「就算這麼做又有什麼用,總有一天大家還是會被幹掉的。人類住的城鎮越來越少。我們的城鎮還不是因為渦……」
格利德用像是自言自語般的聲音抱怨著。其他的人都當作這是他一如往常要掩飾恐懼的儀式,而裝作沒有聽到。
「住口。我不想再聽你發牢騷了」
格利德的牢騷被里斯給打斷了。
卡南的守備隊在收到民眾發現『魔物』的通報後,就越過城鎮的圍牆,前往位於城鎮遠方的森林進行搜索。
成員約有二十人左右,是各種不同年齡的男性集團。
「像里斯你這種小鬼是不會懂的。從很早以前人類就一直在減少了。在我還小的時候,曾經去過隔壁的梅爾吉斯鎮,現在勒?整個梅爾吉斯鎮都被渦給吞噬了」
格利德對著里斯滔滔不絕得說著。
雖然其他的守備隊成員早都已經受夠這個只會抱怨的男人了,但不知是不是因為必須跟魔物戰鬥的緊張感,反而沒有任何人制止他。
「到這邊之前你有看到那些難民了吧。就是那些緊貼在城牆邊生活的人。他們就是梅爾吉斯鎮的鎮民。一個個的被魔物給吞食。多可悲」
「大叔,都說了要你閉嘴」
里斯停下了腳步一手抓起了格利德的衣襟。格利德的身高本來就比里斯矮上許多,被抓起來後腳底根本無法著地。
「放,放開你。你這小子」
「可悲的人是你。給我閉上嘴往前走就對了」
就像是拋東西般的,里斯放開了手,格利德難堪的摔倒在地上。
「混,混帳東西,自以為是。你父親不也是…」
「你要是再繼續說下去,我會先殺了你」
里斯將手伸向了劍。
「喂,住手。別管他了。這傢伙只是在害怕。」
巴克副隊長制止了里斯。
「這種人,不該帶他來的」
里斯服從巴克的命令回到了隊伍中。
|
里斯在年輕時就加入這個守備隊了。雖然現在是十八歲,但他從十多歲開始就一直在戰鬥了。
原本率領守備隊的人是里斯的父親。為了保護城鎮,他一直都領導著守備隊阻止魔物靠近。不過在二年前的一場戰役身負重傷後,就卸下了隊長的職務。現在只能護著惡化的腳傷,安份地過生活。
就算親眼目睹了那個悲劇,里斯卻還是沒有離開守備隊。
雖然父親就在自己的眼前被襲擊,但將他救出的也還是里斯。獨自一人將性命垂危的父親救出後,就又回到前線奮戰。
就因為有這樣的實績,所以里斯雖然年輕但卻也倍受守備隊的推祟。
雖然有人在背後私語說,里斯是不是不知道什麼叫恐懼,但里斯當然不是感受不到恐懼。當父親就在自己面前遭受攻擊時,他打從心底感到害怕。
但是在那恐懼之上,自己心中那份對魔物的憤怒更顯得激昂。
憤怒勝過了恐懼。
驅使著里斯戰鬥的,是那樣的情感。
對於這樣以憤怒而戰的里斯,父親時常嚴厲的告誡他。
「控制好你自己的憤怒。不會叫你壓抑。但你要時常的意識到自己是被憤怒所驅使著啊」
對格利德那令人煩躁的態度爆發後,里斯再次想起父親的告誡。
|
隊伍停了下來,部隊中充滿了緊張的氣氛。在發出暗號後,部隊就如訓練時的部屬開來。伸出手指,互相確認發現到的魔物位置。
魔物有很多種類。雖然遇到守備隊全隊也贏不了的生物的話就沒辦法了,但只要不是的話,就必須應戰並打倒牠。
要是不這麼做的話,渦的怪物們將會持續增加,最後就會將城鎮給吞沒了吧。
「是蛇」
有人這樣喊著。
長約15阿爾雷的《約20公尺》的巨大蛇。但這隻可不是一般在地上爬的那種蛇。這隻有著十對閃耀著光芒的眼睛,就像惡夢中會出現的怪物。但,並不是無法打倒。
大家慎重的將敵人給包圍。不能讓牠逃走。
隨著隊長的暗號同時響起了槍聲。但蛇的動作十分快速。
才剛以為蛇頸會高高升起時,蛇尾卻快速的甩向部隊。接著槍聲就突然停止了。
只聽到被蛇尾掃飛出去的隊員發出哀嚎聲。而被這突然的變化嚇到的隊員,光是要重新站起來就已經用盡全力。
對於再次高舉看著周圍的蛇頸,所有人都感到害怕。
蛇張開了口,吐著舌。
在這空間,這個瞬間,里斯感到恐懼已經支配了周圍。但是他沒有受困於其中,里斯衝到蛇的面前。
就在嚇傻的隊員眼前,里斯將蛇頭砍下。
雖然劍術也十分驚人,但是那份能在一瞬間就衝往敵人懷中的膽識,才是里斯不凡的證明。
部隊裡傳出歡呼聲。
「幹得好,里斯」
隊長對里斯說道。
「沒有啦,多虧大家幫忙吸引了那怪物的注意力」
雖然這不是真心話,但是為了維持部隊士氣,所以才刻意這麼說。
|
部隊回到了城鎮。因為打倒了怪物凱旋歸來,所以稍微有點熱鬧。
到了夜晚,酒館裡辦起了宴會。
雖然里斯與這份喧鬧保持著距離,但還是有去露個臉。
