R3 多妮妲(含日版)

3378年 「誘惑」

搜索完遺跡的多妮妲和身份不明的男子對峙著。

看似事先就埋伏等著與多妮妲對話的男子。

這個男人不能相信。

多妮妲的理性發出警告。

本來的話,是根本不可能會考慮要跟著這種傢伙一起去的。

(為什麼,我會跟著這個男人一起走呢)

這個男人搭話過來的時候,多妮妲本來是想要無視他的。

但為什麼還會變成這種情況呢,大概是因為有那句「從黑暗中救出」這話吧。

如果有方法可以逃離自己心中對黑暗的恐懼的話,想要知道。



「你到底是要帶我到哪裡?」

多妮妲對著並肩而走的男子說道。

「快到了」

男子說完後,就又再度沉默。

「對了,你叫什麼名字?我還沒有聽你說呢」

「我叫薩爾卡多」

「我們現在要去哪呢?那裡有什麼呢?」

「跟著我走的話就會知道了」

「不回答的話,我就回去了喔。我沒有時間浪費在沒用的事情上面呢」

「就算永遠也沒辦法擺脫黑暗?」

薩爾卡多,用輕視的眼神看著多妮妲。

就像是看著一個人偶還是什麼般的眼神。是的,就像是多妮妲看著原型時的眼神。

「你的眼神真討厭。我不跟你去了」

多妮妲停下腳步,用強硬的口吻說著。

薩爾卡多也停了下來。

「我要回去了」

多妮妲和薩爾卡多互相凝視了一陣子之後,薩爾卡多像是認輸般地鬆口。

「真是麻煩的小女孩。好吧,我們現在要去的是潘德莫尼」

「是那個工程師們住的地方?浮在天空上的城市?」

「沒錯。其他的事等妳到了之後就知道了」

潘德莫尼,在工程師的管理之下,與地上的混亂隔絕,並保留前時代繁榮的都市。

「可以接受了嗎」

「……好吧。那就再跟你走一下好了」

導都潘德莫尼是集結工程師技術精粹的地方。如果是那兒的話或許真的有什麼東西能夠拯救自己也不一定。

多妮妲的表情開朗了起來。

看到她樣子的薩爾卡多的臉上,也浮起了一絲絲的笑容。



過了一陣子後的兩人,走到了四處有著倒塌建築物的幽靈城。

薩爾卡多筆直的走進入了眼前那棟高聳卻已破破爛爛的建築物中。兩人花了一些時間爬上已經變成廢墟的那棟建築物。

打開了生了鏽的門走出屋頂後,有台銀色的奇妙交通工具就停放在那裡。此時天空中的太陽已開始西沉,夕陽將那個銀色的機械映照得通紅。

「就用這個回導都了。上來吧」

薩爾卡多開啟了飛行艇的艙門,叫著多妮妲。

「這個,會飛嗎?」

坐上了飛行艇後,多妮妲詢問正在前方操作著儀器的薩爾卡多。

「沒錯。會有晃動,抓牢了」

薩爾卡多開啟節流閥,飛行艇飛離廢墟的建築物。接著就一口氣衝上被染紅的黃昏的天空。

多妮妲俯視著越來越小的地面,像個小孩子般的興奮。但為了不被薩爾卡多發現,就只用一副彷彿什麼事都沒發生的表情看著窗外。

在沿著雲的上面前進著的飛行艇的前方,出現了奇妙的光線亂流。人的眼睛可能看不出來,但是多妮妲的眼睛,清楚的看到了有什麼東西造成了奇異的折射。同時,薩爾卡多正在與誰通信著。雖然多妮妲的耳中可以聽見通信的內容,但那些由奇異音節所組成的會話,她完全無法理解其中含意。

通信結束後,飛行艇就朝向那個有不可思議折射的方向飛去。接著視野中就突然出現了漂浮在空中的巨大城市。

「這就是潘德莫尼啊……」

多妮妲不由得讚嘆出聲。那是個與只在廢墟和研究所往返的生活中所看過的景色完全不同的世界。只有在書中插畫才看得到的活生生的城市。而且和地上的任何地方相比都還要進步,排列著黃金時代建築物的這個風景,面對這些,多妮妲愣住了。

