里斯才剛進入連隊,便已嶄露頭角。
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「你還蠻厲害的嘛」
手足無措被打敗的隊員逞強地說道,他的體格比里斯大了一圈。
里斯從十幾歲就投身與魔物戰鬥,早已習慣戰鬥。因此對於戰鬥,在同期入隊的同袍中比任何人都還出類拔萃。
「我只是運氣好而已」
里斯搖搖頭。同期入隊的同袍們,跟卡南守備隊時的班底比起來,實力要強上許多。
「不用謙虛,這與年齡無關。你要對自己更有自信」
即使在聚集了世界強者的連隊裡,里斯也是突出的。
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由於新隊員入隊而高漲的期待與士氣裡,里斯參加了幾次的作戰。起初的第一、二次,對於進入未知領域《渦》中有些緊張感,但是累積了幾次經驗後,緊張感馬上就消除了。
而且,就連之前在卡南守備隊時,完全無計可施的魔物,現在也能輕鬆打倒。
「小菜一碟」
「嗯嗯。這樣的話,核心攻略大概也沒什麼問題吧」
與被分配到的E中隊的同袍們隨性地交談著。輕易地打倒高等級魔物的爽快感與優越感。給他們一種,只要能讓這群人來執行的話,就可以把造就無數災害的《渦》給消滅掉。
在卡南守備隊時,讓里斯感到永無止盡的那股煩悶感。自從加入連隊之後,已經獲得排解。
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在里斯他們E2小隊的眼前,出現了狼姿態的魔物群。
異物群對著E中隊顯露敵意,並朝E中隊前來。
模樣雖然狼狽,但比狼的體格要大上二倍。
「衝過去!」
首先,使用突擊步槍齊射讓魔物停下來。再利用這個時機由里斯他們擅長使用聖劍之者,將魔物一個一個地打倒。
里斯對於等級E程度的敵性生物,根本看不上眼。心想難道沒有更強的魔物嗎。
里斯下意識地尋找著這樣的敵性生物,然後殲滅著敵性生物。
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由里斯帶頭的E2小隊,一點一點地偏離了大隊伍。
看似撤退的敵性生物的前方,出現了第二群的敵性生物。E2小隊擔心,眼前的這群會與第二群合併成更大群的敵性生物群。
「E2小隊!衝過頭了,後退!」
「沒事的!與其後退不如早點將這群解決了,否則會變得更大一群!」
把負責指揮作戰的維多說的話當作耳邊風,E2小隊隨意地往戰場裡衝。
「沒辦法……。E2小隊繼續殲滅敵性生物群。E1小隊確保武裝艇的通路!E1小隊,無論如何都別離開喔!」
「了解!」
維多的指令傳達到了各小隊。聽到指令的里斯,更加衝向前去殲滅敵性生物群。
「不能輸給里斯。走吧!」
接著是同一個小隊的羅倫斯。他也是不輸給里斯,對自己劍術有相當有自信的勇者。
「怎麼可以老是讓他一個人耍帥!」
E2小隊的隊員們,像是競賽似的在後頭緊追著里斯。
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E2小隊已經與維多的E1小隊,以及武裝艇前進的地方有些距離。
「好像有點離太遠了……」
「目標已經殲滅了,回去吧」
也就是這個時候,E2小隊長貝爾金的指示下,工程師搜尋並確認了周圍並沒有敵性生物的反應。
貝爾金配戴的通訊機,響起了緊急鈴聲。
『武裝艇通知。三點鐘方向出現敵性生物群!尋求緊急支援!』
「什麼!?」
『E2小隊,這比你們殲滅的敵性生物群數量還多,這裡才是主體!快點回來!』
「該不會我們……」
等發現的時候已經太遲了。里斯他們E2小隊所瞄準的對象只是個誘餌。
『交戰開始!』
通訊機裡傳來不知道是怒吼還是慘叫的聲音。
「得快點回去!」
