柯布面前站著二位組織裡的士兵,柯布目露凶光地盯著他們,是因為覺得他們的說詞根本是在胡言亂語。
「失敗就是失敗,我還是會給你們挽回名譽的機會。但是我絕對不允許欺騙或背叛」
柯布斬釘截鐵地說道。
「我沒有說謊,大哥,那個……真的是有個鐵怪人來襲擊了」
「我的確也看到了」
二位組織裡的士兵鼻青臉腫地回答柯布。
「哼,你們大概是嗑藥了吧」
在一旁的亨利插嘴說道。
「沒有,那個時候是清醒的」
「那,你們為什麼畏畏縮縮地逃走了!」
被襲擊的酒吧辦公室是當作暫時保管貨的地方,來了這二個傢伙說的什麼『鐵怪人』造成了大騷動。貨當然被警察給沒收了,想要帶回在這次騷動裡被逮捕的同伴及沒收的貨是很困難的。
「對那傢伙用槍也沒用,力氣也像個怪物……」
「喂,你們是藥還沒退嗎!」
亨利抓緊衣領舉起其中一位士兵。
「好了」
柯布舉起一隻手制止了亨利。
雖然造成了一個小支部瓦解,但問題不在這裡。
我早就預料到其他的幹部會對我做什麼,他們可能拿這次事件做理由,從我手中把貨物的權益給奪走。
「我絕對不會光讓他們欺壓!」
柯布伸出手指怒吼。
「絕對要給我找出那個傢伙,不管是什麼怪人還是怪物,背後一定有指使者」
亨利點點頭,戳了戳受挫的士兵後,走出了房間。
|
地盤被襲擊已經不是第一次了,但這次令人不爽的是,被新聞報導成是正義之士所為。
這個世界裡充滿了背叛與暴力。柯布對於這次的事,首先懷疑的是PrimeOne裡嫉妒自己的幹部所為。
黑暗的情緒一波一波地湧了上來。
柯布一口氣喝乾了酒後,從抽屜裡拿出了匕首。雖然是從垃圾場檢來的東西,但在那之後一直隨身攜帶。
生銹匕首已經被仔細研磨過,也新做了適合它的刀鞘。外表看起來也不錯,做為實用品也很中意。
看著刀刃時,情緒會不可思議地平靜下來,頭腦也覺得清晰多了。
無論是暴力還是背叛,都無須猶豫。柯布一直這樣規律著自己。
首領不相信我這個賺錢的。組織裡大家都守著自己的地位,這是相互將資產吞食的遊戲。拉攏強者,擴張自己的利益。
首領也不過就是擁有權威這項資產的玩家。我的資產是金錢與藥物,周圍的幹部都是他信用的老人,那是因為弱者的連帶感。
柯布心想,一定要將這次的危機化為轉機。
|
那怪人就像是慣例似地在世間引起著騷動。『打倒黑道的英雄義警』、『守護弱者的戰士義警』。暫且不管標題內容,事實的確如此。
雖然我已經調查過其他幹部,但目前卻還沒有發現他們之間有何關聯。
幾次有機會追上怪人,但至今仍是徒勞無功。
|
而且,其他的組織也開始傳出生意被妨礙的消息。
|
在定期的集會上首領難過的說道。
「那個什麼義警的,找到他的來歷沒有?」
幹部們沒有任何回應。
「他一定會落到我設的網裡,我絕對會收拾他的」
柯布冷靜地說道。
「除了Five,UpStars的地盤也傳出被害的消息」
其他幹部說道。
「就算他有去破壞別的組織,被他這樣搞,我們的生意也完蛋了」
首領說道。
「我知道」
柯布接受任務。
「就靠你了」
這次的集會,討論出要改變取藥物的方法。
只要那個怪人還在亂,想拉攏警察就會有限制,加上那個什麼義警非常強,聽說刀槍不入。
老幹部說現在時機不好,最好離藥物遠一點,這對其他幹部雖有利,但是只是柯布受害。
|
亨利打電話來了。
說是UpStars的庫恩打來的。
「怎麼了?」
「我們想跟您討論義警的事」
「知道了」
柯布聽到後,開始懷疑義警可能是UpStars幹的,庫恩跟那個女首領感覺就跟一般人不同。
「我去見見UpStars的幹部」
「好的,我也跟著去」
「不了,我一個人沒問題」
「真的假的?不留意那些傢伙的行動不行啊」
「如果是陷阱就陷阱吧,我有我的考量」
