泰瑞爾在所長室裡,與艾格林、林奈烏斯針對貝琳達的修改案討論著。
「修改人工智能啊」
「是的。目前的負荷大到無法保証不會損害人工智能,想請求製造者修改」
貝琳達的修改碰到了相當大的問題。
保持現狀的話,就算加強演算機能,也只會造成人工智能的負荷而已。要徹底解決的話,必需要增強貝琳達人工智能的性能。
雖然泰瑞爾是兵裝的研究者,可以製作運用兵器的演算系統,但無法對人工智能進行大幅度的修改。
更不用說,貝琳達的人工智能是為了要送進古朗德利尼亞帝國而擁有的高度感情機能。要是隨便修改,反而造成機能損壞的話,就沒有意義了。
「就如同泰瑞爾所說的,這不得不向擔當部門提出請求了」
「是的,今天之內我會送出這個請求信,演算機能的修改案也請同步進行」
「謝謝,麻煩您了」
「等到他們回覆可能需要些時間。所以,在這期間有事要麻煩你」
艾格林將資料投映在大螢幕上。
「從負責武裝船的技官那裡,收到了關於貝琳達自我防衛機能的意見」
「自我防衛機能嗎?」
「對,好像是萬一必須在武裝船內進行肉博戰時需要」
「知道了,我先將相關資料整理出來」
泰瑞爾行禮後便離開了所長室。
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收到洛斐恩所在地消息時,是在貝琳達的人工智能修改案提出後的事了。
收到索克聯絡的泰瑞爾,接受索克的邀請來到統合中心。
「洛斐恩目前在隆茲布魯王國」
草草打了招呼後索克說了這句。
「謝謝,不過只有這樣的話,應該沒有必要找我來吧?」
「有些事在通訊裡說不太適合」
「什麼情況?」
對於泰瑞爾的疑問,索克的臉色嚴肅。
「五天後協定審問官將往隆茲布魯王國去。這事已經定了,無法改變」
「洛斐恩老師在隆茲布魯王國做了什麼違法行為嗎?」
「抱歉,詳細情形不能告訴你」
泰瑞爾雖然想緊咬追問,但是索克的態度很堅定。
如果事態已經到了要出動協定審問官的話,區區工程師根本毫無對策。這點泰瑞爾非常清楚。
「也就是說,要聯絡洛斐恩老師是不可能的?」
「但是,要完成貝琳達一定要洛斐恩的技術對吧?除了人工智能的修改,聽說還希望能追加自我防衛機能」
「是的。包含自我防衛機能,我想,洛斐恩老師帶到地上去的技術應該有解決的方法」
泰瑞爾堅持自己的見解,不能在這裡放棄。
「破例告訴你洛斐恩的聯絡方式吧,剩下的就靠你自己了」
暫時先回到研究所的泰瑞爾,迅速完成手邊的工作後回到家裡。雖然想馬上聯絡洛斐恩,但是在研究所內聯絡還是有不妥。
查了隆茲布魯王國現在的時間,那邊差不多是傍晚左右。確認後,泰瑞爾透過索克告訴他的連絡方式打給洛斐恩。
「泰瑞爾啊,好久不見啦。我從索克那裡聽說了」
「洛斐恩老師。好久不見」
許久沒聽到的洛斐恩的聲音,還是和當年手持教鞭的時候沒有什麼改變。
「雖然你可能有很多話想說,但不巧我沒有時間,麻煩就簡單說吧」
「了解。很抱歉在您百忙之中打擾您。我目前正負責一具自動人偶,關於這自動人偶──」
道歉之後,泰瑞爾將事前整理好的問題向洛斐恩提出。
就是有關於自動人偶裝載自我防衛機能的事,還有關於減輕傳送至人工智能的計算結果負荷等各種問題。
「看來問題相當多啊,不過你正在製造著頗有意思的東西」
洛斐恩對於泰瑞爾的問題一一闡述自己的見解。泰瑞爾心想,果然老師做為工程師的頭腦並未衰老。
「還有一件事,想請您提供在製作馬庫斯這個自動人偶時所使用的『死者復活』法典。
「你打算用在什麼地方?」
或許是因為提到了法典,洛斐恩的聲音有了些許的變化。
「因為現在製作的自動人偶需要那個法典的技術」
「我不知道你是研究什麼到最後才會想要那個技術。但是,你在想什麼?」
「為了讓蕾格烈芙大人統一世界,還需要更進一步的說明嗎」
泰瑞爾豪不猶豫地說道。
洛斐恩沉默了,像是在思考著什麼。
「……我知道了,你派人來吧,我會把法典交給他的」
「謝謝您,我不會忘記這份恩的」
與洛斐恩的通話結束後,泰瑞爾馬上聯絡索克。
「洛斐恩老師想將法典託你帶回」
「了解,我會派馬庫斯去拿。雖然統制局的檢查無法避免,但是為了完成貝琳達,我會讓它通過的」
「謝謝您」
泰瑞爾對索克表達了感謝。
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收到資料已經取回的聯絡,是在那之後二個月的事了。
