R1 阿貝爾(含日版)

3395年 「鬼神」

坐在馬車操縱臺上的男子再度轉頭看向車子的後方。

從剛才就緊盯著商隊並保持一定距離的魔獸們,終究還是一起襲擊過來了。

雖然拼死的提升機械馬的速度,但雙方的距離還是漸漸的在縮短。看來包含自己在內的所有人要變作荒野的無名屍骨也不過是時間上的問題了。

搖搖頭揮去不好的想像後,男子將目光回到尋找一線逃命生機的馬車路線上。

然後一個令人移不開視線的青年就這樣闖入了他的視線,他有著一頭輝映在藍色蒼穹下的金黃色頭髮,有著一雙比青空還要清澈閃耀天藍色的雙眼,與這樣清秀面容搭襯的肉體卻是久經鍛鍊,乍看之下十分不搭,卻又像是那些古代雕像一樣保持著絕妙的平衡。

「那邊的那個你,危險啊!魔獸就要追過來啦!」

縱然操縱馬車的男子盡力大叫著,但被喀啦喀啦的吵雜車輪聲蓋過,聲音當然不可能傳達給過去。

但是,青年卻確實對那句話點了頭。

隨著沉重的聲音,他拔出了腰上劍鞘裡的劍,隨後直接朝著正面朝他疾駛過來的馬車衝過去。

事後操縱馬車的那個男子回想起當時的情況,毫不猶豫的說他當時真的以為那個青年腦袋有問題。

青年以全速從操縱臺的正前方跳到疾駛過來的馬車上,就這樣一路順勢衝過貨架的屋頂,跳進了後方的魔獸群中。那真的只是一瞬間發生的事,快得讓操縱馬車的男子沒辦法在當下立刻理解到底發生了什麼。唯一明白的就是這絕對不是普通人會有的運動神經。

他慌張的看向馬車後方,發現那個古怪青年正隻身在跟成群的魔獸戰鬥。而且在他腳邊,能夠判別的就有五具屍體了。

「在那一瞬間就打倒這麼多了嗎……」

一邊看著離他越來越遠的“戰場”,一個計畫也逐漸在腦中成型。

阿貝爾先是利用從馬車屋頂跳下時的重力加速度,將所看到第一隻魔獸砍倒,並順勢將迴轉的力量傳到劍上,將周遭的魔獸群砍飛了2,3隻。緊接著將迴轉完的劍順勢維持在上段的姿勢,砸向隨即襲擊而來的魔獸的頭蓋骨上。那微乎其微的腦漿即之飛散,讓其他魔獸一瞬間感到了害怕。

那魔獸像是蜥蜴與狼的混合魔獸,基本上雖然是肉食性,但只會襲擊小型的魔獸跟小動物,應該很少會襲擊商隊的馬車才是。但由於渦洞1《Profound》的消失導致這世界的魔獸數量減少,才會因食物不足而襲擊商隊吧。

「你們也跟我一樣啊」

來自平行世界被侵蝕的混沌怪物──雖然是意識無法相通的對手,但阿貝爾卻感到了些許的親近感。

「但是!」

不顧阿貝爾的感慨,重整態勢的獸群再次襲擊而來。不知是不是生活在不毛荒野下的本能,魔獸們分成左右兩方同時跳向阿貝爾。

──右邊的稍微比較快!

