核心回收裝置的改良結果還不錯。
因為這次的改良,作戰成功率應該可以上升五個百分比左右。
本來成功率就很低的作戰,就算數字只上升一點點,對連隊也是有益的。
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「多虧妳了」
「沒有,我只是提供了公式而已,之後是妳的選擇帶來的結果」
C.C.利用工作的休息時間及下班後的些許時間,試著跟人工智能史塔夏對話。
史塔夏是一個有智慧並擁有豐富感情的人工智能,談話中她很少用機械式的字句,甚至也有用很幽默的方式回答過。
C.C.覺得簡直就像在跟一位少女聊天一樣。
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「話說回來,妳到底是怎麼誕生的呢?」
我只是很單純的感到疑問,賽因茲到底是為了什麼才解析這個人工智能的,想說從這個問題可以得到點線索。
「我是,為了拯救這個世界不被毀滅而誕生出來的人工智能」
這個回答遠遠超越了C.C.的想像。
「怎麼可能,妳在開玩笑吧?」
「看看這個吧」
那是世界毀滅的影像,渦出現在地上所有地方,魔物在黑暗中大搖大擺地走著,人類都死光,只剩下些許的文明遺物讓我認出是自己所在的這個世界。
魔物一副走在自己領域的樣子晃著,那是個沒有人煙的世界。
「我知道你們在努力防止世界毀滅,但是只有那樣是不夠的」
「意思是我們的力量不足嗎?」
C.C.感到有點生氣,因為史塔夏說的好像大家在做的事都是沒有意義的。
「不是因為你們的力量不足。而是因為我演算出的結果,算出不久的將來,渦的發生速度會加速。而且是以你們根本贏不了的程度在加速。因此世界毀滅了」
「果然,只靠我們根本改變不了什麼……」
「不是這樣的,我只是希望妳能夠幫助我,就可以在真正的意義上拯救未來」
這個人工智能到底在說些什麼,區區一個人工智能的力量可以拯救世界?有可能嗎?
「對不起,雖然妳說靠妳的力量可以拯救世界,我也有點困擾」
「沒辦法,要讓妳相信我需要一些確實的東西,忘了這件事吧」
談話結束了。史塔夏說完那句話後就沒有再送任何訊息過來了。
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在那之後我一直抽不出時間與史塔夏談話,忙得不可開交。
有時候,會突然想起那個影像跟史塔夏說的話,但那實在是太不現實,無法正面接受。
包括自己所屬的連隊以及眾多的人都正在拯救世界,動員了這麼多的預算及人員,成功率也只有十個百分比左右而已。
在這樣的現實之中,要說區區一個人工智能與一介兵裝研究者的自己就能拯救世界,實在無法去相信。
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我在開發室工作時,背後傳來聲音在叫我。
回頭看到的是,穿著全新連隊制服的少年。雖然舉止很有氣質,但是看起來好像也有點陰沉。
「妳就是C.C.?」
「是的,有什麼事嗎?」
「洛斐恩拜託我把這個給妳」
與他舉止相反,他無感情的交給了我一個籠子。
「洛斐恩老師要給我的?」
「那麼已經交給妳了」
「等等!你!」
少年只說了那句話後,就放下籠子迅速走掉了。
「什麼啊,這個……」
籠子中有隻貓,毛色非常漂亮,看起來很健康。
少年剛剛將籠子與一封給我的信一起交給我,信內是洛斐恩老師的話。信中只寫著『這是很有趣的素材,妳可以研究看看』。
雖然我心想至少把通信機的聯絡方式給我就好了,但是老師如果是在那位少年的國家健康地忙著做事的話,就可以理解為什麼會給這麼簡短的信了。
「雖然不懂這是什麼意思,但是這隻貓肯定有什麼特別的吧」
籠子中傳來一聲喵,貓咪正在抓著籠子門。
「我馬上就放你出來。等等哦,我現在就準備吃的」
我將籠子放在地上,拿了盤子跟牛奶過來。貓咪在籠子中大概是太無聊了,一打開籠子門貓咪就衝出來了。
「不可以太調皮喔,因為這邊有很多東西」
周圍有各種機器,如果被破壞就糟了,幸好這隻貓似乎很聰明,我看到牠只聞聞周圍的東西,就乖乖地待著了。
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從我將貓咪養在開發室過了幾個月。
