入夜後。
即使看不清楚,勞爾仍與其他的施工人員繼續修復著馬路。
今天包含勞爾在內一共三人在進行施工,但是再怎麼看,工程量與施工人員的數量都不成比例。儘管如此,組織卻還禁止使用夜間照明設備。
組織長官是說,由於市政府給這些工程發包的預算變少了,所以必須要在各種地方減少經費的開
銷。
「真是,這根本不可能做得完嘛」
「基本上,叫我們三個人在今天之內做完的人,根本腦子有病吧」
「真的,雖然政府也蠢,但是一昧聽從政府的組織也沒好到哪兒去吧?」
二位施工人員不滿地發著牢騷,勞爾則不發一語地做事。
|
總算完成了這天的進度後,勞爾走向他們在回家的路上總會順道過去的酒吧。
常常都是用廉價的酒,來慰勞這貧困的生活。
進入店內,大廳的一角被平常沒見過的男子們佔據。穿著看起來像是暴風駕馭者,在這個酒吧裡,大部分都是身穿工作服的男性顧客居多,所以他們顯得特別地醒目。
勞爾雖然短暫感到疑惑,但工作夥伴們催促他坐下。
沒多久,熟識的服務生到勞爾他們的位子旁來點餐。
「要點什麼呢?老樣子?還是要來點別的?」
說話明快清楚的這位女性,是這店家老闆的女兒。與勞爾從年幼時就認識了。
點完餐後,勞爾問起了看似暴風駕馭者一行人的事。
「蕾緹,那些人是?不是這裡的居民對吧?」
「我也不太清楚……。他們是我姑姑帶來的人,也不能隨便應付」
「姑姑?」
「嗯。啊,對了,還沒有跟你說過。她是我爸爸的姊姊,嫁給了暴風駕馭者」
「原來如此。那,妳姑姑是跟老公一起回娘家嗎」
「唔~,算,是吧?」
蕾緹似乎欲言又止。她大概也對於伯母突然返鄉感到驚訝吧。
「蕾緹!點餐!」
「來了!抱歉,晚點再聊」
從別桌傳來呼叫聲,蕾緹匆忙趕去。
|
發著牢騷喝著便宜的酒。雖然是種逃避現實的行為,但是也只有這樣,才能宣洩日常的悶氣。
政府打著資金短缺的理由,裁減了娛樂設施的數量。剩下的設施也調高了價格,只有一部份的有錢人才有辦法去玩。
「我下次也去參加抗議遊行好了。勞爾也會參加對吧?」
「嗯。我想,能做多少是多少」
勞爾點點頭。後天的早上,預定會有反對增稅的抗議遊行。
|
勞爾所居住的都市,是所屬於擁有屈指可數的大型障壁的尹貝羅達王國。
尹貝羅達王國是生產障壁的始祖工業都市。因此,擁有多個在現今已無法生產,被稱作為薄暮時代遺產的高性能小型障壁。
聽說他們是藉由障壁的恩惠,來吸收一些中規模的城市,才形成國家的。
但是時代漸漸進步,治理尹貝羅達的王族已經腐敗。
障壁所產出的利益並沒有用在國家上,而是被那被王族任意指示人民的官員,以及貴族們給獨佔了。
不僅向市民增加課稅,並且反比例地減少回饋在市民上的資金。使得市民們的憤怒情緒不斷地累積。
|
「抗議遊行也無法把我們的意見傳到官員們那裡,我覺得這是徒勞無功」
「但是,也不能繼續這樣下去吧?」
「可是,我也不想變成像海登的人一樣」
市民的鬱悶,終於在三年前海登州爆發了。海登州執行了王政的命令,將當時抗議的市民以『為了鎮壓暴動才不得已地殺害』為藉口,造成了非常多的犧牲者。
「市政府總有一天會理解我們的時期早就過了,我想在還能行動時行動」
已經無法繼續過這種辛勞的生活了,勞爾覺得,要趁身體還有力氣行動時,做些自己能做得到的事。
所以才要去參加抗議遊行。
|
「我可以跟你們一起坐嗎?」
看似暴風駕馭者的男人,來到了勞爾他們的桌前。
「我聽到你們在說我很有興趣的話題,我不會白聽」
話完,就拿出在這酒場算價值不斐的酒出來。
「沒有,我們也沒說什麼有趣的事……」
「是嗎?」
跟每天都疲倦不堪的作業員不同,對方的眼睛炯炯有神。仔細看的話,發現他還很年輕。勞爾覺得應該跟自己差不多。
「我們只說了抗議遊行的事……」
「沒錯,可以詳細告訴我嗎」
「就算請我們喝好酒,我們也只會說些抱怨的話而已哦?」
「沒關係」
勞爾他們用疑惑的眼神,看著這說話莫名其妙的男人。
但是,能喝到平常喝不到的酒,而且也沒膽量拒絕。
勞爾他們邀請了那不可思議的男人一起入坐。
|
「遊行的規模大概是多大呢?」
那位自稱是帕蘭達因的男子,毫不吝惜地招待高級酒給勞爾他們。