「我舉著槍,碰碰碰的朝那大蛇連開好多槍。接著那雜碎蛇就捲起尾巴想要逃跑。所以里斯才可以給牠致命的一擊的」
心情超好的格利德,對坐在身旁的酒館女性自誇著。
「真是的。格利德那傢伙,明明就縮在後面躲著」
巴克副隊長走到吧檯一角的里斯旁邊說道。
「隨便吧,反正吹牛也不用錢」
「抱歉啊里斯。總是只能靠你」
最近的出擊,部隊大多是因里斯而得救。
「沒關係的。我父親也一直都是這麼做的」
「你父親以前也是個驍勇善戰的戰士。不過里斯,你總是讓我感到驚訝」
巴克與里斯的父親,從年輕的時候就是朋友。一同在這卡南的鎮上生活,並守護著這城鎮。雖然維持生計靠的是其他的工作,但也是為了守住家園參加過各大小戰役過的男子漢。
「你覺得能一直這樣下去嗎?」
巴克問道。
「什麼意思?」
「最近魔物在這城鎮附近出現的次數不斷在增加。雖然是還沒有聽說過有渦在這附近出現,但是從渦出來的怪物們卻不斷的在靠近這城鎮」
「嗯。今後不能大意了」
「嗯嗯。必須增強守備隊的戰力了。光靠現在的人數與能力的話,簡直就是個笑話」
「我會幫忙的」
里斯也對於現在守備隊能力感到疑慮,同意這番話。
「不過老實說,這樣下去根本守不住這個鎮」
巴克低下頭將目光轉移到手中的杯子上。
「格利德的牢騷,雖然難聽也是事實」
「我可不這麼認為。不管是父親還是你,都是一路守著這座城鎮過來的。接下來也不會有問題的啦」
里斯一口氣將冰冷的炭酸水飲盡。他不喜歡喝酒。主要是因為對自己的憤怒可能會因此失控這點感到不安。
「也該輪到我們了。人類所居住的城鎮一直在減少。這是個不爭的事實。就像是被洪水侵襲過的城市一樣。蓋在高處的房子雖然不會被淹沒。但是當水越漲越高時,再高的房子終究也會被淹沒」
「我並不這麼認為」
「你看渦,到現在連一個都沒消滅。就像洪水般繼續增加」
「那又怎樣,我才不會默默的被淹死」
不像巴克的那態度與那番話,讓里斯的心中開始煩燥起來。
「沒錯,里斯你還年輕,不能默默的在這個小鎮死去」’
里斯皺起眉頭,不懂巴克想說什麼。
「你知道有個從阿巴隆來的商隊吧」
阿巴隆是大國魯比歐那的首都,是這個大陸最為繁榮的都市之一。
「在那當中有位奇怪的男子。是專程來看我們的守備隊的,所以我跟他談過。雖然那人年紀比我還大,但他說他在古朗德利尼亞帝國當過兵,現在是某個組織的一員」
巴克的語氣開始激動起來。
「聽說那個組織是要攻擊渦,並要將其消滅的部隊。接著然後就說到他們正在招集勇士。雖然隊長對於這話題一笑置之,不過我還是興致勃勃繼續聽他說」
里斯默默的聽著巴克的話。
「聽說那是工程師們專程降落到地面上所組成的部隊。而且還說還差一點就能將渦消滅了。只是為了招集熟悉戰鬥的人才非常辛苦。也是啦,這也是理所當然的。為了活下去而在死亡邊緣不斷戰鬥的人,不可能隨便就接受這種不切實際的邀請」
巴克停頓了一下後再說道。
「不過啊,我覺得那個人說的話可以信任。不,或許應該說是我想相信他的話吧」
沉默了一會兒,巴克轉向里斯再次看著他。
「搞不好洪水終於要開始退去了」
里斯終於知道巴克想說什麼了。
「里斯你要不要去看看?」
「還真是突然啊」
里斯心中的煩躁,開始轉變成另一種心情。
「是沒錯。不過如果這是真的,要拯救這個城鎮的話應該也只有這個方法了」
「但是,不知道父親會怎麼說」
「抱歉,我已經事先跟你父親提過這事了。他跟我的想法一樣。我們在一起作戰很久了。我們知道現在的情況根本就是走進了死巷子」
或許是覺得里斯看起來有些迷惘,巴克就接著說道。
「里斯,你有能力,是特別的。你跟這酒館的人有著不一樣的東西」
隊員們酒醉,高歌,喧嘩著。沉默在緊張後的開放感中。
「我自己是不懂啦」
「我是不相信什麼命運。不過我認為這個機會之中一定有著什麼」
「那,如果要去的話該怎麼做才好」
與激昂的巴克成對比,里斯冷靜的答道。
「你想去了?」
「我還沒決定。不過,我覺得這不是個壞事」
「那個男子,還在貝爾的旅店裡。要是你的話他一定會答應。明天一起去見他吧」
巴克大笑後,又痛快的喝起酒來。
「既年輕又有經驗。真是個難得的人才」
組織的男子自稱海根。一看到里斯就相當中意他的樣子。
「那麼就馬上請前往本隊吧。我會先連絡好。安心的過去吧」
海根一邊在書面資料上寫東西,一邊說著。
「我們先隨著商隊往西前往索茲巴克。然後再讓那邊的分部送你前往本隊」
