在年初魯比歐那聯合國女王亞歷山德莉安娜,將軍隊統帥權轉讓給梅爾茲堡國大公魯卡的事被大幅地報導。
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在轉讓統帥權的儀式之後,魯卡把梅爾茲堡的國政暫時交付給家臣團,自己則留在魯比歐那的首都阿巴隆竭盡心力地統合聯合國全體的軍力。
雖然在成為正式的軍事統帥者後想加強幾個戰線,但是聯合國中心人物的那些魯比歐那出身的政治家及貴族表現出強烈反感,反對魯卡意見的人也很多。
因此,魯卡心生一計。
「為了解放普羅維登斯,將展開大規模的作戰。從死者的軍隊奪回普羅維登斯向古朗德利尼亞帝國宣示我們聯合國是一個強大的國家」
自從擔任軍事統帥者起,魯卡已經不知道是第幾次在軍事會議中強力發表此宣言。
提出大規模作戰是為了讓獨佔聯合國政治的魯比歐那貴族們,因為作戰的成功而認可魯卡在軍事指揮上的強大力量。
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就這樣,普羅維登斯的解放作戰開始了。
從聯合國的各處集結的精英以先遣部隊進入。
為了對抗死者的軍隊,解放普羅維登斯,魯卡覺得需要相當的戰力。
於是,做為第二波軍力的是魯比歐那以最強聞名的奧羅爾隊與自己一同前往前線。
這個決定,也是為了讓古朗德利尼亞體認到,魯比歐那聯合國已經以聯合國該有的姿態整合在一起了。
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從先遣部隊得到了浮遊戰艦武裝船是死者軍隊發生源的情報,因此從武裝船附近的城壁開始進攻。
但是,等待著魯卡的卻是悽慘的景象。
當第二波軍力到達時,先發部隊已經有半數以上的人化作死者軍隊了。
從馮迪拉多出身的女性士兵口中得知,在這當中也包含了能和聖獸意志交流的少女帕茉。
隔天,魯卡便與奧羅爾隊一同展開了武裝船的攻堅。
沒有回來的聖獸與那叫史普拉多的少年。還有阿修羅看上死者的軍隊,襲擊了聯合國士兵的事實。
魯卡為了收拾各種突如其來的戰況變化四處奔走著。
後來,在名叫泰瑞爾的工程師的協助下,策畫了一個對付產生死者軍隊元凶,那艘武裝船的爆破作戰計劃。
將全權交給爆破部隊的隊長艾妲後,魯卡他們為了避免遭受爆炸時的波及,退到了普羅維登斯外的一個兵哨。
沒多久,普羅維登斯出現閃光與震耳欲聾的爆炸聲響。
「喔……!」
「這下子,那些死者們就……」
認為已經可以確定勝利,士兵們的情緒沸騰了起來。
「這樣就可以阻擋住死者軍隊的勢力了吧?」
魯卡注視著武裝船的方向,朝泰瑞爾問道。
「或許吧。但是,要確認是否破壞了結節點的話,不前往現場是不會清楚的」
「這樣啊……」
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爆破部隊在過了返回予定時間後仍然沒有回來。不過,大家原本就都理解這是個賭上性命的作戰。
無論如何,武裝船已經爆破完成。接下來得要去普羅維登斯調查那些還蠢蠢欲動的死者軍隊的情況。
魯卡召集了參加普羅維登斯解放作戰的部隊長們,擬定今後的作戰計劃。
「那麼,傷兵與後方支援部隊就留守這個兵哨。A分隊與B分隊前往調查武裝船。C分隊、D分隊兵分東西二路進行普羅維登斯的內部調查」
「是」
正中午,在命令下開始了普羅維登斯內部的再次攻堅。
這次,魯卡並沒有留守在後方,而是決定與A分隊、B分隊一同前往武裝船進行調查。
「大公,太危險了!請再考慮一下」
「目前的情勢瞬息萬變,現在最重要的是在現場馬上決定」
「……了解了。胡達拉中士、亞瑟上等兵,我命令你們護衛魯卡大公」
聽到部隊長的命令,二位軍人從隊伍中出列。胡達拉是中年人,亞瑟則是正值壯年,對魯卡來說,這二位都還算是年輕的士兵。
「他們在從軍之前都有在普羅維登斯居住過。要是有個萬一的時候是最可靠的士兵。胡達拉中士、亞瑟上等兵,請無論如何都要守護好魯卡大公」
