拿著巨大鎌刀的多妮妲身後,數頭野獸一聲不響地倒了下來。
「這隻就是最後了吧」
多妮妲沒有回頭確認,只是口中喃喃自語地說著。
她的臉上沒有勝利的喜悅,更沒有對自己的強大感到自豪的神情。像這樣打倒在這附近的荒野上漫走的野獸,對她來說根本毫無負擔。
「真是費事。這些傢伙就只有數量多……」
在這樣說著的多妮妲身旁,有個自動人偶一言不發地站著。
站在一旁的另一個的自動人偶,以緩慢地動作將自己的劍收起來。
「你啊,在這種時刻好像多少還派得上用場嘛。不過,要是你能以自己的判斷來行動就更好了」
對於多妮妲有些抱怨的言辭,自動人偶──被博士稱為「原型」──依舊一動也不動。對於不是命令的字句,這個自動人偶是不會有反應的。
「沒有反應。真是個無聊的傢伙,我們走啦」
多妮妲這樣說完,就在原型的前頭走了出去。
目標是前方聳立著的巨大建築物。
曝曬在風雨之下,半崩壞的這個建築物,乍看之下就像是一頭巨大的野獸一般。中央空空如也的大洞,就像是那野獸的嘴巴似的。
看到這外觀的人都會本能性的感到恐懼,但多妮妲絲毫沒有那樣的感覺,就好像是要出門散步似地往建築物裡面走進去。
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──多妮妲所踏入的地方,是過去研究混沌元素的設施廢墟。在地上,四處都存在這像這樣暮光時代1的廢墟。多妮妲奉著沃肯博士的命令,來這裡找尋某樣東西。
進入建築物後,是一片很大的廣場。有點昏暗,微微聞得到鏽蝕味和腐臭水的味道。看來就算是暮光時代的高等級技術所建造的建築物,似乎也是沒辦法完全抵擋隨著時間的崩壞。
「東西到底會在哪裡呢。我想應該會是收藏在深處吧……」
多妮妲轉頭環視著這片廣場。正面有通往深處的通路,右手邊有下樓的樓梯。左手邊雖然有像是上樓的樓梯,不過已經崩壞沒辦法使用的樣子。
雖然稍微對眼前的狀況感到猶豫,不過多妮妲還是下定了決心,快步的往正面的通路走去。原型一邊發出些微金屬摩擦聲一邊跟著向前進。
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進入通路的多妮妲,仔細的將所有地方都一一調查。但是,過去曾有很多研究員駐在的建築物,要2個人做徹底搜索的話,實在是太過巨大了。
一開始抱持著樂觀心態,覺得應該很快就會找到的多妮妲,也隨著時間無謂的流逝,漸漸的開始對搜索感到焦躁。
「一個線索也沒有……。這裡也沒有啊」
搜索完已經數不清的房間之後,多妮妲深深的嘆了一口氣。這是一個完全不像自動人偶會有的,非常富有人性的表情。
從間隙裡照進來的陽光變得很微薄,建築物的內部已經被黑暗佔領了。
「已經這個時間了啊」
對於身為自動人偶的多妮妲而言,黑暗並不會妨礙到搜尋。她眼睛的設計構造遠比普通人類的眼睛來的高性能。
但是,沃肯博士有叮囑說『每過一段時間一定要休息』。而且如果2天之內沒有找到的話,就一定要先回博士的研究所。
「可是……這樣的話搜索就會失敗了啊」
要是就這樣休息的話,就沒辦法在巨大的建築物內搜索。要是變成那樣的話……就又要再回去那個黑暗裡。
「……沒關係。我不需要休息。我還能繼續搜索下去的」
多妮妲咬著嘴唇,堅決的說出自己的決定。
然後她將頭大大轉過,對佇立在旁邊的原型說。
「好了,走吧!木頭人偶」
多妮妲與像是被彈開般動起來的原型,一起走向下一個房間。
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在太陽升了起來,然後接著又再變暗的時候。
在沒有休息持續搜索,佈滿塵埃和鏽的多妮妲的臉上,總算出現了明亮的表情。
「這,這個……這個也許就是了」
在崩壞遺跡的最底層。在混濁積水高達膝蓋的房間裡,多妮妲手裡拿著一個盒子。
多妮妲在找的東西──那是被稱作為法典的東西,記載著過去失落科技的知識之塊。