E2小隊衝回了E1小隊與武裝艇前進的地方。
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E2小隊到達時,E1小隊即使已有為數不少的犧牲者,但還是勉強控制住逼近的敵性生物群,不讓他們靠近武裝艇。
里斯他們雖然也加入應戰,但數量實在太多。而且,空中還出現了巨大蝙蝠形態的敵性生物。
勉強地質其對抗,光只是不要有損傷就已經用盡全力了。
「武裝艇損壞!工程師就無法回收核心了!」
「糟了!」
「可惡……沒有辦法再繼續戰鬥。作戰失敗了。全員,迅速撤退至武裝車」
維多的指令傳給了在各處作戰的隊員。
一直在守備裝武車的E4小隊,也前來支援撤退。
「撤退!」
在撤退的命令聲中,里斯一個人思考著為什麼會走到這個地步。
堅持要阻止敵性生物的聚合,才使得E2小隊從E1小隊中脫離。如果沒有執意這麼做的話,是不是就可以防止這次的失敗。
里斯陷入了這個想法中。
「里斯!快點!」
「知,知道了!」
聽到前來支援撤退的E4小隊出葉一喊,里斯才回過神來,加入了撤退的行列。
作戰以失敗收場。無法應對數量眾多的敵性生物群,造成了前所未有的傷亡數量。
坐在附近的人,都所屬各個不同的小隊。總之,以保住性命回來為最優先。
在回去的武裝車上,里斯低著頭。
「也是會有這種事的,光是有命回來就很幸運了」
在E4小隊堅守武裝車的迪諾拍了拍里斯的肩,但是里斯反射性的將那個手揮掉。
「開什麼玩笑!如果我再……我再多注意周圍一點的話,就不會變成這樣!」
——雖然戰鬥要隨機應變,但如果自己沒有衝出去的話。
——如果自己能再強一點的話。
——如果自己有再多注意周圍情況一點的話。
——我,我,我。如果那樣做的話,如果這樣做了的話。
里斯的心中充滿了後悔。
「迪諾說的對。只要我們還在跟未知生物作戰,就會有很多無法預料。現在先要感謝自己還活著」
「維多中隊長……」
維多在里斯旁邊坐了下來。里斯也自然地端正起坐姿。迪諾看了之後,感覺氣氛不合,就移動到別的地方去了。
可能是對突發狀況盡可能地處理與指示的關係,維多的臉色顯得疲累。
看到維多疲累的樣子,讓里斯心中感到更加地後悔。
「維多中隊長,這次的失敗全都是我的責任。如果我沒有衝出去的話,肯定就不會有這麼大的損傷」
回過神來,里斯已經在對著維多低頭謝罪了。雖然這樣根本改變不了什麼,還是得要道歉。
「……里斯」
維多看見里斯悲壯的表情,大大地嘆了一口氣。
「這次的損傷是中隊全體的責任。不是你一個人所造成的」
「但,但是,要是我服從命令,不衝出去的話——」
聽從維多的制止,沒有離開E1小隊與敵性生物群對峙的話,至少可以減少E1小隊的傷亡人數。
里斯強烈地這麼認為,全都是因為自己無視於團隊合作,一個人衝向前去才會這樣。
「的確,這點該好好地反省。但是,你一個人的行為並不是讓這次作戰失敗的原因」
「這是什麼意思呢?」
「你衝出去的時候,其他的E2小隊隊員沒有人出來阻止你。相反的,急於想要建功跟著衝了出去。我想,如果可以殲滅敵人的話也就沒問題。所以也隨你們去了」
維多看著里斯,像是告誡似的繼續說著。
「你聽好,這次的失敗是像這樣多個錯誤的判斷所造成的結果。你沒有必要背負一切」
「……你是說,這是中隊全體的責任?」
里斯一臉完全不能理解地看著維多,那個表情讓維多苦笑。
「看看四周吧,還記得你有這些同伴嗎?你不是一個人與《渦》戰鬥的」
因自責之心而痛苦的里斯,聽到這句話才突然恍然大悟。
從作戰失敗到現在,對於自己脫隊的行為,都一直只在想自己一人要怎麼做才是最好的。
「我該……怎麼做才好」
里斯無法控制,無論如何都會衝前的自己。
里斯用著請求的眼神看著維多。
「依賴同伴,讓同伴能夠依賴你。我認為你總有一天會站到統率中隊的位置。在那之前要謙虛地去累積經驗,去理解什麼叫團隊」