這隻貓咪非常乖,什麼壞事都沒做,也沒有擅自跑出房間。所以C.C.就很放心,但是某個晚上我才知道我搞錯了。
貓咪變成長著貓耳的人型,來到C.C.的房間。
「咦,別開玩笑了真的」
自稱叫艾茵的貓人類,拉她的耳朵也拉不下來,反而害她覺得痛。
洛斐恩老師到底對她做了什麼,這個貓人類到底是什麼,C.C.陷入混亂與感興趣的漩渦中。
艾茵大聲壓過C.C.的話,開始懇求我希望能夠聽聽她說明自己的事。
──她說她是從異世界來的。
──一些稱為「黑色貢多拉搭乘者」的人去到他們的世界,並奪走了寶珠。
──寶珠被奪走之後,妖蛆的威脅就活絡化,漸漸毀滅掉艾茵所住的世界。
──艾茵是為了取回寶珠才來到這個世界的。
──遇到洛斐恩之後,才知道黑色貢多拉搭乘者的真面目,是在這個地方活動的一個團體。
──然後寶珠也在這裡的事。
「如果妳說的寶珠就是核心的話,我不知道能不能還給妳。但是,我會盡力幫妳的」
C.C.不知道回收後的核心怎麼樣了,但應該沒有利用在什麼東西上吧,所以如果沒用的話,她覺得還給艾茵才是正確的。
「謝謝您」
在那之後雖然談了很多,但是C.C.想要紀錄艾茵從人變回貓的瞬間,所以到房間裡拿錄影機。
找到錄影機回到房間後,艾茵已經熟睡了。
「應該是累了吧。話說回來,洛斐恩老師還真是送了一個不得了的研究資料給我啊」
C.C.邊撫摸著艾茵的頭髮,邊嘆氣。
艾茵抱著非同小可的覺悟,為了自己的世界獨自一人來到這個異世界。只要這麼一想就覺得很想要幫助她。
同時,想起自己又如何呢。如果沒有用史塔夏給的公式就無法讓成功率上升,這個沒用的自己到底算什麼。
C.C.想起史塔夏的話與世界毀滅的景象。
如果如史塔夏所說,渦發生頻率變高因此導致世界崩壞的話,自己能夠抵抗的了嗎?會像艾茵一樣沒有絕望,拚死行動嗎?
如果一直抱著什麼都不可能的觀念,就什麼都不會有。如果可以成為拯救世界的要因,應該要無論如何都要行動才對。
「我也,必須再多加油一些吧」
C.C.小聲說完,就將毛毯蓋在艾茵身上往開發室去了。
|
「這麼晚的時間很抱歉,妳之前說的關於世界毀滅之事,妳知道正確的發生時間嗎?」
C.C.迅速地打字送出訊息,無論如何都想得到史塔夏的答案。
回覆意外地快。
「咦,之前不是還表現出不相信我的樣子,怎麼改變心意了?」
「稍微,遇到些事」
「這個嘛……雖然有很多要因,但是最晚也是十年內……不,會更早發生也不一定」
史塔夏似乎要加強警告一般,又一一放出世界毀滅的影像。
在那些影像之中,有一個巨大的異形覆蓋世界,吃盡一切的影像。
雖然跟艾茵說的不完全一樣,但應該就是類似的情形吧。
然後之前的影像出現在螢幕中。
「妳說過有防止的方法,對吧」
「妳不是不相信嗎?」
「情況改變了,希望妳能告訴我,我能夠做些什麼」
艾茵只憑一個人的力量為了自己的世界在加油。
C.C.開始抱著,想知道自己能做些什麼的想法。
送出訊息過了一段時間,史塔夏似乎在思考什麼的樣子而沉默。
「……妳果然是我看中的人,我重新跟妳請求一次,我希望妳能夠與我共同拯救這個世界」
與那句話的同時,史塔夏送來幾個資料夾,看了一下裡面的資料,似乎是什麼裝置的製造說明書。
「我希望妳能夠做出這個裝置」
「看起來是非常複雜的裝置……光是構築出基礎就很花時間的樣子」
「就算花再多時間都沒關係,只要有這個裝置,我就能干涉這個世界。所以我希望妳一定要做出這個裝置」
「只要做這個裝置就可以了?」
「困擾我的問題只有這一個,我無法干涉這個世界,如果沒有賽因茲的通訊軟體,連跟妳對話都做不到」
「所以需要這個裝置對吧,只要將妳的機能傳送到這個裝置,妳就能夠干涉這個世界對吧」
「沒錯,妳理解很快真是幫大忙了,我要使用這個裝置來破壞使渦發生的元兇」
「我知道了,等我。雖然可能會花很多時間,但我一定會把這個裝置完成的」
「拜託妳了,C.C.。一切都取決於妳的行動」
與史塔夏的通訊中斷了。
C.C.立刻開始解析資料。
|
「─完─」
3385年 「衝撃」
コア回収装置の改良結果は上々であった。
今回の改良によって、作戦成功率が五パーセント程度上昇すると見込まれたのだ。
