艾莉亞娜的眼前,是一整片的地獄。
接到警報趕來的人類警衛,都被在這個屋子裡工作的數具自動人偶殺害了。
自動人偶們將人類殺害之後,還繼續在屋內搜索著是否還有活人。
不去救妹妹不行。在這樣的地獄裡,艾莉亞娜尋找著妹妹波蕾特的身影。
「希尼!你怎麼了,你說啊!」
從走廊的彎角處,傳來了如同喊叫般的聲音。
艾莉亞娜趕到的時候,看到穿著傭人服的自動人偶勒住了波蕾特的脖子。
「啊,唔……」
波蕾特發出了痛苦的呻吟。
雖然艾莉亞娜飛奔趕去,但還是晚了一步。
波蕾特漸漸失去了力氣。
「波蕾特!!」
艾莉亞娜悲痛的叫喊聲在屋裡迴盪著。
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在羅占布爾克中央的一處大規模都市公園裡,男女老少手拿著標語牌死命地大聲喊著。
「制裁的時候到了!我們的世界終將滅亡!」
「被自己做出來的機械,宣判了懶惰的罪!」
「接受懲罰吧!否則就抵抗吧!」
標語牌上寫著「懶惰的人類,改過吧!」、「不要把人生交付給機械!」等激烈的言詞。
路過的人們注意著這個集團。接受他們的宣傳物品、參與署名活動的人們也不在少數。
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自從在第十二階層的蘇巴斯地區第一次發生自動人偶的暴動事件之後,各階層自動人偶們像是有了想法似的暴走、開始不斷地發生暴動事件。與那些暴動事件的同時開始出現,被稱做『反·自動人偶信奉者』的人們。
在自動人偶還是很方便的機械奴隸時,還被社會當作是麻煩人物的他們,在自動人偶發生暴動之後人數漸漸增加。
要說什麼是原因的話,大多是因自動人偶的暴動而失去了家人或身邊友人的人們。
因為自動人偶而失去了重要之人的他們,對於『反·自動人偶信奉者』所宣揚的內容有同感,而發起了排除自動人偶的行動。
「我妹妹被自動人偶所殺害,為了不要再有其他犧牲者,我們訴求廢除使用自動人偶」
號召觀看遊行集會的人們參與署名的艾莉亞娜,也是其中的一人。
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艾莉亞娜出生於第九階層的富裕家庭,曾經與父親、妹妹波蕾特三人住在諾大的宅邸生活。
母親在波蕾特幼年時期就因病去逝了。即便如此,父親連同母親的份,慎重細心地養育艾莉亞娜與波蕾特。
但是,一個男人也有沒有辦法兼顧的時候。因此父親將照顧姊妹日常生活的事交給了『第51世代布勞型』的高性能傭人型自動人偶。
名為希尼的傭人型自動人偶,是專照顧孩童日常生活所特製的自動人偶。艾莉亞娜與波蕾特,也將這個自動人偶當作家人般尊重。
但是,希尼在幾個月前發生的自動人偶暴動事件時暴走。妹妹波蕾特被希尼給殺害,希尼也被警察給破壞了。
充滿了回憶的宅邸也被破壞,現在則住在小小的別所裡。
艾莉亞娜憎恨殺害自己唯一妹妹的自動人偶,尋找發洩這股憎恨的出口,而來到了『反·自動人偶信奉者』。
艾莉亞娜希望不要再有其他的犧牲者,而投入了訴求廢除使用自動人偶的集會。
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「我回來了」
夜晚,回到了小小別所的艾莉亞娜,開門喊著,但屋內卻安靜無回應。
無回應讓艾莉亞娜嘆了一口氣後,往開著燈的飯廳走去。
「父親大人,我回來了」
敲了敲父親似乎在的飯廳門,一邊說著一邊把門打開。
「……父親大人,又喝了嗎」
趴在酒瓶散亂的桌上,邊睡邊打呼的男性。
是艾莉亞娜的父親。
波蕾特死後,艾莉亞娜的父親便開始借酒澆愁。
溫柔又嚴格的父親。為了養育姊妹倆,攬起了全部責任而努力的父親。雖然一邊借助自動人偶的幫忙,但養育出一對個性奔放的姊妹。
這裡,已經看不到艾莉亞娜所尊敬、崇拜得不得了的偉大父親。在這裡的是借酒澆愁,心被酒給侵蝕之人。
早年喪妻,對於拚命養育遺留下來的倆姊妹的他來說,波蕾特被殺害是多麼地悲痛的事。