「是。被派予重責大任,備感光榮」
「大公的貴體,我們必定誓死守護」
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在爆炸中心位置看到了武裝船的殘骸。
泰瑞爾在士兵們的掩護下,拿出了球狀的物體。操作裝置後,在半空中浮現出了與其連動的球狀物體,並向武裝船的方向飛去。
「結節點正在消失中。大概貝琳達也消失了」
「所以,這可以解讀為死者的軍隊再也不會增加了是嗎?」
「……如果那個叫阿修羅男子沒有在做什麼的話,是的」
泰瑞爾的話讓魯卡皺起了眉頭。
已經大致可以確定阻止了死者軍隊的現在,令人擔心的是阿修羅。究竟阿修羅為什麼想要死者的力量呢?至今仍然不明白他不惜破壞自古以來的盟約究竟是為了什麼。
不過,既然泰瑞爾所說的結節點消失了,今後可能發生的緊急事態,應該就只有阿修羅的突襲了吧。
「A分隊繼續進行阿修羅的搜索,B分隊跟泰瑞爾一同繼續調查武裝船」
魯卡將武裝船的調查交給B分隊跟泰瑞爾,自己打算回到後方的兵哨。
就在這個時候。
隨著低沉的呻吟聲,死者的軍隊像是要包圍部隊般地出現了。
「怎麼會!?」
「就算是沒殲滅的,數量也太多了吧!」
「等等,那是後方支援部隊的裝備!!」
就如某人的叫喊聲所說。新出現的死者軍隊穿戴的是,應該在普羅維登斯外待機的後方支援部隊的裝備。
「喂,你這傢伙!這是怎麼一回事!」
「結節點正在消失。怎麼會有這樣的……」
「尋問跟調查都之後再說!撤退!」
魯卡的聲音響起,迅速地向各部隊發出指令。魯卡也在胡達拉跟亞瑟的守護下開始撤退。
但是,事態可以說是最糟的情況。
「突破!」
死者軍隊的勢力逐漸增長。兵士們接二連三的被死者的軍隊給吞沒,然後化作他們的一份子。
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撤退途中,在前方發現了被擊散的死者軍隊。在那裡的是聖獸與死者軍隊為敵,一步也不退讓的戰鬥著。
「救出聖獸殿下!」
一瞬間的判斷。要是救出聖獸,以回歸哥爾嘉的條件讓聖獸同行的話,自己這些人獲救的可能性也會提高。
沒有看到被叫做史普拉多的少年。是在被阿修羅襲擊時發生了什麼吧,無法跟聖獸疏通意志的現在,就連提問都沒辦法。
聖獸像是理解了魯卡的話語,就跟在魯卡他們後面一同行動了。
以胡達拉,魯卡,聖獸,亞瑟順序在狹窄的巷子裡奔行。
泰瑞爾跟其他士兵都怎麼了,是否有活下來嗎。就連在意這些事情的餘裕都沒有了。
「大公、這附近有大型的食品量販店。應該可以在倉庫確保食物跟飲水」
「嗯,這樣子啊……」
看來長期戰是不可避免了。採用胡達拉的意見,三人跟一匹往量販店前進。
在胡達拉的引導下進入大型量販店,前往倉庫。在地下找到了目標的地點。
讓亞瑟跟聖獸把風,魯卡跟胡達拉進入地下室。那裡還留有能夠長期保存的酒及乾糧。
「大公,胡達拉軍曹!死者們來了!」
確保食物的安心就那麼一瞬。亞瑟驚恐的告知死者軍隊來襲。
胡達拉走出倉庫,將接著要走出來的魯卡推回裡面。亞瑟也將聖獸誘導進倉庫。
「大公,不可以離開這邊!」
「什麼……!?」
胡達拉跟亞瑟將魯卡跟聖獸留在倉庫,就要將鐵門給關上。
「等等!你們想做什麼!」
「死者的軍隊並不太聰明。我們將成為誘餌將死者們給引走」
「我不允許這樣的行為。留在這邊繼續護衛老夫,這是命令!」
魯卡突然以嚴厲的口吻下命令。自己可還沒有傲慢到,可以為了保護自分而讓年輕人出去拚上性命了。
「請原諒我們違反命令。要是大公在這邊遇害的話,聯合國的未來就沒希望了。請您務必理解」
「大公,請活下去守護魯比歐那……不,是守護聯合國」
「聖獸大人,魯卡大公跟我們的未來就麻煩您了」
胡達拉跟亞瑟說完,就將魯卡跟聖獸推進倉庫,將堅固的鐵門給關上了。
當魯卡想要靠近門從內側將門打開,聖獸就緊緊盯著他。看起來聖獸是要完成胡達拉們的願望了。
