從連隊基地出發後已經過了十五個小時。繼續順利前進的話,再過幾個小時後就可以到達舊桑德蘭平原了。
米利安將嘉達交給赫姆霍茲操縱,進入不知道是第幾次的休息小憩。
因嘉達不自然搖晃造成的振動,讓米利安醒了過來。
「媽的,跟蒼蠅一樣嗡嗡地在眼前飛來飛去煩死了」
坐在駕駛席上的赫姆霍茲火大地咒罵著。
「發生什麼事?」
在搖晃的嘉達內問了梅魯魯。
「是敵性生物。好像是用身體在撞我們的機體」
從機艙側面的小窗口看出去,嘉達的周圍飛繞著暴牙的異形。
從骨骼與翅膀來看跟蝙蝠有點相似,不過爪子跟臉上那看起來像針一樣的牙齒,應該能輕而易舉撕裂人類的身體。
機身發出沉重的撞擊聲。似乎是敵對的生物更加猛烈的衝撞了。
「這機體沒問題吧?」
豪斯哈特向梅魯魯問道。
「這種尺寸的話,應該是沒問題」
「應該?」
米利安下意識地回問道。
「如果我們什麼確定的情報都知道的話,就不用調查隊了吧?」
梅魯魯一邊持續將狀況輸入到終端機裡一邊說道。那是工程師獨特的冷靜語氣。
同時,沈重的撞擊聲再次響起。
「米利安,換你來是不是比較好啊?」
布魯貝克所說的話,在操縱席的赫姆霍茲全都聽到了。
「我聽見了!喂,那你這傢伙來試試看啊!」
赫姆霍茲轉身對著機艙大喊。
「喂,你專心駕駛啊」
豪斯哈特忍不住跳出來說話。
「哼。那你就叫那沒用的傢伙把他那該死的嘴巴閉上!」
赫姆霍茲生氣地大喊。
「那傢伙的技術要是不行的話,換誰都不行了。交給他吧」
米利安在劇烈搖晃的機中,對著周圍的隊員說道。
|
因為在途中調整了好幾次路線,雖然趕不上預定到達的時間,不過嘉達還是平安到達調查地點了。
嘉達著陸在一個大段差地形的陰影處,四個人下機後像是要保護嘉達似地背對嘉達站著,梅魯魯則是留在機裡。
周圍沒有看到魔物。
雖然只是暫時的,不過就在多少可以確保安全之後,梅魯魯開啟了小型的障壁器。這樣就可以更加確保在嘉達的半徑3阿爾雷圈內的安全。
這裡暫時性的成為米利安他們第四小隊的調查據點。
從這裡接近渦,檢測並記錄周邊的情報後帶回,就是這次的任務內容。
「要調查什麼?」
米利安向梅魯魯發問。
「混沌元素的濃度跟環境,敵性生物的分類,諸如此類」
梅魯魯一邊檢查著儀器一邊說道。
「這個時期渦的活動也很旺盛,盡快把任務完成吧。渦的附近不知道會發生什麼事」
「怎麼變得這麼膽小。你該不會是在害怕吧」
赫姆霍茲對著布魯貝克說道。
「我既不笨也不傻。我們都是仔細地讀取渦的動向,了解渦的恐怖才能一路存活下來的。比你這種在都市城牆保護下悠哉生活的傢伙更懂」
「是是是。那你就好好做吧。畢竟你領的比我們多啊」
「我並不完全是為了酬勞才參加連隊的」
「你還真敢講啊」
「再繼續吵下去對任何人都沒有好處」
準備要大打出手的這兩個人之間,米利安插了進來。
「米利安,你要站在他那邊喔」
「我只想說怒氣要發就留著發在魔物對手上。你們也不想死在這邊吧?」
布魯貝克跟赫姆霍茲兩個人用銳利的眼神互看了之後,就各自回到自己的崗位了。
|
調查渦的周邊是很嚴酷的工作。為了要對付零星出現的怪物,五人必須保持緊繃的狀態。
就連剛開始嘴巴不停在咒罵的赫姆霍茲,隨著時間的經過咒罵的次數也減少許多。
「能不能到那個較高的岩石附近?我想從那裡把浮動紀錄儀送進去」
豪斯哈特跟隊員們確認了一下梅魯魯的提案。彈藥還算充足。但是,不知道是不是因為緊張,所有人看起來都很疲倦的樣子。
「沒問題。我還可以繼續。不過我不知道那個疑心病的瘦皮猴行不行」
乳白色的霧跟奇妙的光線反射著渦的交界線,反複不穩定地閃爍著。
「應該沒問題。渦似乎也安定下來了」
布魯貝克無視赫姆霍茲的挑釁回答道。
「沒問題」
米利安也回答道。疲勞感是精神上的。真的是覺得還可以繼續。
