《渦》消滅之後沒多久,便收到了父親的姊姊,也就是我姑姑維若妮卡過世的消息。
過世的地點是在古朗德利尼亞帝國最北端,康布雷州的鄉下納西比克。
在收到消息的親戚群都表現出微妙的反應中,我代表了父親,一個人來到了這個小鎮。
|
「我是維若妮卡的親屬」
我到了位於郊外的殯儀館後,殯儀館的職員用著驚訝的表情看著我。
「竟然有人要幫那位婆婆辦葬禮,婆婆的親戚還真奇妙」
「喂!不要在家屬面前說這種話!」
維若妮卡姑姑在親戚中也是古怪出名的人。好幾個親戚因她被捲入麻煩事之中,所以不少人對姑姑沒有好感。
由於是那樣的姑姑,所以恐怕在這納西比克裡,也作為怪異的人給別人添了不少麻煩吧。
我只能苦笑回應職員,或許反而應該要道歉說「很抱歉給大家添麻煩了」吧?
|
在二位職員的帶領下,我來到了安置遺體的地方。
「就是這裡了,如果有需要的話,可以幫您安排移動遺體之類的手續」
「啊,不。如果可以的話,我們希望要葬在這邊……」
「啊,這樣嗎。那麼,麻煩請在確認完遺體後辦理埋葬的手續」
職員爽快地答應了,我還以為會被拒絕說「不行,請帶回故鄉埋葬」。
「咦?可以嗎?」
「是的。墓地還有空位,沒有問題」
我沒有再繼續追問,因為要是多嘴讓對方回我說「那麼請帶回故鄉」的話,那可就麻煩了。
維若妮卡姑姑的親戚裡,除了父親和我之外,幾乎都不想和姑姑往來。因此很理所當然的,維若妮卡姑姑的後事全都落在父親與我的身上。
為什麼會變成這樣,父親在我正準備前往納西比克出發時對我這麼說。
|
我們的祖先被稱為『技術者』,從事先進科學技術研究與發展事業。
《渦》在這裡世界發生的時候,幾手所有的『技術者』都逃往空中都市了,但仍有少數的『技術者』留下,用他們的技術守護人類。
各都市留下來的屏障,就像是當時留在地上的『技術者』所建設的遺產。
也就是,現今地上的人們能在這裡生活,都是託當時留在地上偉大祖先的福。
這是我們家族流傳下來事蹟。
但是,傳言這種東西,可信度會隨著時間越來越低。
祖先的技術書或研究資料等等雖然有留傳給子孫,但是隨著時間的流逝疏於保管,最後淪落到變成是否要丟棄的話題。
最後終於,決定處理掉祖先的遺物。
在這當中,持反對意見的是當時才剛滿二十歲的維若妮卡姑姑。
「不要的話,全部都給我吧」
就好像,撿回被丟棄不要的雜貨似地,維若妮卡姑姑似乎就那樣,將祖先的遺物全部抱回自己的房間了。
原本,她就對祖先留下的書就抱有特別高的興趣,從之前就會趁著親戚不注意時偷偷到保管遺物的倉庫裡而被罵。
這樣的她會說出要接手遺物的話,也是理所當然了。
|
但是親戚們一致反對維若妮卡姑姑這個行為。
「妳打算拿那些古書要做什麼」
「那裡面寫的一定都是騙人的,妳拿那種東西打算要做什麼?」
「雖然據說是祖先留下來的東西,但不曉得是不是真的?妳要相信這種東西嗎?」
「會相信祖先是技術者後裔這種騙人的話,妳真是奇怪」
親戚們打算以像這樣不分青紅皂白否定祖先的遺物方式,以及如果做了像是『技術者』的事卻失敗的話,全家族都會蒙羞之類的話來說服維若妮卡姑姑。
而維若妮卡姑姑的回答,聽說也很冷淡。
「又沒有証據說這些是假的,你們胡說八道什麼」
「那就隨便妳,但是萬一出了什麼事,可別來找我們」
「我只是做我想做的事而已,不要管我最好」
就這樣,維若妮卡姑姑與親戚們經過這一番爭吵後,混入了暴風駕馭者的商團,移居到別的地方了。
|
只是,維若妮卡姑姑並不是就此行蹤成謎。移居之後曾經有回來故鄉過一次,也就是我出生的那個家。
那是我小時候的事了。不過好像到最後也沒說她為什麼回鄉。
由於當初正面衝突的親戚早就過世了,父親也沒有特別介意,所以便接受了維若妮卡姑姑住下。
姑姑偶爾會代替父母親照顧我。
但是,回鄉也不過一年左右的時間而已,姑姑又再次飄然消失了。