艾莉亞娜對於殺了妹妹,甚至連父親都快被精神上殺害的自動人偶,越來越憎恨。
「父親大人,在這裡睡的話會感冒的」
「啊,啊?妳、回來啦……賽琳。孩子,們呢……?」
賽琳是母親的名字。
又來了。艾莉亞娜今天不曉得嘆了多少次氣。爛醉時的父親,意識便會回到全家一起生活的那個時候。
接著把艾莉亞娜錯認為妻子與她交談。
「孩子們都已經上床睡了。好了,你也去睡吧?還是,你想要讓孩子們明天早上看到你這副模樣呢?」
艾莉亞娜在這樣的父親面前扮演著母親。心想在他爛醉的時候沒必要讓他面對現實吧。
「那樣……不太好……」
「來,我們回房間吧」
父親用緩慢的動作起身。艾莉亞娜支撐著他的背,帶著父親往房間走去。
讓父親睡了之後,再回到餐廳去收拾酒瓶。
這樣的生活還要持續到什麼時候,艾莉亞娜就這樣被鬱悶的想法困住,簡單地打發了晚餐。
艾莉亞娜的家境雖然富裕,但是家裡並沒有包吃住的傭人。由於自動人偶的存在,把幫傭這樣的職業給淘汰了。
但是,曾經被自動人偶殺害過的家庭,是不可能再仰賴自動人偶的。因此,家事得全靠自己。
做完不習慣的家事後,都已經過了該就寢的時間了。
明天也有集會遊行,得儘早就寢。
但是,現在艾莉亞娜的心中充滿了鬱悶的想法,大概沒辦法馬上入睡。
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隔天早上,艾莉亞娜剛進餐廳,就看到父親正要出門。
「早安,父親大人」
「啊啊,早,艾莉亞娜,我出門囉」
是昨晚喝太多酒的關係嗎,父親看起來沒有精神,可能是身體哪裡不舒服也不一定。
「父親大人,您的臉色不太好,還是休息比較……」
「沒問題的。況且,廢除自動人偶後的人員缺口還沒補進來,人手不夠啊」
父親表情嚴肅。對於父親的那個態度,艾莉亞娜再怎麼擔心也沒辦法阻止父親。
父親不去工作的話公司將無法維持。這點,艾莉亞娜也能理解。
「不要逞強哦,父親大人」
「我知道」
艾莉亞娜像是要讓父親知道還有人在擔心著他而說道。
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「艾莉亞娜大小姐!」
在集會遊行的途中,一個男性叫了艾莉亞娜的名字。
雖然還在集會的途中,但那個死命喊著的人物仍被集會參加者帶到艾莉亞娜的面前。
「大小姐!趕緊去醫院!」
是在父親公司工作的年輕職員。
那個職員,焦急地打算拉著艾莉亞娜的手臂走。
「發,發生什麼事了?」
「社長昏倒了!」
「你說什麼!?」
艾莉亞娜的頭腦頓時一片空白感到背脊發冷。
今天早上應該無論如何都要讓他休息的,後悔的想法向艾莉亞娜襲來。
「快點上車!」
「我,我知道了!」
遊行途中的事已經從腦裡完全消失,艾莉亞娜對周遭的事已經毫不在意,臉色發白地隨著職員一起坐上了車。
車子馬上開向前往中央醫院的道路。
這件事讓艾莉亞娜意識到,父親的身體狀況已經差到了刻不容緩的地步了。
|
「─完─」
2837年 「集会」
アリアーヌの目の前には、地獄が広がっていた。
警報を受けて駆けつけた人間の警備員は、この屋敷で働く複数のオートマタに殺されてしまった。
オートマタ達は人間を殺した後、生き残りの人間がいないか屋敷を詮索している。
妹を助けなければ。そんな地獄の中で、アリアーヌは妹のポレットを探していた。
「シーニー! どうしちゃったの、ねえ!」
廊下を曲がった先から、叫ぶような声が聞こえる。
アリアーヌが駆け付けた時、使用人姿のオートマタがポレットの首を絞めているのが見えた。
「あ、ぐ……」
ポレットが呻き声を上げている。
飛びつくように駆けたアリアーヌだったが、あと一歩、その体はシーニーに届かない。
ポレットの体から力が抜けていく。
「ポレット!!」
アリアーヌの悲痛な叫びが屋敷に響いた。
ローゼンブルグの中央にある大規模な都市公園で、老若男女がプラカードを手に大声で必死に叫んでいた。
