「你在說什麼?」
沃肯向已啟動的自動人偶問道。
自動人偶的眼球,直直地看著沃肯。
「救了畢雷亞的那一位大人。無論如何都得要去救那一位不可」
「那是你的名字嗎?」
「畢雷亞是畢雷亞。米亞大人的僕人……。不盡快找到米亞大人不……行……」
自動人偶不得要領地回答沃肯的疑問之後,沈默了。
控制器上顯示著錯誤訊息,顯示電子頭腦啟動失敗。
再次調查電子頭腦後,發現這個自動人偶曾經被指派小丑這個職務。
但是,因為這是一百年前製造的自動人偶,只有電子頭腦不管怎麼樣都無法完全修復。
結束修理後,將無法完全修好、以及如果有什麼問題願意再免費修理的事,請隨行的男子傳話給碧姬媞後就送他走了。
|
將畸形的自動人偶畢雷亞,交給碧姬媞之後經過了幾個星期的某一天,碧姬媞的隨從搬來了巨大的動物型自動人偶。從骨骼的形狀來看似乎是熊。
「這次希望你能修理這個自動人偶。大人說不管要花多少錢都可以」
「我知道了。不過她到底是什麼人?為什麼擁有這麼多具像這樣的自動人偶」
「我也不是很清楚。這次的熊人偶跟那個小丑自動人偶這些古物,都只有聽說是保管在碧姬媞大人家族所擁有的土地中」
沃肯從熊型自動人偶的記憶裝置裡,取出牠的自我形象,照著那個形象重新修好了外觀。
將那個怪異的黑白熊重新做完修好後,又從碧姬媞那收到了讚美的書信及高額的報酬。
|
經由她的介紹,工房接到了各式各樣的修理委託,沃肯的工作順利地進行著。
但是,沃肯注意到與此同時也發生了不平靜的事件。
那是在羅占布爾克中階層地區,發生了在一夜之間大量殺戮的事件。
當時被當作獵奇事件廣為報導,就連這個離羅占布爾克有點距離的要塞都市,最新情報也都以號外的方式送來。
沃肯覺得以奇跡般獲救的生還者證詞為依據的犯人畫像,有點眼熟。
不論是哪家的新聞報紙,都畫著與大幅駝背的自動人偶畢雷亞相似的獵奇殺人鬼。
但是,沃肯沒有跟任何人說過。沒有確切的證據能證明那就是畢雷亞。
而且,修理畢雷亞的工作早就已經完成了。
|
有一天,在自己的房間裡閱讀著自動人偶相關文獻的時候,聽到從工房傳來了不知道什麼東西掉落的聲音。
都這麼晚了,應該不會有人來訪。
沃肯將文獻簡單收拾了一下,小心謹慎地往工房走去。
「啊啊~米亞大人。您竟然在這種地方」
從保管修理中的自動人偶房間裡,傳來曾經聽過的聲音。
「米亞大人,為什麼您都不回答畢雷亞的疑問?」
在微弱的光線中,畢雷亞對著少女外型的玩具,細聲說著些什麼。
這個人偶當初是被當作自動人偶帶過來的,但仔細檢查之後,發現這只是能靠電力做些簡單動作,小孩子的玩具而已。
「你在做什麼!」
沃肯將保管房間的燈點亮之後大聲地說。
畢雷亞像被彈開似地轉身過來。瞪大眼睛盯著沃肯。
「原來如此,……你背叛了對吧!背叛了米亞大人!」
「你在說什麼啊。那只是個普通的玩具而已」
「不要說謊了啊啊啊啊啊啊!」
畢雷亞吶喊完便朝沃肯的方向衝過來。沃肯立即閃身拉遠距離,畢雷亞伴隨沉重的聲音掉落在工房的地板上。
「你,只有你!可以救米亞大人!而你卻!」
畢雷亞的眼球焦距似乎沒有對焦到。好像在看沃肯又好像沒有在看。
「住手!」
沃肯從懷中拿出針想朝畢雷亞的額頭刺進去。但是,畢雷亞用超越沃肯的反應速度跳走了。
偏了一點點的針刺到畢雷亞的喉部。畢雷亞雖發出了像金屬摩擦的刺耳聲,卻還是向沃肯攻擊。
「嗚……」
躲開畢雷亞的衝撞後,沃肯拿了備用的工具繞到畢雷亞的背後。
朝失去平衡的畢雷亞脊椎,順勢猛烈地用工具剌下去。
「嘰咿嘰咿咿咿咿!!」
畢雷亞發出令人不舒服的聲音後沉默,再也不動了。
|
隔天,沃肯將碧姬媞叫來工房。
「真難得。有什麼事嗎?」
「有事想問妳」
沃肯將機能完全停止的畢雷亞,給微微歪頭表示不解的碧姬媞看。
「哎呀,我才想他怎麼不見了,原來在這裡啊」
