三三九四年。由於女王奧古斯塔1的驟逝,王位繼承人第一順位的亞歷山德莉安娜即位成為新女王。
亞歷山德莉安娜將所屬於奧羅爾隊的優秀戰士佛羅倫斯·布拉福特指名為護衛騎士,踏進了政治界。
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話雖如此,也不能將國家的命運完全交付給才十二歲的新女王。所以實際執政的是周圍有力的公卿,現在只單純被奉在上位而已。
儘管如此,亞歷山德莉安娜並不安於只是個魁儡,努力地向執政的公卿及貴族學習作為女王需具備的知識與能力。
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在那期間,執政的其中一位大臣,向亞歷山德莉安娜推薦設置一個諮詢職位。
「諮詢,嗎?」
「是的。雖然是我們家族的人,是一位對政治方面擁有豐富知識的女子。她的話,也與陛下年齡較近,我想會是個不錯的談話對象」
「佛羅倫斯,妳覺得呢?」
「我沒有什麼建議,請陛下就照著您的心意決定」
「……這樣啊」
佛羅倫斯不僅是名優秀的戰士,對國家的忠誠心也比其他人強。作為守護女王的護衛騎士的實力是無話可說的。但是,對於只想全心做好女王護衛騎士職務的佛羅倫斯,亞歷山德莉安娜感到稍微有些寂寞。
現在的亞歷山德莉安娜身邊沒有長年信賴或有羈絆的家臣。亞歷山德莉安娜希望有能在旁像兄弟姐妹般的人,來支持她那對小小身驅來說過大的王座。
「那麼,讓我見見她吧」
「遵命。我會帶她前來,請稍等」
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沒多久,有著白髮與白皙美貌的女性伴著大臣出現了。
「我叫諾伊庫洛姆。能見到女王陛下是我的榮幸」
「我是還不夠成熟的女王,還請多多指教」
「我將會效忠於女王陛下」
這個叫諾伊庫洛姆女性,便開始輔佐亞歷山德莉安娜。
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諾伊庫洛姆不愧是大臣自信推薦的女性,具有非常優秀的知識見解。亞歷山德莉安娜那對於一般人來說很難回答的提問,她也能透過各種立場來解釋回答,引導著女王,不讓的她政治觀點有偏差。
就這樣,不需勞煩執行政務的公卿,亞歷山德莉安娜可以學習到更多國家政務了。
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「這個字……」
在處理政務時,被簽核文件上似曾相識的筆跡吸引。
「陛下?文件有什麼問題嗎?」
亞歷山德莉安娜望著簽核文件停了下來,諾伊庫洛姆見狀覺得奇怪便問道。
「啊……抱歉,因為看到了熟悉的字跡」
「可以從字跡辨識的話,這位應該是很親近的人吧」
「艾妲……,不,現在應該要稱呼為拉克蘭卿了。在佛羅倫斯之前是由拉克蘭卿擔任我的護衛騎士」
亞歷山德莉安娜發覺很久沒有從口中提到這個名字了。提到這個懷念的名字就一邊低下頭。
直到一年前為止,艾妲都是亞歷山德莉安娜的護衛騎士。從亞歷山德莉安娜小時候就在當她的護衛,也是她很好的聊天對象總是陪在她身邊。
但是艾妲的父親拉克蘭卿突然死亡,艾妲為了繼承父親的職務而辭去了護衛騎士一職。現在聽說作為執政輔助官已經相當活躍了。
「拉克蘭卿不知道過得如何」
「那一位的話,她在同年代中以有能非常出名。現在雖然聽說為了鞏固地盤而到處奔走,但是大家都說,大概不需要十年就能看到她以國會議員身份出現了」
「這樣啊,到那時為止,我得好好讓這個國家存活下去才行。不能讓艾妲看到我丟臉的樣子」
「陛下比誰都還要用功,再過不久一定能實現的」
「如果是的話就好了……」
「陛下您要有自信心,如果您不能坦蕩蕩的話,國民也會感到不安的」
「妳說的沒錯,對不起」
