在大家都還沒醒前的清晨,音音夢離開了小小的房間,開始打掃著屋子。
音音夢負責的是收拾那些,散落在地上的金屬垃圾,以及不知道從哪兒出現的螺絲等。
雖然也有大人在,但對與年幼的音音夢一起打掃的事,什麼也沒說。有時候音音夢看向打掃的大人時,對方就會馬上別過頭去。
|
音音夢5歲的時候父親與母親相繼因病去逝後,舅舅便把她接來現在住的這個房子。
但是,舅媽並不讚成。
於是,便向要接音音夢來的舅舅說「如果來幫忙打雜的話,就可以讓她待在這兒」。
由於這個房子是舅媽所有,舅舅對於舅媽所說的話無法反抗。
沒有地方去的音音夢,也只能聽從舅媽的話。
|
「喂,我回來了還不趕快點出來迎接!」
下午正在打掃的時候,從後方傳來女孩子的聲音。是舅舅和舅媽的孩子雪莉。
「真沒用!我要跟我媽媽說!」
雪莉一邊發怒著一邊把學校的書包丟向音音夢後,朝自己的房間走去。
撿起丟過來的書包,音音夢在雪莉後面追著。廣大的房子裡,只聽到音音夢的腳步聲。
水泥與金屬的地板,白色燈光映照著。
「雪莉大小姐,書包拿來了」
「慢死了!」
將書包送到雪莉房間後,果然被罵了。
「對不起」
「真是,沒用的東西」
雪莉一把搶走書包,便把鐵做的房門給關上。嘎鏘巨響殘留在音音夢的耳裡。
|
這就是音音夢的日常生活,年紀相仿的雪莉可以去上學,自己卻不能上學只能工作。
這時,音音夢就會想到為什麼爸爸媽媽丟下自己走了呢,而哭了出來。
|
有一天,音音夢一如往常打掃著的時候,房子的門口傳來聲音。
舅舅和舅媽,以及雪莉都打扮得很漂亮。
停下腳步望向門口,看見與舅舅和舅媽差不多年齡的男女,以及與音音夢差不多歲數的男孩。
「謝謝您今天百忙之中抽空過來」
舅舅和男子一邊笑一邊聊天,看起來好像感情很好的樣子。
「格雷高爾,快來跟大家問好」
被那位女人推著背,男孩出現在舅舅們的面前。
音音夢覺得那是一位有著大大美麗雙眼的男孩子,讓人忍不住想一直看著。
「初次見面,我是格雷高爾」
「初次見面,歡迎歡迎,雪莉也快來跟大家打聲招呼啊」
格雷高爾跟大家問好後,接著雪莉也被舅舅叫上前來。
「初,初次見,面……我是,雪莉……」
總是向音音夢怒目相向的雪莉到哪去了?雪莉臉頰發紅著必恭必敬的跟格雷高爾他們問好。
看到總是指高氣昂的雪莉那樣的緊張,不禁覺得有點有趣。
|
由於還得繼續打掃,之後的情況就不得而知了。但是,男孩那美麗的眼睛始終在腦海裡揮之不去。
這還是第一次,音音夢悶悶地邊想邊打掃。
|
到了中午,音音夢在內院裡撿撿鐵製垃圾時,被稱作格雷高爾的男孩出現。
眼神左右張望,看起來好像心神不寧地環顧著四周。
「怎麼了嗎?」
音音夢想說這房子非常寬廣,一定是迷路了吧。然後向格雷高爾問道。
如果被夫人和雪莉瞧見的話一定會被罵,但音音夢還是想跟男孩說話,終於還是忍不住搭話了。
「啊,你是……?」
