C.C.回到了好幾個月沒回去的故鄉潘德莫尼。
因為收到了因過勞而病倒的賽因茲病情驟變,就那樣過世的通知。
見了父親遺體的最後一面、辦喪禮、下葬等,時間在匆忙中渡過。
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優秀的父親留下的研究成果十分龐大。於是趁還能留在潘德莫尼的時間內,與母親一起忙著整理留在家中的資料。
整理資料途中,C.C.想起了父親與老師洛斐恩。
「媽媽,爸爸的事有通知洛斐恩老師了嗎?」
「不要再提起那個名字,我不想聽到」
母親連看也沒看C.C.,像是表現出某種抗拒反應般的斷言道。
「為什麼?那個人是爸爸的恩師不是嗎?」
「妳也和那個人一樣……。不要再在意那個違背蕾格烈芙大人的骯髒之人了」
C.C.的母親是中央統籌中心的工程師,因為她知道指導者給潘得莫尼帶來了價值多高的恩惠。所以對於從指導者的庇護之下逃走,或是打算這麼做的人,都會對他們表露出高度的厭惡。
就算對象是自己伴侶或者老師也一樣。C.C.不再提及洛斐恩,開始默默地整理著資料。
在整理途中,從醫院拿回來的東西裡找到一個老舊的攜帶用硬碟。
「這個是?」
給母親看了這個看起來使用頻繁的攜帶用硬碟。
「啊,那個是差不多從你出生那時就在使用的攜帶用硬碟」
「這樣啊,妳知道裡面是什麼嗎?」
「應該是放跟職務有關的檔案吧,也許也有和連隊相關的東西」
「如果是跟連隊有關的檔案,那是不是要拿出來比較好?我向統籌中心申請看看好了」
「如果妳要接下那個人的研究的話,應該沒問題吧,我會幫妳說說看」
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C.C.身為連隊附屬的工程師,能返鄉的時間不多。父親的研究及遺產的整理才進行到一半,卻已經到了該返回連隊設施的那一天。
被派遣至連隊的人員也有變動。中央開始重視因過勞而耗損掉優秀工程師的問題,為了避免賽因茲的事再次發生,於是決定增加連隊附屬的工程師人數。
與C.C.回到連隊設施同時,幾位追加的工程師也一同出發前往地上。
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沒多久,因為有追加的工程師們分擔了工作,C.C.在連隊的生活開始有些許空閒時間了。
C.C.將這天的工作處理完畢後,將得到許可帶來的攜帶用硬碟的內容進行解析。
雖然大部份都是和父親私生活有關的東西,但是裡面也留有與降到地上的洛斐恩的通信記錄。C.C.便得以將父親的死訊傳給了洛斐恩。
老舊的攜帶用硬碟裡有C.C.年幼時期的照片,全家去遊樂園的影片檔案等等。
C.C.因為接受了身為研究者的特別教育,因此賽因茲對C.C.來說並不是父親,而是當成研究的老師,上司在接觸。
但是,在接受教育之前,也有過像這攜帶用硬碟裡記錄中,這樣全家一起笑著的時候。
「爸爸真是的……」
令人懷念的回憶。硬碟裡的不是研究者,而是身為父親的賽因茲。
C.C.擦去不知道什麼時候積在眼眶裡的淚。
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C.C.邊懷念父親還像位父親與自己接觸時的事,邊確認著硬碟內的東西,發現了一個唯一有上鎖的資料夾。
想起母親曾說過,裡面可能會放有「跟職務有關的檔案」,就試著解開密碼。
密碼很輕易就解開了,資料夾內的內容出來了。
「這是什麼啊,這個……」
裡面裝的是,看起來用途不明的應用軟體。
因為硬碟有著與老舊程度不符的超大容量,所以試著要將檔案傳送到主機。
但是想啟動軟體,還需要一些必要的程式碼,所以目前無法啟動。
(改天重做一下啟動程式再試試看好了)
C.C.邊這麼想,邊確認看看還有沒有什麼其他檔案,邊將主機轉換到待機模式了。
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「C.C.,結束了嗎?」
「嘿!?啊,是的!應該再5分鐘左右就可以了!」
操作員突然來問話,害C.C.發出了奇怪的聲音。
C.C.在停機坪的工作室,修理著B中隊用的聖劍。來問話的操作員是這把聖劍的使用者。
「快要出發去作戰了,請快一點」
「弗雷特里西,你在做什麼?要開作戰會議了」
「喔好,我馬上過去!那麼,抱歉打斷妳了」
「好,好的……」
弗雷特里西很抱歉的樣子說完那句話後,就像風一般走掉了。
