位於米利加迪亞的西南方有一個小鎮朵拉拉。也被渦影響到,幾乎要與外界斷絕交易等的往來,也很少有人來造訪。
在即將日落之際,有一輛小馬車來到這小鎮的聖堂。
對除了暴風駕馭者一族的商人以外幾乎沒有人造訪的朵拉拉來說,這可是稀有的事。小鎮的人紛紛聚集來聖堂一探究竟。
在馬車到達的同時,祭司從聖堂走出來迎接從馬車下來的人物。
「長途跋涉辛苦了。向小鎮的各位自我介紹一下。來,打個招呼吧」
「我是為了陶冶從魯貝斯來的希吉斯。朵拉拉的各位,在這期間請多多指教」
自稱希吉斯的青年彎腰鞠了個躬。看起來10幾歲的他身穿著僧服,看得出來是聖堂的人。
陶冶是信奉『命之神』的僧侶被賦予的課題,達成後才能到命之神身邊去,據說是打造良善世界的基礎。
「累了吧,希吉斯。馬上帶你去房間。明早再跟你說明你的職務吧」
「謝謝您的體諒」
在祭司的催促下希吉斯進入了聖堂。
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以信奉土地神的宗教為主體建國的國家米利加迪亞,不論規模大小,在每一個集落一定會有座國營聖堂。
在每一個集落的聖堂內,都有現在的君主,大君《Overlord》巴斯提塔1所任命的祭司在管理。
朵拉拉的聖堂在王國內多數的聖堂內來說是特別小的,由祭司摩根一個人就能夠充分管理了。但是前一陣子前任的僧侶為了想成為自己出生地的祭司,出發去做更高階的陶冶了。為了補上這個空缺派了希吉斯來此。
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天亮了。希吉斯來到摩根的辦公室。摩根已經換上了祭司服,在準備早上的禮拜了。
邊幫忙準備禮拜,摩根邊向希吉斯說明早上禮拜的開門時間、掃除的順序等細節。
「喔對了,早上的禮拜結束後,麻煩你到鎮上去買東西」
「買東西嗎?」
「這個鎮上的人都比較內向。你要在這裡當僧侶,就必須盡早融入這個鎮才行」
也就是說藉買東西之名,實巡迴打招呼之實。
「感謝您的用心。我會努力盡早讓大家認同我的」
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早上的禮拜結束,簡單地打掃聖堂後,希吉斯就出門到鎮上去了。拿著摩根給他的鎮上地圖及購物單,邊散步邊巡迴鎮內。
「在這種時期還有僧侶大人來?」
「因為泰德大人出去陶冶之旅了啊」
鎮上的人看到希吉斯後,就開始竊竊私語著。離首都很遠的朵拉拉,看來很討厭外來的人,就算是聖職者也一樣。
雖然希吉斯聽得到對話內容,但是裝作沒聽到的樣子。
「不過再怎麼說,也太年輕了吧」
「光他是都會人這點就很可怕了」
「反正都會的僧侶大人,一定無法在這裡工作太久的」
因為住在難有新的世界情勢消息傳來的鎮上。在這裡生活的人都害怕自己的生活與事物因外來者而被改變。
何況是一位從國教膝下的首都魯貝斯來的僧侶呢。居民們實在無法放下警戒心。
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希吉斯從外面買東西回來,吃過午餐後就開始打掃聖堂前。然後對來到聖堂的人、經過的人都禮貌地打招呼。
「剛出門嗎?天氣很冷,要小心身體」
「這,這樣啊。謝謝」
希吉斯連撇過頭打算快步走過的路人也一直都是親切地接應,慢慢地解除了鎮上人們的戒心。
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「希吉斯大人,來玩吧!」
「再一會兒我就打掃完了,再等我一下哦。今天要來玩什麼呢?」
希吉斯對來聖堂的孩子們也很溫柔。為了讓雙親能夠放心地跟祭司商量事情,希吉斯會陪孩子們在外面玩。