もとより低い作戦成功率だ。僅かな数字であったとしても、上昇させられたのは連隊にとって有益である。
「あなたのおかげね」
「そんなことはない。私は数式を提供しただけ。あとはあなたの選択がもたらした結果に過ぎないわ」
C.C.は作業の休憩中や終業後の僅かな時間を使って、人工知能ステイシアとの会話を試みていた。
ステイシアは理知的かつ情緒豊かな人工知能だった。会話の中に機械然としたものは少なく、ユーモアに富んだ返答を返してくることもあった。
まるで少女と会話をしているよう。C.C.にはそんな感覚があった。
「そういえば、あなたは一体どういう経緯で生み出されたの?」
素朴な疑問であった。セインツが何を目的としてこの人工知能を解析しようとしていたのか、それを知る手掛かりになると思ったのだ。
「私は、この世界を破滅から救うために生み出された人工知能」
飛び出してきた言葉は、C.C.の予想を遙かに上回っていた。
「まさか、冗談でしょう?」
「これを見て」
それは世界が破滅している映像だった。渦が地上を覆い尽くし、闇の中を魔物が闊歩している。人は死に絶え、僅かに残った文明の名残だけが、映像がこの世界であるということをわからせてくれる。
魔物が我が物顔で歩き回り、人の気配がしない世界。
「あなた達が努力を重ねて世界の破滅を防ごうとしているのは知っている。でも、それだけでは駄目なの」
「私達の力が足りないってこと?」
C.C.は怒りを覚えていた。これでは、自分達がやっていることはまるっきり無駄である。
「あなた達が力不足だから、という訳じゃない。私の演算装置が出した結果では、遠くない将来に渦の発生が加速するの。それも、あなた達の手には負えない程に。そして世界は破滅してしまう」
「やっぱり、私達だけじゃどうにもできないってことじゃない……」
「そんなことはない。ただ、私に力を貸して欲しい。そうすれば、この崩壊の未来を本当の意味で救うことができる」
この人工知能は何を言っているのだろう。一体の人工知能の力で世界を救う? そんなことが本当に可能なのか。
「ごめんなさい。あなたの力でどうにかすることができるなんて言われても、ちょっと困るわ」
「仕方がないわね。信用してもらうためには確たるものが必要よね。この話は忘れてちょうだい」
会話はそれで終了してしまった。ステイシアはこのメッセージを最後に、何も会話文を送信してこなかった。
それ以降はステイシアと会話をする時間が取れない程、忙しく働いていた。
時折、あの映像とステイシアのメッセージが脳裏を掠めたが、あまりにも非実際的で、正面からは受け取れなかった。
自分を含めた連隊に所属する大勢の人間が世界を救おうとしている。それも莫大な予算と人を動員して。にも関わらず、成功確率は数十パーセントに過ぎないのだ。
そんな現実の中で、一体の人工知能と一介の兵装研究者である自分だけで世界を救うことができるなど、信じられることではなかった。
開発室で作業をしていると、背後から声を掛けられた。
振り向いた先には、真新しい連隊の制服に身を包んだ少年がいた。気品ある立ち振る舞いだが、どこか影があるようにも見える。
「あなたがC.C.?」
「そうだけど。何か用事でもあるの?」
「ローフェンからあなたに渡して欲しいと頼まれた」
見かけと立ち振る舞いに相応しくない無愛想な彼が寄越したのは、一つの籠だった。
「ローフェン師から?」
「じゃあ、届けたんで」
「ちょっと! 君!」
少年はそれだけを言うと、籠を置いてさっさと行ってしまった。
「なによ、これ……」
籠の中には猫がいた。毛並みは美しく、健康そうに見える。
籠と一緒に渡された自分宛の封書を開けると、ローフェン師からの言付けが入っていた。中身を確認してみると、『面白い素材だ。研究してみると良い』とだけ書いてあった。
通信機があるんだから先に連絡をくれればいいのにと思ったものの、あの無愛想な少年のいた国で元気に忙しくやってるから、こんな簡潔なメモ一枚になったんだろうな、と勝手に納得することにした。