然後藉此,輕鬆地向我們問抗議遊行的事情。
「我也不太確定,聽說大概會有一百多人參加」
勞爾邊謹慎不讓自己喝得太醉,邊跟帕蘭達因說有關於遊行的情報。
「原來如此。遊行的主導者是怎樣的人?」
「我也不太清楚──」
「你要參加陌生人所主導的遊行?」
「因為,我無法就這樣坐以待斃」
「工作量不斷地增加。但薪水完全不升。稅金還越來越重,我已經快受不了了」
勞爾他們邊喝酒邊吐露對政府的不滿,帕蘭達因認真地看著他們點頭同意。
「你為什麼決定要參加遊行?」
帕蘭達因聽了勞爾他們很多抱怨與不滿之言後,問道。
「因為目前,除了抗議遊行以外沒有別的辦法」
「隨意訴之暴力,只會被武裝的州兵殺掉而已」
在海登州發生的暴動鎮壓新聞,足夠讓想叛亂的市民們退縮。
「說的是,但是一般的抗議遊行應該是沒有意義的」
「你,是來找我們吵架的嗎?」
話說到此,突如其來的否定,讓勞爾他們也因為酒氣而講話不客氣。
帕蘭達因要是再說什麼討架的話,以目前的氣氛隨時都有可能演變成互毆。
「就算對市政府發動抗議,也無法傳達到王族那裡」
「跟王族沒有關係吧?我們只是想阻止增稅」
「那麼,非得增稅不可的原因在哪裡呢?指揮國政的不是王族嗎?」
「是要我們到王都抗議嗎?太胡來了」
「既然無法改變政府的話,那只能尋求國家的變化了,不是嗎?」
帕蘭達因用銳利的聲音向勞爾他們說道,然後越來越大聲。
等勞爾他們發現時,酒吧整間店的人都在注視勞爾他們這一桌。
「要怎麼做?我聽說這次遊行要集到一百人都已經是極限了」
勞爾向帕蘭達因問道。
「那麼,那個百人的抗議集團有十個呢?甚至二十個,不對,五十個。如果集中在全國各地抗議的人會怎麼樣呢?」
「就可以變成大規模的抗議遊行?」
「不對,不是那樣的。挺身而出的市民如果有五千人的話,就會成為兵,就能組成軍隊。就可以與國家戰鬥,甚至有可能可以改變國家。」
勞爾與帕蘭達因視線對上。勞爾認為這個男人銳利的眼神,完全不像是跟自己年齡相仿的人。
那個眼睛有力量,有吸引人的魅力。
「那種事做得到嗎?」
「做得到。不對,是無論如何都要做到。因此我需要協助者,特別是想改變國家的戰士」
「然後指揮的是你嗎?」
「沒錯,我來指揮軍隊,改變國家。要不要與我一起來拯救國家跟市民呢?」
帕蘭達因強而有力地說道。
「如果我跟大家都能得救的話,我想加入」
「我,我也是!」
勞爾回答之後,周圍的人也都接二連三地贊同。帕蘭達因的話,打動了在酒吧裡的市民。
「您到底是什麼人?」
勞爾看著在酒吧歡聲呼喊的人們,邊向帕蘭達因問道。
勞爾對這位像暴風駕馭者又不像暴風駕馭者的男人,到底是什麼人而感到好奇。
「我嗎?我只是一個普通的男人。但是大家都叫我革命家」
「革命家……」
這就是勞爾與之後被稱為『不屈的鬥士』,在尹貝羅達闖出一片名聲的男人,帕蘭達因認識的過程。
|
「─完─」
3373年 「革命家」
日が暮れる。
ラウルは手元が見えにくくなるのにも構わず、他の作業員と共に路上修復作業を続けていた。
この日はラウルを含めて三人が作業をしているが、どう見ても作業量と作業員の数が見合っていない。にも関わらず、夜間照明を使った工事は組織側から禁止されていた。
組織長が言うには、市政がこういった事業に回す予算を減らしており、様々なところで経費削減を行わなければならないとのことだった。
「ったく、こんなの終わるわけがねぇての」
「大体だな、三人で今日中にどうにかしろって方がおかしいぜ」
「ほんとにな。役所も馬鹿だと思うけど、ホイホイ従うウチの組織ってのもどうなんだよ?」
二人の作業員がぼやく傍ら、ラウルは黙々と作業を行っていた。
何とかその日の工程を終わらせ、ラウル達は帰り道にいつも立ち寄る酒場へ足を向けた。
貧しい暮らしを安酒で慰めるのは、いつものことだった。
店に入ると、ホールの一角を普段は見かけない男達が占拠している。荒野に住むストームライダーと思しき格好をしており、作業服の男が大半を占めるこの酒場ではひどく目立っていた。
ラウルは一瞬だけ戸惑ったものの、仕事仲間達に促されて席に着いた。