年輕男子常常為了打倒出現城鎮附近的魔物而不在,所以希吉斯對鎮裡的孩子們來說,是像大哥哥般地存在。
「泰德大人雖然也是很棒的人,但是希吉斯大人作為僧侶還那麼年經就這麼優秀」
「代替祭司大人的工作也做得很好,真是太感激了」
不到一年,對希吉斯的評價已經與當初完全相反了。
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就在習慣了職務,也得到鎮上人們的信賴後,某日希吉斯工作結束後被祭司叫去。
「祭司大人,請問您要跟我說什麼?」
辦公室被黯淡的燈微微照亮著。
「哦,你來啦。不要站在那邊,來這邊坐下放輕鬆吧」
希吉斯聽從祭司的話,在他指示的椅子上坐了下來。坐在摩根的正對面。
「你真的做得很好」
「不,這都是靠祭司大人與城鎮各位的幫助」
「別謙虛,別看我這樣,我可是很有看人的眼光的。所以,我想讓你累積更高度的陶冶」
「高度的陶冶,嗎?」
希吉斯提出疑問。摩根作為祭司有守護希吉斯陶冶的義務。但是,希吉斯的『陶冶』修行還沒有完成。
「你知道命之神的真面目嗎?」
「神並不是有形的存在。教義上是這樣記述的……」
「教義上寫的並不是全部,那些只是得到超凡之力的人物編造的東西罷了。我們稱呼那位人物為首領」
說完後,摩根什麼道具都沒有使用就將一本書吸到手邊來。浮在空中的書自動開始翻頁,翻到命之神肖像的那頁時,瞬間燒了起來。
「好厲害!您到底怎麼得到這力量的?」
「從組織高層那裏得到的。侍奉命之神的祭司,大家都有秘藏著這個力量」
「可以做得到那種事嗎?像我這樣的人,也可以擁有那麼棒的力量……」
「當然。等你得到力量後,我打算讓你當我的副手」
「祭司大人的副手……,祭司大人為了良善世界打算做什麼呢?」
「希吉斯,你還太年輕了。總之要先把那個礙眼的首領給除掉。雖然他已經快死了,但是只要他還君臨在上,我們的願望就無法實現」
「您是說要背叛神嗎?」
「如今首領只是個不能言語的裝飾品而已了。我得到的力量已經凌駕在首領之上了。那傢伙睡著的這幾百年間,我一直在累積著研究」
「……那麼,祭司大人成為偉大的首領之後打算要做什麼呢?」
摩根被希吉斯一吹捧,就說得更多了。
「等我成為首領的時候,我要使用這個力量成為地上的王。最先要摧毀礙眼的古朗德利尼亞帝國,得到那塊廣大的土地。然後用帝國的軍事力來平定地上,建立出理想的世界」
不知道摩根是否講著講著激動起來,站起來開始在希吉斯周圍走著。
「地上的財寶全是我的東西。畢竟沒有財力什麼都做不了。怎麼樣?只要跟我一起來就可以分你財產與權力哦」
摩根向希吉斯問道。用不讓他說不的魄力,以及以常人來看相當有魅力的報酬來邀請他。
「呵,呵呵……哈哈哈哈哈哈哈!」
打破短暫沉默的,是希吉斯的笑聲。
「你什麼意思!有什麼好笑的嗎?」
「什麼王什麼財物的,還真是渺小的願望啊。就憑這種世俗的慾望就想要成為神,還真是滑稽啊」
希吉斯的表情已經沒有之前那好人好青年的影子了。
「你想愚弄我嗎!」
「這才不是愚弄。只是認為你很可悲而已」
摩根把剛才那本燒起來的書投向希吉斯。希吉斯完全不避開,只用一根手指就將書停了下來。
希吉斯的手指先端出現羽毛的紋章。
「你,你……!」
「雖然吾有刻意隱瞞,但是你竟然沒有發現吾。摩根啊,看來你也衰老了」
「怎,怎麼可能!你不是應該已經是個等死的木乃伊了嗎!!」
摩根的臉色已經由青轉白,完全失去血色。
希吉斯看到摩根那個樣子笑得更大聲,然後將浮現紋章的手指指向摩根。
「你要是不打算謀反,滿足於吾給予你的東西,明明可以像至今為止過得榮華富貴的」
摩根的身體浮在空中,發出聲音被折起,壓縮起來。