格雷高爾看著與自己及雪莉年齡相仿的女孩,穿著窮酸的衣服在庭院裡打掃著的景像似乎感到些許驚訝。
「我叫做音音夢,在這裡工作」
音音夢低下頭,向驚訝的格雷高爾報出自己的名字。
「原來如此,我叫格雷高爾,請多指教」
格雷高爾放鬆了美麗的臉龐一邊向音音夢伸出手,音音夢發現格雷高爾想握手的意思,便握了格雷高爾白皙的手。
在那之後,格雷高爾偶爾來玩,趁著舅舅、舅媽、雪莉不注意的時候躲起來與音音夢見面。
見面的場所就在二人最初相遇的後院裡。
格雷高爾說話非常有趣,音音夢微笑著聽格雷高爾說的話。
音音夢連每天打掃著房子卻馬上就又染上灰塵也變得不在意,滿心期待著格雷高爾來。
|
但是,這樣開心的日子並不長久,有一天雪莉為了找格雷高爾來到了後院。
「什麼呀!區區一個音音夢!」
雪莉生氣地瞪著二人。從雪莉的身後瀰漫出黑色的不明物。
太陽光不知道什麼時候消失了,四周漸漸暗了下來。
「音音夢,我們快逃!」
格雷高爾拉著音音夢的手打算站起來。
但是,格雷高爾明明應該拉住了音音夢的手,而音音夢卻無法移動。
留在格雷高爾手裡的,是像手套似的音音夢的手皮膚。
「這,是……」
音音夢驚訝地望著自己的手發楞。
那是,和房子的地板與牆壁一樣的金屬。
「對不起,我似乎又救不了妳了……」
格雷高爾用著悲傷地語調向音音夢說道。
「格雷高爾?你在說什麼?」
「對不起,對不起,下次我一定會救妳的」
|
格雷高爾一邊流著眼淚一邊看著音音夢。
呆站在原地的音音夢身邊,漸漸地被黑色的影子圍繞覆蓋。
「我下次一定會救妳的,我的……妹……」
格雷高爾悲痛的聲音,傳到了被黑影吞噬的音音夢耳裡。
「等等,格雷高爾!」
不久,音音夢的視線就完全被黑影所覆蓋。
什麼也看不見。什麼也聽不到。
連現在自己是什麼狀態也無法掌握。
「發生了什麼事?那個,誰來放我出去!」
音音夢死命地叫著,但是聲音卻只是那樣被黑暗所吞噬而已。
「媽媽、格雷高爾,不能這樣,要照著我說去做啊」
突然傳來少女的聲音,那個聲音感覺好像以前在哪裡聽過。
「……唔!?痛──」
少女的聲音傳到音音夢耳裡的同時,音音夢感到強裂的頭痛襲來。
脈動像是要奪取音音夢的意識似地跳動,侵蝕著音音夢。
「啊哈哈哈哈哈哈哈哈!媽媽,妳聽我說!我決定下次也一起玩!開心吧?」
「停下來!停下來啊!」
音音夢大叫著。像是要趕走全部的記憶被改寫的恐懼似地在懇求著。
失去雙親、一且被奪走而被虐待的自己。與美好的男孩相遇、陷入愛情、被救贖的自己。
那些記憶,感覺在跳動的悶痛與少女的笑聲中漸漸地消失。
|
「救救我!!」
「媽媽……?」
努力睜開雙眼醒來看到的是,我可愛的孩子史塔夏。
擔心地看著做惡夢的音音夢。
「媽媽,還好嗎?」
「咦……?啊,對不起,史塔夏。嚇到妳了吧」
「沒有,媽媽沒事就好」
說完後,史塔夏便抱向音音夢。
音音夢將這樣的史塔夏抱緊,不能讓我這麼可愛的孩子傷心。
(但是,我有這麼大的孩子嗎?)