「啊……我又……」
上頭規定要盡量避開直接與操作員對話,但是現在才發現剛剛不小心對話了。
在連隊設施中,C.C.幾乎沒有跟工程師以外的人對話過,但是剛剛實在是太自然地被問話,不小心就回應了。
那位叫弗雷特里西的操作員是位很隨性的人,C.C.已經很多次看過他與B中隊的工程師對話了。
所以他可能就是因為這樣,才會毫無顧忌地向自己搭話。
C.C.邊進行聖劍的最終檢查,邊妄想著。
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──認同本來互不相容的的同伴,一同切磋,並一起提升技術。
活用那些培養出來的技術與信賴來幫助同伴,同時也有同伴來幫助自己。
累積出來的信賴,漸漸志同道合的同伴們……。──
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「C.C.,那邊結束了之後就去檢查一下核心回收裝置」
妄想被上官的一句話給打斷了。
「我,我知道!」
C.C.將聖劍放回該在的位置後,快步走向武裝車。
雖然已經有追加成員了,但是C.C.要做的事還是很多。
忙到可以說是父親留下的遺產那軟體的事,都漸漸忘了。
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有天C.C.一直到深夜都窩在研究室裡。
雖然C.C.被命令要改良核心回收裝置,但是為了改良所需要機能的構築一直不順利。
這是為了減少回收所需要的時間,希望能夠盡早解決。但是找不到可以符合上層要求的有用方法。
為了解決這個問題,C.C.已經好幾天沒有好好休息過了。
體力跟精神都已經接近極限了,她自己也很清楚。
「稍微休息一下下好了……」
為了轉換心情,在主機上看了看父親留下的家族紀錄。這幾天來,C.C.只要精神上感到疲勞就會看看家族的紀錄。
雖然知道自己這麼做是在逃避現實,但是對C.C.來說,過去那些愉快的回憶確實有療癒效果。
在看著紀錄的途中,發現通訊用的軟體啟動了。
為了確認通訊軟體為什麼啟動了,用控制面板打開了通訊軟體。
在打開軟體的同時,眼前突然飛進了好幾列的公式。
「哇,哇!?這什麼?」
C.C.困惑地仔細看了那些公式,看起來跟核心回收裝置用的控制程式很像。
「說不定……」
將通訊軟體上的公式用到控制程式上再構築。然後進行核心回收裝置的檔案試演。
「好厲害……。不只縮短了回收的時間,而且讓回收控制比以前更加安定了」
試演的結果非常的好。
但是令人在意的是,將這劃時代的公式送來的人物。通訊軟體上顯示的傳送者,是以幾個數字跟文字組成的ID。
這沒有看過的ID,讓C.C.抱有很大的興趣與些許的恐懼。
「不,不過,得跟他道謝才行……」
這個通訊軟體也有讓C.C.可以輸入文字的地方,C.C.小心地在軟體傳送欄位打了字,送出內容。
過了一會兒,剛剛顯示公式的地方顯示出C.C.打的字。
『謝謝你。你,是誰?』
通訊軟體沉默了。C.C.想說對方可能需要時間,所以就離開座位去拿飲料了。
拿了飲料回來後,就像看準她回來的時機般,顯示出新的訊息了。
『我是史塔夏。是賽因茲一直到最後為止都打算解析出來的人工智能哦』
「你是人工智能?」
『我是透過賽因茲作的通訊軟體來跟妳對話的』
C.C.一臉驚愕。
雖然知道父親有另外研究別的東西,但沒想到竟然是人工智能的解析。
而且竟然還是能夠與人交談,非常高階的人工智能。
|
「─完─」
3385年 「遺産」
C.C.は何ヶ月かぶりにパンデモニウムへ帰郷していた。
過労で倒れていたセインツの容態が急変し、そのまま亡くなったという知らせを受けたためだ。
父の亡骸と最後の面会、葬儀、埋葬と、慌しく時間は過ぎてゆく。
優秀な父の残した研究成果は膨大であった。パンデモニウムに滞在できる残りの期間は、母親と共に自宅に残された資料の整理に追われることとなった。
資料整理の最中、C.C.は父と自分の師であるローフェンのことを思い出した。
「母さん、父さんのことはローフェン師に知らせたの?」
「その名前は出さないで頂戴。聞きたくもないわ」
母親はC.C.に視線を合わせることもせず、拒絶反応を示すかのように言い切った。
「なぜ? あの人は父さんの恩師でしょう?」
「あなたもあの人と同じなのね……。レッドグレイヴ様の意に背いた汚らわしい者のことなんて、いつまでも気にするのはお止めなさい」