阿貝爾敏感的五感,看穿了一般人絕不可能感覺到的些微誤差。迴轉身體閃過右邊魔獸的攻擊,並順著迴轉的力量將2隻魔獸一刀兩斷。

不自覺的笑了出來,腦內分泌了類似麻藥的成份讓情緒整個高揚了起來,視野染成了一片純白,此時此刻此地只存在著「自己」跟「敵人」。

荒野化作戰場,青年化成了鬼神。

「這還真是大幹了一場啊!」

阿貝爾聽到那聲音時恢復了自我。

尋向聲音來源,只見那個騎著機械馬的男子站在附近。若是再多靠近一些的話,大概就會被阿貝爾反射性的攻擊了。

環顧四周,到處散亂著魔獸的屍體,阿貝爾提高警覺,確認附近還有沒有些微的呼吸聲或低吼聲。遍地屍體的荒野中,充滿著鮮血的腥味。

「有什麼事嗎?」

聽到阿貝爾這樣問,男子一瞬間傻眼了一下,不過馬上就笑了起來。

「阿哈哈。你老兄還真是有趣。我是來雇用你的啦!」

「雇用?」

「是的。能一次打倒這麼多魔獸的高手並不多見呢。務必請你來當我們商隊的護衛。雖然不能馬上給你報酬,但在到達米利加迪亞之後一定會馬上支付的!」

說到米利加迪亞王國就是那個大君《Overlord》巴斯提達所統治的宗教國家。距離那麼遠的國家的商隊,為什麼會在尹貝羅達附近的荒野出現?不發一語的阿貝爾默默思考著這問題。男子彷彿發現阿貝爾心中的疑惑,主動開口說道。

「你看嘛,最近米利加迪亞不是跟尹貝羅達結成同盟了嗎?因此才有了這條新的商貿路線。這次還是值得紀念的第一次遠征的歸程呢。就在差點要被那些魔獸襲擊的時候,老兄就剛好出現了。還真是令人著迷的戰鬥方式啊!」

「……阿諛就免了」

阿貝爾知道男子根本沒有看到戰鬥的經過。這樣說只是想藉此讓他接受護衛的工作,但對阿貝爾來說只會有反效果而已。

「哎呀,抱歉抱歉。太習慣用這種商人做買賣的方式了。那麼如何?可以接受嗎?最少會提供路途中飽腹的食物」

這麼說來食物還真的沒什麼準備。雖然具備荒野生物哪些能吃,哪些不能吃的知識,雖然有考慮過萬一的時候就“打獵”,但既然是有提供三餐的商隊……跟著去也無妨吧?

「明白了。我接受」

「就是要這樣!來,騎上馬吧。來去跟本隊會合」

就在要騎上男子所操縱的機械馬後方時,阿貝爾像是想起什麼似的問道。

「要是我襲擊你們的商隊的話,你會怎麼辦?」

「喔,那是不會發生的啦!」

男子奸奸的笑著。

「你是不會幹強盜這檔事的。感覺得出來你只是個稍微有點離譜的戰鬥狂」

「……」

阿貝爾稍微有點驚訝。看來這男子的觀察眼光還挺敏銳的。這樣一來,剛才站在安全距離才出聲叫我也是在計算之內的了吧。

「真敗給你了。只能說真不愧是走私者」

阿貝爾的臉上露出與戰鬥時不同的笑容。

與米利加迪亞的商隊相遇後過了數日。旅途還算是順利,雖然有幾次魔獸的襲擊,但在阿貝爾活躍表現下都沒出現什麼太大的損失。

對他來說唯一的不滿,就是白天的馬車真的很不好睡這點而已。對於往來於荒野中的交易商人,走私者們來說應該都習慣了,但對於在野營時負責守衛的阿貝爾來說,在交易用馬車上狹小的貨架上睡覺實在算不上舒適。