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過了數個月之後,傳來了魯比歐那連合軍在托雷依德永久要塞大敗的連絡。
托雷依德永久要塞一戰中還加上了奧羅爾隊,本來認為在防衛上是完美的。所以托雷依德的敗仗,讓王宮動搖了。
從生還的佛羅倫斯與士兵的報告聽來,是古朗德利尼亞帝國使用了詭異的技術,生出死者軍隊來將托雷依德染上一片死氣。
對於『死者軍隊』這個恐怖的存在,魯比歐那害怕與他們一戰。
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因托雷依德的敗北,不得不重新編組魯比歐那王國軍。
特別是重新組出保護王宮、王族的奧羅爾隊最為當務之急。
本來讓唯一從托雷依德活著回來的佛羅倫斯·布拉福特當隊長是最妥當的,但是有個大問題。
「雖然她的確是布拉福特卿的女兒,但是她出身於少數民族,從來沒有少數民族來當過王宮的守衛隊長」
魯比歐那王國的貴族非常保守,而佛羅倫斯的出身被視為大問題。
「其他沒有人適合了,奧羅爾隊除了她全部都死了」
「而且她是陛下的護衛騎士,理當順位」
「而且還是那位執政補佐官,艾妲·拉克蘭卿的推荐」
「等下,那不就該讓拉克蘭卿歸隊嗎?」
「你打算叫回退役軍人嗎?」
「沒有其他適合的人了,她繼承拉克蘭卿的職務還沒有過多久,要叫回軍隊中的話,要趁現在」
「但是,不能無視叫回退役軍人的風險」
軍隊重編的會議中,從頭到尾都在討論要讓誰來當奧羅爾隊隊長。
亞歷山德莉安娜雖然有參與會議,但是她只能默默地聽著,什麼也做不了。
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亞歷山德莉安娜在處理政務時,也在煩惱奧羅爾隊的事。
「陛下,您的臉色不太好,您在煩惱什麼事嗎?」
「諾伊庫洛姆妳總是能看穿一切……」
「無論什麼事都請跟我說,我就是為此在您身邊的」
諾伊庫洛姆說完後,亞歷山德莉安娜就慢慢地深呼吸一下。
「……艾妲下定決心要繼承父親的職務,而我們卻要阻止她的決定,我怎麼想都是不對的」
「您打算在議會中提出反對嗎?」
「我想盡量減少犧牲。讓艾妲所選的道路不會被關閉,包含和談,不是應該思考如何盡快結束戰爭才對嗎」
「那應該是不可能的。托雷依德陷落的現在,帝國的勢力正旺。在這個狀況下,期望結束戰爭就跟連合國敗北是同樣的意思」
「沒有說服或是跟他們和談的機會嗎……」
「是的,沒有。要是敗北了,國民就得面對苦難了。陛下想讓魯比歐那連合國的一切都曝露在危險之下嗎?」
諾伊庫洛姆的語氣比平時更加嚴厲,就像在告訴亞歷山德莉安娜,必須要捨棄天真想法似地。
「陛下愛惜家臣是一種美德,但是現在請捨棄那種心。現在請只想著如何阻止帝國的野心,如何逆轉,如何取得勝利」
諾伊庫洛姆明確地說斷。就如她所說的,現在的戰況不允許大意。
既然除了艾妲以外,沒有一位是議員全員同意的人選,那就只能讓艾妲歸隊。除此之外別無他選。
「剛剛說了那些天真的話很抱歉,我得做好覺悟對吧」
亞歷山德莉安娜看著諾伊庫洛姆的眼睛點頭同意。
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「讓艾妲·拉克蘭卿回到魯比歐那王國軍奧羅爾隊吧」
隔日,會議再開的時候,亞歷山德莉安娜靜靜地宣佈。
這是新女王第一次對執政提出意見。
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回應亞歷山德莉安娜的招募,艾妲·拉克蘭確定回到奧羅爾隊。
決定好一切的三日後,舉行了新奧羅爾隊的發配儀式。一年不見的艾妲看起來,比以前更加威風凜凜。
「我會將一切奉獻於奧羅爾隊」
「我很期待奧羅爾隊的活躍」
艾妲擔任隊長,佛羅倫斯擔任副隊長的新生奧羅爾隊,奧羅爾隊有史以來最年輕的隊長及副隊長的就任,在此結成。
