佛羅倫斯與生父並肩走著。
父親身上穿的鎧甲上有著無數的傷痕。這些傷痕看起來就像是,保護了布拉福特卿的證明。
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父親曾是一名聯合國軍的戰士。雖然到最後都沒機會問父親從軍的理由,但是父親確實以軍人身分為榮。
對於佛羅倫斯來說,母親只是出現在童話故事裡的人物,父親是唯一的血親。父親雖然忙碌於各種軍務,但是與佛羅倫斯一起的時候,會給予佛羅倫斯無限的愛。
「爸爸……」
從口中叫父親的那個聲音,是連佛羅倫斯自己都感到驚訝的幼。
但是,父親並沒有轉頭看向佛羅倫斯。那個側臉什麼話也沒說。
佛羅倫斯看著前方,與父親並肩走著。
「爸爸你死了之後,我發生了很多事哦」
佛羅倫斯就這樣用著孩子般的口吻,開始與父親說話。
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「我想進入魯比歐那王國軍」
佛羅倫斯在十五歲的時候,明確地告訴了養父。
想要和生父一樣成為厲害的戰士。這是佛羅倫斯的夢想。
即使只有一點點也想要多靠近生父一些,想要成為軍人守護國家。
小時候的夢想,在成為了貴族的養女之後也沒有改變過。
「的確,我們貴族是有從軍的義務。但是,身為女性的妳並不在這個規定中啊?」
養父的語氣,聽起來雖然認同佛羅倫斯的意志,但是也只是想說如果是想為了盡身為貴族的義務,還有其他的方法而已。像是佛羅倫斯的義姊,伊麗莎正在從事慈善團體的活動。
「非常感謝您的用心。但是,已經找到了我必需達成的目標。這點我無法讓步」
「……知道了。如果妳接受的話,我不會阻止妳。但是不要忘了,妳是我們的家人,要是妳出了什麼事,我們都會擔心、傷心的。這點希望妳一定要記住」
「父親大人……」
高貴慈悲的養父,並沒有受限於民族的框架,給予佛羅倫斯的愛與生父無異。佛羅倫斯想要助養父一力、想要回報養父,所以決定向養父至今誓死效忠的國家與女王有所貢獻。
因為能夠同時實現過去的夢想與現在的心願,所以投身魯比歐那王國軍。
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佛羅倫斯繼續與生父比肩走著。感覺生父在配合著自己的步調。
「爸爸你知道有個叫奧羅爾隊的吧?」
佛羅倫斯對著還是什麼話也沒回的生父,繼續說著目前為止自己發生的事。
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在被發配到王宮兵幾年後,佛羅倫斯被叫到大隊長的辦公室。
「進奧羅爾隊的考試嗎?」
「沒錯。最近有人員任期即將結束,所以要甄選新的隊員」
奧羅爾隊在魯比歐那王國軍中是特別的王宮守護部隊。當然,是由少數頂尖的優秀士兵所組成。也就是說,能夠所屬於奧羅爾隊,就等於是被認可為軍中頂尖的好手。
但是,要求的技術能力或家世等都非常地高,再加上,必需要有部隊長或佐官以上的軍人推薦才行。
「分發考試雖然嚴格,但是我相信妳一定能突破,所以我想推薦妳去」
「非常光榮,雖然不知道我能到什麼程度,但是我會盡全力不辜負您的期待」
佛羅倫斯馬上就答應了。這無疑是個升官之路,並且還是能向偉大的生父與養父靠近的方式。佛羅倫斯重新下定了決心,要以進入王國軍最高等部隊為目標,。
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「但是,戰爭是無情的。而且在那之後,由於恐怖攻擊的關係,王國打算要排除少數民族」
托雷依德永久要塞淪陷、成為了奧羅爾隊的副隊長之後,苦難接連而來。
不止要因夾在民族與王國間很痛苦,連自己的驕傲都被汙衊了。
「儘管如此,我還是想守護爸爸敬愛的人們與國家」
接著也說了不想養父他們造成麻煩而離家、在那之後遇見梅爾茲堡大公的事。
「你知道魯卡大公嗎?他收容梅亞族的大家,還給大家住的地方跟工作喲」
在開始排斥少數民族沒多久時,佛羅倫斯出身的梅亞族被魯比歐那追趕,而遷移至東方的梅爾茲堡居住。
雖然掛心部族的大家,但是現在不知道該用什麼臉去見大家才好,所以最後還是沒有去見他們。
只要知道大家平安無事地生活著,就滿足了。
「魯卡大公想讓這世上能夠不分民族,和平並平等地生活」
魯卡的理想,剛好是解決佛羅倫斯所煩惱的『民族間的鬥爭』所必需的東西。
而且魯卡具備有實現這個理想所需要的實力與權力。
