某一天,在王都貴族階級使用的別莊一角,發生了小規模的爆炸。
從爆炸的狀況來看,雖然可以判斷是由某些人發動的恐怖攻擊,但卻沒有發出犯罪聲明。
佛羅倫斯雖然因為臨時警戒狀態而暫時住在軍隊設施,但和下屬進行換班後回到幾天沒回去的居所。這段期間,收到了家人的來信。
自從住進軍隊的宿舍後,就沒有與家人見過面。只能依靠偶而會收到的,來自無血緣關係的姊姊寄來的信,來得知家人的近況。
「這是?!」
但今天收到的信,雖然偽裝成家人的來信,內容卻完全不一樣。
信上寫著『起身對抗王國對少數民族的不當歧視吧』,這種激起王都內少數民族出身者群起暴動的激烈內容。
被佛羅倫斯當作居所的宿舍,是在魯比歐那軍人被分配的宿舍中,屬於特別高機密性部屬才能住進的宿舍。
根據軍隊的規定,不論是家人的來信、或是來自軍隊的文件,理所當然都會進行是否包含危險性及異常性的嚴密檢查。
不只通過了如此嚴密的檢查,而且這封信偽裝成家人的信件,為了確實地被打開閱讀。
判斷信件內容為緊急事件的佛羅倫斯,馬上和艾妲取得聯絡。
佛羅倫斯在奧爾羅隊的辦公室裡,把信拿給艾妲看。艾妲也是從昨天開始因為臨時警戒狀態,住在辦公室裡。
「向軍警申請調查吧。這應該是這次恐怖攻擊的重要參考資料」
「那,我先跟軍警察聯絡」
「嗯。雖然可能因為這封信件,暫時要請軍警察常常出入宿舍了,麻煩妳」
「我明白了」
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將信交給軍警察之後過了一段時間。雖然恐怖份子仍然沒有發表犯罪聲明,但魯比歐那軍已經被迫做好對應恐怖攻擊的準備。
佛羅倫斯也因為這個緊急時期,無法取得像樣的休假持續工作著。這天也因交給軍警察的那封信之事被叫了過來。
這二天非處理完不可的軍務,讓佛羅倫斯匆忙地走向往軍方本部的捷徑,是條沒有人煙的小路。
「在那邊的軍人小姐,麻煩一下好嗎?」
佛羅倫斯突然被叫住。停下腳步往聲音來源轉身過去。就在這瞬間,一把銳利的刀冷不防地砍了過來。
「做什麼!」
雖然看到了持刀的人,但因為從頭到腳包覆著黑衣,外表無法辨別。
勉強聽到從布的縫隙間傳來的聲音,大概可以知道是個男人。
「叛徒需要受到制裁」
「明明身為被欺凌的民族之一,卻將同胞出賣給傲慢女王的愚蠢之人,接受制裁吧」
不知道從哪裡又出現了二個身穿同樣衣服的人。
「……該不會,那封信是你們」
佛羅倫斯確信,眼前的黑衣男子們是引起這次恐怖事件的恐怖份子。
「沒錯。被欺凌的梅雅族之子。現在還來得及。加入我們吧」
「我拒絕!」
身穿黑衣的男子們聽完佛羅倫斯的話後,就不發一語地襲擊而來。恐怖分子會將接觸過的人滅口。佛羅倫斯也猜的到。
佛羅倫斯用攜帶的手槍朝空中開了一槍。幸好是執行軍務的途中,而且現在是臨時警戒,至少有被允許攜帶著手槍行動。
身穿黑衣的男子們畏怯了。但是,佛羅倫斯也知道他們並非是害怕手槍。
這裡離繁華的街道很近。這個舉動是因為佛羅倫斯認為只要居民聽到槍聲而產生騷動的話,就能讓黑衣男們撤退。
「是槍聲!叫警察!」
繁華的街道陷入混亂,在附近巡邏的警官馬上就趕了過來。
「你們幾個!在這裡做什麼!」
「……背叛者梅亞族。這個罪,一定會要妳償還」
留下這句話,黑衣男子們在警官將他們包圍之前就消失了。剩下佛羅倫斯向警官簡單地說明狀況。
「關於這件事,請讓我與奧爾羅隊隊長的艾妲·拉克蘭大尉聯絡」
「不行,這理應由警察署處理。現在,在這裡使用個人的聯絡線路是不被允許的。」
「為什麼。身分、所屬單位都已經給你證明了。我有義務向隊長報告這裡的狀況」
「不管妳是哪個所屬單位,妳跟恐怖份子有過接觸。就有參與恐怖攻擊的可能性」
「但是……」
「而且,妳那皮膚的顏色,不是純魯比歐那出身的吧。而且還是軍屬的貴族又是裝甲獵兵?哼,是真是假都很可疑」