「住……手……」
「吾沒有可以寬恕謀反者的巨大器量」
希吉斯向著被絕望之色所染的摩根說完。就同時將摩根的身體像揉紙屑般碾碎了。
曾經是摩根的那個物體被藍白色的火炎給包圍,不留下任何痕跡消失了。
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天一亮,希吉斯就把摩根不在的事,與自己得要去赴首都的招集不可的事告知大家後,就離開朵拉拉鎮了。
居民對於本來就常不在的摩根根本不在乎,沒有發生什麼麻煩事就順利離開小鎮了。
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「歡迎您回來,古斯塔夫大人」
首都魯貝斯。在國家中心的聖達瑞斯大聖堂的最裡面,希吉斯,不對,是古斯塔夫的隨扈尤莉卡與克洛維斯來迎接他了。
「吾見到還蠻有趣的事了。這樣的外貌還蠻不錯的」
「那真是太好了」
「那個怪物呢?」
「丟掉了。他已經失落到連再生能力都無法確認的地步,不可能得救了」
雖然尤莉卡那沒有高低起伏音調的答案中有些令人在意的地方,但是古斯塔夫決定當作是自己太多心了。
「……算了。這下就把謀反者全部處理掉了。克洛維斯,召集屬下。要告訴他們吾復活的事了」
「遵命。一切都聽從偉大首領的意思」
古斯塔夫的姿態搖身一變。瞬間,古斯塔夫變成了眼光銳利的老人了。
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「─完─」
3379年 「再動」
ミリガディアの南西にある小さな町トララ。渦の影響もあり、交易などが途絶えがちになっているこの町に訪れるものは少ない。
日が落ちる少し前、そんな町の聖堂に、小さな馬車がやって来た。
ストームライダーの商人以外は訪れる者が殆ど無いトララでは異例の事態であり、聖堂には町の人々が様子を見に集まっていた。
馬車の到着と共に祭司が聖堂から出てきて、馬車から降り立った人物を出迎えた。
「長旅ご苦労だった。町の皆にも紹介しよう。さ、挨拶しなさい」
「ルーベスより陶冶にやって参りましたシーギスです。トララの皆様、暫くの間宜しくお願い致します」
シーギスと名乗った青年が一礼する。一見十代にも見える彼は僧服を身に纏っており、聖堂の関係者であることが窺える。
陶冶《とうや》とは『命の神』に仕える僧侶に課される課題であり、これを達成することで命の神の御許へ行き、善き世界を作る礎となることができると言われている。
「疲れたろう、シーギス。すぐに部屋に案内しよう。職務の説明は明日の朝にするとしよう」
「ご好意に甘えさせていただきます」
祭司に促されて、シーギスは聖堂へと入っていった。
土着神を信仰する宗教が母体となって建国された国家であるミリガディア王国では、規模の大小に関わらず、必ず一つの集落に一つ国営聖堂が置かれていた。
それぞれの集落の聖堂は、現在の君主である大君《オーバーロード》バステタに任命された祭司が管理していた。
トララの聖堂は王国内に数ある聖堂の中でも殊のほか小さく、祭司のモルガンと僧侶一人がいれば十分に運営が可能であった。しかし少し前に前任の僧侶が生まれた街の祭司となるべく高位陶冶に入ったため、代わりとしてシーギスがトララへと遣わされたのであった。
夜が明けた。シーギスはモルガンの執務室に赴いていた。モルガンは既に祭司服に着替え、朝の礼拝の準備を行っていた。
礼拝の準備を手伝いながら、朝の礼拝に聖堂の扉を開ける時間や掃除の手順など、細かなことの説明を受けた。
「おおそうだ、朝の礼拝が終わり次第、町に買い出しに出掛けてほしい」
