R5 艾妲(含新日版)

3399年 「瘴氣之穴」

交易都市普羅維登斯因帝國軍的巨大戰艦武裝船而淪陷,並有死者軍隊接踵而來。魯比歐那王國軍雖然馬上出兵想要奪回普羅維登斯,但作戰卻失敗了。

結果只讓死者軍隊增加了人數。



女王亞歷山德莉安娜緊急召見了艾妲。

「我有一件事一定得要告訴妳」

「請問發生了什麼事?」

「艾妲,妳冷靜地聽我說。佛羅倫斯·布拉福特被捲入了恐佈攻擊事件。雖然目前生死不明,但從信上的內容看來,恐怕……」

亞歷山德莉安娜用著平靜但壓抑住悲傷的表情說著。

「……佛羅倫斯,嗎?」

之前從伊姆斯的報告裡聽說,佛羅倫斯在魯卡大公的帶領下走向新的道路。離那個報告還不到一個月的時間。艾妲感受到就像是頭被毆打般的衝擊。

「請問,可以告訴我詳細內容嗎?」

「那當然。帕托,把信拿來」

亞歷山德莉安娜把從梅爾茲堡緊急送來的信件給艾妲看。

這是一個本來即將為了打退死者軍隊就要團結起來的協議會,卻遭遇到的悲劇。信上寫著,佛羅倫斯為了保護參加協議會的魯卡及各國代表,賭上自己的性命阻止了恐佈組織。

「看來佛羅倫斯貫徹了自己的想法……」

在短暫的沈默之後,艾妲的腦海浮現出那有著如鋼鐵般意志的戰友臉龐,才總算說出了這一句話。

佛羅倫斯抱持著希望連合國和平,守護國與國之間友好關係的信念。不管最後結果如何,都不能否定她的決定。

「我也這麼認為。而且,她賭上性命保護的這個連合國,我無論如何都會從帝國手中保護住的」

亞歷山德莉安娜擦拭了眼角後,表情一變。面對看起來下定決心的女王,艾妲也自然地重新擺出端正姿勢。

「陛下……」

「只要調整一結束,我就會將軍隊的統帥權交給魯卡大公。連合國的執政上也將會有所變化」

現在魯比歐那連合國內最具有軍事手腕經驗的人物,就是梅爾茲堡國的魯卡大公。但是至今為止,一直將他國的王位繼承者從連合國的政治中排除在外。在這樣歷史中,讓魯卡大公進入政治中樞,也就代表連合國組織方式都得改變。