「裁きの時は来た! ついに我々の世界は滅ぶ!」
「自ら作り出した機械によって、怠惰の罪がいま下るのだ!」
「罰を受け入れよ! さもなくば抵抗せよ!」
プラカードには「怠惰な人類よ、改めよ!」や、「機械に人生を委ねるな!」といった過激な言葉が書き連ねられていた。
道行く人達はこの集団の行動に注目していた。彼らの配布物を受け取る者や、署名活動に賛同する者も少なくなかった。
第十二階層スバース地区で起きたオートマタの暴動。それを皮切りに、各階層でオートマタ達は意思を持ったかのように暴走、暴動を繰り返すようになっていた。そんな世情に呼応するように台頭し始めたのが、『アンチ・オートマタ信奉者』と呼ばれる者達だ。
オートマタが便利な機械奴隷だった頃は、どちらかと言えば社会の厄介者扱いされていた彼らだったが、オートマタの暴動が起きるようになってからは少しずつその数を増していた。
その要因となっているのが、オートマタの暴動により家族や友人といった身近な人を失った者達だった。
オートマタにより大切な人を失った彼らは『アンチ・オートマタ信奉者』が掲げるものに共感し、オートマタを排除しようとする行動を起こしたのである。
「私の妹はオートマタに殺されました。これ以上の犠牲者を増やさないために、我々はオートマタの撤廃を訴えます!」
デモ集会の様子を見やる人々に署名を促すアリアーヌも、その一人だった。
第九階層の裕福な家庭に生まれたアリアーヌは、父と妹のポレットと三人で、大きな屋敷に暮らしていた。
母親はポレットが幼い頃に病気で世を去っていた。それでも、父親は母親の分も愛情を込めてアリアーヌとポレットを大事に育てていた。
だが、男手一つではどうにもならないこともある。そう考えた父親によって『第51世代ブラウタイプ』という高性能な使用人型オートマタが、姉妹の世話係として与えられていた。
シーニーという名前のこの使用人型オートマタは、子供の世話をすることに特化したオートマタであった。アリアーヌとポレットは、このオートマタを家族同様に慕っていた。
だが、数ヶ月前に起きたオートマタ暴動の最中にシーニーは暴走。妹のポレットはシーニーに殺され、シーニーも警察隊によって破壊された。
思い出の詰まった屋敷も取り壊され、今は小さな別宅を住居として使用している。
アリアーヌはたった一人の妹を殺したオートマタを憎んだ。その憎しみを向ける場所を探し、辿り着いたのが、この『アンチ・オートマタ集会』であった。
これ以上妹のような犠牲者を出したくないという思いから、アリアーヌはオートマタの撤廃を訴える集会にのめり込んでいった。
「ただいま戻りました」
夜、小さな邸宅に帰宅したアリアーヌが扉を開けて声を掛けるが、邸宅は静まり返っている。
返事がないことに一つ溜息を吐くと、アリアーヌは明かりが灯っている食堂を目指した。
「お父様、戻りました」
父親がいるであろう食堂の扉をノックし、声を掛けてから開ける。
「……お父様、またですか」
酒瓶が散乱するテーブルに突っ伏し、鼾を掻きながら寝ている男性。
アリアーヌの父親だ。
ポレットの死後、アリアーヌの父親は酒に逃げるようになっていた。
優しくも厳しい父。姉妹を育てるため、自身の責務を全うしようと努力する父。オートマタの手を借りながらとはいえ、奔放な姉妹を育てていた父。
アリアーヌが尊敬し、憧れて止まなかった偉大な父の姿はそこには無い。そこにあるのは、酒に逃げ、酒に溺れて心を壊されてしまった人だ。
早くに妻を亡くし、必死の思いで忘れ形見の姉妹を育てていた彼にとって、ポレットが殺されてしまったことはどれほど悲壮なことだっただろう。
妹を殺し、そして父親までも精神的に殺そうとしているオートマタ。アリアーヌの憎しみは募るばかりであった。
「お父様、そんなところで寝ていると風邪を引いてしまいます」