程なくして、よく見知ったウェイトレスがラウル達の席に注文を取りにやって来た。
「注文は? いつも通り? それとも違うのにする?」
ハキハキと喋る明快なこの女性は、この店を切り盛りする一家の娘だ。ラウルとは幼い時分から付き合いがあった。
一通り注文をしてから、ラウルはストームライダーと思しき一団のことを尋ねる。
「レティ、あの人達は? ここらの住民じゃないよな?」
「ウチにも何が何だか……。伯母さんが連れてきたんで、適当にってわけにもいかないし」
「伯母さん?」
「うん。あ、そうだ、アンタには話したことなかったね。お父ちゃんのお姉さんなんだけど、ストームライダーのとこに嫁いでるんだ」
「なるほど。で、その伯母さんが旦那達と帰郷したってわけか」
「うーん、そういうこと、になるのかなぁ?」
レティはどことなく歯切れの悪い物言いをする。彼女も突然帰郷してきた伯母に驚いているのだろう。
「レティ! 注文!」
「はぁーい! ごめん、また後でね」
別卓からの声に、レティは慌しく駆けて行った。
愚痴を肴に安酒を飲む。ある種の現実逃避だが、自分達にはこれくらいしか日々の鬱屈を晴らせるものがない。
娯楽施設も市政資金の貧しさを理由に数を減らしており、残った施設も高価格に設定されていて、一部の金持ちしか遊べない。
「やっぱ今度のデモに参加しようかな、俺。ラウルは参加するんだよな?」
「ああ。やれることはやろうと思ってな」
ラウルは頷いた。明後日の朝、増税などに反対するデモが開催される予定となっていた。
ラウルの住む都市は、有数の大型障壁を持つインペローダ王国に属している。
インペローダ王国は障壁を生産する工業都市を祖としている。そのため、現在では生産不可能となった薄暮の時代の遺産として、高性能な小型障壁を多数所持していた。
その障壁の恩恵にあずかろうとした中規模都市を吸収していくことで、国家を形成したと伝えられている。
しかし時代が進むにつれ、インペローダを治める王族は腐敗しきっていた。
障壁が生み出す利益を国のために使うことなく、王族の都合のいいように動く役人や貴族達と独占している。
市民に課せられる税は増える一方、反比例するかのように市民に回る金は減る。市民の鬱憤は溜まる一方であった。
「デモなんかやったところで役人連中には届かないんだし。無駄だと思うけどなあ」
「だが、このままというわけにもいかないだろう?」
「かといって、ハイデンの連中みたいにゃなりたくねえぞ」
市民の鬱屈は、三年ほど前にハイデン州で爆発した。州は王政からの命令に従って反乱を行った市民を『暴動鎮圧のためにやむなく殺害』し、多くの犠牲者を出していた。
「いつか市政府もわかってくれるという時期はとうに過ぎた。行動はできる時にしたいんだ」
このまま辛い生活を送るのには限界があった。ラウルは身体が動くうちに、できることをしなければと思っている。
その一環としてのデモ参加であった。
「相席してもいいか?」
ストームライダーらしき風体の男が、ラウル達の席にやって来た。
「興味深い話が聞こえたんでな。タダとは言わん」
そう言って、この酒場でもそれなりに値の張る酒瓶を差し出した。
「いや、楽しい話は何も……」
「そうか?」
日々に疲れ果てた作業員とは違い、目に強い輝きがあった。よく見ればまだ若い。ラウルには自分と同じ位の年齢に見えた。
「デモの話しかしていないが……」
「それだ。詳しい話を聞かせて欲しい」
「こんな酒を振る舞われても、愚痴しか出ねえぞ?」
「構わん」
ラウル達は突拍子もないことを言うこの男を、不思議なものを見る目で見た。
だが、普段はとても飲むことのできない酒を提供されて、拒否できる胆力も無い。
ラウル達は不思議な男を席に招き入れた。
「デモの規模はどの程度なんだ?」
パランタインと名乗った男は、高い酒を惜しげもなくラウル達に振る舞った。
振る舞うついでに、何気ない物言いでデモの内容を尋ねてくる。