柯布從抽屜拿出刀子收在背後,穿上外套。
|
「關於義警一事,聽說你們也受了其害?」
柯布在旅館內的一間房間中接受款待。
「是的,聽說您那邊也受了很大損害」
庫恩單手拿著酒杯坐在柯布對面。
「生意上受到很大損害,跟警察間的關係也不太好」
「義警是警察那邊的人嗎?」
「不,應該不可能。但是考慮到他的動機,很多人都這麼認為」
庫恩繼續說道。
「羅占布爾克的警察都跟黑道好好相處,那傢伙目的之一可能是為了要破壞這個關係吧」
「穿著盔甲的怪物,不對應該說是人型機器嗎,那東西到底為什麼襲擊我們?」
柯布喝乾了酒。
「這我們也無從得知,但是碧姬媞大人在關注他」
從庫恩的談吐中,感覺不出緊張感。真是個奇妙的男人。
「他是誰?跟其他Five有牽扯嗎?」
雖然所有組織都有被害,但是那些也有可能只是幌子。
「請不要焦急,雖然跟其他Five的關係不明,世間之事可能都與表面上看到的不同」
「說的真玄啊,為什麼叫我來?」
「我希望您暫時能放任義警」
「你說什麼?」
「我們UpStars相信的Five成員只有您而已,所以我們希望您能協助我們」
「我有說過我相信你們過嗎?」
「您有好好地購入我們的商品,也沒有攻擊過我們的地盤」
「因為是生意,約定就是約定」
感覺庫恩奇妙的說話方式會將人吸引住,但是我沒有要跟他們搞好關係的意思,我的目標只是要取得在組織中的地位。
「我們不是在要求您為我們做什麼」
「我也是PrimeOne的幹部,武鬥派的我不能就這樣一直光被打,而且還有面子問題」
「是沒錯,但是如果那個義警真的是『無敵』呢?」
我瞬間沒有話可講,確實這好幾個月,手下跟其他組織都受害,但是沒有聽說有半個人可以傷到義警。
「如果是的話,有什麼方法嗎?」
「方法是有,但是需要先找出他的真面目,不對,是要找出在背後操控之人」
「如果我能找到就不需要靠你們了」
「我們一定會找出來的」
「哼,所以我暫時不要跟那傢伙打就好?」
「是的,還有一點,您不能被其他人打倒」
庫恩再將酒倒入柯布的杯子裡。
「我才不會犯蠢」
「請您慎重一些,那傢伙應該會趁勢加強攻擊,您的組織應該先藏匿一陣子」
「真是屈辱」
柯布自嘲地說道後,就把酒喝乾了。
「但是,沒有別的方法了」
柯布看著玻璃杯說道。
「……抓出他的真面目後,也會通知我吧?」
柯布知道自己有點順了庫恩的意,但是他說的話感覺沒有錯。
「當然。功勞就讓給您了」
「還真好心啊」
「您有我們協助您的價值」
庫恩冷靜地說道。
|
在那之後過了半年,柯布在組織內的行動相當消極。
在那期間,義警也一直在破壞組織。有許多的士兵被幹掉,也有好幾位幹部被抓走。一部份的組織還被破壞到面臨解散危機,但柯布還是在幹部會議上強推,不只Five包括UpStars也應該要一起合作抵抗。
|
「哼,如果UpStars在場的話,剩下的Five會出現嗎」
老幹部否定了柯布的意見。
「不,我跟Serpiente、Feroz以及Chiara都已經談好了」
「Serpiente?那些傢伙不是最看不順眼UpStars嗎」
「繼承者的里卡多打算改變組織方針的樣子,我已經跟他們談好了」
「只剩下Pantoliano了嗎」
別的幹部開口說道。
「因為他們跟我們從很久以前就有仇」
「要跟他們聯絡的話,可能要靠Chiara的首領了」
看來連幹部們都開始懦弱起來了,終於願意配合我的意見。
「那麼就以柯布為中心,與Five還有PrimeOne合作看看嗎?首領」
看來我順利拿到負責權了。
「說的也是,這次就交給年輕人吧」
這時我覺得首領老了,一直以來支配著這個魔都的黑暗街帝王,如今因陷入慘況而洩氣。