音音夢突然有了這樣的想法。
|
「─完─」
「くろ」
朝、みんなが目を覚ます少し前。ネネムは小さな部屋から出てお屋しきのそうじを始めます。
辺りに散らばる金属のゴミや、どこからか出てくるネジなどをかたづけるのが役目でした。
大人の人もいましたが、わかいネネムがいっしょにそうじをしていることに、何も言いません。時々ネネムのことを見ている大人はいましたが、ネネムが目を合わせようとすると、そっと顔をそらすのでした。
5才の時にお父さんとお母さんを病気でなくしたネネムは、お母さんのお兄さんが住むこのお屋しきに引き取られてきました。
ですが、そんなネネムをお兄さんのおくさんはよく思っていませんでした。
そして、ネネムを引き取ろうというお兄さんに「下働きとしてなら、このお屋しきに置いてもいい」と言ったのでした。
このお屋しきはおくさんの物で、お兄さんもおくさんの言うことには逆らえません。
どこにも行く当てがないネネムは、おくさんの言うことを聞くしかありませんでした。
「ちょっと、帰ってきたんだからむかえに来なさいよ!」
夕方のそうじをしていると、後ろから女の子の声がひびきます。お兄さんとおくさんの子どもであるシェリでした。
「使えないわね! お母さまに言いつけてやるんだから!」
シェリはおこったまま、ネネムに学校のカバンを投げ付けて自分の部屋へと向かっていきました。
投げ付けられたカバンを拾い、ネネムはシェリの後ろを追いかけます。大きなお屋しきに、ネネムの足音だけがひびきました。
ガッチャンガッチャンという音がしています。コンクリートと金属のゆかを、白い電気の明かりが照らしました。
「シェリおじょうさま、カバンをお持ちしました」
「おそい!」
シェリの部屋にカバンをとどけると、やっぱりおこられてしまいました。
「ごめんなさい」
「ほんと、グズなんだから」
シェリはカバンをひったくると、鉄でできた部屋のドアを閉めます。ガチャンという大きな音がネネムの耳に残りました。
これがネネムの毎日です。同じ年ごろのシェリが学校に行っているのに、自分は学校に行くこともできずに働くだけ。
こんな時ネネムは、何でお父さんとお母さんは自分を置いて行ってしまったのだろうと、泣き出してしまいそうになります。
ある日、ネネムがいつものようにそうじをしていると、お屋しきのげんかんがさわがしくなりました。
お兄さんとおくさん、そしてシェリがめいっぱいおめかしをしているのが見えます。
足を止めてげんかんを見ると、お兄さん達と同じ歳くらいの男女と、ネネムと同じ歳くらいの男の子が出むかえられていました。
「今日はいそがしい中ありがとう」
お兄さんと男の人は笑いながら会話をしています。とても仲が良さそうでした。
「さ、グレゴール、ちゃんとごあいさつを」
女の人にせなかをおされて、男の子がお兄さん達の前に出ます。
大きな目がとてもきれいな子だな。いつまでも見ていたいな。と、ネネムは男の子にそんな思いを持ちました。
「初めまして、グレゴールです」
「初めまして。ようこそ。さ、シェリもごあいさつなさい」
グレゴールがあいさつをすると、今度はシェリがお兄さんに言われて前に出ます。
「は、はじめ、まして……シェリ、です……」
いつもネネムに向かってどなるシェリはどこへやら、顔を真っ赤にしてたどたどしくグレゴール達にあいさつをします。
いつもいばっているシェリがあんな風にきんちょうしているのを見るのは、少しだけおもしろいと思えました。
その後の様子は、そうじの続きがあったので見ることができませんでした。ですが、男の子のあのきれいな目が頭からはなれません。
こんなことは初めてで、ネネムはいじいじしながらそうじを続けました。
昼になり、うらにわで鉄のゴミを拾っていると、グレゴールとよばれていた男の子がやってきました。
きょろきょろと、落ち着かなそうに周りを見ています。
「どうかしましたかぁ?」
お屋しきはとても広いため、きっと迷子になったんだろう。そう思ったネネムはグレゴールに話しかけます。
