依照引導者的指示來到的,是充滿熱氣與潮溼空氣的地方。
抵抗著酷熱持續前進的途中,上空飄舞著像是紅色衣服的東西。
「那是什麼啊?」
最先發現的是,走在隊伍前面的沃蘭德。
「紅色……」
「布?不,不是」
伊芙琳與勞爾往沃蘭德的視線前方看過去。
他們看到的是圓形身軀的魚在空中飛舞。背上跨坐著女性身型的魔物。
最明顯的特徵是那個尾鰭。像洋裝裙襬般的搖曳,優雅地展開,就像在跳著舞般地夢幻。
|
「……好美」
「等等,有什麼──」
舞動的尾鰭後面好像有什麼在搖晃著。一個、二個,最後三個在搖晃著的東西出現了。
一開始只是像光一樣,直到靠近沃蘭德一行人附近,才終於發現那是什麼。
「是鬼火!」
勞爾像是警戒般的大喊。
聽到勞爾說的話後,沃蘭德進入戰鬥狀態,勞爾與伊芙琳像是要保護引導者般往後退了一步。
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沃蘭德與瑟雷斯夏爾一起,輕鬆地打倒了鬼火群。
「好了,這樣就沒事了」
順利打倒鬼火的沃蘭德轉身向三人說道。
「不,還沒完」
「勞爾?敵人已經打倒了啊?」
「你看」
「剛才的魚,還在呢……」
聽了伊芙琳與勞爾的話,沃蘭德向著二人的視線看過去。
看得到剛才的魚在稍遠的地方。悠悠地一邊盤旋一邊像是保持著不近不遠的距離。那個樣子,看起來像是在監視著沃蘭德一行人的行動。
「怎麼辦,大小姐」
勞爾詢問引導者。雖然這次探索的隊長自然而然的由年長的勞爾擔當,但是決定如何行動的還是引導者。
「那是個試煉,打倒她吧」
至今一直沉默著的引導者,靜靜地回答了勞爾詢問。
「好像也只能追上去了呢」
「嗯嗯,好,你們二個也沒問題吧?」
就這樣,三人開始緊追著那個像在空中游泳漂浮著的魚。
|
一路上與以往的探索並沒有什麼不同,魔物襲擊的次數也沒有比較多。
但是,阻擋前方去路的魔物們後頭,是飄著紅色尾鰭的魚和女性身型的魔物直盯著這裡,感覺很不舒服。
緊追在魚後頭前進不久,就在打倒了像布一樣的魔物時勞爾說話了。
「稍微休息一下比較好,我會看著那隻魚,你們二個人就跟大小姐待在一起」
勞爾向二人與引導者說完,便引導沃蘭德他們到魚看不見的地方休息。
確認二人與引導者隨意坐下後,勞爾便一個人回到看得到魚的地方。
|
平靜的時光到來。
濁橙色的草在搖擺、濁紫色的雲像水面閃耀般地飄過天空。雖然是無論看了多久都看不習慣的景象。
「那個,伊芙琳,妳還記得嗎?」
「……記得,什麼?」
「那時,也像現在一樣熱對吧」
沃蘭德向脖子微傾的伊芙琳開始說道。
|
那是個炎熱的一天,雖然羅占布爾克與其他地方比起來溫差較不大,但這天白天所累積下來的熱氣充斥著夜晚的街道。
沃蘭德那天也消滅了一個犯罪組織,正準備回家的途中。
「啊!瑟雷斯夏爾,降落」
沃蘭德經過公園時看到了認識的少女,命令瑟雷斯夏爾降落在公園。
坐在長椅上的,是經常在這裡會遇見的少女,伊芙琳。
「呀,伊芙琳」
「晚安……」
伊芙琳呆呆地看著沃蘭德。
雖然伊芙琳一直都是這個樣子,但不知道是不是因為今晚炎熱的關係,感覺比平常看起來更恍惚了。
「還好嗎?」
「沒事,老毛病了」
雖然她這樣回答,但我覺得伊芙琳好像因炎熱呼吸有點困難。我覺得我就這樣放著她不管的話,就會昏倒了吧。
沃蘭德想做點什麼,有什麼東西可以讓她稍微忘記這個炎熱。
想著想著,想起剛剛穿過鬧街的時候有間冰店。
「對了,等等哦!」
「啊……」
雖然已經半夜了,但那家冰店大概是為了賣給晚上,工作完回家的勞工們所以還在營業。