旋繞了潘德莫尼的飛行艇,最後在一棟有著輝煌拱門的建築物降落了。太陽已經幾乎完全西下了,但是這潘德莫尼的建築物就好像鏡子似的反射著變成紫色的天空。



下了飛行艇的多妮妲和薩爾卡多,走在建築物中長長的走廊中。

那裡充滿著跟博士的研究相同的氣氛。但是,技術水準的高度,就算是對科技不熟悉的多妮妲也是一目了然。

不久後,二人來到了一扇大門前。

「我將她帶來了」

薩爾卡多對著門說後。從裡面傳來了女性的回應。

『嗯,總算來了啊。太慢了,薩爾卡多』

「非常的抱歉」

『在吾叫汝前先退下吧』

「遵命」

薩爾卡多朝著門行了一個禮。

「好了,快進去。蕾格烈芙大人正在等著妳」

他說完就推了推多妮妲的背。



走進門之後,映入眼簾的是一個鑲嵌在牆壁中的巨大水槽。

在水槽中浮著一個人類的腦,周圍彷彿是在呼吸似的,不斷的冒出氣泡,以及令人毛骨悚然的啵咕啵咕聲。

「多妮妲啊,汝可總算來了」

正當多妮妲被眼前異樣的情景給吸引住目光時,頭頂上方傳來了聲音。

反射性的向上看,那裡只有幾條粗管線,並沒有人。

「什麼人!躲在什麼地方!!」

多妮妲擺出了隨時可以戰鬥的姿勢叫著。

「汝在看哪呢?吾不就在這裡嗎」

聲音仍然是從上方傳來。

可是,不管再怎麼專心凝視,那裡只有開著口的管線,其他什麼都沒有。

但是既然有聲音,應該就在這……。

「……難,難道是!?」

那是不可能的。

那個東西難不成是活著的嗎。

多妮妲一邊這樣想著,一邊驚恐的轉向水槽的方向。

「沒錯,吾就在這裡。很可惜吾並不是人的姿態」

隨著頭上傳來的聲音,腦的周圍出現了氣泡。

那個景象,是讓目前為止從未對任何事物感到恐懼的多妮妲,都會覺得有點恐怖的光景。

「怎麼了?這個樣子很可怕嗎?汝追根究底不也是一堆破銅爛鐵的組合物嗎」

「我才不害怕。只是,妳那種樣子,怎麼可能……」

「怎麼可能還活著的,是嗎。汝說得沒錯,吾最近也開始,對以這樣姿態存在著的自己,產生了疑惑」

啵咕

啵咕

自稱是蕾格烈芙的腦,用聽起來很高興的語調說著。

「吾是蕾格烈芙。負責從這個潘德莫尼監視這個世界」

啵咕

那個聲音,就像是年幼少女般的高昂清脆。

聽著那個聲音的多妮妲漸漸地收起了內心的動搖,取而代之的是一個又一個的疑問不斷湧出。

「妳,是那個男人的主人嗎?」

「嗯,可以那麼說」

「妳到底是什麼人!說要把我從黑暗中拯救出來,究竟是什麼意思?還有,說什麼要我幫忙又是……」

「冷靜一點,人偶。汝一次問那麼多問題,吾也只有一張嘴……不對……一張也沒有啊。咯咯咯」

腦一邊說著,一邊被自己的玩笑給逗得咯咯笑。

「別開玩笑了!給我好好的回答!」

「不是叫汝冷靜了嘛。吾會一個一個回答汝的問題」

「………………」

「首先,吾是什麼人?這個問題。就像剛才說過的,吾是監視者。監視著人們,為了不讓他們再度以愚蠢的行為破壞這個世界。

「破壞……世界?」

「沒錯。但,對才出生不久的汝來說,應該聽不懂吧」

「要我幫忙的事,就是你說的那個『監視』嗎?」

「不,並不是」

蕾格烈芙的話中帶著一絲絲的嘆息。當然那是經由傳聲的管線才能聽得清楚的聲音。

「正如汝所見,吾的這個姿態。現在全是靠著這個房間中所設置的機械,才能保住生命」

「儘管生命是沒有甚麼異常,但這個樣子既不能走路,也不能看見外界的事物。但現在世界有著需要盡快解決的問題。吾需要能到外界的手段」

「也就是需要一個身體對吧。那跟我有什麼關係呢?」

「要做出吾的身體,必須要有汝的父親所擁有的法典。就像做出汝的身體那樣」

「博士的……也就是說,我只要對博士說『法典借我吧』,這樣就可以了嗎?」

但是,蕾格烈芙小聲的否定了。如果她有身體的話,應該會聳聳肩吧。

「博士…他現在似乎是自稱沃肯對吧,吾和那傢伙認識很久了」

「但是,關於吾的真實身份不能讓博士知道。這是有很深的理由在的」

