魯卡拜訪了身兼梅爾茲堡與馮迪拉多檢查站的大都市,拉姆班。
拉姆班因為是兼具關隘所的地方,所以人來人往特別的多。由於現在有很多少數民族逃難至此,目前緊急擬定了對策來收容難民。
「魯卡陛下,您特別親臨此地,我們作為拉姆班的子民,衷心地歡迎您」
「別這麼拘束。那麼,至今為止移住到這裡的人們的現況如何?」
和拉姆班的代表稍作禮貌性的問候後,魯卡閱覽了對方遞出的文件。
由於魯卡的父親、祖父,以及祖先們都曾經收容過從《渦》逃出來的難民,所以這次也能夠馬上應對。
「想讓拉姆班保護所有的民族是很困難的」
「這樣啊……。現在的情勢很危險。如果像這樣持續增加下去,我們只能將森林地區及丘陵地整理出來了」
「陛下英明,除了一部分以外,鄰近的國有地已經開始進行整理」
少數民族在得知聯合國議會中馮迪拉多和魯比歐那主張『排除異民族』後,紛紛為了尋求庇護而逃往梅爾茲堡與哥爾嘉。
特別是受到在魯比歐那王國發生的,由少數民族主導的王宮恐怖攻擊影響。王宮恐怖事件以後,少數民族的排擠運動日趨激烈,只因為民族不同而受到攻擊的事件也層出不窮。
因此趁還沒有被限制出境時,大量的少數民族都打算逃到對異民族較寬容的國家。
根據梅爾茲堡獨自調查,不僅僅是米利加迪亞王國和麥歐卡共和國,甚至是卡南等南方地區,都不斷地有難民逃去。
聽到這情況的魯卡,認為應該提供逃難而來的民族一個居住場所,下令整理梅爾茲堡所管理的森林及山地等等。
「如果國有地不夠用的話,就只能用相當的額度買下私有地了。但是,千萬不可以強行買收」
「遵命,絕對不會有違您的囑咐」
「拜託了。我們大家都一樣是人類。不該對任何人有差別待遇」
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魯卡指示下屬關於拉姆班難民收容的相關事項後,便前往馮迪拉多。在馮迪拉多的代表官邸進行會談。
「聯合國的解體只會讓古朗德利尼亞更容易有機可趁」
「我們都很擔心我國與貴國會成為第二個魯比歐那。為了防範內亂的發生,應該盡早排除那個因素才是」
「並非所有的少數民族從一開始就只想著恐怖行動。將沒有危害的民族也一併都認定為內亂的因素,我認為不妥」
「您說的也許沒錯。但是,大公,暴動與恐怖攻擊發生後才說這些已經太遲了」
會談就像平行線一般。即使接近快結束的時間,馮迪拉多的代表們仍主張和聯合國議會時一樣的言論。
已經深植於大家心中的不信任感無法輕易拭去。魯卡對自己的能力不足感到懊惱,離開了馮迪拉多。
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在回到馮迪拉多通往拉姆班的檢查站時,站內一陣喧嘩。
聽起來是職員與女性的爭吵聲。
「我才沒有偽造身分!這個身分證是真的」
「哪裡有像妳這副德性的貴族。不要再說謊了快把真正的身分證交出來」
「要是懷疑的話請直接去詢問本國。那樣的話就──」
「沒用沒用。給我適可而止。我們可是很忙的。警備兵,把這傢伙趕出去!」
「……等一下!」
被檢查站逐出去的這位女性很眼熟。
雖然沒有直接見過面,但她的確是特別武裝魯比歐那王國軍的菁英部隊,奧羅爾隊的副隊長──佛羅倫斯·布拉福特──沒錯。
而且,她也是前幾天發生的魯比歐那王宮恐怖攻擊中,拯救了亞歷山德莉安娜女王的英雄,那英勇的大名魯卡也耳聞了。
像那樣的人物怎麼會淪落到打扮的像流浪漢一樣,到拉姆班的通關所來呢。充滿著疑問和突兀感的魯卡,對身旁的侍從下達了指示,對馮迪拉多的檢查站發出緊急文件。
而魯卡則往檢查站為政府高官所設的休息室而去。
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過沒多久佛羅倫斯來到休息室。那是魯卡為了想了解事情經過而叫她而來的。
佛羅倫斯一看到坐在上座的魯卡,瞬間表情僵硬。而魯卡看到她一進來便馬上起身。
「妳應該是魯比歐那王國軍奧羅爾隊的佛羅倫斯·布拉福特中尉沒錯吧?」
「魯卡大公,原來是您……」
禮貌地的相互行禮後,魯卡切入正題。
「身為魯比歐那英雄的妳,為何會打扮成這樣出現在這種地方呢?」
讓佛羅倫斯坐在休息室的椅子上後問道,佛羅倫斯無表情地看著眼前的杯子。
「不用跟我有所顧慮。在這裡沒有會責備妳的人」