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就在這個瞬間。
「被扭曲的因果就此導正」
與諾伊庫洛姆說這句話的同時,周圍的空間開始歪斜起來。
亞歷山德莉安娜、艾妲、佛羅倫斯都像是時間靜止般,一動也不動。
歪斜的空間變成了白色球體,收縮到諾伊庫洛姆的掌中。
「女王陛下的選擇,非常地正確。是陛下您自己的意識,將正確的因果吸引而來的」
諾伊庫洛姆不改她扮演諮詢者時的語氣,向亞歷山德莉安娜優雅地敬了一個禮。
「那麼,陛下,等正確的因果造訪時,我會很期待與您的再會」
亞歷山德莉安娜的一切都被白色給包裹住。
那感覺,就好像是被上等的羽毛包裹住似地,溫柔舒適。
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「─完─」
「決断」
三三九四年。女王アウグステの急逝により、新女王として王位継承第一位のアレキサンドリアナが新女王に即位した。
アレキサンドリアナはオーロール隊に所属する腕利きの戦士、フロレンス・ブラフォードを護衛騎士として、政の世界へ足を踏み入れた。
とはいえ、弱冠十二歳の新女王に国の運命を全て託すことはできない。執政は周りの有力公家が行い、現在はあくまでも奉られるだけ。
それでも、アレキサンドリアナはただ奉られるだけをよしとはせず、執政を行う公家や貴族に師事し、女王として相応しい知性と力を備えようと奮闘していた。
そんな中、執政を行う大臣の一人が、アレキサンドリアナに相談役を置くことを勧めてきた。
「相談役、ですか?」
「はい。我が家系の者でございますが、特に政治的知識に秀でた女子がおります。この者であれば陛下と年齢も近く、よき話し相手にもなろうかと」
「フロレンス、どう思いますか?」
「私に助言できることは何もありません。陛下の御心のままにお決めください」
「……そう」
フロレンスは腕利きの戦士であり、国への忠誠心も人一倍強い。女王を守護する護衛騎士としての実力は申し分ない。しかし、女王の護衛騎士としての職務を全うしようとするフロレンスに、アレキサンドリアナは少しだけ物寂しさを感じていた。
今のアレキサンドリアナには長年の信頼や絆を持った家臣がいない。その身には大きすぎる玉座を、兄弟姉妹のように親身に支えてくれる者が欲しかった。
「では、その者と会ってみましょう」
「畏まりました。随伴させておりますので、しばしお待ちください」
程なくして、大臣は白髪に白皙の美貌を持つ女性を伴って現れた。
「ノイクロームと申します。女王陛下、お目にかかれて光栄です」
「女王として至らぬ私ですが、何卒よろしくお願いしますね」
「陛下に忠義を尽くします」
ノイクロームと名乗った女性は、アレキサンドリアナに傅いた。
ノイクロームは大臣が大きな自信をもって推薦した女性なだけあり、非常に優れた知見を持っていた。通常ならば返答に困るようなアレキサンドリアナの質問にも、様々な視点の解釈を交えて答え、女王の政治的観点が偏ったものにならないように導いた。
こうして、執政を行う公家の手を煩わせることなく、アレキサンドリアナは国政について更に深く学んでいくこととなった。
「この字は……」
政務の最中、見覚えのある筆跡の承認書類が目に留まった。
「陛下? 書類に何か不備でもありましたか?」
承認書類を眺めたまま手が止まっているアレキサンドリアナ。そんな彼女を不思議に思ったノイクロームが声を掛けた。
「あ……ごめんなさい、懐かしい字が見えたのです」
「文字だけで弁別されるとは。余程親しい方なのですね」
「エイダ……、いえ、今はラクラン卿と呼ばねばなりませんね。ラクラン卿はフロレンスの前に私の護衛騎士を務めていた者です」
随分と久しぶりにその名を口にした気がした。アレキサンドリアナは懐かしい名前を噛み締めながら目を伏せた。