也因此。

睡不安穩的阿貝爾正陷入最不願想起的,過去的惡夢之中──。

「怎麼了?給他最後一擊啊!」

充血的雙眼緊盯著阿貝爾。那是雙不斷追求強大的瘋狂之眼。

氣息絲毫不亂的阿貝爾放下手中的劍。

「我的勝利已經很明顯了,而且尼可拉斯只要再繼續鍛鍊的話,是會成為強大的劍士的」

「阿貝爾啊,人有可以得到的東西跟得不到的東西。同時,人也無法選擇。就算有所選擇,也只是單純認為有選擇了而已……」

儀式用鎧甲的馬刺發出聲響,父親──歐茲華爾德·道恩贊多靠了過來。

比賽前,歐茲華爾德說這是一場正式的戰鬥。其實是想要暗說這是決定魯比歐那連合王國皇家馮迪拉多的劍術指導者正式繼承人的比賽吧。

「劍士是什麼?強大又是什麼?」

歐茲華爾德將阿貝爾收鞘的劍再次拔出,硬是讓他握在了手中。

「沒有選擇的獲得,這就是強大!」

「父,父親大人……!?」

阿貝爾對已經倒下的尼可拉斯揮下了劍,不,應該說是被揮下。

「嗚啊!?」

刺下的劍讓大量的鮮血從厚重的皮鎧縫隙中噴出。是不論誰都能看出的致命傷。

「請,請住手啊父親大人!尼可拉斯,弟弟會死的啊!」

「正是如此!尼可拉斯沒能得到!弱者就只有死亡的命運!阿貝爾!你才是真正的劍士!!」

阿貝爾握著劍的手感覺得到弟弟的生命之火正在消逝,但他的那隻手正被父親的指掌強壓著無法脫逃。弟弟稍微痙攣了幾下之後就一動也不動了。

「住,住手啊啊啊啊啊啊啊啊啊啊啊啊!」

這一瞬間,出現了意想不到的力量。揮開父親強壓著的手,一瞬間貼上前去並揮下了劍。這就算是熟練者都不太能閃過的必殺一擊,身為王國頂尖劍士的歐茲華爾德以些微的差距躲開。

「哈哈哈,好啊阿貝爾。又變得更強了啊。這才是劍士。這樣才適合繼承我的衣缽!」

「嗚哇啊啊啊啊啊啊啊啊啊啊啊啊!」

阿貝爾已經聽不見父親的聲音了。

殺了這男人──

滿腦子都只想著這個而不斷的揮舞著劍。染成一片純白的黑暗中,只看得到穿著銀鎧的“敵人”。

也不知道是經過了多久。

幾分鐘嗎?還是幾十分鐘?搞不好已經戰鬥了數個小時了也說不一定。阿貝爾已經處於用劍支撐著身體站著都很勉強的狀態了。不論是手腕還是腳,全身到處都是傷痕累累,甚至有些部分都還在出血。眼前有著一灘血跡。倒臥其中的是父親。

旁邊還有著弟弟的亡骸。

啊…是我殺掉的啊。阿貝爾以麻痺恍惚的大腦這樣想著。

慢慢的,阿貝爾清醒了過來。

一如往常的堅硬且激烈晃動的馬車貨架,讓意識很快的就清醒過來。也因此夢的內容也沒消散,異常清晰的留在了記憶裡。

「怎麼了嗎,難得聽你發出呻吟喔?」

邀請他加入商隊的男子──似乎是這個商隊的領隊的樣子──對他問道。

「是啊,是最差的夢了」

阿貝爾從狹窄的貨架裡跳入荒野中。

「喂,喂!」

「是工作」

簡短的說完,阿貝爾朝向商隊的後方舉起劍。魔獸群也已經追到眼前了。



「─完─」

日文版
3395年 「鬼神」

御者台の男は改めて馬車の背後を見やった。

先程から一定の距離を置いて隊商を付け狙っていた魔獣達が、ついに一斉に襲いかかってきたのだ。

必死に機械馬の速度を上げるが、その距離は徐々に縮まりつつあった。自分達が荒野に無残な骸を晒すのも時間の問題かと思えた。

頭を振っていやな想像を打ち消すと、男は逃げ延びる道を探すために馬車の進行方向に目を向けた。

そこに、青年が立っていた。青い空に映える黄金の髪。そしてその青空よりも澄んだ輝きを放つスカイブルーの瞳。そんな顔立ちとは一見釣り合わない鍛え上げられた肉体はしかし、古代の彫刻を彷彿とさせる絶妙なバランスを保っていた。

「あんた、危ないよ!魔獣が襲ってきてるんだ」

ガラガラと響く車輪の音に掻き消され、御者台の男の声など届く筈がなかった。

だが、青年はその言葉に確かに頷いた。

ガチャリと重い音をさせて腰の鞘から剣を引き抜くと、迫る馬車に正面から突っ込んできた。

気でも狂っているのか。御者台の男はこの時のことをそう振り返った。

青年は全速力で迫る馬車の御者台に正面から飛び乗ったのだ。彼はそのまま荷台の屋根を渡り、背後の魔獣の群れに飛び込んでいった。まさに一瞬の出来事で、男は何が起こったのかすぐには理解できずにいた。並の運動神経ではない。

男が慌てて馬車の後方を見やると、男は群れをなす魔獣を相手にひとりで戦っていた。すでにその足下には、判別できるだけで五体の屍骸が転がっていた。

「あの一瞬であんなに倒しやがったのか……」

どんどん小さく離れてゆく“戦場”を見て、男はあるプランを思いついていた。

アベルは馬車の屋根から飛び降りた加速度を利用して、目に付いた魔獣を一体薙ぎ倒した。そのまま速度を回転の力に換えて剣に乗せ、周囲に群がる魔獣を二、三体吹き飛ばす。さらに振り抜いた剣をそのまま上段に構え、襲い掛かってこようとした魔獣の頭蓋を叩き割った。僅かばかりの脳漿が飛び散り、他の魔獣が一瞬だけ怯んだ。