「自分もきちんと把握しているわけではないが、百人程度が参加すると聞いている」
ラウルは酔い過ぎないように注意しつつ、デモの情報をパランタインに話す。
「なるほど。デモの主導者はどのような人物だ?」
「自分もよく知っているわけでは——」
「よく知らない人間のデモに参加するのか?」
「でも、何もしないままではいられない」
「仕事はどんどん増えていくのに賃金は上がらない。税金は重くなる一方だ。もう限界なんだよ」
勧められるままに酒を飲んで市政への不満を言い募るラウル達を、パランタインはじっと見つめて頷いていた。
「何故デモに参加すると決めたんだ?」
ひとしきりラウル達の愚痴や不満を聞いたパランタインが口を開く。
「今のところ、デモをする以外に手が無いからな」
「闇雲に暴力に訴えても、武装した州兵に殺されちまうし」
ハイデン州で起きた暴動鎮圧のニュースは、反乱を考えていた市民達を萎縮させるに十分だった。
「そうだな。だが、ただのデモでは無意味だろう」
「あんた、喧嘩売ってんのか?」
ここに来て突然の否定。ラウル達は酒の勢いも相まって喧嘩腰になる。
パランタインがこれ以上癪に障るようなことを口にすれば、殴り合いに発展しかねない空気があった。
「市政に向かってデモをしたところで、王族の連中には届かない」
「王族は関係ないだろう? 俺達は増税を止めたいだけだ」
「では、その税を増やさねばならなくなった原因はどこにある? 国の政を指揮する王族ではないのか?」
「王都まで行ってデモをしろってか? 無茶苦茶だ」
「市政を変えられないのなら、国に変化を求めるしかない。違うか?」
パランタインは鋭い声でラウル達に言い募り、次第に声高になっていく。
気が付くと、酒場にいる全員が固唾を呑んでラウル達のいる席を見守っていた。
「どうやって? 今回のデモだって百人集めるのが精一杯だと聞いているのに」
ラウルはパランタインに問う。
「では、その百人のデモ集団が十個集まればどうなる? 二十個、いや五十個。国中でデモを実行する者を集めたらどうなる?」
「もっと規模の大きなデモができると?」
「違う。そうじゃない。立ち上がった市民の数が五千になれば、それは兵となる。軍ができる。そうすれば国と戦い、国を変えることさえ可能だ」
ラウルはパランタインに視線を合わせる。鋭い眼光は、とても同じような年齢の男には見えない。
その目には力があった、人を惹き付ける魅力があった。
「そんなことができるのか?」
「できる。いや、何としてもやらなければならない。そのためには協力者が必要だ。国を変えたいと志す戦士が」
「それを指揮するのはあんただってか?」
「そうだ。俺が軍を指揮し、国を変える。俺と共に国を、市民を救わないか?」
力強くパランタインは言い切った。
「それで自分も皆も救われるなら、自分は協力したい」
「お、俺も!」
ラウルの返答に続いて周囲の者達も次々と賛同していく。パランタインの言葉に、酒場にいた市民が動かされた。
「貴方は一体何者なんだ?」
ラウルは盛り上がる酒場の人々を見やり、パランタインに問い掛けた。
ストームライダーのようでストームライダーではないこの男が何者なのか、気になった。
「俺か? 俺は只の男だ。でも、皆は俺のことを革命家とも言っているな」
「革命家……」
それがラウルと、いずれ『不屈の闘士』の異名でインペローダに名を轟かせる男、パランタインとの出会いであった。
「—了—」
日が暮れる。
ラウルは手元が見えにくくなるのにも構わず、他の作業員と共に路上修復作業を続けていた。
この日はラウルを含めて三人が作業をしているが、どう見ても作業量と作業員の数が見合っていない。にも関わらず、夜間照明を使った工事は組織側から禁止されていた。
組織長が言うには、市政がこういった事業に回す予算を減らしており、様々なところで経費削減を行わなければならないとのことだった。
「ったく、こんなの終わるわけがねぇての」
「大体だな、三人で今日中にどうにかしろって方がおかしいぜ」