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從那之後之後不知道過了多久,魯卡過著曖昧不清的時間。
雖然這個地方不缺食物跟水,但是外面的樣子只能依靠倉庫天花板附近的窗戶聽到的聲音來判斷。
魯卡無法糟蹋胡達拉跟亞瑟的願望。不管怎樣都要活下來結束戰爭,並且拯救國家。
心裡只想著這件事,現在只能選擇忍耐了。
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「─完─」
3399年 「未来」
ルビオナ連合国女王アレキサンドリアナがメルツバウ国大公リュカに軍の統帥権を譲渡したと大々的に報じられたのは、年が明けてすぐのことだった。
統帥権譲渡の式典後、リュカはメルツバウの国政を一時的に家臣団に任せ、自身はルビオナの首都アバロンに残って連合国全体の軍事力を統括すべく砕身していた。
正式な軍事統帥者となった後にいくつかの戦線を補強しようとしたが、以前から連合国の中心にいたルビオナ出身の政治家や貴族達からの反感は凄まじく、リュカの意見に反発する者も多かった。
そこで、リュカは一計を画した。
「プロヴィデンスを解放するための大規模作戦を展開する。プロヴィデンスを死者の軍勢から取り戻し、グランデレニア帝國に我々連合国が一つの強大な国家であることを知らしめるのだ」
軍事統帥者となってから何度目かの軍事会議で、リュカは力強く宣言した。
大規模作戦を提示したのは、連合国の政治を独占せんとするルビオナの貴族達に対し、作戦を成功させることでリュカの軍事的采配の強大さを認めさせるためであった。
そうして、プロヴィデンス解放作戦は開始された。
連合国の各所から精鋭が集められ、第一陣として送り込まれた。
死者の軍勢に対抗してプロヴィデンスを解放するためには、それだけの戦力が必要であるとリュカは考えていた。
そして、第二陣としてルビオナ最強と名高いオーロール隊と自身が前線に赴いた。
この決定は、そうすることでルビオナ連合国が連合国として一つに纏まっていることをグランデレニアに誇示する思惑もあった。
第一陣から浮遊戦艦ガレオンが死者の軍勢の発生源であるとの情報を受け、ガレオンがある場所に近い城壁からの突入を開始する。
しかし、リュカを待ち受けていたのは凄惨たる光景であった。
第二陣が辿り着いた時、第一陣の半分以上が死者の軍勢と化していた。
その中には聖獣と意志を交わせる少女パルモの姿もあったと、フォンデラート出身の女性兵から聞かされた。
翌日にはオーロール隊を伴ったガレオン突入作戦が展開された。
戻らなかった聖獣とスプラートという少年。アスラが死者の軍勢に魅入られ、連合国兵を襲ったという事実。
目まぐるしく移り変わる戦況をどうにかして収めるべく、リュカは奔走した。
そして、タイレルというエンジニアの協力の下、死者の軍勢を生み出す元凶であるガレオンの爆破作戦を計画した。
エイダを隊長とした爆破部隊に全てを任せ、リュカ達は爆発の余波を避けるためプロヴィデンスの外にある兵站へと下がっていた。
暫くして、閃光と共に耳を劈くような爆音がプロヴィデンスから響いてきた。
「おぉ……!」
「これで、死者共はもう……」
確定したと思われる勝利に、兵士達は沸き上がる。
「これで死者の軍勢の勢いを止めることはできたのだな?」
リュカはガレオンの方角を見つめるタイレルに問う。
「おそらくは。但し、結節点が破壊されたことを確認するためには、現地へ向かわなければなりませんが」
「そうか……」
爆破部隊は帰還予定時刻を過ぎても戻ってこなかった。だが、元より命を賭しての作戦であることは誰もが理解していた。
いずれにせよ、ガレオンの爆破は完了している。次はプロヴィデンスに未だ蠢く死者の軍勢の動向を調査せねばならない。