トカゲとオオカミを足して二で割ったような魔獣だった。肉食ではあったが、小型の魔獣や小動物を襲うことはあっても、隊商の馬車を襲うことなど滅多にない筈だった。だが、渦《プロフォンド》の消え去ったこの世界では魔獣の数も減り、食う物に困ったのだろう。

「お前らも、俺と同じか」

並行世界から侵食された混沌の化け物——意思の疎通など図りようもない相手に、アベルは親近感を抱いた。

「だが!」

アベルの感慨などお構いなしに、態勢を立て直した獣の群れが襲い掛かる。不毛の荒野で生き抜いてきた本能がそうさせたのか、魔獣達は左右から同時にアベルに飛びかかった。
——右の方が僅かに速い!

研ぎ澄まされたアベルの五感は、常人が決して感じ取ることのできない僅かな差を見抜いた。身体を捻って右の魔獣の攻撃をかわし、その回転を利用して二体の魔獣を一刀両断する。

思わず笑みがこぼれる。脳内に麻薬のような成分が溢れて気分が高揚する。視界が白く染まり、そこにあるのは「己」と「敵」のみとなった。

荒野は戦場と化し、青年は鬼神と化していた。

「こりゃまた派手にやったモンだな!」

アベルはその声で我に返った。

声のした方を見ると、機械馬に乗った男が近付いてきていた。もう少し近くまで来ていたら、反射的に攻撃してしまうところだっただろう。

辺りには魔獣の屍骸が散乱していた。アベルは感覚を澄ませ、微かな呼吸音も唸り声も無いことを確認した。全てが死に絶えた荒野に血臭が立ち込めていた。

「何の用だ?」

アベルが訊ねると、機械馬の男は一瞬ポカンと口を開け、刹那のあとに笑い出した。

「うはは。兄さん、面白いこと言うね。俺はあんたを雇いに来たんだよ」

「雇う?」

「そうさ。それだけの魔獣を相手にできる手練は滅多にいねぇ。ぜひ俺達の隊商の護衛を引き受けてもらえねぇか?報酬はすぐには出せねぇが、ミリガディアに着いたらちゃんと支払うぜ」

ミリガディア王国と言えば、大君《オーバーロード》バステタの治める宗教国家である。そんな遠方の国の隊商が、なぜインペローダに程近いこんな土地にいるのか。アベルが考え込んでいると、男がそれを察したように言った。

「ほら、こないだミリガディアがインペローダと同盟を結んだだろう?おかげで新たな商売のルートができてな。今回は記念すべき初遠征の帰りってワケなんだよ。危うく魔獣のヤツらに襲われそうだったところに、兄さんが現れたってコトさ。いやぁ惚れ惚れするほどの戦いっぷりだったねぇ!」

「……世辞はいい」

男が戦いを見ていないのはわかっていた。おだてて護衛を引き受けさせようとしているのだろうが、アベルにはそういった言葉は逆効果だった。

「っと、すまねぇすまねぇ。商売柄つい口のほうが先に回っちまうもんでね。で、どうだい?引き受けてくれねぇか。少なくとも道中の食事は腹いっぱい食わせてやれるぜ」

そういえば食料が心許なかった。いざとなったら“狩り”でもするつもりでいたが、食事が提供されるのなら、この隊商について行くのもいいだろう。

「わかった。引き受けよう」

「そうこなくっちゃ!さ、乗ってくんな。本隊に合流するからよ」

男の操る機械馬の後ろに乗ろうと足を掛けたところで、アベルは思い出したように口を開いた。
「もし、俺があんた達の隊商を襲ったらどうするんだ?」

「いや、それはねぇな」

男はにやりと笑う。

「あんたは強盗はしねぇよ。ただ、ちいっとばかし戦闘狂のケがあるがな」

「……」

アベルは少しだけ驚いていた。どうやらこの男の観察眼はなかなかに鋭いようだ。となると、先程ギリギリの距離で声を掛けてきたのも計算の内なのだろう。

「参ったな。さすがはスマグラーといったところか」

アベルの顔に戦いの時とは異なる笑みが広がった。

 