在撕下有著魯比歐那的王國銀行保証的支票一張後。接著又撕下一張寫有金額的支票。
「這是所需經費外的契約金」
雖然不是為了錢才加入的,但也沒有理由拒絕,里斯將支票收下。
那是不筆不小的金額,雖然里斯對錢也沒什麼興趣。只是心中想到,要是父親肯收下的話就好了。
|
朝西邊前進的商隊還有三天左右才出發,這段日子里斯就好像什麼事都沒發生般地度過。
雖然有向父親提過要遠行的事,但是父親卻沒過問。
「隊長那邊巴克會去談好」
「嗯。我也會去說」
母親在里斯還小的時候就過世了,至今為止都是與父親兩人一起生活的。不管是戰鬥方式還是人生的態度,都是父親教給他的。
現在的父親雖然失去了腳,卻還是在打鐵鋪裡幫忙。生活應該不成問題。
有一個身為守備隊隊長的父親,一直都是里斯的驕傲。就算現在失去了那個地位,對里斯來說他永遠都是重要的父親。
父子兩人雖然都不擅言詞,但很了解對方。
|
出發的日子到了。
里斯猜想父親應該會不願意接受支票,所以就將它默默的藏在抽屜裡。希望父親有一天能夠發現。
在玄關前,父親目送背著行李的里斯離開。感覺就好像只是要出個小遠門而已一樣,相當簡樸的道別。
「我走囉」
「嗯,好好做」
「那當然」
在說了這幾句話後,里斯就往在城門前等著的商隊走去。
雖然懷著應該是再也見不到面了的心緒,里斯頭也不回的出發了。
「—完—」
3376年 「怒り」
「こんなことやってても、いつか皆やられちまうんだ。人間の住む街はどんどん減ってきてる。俺たちの街だって渦が来て……」
グリッドがぶつぶつと独り言のように文句を言った。いつもの恐怖を紛らわすための儀式だと思って、他のメンバーは聞き流していた。
「黙れよ。あんたの泣き言なんか、聞きたくねえよ」
グリッドの独り言をリーズが断ち切った。
カナーンの守備隊は『魔物』を見たという住民の報告を受け、街を囲む城壁を超えた、街道からも離れた森を探索していた。
メンバーは二十人程で、様々な年齢の男達の集団だった。
「リーズ、ガキのお前はわかっちゃいねえんだ。 ずっとずっと前から人間は減り続けてるんだ。 俺が子供の頃は隣街のメルギスへだって行けたが、今はどうだ? メルギスの街自体が渦に飲み込まれちまった」
グリッドはリーズに向かって早口で捲し立てた。
他の守備隊のメンバーはこの男の愚痴にうんざりだったが、魔物と戦わなければいけない、という緊張からか、敢えて誰も止めに入らなかった。
「ここに来るまでに難民達を見ただろ。城壁にへばりつくように生きてる奴ら。あれがメルギスの住民さ。少しずつ魔物に喰われていってるんだ。哀れなもんだ」
「黙れって言ったぜ、おっさん」
リーズは足を止めてグリッドの胸倉を掴んだ。グリッドの背はリーズよりだいぶ低く、胸倉を掴まれるとつま先立ちになっていた。
「は、離せ。小僧が」
「哀れなのはあんただよ。 少しは口を閉じてまっすぐ歩け」
投げるようにしてリーズが手を離すと、グリッドは無様に地面にころがった。
「ば、馬鹿野郎、粋がりやがって。お前の親父だって……」
「それ以上言ったら、お前を先に殺すぞ」
リーズが剣に手を掛けた
「おい、やめろ。構うな。 怖いんだよ、こいつは」
副長格のバックがリーズを止めた。
「こんな奴、連れてこなきゃよかったんだ」
リーズはバックに従って隊列に戻った。
リーズは若くしてこの守備隊に入った。いまは十八だが、十代の前半からずっと戦っている。
元々守備隊を率いていたのは彼の父親だった。街を守るために、守備隊として魔物が近付くのを防いできた。しかし二年前の戦いで大怪我を負い、隊長を退いた。今は悪くなった足を庇いながら、細々と暮らしている。
そんな悲劇を目の前にしても、リーズが守備隊を辞めることはなかった。
自分の目の前で父親が襲われたが、それを助けたのもリーズだった。瀕死の父親を一人で救い出し、その後も前線に立ち続けた。
そんなこともあり、リーズは若いながらも守備隊で一目置かれていた。
恐怖を知らないのではないか、と囁かれることもあったが、リーズ自身、恐怖を感じていない訳ではなかった。自分の前で父親が襲われた時、心底恐ろしかった。
しかしそれ以上に、自分の中に魔物に対する怒りが沸いた。
恐怖より怒り。
リーズを駆り立てるのは、その感情だった。
