部隊將防毒面罩發給了帕茉。
部隊判斷若是什麼裝備都沒有就進入普羅維登斯是很危險的。
看到防毒面罩的帕茉,有了將要前往比目前為止更嚴峻戰地的實感,非常害怕。
不知道是否查覺到帕茉的心情,希爾夫向帕茉靠了過來。
「我沒問題的,因為希爾夫和我在一起嘛……」
只要能奪回這個地方就能回故鄉了。帕茉正努力這麼想著,想將注意力從恐懼移開。
帕茉一邊輕撫著希爾夫的頭,一邊對著正在簡單做著柔軟體操的史普拉多說道。
「史普拉多,可以聽聽我的請求嗎?」
「嗯,什麼?」
「如果情況危急的時候,我希望你不要管我,馬上逃走」
「妳是叫我在帕茉跟希爾夫有危險的時候逃走嗎?」
「你有必需去做的事,不能為了我們這個世界的事而死不是嗎?」
「就算是這樣,我也無法丟下帕茉跟希爾夫的!」
「你是為找艾茵而來的,所以不管發生什麼事,你都得活下去才行啊」
史普拉多因帕茉的強烈意志而感到困惑,看向了希爾夫。
不曉得史普拉多與希爾夫說了什麼,他輕輕地點了頭。
「……我知道了。……但,但是,如果帕茉跟希爾夫遇到危險的時候我一定會救你們的!」
|
終於攻進了普羅維登斯內部。
混濁昏暗的霧氣,從四面八方飄散過來的腐臭及血腥味。普羅維登斯的內部,完全就是一片混沌。
阿修羅為了調查出死者軍隊發生的來源,已經作為先遣隊先往都市去了。
死者軍隊與之前的不一樣,普羅維登斯內部的死者穿戴的,是軍人的裝備。
死者們都拿著槍,並穿著適合戰鬥的裝備。
「不要讓火停下來!」
「補給部隊還沒來嗎!」
活人的指令充斥著悲鳴與怒氣。
帕茉也拼命地,為了能幫上部隊,使用著火炎噴射器應戰。
|
「希爾夫!史普拉多!」
因為死者軍隊大量壓制過來,部隊一時不得不往後撤退。因徹退的混亂讓帕茉與希爾夫跟史普拉多走散了,帕茉感到強烈地不安。
特別是與一直都在一起的希爾夫分開,讓帕茉非常地害怕。
雖然大概知道希爾夫的所在方向,但是看不到牠的身影竟然是如此的可怕,連帕茉自己都很意外。
與帕茉一起行動的軍人們在確認狀況,目標是與主隊匯合。
「帕茉,聖獸的所在地點沒有變吧?」
「嗯……嗯……」
對帕茉來說,只剩下在軍營中一同食宿的阿妮絲是唯一的救贖。阿妮絲擔心帕茉,特地陪著她一起行動。
「少尉,就這樣繼續前進沒有問題的樣子」
「我知道了」
沒過多久,去偵查周圍的軍人回來了。
「大路上滿滿的都是死者」
「盡量躲在建築物的陰影下移動吧,不快點跟有聖獸在的主隊匯合的話……」
隊長級的軍人發出指令,像是讓阿妮絲引導一般,帕茉跟著移動。
希爾夫跟史普拉多沒事吧?帕茉整個腦裡只想著這件事。
|
雖然為了不讓死者軍隊找到而移動,但是死者們卻好像知道他們的計劃似地突然出現在眼前。
「竟然被埋伏了!?」
走在帕茉前方的兩名士兵犧牲了。
他們倒下沒多久後就又站了起來,跟死者軍隊一起向帕茉他們襲來。
「放火!」
「要是被那些傢伙殺死就會變成跟那些傢伙一樣!」
怒聲四起,帕茉使用火炎噴射器攻擊襲擊而來的死者。
「唔!」
但是還是無法完全擋下他們,從燃燒著的死者後面又冒出別的死者伸出他的爪子,那個爪子掠過帕茉的手腕。
「帕茉!」
阿妮絲注意到帕茉受傷,用火炎噴射器毆打了襲擊帕茉的死者。因為死者與帕茉之間的距離太近,不能直接放火。
「趁現在!」
「好的!」
阿妮絲一聲令下,襲擊帕茉的死者被燒盡了。但是可能是注意到這場騷動了,周圍的死者不減反增著。
「數量太多了……」
「不想點辦法不行」
帕茉重新舉好火炎噴射器,將接近過來的死者們全部燒盡。
希爾夫跟史普拉多應該就在附近,一定要見到他們平安無事的樣子。
這個強烈的想法支撐著帕茉。
就在那個時候,與低沉的吼聲同時,希爾夫跳躍到帕茉他們的面前。
「希爾夫!」
希爾夫掃倒了打算要包圍帕茉與阿妮絲的死者們。
「帕茉、還有阿妮絲!妳們沒事吧!」
史普拉多也跟著出現,在他後面的是,被分開的主隊人員及阿修羅。