C.C.の母親は中央統括センターに籍を置くエンジニアであり、指導者のもたらす恩恵がパンデモニウムにとってどれだけ価値の高いものなのかを弁えていた。それ故か、指導者が与える庇護から逸脱する、またはしようとする者に対して、過剰なまでに嫌悪感を示す。
それは、たとえ伴侶が師事した者であっても同様なのだ。C.C.はそれ以上ローフェンについて言及することをやめ、黙々と資料の整理に取り掛かった。
整理の途中、病院から引き取った荷物の中に古ぼけたデバイスが入っているのを見つけた。
「これは?」
随分と使い込まれた様子のデバイスを不思議そうに母親に見せる。
「あなたが生まれた頃から使っていたデバイスね」
「そうなんだ。中に何が入っているか知ってる?」
「職務に関係するデータが入っているはずよ。連隊に関係する物もあるかも」
「連隊関連のデータなら引き取ったほうがいいかな? 統括センターに申請してみるね」
「あなたはあの人の研究を継ぐのだから、問題ないでしょう。私からも口添えしておくわ」
連隊付きエンジニアであるC.C.に許された時間は僅かだった。父の研究や遺産の整理も半端なまま、レジメント施設に戻る日が来てしまった。
レジメントに派遣される人員にも動きがあった。苛酷な労働が元で優秀なエンジニアを失うことを重く見た中央が、セインツの覆轍を避けようと、連隊付きエンジニアの増員を決定したのだ。
C.C.がレジメント施設に戻るのに併せて、補充要員として幾人かのエンジニアが地上に向かうこととなった。
程なく補充要員のエンジニア達に職務が割り振られ、C.C.はレジメントでの生活に、ほんの少しではあるが余裕を持たせることができるようになった。
C.C.はその日の職務を片付け、許可を得て持ってきた古いデバイスの中身を解析していた。
大半は父の私生活に関係するものだったが、その中に地上に降りたローフェンとの通信記録が残っていた。C.C.はそれを使ってローフェンに父の訃報を伝えることができた。
古いデバイスの中身はC.C.の幼い頃の画像や、家族で娯楽施設に出掛けたときの動画データなどであった。
C.C.が研究者としての特別教育プログラムを受けるようになってからは、セインツはC.C.に対して父親としてではなく、研究の師匠として、上司としての態度を取るようになっていた。
だが、そんな風になる以前は、デバイスの記録のように家族全員で笑うこともあったのだ。
「父さんったら……」
懐かしい思い出が浮かんでは消えていく。デバイスの中には研究者ではない、父親としてのセインツが存在していた。
C.C.はいつの間にか目尻に溜まっていた涙を拭った。
父が父親としてC.C.に接していた頃の思い出を懐かしみながらデバイスの中身を確認していたところ、一つだけパスワードの掛けられたファイルを発見した。
母親の言っていた「職務のデータ」とはこれのことなのだろうと思い、パスワードの解析に着手した。
パスワードはあっさりと解け、データの中身が出てくる。
「なんだろう、これ……」
その中身は、用途不明のアプリケーションソフトと思しきものであった。
古いデバイスには不釣合いなほど大きい容量であったため、使用しているメインフレームに転送する。
しかし、起動させるために必要なコードが不完全だったようで、アプリケーションを起動させることはできなかった。
(そのうち起動コードを作りなおして動かしてみよう)
そんなことを思いながら、C.C.は他に見ていないデータがないか確認し、メインフレームを待機状態に移行させた。
「C.C.、終わったか?」
「ふぇっ!? あ、はい! あと5分ほどで終わると思います!」
オペレーターに急に声を掛けられ、裏返った変な声を出してしまう。
C.C.はハンガーにある作業場で、B中隊が使用しているセプターの修理を行っていた。声を掛けてきたオペレーターはこのセプターの持ち主だ。
「もうすぐ作戦なんだ、早めに頼む」
「フリードリヒ、何してる。作戦ミーティングが始まるぞ」
「おぅ、いま行く! じゃあな。邪魔して悪かった」
「は、はい……」
フリードリヒは申し訳なさそうに一言言って、風のように去っていった。
「あ……やっちゃった……」
規律でオペレーターとの会話は極力避けるようにと定められているのに、今更ながら普通に会話してしまったことに気が付く。