「よくわかんないけど、まあ、何かあるのかもね」
籠の中の猫はニャーと鳴いて、がりがりと扉を引っ掻いている。
「いま出してあげるわ。 ちょっと待っててね、ご飯を用意してあげる」
籠を床に置いてミルクと皿を持ってくる。よほど窮屈だったのだろうか。籠の扉を開けると猫は飛び出してきた。
「あんまりイタズラしないでね。ここには色んな物があるから」
周りには様々な機械がある。壊されでもしたら大変だ。幸いこの猫は賢い個体らしく、周囲の物の匂いを嗅ぐ素振りを見せただけで、あとは大人しくしていた。
猫を開発室に置いて数ヶ月が経った。
この猫はとても大人しく、何か悪さをすることもなく、部屋を勝手に出て行くこともなかった。安心するC.C.だったが、それはある日の晩、間違いであると気付かされることになった。
猫が猫耳を生やした人型に変化して、C.C.の部屋を訪れてきたのだ。
「え、冗談やめてよ。ほんとに」
アインと名乗る猫人間の耳を引っ張っても取れるようなことはなく、逆に痛がらせる始末。
ローフェン師は一体何をやらかしたのか。この猫人間は一体何なのか。C.C.は混乱と興味の渦中にあった。
そんなC.C.の言葉を遮って、アインは自分のことを説明させて欲しいと懇願し始めた。
——自分はこことは異なる世界からやって来たこと。
——「黒いゴンドラ乗り」と呼んでいる者達が自分達の世界から宝珠を奪ってしまったこと。
——宝珠を奪われたことで妖蛆という脅威が活発化し、アインの住む世界が破滅しつつあること。
——アインは宝珠を取り戻すためにこの世界に来たこと。
——ローフェンに出会い、黒いゴンドラ乗りの正体は、この場所で活動する一団のことだと教えられたこと。
——そして、宝珠がこの場所にあるだろうということ。
「あなたの言う宝珠がコアのことだとしたら、返してあげられるかどうかはわからないわ。 けど、できるだけの協力はしてあげる」
回収されたコアがどうなっているかは、C.C.も与り知らぬことだった。でも、おそらく何かに利用されているということは無いだろう。だとしたら、アインのために返却するのが正しいであろう、と結論づけた末の発言だった。
「ありがとうございます」
その後も様々な会話をしたが、人から猫に戻ってしまう瞬間を記録したいと思い付いたC.C.は、レコーダーを取りに部屋の奥へと向かった。
レコーダーを見つけて部屋に戻ったところ、アインはぐっすりと寝てしまっていた。
「疲れたのかしらね。 それにしても、とんだ研究資料を送ってくれたわね、ローフェン師は」
アインの髪を撫でながら、C.C.は溜息を吐いた。
アインは並々ならぬ覚悟を決め、自分の世界のためにたった一人で異世界へとやって来た。その事を思うと何か協力しなければという気持ちになる。
と同時に、自分はどうなのだろうと思った。ステイシアが提供してくれた数式を用いなければ作戦の成功率は上がらなかった。そんな駄目な自分は一体何なのだろう。
ステイシアの言葉と世界が崩壊する映像が脳裏に蘇る。
ステイシアの言う、渦発生の加速化による世界崩壊が間近に迫っているとしたら、自分はそれに抵抗することができるのだろうか。アインのように絶望することなく、決死の思いで行動することができるだろうか。
不可能だと観念して停滞するだけでは何も生まれない。世界を救う切っ掛けとなるのなら、何であっても行動しなければならないのかもしれない。
「私も、もっと頑張らないと駄目よね」
ぽつりと呟くと、C.C.はアインに毛布を被せて開発室へと向かった。
「こんな時間にごめん。こないだの世界の破滅についてなんだけど、それはいつ起きるものなのか正確にわかる?」
C.C.は手早く文字を打ち込んだ。何としてもステイシアに答えてもらいたかった。
返答は驚くほど早かった。
「あら、この前は信用ならないって雰囲気だったのに。どんな心変わりなの?」
「ちょっと、ね」
「そう、ね……様々な要因があるけれど、遅くとも十年……いえ、もっと早い段階で起きるかもしれないわ」
更なる警告のつもりなのか、ステイシアは次々と破滅の映像をモニターに映し出す。