柯布完全沒有打算接受這樣的情況,但是Five整體的力量已經被減弱,警察最近也不接受賄賂了。完全站到義警那邊去了。
但是,只要除掉義警,就有一口氣擴張地盤的機會。
柯布打算打倒首領,當上PrimeOne,不對,是站在黑暗街的頂點。
|
然後,庫恩的消息終於來了。
「13區的養護院中,有一位叫伊芙琳的少女」
「是那傢伙的家人嗎?」
「是的,接下來就交給您了」
「下次那傢伙出現的時候,就可以利用那少女對吧」
「方法交給您。因為我們很看好您的做事方式」
真是奇怪的誇獎,但是感覺不差。而且這下,終於可以把義警那傢伙收拾掉了。
|
「─完─」
3373年 「モブスターズ」
コッブの目の前に二名のソルジャーが並んでいた。彼らを見つめるコッブの顔は険しい。
話の内容がまるで出鱈目に思えたからだ。
「失敗は失敗だ。それでも汚名返上のチャンスは与えられる。だがな、嘘や裏切りは絶対に許されねえ」
コッブは言い切った。
「嘘はついてません。アニキ、あの……マジで鉄の怪人が襲ってきやがったんです」
「俺も確かに見ました」
二名のソルジャーは腫れた顔をコッブに向けてそう答えた。
「ふん。大方クスリをやってたんだろう」
側近のヘイリーが横槍を入れた。
「いえ、そん時はシラフでした」
「じゃあ、何でおめおめと逃げ帰ってんだよ!」
襲われた酒場の事務所はブツの一時保管場所として使っていた。こいつらの言う『鉄の怪人』とやらがやって来て大騒ぎになった。当然、ブツは警察に押さえられてしまった。こんな騒ぎの中では、捕まった連中や押収されたブツを取り返すのはかなり難しい。
「奴は銃も効かねえし、力も化物みてえで……」
「おい、まだクスリが抜けてねえのかテメェは!」
ヘイリーは片方のソルジャーを首元から捩じ上げた。
「もういい」
片手を上げてコッブはヘイリーを制した。
小さな支部の一つが潰された形になったが、問題はそこではなかった。
他の幹部から突き上げられることが容易に予想された。あいつらはこれを理由に、オレからブツの権益を奪おうとするだろう。
「やられっぱなしってのは、絶対に有り得ねえぞ!」
コッブは指を突き付けて怒鳴った。
「やった奴を必ず探し出せ。怪人だが怪物だが知らねえが、背後で糸を引いてる奴が必ずいる」
ヘイリーは頷き、しょぼくれたソルジャー達を小突くと部屋から出て行った。
シマが襲われたのは初めてではなかったが、今回気に食わないのは、正義漢とやらに一方的にやられたと報道されたことだった。
この世界は裏切りと暴力の繰り返しだ。コッブは今回の件についても、自分を妬むプライムワン内の幹部を真っ先に疑っていた。
どす黒い感情が次から次へと湧き出てくる。
コッブは酒を呷ると、引き出しからナイフを取り出した。ゴミ捨て場で拾ったものだが、あの一件以来いつも持ち歩いていた。
錆びていたブレードを綺麗に研ぎ直し、それらしいシースも新調した。見た目は悪くなく、実用品としても気に入っていた。
エッジを見つめていると不思議と怒りが収まり、頭が冴えるような気がした。
裏切りも暴力も躊躇はしない。コッブは自分自身をそう律してきた。
ボスは稼ぎ頭であるオレを信じちゃいない。組織は誰もが己の地位を守ろうとしている。
これは互いの資産を食い合うゲームだ。強いものに味方し、自分の利益を広げる。
ボスは権威という資産を持ったプレイヤーに過ぎない。オレの資産は金とドラッグだ。周りの幹部は古参としての信用、それと弱者故の連帯感といったところだ。
この窮地を必ず好機に繋げなければならない。コッブはそう思った。