然後又再過了十幾年之後,她死亡的消息便寄到了家裡來。
維若妮卡姑姑自從離家至回來的期間,以及再次離家至在這個納西比克死亡的期間,在這二段期間裡,沒有任何一位親戚知道她做了些什麼事。
因為維若妮卡姑姑什麼都沒有和親戚說。
|
維若妮卡姑姑的葬禮,由我與殯儀館二位職員安靜地辦完了。
「姑姑她,是生了什麼病嗎?」
「嗯,沒有聽說耶。好像是被發現時,已經倒在工作場所……只有這樣而已」
「這樣啊」
將遺體埋葬完後,職員們用著鬆了一口氣似的表情目送我離開。
|
那天我就投宿在納西比克的旅館,隔天早上,為了整理遺物而前往維若妮卡姑姑租屋的房東家。
「哦~妳就是那位維若妮卡女士的家人啊」
拿著維若妮卡姑姑家鑰匙的房東,似乎對我感到相當好奇地一直注視著我。
「不好意思,如果姑姑做了什麼失禮的事……」
「說死去之人的壞話雖然不太好,但是她房間常常傳出異臭和發出噪音,撇開那些的話可以說是一位很厲害的維修師傅」
很意外地,聽到了維若妮卡姑姑是以修理簡單機械來維生的這件事。
「造成您的困擾,真的很抱歉」
「不用妳來道歉的啦,而且事情都已經過去了」
房東一邊說會在附近的餐廳等,一邊將鑰匙交給了我。
我將房子的門打開,進入屋內。
「咦?」
維若妮卡姑姑的住家,整齊到令人驚訝的地步。
小小的床和工作空間,廚房用具和一些些生活用品,衣櫥也只放著最低限度的衣服而已。
並且,都沒看到她拿走的那些祖先的資料或書籍,也看不到有依照書籍所做的實驗或研究的痕跡。
聽房東那樣說還以為需要花相當大的力氣整理,都已經做好了心理準備,讓我有點反應不過來。
在我做丟棄的和保留分類時,在工作空間裡發現了一本筆記本。那本筆記裡寫了故鄉與家裡地址,以及像是要寫給親戚的留言。
城裡的人大概是看了這本筆記本才跟家裡聯絡上的吧。
『我要是死了,我要把布偶與記事本交給住在門寧州的姪女』
留言上這麼寫著。
「布偶?記事本?」
我邊整理邊翻找了一下,在衣櫥的深處找到了厚厚的記事本與布偶的照片。
「啊,好懷念」
不自覺地脫口而出。
維若妮卡姑姑的手非常靈巧,很會做布偶。
這個布偶是仿照很久以前的海鳥樣子做成的,在姑姑照顧我的時候,我還一直跟姑姑撒嬌要她送給我。但是我記得姑姑只露出一臉為難的樣,最後好像還是沒有給我。
|
接著打開厚厚的記事本,雖然我這樣像是要偷窺別人隱私的感覺,但畢竟都有留言說要給我了,而且爸爸要我調查看看維若妮卡姑姑是否有債務,只好看了。
要是姑姑有債務,也知道老家在哪,要債的人也許會上門來,那就麻煩了。
記事本裡面,寫的是一般的日記內容。
但是,注意到日期越新,就開始有些不得了的事。
省略掉說明跟感情問題的話,內容寫的是。
『從老家帶出來的寶石類私房錢,藏在複數的布偶裡』
『但是,拿老家的寶石換錢會覺得愧疚,只好去借錢』
『討債的人在不知道裡面有寶石的情況下,把布偶當作抵押品帶走了』
|
我嘆了一口氣。雖然得知姑姑有借錢一事,但是沒想到竟然還把老家的寶石帶出去了……。
這下我無法自己判斷了,得要先回家一趟,交給爸爸判斷。
雖然我很想珍惜跟維若妮卡姑姑之間的回憶,但是照這個情況來看是沒有這麼容易了。
我就以失望的情緒,接著繼續整理遺物。
|
「─完─」
3390年 「伯母」
《渦》が消滅して間もない頃、父の姉、つまり私にとって伯母にあたるベロニカが亡くなった、という知らせが届けられた。
亡くなった場所はグランデレニア帝國最北端、カンブレー州の田舎町ナシビク。
知らせを受けた親族一同が微妙な態度をとる中、私は父に代わり、一人この町にやって来ていた。
「ベロニカの親類の者です」
町外れにある葬儀場に行くと、葬儀場の職員は驚いた顔で私を見据えた。