法典,雖然被稱之為抄本,但有各式各樣的形式,像是記憶晶片或是錄音器,有時候也有以口耳相傳的方式來記錄。而創造出多妮妲的,當然也是記載在法典上的知識。
多妮妲找到的箱子裡面,有著形狀複雜的機械零件。不受長時間浸泡污水的影響,它的表面看不到任何的生鏽或是受損。
「這樣就可以抬頭挺胸的回去博士那邊了!」
這樣就可以證明自己並不是派不上用場的東西了。
「我辦到了!辦到了啊!」
多妮妲歡喜的大聲呼喊。聲音於積滿污水的房間中回響著,最終就消融在黑暗之中。
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從建築物出來的時候,已經完全日落了。
從行動開始已經過了好幾天了,但是多妮妲一點沒感覺到有疲勞。
「果然,我不用睡覺也無所謂嘛!」
這樣想之後,一股像是心裡的那片黑暗被光芒給照耀般的感覺油然而生。
在多妮妲浮出喜悅笑容時的眼裡,突然映入進遺跡之前所打倒的野獸屍骸。
那些野獸現在已經沒有意識,也無法靠自己的意志行動,就只是個肉塊。
那是和多妮妲懸殊的存在,看著這樣的存在,多妮妲的心中又多加了一層喜悅。
「喂,木偶小子。別磨磨蹭蹭的,走啦!」
對。
我和這個木偶人形,還有無法再發出聲音的肉塊是不一樣的。
我以自己的意志,決定自己的行動,是完美的存在呀。
「啦啦─啦啦啦─」
多妮妲一邊哼著歌,一邊以歡欣的步伐,離開了崩壞的遺跡。
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「很可惜,這個並不是法典啊」
從搜索回來的多妮妲,聽到的並不是讚賞的言語。
「啊,怎麼可能……」
「的確,這個應該是用高等級技術製成的沒錯」
博士這樣說著,從箱子裡拿出零件看著它。
「但是我想要的東西,並不是用遺失的技術作成的機械,而是技術本身」
「……我」
看到多妮妲聲音消沉,非常灰心的樣子,博士慌張地接著說。
「不過,這個零件本身也是非常珍貴的東西。研究一下的話也多少可以查明一些技術吧」
然後,用手輕拍多妮妲的頭。
「妳做的很好,多妮妲」
如果這是多妮妲剛回來就聽到的話語,那多妮妲應該會很開心的。
又或者,多妮妲是愚昧沒有自己意志的人偶的話。
但是,多妮妲聽得出來博士說的是謊言。安慰的言語,這反而傷害到了多妮妲的自尊。
「……真的非常抱歉」
這樣下去的話,我會變成沒有用的東西。
「博士,讓我再去一次……」
想再去搜索一次。這樣的話,一定就能讓博士看見更好的成果。
但是,博士微笑著搖搖頭。
「多妮妲,先休息一下吧。對你而言,休息是必要的」
「又要……睡覺嗎?」
「是的。長時間的搜索妳應該也累了吧」
「不會,我一點都不累!搜索的時候也一直都……」
睡覺好可怕,一切都被黑暗籠罩,多妮妲害怕那樣的感覺。
瞬間,那個無聲野獸屍骸的樣子浮現在多妮妲的腦海裡。厭惡及恐怖。
「多妮妲,妳是個好孩子。乖乖休息吧」
但是,不顧一臉不願的多妮妲,博士的手伸向開關。
「我已經不想再睡覺……」
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就在那她要說出自己意見的瞬間,多妮妲的意識就啪喳地切掉了。
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在那之後,多妮妲多次搜索了地上遺跡。
但就是找不到法典。
「那並不是那麼容易就能找到的東西」
每一次搜索失敗回來後,博士就會給多妮妲安慰的微笑。
可是,對多妮妲而言,那並沒有任何安慰的效果。
因為,在那之後一定會被逼著睡覺。
睡眠對於多妮妲而言和死亡沒兩樣。
不知不覺間多妮妲變成深信著,這是因為自己搜索失敗而被賜予的死亡懲罰。
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然後,在多妮妲多次體驗死亡之後。
那個男人在搜索完遺跡的多妮妲面前出現。
「你就是叫多妮妲的人偶吧」
「……你是誰」
「我啊,是要來救你的人」