毎週のように例の怪人が世間を騒がすようになった。『マフィアを倒す英雄ヴィジランテ』、『弱者を守る戦士ヴィジランテ』。見出しの内容はともかく、起きた事実はその通りだ。
他の幹部達を調べさせていたが、今のところ繋がりは見つかっていない。
何度か怪人を追うチャンスはあったが、今のところ全てが徒労に終わっていた。
そして、他の組織でも商売を邪魔される例が出始めた。
定例の会合でボスは苦々しく言った。
「例のヴィジランテとやら、裏は取れたのか?」
幹部達からは何の声も上がらなかった。
「いずれこっちの網に掛かります。必ず仕留めてみせますよ」
コッブは静かに言った。
「他のファイヴだけじゃなく、アップスターズのシマでも被害が出てるらしいな」
他の幹部が言った。
「だからって、あんなのにでかい顔されるようじゃ、俺達の商売は終わるぞ」
ボスは言った。
「わかってます」
コッブは請け負った。
「頼んだぞ」
今回の会合で、ドラッグの取引方法を変える件は棚上げとなった。
あの怪人が暴れている限り、警察の抱き込みには限界がある。加えてヴィジランテとやらは強力だった。銃やナイフが効いたという証言は一つも無い。
古参の連中はタイミングが悪いと見て、ドラッグから距離を置くようだった。他の幹部が及び腰なのは有利だが、最も被害を被っているのはコッブ自身だった。
ヘイリーが電話を繋いできた。
クーンというアップスターズ幹部からの連絡だった。
「どうした?」
「例の事件について話し合いたいと」
「わかった」
ここに来てコッブは、ヴィジランテはアップスターズの仕業ではないかと思い始めていた。クーンや女ボスの雰囲気は我々とどこか違っている。
「アップスターズの幹部と会ってくる」
「へい、オレも付いていきますよ」
「いや、一人で平気だ」
「本当ですか?奴らの動きには注意しないと」
「罠なら罠で、オレに少し考えがある」
コッブは机からナイフを出して背中に仕舞うと、ジャケットを羽織った。
「例の件、そっちもやられているようだな?」
コッブはホテルの一室で歓待を受けていた。
「ええ、こちらの被害もかなりなものになっています」
クーンが酒を片手に正面に座った。
「商品の売り上げにも相当被害が出ていますし、警察との関係もギクシャクしていますよ」
「ヴィジランテは警察関係なのか?」
「いえ、そうではないでしょう。しかし動機を考えると、多くの人がそう思うのも無理は
ありません」
クーンは続ける。
「ローゼンブルグの警察はどこも犯罪組織と上手くやってきた。その信頼関係にヒビを入れるのも、奴の目的の一つでしょう」
「鎧を着たバケモノ、いや人型機械らしいが、そんなものが何故俺達を襲う?」
コッブは酒を飲み干した。
「何故でしょうね。ただ、ビアギッテ様は目星が付いているそうです」
クーンの言葉にはどこにも緊張感がない。奇妙な男だった。
「誰だ?教えろ、他のファイヴが絡んでんのか?」
どの組織もやられてはいるが、それが目眩ましの可能性もある。
「焦らないでください。他のファイヴとの関係は不明です。まあ、物事は見た目通りにはいかないものです」
「まどろっこしいな。何故オレを呼んだんだ?」
「暫くの間奴を、ヴィジランテを泳がせて欲しいのです」
「何だって?」
「我々アップスターズが信用しているファイヴのメンバーは貴方だけです。ですから、我々のビジョンに協力して欲しいのです」
「オレがあんたらを信用してるって言ったことがあったか?」
「貴方は商品をきちんと購入してくれているし、我々のシマを攻撃したことも無い」
「商売だからな。それに約束は約束だ」