その中には、巨大な異形が世界を覆い、喰らい尽くしているような映像もあった。
アインの言葉通りとまではいかないが、概ね同じものだろう。
そして、以前の映像がモニターに映る。
「あなたはそれを防ぐ手立てがある、と言ったわね」
「信用できないのではなかったの?」
「状況が変わったの。私にできることがあれば教えて欲しい」
アインはたった一人の力で自分の世界のために頑張っているのだ。
自分にも何かできることがあるのではないか。C.C.はそんな思いを抱き始めていた。
文字を打ち込んでから暫くの時間が過ぎた。ステイシアは何か考えているかのように沈黙していた。
「……やっぱり、あなたは私が見込んだ通りの人ね。改めてお願いするわ、私と共に世界を破滅から救って欲しい」
その言葉と共に、いくつかのファイルが送られてきた。中身を少しだけ閲覧すると、何かの装置の仕様書のようだった。
「あなたにはこれを作ってもらいたいの」
「ずいぶんと複雑な装置のようだけど……。フレームワークの構築だけでも時間が掛かりそう」
「時間が掛かってもいい。この装置さえあれば、私はこの世界に干渉することができるようになる。だから、あなたには絶対にこの装置を作り上げてもらいたいの」
「え、それだけでいいの?」
「ええ。私が抱える問題はたった一つ。私がこの世界で何かをすることは不可能だということ。セインツの通信ソフトが無ければあなたと会話することさえできないようにね」
「だからこの装置が必要なわけね。この装置にあなたの機能を転送すれば、干渉が可能になるものね」
「そうよ。理解が早くて助かるわ。私はこの装置を使って渦発生の元凶を破壊する」
「わかった、待ってて。時間は掛かっちゃうかもしれないけど、絶対にこの装置を完成させるわ」
「期待しているわ、C.C.。あなたの行動に全てが掛かってる」
ステイシアとの通信が途絶える。
すぐにC.C.はファイルの解析に取り掛かった。
「—了—」
コア回収装置の改良結果は上々であった。
今回の改良によって、作戦成功率が五パーセント程度上昇すると見込まれたのだ。
もとより低い作戦成功率だ。僅かな数字であったとしても、上昇させられたのは連隊にとって有益である。
「あなたのおかげね」
「そんなことはない。私は数式を提供しただけ。あとはあなたの選択がもたらした結果に過ぎないわ」
C.C.は作業の休憩中や終業後の僅かな時間を使って、人工知能ステイシアとの会話を試みていた。
ステイシアは理知的かつ情緒豊かな人工知能だった。会話の中に機械然としたものは少なく、ユーモアに富んだ返答を返してくることもあった。
まるで少女と会話をしているよう。C.C.にはそんな感覚があった。
「そういえば、あなたは一体どういう経緯で生み出されたの?」
素朴な疑問であった。セインツが何を目的としてこの人工知能を解析しようとしていたのか、それを知る手掛かりになると思ったのだ。
「私は、この世界を破滅から救うために生み出された人工知能」
飛び出してきた言葉は、C.C.の予想を遙かに上回っていた。
「まさか、冗談でしょう?」
「これを見て」
それは世界が破滅している映像だった。渦が地上を覆い尽くし、闇の中を魔物が闊歩している。人は死に絶え、僅かに残った文明の名残だけが、映像がこの世界であるということをわからせてくれる。
魔物が我が物顔で歩き回り、人の気配がしない世界。
「あなた達が努力を重ねて世界の破滅を防ごうとしているのは知っている。でも、それだけでは駄目なの」
「私達の力が足りないってこと?」
C.C.は怒りを覚えていた。これでは、自分達がやっていることはまるっきり無駄である。
「あなた達が力不足だから、という訳じゃない。私の演算装置が出した結果では、遠くない将来に渦の発生が加速するの。それも、あなた達の手には負えない程に。そして世界は破滅してしまう」
「やっぱり、私達だけじゃどうにもできないってことじゃない……」
「そんなことはない。ただ、私に力を貸して欲しい。そうすれば、この崩壊の未来を本当の意味で救うことができる」
