石造的街道已經崩壞殆盡。
住這鎮上的人類們,都無法理解突然出現在廣場的又黑又暗的『某種東西』到底是什麼。
那個『某種東西』像暴風似地破壞了街道,像侵蝕般地擴大著。
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威廉與家族一同幫助鎮上的居民從那個『某種東西』中逃出。
他們家代代都是守護者,當這土地發生災難時,負責要率先救助人們。
『某種東西』的侵蝕不曉得要什麼時候才會停止。
當結束幫助人們逃走,輪到他們自己要逃的時候,就已經太遲了。
黑暗的『某種東西』逼近威廉的家族。做好受死的覺悟。身體動彈不得。一邊感受死亡逐漸襲來的氣味,威廉閉上了眼睛。
就在這個時候,父親拉住了威廉的手。
「將希望,交予你……」
「父親?」
不懂話中的意思。但是知道父親是把重要的東西交給了自己。
有種像是握住了石頭般的觸感。那個瞬間,威廉感覺身體有一陣灼熱感襲來。在那如同全身的骨肉都被燒盡般的熱度下,威廉失去了意識。
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威廉一個人在荒野裡走著。
現在是什麼時候,自己怎麼會在這裡的。說到底自己又是怎麼來到這裡的,在意識還不清楚時是怎麼生活的,為什麼只有自己得救。
這些威廉都不明白。
在威廉的心中只有獨自存活下來的罪惡感。但是災難像在嘲笑他般,不斷地襲擊而來。
有時候被捲入山林的火災。似乎是魔物在放火燒山。
和野生動物一起倉皇逃竄的時候,被火勢給捲入。的確有被燒到的感覺,且全身都被灼熱給包圍的感覺。
回神時,聽說是倒在水邊時被住在附近的獵人所救。
還有的時候,被魔物追殺的運貨者,把威廉當作誘餌來引開魔物。
「不好意思啊,小朋友。我們還有伙伴在等」
即使死命抵抗也仍遭受魔物的蹂躝,但是當我回過神來時卻又毫髮無傷的被留在荒野裡。
「為什麼,我……」
為什麼遭遇到這些事卻仍活著呢?我什麼都搞不清楚。
|
在毫無頭緒彷徨後來到的是某個國家的貧民街,也就是那個時候,威廉自覺到了自己的身體和一般人不同。
只是因為擦身而過的時候稍微碰到了肩膀而已,就被對方盯上了。也許是威廉發呆的神情吸引了對方的注意也不一定。
「啊?你搞什麼」
「對……不起……」
威廉的道歉並沒有獲得對方的原諒。對方像是要發洩平日的壓力似的,一味地對著威廉拳打腳踢。
威廉沒有抵抗的力氣,只能挨打等待對方的氣消為止。
在這當中,後腦遭受到強烈的一擊。威廉痛苦地呻吟了一聲後就完全不動了。
「大哥,這小子不動了耶」
「別管他,反正多一具屍體,誰也不會在意的」
因為意識漸漸地模糊,那聲音就像是從遠處傳來一般。
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被丟在路邊的威廉醒來的時候,已經是早上了。威廉並沒有馬上起身,而是躺著看著地面發呆。
這時,打傷威廉的男子們剛好經過。
「什麼啊,你……,昨天明明打成那樣……」
「……老大,這小子怪怪的!」
男子們發現到威廉身上沒有傷痕,受傷的部位已經完美痊癒,男子們嚇得臉色發青。
「喂、喂、快逃啊,這小子是怪物啊!」
對威廉來說是意識陷入黑暗,再次恢復意識的時候,傷口都已經癒合。除此之外什麼都不知道。由於也沒有人知道威廉受了多大程度的傷,也無從得知究竟發生了什麼事。
也就是在這時候威廉知道自己傷口癒合的速度與一般人不同,不管遇上了什麼樣的事都不會死。
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不管遇到什麼事都不會死。有了這個自覺的威廉,再度從貧民街飛奔而出回到荒野。
威廉害怕有人的的地方,也害怕被叫做怪物。
威廉在荒野中彷徨的期間被魔物襲擊了,雖然他地打算將自己的五臟六腑、腦髓、肉,全部都給魔物。
雖然威廉對反正醒來之後大概又是毫髮無傷感到絕望,但是劇烈的疼痛很快地把這想法也給奪取了。