佛羅倫斯隱藏不住驚訝與憤怒的神情。身穿軍人的正裝,也出示了身分證明,卻因為皮膚的顏色而被懷疑參與恐怖攻擊。『被欺凌之者』這句話從腦海中飄過。
「知道了,雖然剛才才去過軍警察局,跟你去吧」
佛羅倫斯才經過不到數十分鐘就又回到軍警察局。結束詢問調查後出了房間,艾妲已經在大廳。
「中尉,辛苦妳了」
「艾……啊不,拉克蘭大尉。很抱歉給您添麻煩了」
「別在意。妳完全不需要感到愧疚。因為我們是以協助辦案的態度在這裡的,妳該抬頭挺胸」
「謝謝您的關心」
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非本意與恐怖份子接觸的幾天之後。佛羅倫斯與艾妲一起討論,該怎麼讓派遣在各地的中隊回歸的對策。
討論到一半,神色慌張的伊姆斯少尉闖了進來。
「談話中打擾了。緊急報告!」
「怎麼了?發生什麼事」
「馬克·布拉福特侯爵在探望貝克特侯爵的回程途中,於住宅區遭到恐怖攻擊」
「父親大人!?父親大人沒事吧?」
佛羅倫斯十分驚慌。整個人面無血色。
「攻擊範圍本身很小,所幸沒有釀成太大的災害。報告中提到,侯爵已經迅速地送往醫院,目前接受治療之中」
「這樣啊,謝謝你的報告。這個月到現在已經是第四件了……」
聽了報告,佛羅倫斯在感到安心地同時也感到恐懼。領悟到這是恐怖份子報復的一環。因為拒絕參與恐怖攻擊活動,使得父親成為了目標。
「布拉福特中尉,妳今天可以走了。快到父親的身邊去吧」
「遵命。……感謝您的體諒」
佛羅倫斯行禮後,快步地走出奧羅爾隊的房間。
在醫院裡,父親意外地有精神正在接受治療。但是為了安全起見,今天打算就在這警備森嚴的醫院裡過夜。
很多貴族出入的這間醫院,到處可以看到站崗的警備人員,確實可以說是安全的。
佛羅倫斯出了醫院後走進大街上的咖啡廳,恐怖份子的事一直在腦中揮之不去,為了讓情緒安定冷靜下來,點了根菸抽了一口。
「打擾了,可以同桌嗎?」
一個沒見過的年輕男子問道。雖然不是很想同桌,但看了看四周圍也沒有其他的空位。
「啊,嗯。請」
「謝謝。話說,令尊還好嗎?」
突如其來的一句話,讓佛羅倫斯夾著香菸的手停下。男子用著周圍聽不到的音量低聲說著。
「我們說的話沒有錯。妳背叛了同胞。這個罪要妳的家族來償還」
「你這傢伙!」
「這樣好嗎?我只是個住在王國裡的小市民而已」
如果現在對眼前的男子動手的話,只會讓人看到應該保護國民的軍人對國民動手而已。男子的話讓佛羅倫斯緊握拳頭。
「而且,妳看」
男子所指的方向,可以看到醫院那邊鑲有自家紋章的馬車正緩緩地前進著。接著手指稍微移動,這次指著不遠處建築物的窗戶。
「如果妳不表現出協助的態度,我現在就可以讓那輛馬車失控」
「卑鄙小人……」
「注意妳的用詞。妳家族的命運可是掌握在我們的手裡」
「……要我做什麼?」
握緊的拳頭,滲著血。
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少數民族出身,所屬女王側近奧羅爾隊的佛羅倫斯,對恐怖份子來說是相當好用的棋子。
被告知的計劃,是要佛羅倫斯在負責女王寢室執勤時讓暗殺者潛入。
佛羅倫斯在王宮的某個茶水間裡盯著裝滿飲料的杯子看。
「我,只有這個辦法……」
佛羅倫斯看著杯子一個人自言自語。手上拿的是恐怖份子給佛羅倫斯的特殊安眠藥。放進其中一個杯子後,就朝休息中的艾妲走去。
艾妲手抵著太陽穴,低著頭在休息。
「怎麼了,身體不舒服嗎」
佛羅倫斯將含有安眠藥的杯子交給了艾妲。並確實看見艾妲將它送入口中
「不,沒事。稍微休息一下就好了。比起這個佛羅倫斯妳沒事吧?臉色看起來不太好」
艾妲的話讓佛羅倫斯心頭震了一下。果然不管陷入什麼狀況艾妲依舊是夥伴。更因為這樣才一定要讓她遠離暗殺女王的現場不可。
確認喝了含有安眠藥的艾妲倒下之後,佛羅倫斯將艾妲移到醫務室後去叫人來。