アベルがミリガディアの隊商と出会って数日が過ぎていた。旅は概ね順調で、何度か魔獣の襲撃があったものの、アベルの活躍によって大した被害もなく退けられていた。

彼にとって唯一の不満といえば、昼間の馬車の寝心地の悪さだ。道なき道を往く荒野の交易商人、スマグラー達は慣れているのかもしれないが、乗り慣れない交易用馬車の狭い荷台は、野営の見張りをこなすアベルにとって快適なベッドとは言えなかった。

だからだろうか。

アベルは思い出したくもない過去の悪夢の中にいた——。

「どうした。トドメを刺せ!」

血走った眼がアベルを見据えていた。強さを求める狂気の眼だった。

アベルは息ひとつ乱さずに、構えていた剣を下ろした。

「俺の勝利は明らかです。それに、ニコラスはまだまだこの先鍛えれば強い剣士になります」
「アベルよ、人には得られるものと得られないものがある。そして同時に、人は選ぶことができない。たとえ選んだとしても、それは選んだと思い込んでいるに過ぎない」

儀礼用の鎧の拍車を鳴らし、父——オズワルド・タウンゼンドが近づいてくる。

試合前、オズワルドは、これは正式な戦いだと言った。それは暗に、ルビオナ連合王国公家フォンデラート家の剣術指南役の正当な後継者を決める試合である、と言いたかったのだろう。
「剣士とはなんだ?強さとはなんだ?」

オズワルドは、アベルが鞘に納めかけた剣を再び引き抜き、ムリヤリその手に握らせた。

「選ばずに得る、それこそが強さ!」

「ち、父上……!?」

アベルは倒れ伏したニコラスに剣を振り下ろす。いや、振り下ろさせられた。

「ぐぁっ!?」

突き刺さった剣と厚手の革鎧の隙間から勢いよく鮮血が吹き上がった。誰の目にも致命傷なのは明らかだった。

「や、やめてください父上!ニコラスが、弟が死んでしまいます!」

「その通り!ニコラスは得られなかった!弱き者は死す定め!アベル!お前こそが剣士となるのだ!!」

剣を握った手に弟の命の灯火が消え逝くのが感じられる。だが、その手は父の手によって押さえつけられ、逃れることができない。僅かに痙攣していた弟の身体が動かなくなった。

「やめ、やめてくれえええええええええっ!」

その瞬間、思いもよらない力が出た。押さえつけていた父の手を振りほどき、一瞬の踏み込みで剣を振り下ろす。熟練者でもまずかわせないであろうその必殺の一撃を、王国随一の剣士であるオズワルドは紙一重で避けてみせた。

「ははは、いいぞアベル。一段と強くなった。それでこそ剣士。私の跡を継ぐに相応しい!」

「うわあああああああああああああああ!」

アベルには、もう父の声は聞こえていなかった。

この男を殺す——。

ただそのことだけを考えて剣を振るった。白く染まった闇の中で、銀の鎧を着た“敵”だけを見ていた。

どのくらいの時間が経過しただろう。

数分か、それとも数十分か。もしかしたら数時間戦っていたのかもしれない。もはやアベルは剣を支えに立っているのがやっとという状態だった。腕といい脚といい、その身体はどこも傷だらけで、いまだ出血の止まらぬ箇所すらあった。

目の前には血溜まりができていた。その中に倒れているのは父だった。

傍らには弟の亡骸があった。

ああ、俺が殺したのか。と、アベルは麻痺した頭でぼんやりと考えていた。

 

ゆっくりと、アベルは目を覚ました。

相変わらずガタゴトと派手に振動する馬車の荷台は、すぐに意識を覚醒させてくれた。おかげで夢の内容が霧散せず、ハッキリと記憶に残ってしまっていた。

「どうした、珍しくうなされてたぜ?」

彼を隊商に誘った男——このキャラバンのリーダーだそうだ——が声を掛けてきた。

「ああ、最悪だ」

アベルは狭い荷台から出て、荒野に飛び降りる。

「お、おい!」

「仕事だ」

短くそう言い放つと、アベルは隊商の後方に向かって剣を構えた。魔獣の群れがすぐそこまで迫っていた。

「—了—」

  1. 除了R1阿貝爾外,均譯為渦。