「妳還真是悠哉啊。昨晚,這傢伙來襲擊我。是妳指示的嗎?」
「怎麼可能呢。我襲擊你又沒有任何好處」
「如果有利益的話就有可能了,是嗎?」
「我沒有必要回答你」
「讓整個都市騷動的大量殺戮事件,是妳做的嗎?」
沃肯不理會地繼續逼問著。
「是啊。那是個奇怪的自動人偶。好像無法抑制殺人衝動。所以我只是偶爾放到街上,讓他去喘口氣啊」
「妳明明知道他會去殺人,為什麼不馬上跟我聯絡。只要再重新修理的話就不會再發生那種事件──」
「因為那對我來說也有利嘛。我沒有理由放棄可以幫我除掉礙眼傢伙的美好人偶吧?」
碧姬媞打從心底感到疑問。
「是暴走隨機襲擊人的人偶吧。妳想將那樣的人偶放在身邊嗎」
「我一點都不怕那種東西。只是認為可以用在商業上就用了而已」
「妳說什麼……!?」
面對美麗地微笑著說道的碧姬媞,沃肯無法隱瞞自己的驚訝情緒。
「那麼,話說完了就談談新的工作吧。請你再次將這個自動人偶修好。負起弄壞它的責任」
碧姬媞就像要換掉壞玩具般命令沃肯。
「不可能的。因為我已經完全破壞這個自動人偶的電子頭腦了。無法修好」
「那麼,就做一個新的電子頭腦吧」
「那也不可能。從零開始製作一個電子頭腦是不可能的。以目前的我來說」
沃肯像是硬擠出聲地說道。不管分析多少次舊的自動人偶,單靠自己的力量也無法完全理解電子頭腦的構造。
現在的沃肯,欠缺一部分製造自動人偶的必要知識。
「真令人失望。那麼,從今以後就沒有事要委託你了」
碧姬媞似乎把沃肯的言語當成藉口。
「做不到的事就是做不到。要結束委託就結束吧」
「這樣啊。那就,再見了。跟你合作很愉快」
碧姬媞留下那句話後就離開工房了。
|
失去了最大顧客的沃肯,用目前為止賺來的錢湊合著過生活。
是因為碧姬媞的關係嗎,就連之前常帶工作來的格蘭特先生也都不再來找沃肯了。
沃肯在資金即將用盡之前,準備再次踏上旅途。
正在整理工房打算不留下一點自己待過的痕跡時,呼叫鈴響了。
一位叫做索克的男子,帶來修理作業用自動人偶的委託站在那邊。
然後在他身後,還站著一位戴著帽兜的男子。
「索克先生,非常抱歉。我已經打算離開這裡了」
「哦,怎麼了嗎?」
「因為麻煩事不斷。今天來是有什麼事嗎?」
「嗯……其實,有東西想請您看看」
索克一邊說著,一邊拿出了老舊的記憶晶片。
「沃肯先生,如果是您,應該能夠理解這法典的內容」
雖然曾經從別家自動人偶修理店聽說過這東西,但是實際見到還是第一次。
重新連接上正準備銷毀的控制器,開啟記憶晶片的內容。
記憶晶片紀錄著模擬大腦構造,為了高階自動人偶的人工智能規格。
這個情報應該可以大幅補足自己不足的知識。
「太厲害了!只要有這個……」
索克看到專注於閱讀規格的沃肯,向一起來的男子互相點了點頭。
「這個法典就送給您了」
「為什麼?這對你們來說也很重要不是嗎?」
「能解讀這法典的人世上只有一位,就只有您而已。沃肯先生,詳細的事請薩爾卡多來解釋」
索克說完後,那位被稱為薩爾卡多的男子站到沃肯的面前。
「蕾格烈芙大人,正在尋找可以解讀這個法典的人物」
「那就是我嗎?」
「跟是誰沒有關係。我們需要的,只是可以解讀法典知識的技術者而已」
「就算我擁有該知識,你們希望我做什麼?」
「我們希望能用那個能力來振興世界。作為代價,我們會提供必要的設備和研究用的資金及材料」
沃肯沒有半點猶豫。反正本來就想要離開這裡了,如果有更有意義的事,那當然要選擇那邊了。
「我們走吧」
順著沃肯的話,索克微笑地點頭同意。
|
「─完─」
3372年 「知識」
「何を言っているんだ?」
ウォーケンは起動したオートマタに問い掛けた。
オートマタの眼球は、じっとりとウォーケンを見つめていた。
「ヴィレアを救った尊いお方。 あのお方を何としても助けなければ」
「それは君の名前か?」