但是,已經沒有時間可以猶豫不決了,這點艾妲也親身體認過了。

「……您做了,相當艱難的決定」

「不,是我該要下決策的時候了。如果考量到至今為止發生的事,甚至可以說我下的太遲了」

坐在那裡,已經不是過去那位只是被拱上座的孩子了,而是一位撐起魯比歐那連合國這個大國的女王之姿。



一過了年,馬上就發表要將統帥權讓渡魯卡大公一事。同時,決定要實施解放普羅維登斯的大規模作戰。

奧羅爾隊原先是為了應付國內緊急狀況而編制的,但為了因應增強作戰力的需求,只留下了王宮警護衛的γ中隊1,其他皆被派兵出去。



普羅維登斯已化為惡夢的都市。因不尋常的原因,讓活人一個個變成了死者軍隊。

雖然艾妲已經事先做了這裡狀況會比托雷依德永久要塞還要悲慘的覺悟。但是現場狀況卻遠遠超過想像的淒慘,讓她光要隱瞞自己的悲傷與嫌惡感就已經費盡全力了。

儘管如此,如果現在不將死者軍隊完全殲滅於此的話,別說連合國了,全人類都會被毀滅吧。包含艾妲在內的普羅維登斯解放部隊全員都有這樣的想法。



裝甲獵兵的槍彈橫掃死者軍隊,等死者軍隊都停下不動時就用步兵的的火焰放射器將他們完全燃燒殆盡,確保後續部隊的侵入路徑。

艾妲看到了數名士兵衝入了武裝船的內部。如果可以壓制武裝船並找出阻止死者軍隊形成的原因,就可以看見戰勝的機會。

或許是為了守護武裝船,死者的軍隊改變行進方向,想進入武裝船內部。奧羅爾隊與步兵立刻將之排除。

正覺得差不多該補給的時候,武裝船的周圍已經差不多完全壓制完成了。

「有什麼要出來了!」

「等等,先別開槍!也許是剛剛衝入的士兵也不一定!」

從武裝船出來的是皇家馮迪拉多出身的士兵阿妮絲。

由於她是自願前往最前線部隊,一位有勇氣的女性士兵,因此讓艾妲留下了深刻的印象。

雖然阿妮絲也受了傷,但扶著一位傷勢更嚴重的男子。

「A分隊,快去救援!」

艾妲叫著。沒多久阿妮絲與那男子被救援送往設在城壁附近的兵站。艾妲們也跟著阿妮絲他們,為了補給回到了兵站。

在兵站,看見為了迅速發出指示前線而來的魯卡。



阿妮絲扶著的男子自稱叫泰瑞爾,說自己是導都潘德莫尼的工程師。而且,是製造控制武裝船機械的負責人,也說明是為了阻止這次暴走原因而來的。

士兵們開始騷動了起來,也有人說要馬上殺掉泰瑞爾。就連艾妲也怒氣沖天。但是,眼前的這個人是唯一知道阻止死者軍隊方法的人物。艾妲壓抑自己的情緒,與魯卡一同制止了要攻擊泰瑞爾的士兵。