この人工知能は何を言っているのだろう。一体の人工知能の力で世界を救う? そんなことが本当に可能なのか。
「ごめんなさい。あなたの力でどうにかすることができるなんて言われても、ちょっと困るわ」
「仕方がないわね。信用してもらうためには確たるものが必要よね。この話は忘れてちょうだい」
会話はそれで終了してしまった。ステイシアはこのメッセージを最後に、何も会話文を送信してこなかった。
それ以降はステイシアと会話をする時間が取れない程、忙しく働いていた。
時折、あの映像とステイシアのメッセージが脳裏を掠めたが、あまりにも非実際的で、正面からは受け取れなかった。
自分を含めた連隊に所属する大勢の人間が世界を救おうとしている。それも莫大な予算と人を動員して。にも関わらず、成功確率は数十パーセントに過ぎないのだ。
そんな現実の中で、一体の人工知能と一介の兵装研究者である自分だけで世界を救うことができるなど、信じられることではなかった。
開発室で作業をしていると、背後から声を掛けられた。
振り向いた先には、真新しい連隊の制服に身を包んだ少年がいた。気品ある立ち振る舞いだが、どこか影があるようにも見える。
「あなたがC.C.?」
「そうだけど。何か用事でもあるの?」
「ローフェンからあなたに渡して欲しいと頼まれた」
見かけと立ち振る舞いに相応しくない無愛想な彼が寄越したのは、一つの籠だった。
「ローフェン師から?」
「じゃあ、届けたんで」
「ちょっと! 君!」
少年はそれだけを言うと、籠を置いてさっさと行ってしまった。
「なによ、これ……」
籠の中には猫がいた。毛並みは美しく、健康そうに見える。
籠と一緒に渡された自分宛の封書を開けると、ローフェン師からの言付けが入っていた。中身を確認してみると、『面白い素材だ。研究してみると良い』とだけ書いてあった。
通信機があるんだから先に連絡をくれればいいのにと思ったものの、あの無愛想な少年のいた国で元気に忙しくやってるから、こんな簡潔なメモ一枚になったんだろうな、と勝手に納得することにした。
「よくわかんないけど、まあ、何かあるのかもね」
籠の中の猫はニャーと鳴いて、がりがりと扉を引っ掻いている。
「いま出してあげるわ。 ちょっと待っててね、ご飯を用意してあげる」
籠を床に置いてミルクと皿を持ってくる。よほど窮屈だったのだろうか。籠の扉を開けると猫は飛び出してきた。
「あんまりイタズラしないでね。ここには色んな物があるから」
周りには様々な機械がある。壊されでもしたら大変だ。幸いこの猫は賢い個体らしく、周囲の物の匂いを嗅ぐ素振りを見せただけで、あとは大人しくしていた。
猫を開発室に置いて数ヶ月が経った。
この猫はとても大人しく、何か悪さをすることもなく、部屋を勝手に出て行くこともなかった。安心するC.C.だったが、それはある日の晩、間違いであると気付かされることになった。
猫が猫耳を生やした人型に変化して、C.C.の部屋を訪れてきたのだ。
「え、冗談やめてよ。ほんとに」
アインと名乗る猫人間の耳を引っ張っても取れるようなことはなく、逆に痛がらせる始末。
ローフェン師は一体何をやらかしたのか。この猫人間は一体何なのか。C.C.は混乱と興味の渦中にあった。
そんなC.C.の言葉を遮って、アインは自分のことを説明させて欲しいと懇願し始めた。
——自分はこことは異なる世界からやって来たこと。
——「黒いゴンドラ乗り」と呼んでいる者達が自分達の世界から宝珠を奪ってしまったこと。
——宝珠を奪われたことで妖蛆という脅威が活発化し、アインの住む世界が破滅しつつあること。
——アインは宝珠を取り戻すためにこの世界に来たこと。
——ローフェンに出会い、黒いゴンドラ乗りの正体は、この場所で活動する一団のことだと教えられたこと。
——そして、宝珠がこの場所にあるだろうということ。
「あなたの言う宝珠がコアのことだとしたら、返してあげられるかどうかはわからないわ。 けど、できるだけの協力はしてあげる」