說完,維多拍了拍里斯的肩,起身往操縱席走去。
「團隊嗎……」
里斯看了看周圍。戰果很淒慘。但即使如此也因為能夠活下來而安心,周圍有著露出安心表情在休息的同伴。
他們是要一起消滅《渦》的同伴。絕對不是互相搶功的競爭對手。
維多說的『什麼叫團隊』,里斯持續思考著。
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「—完—」
3376年 「驕り」
連隊に入隊したリーズは、瞬く間に頭角を現すようになった。
「やるじゃねえか、お前」
手も足も出ずに打ち負かされた隊員がそう強がってきた。彼はリーズより一回りは体格が大きい。
十代の前半から魔物との戦いに身を投じてきたリーズだ。戦い慣れをしており、こと戦闘においては同時期に入隊した誰よりも抜きん出ていた。
「運が良かっただけです」
リーズは首を横に振った。同期の者達は皆、カナーンの守備隊にいた頃の面子と比べても、遥かに強い者達ばかりだ。
「つまらん謙遜はやめろ、年齢は関係ない。もっと自信を持て」
世界中から集められた猛者の中にあっても、リーズは頭一つ抜けていた。
新隊員の入隊によって高まる期待と士気の中、リーズは何度かの作戦に参加していた。
初めの一、二回こそ未知の領域である《渦》の中に入るのだという緊張があったが、回数を重ねればすぐに感じなくなった。
そして、カナーンの守備隊にいた頃では手も足も出なかった魔物でさえ、今はさほど苦労なく倒せる。
「大したことなかったな」
「ああ。これならコアの攻略も何とかなりそうだ」
配属されたE中隊の仲間達と軽口を叩き合う。クラスの高い魔物をいとも簡単に倒せる爽快感と優越感。自分達が作戦を遂行できさえすれば、どうすることもできない災害であった《渦》を消滅させられる。
カナーンの守備隊にいた頃に感じていた、終わりのない閉塞感。連隊に所属したリーズは今、それを晴らしていた。
リーズ達E2小隊の眼前に、狼の姿をした魔物の群れが見えた。
群れは異物であるE中隊に敵意を顕わにし、向かってきている。
狼の姿こそしているが、実際の狼よりも二回り程体格が大きい。
「突破するぞ!」
まずはアサルトライフルの斉射で魔物の動きを止める。その隙にリーズらセプターの扱いに長けた者が次々と群れの魔物を打ち倒していく。
クラスE程度の敵性生物であれば、リーズは意にも介さない。もっと手応えのある魔物はいないのか。
リーズは無意識下にそんなものを探し、敵性生物を殲滅していった。
少しずつ、リーズを先頭としたE2小隊は隊列から外れつつあった。
撤退を見せる敵性生物の先に、第二陣と思しき群れが見えていた。眼前の群れと第二陣の群れに合流され、更に大きな群れになることをE2小隊は危惧したのだ。
「E2小隊! 前に出過ぎだ、下がれ!」
「大丈夫です! それよりも早くこの群れを仕留めてしまわないと、更に大きな群れが来ます!」
作戦指揮を執るヴィットの制止も気に留めず、E2小隊は軽やかに戦場を駆けていく。
「仕方がない……。E2小隊は引き続き群れの殲滅、E1小隊はアーセナルキャリアの進路を確保! E1小隊、くれぐれも分散するなよ!」
「了解!」
ヴィットの指示が各小隊に飛ぶ。その指示を聞いたリーズは、更に突出して群れの殲滅に走った。
「リーズに負けてはおられん。行くぞ!」
同じ小隊のローレンスが続く。彼もリーズに負けず、剣の腕には自信がある猛者であった。
「アイツにばっかりいいカッコさせてたまるか!」
リーズを追い掛け、競うようにE2小隊員達が続いた。
E2小隊は、ヴィットのいるE1小隊やアーセナルキャリアが進行している場所からだいぶ離れたところまで来ていた。