因為人數增加的關係,死者毫無招架之力就被燒盡了。
|
確認已經清除死者們之後,他們躲到附近一間小教堂休息。
「帕茉,我幫你包紮」
「啊,謝謝你」
部隊的指揮官與阿修羅他們整理情報的時候,有人幫帕茉包紮了傷口。幸好傷口很淺,馬上就不痛了。
情報整理完後,指揮官發表接下來的行軍方針。
「從阿修羅的報告中可以得知,從這裡往西800阿爾雷的地方有一艘帝國的武裝戰鑑停在那邊。死者軍隊的操縱者很有可能就在那邊,只要能夠抓到那個人物就有勝利的機會」
帕茉聽到指揮官的話,握緊拳頭。
只要能壓制那個地方就可以結束了,然後就可以跟希爾夫還有史普拉多一起回去村子了。
帕茉抱持著希望。
|
「帕茉,妳沒事吧?」
「嗯?突然怎麼了?」
在往武裝船方向前進的途中,史普拉多突然向帕茉問道。
「你的臉色不太好喔?」
「可能是因為被味道熏昏了,不過我沒事」
就跟史普拉多說的一樣,帕茉從教會出來之後身體的狀況就一點一點地變差。可能是因為這樣,也越來越無法跟希爾夫心靈交流。
希爾夫怕傷害到帕茉,所以不直接告訴她這件事,反而透過史普拉多來關心。
這種事是第一次發生,但就像剛剛跟史普拉多說的一樣,就算有戴防毒面罩還是聞得到很濃的臭味。應該是被熏昏而已。
部隊前進到可以看到武裝船的距離,帕茉也知道,事到如今也無法從這個戰場脫身了。
帕茉一直對希爾夫及史普拉多說「我沒事」然後邊跟著部隊前進。
|
武裝船前被死者軍隊給擋住,雖然沒有大路上那麼多,但是也有相當的數量。
「死者軍隊要過來了!」
「發射!」
帕茉聽著指令一起使用火炎噴射器來燒死者。
但是帕茉漸漸覺得意識開始混濁。
「嗚嗚……。不行,我不能在這個時候倒下……」
帕茉努力想要保持清醒。
「帕茉!危險!」
聽到史普拉多的聲音,往他那邊一看。
「呀啊啊啊啊啊啊!」
站在那裡的史普拉多,頭髮都掉光,身上所有的肉都腐敗光了。
「帕茉!?妳怎麼了,帕茉!」
史普拉多變成了死者接近過來,帕茉嚇到丟下火炎噴射器,只能一直後退。
看了看周圍,一起進軍的部隊成員們,也都變成跟死者軍隊一樣的樣子了。
「帕茉,過來我這邊!」
阿妮絲進到帕茉的視野裡,向著帕茉喊著的阿妮絲,眼珠掉了下來。
「希爾夫!希爾夫!!」
帕茉拼死地叫著希爾夫。希爾夫就像是要回應帕茉似地,出現在帕茉的眼前。
「希爾夫怎麼辦,大家都……大家都!」
但是希爾夫只是用很悲傷的神情看著帕茉。
「希爾夫,你為什麼都不回答我呢?」
帕茉貼近希爾夫抱住牠,但是希爾夫的毛卻開始剝落,身上的肉也腐敗了。
掉落的毛、皮、肉。沒多久希爾夫的肉體就散落崩塌了。
「啊,啊……不要,不要啊啊啊啊啊啊啊啊啊啊!!」
|
「─完─」
3399年 「屍」
パルモは部隊からガスマスクを支給された。
部隊は何も装備しない状態でプロヴィデンスに入るのは危険だとの判断を下していた。
ガスマスクを見たパルモは、今まで以上に厳しい戦地へ向かうのだと実感し、背筋が寒くなる思いがした。
そんなパルモの様子を感じ取ったのか、シルフがパルモにそっと寄り添った。
「大丈夫、シルフと一緒だもの……」
この場所が奪還できれば故郷に帰れる。そう思い込むことで、パルモは恐怖から目を逸らそうとしていた。
シルフの頭をそっと撫でながら、パルモは軽い柔軟体操をしているスプラートに声を掛けた。
「ねえスプラート、お願いを聞いてくれる?」
「うん、何?」
「状況が危ないと思ったら、私のことは構わずに、すぐに逃げてほしいの」
「パルモとシルフが大変な時に、逃げ出せって言うの?」
「あなたにはやるべきことがある。私たちの世界の事情に付き合って、死んでしまうわけにはいかないでしょう?」
「だからって、パルモとシルフを見捨てるなんてできないよ!」
「あなたはアインって子を探しにこの世界に来たんだから、何があっても生き延びなきゃだめなの」
