「接下來開始做出發前的最後說明」
作戰會議室裡集合了A中隊的全體隊員與其他中隊的隊長級人物。
工程師所準備的大型螢幕上映出的是渦周圍的樣子。
「這就是這次作戰要攻略的渦的全貌。規模B等級,敵性生物威脅度C。位於連隊設施的東方300里克。是舊奧涅山麓」
附屬於A中隊的工程師拉卡開始說明渦。
世界上首次進行的消滅渦作戰。打頭陣的就是米利安他們的A中隊。
聽取作戰概要的米利安,自然十分嚴肅。其他的隊員們也一樣。
連隊的隊員為了這一天不知做了多少次的簡報與訓練。如果這次的作戰能成功的話,便能証明自己在做的事是正確的,世界也能從渦的威脅中看見一絲曙光。
就是因為想到這點,才會如此緊張。
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「怎麼了,你在緊張嗎?」
簡報結束後,赫姆霍茲拍了拍米利安的肩膀。
「這句話是我要問你的吧。你的肌肉在發抖喲」
「在說什麼傻話,這是興奮得發抖好嗎?」
赫姆霍茲搞笑似的聳了聳肩。在緊張之下仍保有平常的態度的這個男子,在隊上是重要的存在。
「不論如何,這次能成功的話,就可以証明我們所做的一切沒有白費」
「你還是老樣子,這麼認真」
「或許吧。好了,作戰即將開始」
「嗯。我很看好你哦,米利安」
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米利安一行乘坐新型的武裝車,往舊奧涅山靠近。
由新型的武裝車四台,以及裝載了核心回收必要裝備的武裝艇一艘所組成的陣容。
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漸漸向渦靠近。
「要進入渦了!」
通訊開始,聽到了米爾格倫的聲音。
米利安一行人做好準備。雖然已經到渦裡調查過好幾次,但是以戰鬥為主要目的侵入,這還是第一次。
在進入渦內的同時,米利安一瞬間感受到像暈船似的不適感。
「確認到達作戰展開位置,開始降落」
在聽到來自操縱席丹尼爾的訊息同時,武裝車跟武裝艇就開始往下降。
那裡是個風速強勁,並且被灰色的砂覆蓋而草木不生的砂漠。
幸好,沒有陽光的照射,不至於因為炎熱而消耗體力。
隊員們踏出武裝車後,米爾格倫發出最後的指示。
A中隊全體的共同行動就到這裡為止。
「A3、A4小隊照原預定,保護好武裝車。我們預定四至五小時後回來」
米爾格倫環視A中隊全員的臉。為了確認大家是否都處於極度緊張的狀態。
「在異界通信將會受到限制。我們若超過預定時間沒有回來,就當作我們全部都已犧牲,馬上逃離這裡」
米爾格倫的言論,讓隊員們的表情僵硬。雖然早就清楚,但是在緊張的情況下聽到這句話的沉重感還是會有所不同。
「那麼,出發吧!」
男子們的雄壯呼聲響徹異界。
米利安做為A2小隊的小隊長,邊保護著武裝艇的同時也一邊往位於渦中心的一個叫混沌核心的地方移動。
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「前方70阿爾雷有反應。是核心與敵性生物!」
是A1的偵察傳來武裝艇的訊息。米利安等的隊員們將來福槍安全裝置解除進入備戰狀態。A1小隊走在米利安的A2小隊約200阿爾雷的前方。
想要消滅渦,完全都得靠武裝艇。
米利安的A2小隊任務是獵殺核心周圍被稱作敵性生物或核心生物的魔物,保護武裝艇直到核心回收完成為止。
過沒多久就聽見魔物的慘叫聲。
「三點鐘方向確認有敵性生物的反應!」
「迎戰他們,別讓他們靠近這裡!」
看到敵性生物朝武裝艇衝過來。算準了距離打出暗號,讓三點鐘方向的隊員一齊使用突擊步槍掃射。
雖然總算擊退了第一批,但第二批緊接著襲來。
「射擊!一隻也不要讓他逃走!」
米利安也舉著來福槍應戰。在這裡如果武裝艇無法行動的話,一切就白費了。
雖然不斷地有隊員受傷,但總算是成功消滅了敵性生物。
再來就是和A1小隊會合,並且回收核心而已了。
|
A1小隊已經在和守護核心的敵性生物交戰中。
「迎戰!集體發射!」
「貝戈尼亞受傷了!醫務兵!」
在隊員們的混亂聲中,米利安的A2小隊手持步槍前來支援A1小隊。
「A2小隊到達!」