沃蘭德利用瑟雷斯夏爾來偽裝身高與容貌,喬裝成夜晚在外遊蕩素行不良的少年,買了二個冰淇淋。
「小子,夜遊也要適可而止啊!」
「知道啦!」
不理會冰店的多管閒事,沃蘭德趕緊回去公園。
伊芙琳很隨心所欲,不快點回去的話,她很有可能就那樣離開了。
回到公園後,伊芙琳和剛才一樣,呆望著天空。
不曉得是在等沃蘭德還是純粹無力移動,但伊芙琳還在這裡就讓沃蘭德感到安心。
「久等了!」
「……這是?」
「是冰淇淋,一起吃吧!」
伊芙琳看了看出現在眼前的冰淇淋後,畏畏縮縮地接了下來。
然後,吃了一大口。
「……好好吃」
她的表情出現了變化,雖然和平時恍惚時的表情沒什麼不同,但有那麼一點點淺淺的微笑。
看了這變化的沃蘭德也吃了自己的冰,冰冰甜甜的讓人感覺忘卻了炎熱。
「嗯,好吃!」
年幼的少年少女二個人單獨在深夜的公園裡。有種如果被陌生的大人看見了該怎麼辦。
心中那種小小的緊張感。
|
「以前發生過的事啊。不過,我也是最近才想起來的」
「那個冰淇淋,冰冰的好好吃」
伊芙琳就像那個時候一樣露出淺淺的微笑,慢慢地點頭。
「好想再吃冰淇淋對吧」
「嗯嗯,但是真是不可思議」
伊芙琳說完便望著遠處的天空,望著天空的伊芙琳的眼神非常地空洞。
「怎麼了?」
「因為,那明明是我夢到的事,為什麼你會知道呢?」
「不是!不是的,伊芙琳,一定是妳沒有完全想起來,所以才會跟夢搞混的!」
沃蘭德向是要蓋過伊芙琳的話似地強烈否定。
沃蘭德清楚地記得那時的事。沃蘭德自己最清楚,這不是夢境。
「我不懂……」
「因為,如果那是妳夢到的,我就不可能會記得的對吧」
沃蘭德拚命地解釋,因為二個人的回憶如果被一句『夢境』帶過,是非常悲傷的事。
「……說的,也是」
「對吧!」
伊芙琳稍微思考了一下沃蘭德的話後點點頭。不知道是否還沒有完全接受,露出有點困惑的表情。
但伊芙琳願意重新思考這到底是不是夢而已,沃蘭德就已經很高興了。
「各位,休息得差不多了,魚往這邊過來了」
監視魚的勞爾回來了。
就像勞爾說的,那條魚優雅地往沃蘭德他們的方向游過來了。
「好,我會加油的!」
沃蘭德氣勢威猛地站了起來,因為能與伊芙琳擁有共同的回憶,給了他元氣。
「沃蘭德怎麼變得那麼有幹勁,發生什麼事了嗎?」
勞爾看到沃蘭德的樣子,向伊芙琳問道。
「……秘密」
面對勞爾的問題,伊芙琳只微笑著說了兩個字而已。
|
「─完─」
「冷たい思い出」
導き手の示すままに踏み入れた土地は、暑さと湿った空気が支配していた。
暑さに負けじと進む中、ひらりと赤い衣ようなものが空を舞う。
「あれ、なんだろう?」
最初にそれに気がついたのは先頭を歩いていたヴォランドだった。
「赤い……」
「布? いや、違うな」
ヴォランドの視線の方向をイヴリンとラウルが追う。
彼らの視線が捉えたのは、丸い体躯の空飛ぶ魚だった。背には女性型の魔物が乗っている。
何より特徴的なのはその尾ひれ。尾ひれがドレスの裾のようにひらひらと優雅に広がり舞っていて、その様子はとても幻想的だ。
「きれい……」
「まって、何か……」
尾びれが舞ったその後ろに何かが揺らめく。一つ、二つ。最終的に三つの揺らめきが表れた。
最初は揺らめく光のようなものだったが、ヴォランドたちに近づくにつれ、正体がはっきりとしていく。
「鬼火だ!」
ラウルが警戒するように声を上げる。
その言葉に、ヴォランドは戦闘態勢にはいり、ラウルとイヴリンは導き手を守るように一歩後ろへと下がった。
ヴォランドとセレスシャルの連携により、鬼火の群れはあっさりと倒された。
「よし。これで大丈夫かな」