「あの婆さんの葬式をしようだなんて、奇特な親戚がいたもんだねぇ」
「こら! ご親族の前でそんなことを口にするんじゃないよ」
ベロニカ伯母さんはかなりの変わり者として親族の中でも有名である。迷惑を被った親族は何人もおり、伯母さんのことを快く思ってない人も少なくない。
そんな伯母さんなので、おそらくこのナシビクでも、風変わりな人物として何かと厄介を掛けていたのだろう。
職員の言葉には苦笑するしかなかった。むしろ「ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」と謝るべきだろうか。
二人の職員に案内され、遺体の安置所までやって来た。
「ここになります。ご希望なら、ご遺体の移動とかについても手配できますが」
「あぁ、いえ。できればこの土地に埋葬して欲しいのですけど……」
「あ、そうでしたか。では、ご遺体の確認後に埋葬の手続きをお願いします」
職員はあっさりとこちらの希望を承諾した。てっきり「いいえ、故郷に埋葬を」と言われるものだと思っていたのに。
「え? いいんですか?」
「はい。墓地に空きがありますし、何も問題ありませんよ」
それ以上深いことは尋ねなかった。余計なことを言って「じゃあ故郷に」なんてことになっても困るからだ。
ベロニカ伯母さんの親類は、父と私を除いて、殆どが伯母さんのことを疎ましく思っている。それは伯母さんの埋葬や遺品整理を父と私に任せきりにしたことからも明らかだった。
どうしてそんなことになったか。その理由をナシビクに向けて出発する直前に、父から聞かされていた。
我々の先祖は『技術者』と呼ばれており、優れた科学技術の研究と発展を生業にしていた。
《渦》がこの世界に発生した時、殆どの『技術者』は空中都市へと逃れたが、少数の『技術者』は地上に残り、その持てる技術で人々を《渦》から守った。
各都市に残る障壁こそ、まさに地上に残った『技術者』が作り上げた遺産である。
つまり、今でも地上の人々が何とか暮らせるのは、地上に残った偉大な先祖のお陰である。
私達の一族には、こんな話が言い伝えられていた。
だが、言い伝えというものは、時間と共にその信憑性を薄れさせていくのが常。
先祖は技術書や研究資料などを子孫に残していたが、時間と共に保管は疎かにされていき、ついには破棄するか否かが話題に上るまでになっていった。
そしてとうとう、先祖の遺物を廃棄処分することが決まった。
それに正面から反対したのが、当時二十歳になったばかりのベロニカ伯母さんだったという。
「要らないなら、全部を私がもらうわ」
まるで、捨てられた雑貨を拾うかのように、ベロニカ伯母さんは先祖の遺物を全て自室に持ち込んだそうだ。
元々、先祖の残した書物に並々ならぬ興味を抱いていた彼女は、昔から親族の目を盗んでは遺物が保管されていた倉庫に入り浸り、怒られていたという。
そんな彼女が遺物を引き取りたいと言い出したのは、当然といえば当然であった。
ベロニカ伯母さんの行動に対して、親族は皆一様に反対した。
「そんな昔の本を使って何かを作りだそうだなんて」
「きっと出鱈目が書かれているに違いない。そんなもので何をするつもりなんだ」
「先祖が残したといわれているが、本当にそうなのかわからないんだぞ? そんなものを信じるのか?」
「技術者の末裔だなどという先祖の嘘を信じるなんて、あなた、どうかしてるわよ」
こんな風に先祖の遺物を頭ごなしに否定し、もし『技術者』の真似事をして失敗すれば、一族皆が恥を掻くことになる、と説得した。
それに対するベロニカ伯母さんの返答は、実に冷々たるものだったらしい。
「出鱈目だという証明すら為されていないのに、何を言ってるんだか」