プロヴィデンス解放作戦に参加している部隊長達を招集し、リュカは今後の作戦を練った。
「では、負傷兵と後方支援部隊はこの兵站に残留。A分隊とB分隊はガレオンの調査へ。C分隊、D分隊は東西に分かれてプロヴィデンスの内部調査をせよ」
「はっ」
正午、号令と共にプロヴィデンス内部への再突入が開始された。
リュカは後方に残らず、A分隊、B分隊と共にガレオンの調査に同行することを決めていた。
「大公、危険すぎます! どうかご再考を」
「事態は刻一刻と変化する。今は現場での早急な判断が至要だ」
「……承知しました。フフタラ軍曹、アッシャー上等兵、リュカ大公の護衛任務を命ずる」
部隊長により二人の軍人が呼び出された。フフタラは中年の、アッシャーは壮年の、リュカから見ればまだまだ若い兵士であった。
「彼らは従軍する前にプロヴィデンスに居住していた経験があります。万が一の際には最も頼れる兵士です。フフタラ軍曹、アッシャー上等兵。リュカ大公を何があってもお守りするように」
「はっ。大役に選ばれたこと、光栄に思います」
「大公の御身は、我々が必ずや守り通します」
爆心地であるガレオンの残骸が見えた。
タイレルが兵士達に見張られながら、球状の物体を取り出す。デバイスを操作すると、それに連動するようにして球状の物体は宙に浮かびあがり、ガレオンの方向へと飛んでいく。
「結節点は消失しています。おそらくベリンダも」
「では、これ以上死者の軍勢は生み出されないという見解でよろしいか?」
「……アスラという男が何かしていなければ、ですが」
タイレルの言葉にリュカは眉を顰めた。
死者の軍勢の阻止がほぼ確定した今、気掛かりなのはアスラのことだ。何故アスラが死者の力を欲したのか。古よりの盟約を破棄してまでアスラが何を求めたのか、判然としないままでいた。
だが、タイレルの言う結節点なるものが消失した以上、今後起こり得る緊迫事態とは、アスラの急襲のみであろう。
「A分隊はそのままアスラの捜索、B分隊はタイレルと共に引き続きガレオンの調査をせよ」
リュカはガレオンの調査をB分隊とタイレルに任せ、自らは後方の兵站へと戻ることにした。
その時だった。
低い唸り声と共に、部隊を囲むようにして死者の軍勢が現れた。
「そんな!?」
「殲滅し損ねたにしても、数が多すぎるぞ!」
「待て、あれは後方支援部隊の装備だ!!」
誰かの叫び声の通りであった。新たな死者の軍勢はプロヴィデンスの外で待機している筈の後方支援部隊の装備を纏っている。
「おい、貴様! どういうことだ!」
「結節点は消失しています。このようなことが……」
「尋問も調査も後にせよ! 撤退だ!」
リュカの声が響き、速やかに各部隊に指令が伝えられる。リュカもフフタラとアッシャーに守られながら撤退を開始する。
だが、事態は最悪と言ってよかった。
「突破しろ!」
死者の軍勢は勢いを増していた。兵士達は次々と死者の軍勢に飲まれ、それらと同じものと化していった。
撤退の途中、前方で蹴散らされる死者の軍勢が目に入った。そこでは聖獣が死者の軍勢を相手取り、一歩も引かぬ戦いをしていた。
「聖獣殿をお救いせよ!」
咄嗟の判断だった。聖獣を救い、コルガーへの帰還を条件に同行していただければ、自分達が助かる可能性は上がると判断してのことだった。
スプラートという少年の姿は無かった。アスラに襲われた際に何かあったのだろうが、聖獣と意志疎通が不可能である今は、質すことさえ適わない。
聖獣はリュカの言葉を理解したようで、リュカ達と共に行動すべく後を付いてきた。
フフタラ、リュカ、聖獣、アッシャーの順で狭い路地裏を駆ける。
タイレルや他の兵はどうなったのか、どうにかして生き残っているのか。その様なことも気にしている余裕は無かった。
「大公、この近くに大型の食品量販店があります。倉庫で食料と水の確保ができる筈です」