危なげなく鬼火を倒したヴォランドは三人を振り返る。
「いや、まだだ」
「ラウルさん? 敵はもう倒したよ?」
「見ろ」
「さっきの魚、まだいるのね……」
イヴリンとラウルの言葉に、ヴォランドは二人の視線を追う。
先ほどの魚がやや遠くに見える。ゆったりと旋回しながらつかず離れずの距離を保っている姿は、まるでヴォランドたちの行動を監視しているようにも見えた。
「どうする、お嬢さん」
ラウルは導き手に尋ねる。今回の探索は年長者のラウルが自然とまとめ役になっているが、どのように行動するか判断を下すのは導き手だ。
「あれは、試練です。倒しましょう」
今までだんまりだった導き手が、ラウルの問いかけに静かに答える。
「追うしかなさそうだね」
「ああ。二人ともいけるな」
こうして三人はあの空中を泳ぐように浮遊する魚を追うこととなった。
道中はいつも探索しているのとさほど変わらず、魔物がヴォランドたちを襲う回数もそれほど多くはない。
だが、行く手を阻む魔物たちの後ろでは、赤い尾をひらめかせる魚と女性型の魔物がじっとヴォランドたちを見ている様子は気味の悪いものがある。
しばらく魚の後を追うように進み、布のような魔物を倒したところで、ラウルから声がかかった。
「少し休憩したほうがいいな。自分はあの魚を見張っているから、二人はお嬢さんと一緒にいてくれ」
ラウルは二人と導き手に言い、頷いたのを確認すると、ヴォランドたちを空を旋回する魚が視界に入らない場所に誘導する。
二人と導き手が思い思いに座ったのを確認すると、ラウルは一人あの魚が見えるところへ向かった。
静かな時間が訪れた。
濁った橙色の草がゆれ、これまた濁った紫色の雲が水面のように煌く空を過ぎるという、いつまでも見慣れない光景が広がっている以外は。
「ねえ、イヴリン、覚えてる?」
休憩の最中、ヴォランドはふと思い立ちイヴリンに話しかけた。
「何を、かしら……?」
「あの時も、こんな風に暑いときだったんだよ」
首を小さくかしげるイヴリンに、ヴォランドは語り始める。
その日は、暑い日だった。他の土地に比べて、寒暖の差がさほど激しくないローゼンブルグだが、この日ばかりは夜の街を昼間に溜め込んだ熱が包んでいた。
ヴォランドはその日も犯罪組織の一つを壊滅させ、家に帰っている最中であった。
「あ! セレスシャル、降りよう!」
通りかかった公園に、見知った少女を見つけたヴォランドはセレスシャルに命令し、公園に降り立つ。
ベンチに座っていたのは、ここでよく出会う少女イヴリンだった。
「やあ、イヴリン」
「こんばんは……」
イヴリンはぼんやりとヴォランドを見やる。
いつもこんな様子のイヴリンだが、今日は暑いせいか特にその傾向が強いような気がした。
「大丈夫?」
「平気。いつものことだもの」
そうは言われたものの、心なしか息も上がっているような。このまま放っておけば暑さで倒れてしまうのではないか。そんな気がした。
なんとかしたい。少しでもこの暑さを忘れさせてあげたいとヴォランドは考える。
考えるうちに、繁華街をすり抜けた際に繁華街の隅で店を開けたままにしているアイス屋があったのを思い出す。
「そうだ、ちょっと待ってて!」
「あ……」
夜も更けてだいぶ経つが、仕事を終えこれから帰宅するであろう中層の労働者に向けてまだ営業しているアイス屋を訪れる。
ヴォランドはセレスシャルをつかって身長や容姿をごまかし、夜遊びする素行不良の少年のふりをしてコーンアイスを二つ購入する。