「魯卡大公的想法和布拉福特父親大人相同。所以,我成了大公的護衛。大公的敵人很多,因為不希望民族融和的人很多」
以魯卡為目標的恐怖份子從沒少過,魯卡的生命好幾次暴露在危險之中。
家臣團就是從那些危險中守護魯卡的存在。我想加入他們,盡我的微薄之力。雖然作為代價,我必須要說出魯比歐那的相關情報,但是若可以維持國家與民族的和平,我顧不了道義。
佛羅倫斯抱持著這樣的想法,成為了魯卡的護衛。
「絕不能讓魯卡大公死掉,因為除了大公以外沒有人可以將連合王國引導至和平之路」
所以,我拚上自己的性命來阻止恐怖攻擊。佛羅倫斯向生父說道。
「我,有沒有……成為像爸爸一樣了呢?」
生父加快了腳步。
「爸爸……」
對於佛羅倫斯叫喊,生父仍然什麼也沒有回應。就這樣,連一眼也不看佛羅倫斯就走掉了。
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突然,固定間隔時間響起的鈴聲傳到了佛羅倫斯的耳裡。
佛羅倫斯無法睜開雙眼,雖然沒有感受到疼痛,但是不曉得自己的身體現在是什麼情況。佛羅倫斯發出聲音的體力也沒有。
佛羅倫斯推測自己所在的場所大概是病房裡,但也僅只於此。
反倒是,對佛羅倫斯恢復意識這件事感到不可思議。
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「真悽慘啊」
耳邊傳來阿修羅的聲音。
他在這裡的話,表示那天夜裡尾隨的人果然是阿修羅。
聽說阿修羅是一位,討厭多餘,追求效率跟合理之人。
那麼,他大概是來確認自己的生死。
果然被阿修羅發現自己在跟蹤他,他應該是打算消滅知道阿修羅跟恐怖份子有關之人吧。
佛羅倫斯的手腕有被什麼東西碰到的觸感,雖然沒有感受到疼痛,但是知道有什麼東西進了身體內。
佛羅倫斯很清楚地知道,會就這樣在什麼也做不了的情況下,被阿修羅殺掉。
佛羅倫斯這麼一想,就自然地留下眼淚,意識漸漸模糊。
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但是,佛羅倫斯並不害怕死亡。
佛羅倫斯的心中,只有悔恨。
──無法像艾妲那樣,去完成奧羅爾隊職責的自己。
──沒有把阿修羅藏在心中的敵意告訴魯卡的自己。
啊,原來是因為這樣,所以生父才不願意看向我啊。
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「你很弱,所以什麼也守護不了」
佛羅倫斯聽到阿修羅冷淡的聲音。
那句話,讓佛羅倫斯非常地不甘心。
佛羅倫斯就那樣抱著不甘之心,意識漸漸沉到黑暗之中。
而那個意識,再也不會浮上。
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「─完─」
3398年 「悔恨」
フロレンスは実の父親と並んで歩いている。
父親が着込んでいる鎧には無数の傷が走っていた。その傷こそが、ブラフォード卿を守っていた証のように見えた。
父親は連合国兵として戦った戦士だった。兵士に志願した理由は聞けずじまいだったが、誇りを持って務めていたことは確かだ。
母親という存在を夢物語でしか知らないフロレンスにとって、父親は唯一の肉親であった。様々な軍務で忙しい父親だったが、フロレンスと一緒の時は、限りのない愛情を注いでくれた。
「お父ちゃん……」
父親に語り掛けた声は、フロレンス自身でも驚くほどに幼いものだった。
しかし、父親はフロレンスの方を振り向かない。その横顔は何も語らない。
フロレンスは前を向き、父親と並んで歩く。
「お父ちゃんが死んじゃってから、色々な事があったんだよ」
フロレンスは子供のような口調のまま、父親に話し始めた。
「私はルビオナ王国軍に入隊したいと思っています」
十五歳の時、フロレンスは養父にはっきりとそう告げた。
実父のような強い戦士になりたい。それがフロレンスの夢であった。
少しでも実父に近付きたい。軍人になって国を守りたい。
幼い頃からの夢は、貴族の養子となっても変わらなかった。
「確かに、我々貴族には軍に入隊する義務がある。がしかし、女子であるお前はその限りではないのだぞ?」
養父の口ぶりは、フロレンスの意志を認めつつも、貴族として負うべき義務を為す方法は他にあると言いたげだった。現に、義姉のイライザは慈善団体での活動に従事している。
「お心遣い感謝します。ですが、私は目指すべき場所を見つけているのです。これを譲ることはできません」