スプラートはパルモの強固な意思に戸惑い、シルフと視線を交わす。
シルフと何かしらの交信があったのか、ややあって小さく頷いた。
「……わかった。……で、でも、パルモとシルフが危なかったら絶対助けるからね!」
いよいよプロヴィデンスの内部に突入した。
暗く濁ったような霧、あちこちから漂う腐臭と血の臭い。プロヴィデンスの内部は、まさに混沌と化していた。
アスラは死者の軍勢を生み出す原因を調査するため、先遣隊として都市の中へと入っていった。
死者の軍勢は今までのそれとは様相が違っていた。プロヴィデンスの内部にいる死者の着ているものは、軍人のそれであった。
死者達は銃を持ち、戦闘のための優れた装備を携行している。
「火を絶やすな!」
「補給部隊、まだか!」
生者の指令や悲鳴、怒号が飛び交う。
パルモも必死になって、部隊の助けになるよう火炎放射機で応戦した。
「シルフ! スプラート!」
死者の軍勢が大挙して押し寄せたことで、部隊は一時後退を余儀なくされてしまった。後退の混乱でシルフとスプラートと離れてしまい、パルモは言いようのない不安に襲われていた。
特に、常に一緒であったシルフと離れてしまったことに恐怖を掻き立てられた。
シルフのいる方向はぼんやりとわかるが、姿が見えないことがこれほど怖いものであるとは、パルモ自身も予想外だった。
一緒に行動していた軍人達が状況を確認し、本隊との合流を目指す。
「パルモ、聖獣のいる場所に変化はない?」
「は……はい……」
寝食を共にしたアニスが一緒であることが唯一の救いであった。アニスはパルモの様子を気に掛け、付き添うように行動してくれている。
「少尉、このまま進んでも問題なさそうです」
「わかった」
程なくして、周囲の様子を偵察に行った軍人が戻ってきた。
「大通りは死者で溢れています」
「なるべく建物の影に隠れて移動しよう。早く聖獣のいる本隊と合流しなければ……」
隊長格の軍人が指示を出す。アニスに誘導されるようにして、パルモはそれに付いていく。
シルフとスプラートは無事だろうか。パルモはそればかりを考えていた。
死者の軍勢に見つからぬように大通りを避けて移動していたが、死者達はそこを狙ったかのように現れた。
「待ち伏せだと!?」
パルモ達の前を進んでいた兵士二人が犠牲となった。
彼らは僅かの間を置いて立ち上がると、死者の軍勢と同じようにパルモ達に襲い掛かる。
「火を放て!」
「奴等に殺されたら奴等と同じになるぞ!」
怒声が飛び交う。パルモは襲い掛かってくる死者を火炎放射機で焼く。
「うっ!」
万事無事にとはいかなかった。焼いた死者の背後から別の死者の爪が襲い掛かってきた。その爪がパルモの腕を掠める。
「パルモ!」
アニスがそれに気付き、パルモを襲う死者を火炎放射機で殴る。火を放つにはパルモと死者の距離が近すぎた。
「今よ!」
「はい!」
アニスの号令で火を放つ。パルモを襲った死者は焼き尽くされた。だが、この騒ぎに気付いたのか、辺りの死者の数は減るどころか増していた。
「数が多い……」
「何とかしないと」
パルモは意を決して火炎放射器を構えると、目の前に迫る死者達を焼き払った。
シルフとスプラートは近い場所にいる筈だ、彼らに無事な姿を見せなければ。
強い思いがパルモを突き動かす。
その時だった。低い唸り声と共に、シルフがパルモ達の前に躍り出た。
「シルフ!」
シルフはパルモとアニスを取り囲もうとしていた死者達を薙ぎ払う。
「パルモ、アニスも! 無事だったんだね!」
続いてスプラートもやって来た。そのすぐ背後には、分断された本隊の面々とアスラがいた。
人数が増えたことで、死者達は為す術もなく焼き払われていった。