エイダはつい一年ほど前までアレキサンドリアナの護衛騎士を務めていた人物だ。アレキサンドリアナが幼い頃から護衛として、そして良き話し相手として傍に仕えていた。
だが、エイダの父であるラクラン卿が急死したことを受け、父親の跡を継ぐために護衛騎士を辞していた。現在は執政補佐官として実務に携わっていると聞いていた。
「ラクラン卿は元気にしているでしょうか」
「あの方でしたら、同年代の中でも出世頭として有名です。今は地盤固めに奔走しておられるようですが、早ければあと十年少々で国議会員としての姿が見られるだろうと、もっぱらの噂ですよ」
「そう。私もそれまでには、きちんと国を動かせるようになっていなければなりませんね。エイダに恥ずかしい姿は見せられません」
「陛下は誰よりも勤勉でいらっしゃる。そう遠くないうちに実現できるでしょう」
「そうだとよいのですが……」
「自信をお持ちください。陛下が胸を張らなければ、国民も不安に思います」
「その通りね。ごめんなさい」
それから数ヶ月後、ルビオナ連合軍がトレイド永久要塞にて大敗を喫したとの緊急連絡が舞い込んできた。
トレイド永久要塞にはオーロール隊も戦列に加えられており、防衛体制は完璧だと考えられていた。そのトレイドでの敗報である。王宮は揺れた。
生還したフロレンスや兵士の報告によれば、グランデレニア帝國は不気味な技術を使い、死者の軍勢を生み出してトレイドを死で染め上げたのだという。
『死者の軍勢』という不気味なものの存在に、ルビオナは恐れ戦いた。
トレイドでの敗北により、ルビオナ王国軍は再編を余儀なくされた。
特に王宮、王族を守護するオーロール隊を完全な形に再編することは急務であった。
トレイドから唯一生還したフロレンス・ブラフォードを隊長に据えての再編が順当であると思われたが、ここで大きな問題が発生した。
「確かに彼女はブラフォード卿の御息女であるのは間違いない。しかしだ、彼女は少数民族の出身であり、そういった出自の者を王宮守護部隊の隊長とした前例は無い」
ルビオナ王国の貴族達は非常に保守的であった。フロレンスはその出自のみが問題視された形となった。
「他に適任はいない。オーロール隊の隊員はあの者を除いて全員が戦死したのだからな」
「陛下の護衛騎士でもあったし、順当だろう」
「あれは執政補佐官のエイダ・ラクラン卿の推薦があったればこそだ」
「いや、待て。ならばそのラクラン卿を復隊させるべきなのでは?」
「退役した者を軍に呼び戻すのか?」
「適任者がいないのだ。彼女はラクラン卿の立場を引き継いでからまだ間もない。軍へ呼び戻すのであれば今しかない」
「だが、退役軍人を復帰させることのリスクは無視できん」
軍再編の会議は、オーロール隊の隊長を誰に任せるかに終始した。
アレキサンドリアナもその会議に参加していたが、その時は黙って聞いていることしかできなかった。
アレキサンドリアナは政務の間も、オーロール隊の件について悩んでいた。
「お顔の色が優れませんね、陛下。何か悩み事がおありですか?」
「ノイクロームは何でもお見通しなのですね……」
「何なりと私にお話し下さい。私はそのためにいるのです」
ノイクロームの言葉に、アレキサンドリアナは一度ゆっくりと深呼吸する。
「……エイダは強い意思でお父上の跡を継ぐと決めました。それを我々が捻じ曲げてよいとは、到底思えません」
「議会に異議を申し立てるおつもりですか?」
「私はなるべく犠牲を少なくしたいのです。エイダの選んだ道が閉ざされぬように、講和を含めて、一刻も早い戦争の終結を望むべきではないかと考えています」
「それは無理でしょう。トレイドが陥落した今、帝國は勢いづいています。その状況で戦争の終結を望むということは、この連合国が敗北することと同義です」
「説得や講和の余地すら無いのですか……」