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深夜裡,佛羅倫斯與二名部下面露緊張地一同擔當女王寢室的守衛。
到了計劃中的時間。早就潛伏在王宮中擔任王宮兵的恐怖份子,假裝是深夜的巡邏走過來了。
走來的瞬間。就在恐怖份子在襲擊其中一名部下的同時,佛羅倫斯襲擊了另一名部下讓他昏倒。忽然間一動也不動的二人,連發生了什麼事也不知道就昏厥過去了。
「做得好」
佛羅倫斯讓昏倒的二名部下留在原地,站在寢室的入口。
「怎麼回事!女王去哪裡了!」
男子在寢室裡激動喊著。寢室裡別說是女王,就連護衛騎士的身影也沒看到。
「計劃似乎被洩漏了」
「怎麼可能,這個計劃是──」
「失敗的話,盡早撤退比較好」
「不,等等……是妳吧,背叛了我們對吧!」
男子拿槍對著佛羅倫斯。佛羅倫斯在彈指之間拉近距離壓住對手的槍。
「我從沒背叛過,我的忠誠從一開始就是奉獻給這個國家的!」
「愚蠢的女人!竟然不知道這個王國裡有多少民族正處在水深火熱之中!」
事實是佛羅倫斯讓女王事先逃走了。她們為了不被發現,從緊急通道離開王宮了。
纏鬥之中佛羅倫斯奪下手上的槍。在拉開距離想要舉槍瞄準的時候,男子從懷裡拿出某種東西。
「王國受死吧!」
佛羅倫斯在千鈞一髮地跳出寢室後趴在地上。同時,王宮裡響徹了足以撼動整棟建築的爆炸聲。
|
「-完-」
3398年 「テロル」
ある日、王都にある貴族階級が利用する別荘の一角で、小規模な爆発が起こった。
爆発の状況から何者かによるテロであることは判明したが、犯行声明が出されることはなかった。
フロレンスは臨時警戒態勢のため暫く軍施設に詰めていたが、部下と交代して数日振りに住居へ戻っていた。その間に、家族からの手紙が届いていた。
軍の寮に入ってからは家族とめっきり会っていない。たまに届く義理の姉からの手紙のやり取りだけが、家族の近況を知る手段であった。
「これは!?」
しかし今日届いた手紙は、家族からの手紙を装ってはいたが、内容は全くの別物であった。
手紙には『王国による少数民族への謂われなき差別に対抗せよ』といった、王都に住む少数民族出身者達に蜂起を促すような過激な内容が書かれていた。
フロレンスが住居としている寮はルビオナ軍人に宛がわれる寮の中でも、特に機密性が高い部署に所属する者が入居する寮だ。
軍の規定により、家族からの手紙はおろか、軍からの書類などについても、危険なものや怪しいものでないか厳重にチェックが行われる。
その厳しい検査を掻い潜った上、この封書は家族の手紙を装って確実に開封させる事を目的としていた。
封書の内容に緊急を要すると判断したフロレンスは、すぐさまエイダに連絡を取った。
オーロール隊の執務室でフロレンスはエイダに封書を見せた。エイダも昨日からテロによる臨時体勢のため、執務室に詰めている。
「軍警察に調査を依頼しよう。今回のテロ事件の重要な参考資料になる筈だ」
「では、軍警察に連絡をします」
「うむ。この封書の件で暫く軍警察に出入りしてもらうことになるだろうが、頼む」
「わかりました」
封書を軍警察に提出してから少しの時が過ぎた。テロリストの犯行声明は未だ発表されておらず、ルビオナ軍はテロの対応に追われていた。
フロレンスもこのような緊急時のため、休暇らしい休暇は取らずに働いていており、その日も軍警察に引き渡した封書の件で呼び出しを受けていた。
今日明日で処理しなければならない軍務が残っていたため、軍本部へ続く人気のない夜の道をフロレンスは急いで進んでいた。
「そこの軍人さん、ちょっといいですか?」
急にフロレンスは呼び止められた。その声に立ち止まって振り向く。その瞬間、突如として鋭利な刃物で切り付けられそうになる。
「何をする!」
刃物を持った人物を見たが、頭から足先まで黒衣で覆っており、外見の判別はつかない。辛うじて布の隙間から聞こえてくる声で、その人物が男であることがわかった程度だった。