「救我?」
「沒錯。可以把你從黑暗中給拯救出來。不過條件是如果你願意協助我們的話」
「從黑暗中……」
說些什麼愚蠢的話。
本來打算就這樣一笑置之。
可是,這個男人的言語裡,有著什麼吸引著多妮妲。
「………………」
「要怎麼做?就看你的決定了」
「……我就聽你說吧」
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「─完─」
3378年 「コデックス」
巨大な鎌を構えたドニタの後ろで、数体の獣が音もなく崩れ落ちた。
「これで最後ね」
その様子を確認することなく、ドニタは口の中で呟いた。
その表情には勝利の喜びも、自身の強さへの誇りも見えない。この辺りの荒野をうろつく獣を倒すことなど、彼女には他愛もないことだった。
「手間ばかり掛かるわ。数だけはたくさんいて……」
そう言うドニタの傍らには、物言わぬ自動人形が立っていた。
自動人形は、ゆっくりとした動作で自分の剣を納めた。
「あなたも、こういう時なら少しは役に立つみたいね。これで、自分で判断して動いてくれるともっと良いのだけれど」
少し非難めいたドニタの言葉にも、自動人形——ドクターは「プロトタイプ」と呼んでいた——はぴくりとも動かなかった。命令ではない言葉に、この自動人形が反応することは無い。
「反応なし、と。ほんと、つまらない奴ね。行くわよ」
ドニタはそう言うと、プロトタイプの先に立って歩き出した。
目指す先には巨大な建物がそびえ立っていた。
風雨に曝されて半ば崩れかけているその建物は、見ようによっては巨大なモンスターのようだった。その中央にぽっかりと空いている穴は、言わばモンスターの口といったところか。
その外見は見る者に本能的な恐怖を抱かせるものだったが、ドニタはそんなことを感じる様子もなく、まるで散歩にでも出掛けるように建物に入っていった。
ドニタが足を踏み入れたのは、かつてケイオシウムを研究していた施設の成れの果てだ。地上にはこうしたトワイライト・エイジの廃墟が点在していた。ドニタはドクター・ウォーケンの命令により、ここで“ある物”を探していた。
建物に入ると、そこは大きな広場になっていた。薄暗く、微かにサビと腐った水の臭いがした。トワイライト・エイジの高度な技術によって作られたこの建物も、時間による腐食を完全に止めることはできなかったようだ。
「アレはいったいどこかしら。おそらく奥に仕舞われているのだろうけど……」
ドニタは首をくるっと回転させて広場を見回した。正面には奥に続く通路があり、右手には下へ降りる階段がある。左手には上りの階段があったようだが、崩れ落ちて登ることはできなさそうだ。
その光景を暫く眺めていたが、やがて心を決めたのか、ドニタはスタスタと正面の通路に向かって歩き出した。プロトタイプがその後を、僅かな軋み音を立てながら追い掛けていった。
通路に入ったドニタは、見掛けた所を端から調査していった。しかし、多くの研究員を抱えていたであろうこの建物は、二人で探索するにはあまりにも巨大だった。
最初は、すぐに見つけることができるだろう、と楽観的に考えていたドニタも、時間が無為に過ぎていく探索にだんだんと焦りを覚え始めていた。
「手掛かり一つなし……。ここには無いのかな」
もういくつ目になるのかわからない部屋の探索を終えて、ドニタは深く溜息をついた。その表情はとても自動人形とは思えない、人間くさいものだった。
隙間から差し込んでいた陽の光はすでに薄れ、建物の中は暗闇が支配している。
「もうこんな時間」
自動人形であるドニタにとって、暗闇は探索の妨げにならない。彼女の目は通常の人間よりも遙かに高性能な作りとなっていた。
だがドクター・ウォーケンからは『一定期間ごとに必ず休息を取るように』と言われていた。さらに、二日間で発見できなかった場合には、ドクターの研究所に帰投することも。