「だったらもう好きにするといい。だが、何があっても我々を頼ることは許さん」
「私はしたいことをするだけだし、それで結構」
そうして、ベロニカ伯母さんは親族と一悶着を起こした後、ストームライダーの商団に紛れてどこか別の土地に移住した。
ただ、そのままベロニカ伯母さんは行方不明とはならなかった。移住してから一度だけ、故郷、つまり私の産まれた家に戻ってきていた。
それが、私が小さい頃の話だ。でも、帰郷した理由は最後まで話してくれなかったらしい。
直接に揉め事を起こした親族はとうに亡くなっていたこともあり、父は特段気にすることもなく、ベロニカ伯母さんを受け入れることにした。
伯母さんは時折、父と母に代わって私の面倒を見てくれた。
でも、それも一年くらいの話だ。伯母さんはまた、ふらりとどこかに姿を消してしまった。
そして更に十数年が経った後、彼女の死亡通知が我が家に届いたのだ。
ベロニカ伯母さんが家を出て戻ってくるまでの間と、そして再び家を出てこのナシビクで亡くなるまでの間、それらの間に彼女が何をしていたかを知る親族はいない。
ベロニカ伯母さんは親族に何も語らなかったのだ。
ベロニカ伯母さんの葬儀は、私と葬儀場の職員二人でひっそりと執り行った。
「伯母さん、病気か何かだったんですか?」
「うーん、そういう話は聞いてませんね。仕事場で倒れているのが発見された時にはもう……ってことくらいです」
「そうでしたか」
遺体を墓地に埋葬し終えると、職員達はどこかほっとしたような表情で私を見送った。
その日はナシビクの宿泊施設に泊まり、翌朝、遺品を整理するためにベロニカ伯母さんが住んでいた住居のオーナーさんの所へ向かった。
「はー、アンタがあのベロニカさんの」
住居の鍵を持つオーナーさんは、私のことを興味津々と言わんばかりに凝視してくる。
「すみません、伯母が何か失礼なことをしていたのでしたら……」
「死んじゃった人にあれこれ言うのは良くないんだけど、異臭とか騒音がなけりゃ、腕のいい修理屋だったんだけどねぇ」
ひょんなことから、ベロニカ伯母さんが簡単な機械の修理をして生計を立てていた、という話が聞けた。
「ご迷惑をお掛けして、すみませんでした」
「アンタが謝ることじゃないよ。それに、もう過ぎたことだし」
オーナーさんは近所の喫茶店で待っていると言って、私に鍵を渡してくれた。
私は住居の鍵を開け、部屋に入る。
「あれ?」
ベロニカ伯母さんの住居は、驚くほど整然としていた。
小さなベッドと作業スペース、調理器具や生活用品はごく僅か、備え付けのクローゼットには必要最低限の衣類しか入っていない。
そして、全てを引き取ったという先祖の資料や書物は一切見当たらず、それらに書かれていることを元に実験や研究をしていた、なんていう痕跡も全く見受けられなかった。
オーナーさんの話からもっと面倒な整理が必要かと身構えていただけに、正直拍子抜けだった。
処分するものとそうでないものを分別する作業を進めていると、作業スペースに一冊のノートが残されていた。そのノートには故郷と実家の所在、そして親族に宛てたメモ書きのようなものが書き残されていた。
このノートを見て、町の人は家に連絡を取ったのだろう。
『私が死んだら、ぬいぐるみと手帳をメニン州に住む姪に』
そのような趣旨のことが書かれていた。
「ぬいぐるみ? 手帳?」
遺品整理がてらそれらを探してみると、クローゼットの奥深くに、分厚い手帳とぬいぐるみが写っている写真を見つけた。
「あ、懐かしい」
思わず言葉が漏れ出た。
ベロニカ伯母さんは手先が器用で、ぬいぐるみ作りを得意としていた。