「買い出しですか?」
「この町の人々はちょっとばかり人見知りの気があるのだよ。ここで僧侶をする以上は、君にも早く町に溶け込んでもらわねばならん」
要は買い出しという名の挨拶回りといったところなのだろう。
「お心遣い感謝致します。早く皆様に認めていただけるよう、精進します」
朝の礼拝が終わり、簡単に聖堂の掃除を済ませた後、シーギスは町へと出掛けた。モルガンに渡された町の地図と買い出し用品が書かれた紙を持ち、散策がてらに町の中を巡っていた。
「こんな時期に僧侶様?」
「ほら、テッド様が陶冶の旅に出なすったから」
町の人々はシーギスを見ると、ひそひそと会話を始めた。首都から遠く離れたトララは、例え聖職者であっても他所からの人間の流入を嫌っているようだった。
シーギスにも会話の内容は届いていたが、聞こえないふりをすることにした。
「でも、いくらなんでも若すぎじゃ」
「都会の人ってだけで怖いわ」
「所詮は都会の僧侶様じゃ。ここでのお勤めはそう長くならんじゃろう」
新しい世界の情勢が届きにくい場所である。自分達の生活が物や人の流入によって変化することに怯えているのであろう。
ましてや国教のお膝元である首都ルーベスから来た僧侶である。警戒するのも止むを得ない部分があった。
シーギスは買い出しから戻ると、昼食後に聖堂前の掃除を始めた。そして聖堂に訪れる人、行き交う町の人に、丁寧に挨拶を繰り返した。
「これからお出掛けですか? 寒いですから、どうか気をつけて」
「あ、あらそう。ありがとうね」
顔を逸らして足早に通り抜けようとする人に対しても常ににこやかに対応するシーギスの姿は、少しずつ町の人々の警戒を解いていった。
「シーギスさまー、あそんでー!」
「あと少しでお掃除が終わりますから、少し待って下さいね。今日は何をしましょうか?」
シーギスは聖堂に訪れる子供達にも優しかった。祭司に相談事に来た家族の子供を外で遊ばせ、親が十二分に相談できるよう手配したことが始まりだった。
町の周囲に現れる魔物を倒すために若い男達が出払っているため、シーギスは町の子供達にとって身近なお兄さん役となっていた。
「テッド様もとてもいい方だったけど、シーギス様も若いのに素晴らしい僧侶様だわ」
「祭司様の代わりもよくお勤めになられていらっしゃる。ありがてぇこった」
一年もしないうちに、シーギスの評判は当初とは真逆のものになっていた。
職務にも慣れ、町の人々からの信頼も獲得しつつあったある時、その日の勤めを終えたシーギスは祭司に呼び出されていた。
「祭司様、お話とは何でしょうか?」
執務室はランプの明かりで薄暗く照らされていた。
「ああ、来たか。まぁそう身構えるな、ここに座って楽にしなさい」
シーギスは言われるがままに指定された椅子に腰掛けた。対面にはモルガンが座した。
「君は本当によくやってくれている」
「いえ、力不足の私を支えてくださる祭司様や町の方々のお陰です」
「謙遜するな。こう見えても私には人を見る目がある。そこで、君にはもっと高度な陶冶を積んでもらおうと思ってな」
「高度な陶冶、ですか?」
シーギスは鸚鵡返しに疑問を述べた。モルガンは祭司としてシーギスの陶冶を見守る義務がある。だが、シーギスに課されている陶冶はまだ完遂の目処が立っているものではない。
「君は命の神の真の姿を知っているかね?」
「神に形はない。教義にはそうございますが……」
「教義に書かれていることが全てではない。あれは超常的な力を手に入れたある者が作り上げたに過ぎぬ。我々はその者のことを首領と呼んでおるがな」
