェリだった。靴を履いたままの足がふくらはぎを上にして飛び出し、そこに有り得ない方向に曲がった腕が添えられている。

それはドニタにとって見慣れた自分の足であり、腕でもあった。胴体からもぎ取られた首はこちらを向いているが、反応は無い。完全に機能が停止しているようだった。

暗い広間でドニタは立ち尽くしていた。

自分と同じ人形の砕かれた手足やもがれた首をじっと見ていると、ドニタは視界が溶けていくような感覚に襲われた。

「—了—」