「ヴィレアはヴィレア。ミア様のしもべ……。 早くミア様をみつけなけ、れ……ば……」
オートマタはウォーケンの言葉に要領を得ない言葉で返すと、沈黙した。
コンソールにはエラーが表示されており、電子頭脳の起動に失敗したことを示していた。
電子頭脳を再び調査すると、元々このオートマタは道化の役割を与えられていたことがわかった。
しかし、一〇〇年以上も前に製造されたオートマタであり、どうしても電子頭脳の完全修復だけはできなかった。
修理が終わり、従者に修理は不完全であること、不具合が起きたら無償で修理することを言付けて、ビアギッテの下へと送り出した。
異形のオートマタ、ヴィレアをビアギッテに引き渡してから数週間が経ったある日、従者が大きな動物型のオートマタを運んできた。骨格の形から、どうやら熊であるらしかった。
「今度はこのオートマタを直して欲しいとのことだ。報酬はいくらでも支払うと仰せだ」
「わかった。しかし、こんなオートマタをいくつも持っているとは、彼女は一体何者なんだ?」
「私も詳しいことは知らない。あの道化のオートマタも、ビアギッテ様の一族が所有する土地に保管されていた古い物、としか聞かされていないのだよ」
ウォーケンはこの熊型オートマタの記憶装置から自己イメージを抽出し、そのイメージ通りに外装を作り直した。
そうして奇妙な白黒の熊が作り直されると、またビアギッテから賛辞の手紙と多額の報酬が送られてきた。
彼女を介して工房に様々な修理依頼が届くようになり、ウォーケンの仕事は順調に進んでいった。
しかし前後して、不穏な事件が起こっていることにウォーケンは気が付いた。
ローゼンブルグの中階層区画で、一夜にして大量殺戮が行われたという事件だった。
猟奇事件として大々的に報じられており、ローゼンブルグから離れたこの城塞都市にも、号外として最新の情報が送られてきていた。
奇跡的に助かった人物の証言を元に作られたという犯人の予想図に、ウォーケンは見覚えがあった。
どのペーパーニュースにも、あの背が大きく歪曲した奇妙なオートマタ、ヴィレアと同じような風貌をした猟奇殺人鬼が描かれていたのだ。
だが、ウォーケンは誰にも何も言わなかった。あれがヴィレアであるという確証はない。
それに、ヴィレアの修理の依頼は既に完了した事柄であった。
ある日、自室でオートマタに関する文献を読んでいると、工房の方から何かが落ちたような音が聞こえてきた。
夜も遅く、誰かが訪ねてきたということは考えにくい。
ウォーケンは文献を簡単に片付けると、工房へと慎重に足を進めた。
「あぁ、ミア様。このようなところに」
修理するオートマタを保管している部屋から、聞き覚えのある声が響いてくる。
「ミア様、何故ヴィレアの言葉に答えてくれないのですか?」
薄明かりの中、ヴィレアが少女の形をした玩具に傅いて、何事かを呟いている。
この人形は最初オートマタとして持ち込まれていたが、詳しく調べたところ、電力を使用することで簡単な動作をするだけの、子供用の玩具だった。
「何をしている!」
ウォーケンは保管部屋の明かりを灯すと、大声を上げた。
ヴィレアは弾かれたように向きを変える。ぎょろりとした眼球がウォーケンの姿を捉えた
「そうか、……裏切ったな! ミア様を!」
「何を言っている。 それはただの玩具だ」
「嘘を吐くなああああああ!」
ヴィレアは雄叫びを上げるとウォーケンに飛びついてきた。咄嗟に飛び退って距離を取ると、ヴィレアが重い音を立てて工房の床に着地する。
「お前が、お前だけが! ミア様を助けることができる! なのにお前は!」
ヴィレアの眼球は焦点が合っていないようだった。ウォーケンを見ているようで見ていない。