在士兵們稍微留些距離監視保護之下,魯卡向阿妮絲與泰瑞爾詢問發生了什麼事。

「大公,容我冒味地向您報告。我與史普拉多在發現這個男子的時候,馬上就受到了阿修羅特使的襲擊」

「阿修羅!?竟然有這種事……。會不會是有什麼誤會?」

魯卡一副不可置信的表情看著阿妮絲。

聽說阿修羅是對魯卡宣誓忠誠的忠義之人,主人魯卡的態度也能感覺到對阿修羅的信賴。

「她說的都是真的,你可以聽完這個錄音之後再判斷」

泰瑞爾拿出為了交給導都的記錄裝置並開始播放。

突然響起了尖銳的打擊聲,接著聽到的是泰瑞爾含糊不清的痛苦呻吟。

『說。控制貝琳達這女人的方法是什麼』

『變成那個樣子,就沒有方法可以控制貝琳達了。就算有辦法可以控制她,你打算做什麼?』

『我要取得那個力量,就這樣而已』

『她已經化為死亡了……。那不是一般人可以控制的東西』

『我沒問你那種事。快說,要怎麼得到那個能力』

聽到沒有情緒起伏像是阿修羅說話口吻的那個聲音,艾妲微微地感到一陣寒意。

「阿修羅他……,不敢相信。但是這個……」

魯卡一開始雖然有點動搖,但是確認聲音的主人是阿修羅後,便改變了態度。

向阿妮絲謝罪之後,魯卡轉向泰瑞爾。

「你說你叫泰瑞爾是吧?我想問你有辦法阻止那恐怖的死者軍隊嗎?」

泰瑞爾露出像是稍微考慮的表情後,點了一下頭。

「嗯,理論上是可以的。但是,你們知道了方法之後,打算做什麼?和那個男人一樣想得到貝琳達的力量嗎?」

對於泰瑞爾的說法,周圍的士兵們發出了像是吼叫的聲音。那不成言語的憎恨與憤怒,向著泰瑞爾怒吼。

「我們無論如何都得防止我們的國家滅亡。雖然我不想做出粗暴的舉動,但我們沒有時間選擇手段了。如果你不說的話,我們會採取該有的對策」

魯卡露出壓迫的表情,那個是一股可不是白白活到這個歲數的淒厲壓迫感。

「……知道了,我來說明吧」

泰瑞爾拿出了小型裝置,顯示出武裝船內部構造冷靜地說明起來。

製造出死者軍隊的力量,本來是貝琳達這個壓制裝置所擁有的機能,但是不知道什麼原因讓她暴走而無法控制。

貝琳達失控的結果,讓武裝船已經成為連結這個世界與另一個世界──製造出死者軍隊,充滿瘴氣的世界──,被我們稱為結節點的存在了。

「為什麼會演變成現在這個局面?」

「我們就是來調查這件事並找出塞住結節點的方法。沒想到會受到意外的干涉。因此只好中斷了調查」

「阿修羅嗎……」

「嗯,那個男人看來非常執著於貝琳達的能力,他到底是什麼人?」

「不,現在不是為阿修羅一事煩惱的時候。然後呢,要怎麼防止瘴氣?」

泰瑞爾操作裝置,指出武裝船內部的一個地點。

「將這裡作為武裝船動力來源的混沌元素電池炸毀。然後混沌元素的能量振動就會暴走,我們要利用這一點」

泰瑞爾持續說著。

「能量振動暴走後,就可以將周圍的空間,也就是武裝船的結節點震飛。現在只有這個方法了」

「那麼就讓裝甲獵兵從空中狙擊動力爐比較安全」

「不,萬一瞄不準的話,結節點可能會擴散。那麼就失去塞住結節點的方法了,會演變成光是接近武裝船就會化為死者的局面」

「那麼說,只能從內部侵入,設置定時炸彈了……」

「如果要確實地將動力爐破壞掉,只有那個方法了」



艾妲與十幾位士兵穿上近戰裝備,站在武裝船的入口。

他們都是擅長近戰的精英。艾妲將要作為隊長帶領少數精英入侵武裝船,並執行爆破動力爐的任務。

雖然這是稍有差池就會死亡的任務,但已經沒有時間可以選擇其他手段了。

「出發」

在艾妲的號令之下,士兵們衝入武裝船。

武裝船內安靜到令人感到詭異的程度。

照著泰瑞爾給的地圖,慎重地前進。不知道死者會躲在什麼地方,而且阿修羅的去向也不明,所以士兵們更加慎重地前進。



走在前方的士兵傳來發現死者的暗號,艾妲他們為了保護負責搬運定時炸彈的搬運兵而列隊前進。

在艾妲的命令之下馬上燒滅了死者,就在確保周圍安全準備再度出發的時候。

負責在後方警備的士兵,連哀號聲都還沒發出就倒下了。

「發生什麼事了!?」

照亮周圍的燈光捕捉到一個影子,那很明顯就是阿修羅。殺死數名士兵的阿修羅看向搬運兵。

「淨耍些小聰明」

阿修羅似乎查覺了艾妲他們打算要做的事。

士兵們毫不猶豫地馬上向阿修羅開槍。但是阿修羅輕鬆地躲開槍擊,士兵們為了不讓他接近搬運兵,持續開槍。

「拉克蘭大尉!這裡由我們擋住!」

「拜託你們了!」

讓搬運兵先走之後,艾妲也追了上去。

聽到了後方傳來的悲鳴聲,也聽到了叫喊聲。艾妲與搬運兵只能忍痛無視那聲音,一心往動力壓制室去。



從阿修羅及死者手中逃出的艾妲與搬運兵,總算到達了動力壓制室。

「就是這裡嗎……」

確認動力壓制室裡沒有死者之後,就進去並將門關上。

但是如果安裝完定時炸彈就離開的話,有可能會被阿修羅給拆除。那麼作戰就失敗了,而且已經沒有時間猶豫了。

「開始裝炸彈」

「……抱歉」

艾妲跟搬運兵,來到這裡都已經有所覺悟了

搬運兵將定時炸彈安裝在離動力爐最近的地方,但是不啟動定時裝置。搬運兵按照順序將安全裝置給解除。

佛羅倫斯為了魯比歐那連合國賭上了性命,也有多名部下因阿修羅而犧牲了。

既然如此,就算知道會失去性命,也必須根除產生死者軍隊的原因,並將人類從他們的威脅之中拯救出來。

艾妲與搬運兵互相看了看點頭示意後,就按下了定時炸彈的引爆按鈕了。



就在艾妲他們進了武裝船沒多久後。

暫時撤退的魯卡他們聽到了從普羅維登斯傳來的,伴隨著閃光的轟然巨響。

「哦哦……!」

「這下死者他們就……」

在連合國軍確信他們的勝利而歡呼的時候。

只有一個人,泰瑞爾靜靜地凝視著普羅維登斯的方向。



「─完─」

日文版
3399年 「瘴気の穴」

交易都市プロヴィデンスが帝國軍の巨大戦艦ガレオンによって陥落。次いで死者の軍勢で溢れかえった。ルビオナ王国軍はすぐさまプロヴィデンスを奪還すべく出兵したものの、作戦は失敗。

悪戯に死者の軍勢を増やすだけの結果に終わっていた。

 