「您確定嗎?」
泰瑞爾來到索克的辦公室,聽取有關洛斐恩的報告。
「是的,沒有錯,但是,真的可以嗎?」
泰瑞爾壓抑住歡喜的情緒向索克問道。即便內容有欠缺不全,但這可是法典呢。本來應該要被嚴密控管,可不是下層的工程師可以直接接觸到的。
「要把這法典交給你的話,有一個條件」
「條件嗎?是什麼樣的條件?」
泰瑞爾打算不管提出的是什麼樣的條件都會遵從。
「條件是,法典的解析結果全部要在理事會公開。因為之前洛斐恩不願意把這個的解析結果交出來」
「這樣啊……。我了解了,請等候解析的結果」
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洛斐恩從這個法典中,得到從死者的腦中抽出記憶與感情的理論。再更仔細解析後,也得到將那份抽出的記憶與感情作為基礎,做出新的假想人格的理論。
加上泰瑞爾手中的法典得到的理論是,這只是拿來用在,因腦部腐爛而難以將記憶與感情抽出時的技術。
這樣一來,就算將兩個法典的技術合在一起,也無法達到『死者復活』的理論。這兩個法典得出的結論,只是將死者的肉體與記憶做出新的人類而已。
不知道因為什麼事才會做出這個理論,但是可能可以做為解開黃金時代歷史的資料之一,但是對泰瑞爾來說沒有用。
這個結果與泰瑞爾想要追求的東西不一樣,但是總比什麼都解不出來好,只好接受這個結果。
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將解析結果交給理事會幾週後,艾格林所長打到泰瑞爾的研究室。
「關於貝琳達的人工智能,最後決定不要修改直接用新的」
「因為無法修改嗎?」
「是的,因為擔任連絡的人報告說找不到製造者,目前還在搜尋他,但可能要花上好一段時間」
「那麼,是誰要做新的人工智能呢?」
潘德莫尼應該沒有研究者可以製造出自動人偶的人工智能,如果有那樣的人,不管他再怎麼低調進行研究,一定會曝露出來的。
「好像是我們有保管一份,同一位製造者以前為了別的用途做的人工智能,打算使用那一份。那是在潘德莫尼中所有自動人偶中,最新型的人工智能」
「那麼應該就可以負荷得住對吧」
「需要實際裝進去的實例,所以決定採用你解析的那份法典技術」
「為了壓制住那個人工智能的感情機能,需要做新的假想人格,對吧?」
「詳細報告還沒有出來,但是近期內他們應該會直接連絡你的」
「了解了」
泰瑞爾簡單將其他的演算裝置修改情況報告給所長後,就結束通話了。
泰瑞爾在通訊機前露出笑容。
因為他之前的解析不是白費工夫,而高興到發抖。
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「─完─」
3392年 「人工知能」
タイレルは所長室で、ベリンダの改修案についてオルグレン、リンナエウスと意見を交わしていた。
「人工知能の改修かぁ」
「はい。現状の負荷では人工知能が損傷しかねません。制作者に改修を要請したいのです」
ベリンダの改修は大きな問題点にぶつかっていた。
現在のままでは、演算機能を高度にしたとしても人工知能への負荷は大きいままだ。それを根本的に解決するには、ベリンダの人工知能の性能向上が必要になる。
しかし、タイレルは兵装研究者だ。兵器を運用するための演算システムは作れても、人工知能に大幅な改修を行うことはできない。
ましてや、ベリンダは人間としてグランデレニア帝國に送り出すために高度な情動機能を持たせた人工知能だ。下手な改修によってその機能を損なってしまえば意味が無くなってしまう。
「タイレルの言うとおり、担当部署に要請を出さないと駄目でしょうねぇ」
「そうだな。今日中に要請を出しておく。平行して演算機能の改修案についても進めておいてくれ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「返答が帰ってくるまで暫くかかるだろう。そこで一つ、その間にやって欲しいことがある」
オルグレンは大きなモニターに資料を映し出した。
「ガレオン担当の技官から、ベリンダの自己防衛機能に関する意見が上がってきている」