「でも……それじゃあ探索は失敗してしまうわ」
休んでいたのでは、これだけ広い建物を探索することはできない。もしそうなったら……また、あの暗闇に帰らなくてはいけなくなる。
「……大丈夫。ワタシには休息など必要無い。このまま探索を続けられるわ」
ドニタは噛みしめた唇から決意の言葉を押し出した。
そして一度大きく頭を回転させると、傍らに佇むプロトタイプに声を掛けた。
「ほら、行くわよ木偶人形!」
弾かれたように動き出したプロトタイプと共に、ドニタは次の部屋へと足を向けた。
やがて陽が昇り、そしてその光が再び陰る頃。
休むことなく探索を続けて埃とサビにまみれたドニタの顔に、ようやく明るい表情が浮かんだ。
「こ、これが……そうかもしれない」
朽ち果てた遺跡の最下層。濁った水が膝の高さまで溜まった部屋で、ドニタは一つの箱を手に取った。
ドニタが探していたモノ——それはコデックスと呼ばれる、失われた過去のテクノロジーが記された知識の塊。
コデックス、つまり写本と呼ばれてはいるが、その形は様々で、メモリーチップや音声レコード、時には人間の口伝という形で残っているものもある。他ならぬドニタがこの世に生み出されたのも、まさにコデックスに記載された知識からであった。
ドニタが見つけた箱の中には、複雑な形をした機械のパーツが入っていた。長い間汚水に浸っていたにもかかわらず、その表面にはサビも傷も見受けられなかった。
「これで、胸を張ってドクターのところに帰れるわ!」
自分が役立たずではない、ということが証明できるのだ。
「やった! やったわ!」
ドニタは喜びのあまり大きな声を上げた。その声は濁った水が溜まった部屋の中で反響し、やがて闇の中へと溶けていった。
建物から出ると、もう完全に陽は落ちていた。
すでに活動を始めてから数日が経過していたが、ドニタは疲労を感じていなかった。
「やっぱり、眠らなくてもワタシは平気なんだわ」
そう考えると、心の中の暗闇が光で照らされたような、そんな感覚が湧き上がってきた。
喜びの笑みを浮かべるドニタの目に、遺跡に入る前に倒した獣の死骸が飛び込んできた。
今はもう意識を持たず、自らの意志で動くこともない、ただの肉塊。
それはドニタから懸け離れた存在で、そうした存在を見ることで、ドニタは一層喜びを覚えるのだった。
「ほら、この木偶の坊。ぐずぐずしないで行くわよ」
そう。
ワタシはこんな木偶人形や、まして物言わぬ肉塊とは違う。
自らの意志で、自らの行動を決める、完全な存在なんだ。
「ららー♪ らららー♪」
ドニタは鼻歌を歌いながら、今にも踊り出しそうな足取りで、朽ち果てた遺跡を後にした。
「残念ながら、これはコデックスではないな」
探索から帰ったドニタに掛けられたのは、賞賛の言葉ではなかった。
「えっ、そんなはずは……」
「確かに、これはかなり高度な技術で作られているようだ」
そう言って、ドクターは箱の中にあったパーツを取り出して眺めた。
「しかし私が欲しかったのは、失われた技術によって作られた機械ではなく、技術そのものなのだ」
「……ワタシは」
ドニタの声が沈み、肩を落としたのを見て、ドクターが慌てたように声を掛ける。
「いや、このパーツ自体とても貴重なモノだ。研究すれば幾分かの技術も判明するだろう」
そしてドニタの頭に、ぽん、と手を置いた。
「良くやってくれたね、ドニタ」
それが帰ってきてすぐに掛けられた言葉であれば、ドニタは喜んだであろう。
もしくは、ドニタが愚かで、自分の意志を持たぬ人形であったならば。
しかし、ドニタにはドクターの言葉が偽りであることがわかっていた。慰めの言葉を掛けられたことが、却ってドニタの誇りを傷付けた。
「……申し訳ありませんでした」
このままでは役立たずになってしまう。
「ドクター、ワタシをもう一度……」
もう一度探索に行かせてほしい。そうすれば、きっと成果を上げてみせる!