「やめろ!」
ウォーケンは懐から針を出してヴィレアの額へ打ち込もうとする。しかし、ヴィレアはウォーケンの正確さを超える反応速度で跳躍した。
僅かに逸れた針がヴィレアの喉に刺さる。ヴィレアは金属が軋んだような声を上げたが、それでもなおウォーケンに肉薄する。
「くっ……」
ヴィレアの体当たりを躱すと、ウォーケンは予備の工具を手に取って背後に回り込んだ。
バランスを崩したヴィレアの脊椎に向かって、勢いよく工具を突き刺す。
「ギイギギイイイイ!!」
不快な声を立ててヴィレアは沈黙すると、それきり動くことはなかった。
翌日、ウォーケンはビアギッテを工房へ呼び出した。
「珍しいわね。何の用かしら?」
「聞きたい事がある」
ウォーケンは小首を傾げるビアギッテに、完全に機能停止したヴィレアを見せる。
「あら、姿が見えないと思ったら、こんなところにいたのね」
「呑気なものだな。昨日の夜、私はこれに襲われた。君の差し金か?」
「そんな訳ないでしょう。あなたを襲っても、私には何の得も無いわ」
「利益があれば違う、ということか?」
「答える必要は無いわね」
「都市を騒がせている大量殺戮事件も、あなたがやったのか?」
ウォーケンは無視して問い詰めた。
「そうよ。あれはおかしなオートマタね。殺人衝動を抑えられないみたい。たまに街に出して、息抜きをさせてあげてたのよ」
「それがわかっていて、何故すぐに連絡をよこさなかった。再修理すればあんな事件は——」
「だってその方が私にとって得だもの。目障りな奴を消してくれる素敵なお人形を手放すわけないでしょう?」
ビアギッテは心底不思議そうに尋ねた。
「暴走して無差別に人を襲う人形だろう。それを手元に置いておけるというのか」
「私はあんなもの恐ろしくないわ。ビジネスに使えると思ったから使っただけよ」
「なんだって……!?」
美しい笑みで事も無げに言うビアギッテに、ウォーケンは驚きを隠せなかった。
「さて、お話も済んだところで新しい仕事よ。もう一度あのオートマタを直しなさい。壊した責任を取って頂戴」
ビアギッテはまるで壊れた玩具を取り替えるかのごとく命令してきた。
「無理だ。完全にこのオートマタの電子頭脳を破壊したからな。直すことはできない」
「じゃあ、新しい電子頭脳を作ればいいわ」
「それも無理だ。 電子頭脳を一から作り上げるのは不可能なのだ。まだ」
ウォーケンは搾り出すような声で言う。いくら過去のオートマタを検分しても、自分の手でその電子頭脳の構造を完全に理解した訳ではなかった。
現在のウォーケンには、オートマタの製造に必要な知識が欠落していた。
「失望したわ。 じゃあ、これからの依頼もすべて無しにするわよ」
ビアギッテはウォーケンの言葉を言い訳と捉えたようだった。
「できないものはできない。それで構わない」
「そう。 じゃ、さようなら。楽しかったわ」
ビアギッテはそれだけ言うと、工房を後にした。
最大の顧客を失ったウォーケンは、それまでの修理で稼いだ資金でなんとか生活していた。
ビアギッテが手を回したのか、よく仕事を持ってきていたグラントさえも、ウォーケンのところへ訪れてこなくなっていた。
ウォーケンは資金が底を突く前に、再び旅立つことにした。
工房を片付けて自分の痕跡を残さないようにしていると、呼び鈴が鳴った。
そこには、作業用オートマタの修理を依頼してきたソングという男がいた。
そして背後にもう一人、フードを被った男が立っていた。
「ソングさん、申し訳ありません。もうここを引き払おうと思っていまして」
「おや、どうかされたのですか?」
「どうもトラブルが尽きないので。 今日はどのようなご用件で?」