そんなリーズを父親は、しばしばきつく諌めることがあった。
「怒りをコントロールしろ。押さえろとは言わん。自分が怒りに駆られていることを意識し続けろ」
自分の怒りを制御すること。
グリッドの苛立たしい態度に切れた後、リーズはそんな父親の言葉をもう一度思い出していた。
隊列が止まり、部隊に緊張が走った。合図があり、部隊は訓練通りに展開を始める。指を差し、見つけた魔物の位置を確認し合う。
魔物には色々な種類がある。守備隊では全く敵わない強力な生物が出てくればどうしようもないが、そうでなければ、逃がさずに倒さなければならない。
そうしなければ、渦の化け物共は増え続け、街を飲み込むだろう。
「蛇だ」
誰かの声がした。
15アルレ《約20メートル》はあるかという巨大な蛇だ。ただ、蛇といっても地上にいるような顔つきではない。十対もある目をぎらぎらと輝かせる、悪夢のような化け物だった。しかし、倒せない訳ではない。
皆で慎重に敵を囲む。逃がす訳にはいかない。
隊長の合図と共に銃声が響く。しかし蛇の動作は速い。
鎌首を高く持ち上げたかと思うと、素早くその尻尾で部隊を薙ぎ払う。とたんに銃声が止んだ。
蛇の尻尾に吹き飛ばされた男達が呻き声を上げる。怯んだ隊員は体勢を立て直そうとするのに精一杯となっていた。
再び鎌首を持ち上げて辺りを睥睨する蛇に、皆が恐怖していた。
蛇は口を開けて、舌なめずりをした。
この空間、この瞬間、恐怖が辺りを支配するのをリーズは感じた。しかしそれに囚われることなく、リーズは蛇の前に飛び出した。
呆気にとられる隊員の前で、リーズは蛇の首を切り落とした。
驚くべき剣技だったが、それよりも、一瞬で相手の懐に飛び込む胆力こそ、リーズが凡百の男でないことの証左だった。
部隊から歓声が上がる。
「よくやった、リーズ」
隊長から声を掛けられる。
「なに、皆があの化け物の注意を引きつけてくれたからさ」
本心ではなかったが、部隊の士気を挫かないために、リーズはあえてそう言った。
部隊は街に戻った。化け物を倒したことで、ちょっとした凱旋騒ぎになっていた。
夜になると酒場で宴が始まった。
リーズはそんな騒ぎから距離を置きつつも、一応参加していた。
「俺は銃を構えてよ、バババっとあの大蛇を撃ちまくったのよ。そしたら蛇の野郎、しっぽを巻いて逃げだしやがってよ。そこへリーズがとどめを刺したって訳よ」
すっかり上機嫌になったグリッドが、隣に座った酒場の女に自慢話をしている。
「やれやれ。グリッドの野郎、後ろの方で縮こまってたくせにな」
副長のバックが、カウンターの端にいたリーズの傍に来て言った。
「まあ、言うだけならタダだ」
「しかしリーズ、すまなかったな。お前にばかり手を煩わせて」
最近の出撃では、リーズの腕で隊が救われることが多かった。
「別に構わない。親父もやってきたことだ」
「親父さんも、それはいい戦士だった。だがリーズ、お前には驚かされてばかりだ」
バックとリーズの父親とは、若い頃からの友人だった。このカナーンの街で生活し、街を守ってきた。生業は別に持っていたが、街を守るためにずいぶんと修羅場をくぐってきた男だった。
「ずっと、このままいけると思うか?」
バックが尋ねた。
「どういう意味だ?」
「最近、魔物が街道近くに現れる回数が増えてきてる。渦自体が近くに現れたという話は聞かないが、渦からあふれた化け物どもがこの街に迫ってきてるんだろう」
「そうだな。これからは油断できなくなる」
「ああ。もっと守備隊は増強しなきゃならない。いまの人数と能力じゃ、冗談みたいなもんさ」
「協力するよ」
リーズも今の守備隊の能力には疑問があったので、同意した。
「でもな、俺の本音を言えば、このままじゃこの街は守れないと思ってる」
バックは目を伏せて自分のグラスを眺めている。
「グリッドの愚痴もな、あれはあれで真実をついてるんだ」
「俺はそうは思わないよ。親父もあんたも、この街を守ってきた。これからだって大丈夫だ」
リーズは冷たい炭酸水の入ったグラスをあおった。酒は好きではなかった。怒りをコントロールできなくなるんじゃないか、という不安からだった。
「順番なのさ。だんだんと人間の住める街は少なくなってきてる。これは確かだ。洪水に沈む街みたいなもんさ。高台にある家はなかなか沈まない。しかし水かさが増せば、その高台だって沈む」