「あ、あぁ? おか、えり……セリーヌ。こども、たちは……?」
セリーヌとは母の名だ。
またか。アリアーヌは今日何度目かわからない溜息を吐いた。泥酔した時の父親は、こうして家族全員が一緒に生活していた頃によく意識を飛ばしてしまう。
そしてアリアーヌを妻と間違え、言葉を交わそうとするのだ。
「もうみんなベッドに入りましたよ。さ、あなたも寝ましょう? それとも、朝になって子供達にそんなみっともない姿を見せるおつもりですか?」
アリアーヌはそんな父親の前で母を演じる。泥酔している時まで現実を見据えさせる必要はないだろうと思っていた。
「それは……よくない、な……」
「さあ、寝室に行きましょう」
父親は緩慢な動きで立ち上がる。アリアーヌはその背中を支えて、寝室へ父親を誘導した。
父親を寝かしつけ、食堂に戻って酒瓶を片付ける。
こんな生活がいつまで続くのだろう。そんなやるせない思いに囚われながら、アリアーヌは簡素に食事を済ませた。
アリアーヌの家は裕福ではあったが、住み込みで働くような使用人はいない。オートマタの存在が、他者の家庭を世話するといった職業を淘汰していたからだ。
だからと言って、オートマタに家族を殺された家庭が再びオートマタに頼ることなどできる筈もない。そのため、家事全般は全てを自らの手でこなす必要があった。
慣れない家事が終わる頃には、就寝しなければいけない時間を過ぎていた。
明日もデモ集会が行われる。早く就寝しておかなければ。
だが、アリアーヌの心は今だやるせない思いに満ち溢れており、就寝には時間が掛かりそうだった。
翌朝、アリアーヌが食堂へ向かうと、ちょうど父親が出掛けるところであった。
「おはようございます、お父様」
「ああ。おはよう、アリアーヌ。行ってくるよ」
昨夜の深酒のせいか、父親の表情に精彩がない。どこか体の調子が悪いのかもしれない。
「お父様、顔色が悪いわ、お休みになったほうが……」
「大丈夫だ。それに、オートマタを廃止した分の人員がまだ入ってなくて、人手が足りないんだよ」
父親は表情を引き締める。その態度に、アリアーヌは心配ながらも父親の行動を引き止めることができなかった。
父親が働かなければ会社は立ち行かない。それくらいはアリアーヌも理解していた。
「無理はしないでね、お父様」
「わかってるよ」
心配する人間がまだいるのだと父親の心に刻むように、アリアーヌは言葉を発した。
「アリアーヌお嬢様!」
デモ集会の最中、一人の男性がアリアーヌの名を叫んだ。
集会の最中ではあったが、その必死の呼び掛けに集会の参加者がアリアーヌの元へその人物を連れてきた。
「お嬢様! 至急病院へ!」
父親の会社に勤める若い社員であった。
その社員が、血相を変えた状態でアリアーヌの腕を引っ張ろうとする。
「ど、どうかしましたか?」
「社長が倒れられました!」
「なんですって!?」
アリアーヌは頭からすっと血の気が引いて寒くなっていく感覚に囚われた。
今朝、なんとしても休ませるべきだったと、後悔の念がアリアーヌを襲う。
「早く車に!」
「わ、わかりました!」
デモの最中であるということは完全に頭から消えていた。周囲のことなど構わずに、社員と共に青ざめた表情で車へ乗り込む。
車はすぐに中央病院へ向かう道のりを走り出した。
そのことは、父親の状況が予断を許さぬものであろうということを、アリアーヌに強く意識させたのだった。
「—了—」
アリアーヌの目の前には、地獄が広がっていた。
警報を受けて駆けつけた人間の警備員は、この屋敷で働く複数のオートマタに殺されてしまった。
オートマタ達は人間を殺した後、生き残りの人間がいないか屋敷を詮索している。
妹を助けなければ。そんな地獄の中で、アリアーヌは妹のポレットを探していた。
「シーニー! どうしちゃったの、ねえ!」
廊下を曲がった先から、叫ぶような声が聞こえる。