しかし、ドクターは笑顔のまま首を横に振った。
「ドニタ、少し休みなさい。君には休息が必要だ」
「また……眠るの?」
「そうだ。長い間探索をして疲れただろう」
「いやっ、ワタシは疲れてない! 探索中もずっと……」
眠るのが怖かった。全てが暗闇に包まれる、その感覚が恐ろしかった。
一瞬、あの物言わぬ獣の死骸の姿がドニタの脳裏に浮かんだ。嫌悪と恐怖。
「ドニタ、良い子だから。ゆっくりお休み」
嫌がって身悶えるドニタに構わず、ドクターの手がスイッチに伸びた。
「ワタシはもう、眠るのはいや……」
そう呟きが漏れた瞬間、ドニタの意識はぷつん、と切れた。
それから、ドニタは幾度となく地上の遺跡を探索した。
しかしコデックスは見つからなかった。
「そんなに簡単に見つかるものではないよ」
探索に失敗して帰る度に、ドクターはドニタを慰めるように笑った。
だが、それはドニタにとって何の慰めにもならなかった。
何故なら、その後は必ず眠らされていたからだ。
睡眠はドニタにとって死と同じ。
自分が探索に失敗するから罰として死が与えられるのだ、と、いつしかドニタはそう思い込むようになっていた。
そして、ドニタがさらに幾度かの死を体験した後。
その男は遺跡の探索を終えたドニタの前に現れた。
「あんたがドニタという人形か」
「……お前は誰だ」
「俺はお前を救う者だ」
「救う?」
「そう。お前を暗闇から救ってやろう。俺達に協力してくれるのなら、という条件付きだがな」
「暗闇から……」
何を馬鹿なことを言っている。
そう笑い飛ばそうとした。
しかしその男の言葉には、ドニタを惹きつける何かが籠もっていた。
「………………」
「どうする? お前次第だ」
「……話を聞くわ」
「—了—」
巨大な鎌を構えたドニタの後ろで、数体の獣が音もなく崩れ落ちた。
「これで最後ね」
その様子を確認することなく、ドニタは口の中で呟いた。
その表情には勝利の喜びも、自身の強さへの誇りも見えない。この辺りの荒野をうろつく獣を倒すことなど、彼女には他愛もないことだった。
「手間ばかり掛かるわ。数だけはたくさんいて……」
そう言うドニタの傍らには、物言わぬ自動人形が立っていた。
自動人形は、ゆっくりとした動作で自分の剣を納めた。
「あなたも、こういう時なら少しは役に立つみたいね。これで、自分で判断して動いてくれるともっと良いのだけれど」
少し非難めいたドニタの言葉にも、自動人形——ドクターは「プロトタイプ」と呼んでいた——はぴくりとも動かなかった。命令ではない言葉に、この自動人形が反応することは無い。
「反応なし、と。ほんと、つまらない奴ね。行くわよ」
ドニタはそう言うと、プロトタイプの先に立って歩き出した。
目指す先には巨大な建物がそびえ立っていた。
風雨に曝されて半ば崩れかけているその建物は、見ようによっては巨大なモンスターのようだった。その中央にぽっかりと空いている穴は、言わばモンスターの口といったところか。
その外見は見る者に本能的な恐怖を抱かせるものだったが、ドニタはそんなことを感じる様子もなく、まるで散歩にでも出掛けるように建物に入っていった。
ドニタが足を踏み入れたのは、かつてケイオシウムを研究していた施設の成れの果てだ。地上にはこうしたトワイライト・エイジの廃墟が点在していた。ドニタはドクター・ウォーケンの命令により、ここで“ある物”を探していた。
建物に入ると、そこは大きな広場になっていた。薄暗く、微かにサビと腐った水の臭いがした。トワイライト・エイジの高度な技術によって作られたこの建物も、時間による腐食を完全に止めることはできなかったようだ。