「俺はそうは思わない」
「渦はな、今まで一個だって消滅してないんだ。水かさは増し続けてる」
「だからって、黙って溺れ死んだりしないぜ。俺は」
バックのらしからぬ態度と言葉に、自分の中にざわついた気持ちを持ち始めていた。
「そう、黙って死ぬことはない。この街でな。リーズ、お前は若いんだからな」
バックの言葉の意味がとれずに、リーズは眉を顰めた。
「アバロンから来たっていう隊商がいただろう」
アバロンは大国ルビオナの首都であり、この大陸で最も繁栄している都市の一つだ。
「その中に変わった男がいてな。俺達守備隊にわざわざ会いに来た、と言うんで話したんだ。俺より歳を食っていたが、そいつはグランデレニア帝國の元兵士だが、今はとある組織の一員だって言うんだ」
バックの話し方は熱を帯びていた。
「なんでも、その組織は渦自体を攻撃、消滅させる部隊で、勇士を集めてるって話をし始めた。隊長はそんな話を一笑に付して追い返したんだが、俺は興味があって続きを聞いてみたんだ」
バックの言葉をリーズは黙って聞いていた。
「エンジニア達がわざわざ地上に降りてきて作った部隊らしい。それに、もう少しで渦を消滅させることができるところだって言うんだ。 ただ、戦いに長けた人材を集めるのに苦労してるらしい。 まあ、当たり前の話だがね。生きるためにぎりぎりの戦いをしてる奴らに、そんな雲をつかむような話に乗れっていうのが無理な話だ」
バックは一息ついて改めて言った。
「でもな、俺はそいつの話、信じられるような気がしたんだ。いや、信じたいって思ったのかもしれん」
また間を置いて、バックはリーズを見つめ直した。
「初めて水が引くかもしれない、ってね」
バックの話が見えてきた。
「リーズ。お前、行ってみないか」
「突拍子もない話だな」
リーズの心のざわめきは、別の感情を表し始めていた。
「ああ。でも、もし本当なら、この街を救うにはその方法しかないって思うんだ」
「でも、親父はなんて言うかな」
「悪いが、親父さんには俺が先に話した。俺と同じ考えだったよ。長い間一緒に戦ってきたんだ。今の状況が袋小路だって話はずっとしてたんだ」
リーズが迷っているように見えたのか、バックは続けた。
「お前には才覚がある、リーズ。特別なんだ。 お前はこの酒場にいる連中とは違うものを持ってる」
隊員達は皆、酔い、歌い、騒いでいる。緊張の裏返しの開放感に浸っていた。
「自分じゃわからないね」
「俺は運命だのなんだのは信じちゃいない。でもな、この巡り合わせには何かあるって、そう思ったんだ」
「で、行くならどうすればいいんだ」
バックの熱を帯びた調子とは対照的に、落ち着いてリーズは答えた。
「行く気になったのか?」
「決めちゃいない。でも、悪くない話だって思っただけさ」
「その男は、まだベルの宿屋にいる。お前ならきっと認めてもらえる。明日会いに行こう」
バックは破顔すると、また酒をあおった。
「若くて経験もある。すばらしい人材だ」
組織の男はヘイゲンと名乗った。リーズを一目見て気に入った様子だった。
「さっそく本隊に向かってもらおう。連絡は先につけておく。心配せずに行ってくれ」
書面に何かを記入しながら、ヘイゲンは言った。
「次の西に向かう隊商とソーズバーグまで行くんだ。そこの支部から本隊に送り出してもらえ」
ルビオナの王国銀行保証の小切手を一枚、直ぐに切った。続いてもう一枚、金額を記入した小切手を切った。
「これは経費とは別の契約金だ」
金の為に行くのではなかったが、断る理由も無いので、リーズはそれを受け取った。
かなりの金額だったが、特に興味は持たなかった。親父が受け取ってくれればいいがと、ぼんやり思った。
西に向かう隊商が出発するまで三日程あったが、リーズはまるで普段通りに暮らした。
父親には旅立つことを告げたが、深く問われることはなかった。
「隊長にはバックがうまく話をつけるってさ」
「ああ、俺からも言っておく」
母親を幼い頃に亡くしてから、二人きりで暮らしてきた。戦い方も生き方も、全て父親に教わってきた。
今の父親は、失った足を庇いながら鍛冶屋を手伝っている。食べるには困らないだろう。