米利安靠近米爾格倫報告。
「武裝艇呢?」
「已確認上空的安全,因此已在50阿爾雷上空處待機中」
「了解。核心已確保住。再來就只剩下把這裡的敵性生物解決掉而已了」
「了解!」
不知道到底打了多久。戰鬥激烈到讓感覺呈現麻痺狀態。來福槍的彈藥即將用盡,聖劍的能量也所剩無幾。
「核心已經回收成功。準備撤退!」
米爾格倫發出了暗號。米利安邊擦拭著額頭的汗邊確認周圍。附近只剩下敵性生物的屍體。但是,我方也有數不盡的人受傷。
即使這樣,還是有一種成功回收核心的成就感。
「撤退路線已經確保了!前方無敵性生物反應!」
「不可大意。要抱有肯定還會有敵性生物襲來的心態撤退!」
對米爾格倫的指示感到安心。撤退的途中的確不能說絕對不會再有敵性生物來襲。也擔心留在武裝車旁的A3、A4小隊。
要是武裝車已被破壞的話,大家將不可能再回到現世界。所以直到最後都不可大意。
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邊保護傷患邊回到了一開始作戰展開的位置後,受傷的A3、A4小隊成員們以像是放下心中大石般的表情出來迎接。
「你們看起來好狼狽,發生了什麼事?」
「你們出發之後不久,被一大群外型像狼的敵性生物襲擊了」
「不過我們已經把他們都消滅了。如你們所見,武裝車沒事。也沒有人犧牲死去」
聽完負責A3小隊的指揮赫姆霍茲與布魯貝克的報告。
果然,敵性生物有察覺我們這些『不速之客』的本能。
「坐上武裝車!我們要啟程回去了!」
|
回程的武裝車裡,和出發時不同,大家雖然都很疲憊,但表情都很爽朗地眺望著車外。
經過結節點《Note》,熟悉的現世界大地出現在眼前。渦在最後一台武裝車出現在現世界的同時,隨著晃動消失了。
「太好了……」
米利安小小聲地歡呼著。發現本來已經累到沒力氣的拳頭,似乎恢復了。
武裝車內此起彼落感動的聲音,最後形成大大地歡呼聲。
忽然間,米利安腦中浮現出家人的臉。沉浸在妻子與孩子從遠處笑容滿面揮著手的錯覺中。
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武裝車回到了設施後,史達林親自出來迎接A中隊的每一位隊員。關於這次成功消滅渦的事,大概已經傳遍了整個設施內了。
接受了檢疫之後,A中隊受到了酒與餐點的款待。作為首次作戰便成功歸來的慶祝,舉辦了一個小小的宴會。
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「喂,米利安。你為什麼會想加入連隊啊」
赫姆霍茲趁著酒意向米利安問道。
「為什麼事到如今還問這個?那你又是為什麼會想加入連隊?」
「我嗎?我是為了尋求新的刺激啊。我已經厭倦了單純地當個傭兵」
赫姆霍茲目光看著遠方如此回答道。這個男人或許也有些無法說出口的事也不一定。
「好了,換你了」
「我是為了我的家人,應該吧」
「家人啊」
「嗯嗯……」
無法再繼續說下去了。關於家人的事,現在沒有心情說。
在加入連隊之前,為了保護故鄉的大家,曾與渦的魔物戰鬥過。從那時候起就打算不再想家人的事了。但在成功消滅渦的現在,終於可以回想起家人的事。溫柔的妻子,以及如果還活著的話是正值童年期的孩子,那個被渦給破壞的小小幸福。
能夠確實消滅渦的這個事實,有稍微療癒了大家本來束手無策的無力感。
「這樣我終於能驕傲地面對家人了吧」
「嗯,沒錯。渦是可以被消滅的了」
米利安強烈地感覺到。
當初被徒勞感不斷折磨的痛苦已經消失了。
|
「─完─」
3376年 「光明」
「これより最終ブリーフィングを開始する」
作戦会議室にはA中隊に所属する全ての隊員と、他の中隊の隊長格が集まっていた。
エンジニアの用意した大型のモニターには渦周辺の様子が映し出されている。
「これが今回の作戦で攻略する渦の全容だ。規模はBクラス、敵性生物の脅威度はC。場所はレジメント施設から東へ300リーグ。旧オーネ山の麓となる」
A中隊付きのエンジニアであるラッカが、渦の説明を開始する。
世界で初めての渦を消滅させる作戦が開始される。その先陣を切るのはミリアン達A中隊だ。