「はい、ございません。そして敗北することで、民は苦難を強いられることとなります。陛下はルビオナ連合国の全てをその危険に曝せるのですか?」
いつに無く彼女の口調は厳しいものだった。甘い考えは捨てるべき、そのような心情が言葉の端々から窺える。
「陛下の家臣を思い遣るそのお心は美徳です。ですが、今はお捨てになるべきです。今は帝國の野望を食い止め、如何にして逆転し、勝利するか。それらを考えるべき時だと存じます」
ノイクロームは言い切った。彼女の言う通り、今の戦況に予断は許されない。
議会に反発されない者がエイダ以外にいないのであれば、彼女を軍へ復帰させるしかない。それしか道はないのである。
「甘えたことを言ってごめんなさい。私も覚悟を決めなければなりませんでした」
アレキサンドリアナは、ノイクロームの目を見つめて頷いた。
「エイダ・ラクラン卿をルビオナ王国軍オーロール隊へ復隊させましょう」
翌日、再度開かれた再編会議で、アレキサンドリアナは静かにそう告げた。
新女王が執政へ意見したのは、これが初めてであった。
アレキサンドリアナの招聘により、エイダ・ラクランのオーロール隊への復帰が確定した。
全てが決定したその三日後、新生オーロール隊の配属式が執り行われた。一年ぶりに見たエイダの姿は、以前にも増して凛々しく見えた。
「この身の全てを捧げる所存です」
「オーロール隊の活躍を、期待しています」
エイダを隊長、フロレンスを副隊長とした新生オーロール隊は、長い隊史上最も若い隊長と副隊長の就任をもって、ここに結成された。
その瞬間だった。
「ここに、因果の歪みは正された」
ノイクロームの声と共に、周囲の空間が歪んでいく。
アレキサンドリアナも、エイダも、フロレンスも、時が止まったかのように動かない。
歪んだ空間は、ノイクロームの掌に白い球体となって収束していく。
「女王陛下の選択、お見事でした。陛下の意思が正しき因果を手繰り寄せたのです」
ノイクロームは芝居がかった口調で、アレキサンドリアナに向かい優雅に一礼する。
「では、陛下。いずれ訪れる正しき因果での再会を楽しみにしております」
アレキサンドリアナの全てが白く包まれる。
それはどこか、上等な羽毛に包まれるかのような、優しい柔らかさがあった。
「―了―」
三三九四年。女王アウグステの急逝により、新女王として王位継承第一位のアレキサンドリアナが新女王に即位した。
アレキサンドリアナはオーロール隊に所属する腕利きの戦士、フロレンス・ブラフォードを護衛騎士として、政の世界へ足を踏み入れた。
とはいえ、弱冠十二歳の新女王に国の運命を全て託すことはできない。執政は周りの有力公家が行い、現在はあくまでも奉られるだけ。
それでも、アレキサンドリアナはただ奉られるだけをよしとはせず、執政を行う公家や貴族に師事し、女王として相応しい知性と力を備えようと奮闘していた。
そんな中、執政を行う大臣の一人が、アレキサンドリアナに相談役を置くことを勧めてきた。
「相談役、ですか?」
「はい。我が家系の者でございますが、特に政治的知識に秀でた女子がおります。この者であれば陛下と年齢も近く、よき話し相手にもなろうかと」
「フロレンス、どう思いますか?」
「私に助言できることは何もありません。陛下の御心のままにお決めください」
「……そう」
フロレンスは腕利きの戦士であり、国への忠誠心も人一倍強い。女王を守護する護衛騎士としての実力は申し分ない。しかし、女王の護衛騎士としての職務を全うしようとするフロレンスに、アレキサンドリアナは少しだけ物寂しさを感じていた。
今のアレキサンドリアナには長年の信頼や絆を持った家臣がいない。その身には大きすぎる玉座を、兄弟姉妹のように親身に支えてくれる者が欲しかった。
「では、その者と会ってみましょう」