そう言うと、モルガンは何も使わずに一冊の本を手元に呼び寄せた。ふわりと浮く本は勝手にページを捲り、命の神の肖像が描かれているページを開くと、一瞬で燃え上がった。
「凄い! どうやったらこんな力を?」
「上位の組織から手に入れた力だ。命の神に仕える祭司であれば、皆これと同じ力を秘めている」
「そんなことができるのですか? 私のような者でも、素晴らしい力が……」
「無論だ。君が力を手に入れたら、私の片腕になってもらおうと思っている」
「祭司様の片腕に……、祭司様は善き世界のために何をされるおつもりですか?」
「シーギス、君はまだまだ青いな。ともあれ、まずは目障りな首領の息の根を止めることが最初だ。死に掛けているとはいえ、あれが君臨している以上、我々の望みが叶うことはない」
「神に背けと仰るのですか?」
「首領はもはや物言わぬ飾りだ。私が手に入れた力は首領すら凌駕している。奴が何百年と眠りについている間にも、私は研鑽を重ねている」
「……それで、祭司様が偉大な首領となられた後はどうなさるつもりで?」
モルガンはシーギスに煽てられるまま、饒舌に話を続けた。
「私が首領になった暁には、この力の全てを使って地上の王となるのよ。手始めに目障りなグランデレニア帝國を潰して、あの広大な土地を手に入れるのさ。そして帝國の軍事力をもって地上を平定し、理想の世を作り上げる」
モルガンは気分が高揚したのか、立ち上がってシーギスの周りを歩き始めた。
「地上の財宝も全て私のものだ。財がなければ何もできんからな。どうだね、私と共に来れば財も権力も分け与えてやろう」
モルガンはシーギスに問うた。有無を言わせない迫力と、常人から見れば魅力的な褒美を提示していた。
「ふ、ふふ……ははははははは!」
しばしの沈黙を破ったのは、シーギスの笑い声だった。
「何だね! 何がそんなにおかしいのかね」
「王だ財だと、何とも矮小な望みよな。世俗の欲ごときで神となろうとは、随分と滑稽な話だ」
シーギスの表情には人のよさそうな好青年の面影はなかった。
「私を愚弄する気か!」
「愚弄などしていない。ただ哀れだと思うただけよ」
モルガンはシーギスに向けて先程の燃え上がる本を放った。シーギスはそれを避けもせず、指先一つで受け止めてみせた。
シーギスの指先に羽を象った紋章が浮かぶ。
「お、お前……!」
「隠匿したとはいえ、吾の気配にすら気付かぬとは。モルガンよ、相当に耄碌したようだな」
「ば、莫迦な、お前はもはや死を待つだけのミイラではなかったのか!!」
モルガンの顔は青を通りこして白くなっており、完全に血の気が引いていた。
シーギスはその様子を見て更に笑うと、紋章が浮かんだ指をモルガンに突きつけた。
「謀反なぞ考えずに吾がお前に呉れてやったもので満ちたりておれば、今までどおり栄華を堪能できたであろうに」
モルガンの身体が宙に浮かぶと、音を立てて捻られ、圧縮されていく。
「や……め……」
「吾は謀反人を許す程の大きな器は持ち合わせておらぬ」
シーギスは一言、絶望の色に染まるモルガンに言い放った。同時にモルガンの身体は捻れた紙屑のように潰れた。
モルガンだったものはそのまま青白い炎に包まれ、跡形もなく消え去った。
夜が明ける。シーギスはモルガンが留守であることと、自身も首都の招集に赴かなければならなくなったことを告げ、トララの町を去った。
もとより留守がちだったモルガンのことを気に留める住民はおらず、揉め事なく町を去ることができた。
「ご帰還、お待ちしておりました。ギュスターヴ様」