レジメント施設ではエンジニア以外とは殆ど会話しないC.C.だが、あまりにもごく自然に呼び掛けられたせいで、それに答えてしまっていた。
フリードリヒというオペレーターは随分と気さくな人物で、B中隊付きのエンジニアと会話をしている姿を、C.C.は何度か目撃していた。
遠慮することなく自分に話し掛けてきたのも、その延長なのだろう。
セプターの最終チェックをしながら、C.C.はぼんやりと妄想する。
——相容れぬ筈の者を仲間と認め、共に切磋琢磨し、技術を磨き上げる。
培った技術と信頼は仲間を助け、同時に自分も仲間に助けられる。
信頼を重ねあい、志を同じくする仲間達は……。——
「C.C.、それが終わったらコア回収装置の方を見てくれ」
そんな妄想も、上官の一声で中断させられてしまった。
「わ、わかりました!」
C.C.はセプターを所定の位置に戻すと、足早にコルベットへと向かった。
人員が補充されたとはいえ、C.C.がやらねばならない職務は多い。
父の残した遺産ともいえるアプリケーションも、多忙を理由にその存在を忘れつつあった。
ある日、C.C.は深夜遅くまで研究室に詰めていた。
コア回収装置の改良を命ぜられているのだが、改良のために必要な機能の構築が上手くいかずにいた。
回収に掛かる時間を短縮するための改良であり、早期の解決が望まれている。しかし、上層部が求めるようなものにするための有用な方法が見つからない。
この問題を解決するために、C.C.はここ数日まともに休息を取っていなかった。
体力的にも精神的にも限界が近付いているのは、当人も自覚している。
「少しだけ休憩しよう……」
気分転換にと、父が残した家族の記録をメインフレームで閲覧する。ここのところ、C.C.は精神的に疲労を感じると家族の記録を眺めるようになっていた。
現実逃避に過ぎないとは頭の中ではわかっていたが、かつての楽しい思い出は確かにC.C.を癒してくれる。
記録を眺めていると、通信用ソフトが起動していることに気が付いた。
通信ソフトなんて起動していただろうかと、コンソールを操作してそれを開いた。
ソフトを開くと同時に、目の前に数式の羅列が飛び込んできた。
「わ、わ!? なに?」
困惑するC.C.だが、その数式をじっくり見ると、コア回収装置に使われている制御プログラムによく似た数式であった。
「もしかしたら……」
通信ソフトに表示されている数式を用いて制御プログラムを再構築し、データ上でコア回収装置の仮想運用を行う。
「凄い……。回収にかかる時間が短縮される上に、回収制御まで今以上に安定する」
仮想運用の結果は上々だった。
だが気掛かりなのは、このような画期的な数式を送ってきた人物だ。通信ソフトのテキスト送信者欄には、いくつかの数字と文字を組み合わせたIDが表示されている。
見たことのないIDに、C.C.は多大の興味と少しの恐怖を抱いた。
「で、でも、お礼は言わないとね……」
通信ソフトにはC.C.側からもテキストを入力できる箇所があった。恐る恐るソフトのテキスト入力欄に文字を打ち込み、内容を送信する。
暫くの間を置いて、先刻数式が表示された場所にC.C.が打ち込んだ文字が表示される。
『ありがとう。あなたは、だれ?』
通信ソフトは沈黙していた。C.C.は時間が掛かるのだろうと踏み、飲み物を取ってくることにした。
飲み物を持って戻ってくると、その時を狙い済ましたかのように別の文字が表示された。
『私はステイシア。セインツが最後まで解析しようとしていた人工知能よ。』
「人工知能ですって?」
『私はセインツの作り上げたソフトを通して、あなたと会話をしている』
C.C.は驚愕の色を隠せなかった。
父が分野外の研究に手を出していたこと、それが人工知能の解析であること。
そして、その人工知能が人とコミュニケーションがとれる、とても高度なものだということに。
「—了—」
C.C.は何ヶ月かぶりにパンデモニウムへ帰郷していた。
過労で倒れていたセインツの容態が急変し、そのまま亡くなったという知らせを受けたためだ。
父の亡骸と最後の面会、葬儀、埋葬と、慌しく時間は過ぎてゆく。
優秀な父の残した研究成果は膨大であった。パンデモニウムに滞在できる残りの期間は、母親と共に自宅に残された資料の整理に追われることとなった。