死者がいなくなったのを確認した後、近くにあった小さな教会で一時の休息を取った。
「パルモ、手当てを」
「あっ、ありがとうございます」
部隊の指揮官とアスラ達が情報整理を行っている間、パルモは傷の手当を受けていた。幸い傷は浅く、すぐに手当てしたことで痛みもあまり出なかった。
情報の整理が終わり、指揮官から今後の進軍に関する指針が発表された。
「アスラからの報告で、ここから西に800アルレ程進んだところに帝國の戦艦ガレオンが停泊していることが確認された。そこに死者の軍勢を操る者がいる可能性が高い。そこを制圧できれば勝機が見える」
パルモは指揮官の話を聞いて、拳を握った。
そこを制圧すれば全てが終わる。シルフとスプラートと共に村へ帰れる。
そんな希望を抱いていた。
「パルモ、大丈夫?」
「え? どうしたの急に?」
ガレオンに向けて進軍する道中、不意にスプラートが尋ねてきた。
「顔色が悪いよ?」
「臭いに当てられちゃったのかも。でも大丈夫」
スプラートの言う通りだった。教会を出てからパルモの体調は少しずつ悪くなっている。そのせいか、シルフとの交信が上手くできなくなりつつあった。
シルフにこの事を伝えると、シルフは何も言わずにパルモを気遣った。
こんな事は初めてだったが、スプラートにも言ったように、ガスマスク越しでも感じる程の臭気に当てられたのだろう。そんな風に考えていた。
部隊はガレオンを目視で確認できるところまで進軍している。ここで戦線を離脱することはできない。それくらいはパルモにもわかっていた。
パルモはシルフとスプラートに「大丈夫」と言い続けながら部隊に付いていった。
ガレオンの前には死者の軍勢が立ち塞がっていた。大通りを行き交う死者の数ほどではないが、それでも多い。
「死者の軍勢、来ます!」
「発射!」
パルモも部隊の号令に合わせて火炎放射機で死者を焼き払う。
しかし、パルモは自分の意識が段々と混濁してきているのを感じていた。
「ううっ……。だめ、こんなところで……」
必死に意識を保とうと気を張る。
「パルモ! 危ない!」
スプラートの声が聞こえた。声のした方を振り返る。
「きゃあああああ!」
そこにいたスプラートの姿は、髪が抜け、至る所の肉が腐敗していた。
「パルモ!? どうしたの、パルモ!」
蠢く死者となったスプラートが迫ってくる。火炎放射機を取り落とし、パルモは後退ることしかできない。
周囲を見回すと、一緒に進軍していた部隊の面々が、全員死者の軍勢と同じような姿になっている。
「パルモ、こっちに!」
アニスが視界に入る。パルモに向かって叫んだその拍子に、彼女の目玉が零れ落ちた。
「シルフ! シルフ!!」
パルモは必死になってシルフを呼んだ。その声に応えるかのように、シルフがパルモの眼前に現れた。
「どうしよう、シルフ。みんなが……みんなが!」
だが、シルフは悲しそうな目でパルモを見つめるだけだった。
「ねえシルフ、どうして何も答えてくれないの?」
シルフに縋りつくようにしがみつく。すると、シルフから毛が抜け、腐敗した獣の肉が顕わになった。
抜け落ちる毛と皮と肉。瞬く間に、シルフの肉体はぐずぐずと崩れていった。
「あ、あぁ……いや、いやああああああああああ!!」
「—了—」
パルモは部隊からガスマスクを支給された。
部隊は何も装備しない状態でプロヴィデンスに入るのは危険だとの判断を下していた。
ガスマスクを見たパルモは、今まで以上に厳しい戦地へ向かうのだと実感し、背筋が寒くなる思いがした。
そんなパルモの様子を感じ取ったのか、シルフがパルモにそっと寄り添った。
「大丈夫、シルフと一緒だもの……」
この場所が奪還できれば故郷に帰れる。そう思い込むことで、パルモは恐怖から目を逸らそうとしていた。