作戦概要を聞いていたミリアンは自然と威儀を正した。それは他の隊員達も同様だった。
レジメントの隊員は、この日のために幾度とないブリーフィングと訓練を重ねてきた。今回の作戦が成功を収めれば、自分達がやっていることの正しさが証明され、世界を渦の脅威から救う光明が見える。
それを思えばこその緊張だった。
「どうした、緊張してるのか?」
ブリーフィングが終了した後、ヘルムホルツに肩を叩かれた。
「俺のセリフだろう、それは。お前こそ筋肉が震えてるぞ」
「馬鹿を言うな。こりゃ武者震いだ」
ヘルムホルツは戯けたように肩を竦めた。緊張の中にあってもいつも通りの態度が取れるこの男は、隊の中では貴重な存在である。
「まあいいさ。これが成功すれば俺達のやってきたことが徒労でないと証明できる」
「相変わらず真面目だな」
「かもしれん。さあ、もうすぐ作戦開始だ」
「ああ。頼りにしてるぜ、ミリアン」
ミリアン達は新型のコルベットで、旧オーネ山へと近付いた。
新型コルベットが四機、コアを回収するための装備を乗せたアーセナルキャリアが一機という編成だった。
渦が近づいてくる。
「突入するぞ!」
通信が入り、ミルグラムの声が聞こえた。
ミリアン達は身構える。渦へは調査作戦では何度も行ったが、戦闘が主目的で突入するのは今回が初めてである。
渦への突入と同時に、ミリアンは一瞬だけ船酔いのような気持ち悪さに襲われる。
「作戦展開位置への到達を確認、降下します」
操縦席のダニエルからの合図と共に、コルベットとアーセナルキャリアが降下する。
そこは風が強く吹き、灰色の砂が支配する不毛の砂漠だった。
幸いにも日光になるものは出ておらず、熱で体力を奪われることは無さそうである。
コルベットから隊員達が降りると、ミルグラムが最終指示を出す。
A中隊全員が同一の行動を執るのは、ここまでであった。
「A3、A4小隊は予定通りここでコルベットの護衛を頼む。我々の帰還予定は四時間から五時間後だ」
ミルグラムはA中隊全員の顔を見回している。極度の緊張に置かれていないかを確認するためだ。
「異界では通信に制限がある。我々の帰還が予定時間を超過した場合は全滅したとみなし、速やかにここを脱出せよ」
ミルグラムの言葉に隊員達の表情が強張る。頭では理解しているものの、やはり緊張下で聞く言葉は重みが違う。
「では、出発するぞ!」
男達の雄叫びが異界に響き渡った。
ミリアンはA2小隊の小隊長としてアーセナルキャリアを護衛しながら、渦の中心であるケイオシウムコアのある場所へと向かっていった。
「70アルレ先に反応。コアと敵性生物です!」
A1小隊の索敵担当からアーセナルキャリアに通信が入る。ミリアン達はライフルの安全装置を外して身構える。A1小隊は斥候として先行しており、ミリアン達A2小隊の200アルレ程先を進んでいる。
渦を消滅させるために必要な工程は、全てアーセナルキャリアが握っている。
ミリアン達A2小隊の任務は、コア周辺の敵性生物やコア生物と呼ばれる魔物を狩り、アーセナルキャリアがコアを回収するまで護衛することだ。
さほど経たぬ内に魔物の悲鳴が聞こえてくる。
「三時の方角に敵性生物の反応を確認!」
「迎撃しろ、こちらに近付けさせるな!」
敵性生物がアーセナルキャリアに向かって突進してくるのが見えた。距離を測って合図を出す。三時方向にいる隊員達が一斉にアサルトライフルを掃射する。
何とか第一陣を退けたが、間髪を入れずに第二陣が襲ってくる。
「撃て! 一匹も逃すな!」
ミリアンもアサルトライフルで応戦する。ここでアーセナルキャリアが行動不能になれば、全てが無に終わる。
負傷者を出しながらも、どうにかして敵性生物を掃討した。
あとはA1小隊と合流し、コアを回収するだけだった。
A1小隊は、既にコアを守る敵性生物と交戦中であった。
「接敵! 斉射!」
「ベゴーニャが負傷! 衛生兵!」
隊員達の声が飛び交う中、ミリアン達A2小隊はライフルでA1小隊を援護する。
「A2小隊到着しました!」
ミリアンはミルグラムに駆け寄り、状況を報告する。
「アーセナルキャリアは?」