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「喂,有人倒在這裡!」
「好嚴重的傷!總之先抬去聖堂!」
聽到人的聲音,稍微恢復了一點意識,但心裡只想著果然還是死不了而感到絕望。
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再次醒來時,威廉在昏暗的房間裡穿著拘束衣,在無法動彈的狀態下躺著。
「醒了嗎」
眼前站立著面無表情的女性。她冷冷地俯視著威廉。
「這裡是……」
「你不需要知道,你從現在起就是救我們偉大首領的關鍵」
「什麼……」
「能當上救神的祭品要感到光榮」
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等待著什麼都不知道的威廉的,是會讓至今所受的災難都像是笑話般的事。
白衣的男子們將威廉徹底傷害。肉、五臟六腑、腦髓、連腦細胞,所有地方被無數次切割、被無數次擊碎。全身從頭以下被浸泡在可以溶解一切的液體之中。被放置在可以凍結一切的地方。與魔物關在同一個籠子裡,被觀察著遭魔物啃食的情形。
即使這樣也會再生,存活著的威廉,讓白衣的男子們驚訝地研究著。不死的細胞、不死的怪物。他們一邊這樣說著,同時也被威廉身體的神秘性吸引住。
威廉因劇痛而昏厥,因痛而醒來變成常態。最慘的還有在臟腑及腦髓正在被削去時恢復意識。
精神也被折磨到了極限,到這種程度自己竟然還沒瘋掉真的是奇蹟了。
雖然後來發現並不是這樣,只是這時的威廉並沒有餘力知道這件事,也沒人會告訴他。
但是身體漸漸到了極限,傷口恢復的速度下降了,被傷害的身體過了數日也沒有恢復的徵兆。
「看來再生能力掉了」
「果然到了極限了吧,怎麼辦?」
「問問尤莉卡大人吧,古斯塔夫大人的再生已經開始了」
在意識矇矓的狀況下,威廉聽到他們這些對話。
|
過了一陣子後,威廉被丟棄在一個不知道是哪裡的場所。
正確來說,是醒來後發現被放逐在像垃圾場的地方。
威廉朦朧地看著自己流著的血及臟腑的碎片。
被他們傷害的身體看不到要恢復的徵兆,感覺已經完全麻痺,是哪裡痛、還是哪裡被傷都搞不清楚了。
為什麼自己又醒來了,如果能無自覺地死去就好了。
邊想著這些事,邊看著天色漸漸亮起來的天空。
威廉心想,為什麼自己要不斷遭受到這些事,還得伴隨著痛苦活下去不可呢。
是不是那時候,從黑暗的『某種東西』中唯一存活下來的懲罰呢。
也許是因為生在守護者之家,卻沒有守護住任何一個東西而被懲罰也說不一定。
不過這也都結束了,看著不會再生的身體,冷淡地想著。
終於可以去家人的身邊了,終於可以從這痛苦中解脫了。威廉邊這樣想著邊閉上眼睛。
|
「──你!」
聽到有人在叫喊。
拚了命地勉強自己睜開重重地眼皮,看到一位少女非常擔心地看著自己。
剛才還充滿視線的天空已經不在,眼前是一片草木的綠色。
看來是夢到過去的事了,威廉頭腦昏昏地想著。
「大哥哥你沒事吧!?」
「妳,妳……是……」
「等等我,我馬上去叫人來!」
少女的腳步聲越來越遠。
|
「─完─」
「変異」
石造りの街並みは無残に崩壊していた。
この街に住む人間は誰も、突如広場に現れた黒く昏い『何か』を理解することができなかった。
その『何か』は荒れ狂う嵐のように街を破壊し、浸食するように広がっていった。
ヴィルヘルムは家族と共に、その『何か』から街の住民を逃がしていた。
彼の家は守人の家系であり、土地に災いが起きた時は率先して人々の救助に当たる役目があった。
『何か』の浸食は留まるところを知らない。
街の人々を救助し終えて自分達が脱出しようとした時には、もう遅かった。
ヴィルヘルムの家族に黒く昏い『何か』が迫る。もう助からないのだと覚悟した。身体が動かない。迫り来る死の匂いを感じ取りながら、ヴィルヘルムは目を閉じた。
その時だった。父親がヴィルヘルムの手を取った。
「お前に、希望を……」