資料整理の最中、C.C.は父と自分の師であるローフェンのことを思い出した。
「母さん、父さんのことはローフェン師に知らせたの?」
「その名前は出さないで頂戴。聞きたくもないわ」
母親はC.C.に視線を合わせることもせず、拒絶反応を示すかのように言い切った。
「なぜ? あの人は父さんの恩師でしょう?」
「あなたもあの人と同じなのね……。レッドグレイヴ様の意に背いた汚らわしい者のことなんて、いつまでも気にするのはお止めなさい」
C.C.の母親は中央統括センターに籍を置くエンジニアであり、指導者のもたらす恩恵がパンデモニウムにとってどれだけ価値の高いものなのかを弁えていた。それ故か、指導者が与える庇護から逸脱する、またはしようとする者に対して、過剰なまでに嫌悪感を示す。
それは、たとえ伴侶が師事した者であっても同様なのだ。C.C.はそれ以上ローフェンについて言及することをやめ、黙々と資料の整理に取り掛かった。
整理の途中、病院から引き取った荷物の中に古ぼけたデバイスが入っているのを見つけた。
「これは?」
随分と使い込まれた様子のデバイスを不思議そうに母親に見せる。
「あなたが生まれた頃から使っていたデバイスね」
「そうなんだ。中に何が入っているか知ってる?」
「職務に関係するデータが入っているはずよ。連隊に関係する物もあるかも」
「連隊関連のデータなら引き取ったほうがいいかな? 統括センターに申請してみるね」
「あなたはあの人の研究を継ぐのだから、問題ないでしょう。私からも口添えしておくわ」
連隊付きエンジニアであるC.C.に許された時間は僅かだった。父の研究や遺産の整理も半端なまま、レジメント施設に戻る日が来てしまった。
レジメントに派遣される人員にも動きがあった。苛酷な労働が元で優秀なエンジニアを失うことを重く見た中央が、セインツの覆轍を避けようと、連隊付きエンジニアの増員を決定したのだ。
C.C.がレジメント施設に戻るのに併せて、補充要員として幾人かのエンジニアが地上に向かうこととなった。
程なく補充要員のエンジニア達に職務が割り振られ、C.C.はレジメントでの生活に、ほんの少しではあるが余裕を持たせることができるようになった。
C.C.はその日の職務を片付け、許可を得て持ってきた古いデバイスの中身を解析していた。
大半は父の私生活に関係するものだったが、その中に地上に降りたローフェンとの通信記録が残っていた。C.C.はそれを使ってローフェンに父の訃報を伝えることができた。
古いデバイスの中身はC.C.の幼い頃の画像や、家族で娯楽施設に出掛けたときの動画データなどであった。
C.C.が研究者としての特別教育プログラムを受けるようになってからは、セインツはC.C.に対して父親としてではなく、研究の師匠として、上司としての態度を取るようになっていた。
だが、そんな風になる以前は、デバイスの記録のように家族全員で笑うこともあったのだ。
「父さんったら……」
懐かしい思い出が浮かんでは消えていく。デバイスの中には研究者ではない、父親としてのセインツが存在していた。
C.C.はいつの間にか目尻に溜まっていた涙を拭った。
父が父親としてC.C.に接していた頃の思い出を懐かしみながらデバイスの中身を確認していたところ、一つだけパスワードの掛けられたファイルを発見した。
母親の言っていた「職務のデータ」とはこれのことなのだろうと思い、パスワードの解析に着手した。
パスワードはあっさりと解け、データの中身が出てくる。
「なんだろう、これ……」
その中身は、用途不明のアプリケーションソフトと思しきものであった。
古いデバイスには不釣合いなほど大きい容量であったため、使用しているメインフレームに転送する。
しかし、起動させるために必要なコードが不完全だったようで、アプリケーションを起動させることはできなかった。
(そのうち起動コードを作りなおして動かしてみよう)
そんなことを思いながら、C.C.は他に見ていないデータがないか確認し、メインフレームを待機状態に移行させた。
「C.C.、終わったか?」
「ふぇっ!? あ、はい! あと5分ほどで終わると思います!」
オペレーターに急に声を掛けられ、裏返った変な声を出してしまう。
C.C.はハンガーにある作業場で、B中隊が使用しているセプターの修理を行っていた。声を掛けてきたオペレーターはこのセプターの持ち主だ。