「少し離れすぎたか……」
「目標の群れは殲滅した、戻ろう」
E2小隊長であるベルキンの指示でエンジニアが周囲の様子を調べ、周辺に敵性生物の反応がないことを確認したその時だった。
ベルキンが持っている通信機から緊急アラートが鳴り響く。
『アーセナルキャリアより伝達。三時方向より敵性生物の群れが出現! 至急応援を!』
「何だと!?」
『E2小隊、お前達が殲滅した群れよりも数が多い、こっちが本体だ! 急いで戻れ!』
「まさか俺達は……」
気付いた時には既に遅かった。リーズ達E2小隊が相手にしていたのは囮だったのだ。
『交戦開始する!』
通信機から怒声とも悲鳴とも付かない声が聞こえてくる。
「急いで戻るぞ!」
E2小隊はE1小隊とアーセナルキャリアが進行している場所へ向かって駆け戻った。
E2小隊が合流した時、E1小隊は少なくない犠牲者を出しながらも、何とか迫り来る群れをアーセナルキャリアに近付けまいとしていた。
リーズ達も応戦するが、何より数が多い。その上、空から巨大な蝙蝠の姿をした敵性生物までが出現した。
何とか対抗し、損害を出さないだけで精一杯であった。
「アーセナルキャリア損傷! コア回収は不可能とエンジニアが言っています!」
「しまった!」
「くっ……これ以上の戦闘は無理か。作戦は失敗だ。全員、速やかにコルベットに撤退せよ!」
ヴィットの号令が、各所で戦っていた隊員達に伝わる。
コルベットの守備についていたE4小隊が、撤退の援護にやって来た。
「撤退だ!」
撤退の号令が聞こえる中、リーズは一人、どうしてこうなってしまったのかを考えていた。
群れの合流阻止に固執し、E2小隊をE1小隊から分断させてしまった。それさえなければ、この失敗は防げたのではないか。
そんな考えに囚われていた。
「リーズ! 急げ!」
「わ、わかった!」
撤退を支援するE4小隊のイデリハの声にはっとなり、リーズも撤退に加わった。
作戦は失敗に終わった。あまりに多い群れに対応しきれず、いつも以上に死傷者が多い有様だった。
近くに座り込んでいる者達も、所属小隊はばらばらだ。とにかく生き伸びて帰還することが最優先だった。
帰還するコルベットの中で、リーズは俯いていた。
「こんなこともあるさ。命が助かっただけでもめっけもんよ」
E4小隊でコルベットの守りを固めていたディノがリーズの肩を叩いた。だが、リーズはその手を反射的に払い除ける。
「ふざけるな! 俺がもっと……もっと周囲を見ていれば、こんなことには!」
——戦闘は臨機応変だといって、自分が突出しなければ。
——自分がもっと強ければ。
——自分がもっと周りを見ていれば。
——俺が、俺が、俺が。ああしていれば、こうしていれば。
そんな後悔ばかりがリーズの胸中を支配した。
「ディノの言う通りだ。未知の脅威と戦う以上、予測できない事は多い。今は生き残れたことに感謝しよう」
「ヴィット中隊長……」
ヴィットが隣に座る。リーズは自然と居住まいを正した。ディノはその様子を見て何かを察したのか、別の場所に移っていった。
予想外の事態に可能な限りの対処と指示をし続けた所為か、ヴィットの顔に疲労が色濃く出ていた。
その顔もまた、リーズの中にある後悔の念を一層強くした。
「ヴィット中隊長、今回の失敗は全て俺の責任です。俺が突出しなければ、ここまで損害が出ることはなかった筈です」
気が付けば、ヴィットに頭を下げて謝罪している自分がいた。そんなことで済まされる筈はないけれど、謝らずにはいられなかった。
「……リーズ」
ヴィットはリーズの悲壮な形相を見て、大きく溜息を吐いた。