「ボウズ、夜遊びもほどほどにな!」
「わかってるさ!」
アイス屋のお節介を背に、ヴォランドは公園に急いで戻る。
イヴリンは気まぐれなところがあり、早く戻らないとどこかへ行ってしまう可能性が高かったのだ。
公園に戻ると、イヴリンは最初と同じようにぼんやりと空を見つめていた。
待っていてくれたのか、動く気力がなかったのかは分からないが、そこにいてくれたこと自体にヴォランドはほっとする。
「お待たせ!」
「これは……?」
「アイスだよ。一緒に食べよう?」
イヴリンは目の前に差し出されたコーンアイスを見つめると、おずおずと受け取った。
そして、ヴォランドから受け取ったアイスを一口。
「……おいしい」
彼女の表情に変化が現れる。いつもはぼんやりと表情も変えずにいたのが、わずかではあるが微笑んだのだ。
それを見てヴォランドも自分のアイスを食べる。冷たい甘さが暑さを忘れさせてくれる気がした。
「うん、おいしい」
真夜中の公園に、年端もいかない少年と少女が二人きり。見知らぬ大人に見つかったらどうしよう。
そんなちょっとしたドキドキ感があった。
「ってことがあったんだよ。といっても、ボクも最近思い出したんだけどね」
「あのアイスは、冷たくておいしかった」
イヴリンはあの時と同じようにわずかに微笑むとゆっくりと頷いた。
「また、アイス食べたいね」
「ええ。でも、不思議……」
イヴリンはそういって、遠くの空を見上げる。空を見るイヴリンの目は酷く虚ろだ。
「何が?」
「だって、私の夢の中のお話なのに、なんであなたはそれを知っているの?」
「違う。違うよ、イヴリン。きっと君はちゃんと思い出してないんだ、だから夢と間違えてるんだよ!」
イヴリンの言葉にヴォランドはかぶせるように否定した。
ヴォランドはあの時のことをはっきりと思い出している。夢なんかではないことは、ヴォランド自身が一番よく分かっているのだ。
「分からないわ……」
「だって、君の夢だったらボクが覚えているはずがないじゃないか」
ヴォランドは必死だった。二人の思い出を夢の一言で終わらせるのは、あまりにも悲しすぎた。
「……そう、よね」
「そうだよ!」
その言葉に、イヴリンは少し考えて頷いた。まだ納得はしきれていないのか、困惑ともとれる曖昧な表情をしていたが。
それでも、夢ではないと思いなおしてくれたことがヴォランドは嬉しかった。
「みんな、そろそろ休憩は終わりだ。あの魚がこっちに向かってくる」
魚の見張りをしていたラウルが戻ってきた。
彼の言うとおり、あの魚がヴォランドたちの方へと優雅に舞いながら近づいてくる。
「よし、ボク頑張るよ!」
ヴォランドは勢い良く立ち上がる。イヴリンと思い出が共有できたことが、彼に英気を与えていた。
「随分やる気だな。何かあったか?」
その様子に、ラウルは首をかしげイヴリンに問う。
「……内緒」
ラウルの疑問に、イヴリンは一言だけ言って微笑んだ。
「—了—」
導き手の示すままに踏み入れた土地は、暑さと湿った空気が支配していた。
暑さに負けじと進む中、ひらりと赤い衣ようなものが空を舞う。
「あれ、なんだろう?」
最初にそれに気がついたのは先頭を歩いていたヴォランドだった。
「赤い……」
「布? いや、違うな」
ヴォランドの視線の方向をイヴリンとラウルが追う。
彼らの視線が捉えたのは、丸い体躯の空飛ぶ魚だった。背には女性型の魔物が乗っている。
何より特徴的なのはその尾ひれ。尾ひれがドレスの裾のようにひらひらと優雅に広がり舞っていて、その様子はとても幻想的だ。