當霧散了一些之後,梅魯魯在交界處的岩石上安裝了觀測裝置。看來是可以控制浮動紀錄儀的機器。
「只要把這個送進去,這次的調查就算是成功了」
那是以梅魯魯來說難得帶有感情的話語。
米利安一行人就在那周圍,注意著渦的內部及警戒著魔物。
起初只感到有一點不協調。像是在呼吸一樣反覆著收縮跟擴大的光線裡,似乎可以看到些什麼。米利安一直凝視著霧中。
又暗又亮的渦裡,可以看到青苔色凹凸像岩盤的東西,還有藍色細長的物體。在那前方延伸著一個乳白色的空間。
發現青苔色的岩盤是在渦裡面延伸出去的大地這件事,並沒有花上很多時間。在深入的話是不是可以看到天空呢。
真是奇妙的異世界。雖然有學過渦就是異世界的境界。但是,實際像這樣親眼看還是第一次。
反覆閃爍著出現又消失的景象,既不是幻覺也不是影像。而是現實。霧跟光,渦的境界所出現的惡夢的世界。
奪走自己故鄉跟家族的真相,米利安正在與它對峙著。
|
「梅魯魯,渦的情況看起來很奇怪。差不多該撤退了」
布魯貝克不會錯過渦的細微變化。以長期的經驗來判斷對面的情況,掌握接下來這邊將會發生什麼情況。
「不,還沒有。再十分鐘」
梅魯魯不放過調查器上令人眼花撩亂的任何數值記錄起來。可以看得出來梅魯魯很興奮。
「梅魯魯,照布魯貝克說的。該撤退了」
「不行!」
梅魯魯不同意豪斯哈特的意見,緊盯著計測器的數值。
一瞬間,以為霧動了一下,沒想到從渦裡有黑色的藤蔓朝向梅魯魯襲來。
「……唔!」
藤蔓一瞬間就纏住了梅魯魯的手,被赫姆霍茲用散彈打飛。
「在背後,小心!」
布魯貝克對著赫姆霍茲大叫。
瞬間將身體轉過來,用散彈槍朝著襲擊而來的藤蔓開槍。
「謝啦」
「是為了整個小隊」
布魯貝克跟赫姆霍茲話才剛說完,再次開始迎戰接二連三而來的藤蔓。
|
米利安抓著梅魯魯的手護著他。像觸手般的藤蔓,像鞭子一樣襲擊米利安。才想要用槍劍去劈開時,卻被藤蔓的荊棘割裂了肩膀。
「控制器!」
「等等再拿!」
用槍劍砍斷接二連三冒出來的藤蔓,調查隊開始從交界線撤退。
像滾下來似地從岩石上下來,總算從猛烈地藤蔓攻擊中脫逃成功。
「不收回控制器的話……。來這邊的意義就沒了」
手上鮮血直流的梅魯魯說道。
「不要說傻話,會死人的」
赫姆霍茲反駁。
大家自然地看向隊長豪斯哈特。
「布魯貝克,你覺得呢?」
「告訴我回收物品的細節。我一個人去的話搞不好可以搞定」
稍微思考了一下後,剛剛的戰鬥中沒有受傷的布魯貝克說道。
「我知道了,給你一小時進行回收作業。因為還有人受傷」
豪斯哈特向隊員們說道。
「千萬不要逞強」
「我來支援」
赫姆霍茲對著布魯貝克說道。赫姆霍茲幾乎沒有受傷。
「我知道了。交給你」
兩人攀上岩石,準備去取回梅魯魯指定的機器。
|
過了一個小時,兩人都還沒回來。
豪斯哈特開始準備撤退。
「不等了嗎?」
米利安向豪斯哈特問道。
「我不能再冒更多的險了。回嘉達去」
米利安叫醒了幾乎喪失意識的梅魯魯,扶著他沒有受傷的那一邊肩。
就在這同時,聽到岩石上發出聲音。
三人停止動作。在霧的另一端赫姆霍茲跟布魯貝克下來了。
「這個就好了嗎」
赫姆霍茲抱著梅魯魯所說的控制器問道。
「……對。這樣就可以了」
小聲地回答後,梅魯魯就失去了意識。扶著梅魯魯的米利安稍微失去平衡,豪斯哈特從另一邊支撐著。
「好,該回去了。別大意了啊」
豪斯哈特說道。調查隊往嘉達的方向前進。
|
迎接米利安他們回來的是,其他調查隊的疲憊的戰士與工程師們。
雖然規模程度不同,但各隊伍也都遭遇到不同的災難,也都是想盡辦法才勉強平安歸來的吧。
連隊要面對的渦,是非常強大的存在。
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在那之後也組成過好幾次調查隊,雖然付出了犧牲持續了研究。