クーンの奇妙な話ぶりはこちらを引き込むような感覚がある。だが、別にオレはこいつらと仲良しこよしになる気は無い。オレの目標はあくまで組織の中で地位を得ることだ。
「何かをしてくれ、という話ではありません」
「オレもプライムワンの幹部だ。それに武闘派のオレがやられっぱなしって訳にはいかない。何よりメンツがある」
「確かにその通り。ですが、本当にヴィジランテが『無敵』だとしたら?」
一瞬言葉に詰まった。確かにこの数ヶ月、手下や他の組織がやられるのを見てきたが、誰一人奴を傷付けたり怯ませたりできたという話はなかった。
「だとしたら、何か手があるのか?」
「方法はあります。ただし正体、いや、操っている背後の人間を探しだす必要があるのです」
「それができれば世話ねえがな」
「必ず見つけ出しますよ」
「ふん。で、オレは奴と戦わないだけでいいのか?」
「ええ。そしてもう一つ、貴方は誰にもやられてはいけない」
クーンはコッブのグラスに酒をつぎ直す。
「ドジは踏まねえさ」
「慎重に振る舞ってください。奴はこのまま攻勢を強める筈です。貴方の組織は一度完全に地下へと潜るべきです」
「屈辱だな」
コッブは自嘲的に言って、その酒を呷った。
「ですが、他に道はありません」
コッブはグラスを見つめながら間を置いた。
「……奴の正体がわかったら、オレにも知らせてくれるんだろうな?」
コッブはクーンの言葉に少し乗せられているのを自覚した。だが、奴の言っていることは間違いではない気がしていた。
「勿論。手柄は貴方にお渡しします」
「気前のいいこったな」
「協力は価値を産みます」
クーンは冷静にそう言い切った。
それから半年程を掛けながら、コッブは組織内での立ち振る舞いを消極的なものにしていった。
その間もヴィジランテは組織を叩き続けていた。かなりのソルジャーがやられ、何人かは幹部も捕まっていた。一部の組は壊滅状態にまで追い込まれていた。それでもコッブは幹部会で出る強硬策をなだめ、むしろファイヴだけでなくアップスターズの連中も含めて、一丸となって対抗策を練るべきだと主張した。
「ふん、アップスターズが同席する場に、残りのファイヴが出てくるものか」
古参幹部はコッブの意見を否定した。
「いえ、セルピエンテやフェロス、キアーラの連中とは話をつけてあります」
「セルピエンテだ?あいつらはアップスターズに最も食われたところじゃねえか」
「跡取りのリカルドは方針転換したいようでしてね。相談は済ませてあります」
「あとはパントリアーノだけか」
別の幹部が口を開く。
「あそことウチは長い間の因縁がある」
「キアーラのボスに頼むしかなかろう。あそこは繋がりが強い」
どうやら幹部連中も気弱になったようだ。この話に乗ってきた。
「なら、コッブを中心にファイヴとプライムワンの会合を設ける形でやってみますか。ボス」
うまく相談役がとりなした。
「そうだな。今回は若い奴らに任せてみよう」
ここのところボスは随分と歳を取ったように思えた。この魔都を支配し続けた暗黒街の帝王も、今の惨状には酷く気落ちしているようだった。
コッブ自身も今の状態を受け入れる気などさらさら無い。しかし、ファイヴ全体が大きく力を落としている。警察も近頃じゃ賄賂を受け取らない。すっかりヴィジランテ側に付いてしまったようだ。
だが、ヴィジランテさえ取り除けば、一気にシマを広げられるチャンスでもあった。
コッブは必ずボスを追い落としてプライムワンの、いや、暗黒街の頂点に立ってやると思っていた。
そして、ついにクーンから連絡が来た。
「13地区にある養護院に、イヴリンという少女がいます」
「そいつが奴の身内か?」