「アレはいったいどこかしら。おそらく奥に仕舞われているのだろうけど……」
ドニタは首をくるっと回転させて広場を見回した。正面には奥に続く通路があり、右手には下へ降りる階段がある。左手には上りの階段があったようだが、崩れ落ちて登ることはできなさそうだ。
その光景を暫く眺めていたが、やがて心を決めたのか、ドニタはスタスタと正面の通路に向かって歩き出した。プロトタイプがその後を、僅かな軋み音を立てながら追い掛けていった。
通路に入ったドニタは、見掛けた所を端から調査していった。しかし、多くの研究員を抱えていたであろうこの建物は、二人で探索するにはあまりにも巨大だった。
最初は、すぐに見つけることができるだろう、と楽観的に考えていたドニタも、時間が無為に過ぎていく探索にだんだんと焦りを覚え始めていた。
「手掛かり一つなし……。ここには無いのかな」
もういくつ目になるのかわからない部屋の探索を終えて、ドニタは深く溜息をついた。その表情はとても自動人形とは思えない、人間くさいものだった。
隙間から差し込んでいた陽の光はすでに薄れ、建物の中は暗闇が支配している。
「もうこんな時間」
自動人形であるドニタにとって、暗闇は探索の妨げにならない。彼女の目は通常の人間よりも遙かに高性能な作りとなっていた。
だがドクター・ウォーケンからは『一定期間ごとに必ず休息を取るように』と言われていた。さらに、二日間で発見できなかった場合には、ドクターの研究所に帰投することも。
「でも……それじゃあ探索は失敗してしまうわ」
休んでいたのでは、これだけ広い建物を探索することはできない。もしそうなったら……また、あの暗闇に帰らなくてはいけなくなる。
「……大丈夫。ワタシには休息など必要無い。このまま探索を続けられるわ」
ドニタは噛みしめた唇から決意の言葉を押し出した。
そして一度大きく頭を回転させると、傍らに佇むプロトタイプに声を掛けた。
「ほら、行くわよ木偶人形!」
弾かれたように動き出したプロトタイプと共に、ドニタは次の部屋へと足を向けた。
やがて陽が昇り、そしてその光が再び陰る頃。
休むことなく探索を続けて埃とサビにまみれたドニタの顔に、ようやく明るい表情が浮かんだ。
「こ、これが……そうかもしれない」
朽ち果てた遺跡の最下層。濁った水が膝の高さまで溜まった部屋で、ドニタは一つの箱を手に取った。
ドニタが探していたモノ——それはコデックスと呼ばれる、失われた過去のテクノロジーが記された知識の塊。
コデックス、つまり写本と呼ばれてはいるが、その形は様々で、メモリーチップや音声レコード、時には人間の口伝という形で残っているものもある。他ならぬドニタがこの世に生み出されたのも、まさにコデックスに記載された知識からであった。
ドニタが見つけた箱の中には、複雑な形をした機械のパーツが入っていた。長い間汚水に浸っていたにもかかわらず、その表面にはサビも傷も見受けられなかった。
「これで、胸を張ってドクターのところに帰れるわ!」
自分が役立たずではない、ということが証明できるのだ。
「やった! やったわ!」
ドニタは喜びのあまり大きな声を上げた。その声は濁った水が溜まった部屋の中で反響し、やがて闇の中へと溶けていった。
建物から出ると、もう完全に陽は落ちていた。
すでに活動を始めてから数日が経過していたが、ドニタは疲労を感じていなかった。
「やっぱり、眠らなくてもワタシは平気なんだわ」
そう考えると、心の中の暗闇が光で照らされたような、そんな感覚が湧き上がってきた。