「上空の安全が確認できたので、50アルレ上空で待機しています」
「わかった。コアはすでに確保している。あとはここの敵性生物を掃討するだけだ」
「了解しました!」
どれくらい戦ったのだろうか。感覚が麻痺するほどの激戦であった。ライフルの弾は尽きかけ、セプターのエネルギー残量もあと僅かであった。
「コアの回収を確認。撤退するぞ!」
ミルグラムから合図が出された。ミリアンは額に浮いた汗を拭いながら周囲を確認する。そこには敵性生物の死体しかなかった。だが、こちらの負傷者も数え切れない。
それでも、コアを回収したという達成感がそこにあった。
「退路を確保した! この先には敵性生物の反応なし!」
「油断するなよ。必ず敵性生物が襲ってくると思え!」
ミルグラムの指示にはっとする。帰還途中に敵性生物に襲われないとは限らない。コルベットに残したA3、A4小隊も心配であった。
もしコルベットが破壊されていれば現世界への帰還は不可能になる。最後まで油断は禁物であった。
負傷者を庇いながら作戦展開位置まで戻ると、負傷したA3、A4小隊の面々がほっとしたような表情で出迎えた。
「お前達、随分とボロボロだな。何があった?」
「お前らが行って暫くしたら、狼みたいな姿の敵性生物が大群で襲ってきやがった」
「まあ全部掃討したがな。この通り、コルベットは無事だ。死者も出ていない」
A3小隊の指揮を執っていたヘルムホルツとブルベイカーの報告を受ける。
やはり、敵性生物は我々が『招かれざる客』であることを本能的に察知しているようだった。
「コルベットに搭乗しろ! 帰還するぞ!」
帰りのコルベットの中では、行きと違って、皆疲れてはいるがどこか晴れやかな表情で外を眺めていた。
結節点《ノード》を通り、見慣れた現世界の大地が姿を現した。渦は最後尾のコルベットが現世界に姿を現したと同時に、揺らめきながら消えていった。
「やった……」
ミリアンは小さく呟いた。力の入らなかった拳に力が戻ってきたような気がした。
コルベット内のあちこちから感極まったような声が聞こえ、ついには大歓声となった。
ふと、ミリアンは家族の顔を思い出した。妻と子供が遠くから満面の笑みで手を振っている、そんな錯覚に囚われていた。
コルベットが施設に帰還すると、A中隊の面々はスターリング自らの出迎えを受けた。今回の渦の消滅に成功したことは、既に施設内に知れ渡っているようだった。
検疫を受けた後、A中隊には酒と食事が振る舞われた。最初の作戦を成功裏に収めたことを祝して、ささやかながらの宴が催されたのだった。
「なあ、ミリアン。お前、どうしてこの連隊に入ろうと思ったんだ」
ヘルムホルツが酒の勢いで聞いてきた。
「何だ? 改めて。そういうお前はどうなんだ?」
「俺か? 俺は新しい刺激が欲しかったんだ。ただの傭兵をやってるだけじゃ飽きちまってよ」
そう答えるヘルムホルツの目は遠くを見ていた。この男も何か他人には言えない事情を抱えているのかもしれない。
「ほら、次はお前の番だ」
「俺は家族のため、だな」
「家族か」
「あぁ……」
それ以上は答えることができなかった。家族がどうなったかについて、今は語りたくなかった。
連隊に来る前は故郷のみんなを守るために渦の魔物と戦っていた。その時から家族のことは意図的に考えないようにしていた。だが渦の消滅に成功した今、やっと家族のことを振り返ることができた。優しかった妻、生きていれば幼児期に入る子供、渦によって壊されたささやかな幸せ。
渦の消滅という確固たる事象が、どうすることもできなかった無力感を癒していくような気さえしていた。
「これで家族に対して胸を張れそうだ」
「そうだな。渦を消滅させることができた」
もう、あの時のような徒労感に苛まれることはない。
ミリアンはそう強く感じていた。
「—了—」
「これより最終ブリーフィングを開始する」
作戦会議室にはA中隊に所属する全ての隊員と、他の中隊の隊長格が集まっていた。
エンジニアの用意した大型のモニターには渦周辺の様子が映し出されている。