「……わかった。お前が納得しているのなら、私は止めぬ。だが忘れるな。お前は私達の家族だ。もしお前に大事が起きれば、皆が心配し、悲しむだろう。そのことは必ず覚えておいて欲しい」
「お養父様……」
気高く慈悲深い養父。民族のしがらみに囚われることなく、実父と変わらぬ愛情を注いでくれた養父。養父の役に立ちたい。養父が忠誠を誓う国と女王へ貢献することで、今までの恩返しとしたい。
過去からの夢と現在の願い。それらが両立できることこそが、ルビオナ王国軍への従軍であった。
実父の隣を歩き続ける。実父は自分に歩調を合わせてくれているように思えた。
「オーロール隊ってあるでしょ?」
やはり何も話さない実父に、フロレンスは今までのことを語り続けた。
王宮兵に配属されてから数年が経った頃のことだった。フロレンスは大隊長の執務室に呼び出されていた。
「オーロール隊への配属試験、ですか?」
「そうだ。近々任期が切れる者が出るため、新たに隊員を選定したいとのことだ」
オーロール隊はルビオナ王国軍の中でも特別な王宮守護部隊だ。当然、一握りの腕利き兵士のみで構成されている。つまり、オーロール隊に配属されるということは、軍の中でも一際有能であると認められるに等しいのだ。
しかし、求められる技量や家柄などの水準は非常に高く、加えて、部隊長か佐官以上の軍人からの推薦が必須であった。
「配属試験は厳しいが、君ならば必ず突破できると信じて推薦したい」
「光栄の至りに存じます。何処までできるかわかりませんが、ご期待に応えられるよう、全力を尽くします」
フロレンスは言下に頷いた。これは紛れもなく出世の道であり、偉大な実父と養父に近付くことができる。フロレンスは王国軍最高峰の部隊を目指して、決意を新たにした。
「でも、戦争は無慈悲だった。しかもその後のテロのせいで、王国も少数民族を排除しようとした」
トレイド永久要塞が陥落し、オーロール隊の副隊長となってからは苦難の連続だった。
民族同士の軋轢に苦しめられるだけでなく、自身の誇りも汚された。
「それでも、お父ちゃんが敬愛した人達と国を守りたかったんだ」
養父達に迷惑が掛からぬように出奔し、その先でメルツバウの大公に出会ったことも話す。
「リュカ大公って知ってる? メーアの皆のことを受け入れてくれて、住居と仕事をくれたんだよ」
少数民族の排斥が始まってからさほど経たない段階で、フロレンスの出身部族であるメーア族はルビオナを追われ、東方の国であるメルツバウへと移住していた。
部族の皆のことは気掛かりだったが、今更どのような顔で会いに行けばよいのかわからず、結局は会えずじまいだった。
皆が無事に暮らしていることがわかっただけでも、満足だった。
「リュカ大公は、どんな民族も関係なく平和で平等に暮らせる世の中を作ろうとしてるんだ」
リュカの理想は、フロレンスの悩みであった『民族間の争い』を解決するために必要なものであった。
そしてリュカは、その理想を叶えるに相応しい実力と権力を持ち合わせている。
「リュカ大公のお考えはブラフォードのお養父様と一緒。だから、私は大公の護衛になった。大公は敵が多い方なんだ。民族の融和なんて不要だっていう人が大勢いたからね」
リュカを狙うテロリストは後を絶たない。幾度もリュカは命の危険に曝されていた。
そんな危機からリュカを守る家臣団。その一団に加わりたい、少しでも力になりたい。その対価としてルビオナの情勢に関する仔細を求められたが、国と民族に平和をもたらすためであれば、道義も構っていられない。
フロレンスはそう思い、進んでリュカの護衛となった。
「リュカ大公を死なせるわけにはいかなかった。大公以外に連合王国を平和に導いてくれる人はいないもの」
だから、自分の命を投げ打ってテロを防いだのだと。実父に語った。
「私、お父ちゃんみたいになれたの……かな?」
実父の歩く速度が早くなった。
「お父ちゃん……」
フロレンスの呼び掛けに、実父はやはり何も応えなかった。そして、フロレンスのことを一顧だにしないまま、遠ざかっていった。
不意に、一定の間隔で鳴り響く音がフロレンスの耳に届いた。
目は開けることができなかった。痛みは無いが、自分の身体がどうなっているのかわからない。声すら出すことができない。そんな幾許かの体力さえも、フロレンスにはもう無かった。
自分のいる場所がおそらく病室であろうということは見当が付いたが、それだけだった。