「む、そうだな……」
長期戦になることは目に見えていた。フフタラの意見を採用し、三人と一匹は量販店へと向かう。
フフタラの先導で大型量販店へと入り、倉庫を目指す。地下に目当ての場所はあった。
アッシャーと聖獣を見張りに立たせ、フフタラと共に地下室へ入る。そこには長期保存可能な酒や乾物などの食料が残されていた。
「大公、フフタラ軍曹! 死者共がやって来ます!」
食糧確保に安堵したのも束の間だった。アッシャーが血相を変えて死者の軍勢の到来を告げる。
フフタラが倉庫を出ると、次いで出ようとしたリュカを中へと押しやる。アッシャーも聖獣を促すようにして倉庫へと誘導した。
「大公、ここから動いてはいけません!」
「なに、を……!?」
フフタラとアッシャーはリュカと聖獣を倉庫に残したまま、鉄の扉を閉めようとする。
「待て! 何をする気だ!」
「死者の軍勢はあまり賢くありません。私達が囮になり、死者共をここから引き離します」
「そのようなことは許さん。ここでワシの護衛を継続せよ、これは命令である!」
リュカは咄嗟に厳しい口調で命令する。自分を守るために若い者が命懸けの行動に出るのを良しとできるほど、傲慢ではなかった。
「命令違反をどうかお許し下さい。ここで大公が殺されてしまえば、連合国の未来は潰えてしまいます。どうかご理解をお願いします」
「大公、生き延びてルビオナ……いえ、連合国を守ってください」
「聖獣様、リュカ大公を、我々の未来を頼みます」
フフタラとアッシャーは口々に言うと、リュカと聖獣を倉庫に押し込め、頑丈な鉄の扉を閉めてしまった。
内側から開けようと扉に近付くと、聖獣がリュカを睨みつける。聖獣はフフタラ達の願いを全うする腹積もりであることが伺えた。
それからどれ程の時間が過ぎたのか、リュカは曖昧な時を過ごしていた。
場所が場所だけに食料や水に困ることはなかったものの、外の様子は倉庫の天井に近い場所にある窓から聞こえてくる音でしか判断できなかった。
リュカはフフタラとアッシャーの願いを無下にはできなかった。何としても生き延びて戦争を終わらせ、国を救わねばならない。
それだけを胸に、今は耐えることを選んだのだった。
「—了—」
ルビオナ連合国女王アレキサンドリアナがメルツバウ国大公リュカに軍の統帥権を譲渡したと大々的に報じられたのは、年が明けてすぐのことだった。
統帥権譲渡の式典後、リュカはメルツバウの国政を一時的に家臣団に任せ、自身はルビオナの首都アバロンに残って連合国全体の軍事力を統括すべく砕身していた。
正式な軍事統帥者となった後にいくつかの戦線を補強しようとしたが、以前から連合国の中心にいたルビオナ出身の政治家や貴族達からの反感は凄まじく、リュカの意見に反発する者も多かった。
そこで、リュカは一計を画した。
「プロヴィデンスを解放するための大規模作戦を展開する。プロヴィデンスを死者の軍勢から取り戻し、グランデレニア帝國に我々連合国が一つの強大な国家であることを知らしめるのだ」
軍事統帥者となってから何度目かの軍事会議で、リュカは力強く宣言した。
大規模作戦を提示したのは、連合国の政治を独占せんとするルビオナの貴族達に対し、作戦を成功させることでリュカの軍事的采配の強大さを認めさせるためであった。
そうして、プロヴィデンス解放作戦は開始された。
連合国の各所から精鋭が集められ、第一陣として送り込まれた。
死者の軍勢に対抗してプロヴィデンスを解放するためには、それだけの戦力が必要であるとリュカは考えていた。
そして、第二陣としてルビオナ最強と名高いオーロール隊と自身が前線に赴いた。
この決定は、そうすることでルビオナ連合国が連合国として一つに纏まっていることをグランデレニアに誇示する思惑もあった。