アリアーヌが駆け付けた時、使用人姿のオートマタがポレットの首を絞めているのが見えた。
「あ、ぐ……」
ポレットが呻き声を上げている。
飛びつくように駆けたアリアーヌだったが、あと一歩、その体はシーニーに届かない。
ポレットの体から力が抜けていく。
「ポレット!!」
アリアーヌの悲痛な叫びが屋敷に響いた。
ローゼンブルグの中央にある大規模な都市公園で、老若男女がプラカードを手に大声で必死に叫んでいた。
「裁きの時は来た! ついに我々の世界は滅ぶ!」
「自ら作り出した機械によって、怠惰の罪がいま下るのだ!」
「罰を受け入れよ! さもなくば抵抗せよ!」
プラカードには「怠惰な人類よ、改めよ!」や、「機械に人生を委ねるな!」といった過激な言葉が書き連ねられていた。
道行く人達はこの集団の行動に注目していた。彼らの配布物を受け取る者や、署名活動に賛同する者も少なくなかった。
第十二階層スバース地区で起きたオートマタの暴動。それを皮切りに、各階層でオートマタ達は意思を持ったかのように暴走、暴動を繰り返すようになっていた。そんな世情に呼応するように台頭し始めたのが、『アンチ・オートマタ信奉者』と呼ばれる者達だ。
オートマタが便利な機械奴隷だった頃は、どちらかと言えば社会の厄介者扱いされていた彼らだったが、オートマタの暴動が起きるようになってからは少しずつその数を増していた。
その要因となっているのが、オートマタの暴動により家族や友人といった身近な人を失った者達だった。
オートマタにより大切な人を失った彼らは『アンチ・オートマタ信奉者』が掲げるものに共感し、オートマタを排除しようとする行動を起こしたのである。
「私の妹はオートマタに殺されました。これ以上の犠牲者を増やさないために、我々はオートマタの撤廃を訴えます!」
デモ集会の様子を見やる人々に署名を促すアリアーヌも、その一人だった。
第九階層の裕福な家庭に生まれたアリアーヌは、父と妹のポレットと三人で、大きな屋敷に暮らしていた。
母親はポレットが幼い頃に病気で世を去っていた。それでも、父親は母親の分も愛情を込めてアリアーヌとポレットを大事に育てていた。
だが、男手一つではどうにもならないこともある。そう考えた父親によって『第51世代ブラウタイプ』という高性能な使用人型オートマタが、姉妹の世話係として与えられていた。
シーニーという名前のこの使用人型オートマタは、子供の世話をすることに特化したオートマタであった。アリアーヌとポレットは、このオートマタを家族同様に慕っていた。
だが、数ヶ月前に起きたオートマタ暴動の最中にシーニーは暴走。妹のポレットはシーニーに殺され、シーニーも警察隊によって破壊された。
思い出の詰まった屋敷も取り壊され、今は小さな別宅を住居として使用している。
アリアーヌはたった一人の妹を殺したオートマタを憎んだ。その憎しみを向ける場所を探し、辿り着いたのが、この『アンチ・オートマタ集会』であった。
これ以上妹のような犠牲者を出したくないという思いから、アリアーヌはオートマタの撤廃を訴える集会にのめり込んでいった。
「ただいま戻りました」
夜、小さな邸宅に帰宅したアリアーヌが扉を開けて声を掛けるが、邸宅は静まり返っている。
返事がないことに一つ溜息を吐くと、アリアーヌは明かりが灯っている食堂を目指した。
「お父様、戻りました」
父親がいるであろう食堂の扉をノックし、声を掛けてから開ける。
「……お父様、またですか」
酒瓶が散乱するテーブルに突っ伏し、鼾を掻きながら寝ている男性。
アリアーヌの父親だ。
ポレットの死後、アリアーヌの父親は酒に逃げるようになっていた。
優しくも厳しい父。姉妹を育てるため、自身の責務を全うしようと努力する父。オートマタの手を借りながらとはいえ、奔放な姉妹を育てていた父。