「父さん?」
言葉の意味はわからない。だが、大切なものが自分に託されたことだけはわかった。
石のようなものを握った感触があった。その瞬間、ヴィルヘルムの身体を灼熱が襲った。全ての骨肉を焼き尽くさんとするその熱に、ヴィルヘルムは意識を手放した。
ヴィルヘルムは一人、荒野を歩いていた。
今がいつで、どうしてこんな場所にいるのか。そもそもどうやってこの場所まで来たのか、意識がはっきりするまでどうやって生活していたのか。何故自分だけが助かったのか。
ヴィルヘルムには何もわからない。
生き残ってしまったという罪悪感だけが、ヴィルヘルムの胸中にあった。そんな彼を嘲笑うかのように、災厄が次々と襲い掛かってきた。
ある時は山林の火災に巻き込まれた。魔物が山に火を放ったらしい。
野生の動物と一緒に逃げ惑う内に、火に飲み込まれた。焼かれていく感触は確かにあったし、全てが熱に飲まれていくのを感じていた。
気が付くと、水辺で倒れていたらしいところを、近辺で暮らしていた猟師に助けられた。
またある時は、魔物に追われていた運び屋に、魔物を欺くための囮にされた。
「悪いな、ボウズ。俺達を待ってる仲間がいるんだ」
必死の抵抗も虚しく魔物に蹂躙された。筈だったが、またしても気が付くと無傷で荒野に取り残されていた。
「何で、俺は……」
そんな目に遭ってどうして生きているのか。何もかもがわからなかった。
当てもなく彷徨った末に辿り着いたのは、どこかの国のスラム街だった。自分の身体が普通ではないと自覚したのは、この頃だった。
すれ違った時にちょっと肩が当たってしまった。ただそれだけのことだったのに、その相手に目をつけられた。ヴィルヘルムがぼんやりとした顔をしていたのも、彼らの目を引いたのかもしれない。
「あぁ? 何だてめえ」
「すみま……せん……」
謝るヴィルヘルムを彼らは許さなかった。日頃の苛立ちを解消するかのように、ヴィルヘルムをひたすら殴り、蹴った。
抵抗する力など無かった。ただただ、彼らの気が治まるのを待つしかなかった。
そうする内に、強烈な一撃が後頭部を襲う。ヴィルヘルムは呻き声を一つ上げて、完全に動かなくなった。
「アニキ、コイツ動かなくなっちまいましたよ」
「ほっとけ。死体が一つ増えたところで、誰も気にしやしねえよ」
そんな声が遠くから聞こえたような気がしたが、意識は遠のいていくだけだった。
目を覚ました時にはすでに朝だった。路地の片隅に打ち捨てられていたヴィルヘルムは、起き上がることもせずにぼんやりと地面を眺めていた。
そこに、ヴィルヘルムを痛めつけた男達が通り掛かった。
「何だ、お前……。昨日あれだけ痛めつけたのに……」
「……アニキ、こいつおかしいぜ!」
男達はヴィルヘルムが無傷であることに気が付いた。自分達が負わせた怪我が綺麗に治っている。その事実に青ざめた。
「お、おい、逃げるぞ。こいつは化け物だ!」
自分としては意識が闇に包まれ、次に意識を取り戻した時には傷が癒えていた。それしかわからない。自分がどれ程の怪我をしたか知る人物もいないため、何が起きたか知りようがなかったのだ。
傷が癒える速さが常人とは違うのだ。どのようなことになっても死ぬことはないのだ。そう認識したのはこの時だった。
何があっても死なない。そのことを自覚したヴィルヘルムは、スラムから再び荒野に飛び出した。
人の目がある場所は怖かった。化け物と言われることを恐れた。
荒野を彷徨っている内に、ヴィルヘルムは魔物に襲われた。臓腑も脳髄も肉も、全て魔物にくれてやるつもりだった。
どうせ、また気が付いたら無傷なのだろうという絶望がちらついたが、すぐに激痛でそんな思考も奪われた。
「おい、誰か倒れてるぞ!」
「ひどい怪我だ! とにかく聖堂へ運べ!」
人の声が聞こえて意識が微かに浮上した。やはり助かってしまった、そんな絶望感だけがあった。