「今回の損害は中隊全体の責任だ。お前一人の所為でこんな損害になる訳がない」
「で、ですが、俺が命令を聞いて突出なんかしなければ——」
ヴィットの制止を聞いて、E1小隊から離れずに群れと対峙していれば、少なくともE1小隊の死傷者は減らせた筈。
リーズは強くそう思っていた。全ては自分がチームワークを無視して一人で突っ走った所為であると。そう思っていた。
「確かに、そこは猛省すべき点だ。だが、お前一人の行動だけが作戦の失敗を招いた訳ではない」
「どういうことですか?」
「お前が突出した時、他のE2小隊員は誰もお前を止めなかった。それどころか功を焦って競うように突出した。殲滅できるなら問題ないと、俺はそれを大目に見た」
ヴィットはリーズと目線を合わせ、諭すように言い続ける。
「いいか、今回の失敗はそういった判断のミスが重なった結果だ。お前が全てを背負う必要はない」
「……中隊全体の責任であると?」
全く納得しきれていない顔でリーズはヴィットを見ていた。その表情にヴィットは苦笑する。
「周りを見ろ、仲間がいるのがわかるか? お前は一人で《渦》と戦っているんじゃない」
自責の念に凝り固まっていたリーズだが、その一言にはっとなった。
作戦が失敗してから今まで、自分一人の行動について、何が最善だったのか。それしか考えていなかったのだ。
「どうすれば、俺は……」
どうしても突っ走りそうになる自分を制御する術を、今のリーズは持っていない。
リーズは請うようにヴィットを見る。
「仲間を頼れ。仲間に頼られろ。お前はいずれ中隊を率いる立場になるだろう。それまで驕ることなく経験を積み、チームが何たるかを理解するんだ」
そこまで言うと、ヴィットはリーズの肩を叩いて立ち上がり、操縦席の方へ入っていった。
「チームか……」
リーズは周囲を見回した。戦果は惨敗である。だが、それでも生き残ったことに安堵し、安らかな表情で休息を取る仲間達の顔がそこにあった。
彼らは協力して《渦》の消滅を成し得る仲間だ。決して功績を競う相手ではない。
ヴィットの言う『チームが何たるか』、リーズは考え続けていた。
「—了—」
連隊に入隊したリーズは、瞬く間に頭角を現すようになった。
「やるじゃねえか、お前」
手も足も出ずに打ち負かされた隊員がそう強がってきた。彼はリーズより一回りは体格が大きい。
十代の前半から魔物との戦いに身を投じてきたリーズだ。戦い慣れをしており、こと戦闘においては同時期に入隊した誰よりも抜きん出ていた。
「運が良かっただけです」
リーズは首を横に振った。同期の者達は皆、カナーンの守備隊にいた頃の面子と比べても、遥かに強い者達ばかりだ。
「つまらん謙遜はやめろ、年齢は関係ない。もっと自信を持て」
世界中から集められた猛者の中にあっても、リーズは頭一つ抜けていた。
新隊員の入隊によって高まる期待と士気の中、リーズは何度かの作戦に参加していた。
初めの一、二回こそ未知の領域である《渦》の中に入るのだという緊張があったが、回数を重ねればすぐに感じなくなった。
そして、カナーンの守備隊にいた頃では手も足も出なかった魔物でさえ、今はさほど苦労なく倒せる。
「大したことなかったな」
「ああ。これならコアの攻略も何とかなりそうだ」
配属されたE中隊の仲間達と軽口を叩き合う。クラスの高い魔物をいとも簡単に倒せる爽快感と優越感。自分達が作戦を遂行できさえすれば、どうすることもできない災害であった《渦》を消滅させられる。
カナーンの守備隊にいた頃に感じていた、終わりのない閉塞感。連隊に所属したリーズは今、それを晴らしていた。
リーズ達E2小隊の眼前に、狼の姿をした魔物の群れが見えた。
群れは異物であるE中隊に敵意を顕わにし、向かってきている。