「自己防衛機能ですか?」
「そうだ。万が一、ガレオン内で白兵戦になった場合に備えたいということらしい」
「わかりました、仕様を纏めておきます」
タイレルは一礼すると、所長室から立ち去った。
ローフェンの居場所が判明したのは、ベリンダの人工知能改修案を提出してから少し経った頃のことだった。
ソングから連絡を受けたタイレルは、ソングの召致を受けて統括センターを訪れた。
「ローフェンは現在、ロンズブラウ王国に滞在している」
挨拶もそこそこにソングは切り出した。
「ありがとうございます。それにしても、召致をする必要は無かったのでは?」
「通信で伝えるには、些か憚られる話があるのでな」
「どういった事情が?」
タイレルの疑問に対し、ソングの表情は固い。
「五日後に協定審問官をロンズブラウ王国に送る手筈となった。これは決定事項であり、覆すことはできん」
「ローフェン師がロンズブラウ王国で何か違反行為を行っていると?」
「すまないが、これ以上の詳細を話すことはできない」
タイレルは食い下がろうとしたが、ソングの態度は頑なだった。
協定審問官が出向くような事態になっているのならば、一介のエンジニアが何かしらの対策を講じることは不可能である。そのことはタイレルにも容易に理解できる。
「ローフェン師と連絡を取り付けることは不可能だという認識でしょうか?」
「だが、ベリンダの完成にローフェンの技術が必要なのだろう? 人工知能の改修に加えて、自己防衛機能を追加したいとの要望があると聞いている」
「はい。自己防衛機能を含めて、ローフェン師が地上に持ち出した技術に解決策があると私は考えています」
タイレルは自分の意見を覆さなかった。ここで諦めるわけにはいかない。
「特例でローフェンの連絡先を教えよう。あとは君の方で上手くやってくれ」
ひとまず研究所に戻ったタイレルは、いくつかの仕事を終わらせて足早に自宅へと戻った。すぐにでもローフェンと通信を行いたかったが、研究所で通信を行うのは控えたかった。
ロンズブラウ王国の現在時刻を調べると、夕刻に差し掛かる頃であった。そのことを確認すると、タイレルはソングから受け取ったローフェンの連絡先へ通信を開始する。
「タイレルか、久しいな。ソングから話は聞いた」
「お久しぶりです。ローフェン先生」
何年かぶりに聞いたローフェンの声は、かつて教鞭を執っていた時と何ら変わっていなかった。
「積もる話もあるが、生憎とこちらも暇ではないのでな、手短に頼む」
「わかりました。お忙しいところ申し訳ありません。僕は今、一体の自動人形を任されていまして、それについて——」
一つ謝罪をすると、タイレルは事前に纏めておいた質問をローフェンに投げかけた。
それは自動人形に搭載する自己防衛機能についてであったり、人工知能へ送る演算結果の負荷軽減についてであったりと、様々だ。
「中々に多いな。だが、興味深いものを製造している」
ローフェンはタイレルの質問に対して一つ一つ自身の見解を述べた。やはり師の技師としての頭脳に衰えはない、タイレルはそう感じていた。
「もう一つ、マックスという自動人形を制作した際に使用した『死者復活』のコデックス。それを提供していただきたいのです」
「何に使うつもりだ?」
ローフェンの声色が僅かに変わった。コデックスのことを持ち出したからだろうか。
「現在製作している自動人形に、あのコデックスの技術が必要なのです」
「お前がどういった研究の末でそこに辿り着いたのかは知らない。だが、何を考えている?」
「世界をレッドグレイヴ様の下に統一するため。これ以上の説明が必要でしょうか」
迷うことなくタイレルは言い切った。
沈黙が流れた。ローフェンは何かを考えているようだった。
「……わかった。人を寄越すといい。そいつにコデックスを預けよう」
「ありがとうございます。この御恩は忘れません」
ローフェンとの通信を終えた後、すぐにソングに通信を繋ぐ。
「ローフェン師からコデックスを預けたいとの申し出がありました」
「わかった、マックスに回収させよう。統制局の検閲は避けられんが、ベリンダ完成のためだ。私の方でも手を回しておく」