「きれい……」
「まって、何か……」
尾びれが舞ったその後ろに何かが揺らめく。一つ、二つ。最終的に三つの揺らめきが表れた。
最初は揺らめく光のようなものだったが、ヴォランドたちに近づくにつれ、正体がはっきりとしていく。
「鬼火だ!」
ラウルが警戒するように声を上げる。
その言葉に、ヴォランドは戦闘態勢にはいり、ラウルとイヴリンは導き手を守るように一歩後ろへと下がった。
ヴォランドとセレスシャルの連携により、鬼火の群れはあっさりと倒された。
「よし。これで大丈夫かな」
危なげなく鬼火を倒したヴォランドは三人を振り返る。
「いや、まだだ」
「ラウルさん? 敵はもう倒したよ?」
「見ろ」
「さっきの魚、まだいるのね……」
イヴリンとラウルの言葉に、ヴォランドは二人の視線を追う。
先ほどの魚がやや遠くに見える。ゆったりと旋回しながらつかず離れずの距離を保っている姿は、まるでヴォランドたちの行動を監視しているようにも見えた。
「どうする、お嬢さん」
ラウルは導き手に尋ねる。今回の探索は年長者のラウルが自然とまとめ役になっているが、どのように行動するか判断を下すのは導き手だ。
「あれは、試練です。倒しましょう」
今までだんまりだった導き手が、ラウルの問いかけに静かに答える。
「追うしかなさそうだね」
「ああ。二人ともいけるな」
こうして三人はあの空中を泳ぐように浮遊する魚を追うこととなった。
道中はいつも探索しているのとさほど変わらず、魔物がヴォランドたちを襲う回数もそれほど多くはない。
だが、行く手を阻む魔物たちの後ろでは、赤い尾をひらめかせる魚と女性型の魔物がじっとヴォランドたちを見ている様子は気味の悪いものがある。
しばらく魚の後を追うように進み、布のような魔物を倒したところで、ラウルから声がかかった。
「少し休憩したほうがいいな。自分はあの魚を見張っているから、二人はお嬢さんと一緒にいてくれ」
ラウルは二人と導き手に言い、頷いたのを確認すると、ヴォランドたちを空を旋回する魚が視界に入らない場所に誘導する。
二人と導き手が思い思いに座ったのを確認すると、ラウルは一人あの魚が見えるところへ向かった。
静かな時間が訪れた。
濁った橙色の草がゆれ、これまた濁った紫色の雲が水面のように煌く空を過ぎるという、いつまでも見慣れない光景が広がっている以外は。
「ねえ、イヴリン、覚えてる?」
休憩の最中、ヴォランドはふと思い立ちイヴリンに話しかけた。
「何を、かしら……?」
「あの時も、こんな風に暑いときだったんだよ」
首を小さくかしげるイヴリンに、ヴォランドは語り始める。
その日は、暑い日だった。他の土地に比べて、寒暖の差がさほど激しくないローゼンブルグだが、この日ばかりは夜の街を昼間に溜め込んだ熱が包んでいた。
ヴォランドはその日も犯罪組織の一つを壊滅させ、家に帰っている最中であった。
「あ! セレスシャル、降りよう!」
通りかかった公園に、見知った少女を見つけたヴォランドはセレスシャルに命令し、公園に降り立つ。
ベンチに座っていたのは、ここでよく出会う少女イヴリンだった。
「やあ、イヴリン」
「こんばんは……」
イヴリンはぼんやりとヴォランドを見やる。
いつもこんな様子のイヴリンだが、今日は暑いせいか特にその傾向が強いような気がした。
「大丈夫?」
「平気。いつものことだもの」
そうは言われたものの、心なしか息も上がっているような。このまま放っておけば暑さで倒れてしまうのではないか。そんな気がした。