魯卡的話語,讓佛羅倫斯慢慢道出事情經過。
──在王宮恐怖攻擊事件中,家人被當作威脅條件,進而不得已接觸了恐怖組織的事。
──在那裡看到的是,被稱為少數民族的人們內心的黑暗。
──過沒多久就在馮迪拉多發生的暴動,讓自己對將槍口指向聯合國屬民一事感到疑問的事。
──無法解決那個疑問,所以就離開魯比歐那軍,又不想給養父母添麻煩,所以才離開了國家。
「我無論如何,都無法接受只因為是不同民族,就必須向他們舉槍」
佛羅倫斯的聲音聽起來很憔悴。以現在的情勢來看,她要從魯比歐那來到這梅爾茲堡的國境一定是相當的吃力。
「謝謝妳告訴我,原來魯比歐那國內變成了這樣啊」
連在王宮恐怖攻擊中救了女王,被稱為救國英雄的她,都受到因膚色及出身不同的迫害。魯卡再次深深地了解到,要在真正的意思上與異民族融合比他想像的要來的更加困難而感到難過。
「妳在這之後打算怎麼辦?」
「我還沒有決定。事到如今,我也無法回到生父母的故鄉去了」
「那就來我的國家吧。在我的國家,不需要顧慮膚色及出身」
「謝謝您。但是現在的我幫不上什麼忙……」
佛羅倫斯的樣子很明顯地消極落魄。曾經身為奧羅爾隊戰士的那意志與尊嚴似乎都已經失去了。
「不要緊,別在意。妳將妳所知的魯比歐那國情提供給我了。這算是我的謝禮」
魯卡的話語讓佛羅倫斯低頭思考,過了一會兒她站了起來,在魯卡前跪下。
「感謝大公您的好意」
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佛羅倫斯帶來的情報,讓魯卡確認了魯比歐那所抱持的黑暗面。
特別是,因情報管制一直無法掌握到的魯比歐那對少數民族的政治方針,在對照佛羅倫斯所說的話與阿修羅私下調查的讓情況更加明確了。這些才是可以拿來說服融合之道的材料。
雖然還不清楚亞歷山德莉安娜女王本人的意思這一點令人相當在意,但是聽到王宮對恐怖攻擊事件的態度,她抱持著與排除派不同的思考可能性應該不低。
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在魯卡與亞歷山德莉安娜女王代理執政官進行政治會談的那一天晚上。
回程途中,魯卡的馬車突然停了下來。停在魯卡的宅邸就在眼前而已的地方。
「發生什麼事?」
「門口前方發現有人影,我去看看」
「由我去調查吧」
回答下屬的是佛羅倫斯。對魯卡的融合思想有同感的她,自己提出要擔任護衛一職。
佛羅倫斯邊警戒著周圍,邊下了馬車。小心地不發出腳步聲接近大門。
魯卡在馬車中握著劍柄,默默地集中著精神。這是為了可能只是想要支開佛羅倫斯來削弱警備的情況,而做出的準備。
佛羅倫斯從馬車下去沒多久,就聽到離門不遠處有爭鬥聲。在槍聲停下後,佛羅倫斯打了暗號。馬車穿過了大門。
聽到槍聲的警備兵們從宅邸趕過來。看到魯卡的馬車停在門旁,馬上準備保護馬車。
魯卡從馬車下來的同時,佛羅倫斯壓著一位身形偏瘦的男子過來。
「魯卡大人,我抓到疑似恐怖份子的人了」
「果然……」
魯卡皺了眉,在少數民族之中也有人對融合之道抱著疑問。早就已經有預感會有像這樣的事發生。
「你有什麼目的?」
「只要你死了,聯合國這種幻象也會不復存在」
「我不會讓那種事發生的,你是聽誰的命令來的?」
佛羅倫斯加重束縛住恐怖份子的力量,不管怎麼想,都覺得他不可能是單槍匹馬的來。
「我沒有話要跟妳這個背叛者說」
「你這傢伙!」
恐怖份子的眼神中帶有堅定的意志,不管怎麼逼問他,他都不會回答任何問題吧。
「佛羅倫斯,把那個人交給警備兵。在這邊會沒完沒了」
「……遵命」
就在佛羅倫斯要把綁著恐怖份子的繩子交給警備兵的那一瞬間。
恐怖份子使盡全身的力量甩開警備兵,朝著魯卡衝過去。
魯卡瞬間舉起收在刀鞘裡的刀,打算毆打恐怖份子。就算是為了得知他們的想法,想盡可能的讓他活著。
但是,在恐怖份子躲開魯卡的一擊後,用不自由的體勢再次打算縮短與魯卡的距離。
「抓住他!」
幾乎是與那不知道是誰的怒聲發出來的同時,恐怖份子的背後出現了一個黑人影,恐怖份子的頭就那樣被砍下了。
「是阿修羅啊……」
魯卡發現那個黑衣男子是阿修羅之後,小聲地說道。
「為何要殺了他!?要讓他活著才能問出幕後──」
看著失去力量倒下的恐怖份子,佛羅倫斯向阿修羅說道。
「妳自己找看看他懷中的東西」