「裏切り者には制裁が必要だ」
「虐げられし民族でありながら、同胞を傲慢な女王に売った愚か者に制裁を」
どこからか同じような衣装を纏った者が、もう二人現れた。
「……まさか、あの手紙はお前達が」
フロレンスは目の前にいる黒衣の男達こそが、今回のテロ事件を起こしているテロリストであると確信した。
「そうだ。虐げられしメーアの子。今ならまだ間に合う。我らと共に来るのだ」
「断る!」
黒衣の男達はフロレンスのその言葉を聞くと、沈黙したまま襲い掛かってきた。テロリストと接触した口封じであろうことは、フロレンスにも容易に想像がついた。
フロレンスは携行していた拳銃を空中に向かって発砲した。軍務の途中であり、臨時警戒態勢の最中のため、拳銃程度の武装が許されているのが幸いだった。
黒衣の男達は怯んだ。しかしそれは銃を恐れてでないことは、フロレンスにもわかっていた。
ここは繁華街の近くである。音に気付いた住民が何事かと騒ぎ出せば、黒衣の男達を退けられると考えての行動だった。
「銃声だぞ! 警察を呼べ!」
繁華街が騒然となり、周辺を巡回していた警官がすぐに駆け付ける。
「貴様ら! そこで何をしている!」
「……裏切り者のメーア族め。この罪、必ず償ってもらうぞ」
そう言い残して、黒衣の男達は警官に囲まれる前に消え去った。残されたフロレンスは警官に簡単な状況説明をする。
「この件についてオーロール隊隊長のエイダ・ラクラン大尉に連絡をさせてください」
「だめだ、それは署でするべきことだ。今ここで個人の連絡回線を使うことは許さん」
「何故です。身分も、所属も証明しました。自分には隊長にこの状況を報告する義務があります」
「どこの所属であろうと、あんたはテロリストと接触した。テロに関与している可能性がある」
「ですが……」
「大体、その肌の色、生粋のルビオナ出身者ではないんだろう。それが軍属の貴族で装甲猟兵? ふん、本当の身分か怪しいもんだね」
フロレンスは驚きと怒りを隠せなかった。軍の正装を纏い、身分証を提示してもなお、肌の色だけでテロへの関与を疑われる。『虐げられし者』の言葉が頭を過ぎった。
「わかりました、先程軍警察へ伺ったばかりですが、同行します」
フロレンスは数十分と経たずに軍警察へ舞い戻ることとなった。事情聴取を終えて部屋を出ると、ホールにはエイダがいた。
「中尉、大変だったな」
「エイ……いや、ラクラン大尉。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「気にするな。貴女は何も疚しい事はしていない。こちらには協力の姿勢があるのだから、堂々としていなさい」
「お気遣い、ありがとうございます」
テロリストと本位ではない接触を果たしてから数日が経った。フロレンスはエイダと共に、各地に派遣されている中隊の帰還をどうするか検討を行っていた。
その最中、緊迫した面持ちでイームズ少尉がやって来た。
「お話中失礼します。 緊急報告です!」
「どうした? 何があった」
「マーク・ブラフォード侯爵がベケット侯爵を見舞ったお帰りに、住宅街でテロの被害に遭遇されました」
「お父様が!? お父様は無事なの?」
フロレンスははっとなる。段々と血の気が引いてく感覚があった。
「テロの規模自体は小さく、幸い大事には至っておりません。すぐに病院に搬送され、手当てを受けているとの報告が来ました」
「そうか、報告ありがとう。今月に入ってこれで四件目か……」
報告を聞いて、フロレンスは安堵と同時に恐怖した。テロリストの報復の一環であることを悟る。テロへの関与を断ったことで、父親が標的にされたのだった。
「ブラフォード中尉、今日はいい。 お父上のもとへ」
「了解です。 ……ご配慮ありがとうございます」