狼の姿こそしているが、実際の狼よりも二回り程体格が大きい。
「突破するぞ!」
まずはアサルトライフルの斉射で魔物の動きを止める。その隙にリーズらセプターの扱いに長けた者が次々と群れの魔物を打ち倒していく。
クラスE程度の敵性生物であれば、リーズは意にも介さない。もっと手応えのある魔物はいないのか。
リーズは無意識下にそんなものを探し、敵性生物を殲滅していった。
少しずつ、リーズを先頭としたE2小隊は隊列から外れつつあった。
撤退を見せる敵性生物の先に、第二陣と思しき群れが見えていた。眼前の群れと第二陣の群れに合流され、更に大きな群れになることをE2小隊は危惧したのだ。
「E2小隊! 前に出過ぎだ、下がれ!」
「大丈夫です! それよりも早くこの群れを仕留めてしまわないと、更に大きな群れが来ます!」
作戦指揮を執るヴィットの制止も気に留めず、E2小隊は軽やかに戦場を駆けていく。
「仕方がない……。E2小隊は引き続き群れの殲滅、E1小隊はアーセナルキャリアの進路を確保! E1小隊、くれぐれも分散するなよ!」
「了解!」
ヴィットの指示が各小隊に飛ぶ。その指示を聞いたリーズは、更に突出して群れの殲滅に走った。
「リーズに負けてはおられん。行くぞ!」
同じ小隊のローレンスが続く。彼もリーズに負けず、剣の腕には自信がある猛者であった。
「アイツにばっかりいいカッコさせてたまるか!」
リーズを追い掛け、競うようにE2小隊員達が続いた。
E2小隊は、ヴィットのいるE1小隊やアーセナルキャリアが進行している場所からだいぶ離れたところまで来ていた。
「少し離れすぎたか……」
「目標の群れは殲滅した、戻ろう」
E2小隊長であるベルキンの指示でエンジニアが周囲の様子を調べ、周辺に敵性生物の反応がないことを確認したその時だった。
ベルキンが持っている通信機から緊急アラートが鳴り響く。
『アーセナルキャリアより伝達。三時方向より敵性生物の群れが出現! 至急応援を!』
「何だと!?」
『E2小隊、お前達が殲滅した群れよりも数が多い、こっちが本体だ! 急いで戻れ!』
「まさか俺達は……」
気付いた時には既に遅かった。リーズ達E2小隊が相手にしていたのは囮だったのだ。
『交戦開始する!』
通信機から怒声とも悲鳴とも付かない声が聞こえてくる。
「急いで戻るぞ!」
E2小隊はE1小隊とアーセナルキャリアが進行している場所へ向かって駆け戻った。
E2小隊が合流した時、E1小隊は少なくない犠牲者を出しながらも、何とか迫り来る群れをアーセナルキャリアに近付けまいとしていた。
リーズ達も応戦するが、何より数が多い。その上、空から巨大な蝙蝠の姿をした敵性生物までが出現した。
何とか対抗し、損害を出さないだけで精一杯であった。
「アーセナルキャリア損傷! コア回収は不可能とエンジニアが言っています!」
「しまった!」
「くっ……これ以上の戦闘は無理か。作戦は失敗だ。全員、速やかにコルベットに撤退せよ!」
ヴィットの号令が、各所で戦っていた隊員達に伝わる。
コルベットの守備についていたE4小隊が、撤退の援護にやって来た。
「撤退だ!」
撤退の号令が聞こえる中、リーズは一人、どうしてこうなってしまったのかを考えていた。
群れの合流阻止に固執し、E2小隊をE1小隊から分断させてしまった。それさえなければ、この失敗は防げたのではないか。
そんな考えに囚われていた。
「リーズ! 急げ!」
「わ、わかった!」
撤退を支援するE4小隊のイデリハの声にはっとなり、リーズも撤退に加わった。
作戦は失敗に終わった。あまりに多い群れに対応しきれず、いつも以上に死傷者が多い有様だった。