「ふむ……いやなに、貴方にお見せしたいものがありましてね」
ソングはそう言うと、一つの古いメモリーチップを差し出してきた。
「ウォーケンさん、あなたならこのコデックスの内容が理解できるはずだ」
他のオートマタ修理屋から話だけは聞いたことがあったが、実物を見たのは初めてだった。
破棄しようとしていたコンソールを繋ぎなおし、メモリーチップの中身を開示する。
メモリーチップには脳構造を模した、高度なオートマタのための人工知能の仕様書が記録されていた。
この情報は自身に足りなかった知識を大いに補完することになるだろう。
「凄い! これさえあれば……」
仕様書を読み耽るウォーケンを見たソングと連れの男は頷き合う。
「そのコデックスは貴方に差し上げます」
「何故? これはあなた方にとっても大切なのでは?」
「これを解読できる者は世界でただ一人、貴方だけなんですよ、ウォーケンさん。詳しいことはこのサルガドから聞いてください」
ソングの言葉に、サルガドと呼ばれた男がウォーケンの前に進み出る。
「レッドグレイヴ様は、このコデックスを解読できる人物を探している」
「それが私だと?」
「何者であろうと関係ない。我々に必要なのは、ただコデックスを解読するだけの知識を持った技術者なのだ」
「私がそれを持っていたとして、何を望んでいる?」
「その能力を世界のために振るってほしい。その代わり、必要な設備や研究用の資金、材料は我々が提供しよう」
ウォーケンは迷わなかった。どの道ここからは去るつもりでいたのだし、有意義な行動指針があるのならば、それに乗るのもやぶさかではない。
「行きましょう」
ウォーケンの言葉に、ソングは微笑みながら頷くのだった。
「—了—」
「何を言っているんだ?」
ウォーケンは起動したオートマタに問い掛けた。
オートマタの眼球は、じっとりとウォーケンを見つめていた。
「ヴィレアを救った尊いお方。 あのお方を何としても助けなければ」
「それは君の名前か?」
「ヴィレアはヴィレア。ミア様のしもべ……。 早くミア様をみつけなけ、れ……ば……」
オートマタはウォーケンの言葉に要領を得ない言葉で返すと、沈黙した。
コンソールにはエラーが表示されており、電子頭脳の起動に失敗したことを示していた。
電子頭脳を再び調査すると、元々このオートマタは道化の役割を与えられていたことがわかった。
しかし、一〇〇年以上も前に製造されたオートマタであり、どうしても電子頭脳の完全修復だけはできなかった。
修理が終わり、従者に修理は不完全であること、不具合が起きたら無償で修理することを言付けて、ビアギッテの下へと送り出した。
異形のオートマタ、ヴィレアをビアギッテに引き渡してから数週間が経ったある日、従者が大きな動物型のオートマタを運んできた。骨格の形から、どうやら熊であるらしかった。
「今度はこのオートマタを直して欲しいとのことだ。報酬はいくらでも支払うと仰せだ」
「わかった。しかし、こんなオートマタをいくつも持っているとは、彼女は一体何者なんだ?」
「私も詳しいことは知らない。あの道化のオートマタも、ビアギッテ様の一族が所有する土地に保管されていた古い物、としか聞かされていないのだよ」
ウォーケンはこの熊型オートマタの記憶装置から自己イメージを抽出し、そのイメージ通りに外装を作り直した。
そうして奇妙な白黒の熊が作り直されると、またビアギッテから賛辞の手紙と多額の報酬が送られてきた。
彼女を介して工房に様々な修理依頼が届くようになり、ウォーケンの仕事は順調に進んでいった。
しかし前後して、不穏な事件が起こっていることにウォーケンは気が付いた。
ローゼンブルグの中階層区画で、一夜にして大量殺戮が行われたという事件だった。