「別繞圈子了。所以實際上該怎麼做?」

啵咕

蕾格烈芙的周圍,出現了一個很大的氣泡。

「多妮妲,吾要拜託汝的事情是,搶奪法典」

「搶奪?……」

「沒錯。如果是汝的話,要從沃肯博士那邊搶來是很容易的事吧」

「那,那種事情……那種事情我辦不到!」

多妮妲用力的搖著頭,那毫無疑問的是背叛博士的行為。

「……儘管那樣汝就可以得救?」

咦?多妮妲臉上浮出了疑惑。

「那是什麼意思?」

「汝所恐懼的黑暗,吾已克服」

乳白色的腦一動也不動,這個物體現在真的是在說話嗎?

「只要吾幫助汝,不論是夜晚,黑暗,睡眠,汝都不會再感到恐懼」

咕嚕。再次響起幫浦送出的水泡聲。

「汝在猶豫的樣子。誰都會對黑暗感到恐懼。那是對死亡的恐懼。不管是誰都是從黑暗出生然後再回歸黑暗。但是,吾就是永遠都處在光明的人」

「以古老的叡智,吾從古老的過去就一直存在至今。吾可以把一部份的叡智與汝分享」

「妳真的是從以前就一直存活下來的証據呢?妳能證明我現在看的在水槽裡面的物體,聲音,都不是一場鬧劇嗎?」

「呵呵呵。相不相信都是汝的自由。只是,能救汝的只有吾而已」

「…….」

多妮妲的心,像是被劃過一刀切成兩半。

看著那樣子的多妮妲,蕾格烈芙覺得有趣的笑了起來。

「啊,汝不用立刻決定也沒關係。不管對於汝還是對於吾,時間都不成問題」

「………………」

「汝先回到沃肯博士那裡去吧。然後,如果汝決定要接受吾的要求,再到吾這裡來吧」

「可是,那個時候我要怎麼樣才能……」

「用不著擔心。到了那個時候,吾的人會去迎接汝的」

「………………」

「那麼就先這樣了,吾就期待汝的好消息囉」



「─完─」

日文版
3378年 「誘惑」

遺跡の探索を終えたドニタは、正体不明の男と対峙していた。

ドニタを待ち伏せするように声を掛けてきた男。

この男は信用できない。

ドニタの理性は警告を発していた。

本来ならば、こんな奴についていくなんて考えられないのに。

(どうしてワタシはこの男と歩いているのだろう?)

この男に声を掛けられたとき、ドニタは一度無視しようと考えた。

それなのにこうしてついてきてしまったのは、「暗闇からの救済」という言葉があったからだろう。

自分の中にある暗闇への恐怖、そこから逃れる術があるなら、それにすがりたかった。

 

「いったい、どこに連れて行こうというの?」

ドニタは傍らに並んで歩く男に声を掛けた。

「もう少しだ」

男はそう言うと、むっつりと口を結んだ。

「あなた、名前は? 聞いてなかったわ」

「サルガドだ」

「どこにこれから行くの? 何があるの?」

「ついてくればわかる」

「答えないならワタシはここで帰るわ。無駄なことに費やす時間は無いの」

「永遠に暗闇から這い上がれなくても、か?」

サルガドは蔑んだような目でドニタを見る。

まるで人形か何かを見るような目つきだ。

そう、ドニタがプロトタイプを見るときのような。

「いやな目だわ。 ついて行けない」

ドニタは足を止め、強い口調で言った。

サルガドも立ち止まる。

「ワタシ、帰る」

ドニタとサルガドはしばらく睨み合っていたが、やがてサルガドが根負けしたように口を開いた。

「面倒な娘だ。 いいだろう。 我々はここからパンデモニウムに向かう」

「あのエンジニア達が住んでいる、天空に浮かぶ街?」

「そうだ。 あとは向こうに着けばわかる」

パンデモニウム、エンジニアによって管理され、地上の混乱から隔絶された、旧時代の繁栄を保つ都市。

「納得したか」

「……わかった。 もう少しだけ付き合ってみるわ」

エンジニアの技術の粋が集まる導都パンデモニウム。そこになら自分を救ってくれる何かがあるかもしれない。

ドニタの表情が明るくなった。

そして、その様子を見ているサルガドの頬にも、僅かな笑みが浮かんでいた。

 