エイダは女王アレキサンドリアナからの緊急招致を受けていた。

「あなたに伝えなければならないことが起きてしまいました」

アレキサンドリアナは悲痛な表情でエイダに告げる。

「何が起きたのですか?」

「エイダ、落ち着いて聞いてください。フロレンス・ブラフォードがテロに巻き込まれました。生死は不明ですが、書状の内容ではおそらく……」

静かに、だが悲しみを堪える表情でアレキサンドリアナはそう告げた。

「……フロレンス、が?」

フロレンスがリュカ大公の下で新たな道に進んでいることは、イームズから報告を受けていた。その報告を聞いてからひと月も経っていない。頭を殴られるような衝撃がエイダを襲う。

「詳しい内容をお聞かせ願えないでしょうか」

「勿論です。バード、書状を」

メルツバウから緊急で送られてきた書状を、アレキサンドリアナはエイダに公開した。

死者の軍勢という脅威に対して団結しかかった協議会を襲った悲劇。フロレンスは協議会に参加していたリュカや各国の代表を守るため、命を賭してテロを阻止したと記されていた。

「フロレンスは己の意思を貫いたのですね……」

暫くの沈黙の後、エイダは鋼の如き心を持つ戦友の顔を思い浮かべながら、ようやっと言葉を発した。

フロレンスは連合国の平和を願い、国と国の繋がりを守ろうとの信念を持っていた。その結果がどうであったとしても、彼女の決断を否定してはならない。

「私もそう思います。そして、私は彼女が命を賭して守った連合国を、なんとしても帝國から守り抜きたいです」

アレキサンドリアナは目尻を拭うと、表情を一変させた。決意と覚悟を決めた女王の表情に、エイダは自然と威儀を正す。

「陛下……」

「調整ができ次第、リュカ大公に軍の統帥権を譲渡します。これにより、連合国の執政は変化するでしょう」

現在のルビオナ連合国内で最も軍事的手腕に長けた人物、それはメルツバウ国のリュカ大公だ。だが、他国の王位継承権を持つ者は連合国の政治から排除されてきた。その歴史の中でリュカ大公が政治の中枢に入るということは、連合国の様相そのものを変えかねない。

だが、それを迷っているような時間が残されていないことは、エイダも痛感していた。

「……それは、大変な決断をなされました」

「いいえ。私も大儀を果たさねばならぬ時が来たのです。今までのことを考えれば、遅すぎたと言ってもよいでしょう」

そこには、ただ祭り上げられるだけではない、ルビオナ連合国という大国を纏め上げる一人の女王の姿があった。

 

年が変わってすぐ、リュカ大公に統帥権が譲渡されることが発表された。と同時に、プロヴィデンス解放に向けた大規模作戦の展開が決定された。

オーロール隊はルビオナ王国内の有事に備える予定だったが、作戦に投入する戦力増強の求めに応じるため、王宮警護のガンマ中隊を残して派兵に参加することとなった。

 

プロヴィデンスは悪夢の都市と化していた。尋常ならざる要因で、生者が次々と死者の軍勢に変わっていく。

トレイド永久要塞以上の悲惨な状況を覚悟していたが、この事態は想像を遙かに超えていた。エイダは悲しみと嫌悪を隠すだけで精一杯だった。

それでも、ここで死者の軍勢を完全に殲滅しなければ、連合国どころか人類そのものが滅びてしまう。エイダを含めプロヴィデンス解放部隊に参加する者は皆、その思いを共にしていた。

 

装甲猟兵の銃弾が死者の軍勢を薙ぎ払い、動きが止まったところを歩兵の火炎放射器が完全に焼き尽くし、後続部隊の侵入経路を確保する。

数人の兵がガレオンの内部に突入していくのがエイダの視界に映った。ガレオンを制圧して死者の軍勢を作り出している原因を止めることができれば、勝機が見える。

ガレオンを守るためなのか、死者の軍勢がガレオンの内部へと入ろうと動きを変えた。それをオーロール隊や歩兵が排除する。

そろそろ補給が必要かと思った頃、ガレオンの周囲はほぼ完全に制圧が完了していた。

「何か出てくるぞ!」

「待て。撃つな! 突入した兵士かもしれん!」

ガレオンから出てきたのは、アニスというフォンデラート出身の兵士だった。

彼女は最前線の部隊に志願した勇気ある女性兵だったため、エイダにもその印象が強く残っていた。

アニスは自身も怪我を負っていたが、更に重傷の男を抱えていた。

「A分隊、彼女を救護しろ!」

エイダは叫ぶ。程なくしてアニスと男は救助され、城壁付近に設営された兵站へ運ばれた。エイダ達もアニス達を追うように、補給のために兵站へと戻った。

兵站には、前線に迅速に指示を出すためにと、リュカが姿を見せていた。

 