シルフの頭をそっと撫でながら、パルモは軽い柔軟体操をしているスプラートに声を掛けた。
「ねえスプラート、お願いを聞いてくれる?」
「うん、何?」
「状況が危ないと思ったら、私のことは構わずに、すぐに逃げてほしいの」
「パルモとシルフが大変な時に、逃げ出せって言うの?」
「あなたにはやるべきことがある。私たちの世界の事情に付き合って、死んでしまうわけにはいかないでしょう?」
「だからって、パルモとシルフを見捨てるなんてできないよ!」
「あなたはアインって子を探しにこの世界に来たんだから、何があっても生き延びなきゃだめなの」
スプラートはパルモの強固な意思に戸惑い、シルフと視線を交わす。
シルフと何かしらの交信があったのか、ややあって小さく頷いた。
「……わかった。……で、でも、パルモとシルフが危なかったら絶対助けるからね!」
いよいよプロヴィデンスの内部に突入した。
暗く濁ったような霧、あちこちから漂う腐臭と血の臭い。プロヴィデンスの内部は、まさに混沌と化していた。
アスラは死者の軍勢を生み出す原因を調査するため、先遣隊として都市の中へと入っていった。
死者の軍勢は今までのそれとは様相が違っていた。プロヴィデンスの内部にいる死者の着ているものは、軍人のそれであった。
死者達は銃を持ち、戦闘のための優れた装備を携行している。
「火を絶やすな!」
「補給部隊、まだか!」
生者の指令や悲鳴、怒号が飛び交う。
パルモも必死になって、部隊の助けになるよう火炎放射機で応戦した。
「シルフ! スプラート!」
死者の軍勢が大挙して押し寄せたことで、部隊は一時後退を余儀なくされてしまった。後退の混乱でシルフとスプラートと離れてしまい、パルモは言いようのない不安に襲われていた。
特に、常に一緒であったシルフと離れてしまったことに恐怖を掻き立てられた。
シルフのいる方向はぼんやりとわかるが、姿が見えないことがこれほど怖いものであるとは、パルモ自身も予想外だった。
一緒に行動していた軍人達が状況を確認し、本隊との合流を目指す。
「パルモ、聖獣のいる場所に変化はない?」
「は……はい……」
寝食を共にしたアニスが一緒であることが唯一の救いであった。アニスはパルモの様子を気に掛け、付き添うように行動してくれている。
「少尉、このまま進んでも問題なさそうです」
「わかった」
程なくして、周囲の様子を偵察に行った軍人が戻ってきた。
「大通りは死者で溢れています」
「なるべく建物の影に隠れて移動しよう。早く聖獣のいる本隊と合流しなければ……」
隊長格の軍人が指示を出す。アニスに誘導されるようにして、パルモはそれに付いていく。
シルフとスプラートは無事だろうか。パルモはそればかりを考えていた。
死者の軍勢に見つからぬように大通りを避けて移動していたが、死者達はそこを狙ったかのように現れた。
「待ち伏せだと!?」
パルモ達の前を進んでいた兵士二人が犠牲となった。
彼らは僅かの間を置いて立ち上がると、死者の軍勢と同じようにパルモ達に襲い掛かる。
「火を放て!」
「奴等に殺されたら奴等と同じになるぞ!」
怒声が飛び交う。パルモは襲い掛かってくる死者を火炎放射機で焼く。
「うっ!」
万事無事にとはいかなかった。焼いた死者の背後から別の死者の爪が襲い掛かってきた。その爪がパルモの腕を掠める。
「パルモ!」
アニスがそれに気付き、パルモを襲う死者を火炎放射機で殴る。火を放つにはパルモと死者の距離が近すぎた。
「今よ!」
「はい!」
アニスの号令で火を放つ。パルモを襲った死者は焼き尽くされた。だが、この騒ぎに気付いたのか、辺りの死者の数は減るどころか増していた。
「数が多い……」
「何とかしないと」
パルモは意を決して火炎放射器を構えると、目の前に迫る死者達を焼き払った。