猟奇事件として大々的に報じられており、ローゼンブルグから離れたこの城塞都市にも、号外として最新の情報が送られてきていた。
奇跡的に助かった人物の証言を元に作られたという犯人の予想図に、ウォーケンは見覚えがあった。
どのペーパーニュースにも、あの背が大きく歪曲した奇妙なオートマタ、ヴィレアと同じような風貌をした猟奇殺人鬼が描かれていたのだ。
だが、ウォーケンは誰にも何も言わなかった。あれがヴィレアであるという確証はない。
それに、ヴィレアの修理の依頼は既に完了した事柄であった。
ある日、自室でオートマタに関する文献を読んでいると、工房の方から何かが落ちたような音が聞こえてきた。
夜も遅く、誰かが訪ねてきたということは考えにくい。
ウォーケンは文献を簡単に片付けると、工房へと慎重に足を進めた。
「あぁ、ミア様。このようなところに」
修理するオートマタを保管している部屋から、聞き覚えのある声が響いてくる。
「ミア様、何故ヴィレアの言葉に答えてくれないのですか?」
薄明かりの中、ヴィレアが少女の形をした玩具に傅いて、何事かを呟いている。
この人形は最初オートマタとして持ち込まれていたが、詳しく調べたところ、電力を使用することで簡単な動作をするだけの、子供用の玩具だった。
「何をしている!」
ウォーケンは保管部屋の明かりを灯すと、大声を上げた。
ヴィレアは弾かれたように向きを変える。ぎょろりとした眼球がウォーケンの姿を捉えた
「そうか、……裏切ったな! ミア様を!」
「何を言っている。 それはただの玩具だ」
「嘘を吐くなああああああ!」
ヴィレアは雄叫びを上げるとウォーケンに飛びついてきた。咄嗟に飛び退って距離を取ると、ヴィレアが重い音を立てて工房の床に着地する。
「お前が、お前だけが! ミア様を助けることができる! なのにお前は!」
ヴィレアの眼球は焦点が合っていないようだった。ウォーケンを見ているようで見ていない。
「やめろ!」
ウォーケンは懐から針を出してヴィレアの額へ打ち込もうとする。しかし、ヴィレアはウォーケンの正確さを超える反応速度で跳躍した。
僅かに逸れた針がヴィレアの喉に刺さる。ヴィレアは金属が軋んだような声を上げたが、それでもなおウォーケンに肉薄する。
「くっ……」
ヴィレアの体当たりを躱すと、ウォーケンは予備の工具を手に取って背後に回り込んだ。
バランスを崩したヴィレアの脊椎に向かって、勢いよく工具を突き刺す。
「ギイギギイイイイ!!」
不快な声を立ててヴィレアは沈黙すると、それきり動くことはなかった。
翌日、ウォーケンはビアギッテを工房へ呼び出した。
「珍しいわね。何の用かしら?」
「聞きたい事がある」
ウォーケンは小首を傾げるビアギッテに、完全に機能停止したヴィレアを見せる。
「あら、姿が見えないと思ったら、こんなところにいたのね」
「呑気なものだな。昨日の夜、私はこれに襲われた。君の差し金か?」
「そんな訳ないでしょう。あなたを襲っても、私には何の得も無いわ」
「利益があれば違う、ということか?」
「答える必要は無いわね」
「都市を騒がせている大量殺戮事件も、あなたがやったのか?」
ウォーケンは無視して問い詰めた。
「そうよ。あれはおかしなオートマタね。殺人衝動を抑えられないみたい。たまに街に出して、息抜きをさせてあげてたのよ」
「それがわかっていて、何故すぐに連絡をよこさなかった。再修理すればあんな事件は——」
「だってその方が私にとって得だもの。目障りな奴を消してくれる素敵なお人形を手放すわけないでしょう?」
ビアギッテは心底不思議そうに尋ねた。
「暴走して無差別に人を襲う人形だろう。それを手元に置いておけるというのか」