首都ルーベス。国の中心である聖ダリウス大聖堂の最深部で、シーギス、いや、ギュスターヴは側近のユーリカとクロヴィスに迎えられた。
「中々に面白いものを見る事ができた。この姿も悪くないな」
「それはようございました」
「あの化け物はどうした?」
「捨て置きました。再生能力が確認できない値に落ち込んでいるため、もはや助かる道理はございません」
抑揚なく答えるユーリカの言葉にやや気に掛かるものを感じたが、ギュスターヴはそれを気のせいと断じた。
「……まあよい。これで謀反人は全て始末した。クロヴィス、配下を集めよ。吾の復活を知らしめるぞ」
「御意。偉大なる首領の仰せのままに」
ギュスターヴの姿が揺らめく。一瞬の間を置いた後、ギュスターヴは眼光鋭い老人の姿となっていた。
「—了—」
ミリガディアの南西にある小さな町トララ。渦の影響もあり、交易などが途絶えがちになっているこの町に訪れるものは少ない。
日が落ちる少し前、そんな町の聖堂に、小さな馬車がやって来た。
ストームライダーの商人以外は訪れる者が殆ど無いトララでは異例の事態であり、聖堂には町の人々が様子を見に集まっていた。
馬車の到着と共に祭司が聖堂から出てきて、馬車から降り立った人物を出迎えた。
「長旅ご苦労だった。町の皆にも紹介しよう。さ、挨拶しなさい」
「ルーベスより陶冶にやって参りましたシーギスです。トララの皆様、暫くの間宜しくお願い致します」
シーギスと名乗った青年が一礼する。一見十代にも見える彼は僧服を身に纏っており、聖堂の関係者であることが窺える。
陶冶《とうや》とは『命の神』に仕える僧侶に課される課題であり、これを達成することで命の神の御許へ行き、善き世界を作る礎となることができると言われている。
「疲れたろう、シーギス。すぐに部屋に案内しよう。職務の説明は明日の朝にするとしよう」
「ご好意に甘えさせていただきます」
祭司に促されて、シーギスは聖堂へと入っていった。
土着神を信仰する宗教が母体となって建国された国家であるミリガディア王国では、規模の大小に関わらず、必ず一つの集落に一つ国営聖堂が置かれていた。
それぞれの集落の聖堂は、現在の君主である大君《オーバーロード》バステタに任命された祭司が管理していた。
トララの聖堂は王国内に数ある聖堂の中でも殊のほか小さく、祭司のモルガンと僧侶一人がいれば十分に運営が可能であった。しかし少し前に前任の僧侶が生まれた街の祭司となるべく高位陶冶に入ったため、代わりとしてシーギスがトララへと遣わされたのであった。
夜が明けた。シーギスはモルガンの執務室に赴いていた。モルガンは既に祭司服に着替え、朝の礼拝の準備を行っていた。
礼拝の準備を手伝いながら、朝の礼拝に聖堂の扉を開ける時間や掃除の手順など、細かなことの説明を受けた。
「おおそうだ、朝の礼拝が終わり次第、町に買い出しに出掛けてほしい」
「買い出しですか?」
「この町の人々はちょっとばかり人見知りの気があるのだよ。ここで僧侶をする以上は、君にも早く町に溶け込んでもらわねばならん」
要は買い出しという名の挨拶回りといったところなのだろう。
「お心遣い感謝致します。早く皆様に認めていただけるよう、精進します」
朝の礼拝が終わり、簡単に聖堂の掃除を済ませた後、シーギスは町へと出掛けた。モルガンに渡された町の地図と買い出し用品が書かれた紙を持ち、散策がてらに町の中を巡っていた。
「こんな時期に僧侶様?」
「ほら、テッド様が陶冶の旅に出なすったから」
町の人々はシーギスを見ると、ひそひそと会話を始めた。首都から遠く離れたトララは、例え聖職者であっても他所からの人間の流入を嫌っているようだった。