「そうです、あとは貴方にお任せします」
「次に奴が出てきた時、そいつを使えばいいんだな」
「やり方は任せます。あなたの手口は買っていますから」
奇妙な褒め方だったが、気分は悪くなかった。何より、ついにあのヴィジランテを葬ることができるのだから。
「—了—」
コッブの目の前に二名のソルジャーが並んでいた。彼らを見つめるコッブの顔は険しい。
話の内容がまるで出鱈目に思えたからだ。
「失敗は失敗だ。それでも汚名返上のチャンスは与えられる。だがな、嘘や裏切りは絶対に許されねえ」
コッブは言い切った。
「嘘はついてません。アニキ、あの……マジで鉄の怪人が襲ってきやがったんです」
「俺も確かに見ました」
二名のソルジャーは腫れた顔をコッブに向けてそう答えた。
「ふん。大方クスリをやってたんだろう」
側近のヘイリーが横槍を入れた。
「いえ、そん時はシラフでした」
「じゃあ、何でおめおめと逃げ帰ってんだよ!」
襲われた酒場の事務所はブツの一時保管場所として使っていた。こいつらの言う『鉄の怪人』とやらがやって来て大騒ぎになった。当然、ブツは警察に押さえられてしまった。こんな騒ぎの中では、捕まった連中や押収されたブツを取り返すのはかなり難しい。
「奴は銃も効かねえし、力も化物みてえで……」
「おい、まだクスリが抜けてねえのかテメェは!」
ヘイリーは片方のソルジャーを首元から捩じ上げた。
「もういい」
片手を上げてコッブはヘイリーを制した。
小さな支部の一つが潰された形になったが、問題はそこではなかった。
他の幹部から突き上げられることが容易に予想された。あいつらはこれを理由に、オレからブツの権益を奪おうとするだろう。
「やられっぱなしってのは、絶対に有り得ねえぞ!」
コッブは指を突き付けて怒鳴った。
「やった奴を必ず探し出せ。怪人だが怪物だが知らねえが、背後で糸を引いてる奴が必ずいる」
ヘイリーは頷き、しょぼくれたソルジャー達を小突くと部屋から出て行った。
シマが襲われたのは初めてではなかったが、今回気に食わないのは、正義漢とやらに一方的にやられたと報道されたことだった。
この世界は裏切りと暴力の繰り返しだ。コッブは今回の件についても、自分を妬むプライムワン内の幹部を真っ先に疑っていた。
どす黒い感情が次から次へと湧き出てくる。
コッブは酒を呷ると、引き出しからナイフを取り出した。ゴミ捨て場で拾ったものだが、あの一件以来いつも持ち歩いていた。
錆びていたブレードを綺麗に研ぎ直し、それらしいシースも新調した。見た目は悪くなく、実用品としても気に入っていた。
エッジを見つめていると不思議と怒りが収まり、頭が冴えるような気がした。
裏切りも暴力も躊躇はしない。コッブは自分自身をそう律してきた。
ボスは稼ぎ頭であるオレを信じちゃいない。組織は誰もが己の地位を守ろうとしている。
これは互いの資産を食い合うゲームだ。強いものに味方し、自分の利益を広げる。
ボスは権威という資産を持ったプレイヤーに過ぎない。オレの資産は金とドラッグだ。周りの幹部は古参としての信用、それと弱者故の連帯感といったところだ。
この窮地を必ず好機に繋げなければならない。コッブはそう思った。
毎週のように例の怪人が世間を騒がすようになった。『マフィアを倒す英雄ヴィジランテ』、『弱者を守る戦士ヴィジランテ』。見出しの内容はともかく、起きた事実はその通りだ。
他の幹部達を調べさせていたが、今のところ繋がりは見つかっていない。
何度か怪人を追うチャンスはあったが、今のところ全てが徒労に終わっていた。