フロレンスは敬礼すると、急いでオーロール隊の部屋を後にした。
病院では存外に元気そうな父親が簡単な手当を受けていた。だが大事をとって、今日は警備の厳重なこの病院に寝泊りするという。
貴族が多く出入りするこの病院にはそこかしこに警備の人間が待機しており、確かに安全といえた。
フロレンスは病院を出ると表通りのカフェに入り、煙草に火を点けて一息ついた。テロリストのことが頭から離れず、気分を落ち着かせて冷静になるためだった。
「失礼、相席よろしいですか?」
見知らぬ若い男が尋ねてきた。相席はあまり気が進まないが、周囲を見回すと他に座るようなところはなかった。
「あ、ええ。どうぞ」
「ありがとうございます。ところで、お父上はお元気でしたか?」
不意の言葉に、煙草に手をかけていたフロレンスの手が止まる。男は周囲に聞こえない程度の声でフロレンスに囁いた。
「我々は言葉を違えない。お前は同胞を裏切った。その罪はお前の家族に償ってもらう」
「貴様!」
「いいのか? 私は王国に住む、ただの一市民だぞ」
今この男に対して行動を起こせば、軍人が守るべき国民に手を出したようにしか見えない。男の言葉にフロレンスは拳を握る。
「それにほら、見るんだ」
男が指した先には、病院のある方向から自家の紋章入りの馬車がゆっくりと進んでくるのが見えた。その指が移動すると、今度は少し離れた建物の窓を指す。
「お前が我々に協力する姿勢を見せなければ、今ここであの馬車を暴走させても良いのだよ」
「下衆が……」
「言葉には気を付けろ。お前の家族の命運は我々が握っている」
「……何をすればいい?」
握り締めた拳に、血が滲んでいた。
少数民族の出身でありながらオーロール隊という女王に近い場所にいるフロレンスは、テロリスト達にとって都合の良い駒であった。
計画は予め聞かされており、フロレンスが女王の寝室を警護する際に暗殺者を中に引き入れるというものだった。
フロレンスは王宮にある給湯室で飲み物の入ったカップを見つめていた。
「私は、このような方法でしか……」
フロレンスはカップに向かって一人呟いた。手にはテロリストに準備させた特殊な睡眠薬がある。それを片方のカップに入れると、休憩中のエイダの元へと向かった。
エイダはこめかみに手を当て、俯くようにして休憩していた。
「どうした? 具合でも悪いのか?」
フロレンスはエイダに睡眠薬の入ったカップを手渡す。エイダがそれに口をつけたのをしっかりと見届ける
「いや、大丈夫だ。少し休めば問題ない。それよりフロレンスこそ大丈夫なのか? 顔色が悪いが」
エイダの言葉にフロレンスの心臓が跳ね上がる。やはりどんな状況に陥ってもエイダはパートナーだった。だからこそ、女王暗殺の現場から彼女を遠ざける必要があった。
睡眠薬入りの飲み物を飲んだエイダが倒れたことを確認すると、フロレンスはエイダを救護室に運ぶべく、人を呼びに行った。
深夜、フロレンスは部下二名と共に、緊張した面持ちで女王の寝室の警護に当たっていた。
所定の時間になった。以前より王宮兵として潜伏していたテロリストが深夜の巡回を装ってやって来る。
その後は一瞬だった。テロリストが部下の一人に襲い掛かると同時に、フロレンスがもう一人の部下に襲い掛かって昏倒させる。咄嗟のことで身体が動かなかった二人は、何が起きたのかもわからずに気絶した。
「よくやった」
フロレンスは昏倒した部下二名をそのままに、寝室の入り口に立つ。
「どういうことだ! 女王はどこへ行った!」
男は寝室の中で激昂した。寝室には女王はおろか、護衛騎士の姿も無かった。
「計画内容が漏れていたようだな」
「馬鹿な、この計画は——」
「失敗したのなら、早く撤退した方が良い」
「いや、待て……貴様だな、裏切ったのは!」