シーギスにも会話の内容は届いていたが、聞こえないふりをすることにした。
「でも、いくらなんでも若すぎじゃ」
「都会の人ってだけで怖いわ」
「所詮は都会の僧侶様じゃ。ここでのお勤めはそう長くならんじゃろう」
新しい世界の情勢が届きにくい場所である。自分達の生活が物や人の流入によって変化することに怯えているのであろう。
ましてや国教のお膝元である首都ルーベスから来た僧侶である。警戒するのも止むを得ない部分があった。
シーギスは買い出しから戻ると、昼食後に聖堂前の掃除を始めた。そして聖堂に訪れる人、行き交う町の人に、丁寧に挨拶を繰り返した。
「これからお出掛けですか? 寒いですから、どうか気をつけて」
「あ、あらそう。ありがとうね」
顔を逸らして足早に通り抜けようとする人に対しても常ににこやかに対応するシーギスの姿は、少しずつ町の人々の警戒を解いていった。
「シーギスさまー、あそんでー!」
「あと少しでお掃除が終わりますから、少し待って下さいね。今日は何をしましょうか?」
シーギスは聖堂に訪れる子供達にも優しかった。祭司に相談事に来た家族の子供を外で遊ばせ、親が十二分に相談できるよう手配したことが始まりだった。
町の周囲に現れる魔物を倒すために若い男達が出払っているため、シーギスは町の子供達にとって身近なお兄さん役となっていた。
「テッド様もとてもいい方だったけど、シーギス様も若いのに素晴らしい僧侶様だわ」
「祭司様の代わりもよくお勤めになられていらっしゃる。ありがてぇこった」
一年もしないうちに、シーギスの評判は当初とは真逆のものになっていた。
職務にも慣れ、町の人々からの信頼も獲得しつつあったある時、その日の勤めを終えたシーギスは祭司に呼び出されていた。
「祭司様、お話とは何でしょうか?」
執務室はランプの明かりで薄暗く照らされていた。
「ああ、来たか。まぁそう身構えるな、ここに座って楽にしなさい」
シーギスは言われるがままに指定された椅子に腰掛けた。対面にはモルガンが座した。
「君は本当によくやってくれている」
「いえ、力不足の私を支えてくださる祭司様や町の方々のお陰です」
「謙遜するな。こう見えても私には人を見る目がある。そこで、君にはもっと高度な陶冶を積んでもらおうと思ってな」
「高度な陶冶、ですか?」
シーギスは鸚鵡返しに疑問を述べた。モルガンは祭司としてシーギスの陶冶を見守る義務がある。だが、シーギスに課されている陶冶はまだ完遂の目処が立っているものではない。
「君は命の神の真の姿を知っているかね?」
「神に形はない。教義にはそうございますが……」
「教義に書かれていることが全てではない。あれは超常的な力を手に入れたある者が作り上げたに過ぎぬ。我々はその者のことを首領と呼んでおるがな」
そう言うと、モルガンは何も使わずに一冊の本を手元に呼び寄せた。ふわりと浮く本は勝手にページを捲り、命の神の肖像が描かれているページを開くと、一瞬で燃え上がった。
「凄い! どうやったらこんな力を?」
「上位の組織から手に入れた力だ。命の神に仕える祭司であれば、皆これと同じ力を秘めている」
「そんなことができるのですか? 私のような者でも、素晴らしい力が……」
「無論だ。君が力を手に入れたら、私の片腕になってもらおうと思っている」
「祭司様の片腕に……、祭司様は善き世界のために何をされるおつもりですか?」
「シーギス、君はまだまだ青いな。ともあれ、まずは目障りな首領の息の根を止めることが最初だ。死に掛けているとはいえ、あれが君臨している以上、我々の望みが叶うことはない」