守備隊の長だった父親はリーズの誇りだった。そしてその地位を失っていても、リーズにとってはずっと大切な父親だった。
会話は得意でない二人だったが、互いを理解していた。
旅立ちの日になった。
父親は小切手を受け取らないだろうと思って、黙って机の中に隠しておいた。いつか見つけてくれればいい。
玄関先で、荷物を持ったリーズを父親は見送った。まるで、ちょっとした旅に出るかのような、何気ない別れだった。
「行くよ」
「ああ、うまくやってこい」
「もちろん」
それだけ言葉を交わすと、隊商の待つ城門へと向かった。
二度と会えないだろうと思ったが、リーズは振り向かなかった。
「—了—」
「こんなことやってても、いつか皆やられちまうんだ。人間の住む街はどんどん減ってきてる。俺たちの街だって渦が来て……」
グリッドがぶつぶつと独り言のように文句を言った。いつもの恐怖を紛らわすための儀式だと思って、他のメンバーは聞き流していた。
「黙れよ。あんたの泣き言なんか、聞きたくねえよ」
グリッドの独り言をリーズが断ち切った。
カナーンの守備隊は『魔物』を見たという住民の報告を受け、街を囲む城壁を超えた、街道からも離れた森を探索していた。
メンバーは二十人程で、様々な年齢の男達の集団だった。
「リーズ、ガキのお前はわかっちゃいねえんだ。 ずっとずっと前から人間は減り続けてるんだ。 俺が子供の頃は隣街のメルギスへだって行けたが、今はどうだ? メルギスの街自体が渦に飲み込まれちまった」
グリッドはリーズに向かって早口で捲し立てた。
他の守備隊のメンバーはこの男の愚痴にうんざりだったが、魔物と戦わなければいけない、という緊張からか、敢えて誰も止めに入らなかった。
「ここに来るまでに難民達を見ただろ。城壁にへばりつくように生きてる奴ら。あれがメルギスの住民さ。少しずつ魔物に喰われていってるんだ。哀れなもんだ」
「黙れって言ったぜ、おっさん」
リーズは足を止めてグリッドの胸倉を掴んだ。グリッドの背はリーズよりだいぶ低く、胸倉を掴まれるとつま先立ちになっていた。
「は、離せ。小僧が」
「哀れなのはあんただよ。 少しは口を閉じてまっすぐ歩け」
投げるようにしてリーズが手を離すと、グリッドは無様に地面にころがった。
「ば、馬鹿野郎、粋がりやがって。お前の親父だって……」
「それ以上言ったら、お前を先に殺すぞ」
リーズが剣に手を掛けた
「おい、やめろ。構うな。 怖いんだよ、こいつは」
副長格のバックがリーズを止めた。
「こんな奴、連れてこなきゃよかったんだ」
リーズはバックに従って隊列に戻った。
リーズは若くしてこの守備隊に入った。いまは十八だが、十代の前半からずっと戦っている。
元々守備隊を率いていたのは彼の父親だった。街を守るために、守備隊として魔物が近付くのを防いできた。しかし二年前の戦いで大怪我を負い、隊長を退いた。今は悪くなった足を庇いながら、細々と暮らしている。
そんな悲劇を目の前にしても、リーズが守備隊を辞めることはなかった。
自分の目の前で父親が襲われたが、それを助けたのもリーズだった。瀕死の父親を一人で救い出し、その後も前線に立ち続けた。
そんなこともあり、リーズは若いながらも守備隊で一目置かれていた。
恐怖を知らないのではないか、と囁かれることもあったが、リーズ自身、恐怖を感じていない訳ではなかった。自分の前で父親が襲われた時、心底恐ろしかった。
しかしそれ以上に、自分の中に魔物に対する怒りが沸いた。
恐怖より怒り。
リーズを駆り立てるのは、その感情だった。
そんなリーズを父親は、しばしばきつく諌めることがあった。
「怒りをコントロールしろ。押さえろとは言わん。自分が怒りに駆られていることを意識し続けろ」
自分の怒りを制御すること。
グリッドの苛立たしい態度に切れた後、リーズはそんな父親の言葉をもう一度思い出していた。
隊列が止まり、部隊に緊張が走った。合図があり、部隊は訓練通りに展開を始める。指を差し、見つけた魔物の位置を確認し合う。
魔物には色々な種類がある。守備隊では全く敵わない強力な生物が出てくればどうしようもないが、そうでなければ、逃がさずに倒さなければならない。
そうしなければ、渦の化け物共は増え続け、街を飲み込むだろう。