「私はあんなもの恐ろしくないわ。ビジネスに使えると思ったから使っただけよ」
「なんだって……!?」
美しい笑みで事も無げに言うビアギッテに、ウォーケンは驚きを隠せなかった。
「さて、お話も済んだところで新しい仕事よ。もう一度あのオートマタを直しなさい。壊した責任を取って頂戴」
ビアギッテはまるで壊れた玩具を取り替えるかのごとく命令してきた。
「無理だ。完全にこのオートマタの電子頭脳を破壊したからな。直すことはできない」
「じゃあ、新しい電子頭脳を作ればいいわ」
「それも無理だ。 電子頭脳を一から作り上げるのは不可能なのだ。まだ」
ウォーケンは搾り出すような声で言う。いくら過去のオートマタを検分しても、自分の手でその電子頭脳の構造を完全に理解した訳ではなかった。
現在のウォーケンには、オートマタの製造に必要な知識が欠落していた。
「失望したわ。 じゃあ、これからの依頼もすべて無しにするわよ」
ビアギッテはウォーケンの言葉を言い訳と捉えたようだった。
「できないものはできない。それで構わない」
「そう。 じゃ、さようなら。楽しかったわ」
ビアギッテはそれだけ言うと、工房を後にした。
最大の顧客を失ったウォーケンは、それまでの修理で稼いだ資金でなんとか生活していた。
ビアギッテが手を回したのか、よく仕事を持ってきていたグラントさえも、ウォーケンのところへ訪れてこなくなっていた。
ウォーケンは資金が底を突く前に、再び旅立つことにした。
工房を片付けて自分の痕跡を残さないようにしていると、呼び鈴が鳴った。
そこには、作業用オートマタの修理を依頼してきたソングという男がいた。
そして背後にもう一人、フードを被った男が立っていた。
「ソングさん、申し訳ありません。もうここを引き払おうと思っていまして」
「おや、どうかされたのですか?」
「どうもトラブルが尽きないので。 今日はどのようなご用件で?」
「ふむ……いやなに、貴方にお見せしたいものがありましてね」
ソングはそう言うと、一つの古いメモリーチップを差し出してきた。
「ウォーケンさん、あなたならこのコデックスの内容が理解できるはずだ」
他のオートマタ修理屋から話だけは聞いたことがあったが、実物を見たのは初めてだった。
破棄しようとしていたコンソールを繋ぎなおし、メモリーチップの中身を開示する。
メモリーチップには脳構造を模した、高度なオートマタのための人工知能の仕様書が記録されていた。
この情報は自身に足りなかった知識を大いに補完することになるだろう。
「凄い! これさえあれば……」
仕様書を読み耽るウォーケンを見たソングと連れの男は頷き合う。
「そのコデックスは貴方に差し上げます」
「何故? これはあなた方にとっても大切なのでは?」
「これを解読できる者は世界でただ一人、貴方だけなんですよ、ウォーケンさん。詳しいことはこのサルガドから聞いてください」
ソングの言葉に、サルガドと呼ばれた男がウォーケンの前に進み出る。
「レッドグレイヴ様は、このコデックスを解読できる人物を探している」
「それが私だと?」
「何者であろうと関係ない。我々に必要なのは、ただコデックスを解読するだけの知識を持った技術者なのだ」
「私がそれを持っていたとして、何を望んでいる?」
「その能力を世界のために振るってほしい。その代わり、必要な設備や研究用の資金、材料は我々が提供しよう」
ウォーケンは迷わなかった。どの道ここからは去るつもりでいたのだし、有意義な行動指針があるのならば、それに乗るのもやぶさかではない。
「行きましょう」
ウォーケンの言葉に、ソングは微笑みながら頷くのだった。
「—了—」