暫くすると二人は、崩れた建物が点在するゴーストタウンに辿り着いた。

サルガドはまっすぐ、ぼろぼろになったとりわけ高い建物へと入っていった。廃墟となったその建物の階段を、二人は時間を掛けて上った。

錆び付いたドアを開けて屋上に出ると、そこには銀色の奇妙な乗り物があった。中空にあった太陽は沈みかかり、西日がその銀色の機械を朱く照らしていた。

「これで導都へ行く。 乗れ」

飛行挺のハッチを開け、ドニタを呼び込んだ。

「これ飛ぶの?」

乗り込みながら、前で計器を操作するサルガドに声を掛けた。

「そうだ。 揺れるぞ、掴まっていろ」

サルガドはスロットルを開け、飛行艇は廃墟のビルから飛び立った。そして一気に朱く染まった夕暮れの空に舞い上がった。

ドニタはどんどん小さくなる地上を眺めて、子供のように興奮していた。ただ、それをサルガドに悟られぬよう素知らぬ顔で窓を見ていた。

雲の上を進む飛行艇の前に、奇妙な光の錯乱が現れた。それは人の目ではわからなかったかもしれないが、ドニタの目には明らかに何か奇妙な屈折を起こしているのが見て取れた。同時に、サルガドは何かと交信をしていた。ドニタの耳にも交信の内容は聞こえたが、奇妙な符牒を組み合わせたその会話は、意味を汲み取ることができなかった。

交信が終わると、飛行艇は奇妙な屈折に向かって進んでいった。すると突然、視界の中に巨大な空に浮かぶ街が広がった。

「これがパンデモニウム……」

思わずドニタは呟いてしまった。廃墟と研究所を行き来する生活の中で見てきた光景とは、全く違う世界だった。本の挿絵でしか見たことのない、生きている都市。それも地上のどこよりも進歩した、黄金時代の建物が居並ぶその風景に、ドニタは釘付けになっていた。

パンデモニウムを旋回する飛行艇は、輝くアーチを掲げた建物に着陸した。陽はほぼ落ちていたが、パンデモニウムの建物は紫色に変わった空を鏡のように反射していた。

 

飛行艇を降りたドニタとサルガドは、建物内の長い廊下を歩いていた。

そこはドクターの研究所によく似た雰囲気を持っていた。しかし、その技術レベルの高さは、テクノロジー自体に詳しい訳でないドニタでも、一目でわかるほど際立っていた。

やがて二人は大きな扉の前に辿り着いた。

 

「連れて参りました」

サルガドが扉に向かって声を掛けると、向こうから女性が返事をした。

 

「ようやく来たか。遅いぞ、サルガド」

「申し訳ありません」

「後で呼ぶまで下がってよい」

「わかりました」

サルガドは扉に向かって一礼すると、

「さあ、入れ。レッドグレイヴ様がお待ちだ」

とドニタの背中を押した。

 