「神に背けと仰るのですか?」
「首領はもはや物言わぬ飾りだ。私が手に入れた力は首領すら凌駕している。奴が何百年と眠りについている間にも、私は研鑽を重ねている」
「……それで、祭司様が偉大な首領となられた後はどうなさるつもりで?」
モルガンはシーギスに煽てられるまま、饒舌に話を続けた。
「私が首領になった暁には、この力の全てを使って地上の王となるのよ。手始めに目障りなグランデレニア帝國を潰して、あの広大な土地を手に入れるのさ。そして帝國の軍事力をもって地上を平定し、理想の世を作り上げる」
モルガンは気分が高揚したのか、立ち上がってシーギスの周りを歩き始めた。
「地上の財宝も全て私のものだ。財がなければ何もできんからな。どうだね、私と共に来れば財も権力も分け与えてやろう」
モルガンはシーギスに問うた。有無を言わせない迫力と、常人から見れば魅力的な褒美を提示していた。
「ふ、ふふ……ははははははは!」
しばしの沈黙を破ったのは、シーギスの笑い声だった。
「何だね! 何がそんなにおかしいのかね」
「王だ財だと、何とも矮小な望みよな。世俗の欲ごときで神となろうとは、随分と滑稽な話だ」
シーギスの表情には人のよさそうな好青年の面影はなかった。
「私を愚弄する気か!」
「愚弄などしていない。ただ哀れだと思うただけよ」
モルガンはシーギスに向けて先程の燃え上がる本を放った。シーギスはそれを避けもせず、指先一つで受け止めてみせた。
シーギスの指先に羽を象った紋章が浮かぶ。
「お、お前……!」
「隠匿したとはいえ、吾の気配にすら気付かぬとは。モルガンよ、相当に耄碌したようだな」
「ば、莫迦な、お前はもはや死を待つだけのミイラではなかったのか!!」
モルガンの顔は青を通りこして白くなっており、完全に血の気が引いていた。
シーギスはその様子を見て更に笑うと、紋章が浮かんだ指をモルガンに突きつけた。
「謀反なぞ考えずに吾がお前に呉れてやったもので満ちたりておれば、今までどおり栄華を堪能できたであろうに」
モルガンの身体が宙に浮かぶと、音を立てて捻られ、圧縮されていく。
「や……め……」
「吾は謀反人を許す程の大きな器は持ち合わせておらぬ」
シーギスは一言、絶望の色に染まるモルガンに言い放った。同時にモルガンの身体は捻れた紙屑のように潰れた。
モルガンだったものはそのまま青白い炎に包まれ、跡形もなく消え去った。
夜が明ける。シーギスはモルガンが留守であることと、自身も首都の招集に赴かなければならなくなったことを告げ、トララの町を去った。
もとより留守がちだったモルガンのことを気に留める住民はおらず、揉め事なく町を去ることができた。
「ご帰還、お待ちしておりました。ギュスターヴ様」
首都ルーベス。国の中心である聖ダリウス大聖堂の最深部で、シーギス、いや、ギュスターヴは側近のユーリカとクロヴィスに迎えられた。
「中々に面白いものを見る事ができた。この姿も悪くないな」
「それはようございました」
「あの化け物はどうした?」
「捨て置きました。再生能力が確認できない値に落ち込んでいるため、もはや助かる道理はございません」
抑揚なく答えるユーリカの言葉にやや気に掛かるものを感じたが、ギュスターヴはそれを気のせいと断じた。
「……まあよい。これで謀反人は全て始末した。クロヴィス、配下を集めよ。吾の復活を知らしめるぞ」
「御意。偉大なる首領の仰せのままに」
ギュスターヴの姿が揺らめく。一瞬の間を置いた後、ギュスターヴは眼光鋭い老人の姿となっていた。
「—了—」
- R1阿貝爾譯為巴斯提達。 ↩