アニスに抱えられていた男はタイレルと名乗り、自らを導都パンデモニウムのエンジニアだと言った。そして、ガレオンを制御する機械の製造責任者であり、今回の暴走の原因を突き止めに来たのだとも話した。

兵士達は騒然となった。タイレルをすぐに殺そうと言い出す者も現れた。エイダでさえも沸き立つ怒りに襲われた。だが、目の前にいるのは死者の軍勢を止めるための手立てを知る唯一の人物である。エイダは自らの気持ちを抑え込み、リュカと共にタイレルに襲い掛かろうとする兵士達を制止した。

兵士達が遠巻きに見守る中、リュカがアニスとタイレルに何があったのかを問い質す。

「大公、僭越ながら申し上げます。私とスプラートはこの男を発見してすぐ、アスラ特使の襲撃を受けました」

「アスラが!? そのようなことが……。何かの間違いではないのか?」

リュカは信じられないという表情でアニスを見やる。

アスラという男はリュカに忠誠を誓う忠義の者であると伝え聞いていた。主であるリュカの態度からも、アスラへの信頼を感じ取れる。

「彼女の言葉は真実です。真偽はこの音声を聞いてから判断を」

タイレルは導都へ提出するためだという記録装置を取り出し、再生する。

いきなり鋭い打撃音が鳴り響き、次いでタイレルのくぐもった呻き声が聞こえてきた。

『吐け。ベリンダという女を御する方法は何だ』

『ああなった以上、ベリンダを制御する方法はありません。例え彼女を制御できたとして、あなたは何をするつもりなのですか?』

『あの力を手に入れる。それだけだ』

『彼女は死そのものと化しました……。常人に扱いきれるものではない』

『そのような事は聞いていない。吐け、どうすればあの力を手に入れられる』

淡々としたアスラらしき男の口調に、エイダは薄ら寒いものを感じていた。

「アスラが……、信じられん。だがこれは……」

リュカは最初こそ動揺したものの、声の主がアスラのものであると確信すると、態度を改めた。

アニスに謝罪を述べると、リュカはタイレルに向き直る。

「タイレルと申したな。貴殿に尋ねたい。このおぞましい死者の軍勢を止める手立てはあるのか?」

タイレルは少し考えるようなそぶりを見せ、一つ頷いた。

「ええ。理論上は可能です。ですがそれを知ったとして、あなた方はどうするのですか? あの男のようにベリンダの力を手に入れるつもりですか?」

タイレルの物言いに、周囲の兵士達から唸り声のようなものが漏れた。言葉にならないどうしようもない憎しみや怒りが、タイレルに向けられていた。

「我々は我々の国が滅びるのを何としても防がねばならん。あまり手荒な真似はしたくないが、手段を問う時間はない。話さぬというのなら、相応の対応をさせてもらう」

リュカの鬼気迫る物言いと表情だった。ただ徒に歳を重ねたのではない凄みが、そこにあった。

「……わかりました。説明しましょう」

タイレルは小さなデバイスを取り出すと、ガレオンの内部構造を表示させて静かに説明を始めた。

死者の軍勢を作り出す力は、元はベリンダという制御装置に備えられた機能だったが、何らかの要因で暴走して制御不能となったこと。

ベリンダの力が暴走した結果、今のガレオンはこの世界と別の世界――死者の軍勢を作り出す瘴気に満ちた世界――とを繋ぐ、結節点と呼ばれる穴の役割を持っていること。

「何故そんなことになってしまったのだ?」

「我々はそれを調査して結節点を塞ぐ方法を探りに来たのですが。思わぬ干渉を受けてしまいました。そのため、調査途中であるとしか」

「アスラか……」

「ええ。あの男はずいぶんとベリンダの力に固執しているようでした。彼は一体何者なのですか?」

「いや、アスラの事はいま考えるべき事ではない。それで、どうすればその瘴気を防げるのだ?」

タイレルはデバイスを操作し、ガレオン内部のある一点を指し示した。

「ガレオンの動力源であるケイオシウムバッテリーを爆破するのです。そうすればケイオシウムのエネルギー振動が暴走します。それを利用します」