「これが今回の作戦で攻略する渦の全容だ。規模はBクラス、敵性生物の脅威度はC。場所はレジメント施設から東へ300リーグ。旧オーネ山の麓となる」
A中隊付きのエンジニアであるラッカが、渦の説明を開始する。
世界で初めての渦を消滅させる作戦が開始される。その先陣を切るのはミリアン達A中隊だ。
作戦概要を聞いていたミリアンは自然と威儀を正した。それは他の隊員達も同様だった。
レジメントの隊員は、この日のために幾度とないブリーフィングと訓練を重ねてきた。今回の作戦が成功を収めれば、自分達がやっていることの正しさが証明され、世界を渦の脅威から救う光明が見える。
それを思えばこその緊張だった。
「どうした、緊張してるのか?」
ブリーフィングが終了した後、ヘルムホルツに肩を叩かれた。
「俺のセリフだろう、それは。お前こそ筋肉が震えてるぞ」
「馬鹿を言うな。こりゃ武者震いだ」
ヘルムホルツは戯けたように肩を竦めた。緊張の中にあってもいつも通りの態度が取れるこの男は、隊の中では貴重な存在である。
「まあいいさ。これが成功すれば俺達のやってきたことが徒労でないと証明できる」
「相変わらず真面目だな」
「かもしれん。さあ、もうすぐ作戦開始だ」
「ああ。頼りにしてるぜ、ミリアン」
ミリアン達は新型のコルベットで、旧オーネ山へと近付いた。
新型コルベットが四機、コアを回収するための装備を乗せたアーセナルキャリアが一機という編成だった。
渦が近づいてくる。
「突入するぞ!」
通信が入り、ミルグラムの声が聞こえた。
ミリアン達は身構える。渦へは調査作戦では何度も行ったが、戦闘が主目的で突入するのは今回が初めてである。
渦への突入と同時に、ミリアンは一瞬だけ船酔いのような気持ち悪さに襲われる。
「作戦展開位置への到達を確認、降下します」
操縦席のダニエルからの合図と共に、コルベットとアーセナルキャリアが降下する。
そこは風が強く吹き、灰色の砂が支配する不毛の砂漠だった。
幸いにも日光になるものは出ておらず、熱で体力を奪われることは無さそうである。
コルベットから隊員達が降りると、ミルグラムが最終指示を出す。
A中隊全員が同一の行動を執るのは、ここまでであった。
「A3、A4小隊は予定通りここでコルベットの護衛を頼む。我々の帰還予定は四時間から五時間後だ」
ミルグラムはA中隊全員の顔を見回している。極度の緊張に置かれていないかを確認するためだ。
「異界では通信に制限がある。我々の帰還が予定時間を超過した場合は全滅したとみなし、速やかにここを脱出せよ」
ミルグラムの言葉に隊員達の表情が強張る。頭では理解しているものの、やはり緊張下で聞く言葉は重みが違う。
「では、出発するぞ!」
男達の雄叫びが異界に響き渡った。
ミリアンはA2小隊の小隊長としてアーセナルキャリアを護衛しながら、渦の中心であるケイオシウムコアのある場所へと向かっていった。
「70アルレ先に反応。コアと敵性生物です!」
A1小隊の索敵担当からアーセナルキャリアに通信が入る。ミリアン達はライフルの安全装置を外して身構える。A1小隊は斥候として先行しており、ミリアン達A2小隊の200アルレ程先を進んでいる。
渦を消滅させるために必要な工程は、全てアーセナルキャリアが握っている。
ミリアン達A2小隊の任務は、コア周辺の敵性生物やコア生物と呼ばれる魔物を狩り、アーセナルキャリアがコアを回収するまで護衛することだ。
さほど経たぬ内に魔物の悲鳴が聞こえてくる。
「三時の方角に敵性生物の反応を確認!」
「迎撃しろ、こちらに近付けさせるな!」
敵性生物がアーセナルキャリアに向かって突進してくるのが見えた。距離を測って合図を出す。三時方向にいる隊員達が一斉にアサルトライフルを掃射する。
何とか第一陣を退けたが、間髪を入れずに第二陣が襲ってくる。
「撃て! 一匹も逃すな!」
ミリアンもアサルトライフルで応戦する。ここでアーセナルキャリアが行動不能になれば、全てが無に終わる。
負傷者を出しながらも、どうにかして敵性生物を掃討した。
あとはA1小隊と合流し、コアを回収するだけだった。
A1小隊は、既にコアを守る敵性生物と交戦中であった。