工程師配給的裝備也加以改良,與初期時的相比便利性也增加了,變得強勁許多。
不過像是呈正比一樣,隨著越來越了解渦的同時犧牲人數也持續增加。
當確立了消滅渦的理論,並且完成了實行裝置的時候,剛好也是追加的連隊隊員剛入隊的時候。
|
當結束關於新的聖劍使用說明後,米利安為了要去下一個會議場所而往停機坪的方向走去。
途中經過的射擊場裡,新進的隊員正在進行訓練。
為了成為消滅渦的主力而從各地召集來的男子們,不知道是不是錯覺,年輕人似乎佔了大多數。
跟渦戰鬥的部隊名聲,漸漸地在大陸上的各都市傳開來了。有人加入,自然也有人離開。
「米利安,新型武裝車的說明會就快開始了。快點」
「嗯,我馬上過去」
新兵訓練才剛結束,米利安的A中隊已決定參加第一個消滅渦的戰鬥,在那之前必須不斷開會討論。
米利安瞧了一眼新隊員後,就快步前往停機坪了。
|
「─完─」
3373年 「未知」
レジメントの施設を発ってから十五時間ほどが過ぎていた。このまま順当にいけば、あと数時間で旧サンダランド平原に到着する。
ミリアンはカッターの操縦をヘルムホルツに交代し、何度目かの仮眠を取っていた。
不自然に揺れるカッターからの振動で、ミリアンは目を覚ました。
「くそっ、蝿みたいにブンブンと目の前を飛び回りやがって……邪魔くせえ」
操縦席のヘルムホルツが悪態を吐いている。
「何があった?」
揺れるカッター内でメルルに尋ねる。
「敵性生物だ。 機体に体当たりしているようだな」
キャビンの脇にある小さな窓を覗くと、カッターの周りを歯を剥き出しにした異形が飛び回っていた。
骨格や翼は蝙蝠に似ているが、爪や顔から生えた針のような牙は、生身の人間だったら簡単に引き裂かれてしまうだろう。
重い衝撃音が機体に響いた。敵性生物が激突したようだ。
「この機体は大丈夫だろうな?」
ハウスホッターがメルルに訪ねた。
「このサイズなら、おそらく問題は無い」
「おそらく?」
思わずミリアンが訊ね返した。
「確定的な情報が全てわかっているなら、調査隊など必要ないだろう」
メルルは状況を端末に打ち込む作業を続けながら言った。エンジニア独特の抑制的な口調だ。
その間にもまた、重い衝撃音がキャビンに響いた。
「ミリアン、お前に替わったほうがいいんじゃないか?」
ブルベイカーが言った言葉を、操縦席のヘルムホルツは聞き逃さなかった。
「聞こえたぞ! じゃあ、てめぇがやってみろってんだ!」
キャビンに振り向いて大声で叫び返す。
「おい、操縦に集中しろ」
ハウスホッターがたまらず仲裁する。
「ふん。 なら、その役立たずなやせっぽちの口を押さえとけ!」
ヘルムホルツが怒鳴った。
「あいつの腕で落ちるなら誰の操縦でも落ちる。 任せよう」
ミリアンは大きく揺れる機体の中で、周りのメンバーに言った。
途中何度か進路を調整したため、到着予定時刻には間に合わなかったが、カッターは調査ポイントへと辿り着いた。
カッターを大きな段差の影に着陸させると、メルルを中に残して、四人はカッターを背に庇うようにして立った。
周囲に魔物の姿は見えない。
一時的ではあるが多少の安全が確保されたところで、メルルが小型の障壁器を展開させた。これでカッターの半径3アルレ圏内の安全は強固なものとなる。
しばらくはここが、ミリアン達第四調査小隊の拠点となる。
ここから渦に近付き、周辺の情報を計測して帰還するのが、今回のミッション内容だ。
「何を調べるんだ?」
ミリアンはメルルに聞いた。
「ケイオシウム濃度や環境、敵性生物の分類、諸々だ」