近くに座り込んでいる者達も、所属小隊はばらばらだ。とにかく生き伸びて帰還することが最優先だった。
帰還するコルベットの中で、リーズは俯いていた。
「こんなこともあるさ。命が助かっただけでもめっけもんよ」
E4小隊でコルベットの守りを固めていたディノがリーズの肩を叩いた。だが、リーズはその手を反射的に払い除ける。
「ふざけるな! 俺がもっと……もっと周囲を見ていれば、こんなことには!」
——戦闘は臨機応変だといって、自分が突出しなければ。
——自分がもっと強ければ。
——自分がもっと周りを見ていれば。
——俺が、俺が、俺が。ああしていれば、こうしていれば。
そんな後悔ばかりがリーズの胸中を支配した。
「ディノの言う通りだ。未知の脅威と戦う以上、予測できない事は多い。今は生き残れたことに感謝しよう」
「ヴィット中隊長……」
ヴィットが隣に座る。リーズは自然と居住まいを正した。ディノはその様子を見て何かを察したのか、別の場所に移っていった。
予想外の事態に可能な限りの対処と指示をし続けた所為か、ヴィットの顔に疲労が色濃く出ていた。
その顔もまた、リーズの中にある後悔の念を一層強くした。
「ヴィット中隊長、今回の失敗は全て俺の責任です。俺が突出しなければ、ここまで損害が出ることはなかった筈です」
気が付けば、ヴィットに頭を下げて謝罪している自分がいた。そんなことで済まされる筈はないけれど、謝らずにはいられなかった。
「……リーズ」
ヴィットはリーズの悲壮な形相を見て、大きく溜息を吐いた。
「今回の損害は中隊全体の責任だ。お前一人の所為でこんな損害になる訳がない」
「で、ですが、俺が命令を聞いて突出なんかしなければ——」
ヴィットの制止を聞いて、E1小隊から離れずに群れと対峙していれば、少なくともE1小隊の死傷者は減らせた筈。
リーズは強くそう思っていた。全ては自分がチームワークを無視して一人で突っ走った所為であると。そう思っていた。
「確かに、そこは猛省すべき点だ。だが、お前一人の行動だけが作戦の失敗を招いた訳ではない」
「どういうことですか?」
「お前が突出した時、他のE2小隊員は誰もお前を止めなかった。それどころか功を焦って競うように突出した。殲滅できるなら問題ないと、俺はそれを大目に見た」
ヴィットはリーズと目線を合わせ、諭すように言い続ける。
「いいか、今回の失敗はそういった判断のミスが重なった結果だ。お前が全てを背負う必要はない」
「……中隊全体の責任であると?」
全く納得しきれていない顔でリーズはヴィットを見ていた。その表情にヴィットは苦笑する。
「周りを見ろ、仲間がいるのがわかるか? お前は一人で《渦》と戦っているんじゃない」
自責の念に凝り固まっていたリーズだが、その一言にはっとなった。
作戦が失敗してから今まで、自分一人の行動について、何が最善だったのか。それしか考えていなかったのだ。
「どうすれば、俺は……」
どうしても突っ走りそうになる自分を制御する術を、今のリーズは持っていない。
リーズは請うようにヴィットを見る。
「仲間を頼れ。仲間に頼られろ。お前はいずれ中隊を率いる立場になるだろう。それまで驕ることなく経験を積み、チームが何たるかを理解するんだ」
そこまで言うと、ヴィットはリーズの肩を叩いて立ち上がり、操縦席の方へ入っていった。
「チームか……」
リーズは周囲を見回した。戦果は惨敗である。だが、それでも生き残ったことに安堵し、安らかな表情で休息を取る仲間達の顔がそこにあった。
彼らは協力して《渦》の消滅を成し得る仲間だ。決して功績を競う相手ではない。
ヴィットの言う『チームが何たるか』、リーズは考え続けていた。
「—了—」