男はフロレンスに向かって銃を向けた。フロレンスは咄嗟に距離を詰めて相手の銃を押さえる。
「私は裏切ってなどいない、私の忠誠は初めからこの国に捧げている!」
「馬鹿な女め! この王国にどれだけの民族が苦しめられているのかもわからんとは!」
フロレンスが女王を逃がしたのは事実だった。彼女らは悟られることのないよう、緊急用通路から脱出していた。
揉み合いながらフロレンスは敵の銃を奪った。距離を取って構え直そうとした時、男は懐から何かを取り出した。
「王国に死を!」
フロレンスは咄嗟に寝室を飛び出して身を伏せた。同時に、王宮を揺るがす程の爆音が響き渡った。
「—了—」
ある日、王都にある貴族階級が利用する別荘の一角で、小規模な爆発が起こった。
爆発の状況から何者かによるテロであることは判明したが、犯行声明が出されることはなかった。
フロレンスは臨時警戒態勢のため暫く軍施設に詰めていたが、部下と交代して数日振りに住居へ戻っていた。その間に、家族からの手紙が届いていた。
軍の寮に入ってからは家族とめっきり会っていない。たまに届く義理の姉からの手紙のやり取りだけが、家族の近況を知る手段であった。
「これは!?」
しかし今日届いた手紙は、家族からの手紙を装ってはいたが、内容は全くの別物であった。
手紙には『王国による少数民族への謂われなき差別に対抗せよ』といった、王都に住む少数民族出身者達に蜂起を促すような過激な内容が書かれていた。
フロレンスが住居としている寮はルビオナ軍人に宛がわれる寮の中でも、特に機密性が高い部署に所属する者が入居する寮だ。
軍の規定により、家族からの手紙はおろか、軍からの書類などについても、危険なものや怪しいものでないか厳重にチェックが行われる。
その厳しい検査を掻い潜った上、この封書は家族の手紙を装って確実に開封させる事を目的としていた。
封書の内容に緊急を要すると判断したフロレンスは、すぐさまエイダに連絡を取った。
オーロール隊の執務室でフロレンスはエイダに封書を見せた。エイダも昨日からテロによる臨時体勢のため、執務室に詰めている。
「軍警察に調査を依頼しよう。今回のテロ事件の重要な参考資料になる筈だ」
「では、軍警察に連絡をします」
「うむ。この封書の件で暫く軍警察に出入りしてもらうことになるだろうが、頼む」
「わかりました」
封書を軍警察に提出してから少しの時が過ぎた。テロリストの犯行声明は未だ発表されておらず、ルビオナ軍はテロの対応に追われていた。
フロレンスもこのような緊急時のため、休暇らしい休暇は取らずに働いていており、その日も軍警察に引き渡した封書の件で呼び出しを受けていた。
今日明日で処理しなければならない軍務が残っていたため、軍本部へ続く人気のない夜の道をフロレンスは急いで進んでいた。
「そこの軍人さん、ちょっといいですか?」
急にフロレンスは呼び止められた。その声に立ち止まって振り向く。その瞬間、突如として鋭利な刃物で切り付けられそうになる。
「何をする!」
刃物を持った人物を見たが、頭から足先まで黒衣で覆っており、外見の判別はつかない。辛うじて布の隙間から聞こえてくる声で、その人物が男であることがわかった程度だった。
「裏切り者には制裁が必要だ」
「虐げられし民族でありながら、同胞を傲慢な女王に売った愚か者に制裁を」
どこからか同じような衣装を纏った者が、もう二人現れた。
「……まさか、あの手紙はお前達が」
フロレンスは目の前にいる黒衣の男達こそが、今回のテロ事件を起こしているテロリストであると確信した。
「そうだ。虐げられしメーアの子。今ならまだ間に合う。我らと共に来るのだ」
「断る!」
黒衣の男達はフロレンスのその言葉を聞くと、沈黙したまま襲い掛かってきた。テロリストと接触した口封じであろうことは、フロレンスにも容易に想像がついた。