このぬいぐるみは大昔に生息していた海鳥をモチーフにしており、伯母さんに面倒を見てもらっていた頃に、欲しい欲しいと駄々をこねた物だった。そうだ。伯母さんは困った顔をするだけで、ついに私にくれることは無かったっけ。
次いで分厚い手帳を開く。プライバシーを覗き見るようで悪いとは思ったけれど、私宛にというメモもあるし、父からベロニカ伯母さんに借金があるかどうかを調べるよう頼まれていたので、まぁ仕方がない。
もし伯母さんに借金があって、生家のことも知られているのであれば、借金取りが押しかけてくるかもしれない。そうなればさすがに迷惑だ。
手帳の中身は、何てことのない日記だった。
しかし、日付の新しいページにとんでもないことが書かれているのを見つけてしまった。
色々な弁明やら感傷やらを省いて要約すると、こういうことらしい。
『複数作ったぬいぐるみの中に、実家から持ち出した宝石類を仕込んで隠し財産にした』
『しかし、実家の宝石を換金するのは後ろめたかったため、やむなく借金をしてしまった』
『借金取りは中に宝石があることを知らないまま、ぬいぐるみ達を借金のカタとして持っていってしまった』
私は溜息を吐いた。借金があるということがわかったこともそうだけど、実家の宝石まで持ち出していたなんて……。
これじゃあ私の判断だけではどうすることもできない。一度家に帰って、父に判断をしてもらう必要があった。
ベロニカ伯母さんとの思い出は大切にしたいのだけれど、この調子では先が思いやられるなぁ。
私はそんな風にげんなりとした気分のまま、遺品整理を進めていくのだった。
「—了—」
《渦》が消滅して間もない頃、父の姉、つまり私にとって伯母にあたるベロニカが亡くなった、という知らせが届けられた。
亡くなった場所はグランデレニア帝國最北端、カンブレー州の田舎町ナシビク。
知らせを受けた親族一同が微妙な態度をとる中、私は父に代わり、一人この町にやって来ていた。
「ベロニカの親類の者です」
町外れにある葬儀場に行くと、葬儀場の職員は驚いた顔で私を見据えた。
「あの婆さんの葬式をしようだなんて、奇特な親戚がいたもんだねぇ」
「こら! ご親族の前でそんなことを口にするんじゃないよ」
ベロニカ伯母さんはかなりの変わり者として親族の中でも有名である。迷惑を被った親族は何人もおり、伯母さんのことを快く思ってない人も少なくない。
そんな伯母さんなので、おそらくこのナシビクでも、風変わりな人物として何かと厄介を掛けていたのだろう。
職員の言葉には苦笑するしかなかった。むしろ「ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」と謝るべきだろうか。
二人の職員に案内され、遺体の安置所までやって来た。
「ここになります。ご希望なら、ご遺体の移動とかについても手配できますが」
「あぁ、いえ。できればこの土地に埋葬して欲しいのですけど……」
「あ、そうでしたか。では、ご遺体の確認後に埋葬の手続きをお願いします」
職員はあっさりとこちらの希望を承諾した。てっきり「いいえ、故郷に埋葬を」と言われるものだと思っていたのに。
「え? いいんですか?」
「はい。墓地に空きがありますし、何も問題ありませんよ」
それ以上深いことは尋ねなかった。余計なことを言って「じゃあ故郷に」なんてことになっても困るからだ。
ベロニカ伯母さんの親類は、父と私を除いて、殆どが伯母さんのことを疎ましく思っている。それは伯母さんの埋葬や遺品整理を父と私に任せきりにしたことからも明らかだった。
どうしてそんなことになったか。その理由をナシビクに向けて出発する直前に、父から聞かされていた。