タイレルは言葉を続ける。

「エネルギー振動が暴走することで周囲の空間、この場合はガレオンごと結節点を吹き飛ばすのです。現状で採れる方法はこれしかありません」

「では、装甲猟兵で空中から動力炉を狙うのが安全か」

「いいえ。万が一に狙いが外れると、結節点が拡がる可能性があります。そうなればもう結節点を塞ぐ手立ては失われ、ガレオンに近付いただけで我々は死者の軍勢となるでしょう」

「となると、内部に侵入して時限爆弾を仕掛けるしか手がないか……」

「動力炉の確実な破壊には、それしか方法はありません」

 

エイダと十数人の兵士が白兵戦装備を装着し、ガレオンの侵入口に立っていた。

彼等は白兵戦に長けた精鋭達だ。エイダを隊長とした少数精鋭でガレオンに侵入し、動力炉を爆破する任務を遂行することとなった。

一つ間違えば死が待つ任務であったが、手段を選んでなどいられなかった。

「行くぞ」

エイダの号令により、兵士達はガレオンの内部に突入する。

ガレオンの内部は不気味な程に静まり返っていた。

タイレルが提示した地図に従い、慎重に歩を進める。何処に死者が潜んでいるかわからない。ましてやアスラの動向も不明だ。兵士達の進軍は慎重なものとなっていた。

 

前方を進んでいた兵士が死者を発見したという合図を出した。エイダ達は時限爆弾の運搬兵を守るように隊列を組む。

エイダの合図と共に死者はすぐさま焼却された。周囲を確認して進軍を再開しようとしたその時だった。

後方で警戒をしていた兵士が、悲鳴も上げずに崩れ落ちる。

「なんだ!?」

辺りを照らすライトが一つの影を捉えた。それは紛れもなくアスラの姿だった。数人の兵士を殺害したアスラは運搬兵を見やる。

「小賢しい真似をする」

アスラはエイダ達がやろうとしている事に気付いているようだった。

すぐさま兵士達がアスラに向けて小銃の引き金を引く。そこに躊躇いは無い。だが、アスラは銃撃を難なく回避する。兵士達は運搬兵に近付けさせまいと、引き金を引き続ける。

「ラクラン大尉! ここは我々が食い止めます!」

「頼む!」

運搬兵を先に走らせ、エイダはその後に続く。

後方から悲鳴が上がるのが聞こえた。叫ぶような声も聞こえた。エイダと運搬兵はその悲鳴を振り切るようにして、動力制御室へ向かうしかなかった。

 

アスラや死者の手を逃れたエイダと運搬兵は、何とかガレオンの動力制御室に辿り着いた。

「ここか……」

動力制御室の中に死者がいないことを確認すると、中に入り、扉を閉める。

だが、このまま制御室に時限爆弾を設置して退避しても、アスラが爆弾を取り外す可能性が考えられる。そうなれば作戦は失敗だ。それに一刻の猶予も許されない。

「爆弾の設置を開始します」

「……すまない」

エイダも運搬兵も、ここに来るまでに覚悟を決めていた。

運搬兵は動力炉に一番近い場所へ時限爆弾を設置する。しかし時限装置は作動させない。運搬兵は手順どおりに安全装置を解除していく。

フロレンスはルビオナ連合国という国を存続させるために命を賭した。何人もの部下がアスラの襲撃を受けて犠牲になった。

ならば、命を失うことが明白であったとしても、自分達は何としても死者の軍勢を生み出す原因を叩き、人類をその脅威から救わなければならない。

エイダと運搬兵は頷き合うと、時限爆弾の起爆スイッチを押した。

 

エイダ達がガレオンに向かってから暫くの時が経過した頃。

後方に一時退避していたリュカ達の元に、閃光と共に耳を劈くような爆音がプロヴィデンスから聞こえてきた。

「おぉ……!」

「これで、死者共はもう……」

確定したと思われる勝利に沸き上がる連合国軍。

その中でただ一人、タイレルだけがじっとプロヴィデンスの方を凝視していた。

「―了―」

  1. 中隊以希臘字母命名;下遊的分隊則以英文字母作區分。