「畏まりました。随伴させておりますので、しばしお待ちください」
程なくして、大臣は白髪に白皙の美貌を持つ女性を伴って現れた。
「ノイクロームと申します。女王陛下、お目にかかれて光栄です」
「女王として至らぬ私ですが、何卒よろしくお願いしますね」
「陛下に忠義を尽くします」
ノイクロームと名乗った女性は、アレキサンドリアナに傅いた。
ノイクロームは大臣が大きな自信をもって推薦した女性なだけあり、非常に優れた知見を持っていた。通常ならば返答に困るようなアレキサンドリアナの質問にも、様々な視点の解釈を交えて答え、女王の政治的観点が偏ったものにならないように導いた。
こうして、執政を行う公家の手を煩わせることなく、アレキサンドリアナは国政について更に深く学んでいくこととなった。
「この字は……」
政務の最中、見覚えのある筆跡の承認書類が目に留まった。
「陛下? 書類に何か不備でもありましたか?」
承認書類を眺めたまま手が止まっているアレキサンドリアナ。そんな彼女を不思議に思ったノイクロームが声を掛けた。
「あ……ごめんなさい、懐かしい字が見えたのです」
「文字だけで弁別されるとは。余程親しい方なのですね」
「エイダ……、いえ、今はラクラン卿と呼ばねばなりませんね。ラクラン卿はフロレンスの前に私の護衛騎士を務めていた者です」
随分と久しぶりにその名を口にした気がした。アレキサンドリアナは懐かしい名前を噛み締めながら目を伏せた。
エイダはつい一年ほど前までアレキサンドリアナの護衛騎士を務めていた人物だ。アレキサンドリアナが幼い頃から護衛として、そして良き話し相手として傍に仕えていた。
だが、エイダの父であるラクラン卿が急死したことを受け、父親の跡を継ぐために護衛騎士を辞していた。現在は執政補佐官として実務に携わっていると聞いていた。
「ラクラン卿は元気にしているでしょうか」
「あの方でしたら、同年代の中でも出世頭として有名です。今は地盤固めに奔走しておられるようですが、早ければあと十年少々で国議会員としての姿が見られるだろうと、もっぱらの噂ですよ」
「そう。私もそれまでには、きちんと国を動かせるようになっていなければなりませんね。エイダに恥ずかしい姿は見せられません」
「陛下は誰よりも勤勉でいらっしゃる。そう遠くないうちに実現できるでしょう」
「そうだとよいのですが……」
「自信をお持ちください。陛下が胸を張らなければ、国民も不安に思います」
「その通りね。ごめんなさい」
それから数ヶ月後、ルビオナ連合軍がトレイド永久要塞にて大敗を喫したとの緊急連絡が舞い込んできた。
トレイド永久要塞にはオーロール隊も戦列に加えられており、防衛体制は完璧だと考えられていた。そのトレイドでの敗報である。王宮は揺れた。
生還したフロレンスや兵士の報告によれば、グランデレニア帝國は不気味な技術を使い、死者の軍勢を生み出してトレイドを死で染め上げたのだという。
『死者の軍勢』という不気味なものの存在に、ルビオナは恐れ戦いた。
トレイドでの敗北により、ルビオナ王国軍は再編を余儀なくされた。
特に王宮、王族を守護するオーロール隊を完全な形に再編することは急務であった。
トレイドから唯一生還したフロレンス・ブラフォードを隊長に据えての再編が順当であると思われたが、ここで大きな問題が発生した。
「確かに彼女はブラフォード卿の御息女であるのは間違いない。しかしだ、彼女は少数民族の出身であり、そういった出自の者を王宮守護部隊の隊長とした前例は無い」
ルビオナ王国の貴族達は非常に保守的であった。フロレンスはその出自のみが問題視された形となった。
「他に適任はいない。オーロール隊の隊員はあの者を除いて全員が戦死したのだからな」
「陛下の護衛騎士でもあったし、順当だろう」