我々の先祖は『技術者』と呼ばれており、優れた科学技術の研究と発展を生業にしていた。
《渦》がこの世界に発生した時、殆どの『技術者』は空中都市へと逃れたが、少数の『技術者』は地上に残り、その持てる技術で人々を《渦》から守った。
各都市に残る障壁こそ、まさに地上に残った『技術者』が作り上げた遺産である。
つまり、今でも地上の人々が何とか暮らせるのは、地上に残った偉大な先祖のお陰である。
私達の一族には、こんな話が言い伝えられていた。
だが、言い伝えというものは、時間と共にその信憑性を薄れさせていくのが常。
先祖は技術書や研究資料などを子孫に残していたが、時間と共に保管は疎かにされていき、ついには破棄するか否かが話題に上るまでになっていった。
そしてとうとう、先祖の遺物を廃棄処分することが決まった。
それに正面から反対したのが、当時二十歳になったばかりのベロニカ伯母さんだったという。
「要らないなら、全部を私がもらうわ」
まるで、捨てられた雑貨を拾うかのように、ベロニカ伯母さんは先祖の遺物を全て自室に持ち込んだそうだ。
元々、先祖の残した書物に並々ならぬ興味を抱いていた彼女は、昔から親族の目を盗んでは遺物が保管されていた倉庫に入り浸り、怒られていたという。
そんな彼女が遺物を引き取りたいと言い出したのは、当然といえば当然であった。
ベロニカ伯母さんの行動に対して、親族は皆一様に反対した。
「そんな昔の本を使って何かを作りだそうだなんて」
「きっと出鱈目が書かれているに違いない。そんなもので何をするつもりなんだ」
「先祖が残したといわれているが、本当にそうなのかわからないんだぞ? そんなものを信じるのか?」
「技術者の末裔だなどという先祖の嘘を信じるなんて、あなた、どうかしてるわよ」
こんな風に先祖の遺物を頭ごなしに否定し、もし『技術者』の真似事をして失敗すれば、一族皆が恥を掻くことになる、と説得した。
それに対するベロニカ伯母さんの返答は、実に冷々たるものだったらしい。
「出鱈目だという証明すら為されていないのに、何を言ってるんだか」
「だったらもう好きにするといい。だが、何があっても我々を頼ることは許さん」
「私はしたいことをするだけだし、それで結構」
そうして、ベロニカ伯母さんは親族と一悶着を起こした後、ストームライダーの商団に紛れてどこか別の土地に移住した。
ただ、そのままベロニカ伯母さんは行方不明とはならなかった。移住してから一度だけ、故郷、つまり私の産まれた家に戻ってきていた。
それが、私が小さい頃の話だ。でも、帰郷した理由は最後まで話してくれなかったらしい。
直接に揉め事を起こした親族はとうに亡くなっていたこともあり、父は特段気にすることもなく、ベロニカ伯母さんを受け入れることにした。
伯母さんは時折、父と母に代わって私の面倒を見てくれた。
でも、それも一年くらいの話だ。伯母さんはまた、ふらりとどこかに姿を消してしまった。
そして更に十数年が経った後、彼女の死亡通知が我が家に届いたのだ。
ベロニカ伯母さんが家を出て戻ってくるまでの間と、そして再び家を出てこのナシビクで亡くなるまでの間、それらの間に彼女が何をしていたかを知る親族はいない。
ベロニカ伯母さんは親族に何も語らなかったのだ。
ベロニカ伯母さんの葬儀は、私と葬儀場の職員二人でひっそりと執り行った。
「伯母さん、病気か何かだったんですか?」
「うーん、そういう話は聞いてませんね。仕事場で倒れているのが発見された時にはもう……ってことくらいです」
「そうでしたか」
遺体を墓地に埋葬し終えると、職員達はどこかほっとしたような表情で私を見送った。