「ありがとうございます」
タイレルはソングに対して感謝の気持ちを表した。
ローフェンから資料が回収されたという連絡が来たのは、それから更に二ヶ月が経った後であった。
「これで間違いはないな?」
ソングの執務室に召致されたタイレルは、ソングからローフェンに関する報告を聞いていた。
「はい、間違いありません。ですが、本当によろしいのですか?」
タイレルは悦喜の感情を押し殺してソングに問う。内容にどれほどの欠損があったとしても、これはコデックスだ。本来ならば厳しく管理され、末端のエンジニアである自身などが直接関われるような代物ではない。
「このコデックスを君に渡すには、一つ条件がある」
「条件ですか? それはどのような?」
どんな条件を出されても、タイレルはそれに従うつもりであった。
「そのコデックスの解析結果全てをカウンシルに開示すること。それが条件だ。ローフェンはこのコデックスを解析した資料までは寄越さなかったのでな」
「そうですか……。わかりました、解析の結果をお待ちください」
ローフェンのコデックスには、死者の脳から記憶や感情を抽出する理論が記されていた。更に詳しく解析していくと、その抽出した記憶や感情を基礎として、新たに別の仮想人格を作り上げる理論も記されていた。
自らが所持しているコデックスから得られた理論は、腐敗して記憶や感情の抽出が困難となった脳を再生させるためのものでしかない。
となれば、この二つのコデックスを合わせたとしても『死者蘇生』の理論には届かない。導き出される理論は、死者の肉体と記憶を元に新たな人間を作り出すものになるだろう。
どのような経緯からこの理論が作り上げられたのかはわからない。黄金時代の歴史を紐解けば何か判明するかもしれないが、タイレルにはそこまで掘り下げる理由は無い。
自身の求めたものとは違う結果に落胆したタイレルだったが、何も解析が進まないよりは良いだろうと、自分を納得させる他なかった。
コデックスの解析結果をカウンシルに送り終えて数週間後、タイレルの研究室にオルグレン所長から通信が入った。
「ベリンダの人工知能だが、改修ではなく新規のものに変更することになった」
「改修は不可能だったのでしょうか?」
「そうだ。担当から制作者の所在が不明になったという報告が来た。制作者の行方を調査中だそうだが、時間が読めないらしい」
「では、新規の人工知能は一体誰が製作したものなのですか?」
自動人形の人工知能を製作することができる研究者は、パンデモニウムには一人もいない筈だ。もしそのような人物がいれば、どれだけ目立たないように研究を行っていたとしても、どこかしらから漏れ聞こえてくる。
「同じ制作者が以前別の用途で造ったものが保管されているらしく、それを流用するとのことだ。パンデモニウムにある自動人形用の人工知能としては最新型となる」
「それならば負荷にも耐えられそうですね」
「実際に搭載して実証する必要はあるがね。それと、君が解析したコデックスの技術だが、それが採用されることになった」
「その人工知能の情動機能を制御するのに必要な仮想人格を新たに作るため、ですね」
「詳細についてはまだ報告が来ていない。近いうちに君のところへ連絡が行くだろう」
「わかりました」
その他に演算装置の改修案について進捗を簡単に報告し、通信を終える。
タイレルは通信機の前で笑みを浮かべていた。
自分の解析と研究は無駄ではなかったのだと、歓喜に打ち震えていた。
「—了—」
タイレルは所長室で、ベリンダの改修案についてオルグレン、リンナエウスと意見を交わしていた。
「人工知能の改修かぁ」
「はい。現状の負荷では人工知能が損傷しかねません。制作者に改修を要請したいのです」
ベリンダの改修は大きな問題点にぶつかっていた。
現在のままでは、演算機能を高度にしたとしても人工知能への負荷は大きいままだ。それを根本的に解決するには、ベリンダの人工知能の性能向上が必要になる。
しかし、タイレルは兵装研究者だ。兵器を運用するための演算システムは作れても、人工知能に大幅な改修を行うことはできない。