シルフとスプラートは近い場所にいる筈だ、彼らに無事な姿を見せなければ。
強い思いがパルモを突き動かす。
その時だった。低い唸り声と共に、シルフがパルモ達の前に躍り出た。
「シルフ!」
シルフはパルモとアニスを取り囲もうとしていた死者達を薙ぎ払う。
「パルモ、アニスも! 無事だったんだね!」
続いてスプラートもやって来た。そのすぐ背後には、分断された本隊の面々とアスラがいた。
人数が増えたことで、死者達は為す術もなく焼き払われていった。
死者がいなくなったのを確認した後、近くにあった小さな教会で一時の休息を取った。
「パルモ、手当てを」
「あっ、ありがとうございます」
部隊の指揮官とアスラ達が情報整理を行っている間、パルモは傷の手当を受けていた。幸い傷は浅く、すぐに手当てしたことで痛みもあまり出なかった。
情報の整理が終わり、指揮官から今後の進軍に関する指針が発表された。
「アスラからの報告で、ここから西に800アルレ程進んだところに帝國の戦艦ガレオンが停泊していることが確認された。そこに死者の軍勢を操る者がいる可能性が高い。そこを制圧できれば勝機が見える」
パルモは指揮官の話を聞いて、拳を握った。
そこを制圧すれば全てが終わる。シルフとスプラートと共に村へ帰れる。
そんな希望を抱いていた。
「パルモ、大丈夫?」
「え? どうしたの急に?」
ガレオンに向けて進軍する道中、不意にスプラートが尋ねてきた。
「顔色が悪いよ?」
「臭いに当てられちゃったのかも。でも大丈夫」
スプラートの言う通りだった。教会を出てからパルモの体調は少しずつ悪くなっている。そのせいか、シルフとの交信が上手くできなくなりつつあった。
シルフにこの事を伝えると、シルフは何も言わずにパルモを気遣った。
こんな事は初めてだったが、スプラートにも言ったように、ガスマスク越しでも感じる程の臭気に当てられたのだろう。そんな風に考えていた。
部隊はガレオンを目視で確認できるところまで進軍している。ここで戦線を離脱することはできない。それくらいはパルモにもわかっていた。
パルモはシルフとスプラートに「大丈夫」と言い続けながら部隊に付いていった。
ガレオンの前には死者の軍勢が立ち塞がっていた。大通りを行き交う死者の数ほどではないが、それでも多い。
「死者の軍勢、来ます!」
「発射!」
パルモも部隊の号令に合わせて火炎放射機で死者を焼き払う。
しかし、パルモは自分の意識が段々と混濁してきているのを感じていた。
「ううっ……。だめ、こんなところで……」
必死に意識を保とうと気を張る。
「パルモ! 危ない!」
スプラートの声が聞こえた。声のした方を振り返る。
「きゃあああああ!」
そこにいたスプラートの姿は、髪が抜け、至る所の肉が腐敗していた。
「パルモ!? どうしたの、パルモ!」
蠢く死者となったスプラートが迫ってくる。火炎放射機を取り落とし、パルモは後退ることしかできない。
周囲を見回すと、一緒に進軍していた部隊の面々が、全員死者の軍勢と同じような姿になっている。
「パルモ、こっちに!」
アニスが視界に入る。パルモに向かって叫んだその拍子に、彼女の目玉が零れ落ちた。
「シルフ! シルフ!!」
パルモは必死になってシルフを呼んだ。その声に応えるかのように、シルフがパルモの眼前に現れた。
「どうしよう、シルフ。みんなが……みんなが!」
だが、シルフは悲しそうな目でパルモを見つめるだけだった。
「ねえシルフ、どうして何も答えてくれないの?」
シルフに縋りつくようにしがみつく。すると、シルフから毛が抜け、腐敗した獣の肉が顕わになった。
抜け落ちる毛と皮と肉。瞬く間に、シルフの肉体はぐずぐずと崩れていった。
「あ、あぁ……いや、いやああああああああああ!!」
「—了—」