フロレンスは携行していた拳銃を空中に向かって発砲した。軍務の途中であり、臨時警戒態勢の最中のため、拳銃程度の武装が許されているのが幸いだった。
黒衣の男達は怯んだ。しかしそれは銃を恐れてでないことは、フロレンスにもわかっていた。
ここは繁華街の近くである。音に気付いた住民が何事かと騒ぎ出せば、黒衣の男達を退けられると考えての行動だった。
「銃声だぞ! 警察を呼べ!」
繁華街が騒然となり、周辺を巡回していた警官がすぐに駆け付ける。
「貴様ら! そこで何をしている!」
「……裏切り者のメーア族め。この罪、必ず償ってもらうぞ」
そう言い残して、黒衣の男達は警官に囲まれる前に消え去った。残されたフロレンスは警官に簡単な状況説明をする。
「この件についてオーロール隊隊長のエイダ・ラクラン大尉に連絡をさせてください」
「だめだ、それは署でするべきことだ。今ここで個人の連絡回線を使うことは許さん」
「何故です。身分も、所属も証明しました。自分には隊長にこの状況を報告する義務があります」
「どこの所属であろうと、あんたはテロリストと接触した。テロに関与している可能性がある」
「ですが……」
「大体、その肌の色、生粋のルビオナ出身者ではないんだろう。それが軍属の貴族で装甲猟兵? ふん、本当の身分か怪しいもんだね」
フロレンスは驚きと怒りを隠せなかった。軍の正装を纏い、身分証を提示してもなお、肌の色だけでテロへの関与を疑われる。『虐げられし者』の言葉が頭を過ぎった。
「わかりました、先程軍警察へ伺ったばかりですが、同行します」
フロレンスは数十分と経たずに軍警察へ舞い戻ることとなった。事情聴取を終えて部屋を出ると、ホールにはエイダがいた。
「中尉、大変だったな」
「エイ……いや、ラクラン大尉。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「気にするな。貴女は何も疚しい事はしていない。こちらには協力の姿勢があるのだから、堂々としていなさい」
「お気遣い、ありがとうございます」
テロリストと本位ではない接触を果たしてから数日が経った。フロレンスはエイダと共に、各地に派遣されている中隊の帰還をどうするか検討を行っていた。
その最中、緊迫した面持ちでイームズ少尉がやって来た。
「お話中失礼します。 緊急報告です!」
「どうした? 何があった」
「マーク・ブラフォード侯爵がベケット侯爵を見舞ったお帰りに、住宅街でテロの被害に遭遇されました」
「お父様が!? お父様は無事なの?」
フロレンスははっとなる。段々と血の気が引いてく感覚があった。
「テロの規模自体は小さく、幸い大事には至っておりません。すぐに病院に搬送され、手当てを受けているとの報告が来ました」
「そうか、報告ありがとう。今月に入ってこれで四件目か……」
報告を聞いて、フロレンスは安堵と同時に恐怖した。テロリストの報復の一環であることを悟る。テロへの関与を断ったことで、父親が標的にされたのだった。
「ブラフォード中尉、今日はいい。 お父上のもとへ」
「了解です。 ……ご配慮ありがとうございます」
フロレンスは敬礼すると、急いでオーロール隊の部屋を後にした。
病院では存外に元気そうな父親が簡単な手当を受けていた。だが大事をとって、今日は警備の厳重なこの病院に寝泊りするという。
貴族が多く出入りするこの病院にはそこかしこに警備の人間が待機しており、確かに安全といえた。
フロレンスは病院を出ると表通りのカフェに入り、煙草に火を点けて一息ついた。テロリストのことが頭から離れず、気分を落ち着かせて冷静になるためだった。
「失礼、相席よろしいですか?」
見知らぬ若い男が尋ねてきた。相席はあまり気が進まないが、周囲を見回すと他に座るようなところはなかった。