「蛇だ」
誰かの声がした。
15アルレ《約20メートル》はあるかという巨大な蛇だ。ただ、蛇といっても地上にいるような顔つきではない。十対もある目をぎらぎらと輝かせる、悪夢のような化け物だった。しかし、倒せない訳ではない。
皆で慎重に敵を囲む。逃がす訳にはいかない。
隊長の合図と共に銃声が響く。しかし蛇の動作は速い。
鎌首を高く持ち上げたかと思うと、素早くその尻尾で部隊を薙ぎ払う。とたんに銃声が止んだ。
蛇の尻尾に吹き飛ばされた男達が呻き声を上げる。怯んだ隊員は体勢を立て直そうとするのに精一杯となっていた。
再び鎌首を持ち上げて辺りを睥睨する蛇に、皆が恐怖していた。
蛇は口を開けて、舌なめずりをした。
この空間、この瞬間、恐怖が辺りを支配するのをリーズは感じた。しかしそれに囚われることなく、リーズは蛇の前に飛び出した。
呆気にとられる隊員の前で、リーズは蛇の首を切り落とした。
驚くべき剣技だったが、それよりも、一瞬で相手の懐に飛び込む胆力こそ、リーズが凡百の男でないことの証左だった。
部隊から歓声が上がる。
「よくやった、リーズ」
隊長から声を掛けられる。
「なに、皆があの化け物の注意を引きつけてくれたからさ」
本心ではなかったが、部隊の士気を挫かないために、リーズはあえてそう言った。
部隊は街に戻った。化け物を倒したことで、ちょっとした凱旋騒ぎになっていた。
夜になると酒場で宴が始まった。
リーズはそんな騒ぎから距離を置きつつも、一応参加していた。
「俺は銃を構えてよ、バババっとあの大蛇を撃ちまくったのよ。そしたら蛇の野郎、しっぽを巻いて逃げだしやがってよ。そこへリーズがとどめを刺したって訳よ」
すっかり上機嫌になったグリッドが、隣に座った酒場の女に自慢話をしている。
「やれやれ。グリッドの野郎、後ろの方で縮こまってたくせにな」
副長のバックが、カウンターの端にいたリーズの傍に来て言った。
「まあ、言うだけならタダだ」
「しかしリーズ、すまなかったな。お前にばかり手を煩わせて」
最近の出撃では、リーズの腕で隊が救われることが多かった。
「別に構わない。親父もやってきたことだ」
「親父さんも、それはいい戦士だった。だがリーズ、お前には驚かされてばかりだ」
バックとリーズの父親とは、若い頃からの友人だった。このカナーンの街で生活し、街を守ってきた。生業は別に持っていたが、街を守るためにずいぶんと修羅場をくぐってきた男だった。
「ずっと、このままいけると思うか?」
バックが尋ねた。
「どういう意味だ?」
「最近、魔物が街道近くに現れる回数が増えてきてる。渦自体が近くに現れたという話は聞かないが、渦からあふれた化け物どもがこの街に迫ってきてるんだろう」
「そうだな。これからは油断できなくなる」
「ああ。もっと守備隊は増強しなきゃならない。いまの人数と能力じゃ、冗談みたいなもんさ」
「協力するよ」
リーズも今の守備隊の能力には疑問があったので、同意した。
「でもな、俺の本音を言えば、このままじゃこの街は守れないと思ってる」
バックは目を伏せて自分のグラスを眺めている。
「グリッドの愚痴もな、あれはあれで真実をついてるんだ」
「俺はそうは思わないよ。親父もあんたも、この街を守ってきた。これからだって大丈夫だ」
リーズは冷たい炭酸水の入ったグラスをあおった。酒は好きではなかった。怒りをコントロールできなくなるんじゃないか、という不安からだった。
「順番なのさ。だんだんと人間の住める街は少なくなってきてる。これは確かだ。洪水に沈む街みたいなもんさ。高台にある家はなかなか沈まない。しかし水かさが増せば、その高台だって沈む」
「俺はそうは思わない」
「渦はな、今まで一個だって消滅してないんだ。水かさは増し続けてる」
「だからって、黙って溺れ死んだりしないぜ。俺は」
バックのらしからぬ態度と言葉に、自分の中にざわついた気持ちを持ち始めていた。
「そう、黙って死ぬことはない。この街でな。リーズ、お前は若いんだからな」
バックの言葉の意味がとれずに、リーズは眉を顰めた。
「アバロンから来たっていう隊商がいただろう」
アバロンは大国ルビオナの首都であり、この大陸で最も繁栄している都市の一つだ。