そして、他の組織でも商売を邪魔される例が出始めた。
定例の会合でボスは苦々しく言った。
「例のヴィジランテとやら、裏は取れたのか?」
幹部達からは何の声も上がらなかった。
「いずれこっちの網に掛かります。必ず仕留めてみせますよ」
コッブは静かに言った。
「他のファイヴだけじゃなく、アップスターズのシマでも被害が出てるらしいな」
他の幹部が言った。
「だからって、あんなのにでかい顔されるようじゃ、俺達の商売は終わるぞ」
ボスは言った。
「わかってます」
コッブは請け負った。
「頼んだぞ」
今回の会合で、ドラッグの取引方法を変える件は棚上げとなった。
あの怪人が暴れている限り、警察の抱き込みには限界がある。加えてヴィジランテとやらは強力だった。銃やナイフが効いたという証言は一つも無い。
古参の連中はタイミングが悪いと見て、ドラッグから距離を置くようだった。他の幹部が及び腰なのは有利だが、最も被害を被っているのはコッブ自身だった。
ヘイリーが電話を繋いできた。
クーンというアップスターズ幹部からの連絡だった。
「どうした?」
「例の事件について話し合いたいと」
「わかった」
ここに来てコッブは、ヴィジランテはアップスターズの仕業ではないかと思い始めていた。クーンや女ボスの雰囲気は我々とどこか違っている。
「アップスターズの幹部と会ってくる」
「へい、オレも付いていきますよ」
「いや、一人で平気だ」
「本当ですか?奴らの動きには注意しないと」
「罠なら罠で、オレに少し考えがある」
コッブは机からナイフを出して背中に仕舞うと、ジャケットを羽織った。
「例の件、そっちもやられているようだな?」
コッブはホテルの一室で歓待を受けていた。
「ええ、こちらの被害もかなりなものになっています」
クーンが酒を片手に正面に座った。
「商品の売り上げにも相当被害が出ていますし、警察との関係もギクシャクしていますよ」
「ヴィジランテは警察関係なのか?」
「いえ、そうではないでしょう。しかし動機を考えると、多くの人がそう思うのも無理は
ありません」
クーンは続ける。
「ローゼンブルグの警察はどこも犯罪組織と上手くやってきた。その信頼関係にヒビを入れるのも、奴の目的の一つでしょう」
「鎧を着たバケモノ、いや人型機械らしいが、そんなものが何故俺達を襲う?」
コッブは酒を飲み干した。
「何故でしょうね。ただ、ビアギッテ様は目星が付いているそうです」
クーンの言葉にはどこにも緊張感がない。奇妙な男だった。
「誰だ?教えろ、他のファイヴが絡んでんのか?」
どの組織もやられてはいるが、それが目眩ましの可能性もある。
「焦らないでください。他のファイヴとの関係は不明です。まあ、物事は見た目通りにはいかないものです」
「まどろっこしいな。何故オレを呼んだんだ?」
「暫くの間奴を、ヴィジランテを泳がせて欲しいのです」
「何だって?」
「我々アップスターズが信用しているファイヴのメンバーは貴方だけです。ですから、我々のビジョンに協力して欲しいのです」
「オレがあんたらを信用してるって言ったことがあったか?」
「貴方は商品をきちんと購入してくれているし、我々のシマを攻撃したことも無い」
「商売だからな。それに約束は約束だ」
クーンの奇妙な話ぶりはこちらを引き込むような感覚がある。だが、別にオレはこいつらと仲良しこよしになる気は無い。オレの目標はあくまで組織の中で地位を得ることだ。
「何かをしてくれ、という話ではありません」
「オレもプライムワンの幹部だ。それに武闘派のオレがやられっぱなしって訳にはいかない。何よりメンツがある」