「あ、ええ。どうぞ」
「ありがとうございます。ところで、お父上はお元気でしたか?」
不意の言葉に、煙草に手をかけていたフロレンスの手が止まる。男は周囲に聞こえない程度の声でフロレンスに囁いた。
「我々は言葉を違えない。お前は同胞を裏切った。その罪はお前の家族に償ってもらう」
「貴様!」
「いいのか? 私は王国に住む、ただの一市民だぞ」
今この男に対して行動を起こせば、軍人が守るべき国民に手を出したようにしか見えない。男の言葉にフロレンスは拳を握る。
「それにほら、見るんだ」
男が指した先には、病院のある方向から自家の紋章入りの馬車がゆっくりと進んでくるのが見えた。その指が移動すると、今度は少し離れた建物の窓を指す。
「お前が我々に協力する姿勢を見せなければ、今ここであの馬車を暴走させても良いのだよ」
「下衆が……」
「言葉には気を付けろ。お前の家族の命運は我々が握っている」
「……何をすればいい?」
握り締めた拳に、血が滲んでいた。
少数民族の出身でありながらオーロール隊という女王に近い場所にいるフロレンスは、テロリスト達にとって都合の良い駒であった。
計画は予め聞かされており、フロレンスが女王の寝室を警護する際に暗殺者を中に引き入れるというものだった。
フロレンスは王宮にある給湯室で飲み物の入ったカップを見つめていた。
「私は、このような方法でしか……」
フロレンスはカップに向かって一人呟いた。手にはテロリストに準備させた特殊な睡眠薬がある。それを片方のカップに入れると、休憩中のエイダの元へと向かった。
エイダはこめかみに手を当て、俯くようにして休憩していた。
「どうした? 具合でも悪いのか?」
フロレンスはエイダに睡眠薬の入ったカップを手渡す。エイダがそれに口をつけたのをしっかりと見届ける
「いや、大丈夫だ。少し休めば問題ない。それよりフロレンスこそ大丈夫なのか? 顔色が悪いが」
エイダの言葉にフロレンスの心臓が跳ね上がる。やはりどんな状況に陥ってもエイダはパートナーだった。だからこそ、女王暗殺の現場から彼女を遠ざける必要があった。
睡眠薬入りの飲み物を飲んだエイダが倒れたことを確認すると、フロレンスはエイダを救護室に運ぶべく、人を呼びに行った。
深夜、フロレンスは部下二名と共に、緊張した面持ちで女王の寝室の警護に当たっていた。
所定の時間になった。以前より王宮兵として潜伏していたテロリストが深夜の巡回を装ってやって来る。
その後は一瞬だった。テロリストが部下の一人に襲い掛かると同時に、フロレンスがもう一人の部下に襲い掛かって昏倒させる。咄嗟のことで身体が動かなかった二人は、何が起きたのかもわからずに気絶した。
「よくやった」
フロレンスは昏倒した部下二名をそのままに、寝室の入り口に立つ。
「どういうことだ! 女王はどこへ行った!」
男は寝室の中で激昂した。寝室には女王はおろか、護衛騎士の姿も無かった。
「計画内容が漏れていたようだな」
「馬鹿な、この計画は——」
「失敗したのなら、早く撤退した方が良い」
「いや、待て……貴様だな、裏切ったのは!」
男はフロレンスに向かって銃を向けた。フロレンスは咄嗟に距離を詰めて相手の銃を押さえる。
「私は裏切ってなどいない、私の忠誠は初めからこの国に捧げている!」
「馬鹿な女め! この王国にどれだけの民族が苦しめられているのかもわからんとは!」
フロレンスが女王を逃がしたのは事実だった。彼女らは悟られることのないよう、緊急用通路から脱出していた。
揉み合いながらフロレンスは敵の銃を奪った。距離を取って構え直そうとした時、男は懐から何かを取り出した。
「王国に死を!」
フロレンスは咄嗟に寝室を飛び出して身を伏せた。同時に、王宮を揺るがす程の爆音が響き渡った。
「—了—」