その日はナシビクの宿泊施設に泊まり、翌朝、遺品を整理するためにベロニカ伯母さんが住んでいた住居のオーナーさんの所へ向かった。
「はー、アンタがあのベロニカさんの」
住居の鍵を持つオーナーさんは、私のことを興味津々と言わんばかりに凝視してくる。
「すみません、伯母が何か失礼なことをしていたのでしたら……」
「死んじゃった人にあれこれ言うのは良くないんだけど、異臭とか騒音がなけりゃ、腕のいい修理屋だったんだけどねぇ」
ひょんなことから、ベロニカ伯母さんが簡単な機械の修理をして生計を立てていた、という話が聞けた。
「ご迷惑をお掛けして、すみませんでした」
「アンタが謝ることじゃないよ。それに、もう過ぎたことだし」
オーナーさんは近所の喫茶店で待っていると言って、私に鍵を渡してくれた。
私は住居の鍵を開け、部屋に入る。
「あれ?」
ベロニカ伯母さんの住居は、驚くほど整然としていた。
小さなベッドと作業スペース、調理器具や生活用品はごく僅か、備え付けのクローゼットには必要最低限の衣類しか入っていない。
そして、全てを引き取ったという先祖の資料や書物は一切見当たらず、それらに書かれていることを元に実験や研究をしていた、なんていう痕跡も全く見受けられなかった。
オーナーさんの話からもっと面倒な整理が必要かと身構えていただけに、正直拍子抜けだった。
処分するものとそうでないものを分別する作業を進めていると、作業スペースに一冊のノートが残されていた。そのノートには故郷と実家の所在、そして親族に宛てたメモ書きのようなものが書き残されていた。
このノートを見て、町の人は家に連絡を取ったのだろう。
『私が死んだら、ぬいぐるみと手帳をメニン州に住む姪に』
そのような趣旨のことが書かれていた。
「ぬいぐるみ? 手帳?」
遺品整理がてらそれらを探してみると、クローゼットの奥深くに、分厚い手帳とぬいぐるみが写っている写真を見つけた。
「あ、懐かしい」
思わず言葉が漏れ出た。
ベロニカ伯母さんは手先が器用で、ぬいぐるみ作りを得意としていた。
このぬいぐるみは大昔に生息していた海鳥をモチーフにしており、伯母さんに面倒を見てもらっていた頃に、欲しい欲しいと駄々をこねた物だった。そうだ。伯母さんは困った顔をするだけで、ついに私にくれることは無かったっけ。
次いで分厚い手帳を開く。プライバシーを覗き見るようで悪いとは思ったけれど、私宛にというメモもあるし、父からベロニカ伯母さんに借金があるかどうかを調べるよう頼まれていたので、まぁ仕方がない。
もし伯母さんに借金があって、生家のことも知られているのであれば、借金取りが押しかけてくるかもしれない。そうなればさすがに迷惑だ。
手帳の中身は、何てことのない日記だった。
しかし、日付の新しいページにとんでもないことが書かれているのを見つけてしまった。
色々な弁明やら感傷やらを省いて要約すると、こういうことらしい。
『複数作ったぬいぐるみの中に、実家から持ち出した宝石類を仕込んで隠し財産にした』
『しかし、実家の宝石を換金するのは後ろめたかったため、やむなく借金をしてしまった』
『借金取りは中に宝石があることを知らないまま、ぬいぐるみ達を借金のカタとして持っていってしまった』
私は溜息を吐いた。借金があるということがわかったこともそうだけど、実家の宝石まで持ち出していたなんて……。
これじゃあ私の判断だけではどうすることもできない。一度家に帰って、父に判断をしてもらう必要があった。
ベロニカ伯母さんとの思い出は大切にしたいのだけれど、この調子では先が思いやられるなぁ。
私はそんな風にげんなりとした気分のまま、遺品整理を進めていくのだった。
「—了—」