「ほんとにな。役所も馬鹿だと思うけど、ホイホイ従うウチの組織ってのもどうなんだよ?」
二人の作業員がぼやく傍ら、ラウルは黙々と作業を行っていた。
何とかその日の工程を終わらせ、ラウル達は帰り道にいつも立ち寄る酒場へ足を向けた。
貧しい暮らしを安酒で慰めるのは、いつものことだった。
店に入ると、ホールの一角を普段は見かけない男達が占拠している。荒野に住むストームライダーと思しき格好をしており、作業服の男が大半を占めるこの酒場ではひどく目立っていた。
ラウルは一瞬だけ戸惑ったものの、仕事仲間達に促されて席に着いた。
程なくして、よく見知ったウェイトレスがラウル達の席に注文を取りにやって来た。
「注文は? いつも通り? それとも違うのにする?」
ハキハキと喋る明快なこの女性は、この店を切り盛りする一家の娘だ。ラウルとは幼い時分から付き合いがあった。
一通り注文をしてから、ラウルはストームライダーと思しき一団のことを尋ねる。
「レティ、あの人達は? ここらの住民じゃないよな?」
「ウチにも何が何だか……。伯母さんが連れてきたんで、適当にってわけにもいかないし」
「伯母さん?」
「うん。あ、そうだ、アンタには話したことなかったね。お父ちゃんのお姉さんなんだけど、ストームライダーのとこに嫁いでるんだ」
「なるほど。で、その伯母さんが旦那達と帰郷したってわけか」
「うーん、そういうこと、になるのかなぁ?」
レティはどことなく歯切れの悪い物言いをする。彼女も突然帰郷してきた伯母に驚いているのだろう。
「レティ! 注文!」
「はぁーい! ごめん、また後でね」
別卓からの声に、レティは慌しく駆けて行った。
愚痴を肴に安酒を飲む。ある種の現実逃避だが、自分達にはこれくらいしか日々の鬱屈を晴らせるものがない。
娯楽施設も市政資金の貧しさを理由に数を減らしており、残った施設も高価格に設定されていて、一部の金持ちしか遊べない。
「やっぱ今度のデモに参加しようかな、俺。ラウルは参加するんだよな?」
「ああ。やれることはやろうと思ってな」
ラウルは頷いた。明後日の朝、増税などに反対するデモが開催される予定となっていた。
ラウルの住む都市は、有数の大型障壁を持つインペローダ王国に属している。
インペローダ王国は障壁を生産する工業都市を祖としている。そのため、現在では生産不可能となった薄暮の時代の遺産として、高性能な小型障壁を多数所持していた。
その障壁の恩恵にあずかろうとした中規模都市を吸収していくことで、国家を形成したと伝えられている。
しかし時代が進むにつれ、インペローダを治める王族は腐敗しきっていた。
障壁が生み出す利益を国のために使うことなく、王族の都合のいいように動く役人や貴族達と独占している。
市民に課せられる税は増える一方、反比例するかのように市民に回る金は減る。市民の鬱憤は溜まる一方であった。
「デモなんかやったところで役人連中には届かないんだし。無駄だと思うけどなあ」
「だが、このままというわけにもいかないだろう?」
「かといって、ハイデンの連中みたいにゃなりたくねえぞ」
市民の鬱屈は、三年ほど前にハイデン州で爆発した。州は王政からの命令に従って反乱を行った市民を『暴動鎮圧のためにやむなく殺害』し、多くの犠牲者を出していた。
「いつか市政府もわかってくれるという時期はとうに過ぎた。行動はできる時にしたいんだ」
このまま辛い生活を送るのには限界があった。ラウルは身体が動くうちに、できることをしなければと思っている。
その一環としてのデモ参加であった。
「相席してもいいか?」
ストームライダーらしき風体の男が、ラウル達の席にやって来た。
「興味深い話が聞こえたんでな。タダとは言わん」
そう言って、この酒場でもそれなりに値の張る酒瓶を差し出した。
「いや、楽しい話は何も……」
「そうか?」
日々に疲れ果てた作業員とは違い、目に強い輝きがあった。よく見ればまだ若い。ラウルには自分と同じ位の年齢に見えた。
「デモの話しかしていないが……」