おくさんやシェリに見つかったらおこられるかもしれませんでしたが、少しでも男の子とお話しがしたかったネネムは、つい話しかけてしまったのです。
「あ、きみは……?」
グレゴールは自分やシェリと同じくらいの女の子が、みすぼらしい格好で庭そうじをしていることにおどろいたようでした。
「ネネムといいます。ここではたらいてるんですよぉ」
ネネムはおどろくグレゴールに、頭を下げて自分の名前を言いました。
「そうなんだ。ぼくはグレゴール。よろしくね」
グレゴールはきれいな顔をゆるめながらネネムに手を差し出します。あく手がしたいのだと気付いたネネムは、グレゴールの白い手をにぎりました。
それから、たびたびお屋しきに遊びに来るグレゴールとは、お兄さんやおくさん、シェリの目からかくれて会うようになりました
会う場所は、最初に二人が出会ったうらにわです。
グレゴールが語ってくれるお話しはとてもおもしろく、ネネムはにこにことグレゴールの話を聞いていました。
毎日そうじをしているのにすぐにきたなくなるお屋しきも気にならなくなるくらいに、ネネムはグレゴールが来る日を心待ちにしていました。
でも、そんな楽しい日は長く続きませんでした。ある日、シェリがグレゴールをさがしにうらにわまでやって来たのです。
「なによ! ネネムのくせに!」
シェリは目をつり上げておこります。シェリの後ろから黒い何かが立ちこめていました。
太陽の光はいつの間にかなくなり、あたりがどんどんと暗くなっていきます。
「ネネム、にげよう!」
グレゴールがネネムの手を引っ張り、立ち上がろうとします。
ですが、グレゴールに引っ張られたはずなのに、ネネムはその場所から動くことができませんでした。
グレゴールの手には、手ぶくろのようになったネネムの手の皮が残っていました。
「これ、は……」
ネネムは自分の手をぼうぜんと見つめます。
それは、お屋しきのゆかやかべと同じ、金属でした。
「ごめん。僕はまた君を助けられないみたいだ……」
グレゴールは悲しそうな声でネネムに言いました。
「グレゴール? なにを言っているの?」
「ゴメン、ゴメンね。次はちゃんと助けるから」
グレゴールは涙を流しながらネネムを見つめていた。
呆然と立ち竦むネネムの周囲を、黒い影が覆っていく。
「次こそは絶対に助けるから。僕の……いも……」
黒い影に飲み込まれていくネネムの耳に、グレゴールの悲痛な声が響く。
「まって、ねえ。グレゴール!」
やがて、ネネムの視界は完全に黒に覆われた。
何も見えない。何も聞こえない。
自分がどんな状態でいるのかすら把握できない。
「なにがおきているの? ねえ、だれかここからだして!」
ネネムは必死に叫ぶ。だが、その声は暗闇に吸い込まれていくだけだった。
「ママ、グレゴール。ダメじゃない。ちゃんとアタシの言った通りにしなきゃ」
不意に少女の声が聞こえてきた。その声は昔どこかで聞いたことがあるような気がした。
「……っ!? いたっ——」
少女の声がネネムの耳に届いたと同時に、強い頭痛に襲われる。
脈動がネネムの意識を奪うように踊り、ネネムを侵蝕する。
「あはははははははは! ねぇママ、聞いて! 今度はアタシも一緒に遊ぶことにしたの! 嬉しいでしょう?」
「やめて! やめてよ!」
ネネムは叫ぶ。全ての記憶が塗り潰されていく恐怖を退けようと、懇願する。
親を失い、引き取られた先で虐げられてきた自分。素敵な男の子に出会い、恋に落ち、救われていく自分。
その記憶が、脈打つ鈍痛と少女の笑い声と共に失われていくのを感じていた。
「助けてっ!!」
「ママ……?」
がばりと起き上がったネネムの目に飛び込んできたのは、かわいい我が子ステイシアでした。
うなされていたネネムを心配そうに見つめています。
「ママ、大丈夫?」
「え……? あ、ごめんねステイシア。びっくりしちゃったね」
「ううん、ママが大丈夫ならアタシはそれでいいの」
そう言って、ステイシアはネネムに抱きつきます。
ネネムはそんなステイシアを抱き締めます。こんなかわいい我が子を悲しませてはいけない。
(でも、こんなに大きな子ども、私にいたかしら……?)