アリアーヌが尊敬し、憧れて止まなかった偉大な父の姿はそこには無い。そこにあるのは、酒に逃げ、酒に溺れて心を壊されてしまった人だ。
早くに妻を亡くし、必死の思いで忘れ形見の姉妹を育てていた彼にとって、ポレットが殺されてしまったことはどれほど悲壮なことだっただろう。
妹を殺し、そして父親までも精神的に殺そうとしているオートマタ。アリアーヌの憎しみは募るばかりであった。
「お父様、そんなところで寝ていると風邪を引いてしまいます」
「あ、あぁ? おか、えり……セリーヌ。こども、たちは……?」
セリーヌとは母の名だ。
またか。アリアーヌは今日何度目かわからない溜息を吐いた。泥酔した時の父親は、こうして家族全員が一緒に生活していた頃によく意識を飛ばしてしまう。
そしてアリアーヌを妻と間違え、言葉を交わそうとするのだ。
「もうみんなベッドに入りましたよ。さ、あなたも寝ましょう? それとも、朝になって子供達にそんなみっともない姿を見せるおつもりですか?」
アリアーヌはそんな父親の前で母を演じる。泥酔している時まで現実を見据えさせる必要はないだろうと思っていた。
「それは……よくない、な……」
「さあ、寝室に行きましょう」
父親は緩慢な動きで立ち上がる。アリアーヌはその背中を支えて、寝室へ父親を誘導した。
父親を寝かしつけ、食堂に戻って酒瓶を片付ける。
こんな生活がいつまで続くのだろう。そんなやるせない思いに囚われながら、アリアーヌは簡素に食事を済ませた。
アリアーヌの家は裕福ではあったが、住み込みで働くような使用人はいない。オートマタの存在が、他者の家庭を世話するといった職業を淘汰していたからだ。
だからと言って、オートマタに家族を殺された家庭が再びオートマタに頼ることなどできる筈もない。そのため、家事全般は全てを自らの手でこなす必要があった。
慣れない家事が終わる頃には、就寝しなければいけない時間を過ぎていた。
明日もデモ集会が行われる。早く就寝しておかなければ。
だが、アリアーヌの心は今だやるせない思いに満ち溢れており、就寝には時間が掛かりそうだった。
翌朝、アリアーヌが食堂へ向かうと、ちょうど父親が出掛けるところであった。
「おはようございます、お父様」
「ああ。おはよう、アリアーヌ。行ってくるよ」
昨夜の深酒のせいか、父親の表情に精彩がない。どこか体の調子が悪いのかもしれない。
「お父様、顔色が悪いわ、お休みになったほうが……」
「大丈夫だ。それに、オートマタを廃止した分の人員がまだ入ってなくて、人手が足りないんだよ」
父親は表情を引き締める。その態度に、アリアーヌは心配ながらも父親の行動を引き止めることができなかった。
父親が働かなければ会社は立ち行かない。それくらいはアリアーヌも理解していた。
「無理はしないでね、お父様」
「わかってるよ」
心配する人間がまだいるのだと父親の心に刻むように、アリアーヌは言葉を発した。
「アリアーヌお嬢様!」
デモ集会の最中、一人の男性がアリアーヌの名を叫んだ。
集会の最中ではあったが、その必死の呼び掛けに集会の参加者がアリアーヌの元へその人物を連れてきた。
「お嬢様! 至急病院へ!」
父親の会社に勤める若い社員であった。
その社員が、血相を変えた状態でアリアーヌの腕を引っ張ろうとする。
「ど、どうかしましたか?」
「社長が倒れられました!」
「なんですって!?」
アリアーヌは頭からすっと血の気が引いて寒くなっていく感覚に囚われた。
今朝、なんとしても休ませるべきだったと、後悔の念がアリアーヌを襲う。
「早く車に!」
「わ、わかりました!」
デモの最中であるということは完全に頭から消えていた。周囲のことなど構わずに、社員と共に青ざめた表情で車へ乗り込む。
車はすぐに中央病院へ向かう道のりを走り出した。
そのことは、父親の状況が予断を許さぬものであろうということを、アリアーヌに強く意識させたのだった。
「—了—」