「接敵! 斉射!」
「ベゴーニャが負傷! 衛生兵!」
隊員達の声が飛び交う中、ミリアン達A2小隊はライフルでA1小隊を援護する。
「A2小隊到着しました!」
ミリアンはミルグラムに駆け寄り、状況を報告する。
「アーセナルキャリアは?」
「上空の安全が確認できたので、50アルレ上空で待機しています」
「わかった。コアはすでに確保している。あとはここの敵性生物を掃討するだけだ」
「了解しました!」
どれくらい戦ったのだろうか。感覚が麻痺するほどの激戦であった。ライフルの弾は尽きかけ、セプターのエネルギー残量もあと僅かであった。
「コアの回収を確認。撤退するぞ!」
ミルグラムから合図が出された。ミリアンは額に浮いた汗を拭いながら周囲を確認する。そこには敵性生物の死体しかなかった。だが、こちらの負傷者も数え切れない。
それでも、コアを回収したという達成感がそこにあった。
「退路を確保した! この先には敵性生物の反応なし!」
「油断するなよ。必ず敵性生物が襲ってくると思え!」
ミルグラムの指示にはっとする。帰還途中に敵性生物に襲われないとは限らない。コルベットに残したA3、A4小隊も心配であった。
もしコルベットが破壊されていれば現世界への帰還は不可能になる。最後まで油断は禁物であった。
負傷者を庇いながら作戦展開位置まで戻ると、負傷したA3、A4小隊の面々がほっとしたような表情で出迎えた。
「お前達、随分とボロボロだな。何があった?」
「お前らが行って暫くしたら、狼みたいな姿の敵性生物が大群で襲ってきやがった」
「まあ全部掃討したがな。この通り、コルベットは無事だ。死者も出ていない」
A3小隊の指揮を執っていたヘルムホルツとブルベイカーの報告を受ける。
やはり、敵性生物は我々が『招かれざる客』であることを本能的に察知しているようだった。
「コルベットに搭乗しろ! 帰還するぞ!」
帰りのコルベットの中では、行きと違って、皆疲れてはいるがどこか晴れやかな表情で外を眺めていた。
結節点《ノード》を通り、見慣れた現世界の大地が姿を現した。渦は最後尾のコルベットが現世界に姿を現したと同時に、揺らめきながら消えていった。
「やった……」
ミリアンは小さく呟いた。力の入らなかった拳に力が戻ってきたような気がした。
コルベット内のあちこちから感極まったような声が聞こえ、ついには大歓声となった。
ふと、ミリアンは家族の顔を思い出した。妻と子供が遠くから満面の笑みで手を振っている、そんな錯覚に囚われていた。
コルベットが施設に帰還すると、A中隊の面々はスターリング自らの出迎えを受けた。今回の渦の消滅に成功したことは、既に施設内に知れ渡っているようだった。
検疫を受けた後、A中隊には酒と食事が振る舞われた。最初の作戦を成功裏に収めたことを祝して、ささやかながらの宴が催されたのだった。
「なあ、ミリアン。お前、どうしてこの連隊に入ろうと思ったんだ」
ヘルムホルツが酒の勢いで聞いてきた。
「何だ? 改めて。そういうお前はどうなんだ?」
「俺か? 俺は新しい刺激が欲しかったんだ。ただの傭兵をやってるだけじゃ飽きちまってよ」
そう答えるヘルムホルツの目は遠くを見ていた。この男も何か他人には言えない事情を抱えているのかもしれない。
「ほら、次はお前の番だ」
「俺は家族のため、だな」
「家族か」
「あぁ……」
それ以上は答えることができなかった。家族がどうなったかについて、今は語りたくなかった。
連隊に来る前は故郷のみんなを守るために渦の魔物と戦っていた。その時から家族のことは意図的に考えないようにしていた。だが渦の消滅に成功した今、やっと家族のことを振り返ることができた。優しかった妻、生きていれば幼児期に入る子供、渦によって壊されたささやかな幸せ。
渦の消滅という確固たる事象が、どうすることもできなかった無力感を癒していくような気さえしていた。
「これで家族に対して胸を張れそうだ」
「そうだな。渦を消滅させることができた」
もう、あの時のような徒労感に苛まれることはない。
ミリアンはそう強く感じていた。
「—了—」