第一陣から浮遊戦艦ガレオンが死者の軍勢の発生源であるとの情報を受け、ガレオンがある場所に近い城壁からの突入を開始する。
しかし、リュカを待ち受けていたのは凄惨たる光景であった。
第二陣が辿り着いた時、第一陣の半分以上が死者の軍勢と化していた。
その中には聖獣と意志を交わせる少女パルモの姿もあったと、フォンデラート出身の女性兵から聞かされた。
翌日にはオーロール隊を伴ったガレオン突入作戦が展開された。
戻らなかった聖獣とスプラートという少年。アスラが死者の軍勢に魅入られ、連合国兵を襲ったという事実。
目まぐるしく移り変わる戦況をどうにかして収めるべく、リュカは奔走した。
そして、タイレルというエンジニアの協力の下、死者の軍勢を生み出す元凶であるガレオンの爆破作戦を計画した。
エイダを隊長とした爆破部隊に全てを任せ、リュカ達は爆発の余波を避けるためプロヴィデンスの外にある兵站へと下がっていた。
暫くして、閃光と共に耳を劈くような爆音がプロヴィデンスから響いてきた。
「おぉ……!」
「これで、死者共はもう……」
確定したと思われる勝利に、兵士達は沸き上がる。
「これで死者の軍勢の勢いを止めることはできたのだな?」
リュカはガレオンの方角を見つめるタイレルに問う。
「おそらくは。但し、結節点が破壊されたことを確認するためには、現地へ向かわなければなりませんが」
「そうか……」
爆破部隊は帰還予定時刻を過ぎても戻ってこなかった。だが、元より命を賭しての作戦であることは誰もが理解していた。
いずれにせよ、ガレオンの爆破は完了している。次はプロヴィデンスに未だ蠢く死者の軍勢の動向を調査せねばならない。
プロヴィデンス解放作戦に参加している部隊長達を招集し、リュカは今後の作戦を練った。
「では、負傷兵と後方支援部隊はこの兵站に残留。A分隊とB分隊はガレオンの調査へ。C分隊、D分隊は東西に分かれてプロヴィデンスの内部調査をせよ」
「はっ」
正午、号令と共にプロヴィデンス内部への再突入が開始された。
リュカは後方に残らず、A分隊、B分隊と共にガレオンの調査に同行することを決めていた。
「大公、危険すぎます! どうかご再考を」
「事態は刻一刻と変化する。今は現場での早急な判断が至要だ」
「……承知しました。フフタラ軍曹、アッシャー上等兵、リュカ大公の護衛任務を命ずる」
部隊長により二人の軍人が呼び出された。フフタラは中年の、アッシャーは壮年の、リュカから見ればまだまだ若い兵士であった。
「彼らは従軍する前にプロヴィデンスに居住していた経験があります。万が一の際には最も頼れる兵士です。フフタラ軍曹、アッシャー上等兵。リュカ大公を何があってもお守りするように」
「はっ。大役に選ばれたこと、光栄に思います」
「大公の御身は、我々が必ずや守り通します」
爆心地であるガレオンの残骸が見えた。
タイレルが兵士達に見張られながら、球状の物体を取り出す。デバイスを操作すると、それに連動するようにして球状の物体は宙に浮かびあがり、ガレオンの方向へと飛んでいく。
「結節点は消失しています。おそらくベリンダも」
「では、これ以上死者の軍勢は生み出されないという見解でよろしいか?」
「……アスラという男が何かしていなければ、ですが」
タイレルの言葉にリュカは眉を顰めた。
死者の軍勢の阻止がほぼ確定した今、気掛かりなのはアスラのことだ。何故アスラが死者の力を欲したのか。古よりの盟約を破棄してまでアスラが何を求めたのか、判然としないままでいた。
だが、タイレルの言う結節点なるものが消失した以上、今後起こり得る緊迫事態とは、アスラの急襲のみであろう。
「A分隊はそのままアスラの捜索、B分隊はタイレルと共に引き続きガレオンの調査をせよ」
リュカはガレオンの調査をB分隊とタイレルに任せ、自らは後方の兵站へと戻ることにした。
その時だった。
低い唸り声と共に、部隊を囲むようにして死者の軍勢が現れた。