「それだ。詳しい話を聞かせて欲しい」
「こんな酒を振る舞われても、愚痴しか出ねえぞ?」
「構わん」
ラウル達は突拍子もないことを言うこの男を、不思議なものを見る目で見た。
だが、普段はとても飲むことのできない酒を提供されて、拒否できる胆力も無い。
ラウル達は不思議な男を席に招き入れた。
「デモの規模はどの程度なんだ?」
パランタインと名乗った男は、高い酒を惜しげもなくラウル達に振る舞った。
振る舞うついでに、何気ない物言いでデモの内容を尋ねてくる。
「自分もきちんと把握しているわけではないが、百人程度が参加すると聞いている」
ラウルは酔い過ぎないように注意しつつ、デモの情報をパランタインに話す。
「なるほど。デモの主導者はどのような人物だ?」
「自分もよく知っているわけでは——」
「よく知らない人間のデモに参加するのか?」
「でも、何もしないままではいられない」
「仕事はどんどん増えていくのに賃金は上がらない。税金は重くなる一方だ。もう限界なんだよ」
勧められるままに酒を飲んで市政への不満を言い募るラウル達を、パランタインはじっと見つめて頷いていた。
「何故デモに参加すると決めたんだ?」
ひとしきりラウル達の愚痴や不満を聞いたパランタインが口を開く。
「今のところ、デモをする以外に手が無いからな」
「闇雲に暴力に訴えても、武装した州兵に殺されちまうし」
ハイデン州で起きた暴動鎮圧のニュースは、反乱を考えていた市民達を萎縮させるに十分だった。
「そうだな。だが、ただのデモでは無意味だろう」
「あんた、喧嘩売ってんのか?」
ここに来て突然の否定。ラウル達は酒の勢いも相まって喧嘩腰になる。
パランタインがこれ以上癪に障るようなことを口にすれば、殴り合いに発展しかねない空気があった。
「市政に向かってデモをしたところで、王族の連中には届かない」
「王族は関係ないだろう? 俺達は増税を止めたいだけだ」
「では、その税を増やさねばならなくなった原因はどこにある? 国の政を指揮する王族ではないのか?」
「王都まで行ってデモをしろってか? 無茶苦茶だ」
「市政を変えられないのなら、国に変化を求めるしかない。違うか?」
パランタインは鋭い声でラウル達に言い募り、次第に声高になっていく。
気が付くと、酒場にいる全員が固唾を呑んでラウル達のいる席を見守っていた。
「どうやって? 今回のデモだって百人集めるのが精一杯だと聞いているのに」
ラウルはパランタインに問う。
「では、その百人のデモ集団が十個集まればどうなる? 二十個、いや五十個。国中でデモを実行する者を集めたらどうなる?」
「もっと規模の大きなデモができると?」
「違う。そうじゃない。立ち上がった市民の数が五千になれば、それは兵となる。軍ができる。そうすれば国と戦い、国を変えることさえ可能だ」
ラウルはパランタインに視線を合わせる。鋭い眼光は、とても同じような年齢の男には見えない。
その目には力があった、人を惹き付ける魅力があった。
「そんなことができるのか?」
「できる。いや、何としてもやらなければならない。そのためには協力者が必要だ。国を変えたいと志す戦士が」
「それを指揮するのはあんただってか?」
「そうだ。俺が軍を指揮し、国を変える。俺と共に国を、市民を救わないか?」
力強くパランタインは言い切った。
「それで自分も皆も救われるなら、自分は協力したい」
「お、俺も!」
ラウルの返答に続いて周囲の者達も次々と賛同していく。パランタインの言葉に、酒場にいた市民が動かされた。
「貴方は一体何者なんだ?」
ラウルは盛り上がる酒場の人々を見やり、パランタインに問い掛けた。
ストームライダーのようでストームライダーではないこの男が何者なのか、気になった。
「俺か? 俺は只の男だ。でも、皆は俺のことを革命家とも言っているな」
「革命家……」
それがラウルと、いずれ『不屈の闘士』の異名でインペローダに名を轟かせる男、パランタインとの出会いであった。
「—了—」