ましてや、ベリンダは人間としてグランデレニア帝國に送り出すために高度な情動機能を持たせた人工知能だ。下手な改修によってその機能を損なってしまえば意味が無くなってしまう。
「タイレルの言うとおり、担当部署に要請を出さないと駄目でしょうねぇ」
「そうだな。今日中に要請を出しておく。平行して演算機能の改修案についても進めておいてくれ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「返答が帰ってくるまで暫くかかるだろう。そこで一つ、その間にやって欲しいことがある」
オルグレンは大きなモニターに資料を映し出した。
「ガレオン担当の技官から、ベリンダの自己防衛機能に関する意見が上がってきている」
「自己防衛機能ですか?」
「そうだ。万が一、ガレオン内で白兵戦になった場合に備えたいということらしい」
「わかりました、仕様を纏めておきます」
タイレルは一礼すると、所長室から立ち去った。
ローフェンの居場所が判明したのは、ベリンダの人工知能改修案を提出してから少し経った頃のことだった。
ソングから連絡を受けたタイレルは、ソングの召致を受けて統括センターを訪れた。
「ローフェンは現在、ロンズブラウ王国に滞在している」
挨拶もそこそこにソングは切り出した。
「ありがとうございます。それにしても、召致をする必要は無かったのでは?」
「通信で伝えるには、些か憚られる話があるのでな」
「どういった事情が?」
タイレルの疑問に対し、ソングの表情は固い。
「五日後に協定審問官をロンズブラウ王国に送る手筈となった。これは決定事項であり、覆すことはできん」
「ローフェン師がロンズブラウ王国で何か違反行為を行っていると?」
「すまないが、これ以上の詳細を話すことはできない」
タイレルは食い下がろうとしたが、ソングの態度は頑なだった。
協定審問官が出向くような事態になっているのならば、一介のエンジニアが何かしらの対策を講じることは不可能である。そのことはタイレルにも容易に理解できる。
「ローフェン師と連絡を取り付けることは不可能だという認識でしょうか?」
「だが、ベリンダの完成にローフェンの技術が必要なのだろう? 人工知能の改修に加えて、自己防衛機能を追加したいとの要望があると聞いている」
「はい。自己防衛機能を含めて、ローフェン師が地上に持ち出した技術に解決策があると私は考えています」
タイレルは自分の意見を覆さなかった。ここで諦めるわけにはいかない。
「特例でローフェンの連絡先を教えよう。あとは君の方で上手くやってくれ」
ひとまず研究所に戻ったタイレルは、いくつかの仕事を終わらせて足早に自宅へと戻った。すぐにでもローフェンと通信を行いたかったが、研究所で通信を行うのは控えたかった。
ロンズブラウ王国の現在時刻を調べると、夕刻に差し掛かる頃であった。そのことを確認すると、タイレルはソングから受け取ったローフェンの連絡先へ通信を開始する。
「タイレルか、久しいな。ソングから話は聞いた」
「お久しぶりです。ローフェン先生」
何年かぶりに聞いたローフェンの声は、かつて教鞭を執っていた時と何ら変わっていなかった。
「積もる話もあるが、生憎とこちらも暇ではないのでな、手短に頼む」
「わかりました。お忙しいところ申し訳ありません。僕は今、一体の自動人形を任されていまして、それについて——」
一つ謝罪をすると、タイレルは事前に纏めておいた質問をローフェンに投げかけた。
それは自動人形に搭載する自己防衛機能についてであったり、人工知能へ送る演算結果の負荷軽減についてであったりと、様々だ。
「中々に多いな。だが、興味深いものを製造している」
ローフェンはタイレルの質問に対して一つ一つ自身の見解を述べた。やはり師の技師としての頭脳に衰えはない、タイレルはそう感じていた。
「もう一つ、マックスという自動人形を制作した際に使用した『死者復活』のコデックス。それを提供していただきたいのです」
「何に使うつもりだ?」
ローフェンの声色が僅かに変わった。コデックスのことを持ち出したからだろうか。
「現在製作している自動人形に、あのコデックスの技術が必要なのです」