「あれは執政補佐官のエイダ・ラクラン卿の推薦があったればこそだ」
「いや、待て。ならばそのラクラン卿を復隊させるべきなのでは?」
「退役した者を軍に呼び戻すのか?」
「適任者がいないのだ。彼女はラクラン卿の立場を引き継いでからまだ間もない。軍へ呼び戻すのであれば今しかない」
「だが、退役軍人を復帰させることのリスクは無視できん」
軍再編の会議は、オーロール隊の隊長を誰に任せるかに終始した。
アレキサンドリアナもその会議に参加していたが、その時は黙って聞いていることしかできなかった。
アレキサンドリアナは政務の間も、オーロール隊の件について悩んでいた。
「お顔の色が優れませんね、陛下。何か悩み事がおありですか?」
「ノイクロームは何でもお見通しなのですね……」
「何なりと私にお話し下さい。私はそのためにいるのです」
ノイクロームの言葉に、アレキサンドリアナは一度ゆっくりと深呼吸する。
「……エイダは強い意思でお父上の跡を継ぐと決めました。それを我々が捻じ曲げてよいとは、到底思えません」
「議会に異議を申し立てるおつもりですか?」
「私はなるべく犠牲を少なくしたいのです。エイダの選んだ道が閉ざされぬように、講和を含めて、一刻も早い戦争の終結を望むべきではないかと考えています」
「それは無理でしょう。トレイドが陥落した今、帝國は勢いづいています。その状況で戦争の終結を望むということは、この連合国が敗北することと同義です」
「説得や講和の余地すら無いのですか……」
「はい、ございません。そして敗北することで、民は苦難を強いられることとなります。陛下はルビオナ連合国の全てをその危険に曝せるのですか?」
いつに無く彼女の口調は厳しいものだった。甘い考えは捨てるべき、そのような心情が言葉の端々から窺える。
「陛下の家臣を思い遣るそのお心は美徳です。ですが、今はお捨てになるべきです。今は帝國の野望を食い止め、如何にして逆転し、勝利するか。それらを考えるべき時だと存じます」
ノイクロームは言い切った。彼女の言う通り、今の戦況に予断は許されない。
議会に反発されない者がエイダ以外にいないのであれば、彼女を軍へ復帰させるしかない。それしか道はないのである。
「甘えたことを言ってごめんなさい。私も覚悟を決めなければなりませんでした」
アレキサンドリアナは、ノイクロームの目を見つめて頷いた。
「エイダ・ラクラン卿をルビオナ王国軍オーロール隊へ復隊させましょう」
翌日、再度開かれた再編会議で、アレキサンドリアナは静かにそう告げた。
新女王が執政へ意見したのは、これが初めてであった。
アレキサンドリアナの招聘により、エイダ・ラクランのオーロール隊への復帰が確定した。
全てが決定したその三日後、新生オーロール隊の配属式が執り行われた。一年ぶりに見たエイダの姿は、以前にも増して凛々しく見えた。
「この身の全てを捧げる所存です」
「オーロール隊の活躍を、期待しています」
エイダを隊長、フロレンスを副隊長とした新生オーロール隊は、長い隊史上最も若い隊長と副隊長の就任をもって、ここに結成された。
その瞬間だった。
「ここに、因果の歪みは正された」
ノイクロームの声と共に、周囲の空間が歪んでいく。
アレキサンドリアナも、エイダも、フロレンスも、時が止まったかのように動かない。
歪んだ空間は、ノイクロームの掌に白い球体となって収束していく。
「女王陛下の選択、お見事でした。陛下の意思が正しき因果を手繰り寄せたのです」
ノイクロームは芝居がかった口調で、アレキサンドリアナに向かい優雅に一礼する。
「では、陛下。いずれ訪れる正しき因果での再会を楽しみにしております」
アレキサンドリアナの全てが白く包まれる。
それはどこか、上等な羽毛に包まれるかのような、優しい柔らかさがあった。
「―了―」
- R1艾妲中譯為奧古斯特。 ↩