ネネムはふと、そんなことを思ってしまったのです。
「—了—」
朝、みんなが目を覚ます少し前。ネネムは小さな部屋から出てお屋しきのそうじを始めます。
辺りに散らばる金属のゴミや、どこからか出てくるネジなどをかたづけるのが役目でした。
大人の人もいましたが、わかいネネムがいっしょにそうじをしていることに、何も言いません。時々ネネムのことを見ている大人はいましたが、ネネムが目を合わせようとすると、そっと顔をそらすのでした。
5才の時にお父さんとお母さんを病気でなくしたネネムは、お母さんのお兄さんが住むこのお屋しきに引き取られてきました。
ですが、そんなネネムをお兄さんのおくさんはよく思っていませんでした。
そして、ネネムを引き取ろうというお兄さんに「下働きとしてなら、このお屋しきに置いてもいい」と言ったのでした。
このお屋しきはおくさんの物で、お兄さんもおくさんの言うことには逆らえません。
どこにも行く当てがないネネムは、おくさんの言うことを聞くしかありませんでした。
「ちょっと、帰ってきたんだからむかえに来なさいよ!」
夕方のそうじをしていると、後ろから女の子の声がひびきます。お兄さんとおくさんの子どもであるシェリでした。
「使えないわね! お母さまに言いつけてやるんだから!」
シェリはおこったまま、ネネムに学校のカバンを投げ付けて自分の部屋へと向かっていきました。
投げ付けられたカバンを拾い、ネネムはシェリの後ろを追いかけます。大きなお屋しきに、ネネムの足音だけがひびきました。
ガッチャンガッチャンという音がしています。コンクリートと金属のゆかを、白い電気の明かりが照らしました。
「シェリおじょうさま、カバンをお持ちしました」
「おそい!」
シェリの部屋にカバンをとどけると、やっぱりおこられてしまいました。
「ごめんなさい」
「ほんと、グズなんだから」
シェリはカバンをひったくると、鉄でできた部屋のドアを閉めます。ガチャンという大きな音がネネムの耳に残りました。
これがネネムの毎日です。同じ年ごろのシェリが学校に行っているのに、自分は学校に行くこともできずに働くだけ。
こんな時ネネムは、何でお父さんとお母さんは自分を置いて行ってしまったのだろうと、泣き出してしまいそうになります。
ある日、ネネムがいつものようにそうじをしていると、お屋しきのげんかんがさわがしくなりました。
お兄さんとおくさん、そしてシェリがめいっぱいおめかしをしているのが見えます。
足を止めてげんかんを見ると、お兄さん達と同じ歳くらいの男女と、ネネムと同じ歳くらいの男の子が出むかえられていました。
「今日はいそがしい中ありがとう」
お兄さんと男の人は笑いながら会話をしています。とても仲が良さそうでした。
「さ、グレゴール、ちゃんとごあいさつを」
女の人にせなかをおされて、男の子がお兄さん達の前に出ます。
大きな目がとてもきれいな子だな。いつまでも見ていたいな。と、ネネムは男の子にそんな思いを持ちました。
「初めまして、グレゴールです」
「初めまして。ようこそ。さ、シェリもごあいさつなさい」
グレゴールがあいさつをすると、今度はシェリがお兄さんに言われて前に出ます。
「は、はじめ、まして……シェリ、です……」
いつもネネムに向かってどなるシェリはどこへやら、顔を真っ赤にしてたどたどしくグレゴール達にあいさつをします。
いつもいばっているシェリがあんな風にきんちょうしているのを見るのは、少しだけおもしろいと思えました。
その後の様子は、そうじの続きがあったので見ることができませんでした。ですが、男の子のあのきれいな目が頭からはなれません。
こんなことは初めてで、ネネムはいじいじしながらそうじを続けました。
昼になり、うらにわで鉄のゴミを拾っていると、グレゴールとよばれていた男の子がやってきました。
きょろきょろと、落ち着かなそうに周りを見ています。
「どうかしましたかぁ?」
お屋しきはとても広いため、きっと迷子になったんだろう。そう思ったネネムはグレゴールに話しかけます。