計測器のチェックをしながらメルルは言った。
「この時期の渦は活動も活発だ、素早く済ませよう。 渦の近くでは何が起こるかわからない」
「ずいぶんと弱気じゃねえか。 ビビってんのかよ」
ヘルムホルツがブルベイカーに突っ掛かっていた。
「俺は馬鹿でも無謀でもないからな。我々は渦の流れを読み、渦の脅威を知ることで生きてきた。ぬくぬくと都市の壁に守られていたお前よりは、よく知っている」
「そうかいそうかい。 じゃあ、せいぜい働けよ。俺達より貰ってるんだからな」
「報酬だけでこのレジメントに参加したわけではない」
「よく言うぜ」
「互いに争っても、誰の得にもならん」
殴り合わんばかりの調子の二人に、ミリアンが割って入った。
「こいつの肩を持つのかよ、ミリアン」
「怒りは魔物相手に取っておけって言ってるんだ。 ここで死にたいわけじゃあるまい?」
ブルベイカーとヘルムホルツは互いに鋭い視線を交わすと、それぞれの持ち場に立った。
渦の周辺調査は苛酷なものになった。散発的に現れる魔物を相手にするため、五人は常に緊張状態にあった。
最初の内は相当数の悪態や軽口を吐いていたヘルムホルツですら、時間が経つにつれて口数が減っていった。
「あの高くなった岩場まで近付けるか? あそこから調査ドローンを送り込みたい」
メルルの提案にハウスホッターは隊員達を確認した。弾薬はまだ十分にあった。だが、緊張感からか、全員が疲労しているように見える。
「問題ないぜ。 俺はまだまだやれる。 臆病者のやせっぽちはどうか知らねえけどな」
乳白色の霧が奇妙な色合いに反射する渦の境界線が、不安定な明滅を繰り返していた。
「問題ないだろう。 渦は少し落ち着いているようだ」
ブルベイカーはヘルムホルツの挑発を無視して答えた。
「問題ない」
ミリアンも答えた。疲労感は精神的なものだった。まだ行けると、正直に思った。
霧が少し晴れると、境界上にある岩場にメルルは観測装置を取り付けた。ドローンをコントロールする機械のようだ。
「これを送り込めれば、今回の調査は成功だ」
メルルにしては感情のこもった言葉だった。
ミリアン達はその近辺で、魔物の出現を警戒するべく渦の中を注視していた。
最初はほんの僅かな違和感だった。呼吸をするかのように収縮と拡大を繰り返す光の中に、何かが見えた。ミリアンは目を凝らして霧の中を注視する。
暗く輝く渦の中には、苔色をした凸凹の岩盤のようなものと、藍色をした細長いオブジェが見えた。その先には乳白色をした空間が広がっている。
苔色の岩盤が渦の中に広がる大地だということに気付くのに、さほど時間は掛からなかった。その先に見えるのは空ということになるのだろうか。
奇妙な異界の姿だった。渦が異界との境界であることは散々教えられていた。だが、実際に向こう側を見るのは初めてだった。
ちらちらと現れては消えるその姿は、幻覚でも映像でもない。現実だった。霧と光、渦との境界に現れる悪夢の世界。
自分の故郷と家族を奪ったものの正体と、ミリアンは対峙していた。
「メルル、渦の動きがおかしい。 そろそろ潮時だ」
ブルベイカーは渦の些細な変化も見逃さない。長い経験から向こう側で何が起きて、次にこちら側で何が起きるのかを知っているのだ。
「いや、まだだ。 あと一〇分」
メルルは目まぐるしく数値が変わる調査器の記録を、余すところなく取っていた。メルルは興奮しているようにも見えた。
「メルル、ブルベイカーの言うとおりだ。撤退するぞ」
「だめだ!」
メルルはハウスホッターの意見すら意に介さず、計測器の数値を見つめていた。
一瞬、霧が動いたかと思うと、渦の中からメルルに向かって黒色の蔦が襲ってきた。