むしろ、意識が戻ったことが不思議でさえあった。
「無様だな」
アスラの声が聞こえた。
彼がここにいるということは、あの夜に尾行したのは、やはりアスラだったのだ。
アスラのことは、無駄を嫌い、効率と合理を求める者だと聞かされていた。
であればこそ、自分の生死を確認に来ている。
あの時の尾行はやはり気付かれていたのだ。テロリストとの関わりを知る者は確実に消すつもりなのだろう。
腕に何かが触れる感触があった。痛みは感じなかったが、自分の身体に何かを入れられたことはわかった。
何もできずにこのままアスラに殺される。そのことをはっきりと自覚した。
それを思うと自然と涙が零れ落ちた。意識が遠のいていく。
しかし、フロレンスは死に恐怖してはいなかった。
フロレンスの胸中には、唯々悔しいという思いだけがあった。
——エイダのように誇り高きオーロール隊の職責を全うできなかった己。
——アスラが腹の底に抱える悪意をリュカに知らせることができなかった己。
あぁ、こんな自分だからこそ、微睡みの中の実父は自分のことを見てくれなかったのだろう。
「貴様は弱い。故に何も守れない」
アスラの冷たい声が聞こえた。
その言葉が、たまらなく悔しかった。
悔しさだけを噛み締めたまま、フロレンスの意識は闇に沈んでいく。
その意識は、二度と浮上することはなかった。
「—了—」
フロレンスは実の父親と並んで歩いている。
父親が着込んでいる鎧には無数の傷が走っていた。その傷こそが、ブラフォード卿を守っていた証のように見えた。
父親は連合国兵として戦った戦士だった。兵士に志願した理由は聞けずじまいだったが、誇りを持って務めていたことは確かだ。
母親という存在を夢物語でしか知らないフロレンスにとって、父親は唯一の肉親であった。様々な軍務で忙しい父親だったが、フロレンスと一緒の時は、限りのない愛情を注いでくれた。
「お父ちゃん……」
父親に語り掛けた声は、フロレンス自身でも驚くほどに幼いものだった。
しかし、父親はフロレンスの方を振り向かない。その横顔は何も語らない。
フロレンスは前を向き、父親と並んで歩く。
「お父ちゃんが死んじゃってから、色々な事があったんだよ」
フロレンスは子供のような口調のまま、父親に話し始めた。
「私はルビオナ王国軍に入隊したいと思っています」
十五歳の時、フロレンスは養父にはっきりとそう告げた。
実父のような強い戦士になりたい。それがフロレンスの夢であった。
少しでも実父に近付きたい。軍人になって国を守りたい。
幼い頃からの夢は、貴族の養子となっても変わらなかった。
「確かに、我々貴族には軍に入隊する義務がある。がしかし、女子であるお前はその限りではないのだぞ?」
養父の口ぶりは、フロレンスの意志を認めつつも、貴族として負うべき義務を為す方法は他にあると言いたげだった。現に、義姉のイライザは慈善団体での活動に従事している。
「お心遣い感謝します。ですが、私は目指すべき場所を見つけているのです。これを譲ることはできません」
「……わかった。お前が納得しているのなら、私は止めぬ。だが忘れるな。お前は私達の家族だ。もしお前に大事が起きれば、皆が心配し、悲しむだろう。そのことは必ず覚えておいて欲しい」
「お養父様……」
気高く慈悲深い養父。民族のしがらみに囚われることなく、実父と変わらぬ愛情を注いでくれた養父。養父の役に立ちたい。養父が忠誠を誓う国と女王へ貢献することで、今までの恩返しとしたい。
過去からの夢と現在の願い。それらが両立できることこそが、ルビオナ王国軍への従軍であった。
実父の隣を歩き続ける。実父は自分に歩調を合わせてくれているように思えた。
「オーロール隊ってあるでしょ?」
やはり何も話さない実父に、フロレンスは今までのことを語り続けた。
王宮兵に配属されてから数年が経った頃のことだった。フロレンスは大隊長の執務室に呼び出されていた。
「オーロール隊への配属試験、ですか?」
「そうだ。近々任期が切れる者が出るため、新たに隊員を選定したいとのことだ」
オーロール隊はルビオナ王国軍の中でも特別な王宮守護部隊だ。当然、一握りの腕利き兵士のみで構成されている。つまり、オーロール隊に配属されるということは、軍の中でも一際有能であると認められるに等しいのだ。
しかし、求められる技量や家柄などの水準は非常に高く、加えて、部隊長か佐官以上の軍人からの推薦が必須であった。