なんとかしたい。少しでもこの暑さを忘れさせてあげたいとヴォランドは考える。
考えるうちに、繁華街をすり抜けた際に繁華街の隅で店を開けたままにしているアイス屋があったのを思い出す。
「そうだ、ちょっと待ってて!」
「あ……」
夜も更けてだいぶ経つが、仕事を終えこれから帰宅するであろう中層の労働者に向けてまだ営業しているアイス屋を訪れる。
ヴォランドはセレスシャルをつかって身長や容姿をごまかし、夜遊びする素行不良の少年のふりをしてコーンアイスを二つ購入する。
「ボウズ、夜遊びもほどほどにな!」
「わかってるさ!」
アイス屋のお節介を背に、ヴォランドは公園に急いで戻る。
イヴリンは気まぐれなところがあり、早く戻らないとどこかへ行ってしまう可能性が高かったのだ。
公園に戻ると、イヴリンは最初と同じようにぼんやりと空を見つめていた。
待っていてくれたのか、動く気力がなかったのかは分からないが、そこにいてくれたこと自体にヴォランドはほっとする。
「お待たせ!」
「これは……?」
「アイスだよ。一緒に食べよう?」
イヴリンは目の前に差し出されたコーンアイスを見つめると、おずおずと受け取った。
そして、ヴォランドから受け取ったアイスを一口。
「……おいしい」
彼女の表情に変化が現れる。いつもはぼんやりと表情も変えずにいたのが、わずかではあるが微笑んだのだ。
それを見てヴォランドも自分のアイスを食べる。冷たい甘さが暑さを忘れさせてくれる気がした。
「うん、おいしい」
真夜中の公園に、年端もいかない少年と少女が二人きり。見知らぬ大人に見つかったらどうしよう。
そんなちょっとしたドキドキ感があった。
「ってことがあったんだよ。といっても、ボクも最近思い出したんだけどね」
「あのアイスは、冷たくておいしかった」
イヴリンはあの時と同じようにわずかに微笑むとゆっくりと頷いた。
「また、アイス食べたいね」
「ええ。でも、不思議……」
イヴリンはそういって、遠くの空を見上げる。空を見るイヴリンの目は酷く虚ろだ。
「何が?」
「だって、私の夢の中のお話なのに、なんであなたはそれを知っているの?」
「違う。違うよ、イヴリン。きっと君はちゃんと思い出してないんだ、だから夢と間違えてるんだよ!」
イヴリンの言葉にヴォランドはかぶせるように否定した。
ヴォランドはあの時のことをはっきりと思い出している。夢なんかではないことは、ヴォランド自身が一番よく分かっているのだ。
「分からないわ……」
「だって、君の夢だったらボクが覚えているはずがないじゃないか」
ヴォランドは必死だった。二人の思い出を夢の一言で終わらせるのは、あまりにも悲しすぎた。
「……そう、よね」
「そうだよ!」
その言葉に、イヴリンは少し考えて頷いた。まだ納得はしきれていないのか、困惑ともとれる曖昧な表情をしていたが。
それでも、夢ではないと思いなおしてくれたことがヴォランドは嬉しかった。
「みんな、そろそろ休憩は終わりだ。あの魚がこっちに向かってくる」
魚の見張りをしていたラウルが戻ってきた。
彼の言うとおり、あの魚がヴォランドたちの方へと優雅に舞いながら近づいてくる。
「よし、ボク頑張るよ!」
ヴォランドは勢い良く立ち上がる。イヴリンと思い出が共有できたことが、彼に英気を与えていた。
「随分やる気だな。何かあったか?」
その様子に、ラウルは首をかしげイヴリンに問う。
「……内緒」
ラウルの疑問に、イヴリンは一言だけ言って微笑んだ。
「—了—」