「……っ!」
メルルの腕に一瞬でとりついたその蔦を、ヘルムホルツは散弾で吹き飛ばした。
「後ろだ、気をつけろ!」
ブルベイカーがヘルムホルツに叫んだ。
咄嗟にその丸い身体を反転させ、襲いかかる蔦をショットガンで吹き飛ばした。
「礼は言っとくぜ」
「チームの為だ」
ブルベイカーとヘルムホルツはそう会話すると、次々と襲い掛かってくる蔦との戦いを再開した。
ミリアンはメルルを掴むようにして守っている。触手のように伸びてくる蔦が、ミリアンを鞭のように襲った。銃剣で払おうとするが、相手の棘で肩口を切り裂かれた。
「コンソールが!」
「あとだ!」
次々と飛び出してくる蔦を銃剣で切り伏せ、調査隊は境界線から撤退を始めた。
岩場を転がるようにして下り、どうにか蔦の猛襲から逃れることができた。
「コンソールを回収しなければ……。 これではここに来た意味が無い」
腕から血を流したままのメルルが言った。
「馬鹿を言うな、死んじまうぜ」
ヘルムホルツが反論した。
自然と、隊長であるハウスホッターに視線が集まった。
「ブルベイカー、どう思う?」
「回収するものの詳細を教えてくれ。俺一人なら上手くやれるかもしれん」
少しだけ考えた後、さっきの戦闘で無傷だったブルベイカーが言った。
「わかった、一時間だけ回収作業を行う。 怪我の状態もある」
ハウスホッターはそう隊員達に告げた。
「無理はするなよ」
「バックアップに回ろう」
ヘルムホルツがブルベイカーに言った。ヘルムホルツも傷は殆ど無い。
「わかった。頼もう」
二人はメルルが指定した機器を取りに、また岩場を登っていった。
一時間が経ったが、二人は帰ってこなかった。
ハウスホッターは撤退の準備を始めた。
「待たないのか?」
ミリアンはハウスホッターに言った。
「これ以上の危険は冒せない。 カッターまで戻るぞ」
ミリアンは意識を失いかけているメルルを起こし、傷付いていない方の肩を貸して歩き始めた。
その時、岩場の上から音が聞こえた。
三人は動きを止める。霧の向こうからはヘルムホルツとブルベイカーが下りてきた。
「こいつでいいのか」
ヘルムホルツがメルルの指定したコンソールを抱えあげてみせた。
「……そうだ。それでいい」
メルルは小さな声でそう言うと、意識を失った。ミリアンにメルルの重みが掛かってふらつきそうになったが、ハウスホッターが反対側から支えた。
「さあ、帰りの時間だ。 油断するな」
ハウスホッターがそう言うと。調査隊はカッターへ戻る道を進んだ。
帰還したミリアン達を迎えたのは、他の調査隊の疲弊した戦士やエンジニア達の姿だった。
規模の程度に差こそあったが、それぞれ埒外の現象に見舞われて、どうにかこうにか帰還してきたのだろう。
レジメントが立ち向かおうとしている渦は、あまりにも強大な存在であった。
それから幾度となく調査隊が組まれ、犠牲を出しながらも渦の研究は進んでいった。
エンジニア達から支給される装備品も改良され、初期の頃とは比べ物にならないほど利便性を増し、強力なものとなっていった。
しかし渦の正体が明らかになっていくことと比例するかのように、犠牲者も増え続けていた。
渦を消滅させるための理論が確立し、それを行うための装置が完成したのは、追加の隊員達がレジメントに入隊してすぐのことであった。
新しいセプターの取り扱いに関する一通りの説明が終了し、ミリアンは次のブリーフィングのためにハンガーへと向かっていた。
その途中に通りかかった射撃場では、新隊員達が訓練を行っていた。
渦消滅の主力とするべく新たに各地から集められた男達は、心なしか若い連中が多かった。