「配属試験は厳しいが、君ならば必ず突破できると信じて推薦したい」
「光栄の至りに存じます。何処までできるかわかりませんが、ご期待に応えられるよう、全力を尽くします」
フロレンスは言下に頷いた。これは紛れもなく出世の道であり、偉大な実父と養父に近付くことができる。フロレンスは王国軍最高峰の部隊を目指して、決意を新たにした。
「でも、戦争は無慈悲だった。しかもその後のテロのせいで、王国も少数民族を排除しようとした」
トレイド永久要塞が陥落し、オーロール隊の副隊長となってからは苦難の連続だった。
民族同士の軋轢に苦しめられるだけでなく、自身の誇りも汚された。
「それでも、お父ちゃんが敬愛した人達と国を守りたかったんだ」
養父達に迷惑が掛からぬように出奔し、その先でメルツバウの大公に出会ったことも話す。
「リュカ大公って知ってる? メーアの皆のことを受け入れてくれて、住居と仕事をくれたんだよ」
少数民族の排斥が始まってからさほど経たない段階で、フロレンスの出身部族であるメーア族はルビオナを追われ、東方の国であるメルツバウへと移住していた。
部族の皆のことは気掛かりだったが、今更どのような顔で会いに行けばよいのかわからず、結局は会えずじまいだった。
皆が無事に暮らしていることがわかっただけでも、満足だった。
「リュカ大公は、どんな民族も関係なく平和で平等に暮らせる世の中を作ろうとしてるんだ」
リュカの理想は、フロレンスの悩みであった『民族間の争い』を解決するために必要なものであった。
そしてリュカは、その理想を叶えるに相応しい実力と権力を持ち合わせている。
「リュカ大公のお考えはブラフォードのお養父様と一緒。だから、私は大公の護衛になった。大公は敵が多い方なんだ。民族の融和なんて不要だっていう人が大勢いたからね」
リュカを狙うテロリストは後を絶たない。幾度もリュカは命の危険に曝されていた。
そんな危機からリュカを守る家臣団。その一団に加わりたい、少しでも力になりたい。その対価としてルビオナの情勢に関する仔細を求められたが、国と民族に平和をもたらすためであれば、道義も構っていられない。
フロレンスはそう思い、進んでリュカの護衛となった。
「リュカ大公を死なせるわけにはいかなかった。大公以外に連合王国を平和に導いてくれる人はいないもの」
だから、自分の命を投げ打ってテロを防いだのだと。実父に語った。
「私、お父ちゃんみたいになれたの……かな?」
実父の歩く速度が早くなった。
「お父ちゃん……」
フロレンスの呼び掛けに、実父はやはり何も応えなかった。そして、フロレンスのことを一顧だにしないまま、遠ざかっていった。
不意に、一定の間隔で鳴り響く音がフロレンスの耳に届いた。
目は開けることができなかった。痛みは無いが、自分の身体がどうなっているのかわからない。声すら出すことができない。そんな幾許かの体力さえも、フロレンスにはもう無かった。
自分のいる場所がおそらく病室であろうということは見当が付いたが、それだけだった。
むしろ、意識が戻ったことが不思議でさえあった。
「無様だな」
アスラの声が聞こえた。
彼がここにいるということは、あの夜に尾行したのは、やはりアスラだったのだ。
アスラのことは、無駄を嫌い、効率と合理を求める者だと聞かされていた。
であればこそ、自分の生死を確認に来ている。
あの時の尾行はやはり気付かれていたのだ。テロリストとの関わりを知る者は確実に消すつもりなのだろう。
腕に何かが触れる感触があった。痛みは感じなかったが、自分の身体に何かを入れられたことはわかった。
何もできずにこのままアスラに殺される。そのことをはっきりと自覚した。
それを思うと自然と涙が零れ落ちた。意識が遠のいていく。
しかし、フロレンスは死に恐怖してはいなかった。
フロレンスの胸中には、唯々悔しいという思いだけがあった。
——エイダのように誇り高きオーロール隊の職責を全うできなかった己。
——アスラが腹の底に抱える悪意をリュカに知らせることができなかった己。
あぁ、こんな自分だからこそ、微睡みの中の実父は自分のことを見てくれなかったのだろう。
「貴様は弱い。故に何も守れない」
アスラの冷たい声が聞こえた。
その言葉が、たまらなく悔しかった。
悔しさだけを噛み締めたまま、フロレンスの意識は闇に沈んでいく。
その意識は、二度と浮上することはなかった。
「—了—」