「確かにその通り。ですが、本当にヴィジランテが『無敵』だとしたら?」
一瞬言葉に詰まった。確かにこの数ヶ月、手下や他の組織がやられるのを見てきたが、誰一人奴を傷付けたり怯ませたりできたという話はなかった。
「だとしたら、何か手があるのか?」
「方法はあります。ただし正体、いや、操っている背後の人間を探しだす必要があるのです」
「それができれば世話ねえがな」
「必ず見つけ出しますよ」
「ふん。で、オレは奴と戦わないだけでいいのか?」
「ええ。そしてもう一つ、貴方は誰にもやられてはいけない」
クーンはコッブのグラスに酒をつぎ直す。
「ドジは踏まねえさ」
「慎重に振る舞ってください。奴はこのまま攻勢を強める筈です。貴方の組織は一度完全に地下へと潜るべきです」
「屈辱だな」
コッブは自嘲的に言って、その酒を呷った。
「ですが、他に道はありません」
コッブはグラスを見つめながら間を置いた。
「……奴の正体がわかったら、オレにも知らせてくれるんだろうな?」
コッブはクーンの言葉に少し乗せられているのを自覚した。だが、奴の言っていることは間違いではない気がしていた。
「勿論。手柄は貴方にお渡しします」
「気前のいいこったな」
「協力は価値を産みます」
クーンは冷静にそう言い切った。
それから半年程を掛けながら、コッブは組織内での立ち振る舞いを消極的なものにしていった。
その間もヴィジランテは組織を叩き続けていた。かなりのソルジャーがやられ、何人かは幹部も捕まっていた。一部の組は壊滅状態にまで追い込まれていた。それでもコッブは幹部会で出る強硬策をなだめ、むしろファイヴだけでなくアップスターズの連中も含めて、一丸となって対抗策を練るべきだと主張した。
「ふん、アップスターズが同席する場に、残りのファイヴが出てくるものか」
古参幹部はコッブの意見を否定した。
「いえ、セルピエンテやフェロス、キアーラの連中とは話をつけてあります」
「セルピエンテだ?あいつらはアップスターズに最も食われたところじゃねえか」
「跡取りのリカルドは方針転換したいようでしてね。相談は済ませてあります」
「あとはパントリアーノだけか」
別の幹部が口を開く。
「あそことウチは長い間の因縁がある」
「キアーラのボスに頼むしかなかろう。あそこは繋がりが強い」
どうやら幹部連中も気弱になったようだ。この話に乗ってきた。
「なら、コッブを中心にファイヴとプライムワンの会合を設ける形でやってみますか。ボス」
うまく相談役がとりなした。
「そうだな。今回は若い奴らに任せてみよう」
ここのところボスは随分と歳を取ったように思えた。この魔都を支配し続けた暗黒街の帝王も、今の惨状には酷く気落ちしているようだった。
コッブ自身も今の状態を受け入れる気などさらさら無い。しかし、ファイヴ全体が大きく力を落としている。警察も近頃じゃ賄賂を受け取らない。すっかりヴィジランテ側に付いてしまったようだ。
だが、ヴィジランテさえ取り除けば、一気にシマを広げられるチャンスでもあった。
コッブは必ずボスを追い落としてプライムワンの、いや、暗黒街の頂点に立ってやると思っていた。
そして、ついにクーンから連絡が来た。
「13地区にある養護院に、イヴリンという少女がいます」
「そいつが奴の身内か?」
「そうです、あとは貴方にお任せします」
「次に奴が出てきた時、そいつを使えばいいんだな」
「やり方は任せます。あなたの手口は買っていますから」
奇妙な褒め方だったが、気分は悪くなかった。何より、ついにあのヴィジランテを葬ることができるのだから。
「—了—」