渦と戦う部隊の名は、少しずつだが大陸の各都市で話題になり始めていた。去る者がいれば、来る者もいる。
「ミリアン、もうすぐ新型コルベットの説明が始まるぞ。 急いでくれ」
「ああ、すぐに向かう」
新兵の訓練終了を待たずして、ミリアン達A中隊が最初の渦消滅作戦に参加することになり、その前準備としてブリーフィングを重ねている。
ミリアンは訓練中の新隊員達を一瞥して、足早にハンガーへと向かっていった。
「—了—」
レジメントの施設を発ってから十五時間ほどが過ぎていた。このまま順当にいけば、あと数時間で旧サンダランド平原に到着する。
ミリアンはカッターの操縦をヘルムホルツに交代し、何度目かの仮眠を取っていた。
不自然に揺れるカッターからの振動で、ミリアンは目を覚ました。
「くそっ、蝿みたいにブンブンと目の前を飛び回りやがって……邪魔くせえ」
操縦席のヘルムホルツが悪態を吐いている。
「何があった?」
揺れるカッター内でメルルに尋ねる。
「敵性生物だ。 機体に体当たりしているようだな」
キャビンの脇にある小さな窓を覗くと、カッターの周りを歯を剥き出しにした異形が飛び回っていた。
骨格や翼は蝙蝠に似ているが、爪や顔から生えた針のような牙は、生身の人間だったら簡単に引き裂かれてしまうだろう。
重い衝撃音が機体に響いた。敵性生物が激突したようだ。
「この機体は大丈夫だろうな?」
ハウスホッターがメルルに訪ねた。
「このサイズなら、おそらく問題は無い」
「おそらく?」
思わずミリアンが訊ね返した。
「確定的な情報が全てわかっているなら、調査隊など必要ないだろう」
メルルは状況を端末に打ち込む作業を続けながら言った。エンジニア独特の抑制的な口調だ。
その間にもまた、重い衝撃音がキャビンに響いた。
「ミリアン、お前に替わったほうがいいんじゃないか?」
ブルベイカーが言った言葉を、操縦席のヘルムホルツは聞き逃さなかった。
「聞こえたぞ! じゃあ、てめぇがやってみろってんだ!」
キャビンに振り向いて大声で叫び返す。
「おい、操縦に集中しろ」
ハウスホッターがたまらず仲裁する。
「ふん。 なら、その役立たずなやせっぽちの口を押さえとけ!」
ヘルムホルツが怒鳴った。
「あいつの腕で落ちるなら誰の操縦でも落ちる。 任せよう」
ミリアンは大きく揺れる機体の中で、周りのメンバーに言った。
途中何度か進路を調整したため、到着予定時刻には間に合わなかったが、カッターは調査ポイントへと辿り着いた。
カッターを大きな段差の影に着陸させると、メルルを中に残して、四人はカッターを背に庇うようにして立った。
周囲に魔物の姿は見えない。
一時的ではあるが多少の安全が確保されたところで、メルルが小型の障壁器を展開させた。これでカッターの半径3アルレ圏内の安全は強固なものとなる。
しばらくはここが、ミリアン達第四調査小隊の拠点となる。
ここから渦に近付き、周辺の情報を計測して帰還するのが、今回のミッション内容だ。
「何を調べるんだ?」
ミリアンはメルルに聞いた。
「ケイオシウム濃度や環境、敵性生物の分類、諸々だ」
計測器のチェックをしながらメルルは言った。
「この時期の渦は活動も活発だ、素早く済ませよう。 渦の近くでは何が起こるかわからない」
「ずいぶんと弱気じゃねえか。 ビビってんのかよ」
ヘルムホルツがブルベイカーに突っ掛かっていた。
「俺は馬鹿でも無謀でもないからな。我々は渦の流れを読み、渦の脅威を知ることで生きてきた。ぬくぬくと都市の壁に守られていたお前よりは、よく知っている」
「そうかいそうかい。 じゃあ、せいぜい働けよ。俺達より貰ってるんだからな」