回収されたコアがどうなっているかは、C.C.も与り知らぬことだった。でも、おそらく何かに利用されているということは無いだろう。だとしたら、アインのために返却するのが正しいであろう、と結論づけた末の発言だった。
「ありがとうございます」
その後も様々な会話をしたが、人から猫に戻ってしまう瞬間を記録したいと思い付いたC.C.は、レコーダーを取りに部屋の奥へと向かった。
レコーダーを見つけて部屋に戻ったところ、アインはぐっすりと寝てしまっていた。
「疲れたのかしらね。 それにしても、とんだ研究資料を送ってくれたわね、ローフェン師は」
アインの髪を撫でながら、C.C.は溜息を吐いた。
アインは並々ならぬ覚悟を決め、自分の世界のためにたった一人で異世界へとやって来た。その事を思うと何か協力しなければという気持ちになる。
と同時に、自分はどうなのだろうと思った。ステイシアが提供してくれた数式を用いなければ作戦の成功率は上がらなかった。そんな駄目な自分は一体何なのだろう。
ステイシアの言葉と世界が崩壊する映像が脳裏に蘇る。
ステイシアの言う、渦発生の加速化による世界崩壊が間近に迫っているとしたら、自分はそれに抵抗することができるのだろうか。アインのように絶望することなく、決死の思いで行動することができるだろうか。
不可能だと観念して停滞するだけでは何も生まれない。世界を救う切っ掛けとなるのなら、何であっても行動しなければならないのかもしれない。
「私も、もっと頑張らないと駄目よね」
ぽつりと呟くと、C.C.はアインに毛布を被せて開発室へと向かった。
「こんな時間にごめん。こないだの世界の破滅についてなんだけど、それはいつ起きるものなのか正確にわかる?」
C.C.は手早く文字を打ち込んだ。何としてもステイシアに答えてもらいたかった。
返答は驚くほど早かった。
「あら、この前は信用ならないって雰囲気だったのに。どんな心変わりなの?」
「ちょっと、ね」
「そう、ね……様々な要因があるけれど、遅くとも十年……いえ、もっと早い段階で起きるかもしれないわ」
更なる警告のつもりなのか、ステイシアは次々と破滅の映像をモニターに映し出す。
その中には、巨大な異形が世界を覆い、喰らい尽くしているような映像もあった。
アインの言葉通りとまではいかないが、概ね同じものだろう。
そして、以前の映像がモニターに映る。
「あなたはそれを防ぐ手立てがある、と言ったわね」
「信用できないのではなかったの?」
「状況が変わったの。私にできることがあれば教えて欲しい」
アインはたった一人の力で自分の世界のために頑張っているのだ。
自分にも何かできることがあるのではないか。C.C.はそんな思いを抱き始めていた。
文字を打ち込んでから暫くの時間が過ぎた。ステイシアは何か考えているかのように沈黙していた。
「……やっぱり、あなたは私が見込んだ通りの人ね。改めてお願いするわ、私と共に世界を破滅から救って欲しい」
その言葉と共に、いくつかのファイルが送られてきた。中身を少しだけ閲覧すると、何かの装置の仕様書のようだった。
「あなたにはこれを作ってもらいたいの」
「ずいぶんと複雑な装置のようだけど……。フレームワークの構築だけでも時間が掛かりそう」
「時間が掛かってもいい。この装置さえあれば、私はこの世界に干渉することができるようになる。だから、あなたには絶対にこの装置を作り上げてもらいたいの」
「え、それだけでいいの?」
「ええ。私が抱える問題はたった一つ。私がこの世界で何かをすることは不可能だということ。セインツの通信ソフトが無ければあなたと会話することさえできないようにね」
「だからこの装置が必要なわけね。この装置にあなたの機能を転送すれば、干渉が可能になるものね」
「そうよ。理解が早くて助かるわ。私はこの装置を使って渦発生の元凶を破壊する」
「わかった、待ってて。時間は掛かっちゃうかもしれないけど、絶対にこの装置を完成させるわ」
「期待しているわ、C.C.。あなたの行動に全てが掛かってる」
ステイシアとの通信が途絶える。
すぐにC.C.はファイルの解析に取り掛かった。
「—了—」