おくさんやシェリに見つかったらおこられるかもしれませんでしたが、少しでも男の子とお話しがしたかったネネムは、つい話しかけてしまったのです。
「あ、きみは……?」
グレゴールは自分やシェリと同じくらいの女の子が、みすぼらしい格好で庭そうじをしていることにおどろいたようでした。
「ネネムといいます。ここではたらいてるんですよぉ」
ネネムはおどろくグレゴールに、頭を下げて自分の名前を言いました。
「そうなんだ。ぼくはグレゴール。よろしくね」
グレゴールはきれいな顔をゆるめながらネネムに手を差し出します。あく手がしたいのだと気付いたネネムは、グレゴールの白い手をにぎりました。
それから、たびたびお屋しきに遊びに来るグレゴールとは、お兄さんやおくさん、シェリの目からかくれて会うようになりました
会う場所は、最初に二人が出会ったうらにわです。
グレゴールが語ってくれるお話しはとてもおもしろく、ネネムはにこにことグレゴールの話を聞いていました。
毎日そうじをしているのにすぐにきたなくなるお屋しきも気にならなくなるくらいに、ネネムはグレゴールが来る日を心待ちにしていました。
でも、そんな楽しい日は長く続きませんでした。ある日、シェリがグレゴールをさがしにうらにわまでやって来たのです。
「なによ! ネネムのくせに!」
シェリは目をつり上げておこります。シェリの後ろから黒い何かが立ちこめていました。
太陽の光はいつの間にかなくなり、あたりがどんどんと暗くなっていきます。
「ネネム、にげよう!」
グレゴールがネネムの手を引っ張り、立ち上がろうとします。
ですが、グレゴールに引っ張られたはずなのに、ネネムはその場所から動くことができませんでした。
グレゴールの手には、手ぶくろのようになったネネムの手の皮が残っていました。
「これ、は……」
ネネムは自分の手をぼうぜんと見つめます。
それは、お屋しきのゆかやかべと同じ、金属でした。
「ごめん。僕はまた君を助けられないみたいだ……」
グレゴールは悲しそうな声でネネムに言いました。
「グレゴール? なにを言っているの?」
「ゴメン、ゴメンね。次はちゃんと助けるから」
グレゴールは涙を流しながらネネムを見つめていた。
呆然と立ち竦むネネムの周囲を、黒い影が覆っていく。
「次こそは絶対に助けるから。僕の……いも……」
黒い影に飲み込まれていくネネムの耳に、グレゴールの悲痛な声が響く。
「まって、ねえ。グレゴール!」
やがて、ネネムの視界は完全に黒に覆われた。
何も見えない。何も聞こえない。
自分がどんな状態でいるのかすら把握できない。
「なにがおきているの? ねえ、だれかここからだして!」
ネネムは必死に叫ぶ。だが、その声は暗闇に吸い込まれていくだけだった。
「ママ、グレゴール。ダメじゃない。ちゃんとアタシの言った通りにしなきゃ」
不意に少女の声が聞こえてきた。その声は昔どこかで聞いたことがあるような気がした。
「……っ!? いたっ——」
少女の声がネネムの耳に届いたと同時に、強い頭痛に襲われる。
脈動がネネムの意識を奪うように踊り、ネネムを侵蝕する。
「あはははははははは! ねぇママ、聞いて! 今度はアタシも一緒に遊ぶことにしたの! 嬉しいでしょう?」
「やめて! やめてよ!」
ネネムは叫ぶ。全ての記憶が塗り潰されていく恐怖を退けようと、懇願する。
親を失い、引き取られた先で虐げられてきた自分。素敵な男の子に出会い、恋に落ち、救われていく自分。
その記憶が、脈打つ鈍痛と少女の笑い声と共に失われていくのを感じていた。
「助けてっ!!」
「ママ……?」
がばりと起き上がったネネムの目に飛び込んできたのは、かわいい我が子ステイシアでした。
うなされていたネネムを心配そうに見つめています。
「ママ、大丈夫?」
「え……? あ、ごめんねステイシア。びっくりしちゃったね」
「ううん、ママが大丈夫ならアタシはそれでいいの」
そう言って、ステイシアはネネムに抱きつきます。
ネネムはそんなステイシアを抱き締めます。こんなかわいい我が子を悲しませてはいけない。
(でも、こんなに大きな子ども、私にいたかしら……?)
ネネムはふと、そんなことを思ってしまったのです。
「—了—」