「報酬だけでこのレジメントに参加したわけではない」
「よく言うぜ」
「互いに争っても、誰の得にもならん」
殴り合わんばかりの調子の二人に、ミリアンが割って入った。
「こいつの肩を持つのかよ、ミリアン」
「怒りは魔物相手に取っておけって言ってるんだ。 ここで死にたいわけじゃあるまい?」
ブルベイカーとヘルムホルツは互いに鋭い視線を交わすと、それぞれの持ち場に立った。
渦の周辺調査は苛酷なものになった。散発的に現れる魔物を相手にするため、五人は常に緊張状態にあった。
最初の内は相当数の悪態や軽口を吐いていたヘルムホルツですら、時間が経つにつれて口数が減っていった。
「あの高くなった岩場まで近付けるか? あそこから調査ドローンを送り込みたい」
メルルの提案にハウスホッターは隊員達を確認した。弾薬はまだ十分にあった。だが、緊張感からか、全員が疲労しているように見える。
「問題ないぜ。 俺はまだまだやれる。 臆病者のやせっぽちはどうか知らねえけどな」
乳白色の霧が奇妙な色合いに反射する渦の境界線が、不安定な明滅を繰り返していた。
「問題ないだろう。 渦は少し落ち着いているようだ」
ブルベイカーはヘルムホルツの挑発を無視して答えた。
「問題ない」
ミリアンも答えた。疲労感は精神的なものだった。まだ行けると、正直に思った。
霧が少し晴れると、境界上にある岩場にメルルは観測装置を取り付けた。ドローンをコントロールする機械のようだ。
「これを送り込めれば、今回の調査は成功だ」
メルルにしては感情のこもった言葉だった。
ミリアン達はその近辺で、魔物の出現を警戒するべく渦の中を注視していた。
最初はほんの僅かな違和感だった。呼吸をするかのように収縮と拡大を繰り返す光の中に、何かが見えた。ミリアンは目を凝らして霧の中を注視する。
暗く輝く渦の中には、苔色をした凸凹の岩盤のようなものと、藍色をした細長いオブジェが見えた。その先には乳白色をした空間が広がっている。
苔色の岩盤が渦の中に広がる大地だということに気付くのに、さほど時間は掛からなかった。その先に見えるのは空ということになるのだろうか。
奇妙な異界の姿だった。渦が異界との境界であることは散々教えられていた。だが、実際に向こう側を見るのは初めてだった。
ちらちらと現れては消えるその姿は、幻覚でも映像でもない。現実だった。霧と光、渦との境界に現れる悪夢の世界。
自分の故郷と家族を奪ったものの正体と、ミリアンは対峙していた。
「メルル、渦の動きがおかしい。 そろそろ潮時だ」
ブルベイカーは渦の些細な変化も見逃さない。長い経験から向こう側で何が起きて、次にこちら側で何が起きるのかを知っているのだ。
「いや、まだだ。 あと一〇分」
メルルは目まぐるしく数値が変わる調査器の記録を、余すところなく取っていた。メルルは興奮しているようにも見えた。
「メルル、ブルベイカーの言うとおりだ。撤退するぞ」
「だめだ!」
メルルはハウスホッターの意見すら意に介さず、計測器の数値を見つめていた。
一瞬、霧が動いたかと思うと、渦の中からメルルに向かって黒色の蔦が襲ってきた。
「……っ!」
メルルの腕に一瞬でとりついたその蔦を、ヘルムホルツは散弾で吹き飛ばした。
「後ろだ、気をつけろ!」
ブルベイカーがヘルムホルツに叫んだ。
咄嗟にその丸い身体を反転させ、襲いかかる蔦をショットガンで吹き飛ばした。
「礼は言っとくぜ」
「チームの為だ」
ブルベイカーとヘルムホルツはそう会話すると、次々と襲い掛かってくる蔦との戦いを再開した。