「もうすぐ作戦なんだ、早めに頼む」
「フリードリヒ、何してる。作戦ミーティングが始まるぞ」
「おぅ、いま行く! じゃあな。邪魔して悪かった」
「は、はい……」
フリードリヒは申し訳なさそうに一言言って、風のように去っていった。
「あ……やっちゃった……」
規律でオペレーターとの会話は極力避けるようにと定められているのに、今更ながら普通に会話してしまったことに気が付く。
レジメント施設ではエンジニア以外とは殆ど会話しないC.C.だが、あまりにもごく自然に呼び掛けられたせいで、それに答えてしまっていた。
フリードリヒというオペレーターは随分と気さくな人物で、B中隊付きのエンジニアと会話をしている姿を、C.C.は何度か目撃していた。
遠慮することなく自分に話し掛けてきたのも、その延長なのだろう。
セプターの最終チェックをしながら、C.C.はぼんやりと妄想する。
——相容れぬ筈の者を仲間と認め、共に切磋琢磨し、技術を磨き上げる。
培った技術と信頼は仲間を助け、同時に自分も仲間に助けられる。
信頼を重ねあい、志を同じくする仲間達は……。——
「C.C.、それが終わったらコア回収装置の方を見てくれ」
そんな妄想も、上官の一声で中断させられてしまった。
「わ、わかりました!」
C.C.はセプターを所定の位置に戻すと、足早にコルベットへと向かった。
人員が補充されたとはいえ、C.C.がやらねばならない職務は多い。
父の残した遺産ともいえるアプリケーションも、多忙を理由にその存在を忘れつつあった。
ある日、C.C.は深夜遅くまで研究室に詰めていた。
コア回収装置の改良を命ぜられているのだが、改良のために必要な機能の構築が上手くいかずにいた。
回収に掛かる時間を短縮するための改良であり、早期の解決が望まれている。しかし、上層部が求めるようなものにするための有用な方法が見つからない。
この問題を解決するために、C.C.はここ数日まともに休息を取っていなかった。
体力的にも精神的にも限界が近付いているのは、当人も自覚している。
「少しだけ休憩しよう……」
気分転換にと、父が残した家族の記録をメインフレームで閲覧する。ここのところ、C.C.は精神的に疲労を感じると家族の記録を眺めるようになっていた。
現実逃避に過ぎないとは頭の中ではわかっていたが、かつての楽しい思い出は確かにC.C.を癒してくれる。
記録を眺めていると、通信用ソフトが起動していることに気が付いた。
通信ソフトなんて起動していただろうかと、コンソールを操作してそれを開いた。
ソフトを開くと同時に、目の前に数式の羅列が飛び込んできた。
「わ、わ!? なに?」
困惑するC.C.だが、その数式をじっくり見ると、コア回収装置に使われている制御プログラムによく似た数式であった。
「もしかしたら……」
通信ソフトに表示されている数式を用いて制御プログラムを再構築し、データ上でコア回収装置の仮想運用を行う。
「凄い……。回収にかかる時間が短縮される上に、回収制御まで今以上に安定する」
仮想運用の結果は上々だった。
だが気掛かりなのは、このような画期的な数式を送ってきた人物だ。通信ソフトのテキスト送信者欄には、いくつかの数字と文字を組み合わせたIDが表示されている。
見たことのないIDに、C.C.は多大の興味と少しの恐怖を抱いた。
「で、でも、お礼は言わないとね……」
通信ソフトにはC.C.側からもテキストを入力できる箇所があった。恐る恐るソフトのテキスト入力欄に文字を打ち込み、内容を送信する。
暫くの間を置いて、先刻数式が表示された場所にC.C.が打ち込んだ文字が表示される。
『ありがとう。あなたは、だれ?』
通信ソフトは沈黙していた。C.C.は時間が掛かるのだろうと踏み、飲み物を取ってくることにした。
飲み物を持って戻ってくると、その時を狙い済ましたかのように別の文字が表示された。
『私はステイシア。セインツが最後まで解析しようとしていた人工知能よ。』
「人工知能ですって?」
『私はセインツの作り上げたソフトを通して、あなたと会話をしている』
C.C.は驚愕の色を隠せなかった。
父が分野外の研究に手を出していたこと、それが人工知能の解析であること。
そして、その人工知能が人とコミュニケーションがとれる、とても高度なものだということに。
「—了—」