次に目が覚めると、ヴィルヘルムは薄暗い部屋で拘束着を着せられて、動けない状態で寝かされていた。
「目覚めましたか」
無表情の女が目の前に立っていた。彼女はヴィルヘルムを冷たく見下ろしている。
「ここは……」
「それを知る必要はありません。あなたは今から、我らの首領を救うための礎となるのですから」
「何を……」
「光栄に思いなさい。神を救うための贄となることを」
何もわからぬヴィルヘルムを待ち受けていたのは、今までの災厄さえ生温いと思わせる程のものだった。
白衣の男達はヴィルヘルムを徹底的に害した。肉も、臓腑も、脳細胞も、ありとあらゆる箇所が何度も切り取られ、何度も擂り潰された。あらゆる物を溶かす液体に首から下を全身浸けられた。全てが凍り付くような場所に放置された。魔物と一緒に閉じ込められた檻の中で、ただ食われていく様を観察されたこともあった。
それでも再生し、生き続けるヴィルヘルムに、白衣の男達は目の色を変えて研究していた。死なない細胞、死なない化け物。彼らはそう口にしながら、ヴィルヘルムの身体が持つ神秘に取り憑かれていった。
ヴィルヘルムは痛みで気絶し、痛みで目を覚ますことが恒常化しつつあった。酷い時には臓腑や脳髄を削られている最中に意識を取り戻すことさえあった。
精神も折れる寸前であった。むしろその程度で留まっていること自体が奇跡だった。
後にこれは間違いだと知るのだが、この時のヴィルヘルムにそれを知るような余裕も、知らせるような人物もいなかった。
しかし、身体は限界を迎えつつあった。傷の再生速度が落ちていった。傷付けられた身体は、数日が経過しても回復の兆しを見せなくなった。
「再生能力が落ちているな」
「さすがに限度があるか。どうする?」
「ユーリカ様に指示を仰ごう。ギュスターヴ様の再生はすでに開始されている」
朦朧とする意識の中、そのような会話が聞こえてきた。
それから暫くの後、ヴィルヘルムは何処とも知れない場所に廃棄された。
正確には、気が付いたら塵捨て場のような場所に放逐されていたと言うべきか。
流れる血と臓腑の欠片を、ヴィルヘルムはぼんやりと見つめていた。
彼らによって傷付けられた身体は再生する兆しを見せない。感覚は完全に麻痺し、痛みがあるのかないのか、何処が傷付いているのか。その程度のこともわからなかった。
何故目を覚ましたのだろう。あのまま自覚なく死んでいればよかったのに。
そんなことを思いながら、明るくなりつつある空を見上げていた。
何故このような酷い目に遭い続けながらも、苦痛と共に生きなければならないのか。そのことをヴィルヘルムは考える。
あの時、黒く昏い『何か』から一人だけ助かってしまったことに対する罰なのかもしれない。
守人の家に生まれながら、何一つ守れなかったことに対する罪なのかもしれない。
でも、それももう終わりだ。再生することのない身体を見遣って、漠然とそう思った。
やっと家族のところへ行ける。やっと苦しみから解放される。そんなことを思いながら目を閉じた。
「——さん!」
誰かが呼ぶ声が聞こえた。
重く重くのし掛かる瞼を無理矢理こじ開けると、一人の少女がヴィルヘルムを心配そうに見つめていた。
先程まで自分の視界を満たしていた明るい空は無い。目の前に広がるのは草木の緑。
どうやら過去の夢を見ていたようだと、ぼんやりとする頭でヴィルヘルムは思った。
「お兄さん、大丈夫!?」
「き、み……は……」
「待ってて、いま誰か呼んで来るから!」
少女の足音が遠ざかっていった。
「—了—」
石造りの街並みは無残に崩壊していた。
この街に住む人間は誰も、突如広場に現れた黒く昏い『何か』を理解することができなかった。
その『何か』は荒れ狂う嵐のように街を破壊し、浸食するように広がっていった。
ヴィルヘルムは家族と共に、その『何か』から街の住民を逃がしていた。
彼の家は守人の家系であり、土地に災いが起きた時は率先して人々の救助に当たる役目があった。