ミリアンはメルルを掴むようにして守っている。触手のように伸びてくる蔦が、ミリアンを鞭のように襲った。銃剣で払おうとするが、相手の棘で肩口を切り裂かれた。
「コンソールが!」
「あとだ!」
次々と飛び出してくる蔦を銃剣で切り伏せ、調査隊は境界線から撤退を始めた。
岩場を転がるようにして下り、どうにか蔦の猛襲から逃れることができた。
「コンソールを回収しなければ……。 これではここに来た意味が無い」
腕から血を流したままのメルルが言った。
「馬鹿を言うな、死んじまうぜ」
ヘルムホルツが反論した。
自然と、隊長であるハウスホッターに視線が集まった。
「ブルベイカー、どう思う?」
「回収するものの詳細を教えてくれ。俺一人なら上手くやれるかもしれん」
少しだけ考えた後、さっきの戦闘で無傷だったブルベイカーが言った。
「わかった、一時間だけ回収作業を行う。 怪我の状態もある」
ハウスホッターはそう隊員達に告げた。
「無理はするなよ」
「バックアップに回ろう」
ヘルムホルツがブルベイカーに言った。ヘルムホルツも傷は殆ど無い。
「わかった。頼もう」
二人はメルルが指定した機器を取りに、また岩場を登っていった。
一時間が経ったが、二人は帰ってこなかった。
ハウスホッターは撤退の準備を始めた。
「待たないのか?」
ミリアンはハウスホッターに言った。
「これ以上の危険は冒せない。 カッターまで戻るぞ」
ミリアンは意識を失いかけているメルルを起こし、傷付いていない方の肩を貸して歩き始めた。
その時、岩場の上から音が聞こえた。
三人は動きを止める。霧の向こうからはヘルムホルツとブルベイカーが下りてきた。
「こいつでいいのか」
ヘルムホルツがメルルの指定したコンソールを抱えあげてみせた。
「……そうだ。それでいい」
メルルは小さな声でそう言うと、意識を失った。ミリアンにメルルの重みが掛かってふらつきそうになったが、ハウスホッターが反対側から支えた。
「さあ、帰りの時間だ。 油断するな」
ハウスホッターがそう言うと。調査隊はカッターへ戻る道を進んだ。
帰還したミリアン達を迎えたのは、他の調査隊の疲弊した戦士やエンジニア達の姿だった。
規模の程度に差こそあったが、それぞれ埒外の現象に見舞われて、どうにかこうにか帰還してきたのだろう。
レジメントが立ち向かおうとしている渦は、あまりにも強大な存在であった。
それから幾度となく調査隊が組まれ、犠牲を出しながらも渦の研究は進んでいった。
エンジニア達から支給される装備品も改良され、初期の頃とは比べ物にならないほど利便性を増し、強力なものとなっていった。
しかし渦の正体が明らかになっていくことと比例するかのように、犠牲者も増え続けていた。
渦を消滅させるための理論が確立し、それを行うための装置が完成したのは、追加の隊員達がレジメントに入隊してすぐのことであった。
新しいセプターの取り扱いに関する一通りの説明が終了し、ミリアンは次のブリーフィングのためにハンガーへと向かっていた。
その途中に通りかかった射撃場では、新隊員達が訓練を行っていた。
渦消滅の主力とするべく新たに各地から集められた男達は、心なしか若い連中が多かった。
渦と戦う部隊の名は、少しずつだが大陸の各都市で話題になり始めていた。去る者がいれば、来る者もいる。
「ミリアン、もうすぐ新型コルベットの説明が始まるぞ。 急いでくれ」
「ああ、すぐに向かう」
新兵の訓練終了を待たずして、ミリアン達A中隊が最初の渦消滅作戦に参加することになり、その前準備としてブリーフィングを重ねている。
ミリアンは訓練中の新隊員達を一瞥して、足早にハンガーへと向かっていった。
「—了—」