扉の中に入ると、部屋の中央に設置されている巨大な水槽が目に入った。

水槽の中には人間の脳が浮かんでおり、その周囲にまるで呼吸をしているかの様に、大きな泡がボコリボコリと不気味な音を立てていた。

「よく来たな、ドニタとやら」

ドニタがその異様な光景に目を奪われていると、頭上から声がした。

反射的に上を見るが、そこには幾本もの太いパイプがあるだけで、人の姿はない。

「何者だ! どこに隠れている!!」

ドニタはいつでも戦闘態勢になれるよう身構え、叫んだ。

「どこを見ている。余はここにいるではないか」

またしても声は上から聞こえる。

しかし、いくら目を凝らしても、口の開いたパイプがあるだけで他には何も無い。

だが、声がする以上はどこかにいる筈……。

「……ま、まさか!?」

そんな筈はない。

まさか、アレが生きているなんて。

そんな思いを抱きながら、ドニタは恐る恐る水槽の方を振り返る。

「そうだ。余はここにいる。残念ながら、人の姿ではないがな」

頭上から聞こえる声に合わせて、脳の周囲に泡が発生する。

その有様は、これまでどんなものに対しても恐怖を抱かなかったドニタにさえ、怖気を感じさせる光景だった。

「どうした? この姿が怖いか。そなたも本を正せばただのガラクタであろうに」

「怖くなどない。ただ、そのような姿で、まさか……」

「まさか生きているとは思わなかった、か。それもしかり。余自身でさえ、この姿で生き存えていることに疑問を感じ始めたところだ」

ボコリ

ボコリ

レッドグレイヴと名乗る脳は、楽しげとさえ聞こえる口調で語る。

「余はレッドグレイヴ。このパンデモニウムから世界の監視を務めとしている」

ボコリ

その声は、まるで幼い少女のように高く、澄んでいた。

その声を聞いているうちにドニタの動揺も収まり、代わりに疑問が次から次へと湧き上がってきた。

「お前が、あの男の主人なのか」

「まあ、そうなるであろうな」

「お前はいったい何者だ! ワタシを暗闇から救う、とは何だ。そしてワタシに手伝えと言うのは……」

「落ち着け、人形。一度に聞かれても、余の口は一つしかない。いや……一つもないか。くっくっく」

そう言って、自らの冗談でくすくすと笑う。

「ふざけるな! きちんと答えろ!」

「落ち着けと言っておろうに。一つずつ答えてやろう」

「………………」

「まず、余が何者か、という質問だ。先にも言ったように、余は監視者である。人間が再び愚行にて世界を破壊しないよう、監視をしている」

「世界を、破壊……?」

「そうだ。まあ、生まれて間もないそなたに言っても、わからないだろうがな」

「ワタシに手伝えというのは、その監視とやらなのか?」

「いや、そうではない」

レッドグレイヴはそう言って、わずかな溜息をついた。もちろんそれは音声を伝えるパイプから聞こえて初めてわかったことだが。

「一見してわかるとおり、余はこのような姿である。この部屋に備え付けられた多くの機械で生命を保っている状態だ」

「今のところ生命に別状はないが、この姿では歩くことも外界を見ることも叶わぬ。世界には喫緊に解決すべき問題が生じている。外界へ出る手段が必要なのだ」

「体が必要なわけね。 それがワタシになんの関係があるの?」

「余の体を作り出すためには、そなたの父たるドクターが持っているコデックスが必要だ。そなたの体を生み出したようにな」

「ドクターの……つまりワタシは、ドクターへコデックスを貸してくれ、と言えばいいのだな」

しかし、レッドグレイヴは小さく否定した。体があれば肩を竦めていたところだろう。

「ドクター……今はウォーケンと名乗っているそうだが、彼奴とは古い知り合いなのだ」

「しかし、こちらの正体をドクターに知られるわけにはいかん。根深い事情があってな」

「回りくどい話ね。 で、実際にどうしろというの?」

ゴボリ

レッドグレイヴの周囲に一際大きな泡が立つ。

「ドニタ。そなたに頼みたいのは、コデックスの強奪だ」

「強奪?」

「そうだ。そなたであれば、ドクター・ウォーケンからそれを奪うのも容易であろう」

「そ、そんな……そんなことはできない!」

ドニタは大きく首を振った。それは、紛れもないドクターへの裏切り行為だ。

「……それでそなたが救われるとしたら?」

ハッ、とドニタの顔が上がる。

「どういう、ことだ?」

「そなたの恐れる闇、余は克服しておる」

乳白色の脳はぴくりとも動かない。本当にこの物体が今、語っているのだろうか。

「余が力を貸せば、夜も、闇も、眠りも、もう恐れるようなことではなくなる」

ポコリ。また、ポンプが送り出す水泡の音が響く。

「迷っているな。闇への恐怖はだれにでもある。それは死への恐怖だ。誰もが皆、闇から生まれ闇に帰って行く。しかし、余は永遠の光明の中にいる者だ」

「古い叡智によって余は遙か過去からここにいる。その叡智の一部をそなたに分け与えよう」

「お前が本当にずっと生き続けているという証拠は? いま見ている水槽の物体も、声も、茶番でないと証明できるの?」

「ふふふ、信じないのは自由だ。ただ、そなたを救えるのは余だけだ」

「……」

ドニタの心は、まさに二つに割れようとしていた。

そんなドニタの様子を見て、レッドグレイヴは面白そうに笑った。

「まあ、今すぐに決めなくともよい。そなたも余も、まだ時間はたくさんある」

「………………」

「一度、ドクターの元に帰るがよい。そして、もし余の要求を呑むというのなら、また余の元へ来い」

「で、でも、そのときはどうしたら……」

「心配しなくともよい。その時が来たら、余の方から迎えに行く」

「………………」

「それでは、な。よい返事を期待しているぞ」

「—了—」