『何か』の浸食は留まるところを知らない。
街の人々を救助し終えて自分達が脱出しようとした時には、もう遅かった。
ヴィルヘルムの家族に黒く昏い『何か』が迫る。もう助からないのだと覚悟した。身体が動かない。迫り来る死の匂いを感じ取りながら、ヴィルヘルムは目を閉じた。
その時だった。父親がヴィルヘルムの手を取った。
「お前に、希望を……」
「父さん?」
言葉の意味はわからない。だが、大切なものが自分に託されたことだけはわかった。
石のようなものを握った感触があった。その瞬間、ヴィルヘルムの身体を灼熱が襲った。全ての骨肉を焼き尽くさんとするその熱に、ヴィルヘルムは意識を手放した。
ヴィルヘルムは一人、荒野を歩いていた。
今がいつで、どうしてこんな場所にいるのか。そもそもどうやってこの場所まで来たのか、意識がはっきりするまでどうやって生活していたのか。何故自分だけが助かったのか。
ヴィルヘルムには何もわからない。
生き残ってしまったという罪悪感だけが、ヴィルヘルムの胸中にあった。そんな彼を嘲笑うかのように、災厄が次々と襲い掛かってきた。
ある時は山林の火災に巻き込まれた。魔物が山に火を放ったらしい。
野生の動物と一緒に逃げ惑う内に、火に飲み込まれた。焼かれていく感触は確かにあったし、全てが熱に飲まれていくのを感じていた。
気が付くと、水辺で倒れていたらしいところを、近辺で暮らしていた猟師に助けられた。
またある時は、魔物に追われていた運び屋に、魔物を欺くための囮にされた。
「悪いな、ボウズ。俺達を待ってる仲間がいるんだ」
必死の抵抗も虚しく魔物に蹂躙された。筈だったが、またしても気が付くと無傷で荒野に取り残されていた。
「何で、俺は……」
そんな目に遭ってどうして生きているのか。何もかもがわからなかった。
当てもなく彷徨った末に辿り着いたのは、どこかの国のスラム街だった。自分の身体が普通ではないと自覚したのは、この頃だった。
すれ違った時にちょっと肩が当たってしまった。ただそれだけのことだったのに、その相手に目をつけられた。ヴィルヘルムがぼんやりとした顔をしていたのも、彼らの目を引いたのかもしれない。
「あぁ? 何だてめえ」
「すみま……せん……」
謝るヴィルヘルムを彼らは許さなかった。日頃の苛立ちを解消するかのように、ヴィルヘルムをひたすら殴り、蹴った。
抵抗する力など無かった。ただただ、彼らの気が治まるのを待つしかなかった。
そうする内に、強烈な一撃が後頭部を襲う。ヴィルヘルムは呻き声を一つ上げて、完全に動かなくなった。
「アニキ、コイツ動かなくなっちまいましたよ」
「ほっとけ。死体が一つ増えたところで、誰も気にしやしねえよ」
そんな声が遠くから聞こえたような気がしたが、意識は遠のいていくだけだった。
目を覚ました時にはすでに朝だった。路地の片隅に打ち捨てられていたヴィルヘルムは、起き上がることもせずにぼんやりと地面を眺めていた。
そこに、ヴィルヘルムを痛めつけた男達が通り掛かった。
「何だ、お前……。昨日あれだけ痛めつけたのに……」
「……アニキ、こいつおかしいぜ!」
男達はヴィルヘルムが無傷であることに気が付いた。自分達が負わせた怪我が綺麗に治っている。その事実に青ざめた。
「お、おい、逃げるぞ。こいつは化け物だ!」
自分としては意識が闇に包まれ、次に意識を取り戻した時には傷が癒えていた。それしかわからない。自分がどれ程の怪我をしたか知る人物もいないため、何が起きたか知りようがなかったのだ。
傷が癒える速さが常人とは違うのだ。どのようなことになっても死ぬことはないのだ。そう認識したのはこの時だった。
何があっても死なない。そのことを自覚したヴィルヘルムは、スラムから再び荒野に飛び出した。
人の目がある場所は怖かった。化け物と言われることを恐れた。
荒野を彷徨っている内に、ヴィルヘルムは魔物に襲われた。臓腑も脳髄も肉も、全て魔物にくれてやるつもりだった。