「その中に変わった男がいてな。俺達守備隊にわざわざ会いに来た、と言うんで話したんだ。俺より歳を食っていたが、そいつはグランデレニア帝國の元兵士だが、今はとある組織の一員だって言うんだ」
バックの話し方は熱を帯びていた。
「なんでも、その組織は渦自体を攻撃、消滅させる部隊で、勇士を集めてるって話をし始めた。隊長はそんな話を一笑に付して追い返したんだが、俺は興味があって続きを聞いてみたんだ」
バックの言葉をリーズは黙って聞いていた。
「エンジニア達がわざわざ地上に降りてきて作った部隊らしい。それに、もう少しで渦を消滅させることができるところだって言うんだ。 ただ、戦いに長けた人材を集めるのに苦労してるらしい。 まあ、当たり前の話だがね。生きるためにぎりぎりの戦いをしてる奴らに、そんな雲をつかむような話に乗れっていうのが無理な話だ」
バックは一息ついて改めて言った。
「でもな、俺はそいつの話、信じられるような気がしたんだ。いや、信じたいって思ったのかもしれん」
また間を置いて、バックはリーズを見つめ直した。
「初めて水が引くかもしれない、ってね」
バックの話が見えてきた。
「リーズ。お前、行ってみないか」
「突拍子もない話だな」
リーズの心のざわめきは、別の感情を表し始めていた。
「ああ。でも、もし本当なら、この街を救うにはその方法しかないって思うんだ」
「でも、親父はなんて言うかな」
「悪いが、親父さんには俺が先に話した。俺と同じ考えだったよ。長い間一緒に戦ってきたんだ。今の状況が袋小路だって話はずっとしてたんだ」
リーズが迷っているように見えたのか、バックは続けた。
「お前には才覚がある、リーズ。特別なんだ。 お前はこの酒場にいる連中とは違うものを持ってる」
隊員達は皆、酔い、歌い、騒いでいる。緊張の裏返しの開放感に浸っていた。
「自分じゃわからないね」
「俺は運命だのなんだのは信じちゃいない。でもな、この巡り合わせには何かあるって、そう思ったんだ」
「で、行くならどうすればいいんだ」
バックの熱を帯びた調子とは対照的に、落ち着いてリーズは答えた。
「行く気になったのか?」
「決めちゃいない。でも、悪くない話だって思っただけさ」
「その男は、まだベルの宿屋にいる。お前ならきっと認めてもらえる。明日会いに行こう」
バックは破顔すると、また酒をあおった。
「若くて経験もある。すばらしい人材だ」
組織の男はヘイゲンと名乗った。リーズを一目見て気に入った様子だった。
「さっそく本隊に向かってもらおう。連絡は先につけておく。心配せずに行ってくれ」
書面に何かを記入しながら、ヘイゲンは言った。
「次の西に向かう隊商とソーズバーグまで行くんだ。そこの支部から本隊に送り出してもらえ」
ルビオナの王国銀行保証の小切手を一枚、直ぐに切った。続いてもう一枚、金額を記入した小切手を切った。
「これは経費とは別の契約金だ」
金の為に行くのではなかったが、断る理由も無いので、リーズはそれを受け取った。
かなりの金額だったが、特に興味は持たなかった。親父が受け取ってくれればいいがと、ぼんやり思った。
西に向かう隊商が出発するまで三日程あったが、リーズはまるで普段通りに暮らした。
父親には旅立つことを告げたが、深く問われることはなかった。
「隊長にはバックがうまく話をつけるってさ」
「ああ、俺からも言っておく」
母親を幼い頃に亡くしてから、二人きりで暮らしてきた。戦い方も生き方も、全て父親に教わってきた。
今の父親は、失った足を庇いながら鍛冶屋を手伝っている。食べるには困らないだろう。
守備隊の長だった父親はリーズの誇りだった。そしてその地位を失っていても、リーズにとってはずっと大切な父親だった。
会話は得意でない二人だったが、互いを理解していた。
旅立ちの日になった。
父親は小切手を受け取らないだろうと思って、黙って机の中に隠しておいた。いつか見つけてくれればいい。
玄関先で、荷物を持ったリーズを父親は見送った。まるで、ちょっとした旅に出るかのような、何気ない別れだった。
「行くよ」
「ああ、うまくやってこい」
「もちろん」
それだけ言葉を交わすと、隊商の待つ城門へと向かった。
二度と会えないだろうと思ったが、リーズは振り向かなかった。
「—了—」