喜びの笑みを浮かべるドニタの目に、遺跡に入る前に倒した獣の死骸が飛び込んできた。
今はもう意識を持たず、自らの意志で動くこともない、ただの肉塊。
それはドニタから懸け離れた存在で、そうした存在を見ることで、ドニタは一層喜びを覚えるのだった。
「ほら、この木偶の坊。ぐずぐずしないで行くわよ」
そう。
ワタシはこんな木偶人形や、まして物言わぬ肉塊とは違う。
自らの意志で、自らの行動を決める、完全な存在なんだ。
「ららー♪ らららー♪」
ドニタは鼻歌を歌いながら、今にも踊り出しそうな足取りで、朽ち果てた遺跡を後にした。
「残念ながら、これはコデックスではないな」
探索から帰ったドニタに掛けられたのは、賞賛の言葉ではなかった。
「えっ、そんなはずは……」
「確かに、これはかなり高度な技術で作られているようだ」
そう言って、ドクターは箱の中にあったパーツを取り出して眺めた。
「しかし私が欲しかったのは、失われた技術によって作られた機械ではなく、技術そのものなのだ」
「……ワタシは」
ドニタの声が沈み、肩を落としたのを見て、ドクターが慌てたように声を掛ける。
「いや、このパーツ自体とても貴重なモノだ。研究すれば幾分かの技術も判明するだろう」
そしてドニタの頭に、ぽん、と手を置いた。
「良くやってくれたね、ドニタ」
それが帰ってきてすぐに掛けられた言葉であれば、ドニタは喜んだであろう。
もしくは、ドニタが愚かで、自分の意志を持たぬ人形であったならば。
しかし、ドニタにはドクターの言葉が偽りであることがわかっていた。慰めの言葉を掛けられたことが、却ってドニタの誇りを傷付けた。
「……申し訳ありませんでした」
このままでは役立たずになってしまう。
「ドクター、ワタシをもう一度……」
もう一度探索に行かせてほしい。そうすれば、きっと成果を上げてみせる!
しかし、ドクターは笑顔のまま首を横に振った。
「ドニタ、少し休みなさい。君には休息が必要だ」
「また……眠るの?」
「そうだ。長い間探索をして疲れただろう」
「いやっ、ワタシは疲れてない! 探索中もずっと……」
眠るのが怖かった。全てが暗闇に包まれる、その感覚が恐ろしかった。
一瞬、あの物言わぬ獣の死骸の姿がドニタの脳裏に浮かんだ。嫌悪と恐怖。
「ドニタ、良い子だから。ゆっくりお休み」
嫌がって身悶えるドニタに構わず、ドクターの手がスイッチに伸びた。
「ワタシはもう、眠るのはいや……」
そう呟きが漏れた瞬間、ドニタの意識はぷつん、と切れた。
それから、ドニタは幾度となく地上の遺跡を探索した。
しかしコデックスは見つからなかった。
「そんなに簡単に見つかるものではないよ」
探索に失敗して帰る度に、ドクターはドニタを慰めるように笑った。
だが、それはドニタにとって何の慰めにもならなかった。
何故なら、その後は必ず眠らされていたからだ。
睡眠はドニタにとって死と同じ。
自分が探索に失敗するから罰として死が与えられるのだ、と、いつしかドニタはそう思い込むようになっていた。
そして、ドニタがさらに幾度かの死を体験した後。
その男は遺跡の探索を終えたドニタの前に現れた。
「あんたがドニタという人形か」
「……お前は誰だ」
「俺はお前を救う者だ」
「救う?」
「そう。お前を暗闇から救ってやろう。俺達に協力してくれるのなら、という条件付きだがな」
「暗闇から……」
何を馬鹿なことを言っている。
そう笑い飛ばそうとした。
しかしその男の言葉には、ドニタを惹きつける何かが籠もっていた。
「………………」
「どうする? お前次第だ」
「……話を聞くわ」
「—了—」
- 除了R2多妮妲外,均譯為薄暮時代。 ↩