どうせ、また気が付いたら無傷なのだろうという絶望がちらついたが、すぐに激痛でそんな思考も奪われた。
「おい、誰か倒れてるぞ!」
「ひどい怪我だ! とにかく聖堂へ運べ!」
人の声が聞こえて意識が微かに浮上した。やはり助かってしまった、そんな絶望感だけがあった。
次に目が覚めると、ヴィルヘルムは薄暗い部屋で拘束着を着せられて、動けない状態で寝かされていた。
「目覚めましたか」
無表情の女が目の前に立っていた。彼女はヴィルヘルムを冷たく見下ろしている。
「ここは……」
「それを知る必要はありません。あなたは今から、我らの首領を救うための礎となるのですから」
「何を……」
「光栄に思いなさい。神を救うための贄となることを」
何もわからぬヴィルヘルムを待ち受けていたのは、今までの災厄さえ生温いと思わせる程のものだった。
白衣の男達はヴィルヘルムを徹底的に害した。肉も、臓腑も、脳細胞も、ありとあらゆる箇所が何度も切り取られ、何度も擂り潰された。あらゆる物を溶かす液体に首から下を全身浸けられた。全てが凍り付くような場所に放置された。魔物と一緒に閉じ込められた檻の中で、ただ食われていく様を観察されたこともあった。
それでも再生し、生き続けるヴィルヘルムに、白衣の男達は目の色を変えて研究していた。死なない細胞、死なない化け物。彼らはそう口にしながら、ヴィルヘルムの身体が持つ神秘に取り憑かれていった。
ヴィルヘルムは痛みで気絶し、痛みで目を覚ますことが恒常化しつつあった。酷い時には臓腑や脳髄を削られている最中に意識を取り戻すことさえあった。
精神も折れる寸前であった。むしろその程度で留まっていること自体が奇跡だった。
後にこれは間違いだと知るのだが、この時のヴィルヘルムにそれを知るような余裕も、知らせるような人物もいなかった。
しかし、身体は限界を迎えつつあった。傷の再生速度が落ちていった。傷付けられた身体は、数日が経過しても回復の兆しを見せなくなった。
「再生能力が落ちているな」
「さすがに限度があるか。どうする?」
「ユーリカ様に指示を仰ごう。ギュスターヴ様の再生はすでに開始されている」
朦朧とする意識の中、そのような会話が聞こえてきた。
それから暫くの後、ヴィルヘルムは何処とも知れない場所に廃棄された。
正確には、気が付いたら塵捨て場のような場所に放逐されていたと言うべきか。
流れる血と臓腑の欠片を、ヴィルヘルムはぼんやりと見つめていた。
彼らによって傷付けられた身体は再生する兆しを見せない。感覚は完全に麻痺し、痛みがあるのかないのか、何処が傷付いているのか。その程度のこともわからなかった。
何故目を覚ましたのだろう。あのまま自覚なく死んでいればよかったのに。
そんなことを思いながら、明るくなりつつある空を見上げていた。
何故このような酷い目に遭い続けながらも、苦痛と共に生きなければならないのか。そのことをヴィルヘルムは考える。
あの時、黒く昏い『何か』から一人だけ助かってしまったことに対する罰なのかもしれない。
守人の家に生まれながら、何一つ守れなかったことに対する罪なのかもしれない。
でも、それももう終わりだ。再生することのない身体を見遣って、漠然とそう思った。
やっと家族のところへ行ける。やっと苦しみから解放される。そんなことを思いながら目を閉じた。
「——さん!」
誰かが呼ぶ声が聞こえた。
重く重くのし掛かる瞼を無理矢理こじ開けると、一人の少女がヴィルヘルムを心配そうに見つめていた。
先程まで自分の視界を満たしていた明るい空は無い。目の前に広がるのは草木の緑。
どうやら過去の夢を見ていたようだと、ぼんやりとする頭でヴィルヘルムは思った。
「お兄さん、大丈夫!?」
「き、み……は……」
「待ってて、いま誰か呼んで来るから!」
少女の足音が遠ざかっていった。
「—了—」