「お前がどういった研究の末でそこに辿り着いたのかは知らない。だが、何を考えている?」
「世界をレッドグレイヴ様の下に統一するため。これ以上の説明が必要でしょうか」
迷うことなくタイレルは言い切った。
沈黙が流れた。ローフェンは何かを考えているようだった。
「……わかった。人を寄越すといい。そいつにコデックスを預けよう」
「ありがとうございます。この御恩は忘れません」
ローフェンとの通信を終えた後、すぐにソングに通信を繋ぐ。
「ローフェン師からコデックスを預けたいとの申し出がありました」
「わかった、マックスに回収させよう。統制局の検閲は避けられんが、ベリンダ完成のためだ。私の方でも手を回しておく」
「ありがとうございます」
タイレルはソングに対して感謝の気持ちを表した。
ローフェンから資料が回収されたという連絡が来たのは、それから更に二ヶ月が経った後であった。
「これで間違いはないな?」
ソングの執務室に召致されたタイレルは、ソングからローフェンに関する報告を聞いていた。
「はい、間違いありません。ですが、本当によろしいのですか?」
タイレルは悦喜の感情を押し殺してソングに問う。内容にどれほどの欠損があったとしても、これはコデックスだ。本来ならば厳しく管理され、末端のエンジニアである自身などが直接関われるような代物ではない。
「このコデックスを君に渡すには、一つ条件がある」
「条件ですか? それはどのような?」
どんな条件を出されても、タイレルはそれに従うつもりであった。
「そのコデックスの解析結果全てをカウンシルに開示すること。それが条件だ。ローフェンはこのコデックスを解析した資料までは寄越さなかったのでな」
「そうですか……。わかりました、解析の結果をお待ちください」
ローフェンのコデックスには、死者の脳から記憶や感情を抽出する理論が記されていた。更に詳しく解析していくと、その抽出した記憶や感情を基礎として、新たに別の仮想人格を作り上げる理論も記されていた。
自らが所持しているコデックスから得られた理論は、腐敗して記憶や感情の抽出が困難となった脳を再生させるためのものでしかない。
となれば、この二つのコデックスを合わせたとしても『死者蘇生』の理論には届かない。導き出される理論は、死者の肉体と記憶を元に新たな人間を作り出すものになるだろう。
どのような経緯からこの理論が作り上げられたのかはわからない。黄金時代の歴史を紐解けば何か判明するかもしれないが、タイレルにはそこまで掘り下げる理由は無い。
自身の求めたものとは違う結果に落胆したタイレルだったが、何も解析が進まないよりは良いだろうと、自分を納得させる他なかった。
コデックスの解析結果をカウンシルに送り終えて数週間後、タイレルの研究室にオルグレン所長から通信が入った。
「ベリンダの人工知能だが、改修ではなく新規のものに変更することになった」
「改修は不可能だったのでしょうか?」
「そうだ。担当から制作者の所在が不明になったという報告が来た。制作者の行方を調査中だそうだが、時間が読めないらしい」
「では、新規の人工知能は一体誰が製作したものなのですか?」
自動人形の人工知能を製作することができる研究者は、パンデモニウムには一人もいない筈だ。もしそのような人物がいれば、どれだけ目立たないように研究を行っていたとしても、どこかしらから漏れ聞こえてくる。
「同じ制作者が以前別の用途で造ったものが保管されているらしく、それを流用するとのことだ。パンデモニウムにある自動人形用の人工知能としては最新型となる」
「それならば負荷にも耐えられそうですね」
「実際に搭載して実証する必要はあるがね。それと、君が解析したコデックスの技術だが、それが採用されることになった」
「その人工知能の情動機能を制御するのに必要な仮想人格を新たに作るため、ですね」
「詳細についてはまだ報告が来ていない。近いうちに君のところへ連絡が行くだろう」
「わかりました」
その他に演算装置の改修案について進捗を簡単に報告し、通信を終える。
タイレルは通信機の前で笑みを浮かべていた。
自分の解析と研究は無駄ではなかったのだと、歓喜に打ち震えていた。
「—了—」