「そんな!?」
「殲滅し損ねたにしても、数が多すぎるぞ!」
「待て、あれは後方支援部隊の装備だ!!」
誰かの叫び声の通りであった。新たな死者の軍勢はプロヴィデンスの外で待機している筈の後方支援部隊の装備を纏っている。
「おい、貴様! どういうことだ!」
「結節点は消失しています。このようなことが……」
「尋問も調査も後にせよ! 撤退だ!」
リュカの声が響き、速やかに各部隊に指令が伝えられる。リュカもフフタラとアッシャーに守られながら撤退を開始する。
だが、事態は最悪と言ってよかった。
「突破しろ!」
死者の軍勢は勢いを増していた。兵士達は次々と死者の軍勢に飲まれ、それらと同じものと化していった。
撤退の途中、前方で蹴散らされる死者の軍勢が目に入った。そこでは聖獣が死者の軍勢を相手取り、一歩も引かぬ戦いをしていた。
「聖獣殿をお救いせよ!」
咄嗟の判断だった。聖獣を救い、コルガーへの帰還を条件に同行していただければ、自分達が助かる可能性は上がると判断してのことだった。
スプラートという少年の姿は無かった。アスラに襲われた際に何かあったのだろうが、聖獣と意志疎通が不可能である今は、質すことさえ適わない。
聖獣はリュカの言葉を理解したようで、リュカ達と共に行動すべく後を付いてきた。
フフタラ、リュカ、聖獣、アッシャーの順で狭い路地裏を駆ける。
タイレルや他の兵はどうなったのか、どうにかして生き残っているのか。その様なことも気にしている余裕は無かった。
「大公、この近くに大型の食品量販店があります。倉庫で食料と水の確保ができる筈です」
「む、そうだな……」
長期戦になることは目に見えていた。フフタラの意見を採用し、三人と一匹は量販店へと向かう。
フフタラの先導で大型量販店へと入り、倉庫を目指す。地下に目当ての場所はあった。
アッシャーと聖獣を見張りに立たせ、フフタラと共に地下室へ入る。そこには長期保存可能な酒や乾物などの食料が残されていた。
「大公、フフタラ軍曹! 死者共がやって来ます!」
食糧確保に安堵したのも束の間だった。アッシャーが血相を変えて死者の軍勢の到来を告げる。
フフタラが倉庫を出ると、次いで出ようとしたリュカを中へと押しやる。アッシャーも聖獣を促すようにして倉庫へと誘導した。
「大公、ここから動いてはいけません!」
「なに、を……!?」
フフタラとアッシャーはリュカと聖獣を倉庫に残したまま、鉄の扉を閉めようとする。
「待て! 何をする気だ!」
「死者の軍勢はあまり賢くありません。私達が囮になり、死者共をここから引き離します」
「そのようなことは許さん。ここでワシの護衛を継続せよ、これは命令である!」
リュカは咄嗟に厳しい口調で命令する。自分を守るために若い者が命懸けの行動に出るのを良しとできるほど、傲慢ではなかった。
「命令違反をどうかお許し下さい。ここで大公が殺されてしまえば、連合国の未来は潰えてしまいます。どうかご理解をお願いします」
「大公、生き延びてルビオナ……いえ、連合国を守ってください」
「聖獣様、リュカ大公を、我々の未来を頼みます」
フフタラとアッシャーは口々に言うと、リュカと聖獣を倉庫に押し込め、頑丈な鉄の扉を閉めてしまった。
内側から開けようと扉に近付くと、聖獣がリュカを睨みつける。聖獣はフフタラ達の願いを全うする腹積もりであることが伺えた。
それからどれ程の時間が過ぎたのか、リュカは曖昧な時を過ごしていた。
場所が場所だけに食料や水に困ることはなかったものの、外の様子は倉庫の天井に近い場所にある窓から聞こえてくる音でしか判断できなかった。
リュカはフフタラとアッシャーの願いを無下にはできなかった。何としても生き延びて戦争を終わらせ、国を救わねばならない。
それだけを胸に、今は耐えることを選んだのだった。
「—了—」