佛羅倫斯翻找恐怖份子的懷裡,發現了小型的炸彈。
「像這樣的傢伙們都是不擇手段的。如果就那樣讓他活著,你們已經被捲入炸彈風暴裡了吧」
「看來是這樣沒錯,多虧你才得救了,阿修羅」
「不會。比起這個,我有緊急的事要向魯卡大人報告」
阿修羅將武器收進懷裡,在魯卡面前跪下。
「發生什麼事了嗎?」
「位於魯比歐那與古朗德利尼亞交接處的交易都市普羅維登斯,被死者軍團攻陷了」
那一句話,讓在場的所有人受到衝擊。讓托雷伊德永久要塞被打下來的,就是古朗德利尼亞帝國軍的死者兵團,繼托雷伊德之後再一次出現死者兵團之事,讓一行人動搖了。
「去緊急召來家臣們,老朽也會馬上回王宮去」
「遵命」
魯卡在搭乘馬車回王宮的途中,感受到強烈的危機。
在死者軍團再次出現的這個狀況下,如果聯合國又分裂的話,一切就都結束了。這個預感支配著魯卡。
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「─完─」
3398年「分裂」
リュカはメルツバウとフォンデラートとの検問所を兼ねた大都市、ラムバンを訪れていた。
ラムバンは関所を兼ねた土地のために予てより人の往来が激しい。現在では多数の少数民族が流れてきており、難民の受け入れ対策が急務で行われている。
「リュカ様、このような場までお越しいただき、我らラムバンの民、心より歓迎いたします」
「そう畏まるな。それで、今までこちらに流入した者達はどうしておる?」
恭しく礼をするラムバン代表との挨拶もそこそこに、リュカは手渡された書類に目を通す。
リュカの父、祖父、そしてそれ以前の代にも《渦》から逃れてきた難民を受け入れたことがあったため、今回の受け入れに関しても即応することができた。
「全ての民族をラムバンで保護することは難しい状況です」
「そうか……。情勢は厳しい。これ以上の流入が増加するようであれば、森林地帯や丘陵地を整備して対応する他あるまいな」
「陛下の通達どおり、一部を除いた近隣の国有地に関しては既に整備に着手しております」
連合国議会でフォンデラートやルビオナが主張した『異民族排除』の方針を知った少数民族が、安全を求めてメルツバウやコルガーへと流れてきていた。
特にルビオナ王国では、少数民族が主体のテロリストが起こした王宮テロが尾を引いていた。王宮テロ事件以降、少数民族の排斥運動が強まり、民族が違うといっただけで暴行を受ける事件が多発する有様であった。
そのため、制限なく国境を越えられる内にと、大勢の少数民族が異民族に寛容な国へ逃れようとしていたのだ。
メルツバウ独自の調査によれば、ミリガディア王国やマイオッカ共和国、果てはカナーン等の南方へと流れる民族も、後を絶たない様子だった。
それを受けたリュカは、流れて来た民族が暮らせる場所を提供すべく、メルツバウが管理する森や山などの整備を命じていた。
「国有地でも足りぬのであれば、それなりの額で私有地を買い取るしかあるまい。だが、くれぐれも無理な買収は行うでないぞ」
「重々、承知しております」
「頼む。我々は同じ人間だ。何人たりとも差別すべきではないのだ」
リュカはラムバンで難民受け入れに関する指導を行った後、その足でフォンデラートへと入国した。フォンデラートの代表官邸において会談が行われるためだ。
「連合国の解体は、グランデレニア帝國に付け入る隙を与えるだけです」
「我々は、我々や貴方の国が第二のルビオナになることを危惧しています。内乱の発生を未然に防ぐためには、その要因を早急に排除すべきです」
「全ての少数民族が初めからテロを考えている訳ではないでしょう。害を為さぬ民族を内乱要因だと決めつけて排除するのは、全く益とならない」
「貴方の言うことも間違いではないのでしょう。ですが、暴動やテロが起こってからでは遅いのです、大公」
会談は平行線を辿った。終わりの時間を迎えても、フォンデラート代表らの言葉は連合国議会の時と変わらなかった。
植えつけられた不信感はそう簡単には拭えない。リュカは己の力不足を悔やみながら、フォンデラートを後にした。
フォンデラート側にあるラムバンの検問所に戻ってきたが、俄に所内が騒がしい。
職員と女性の争う声が聞こえてくる。
「身分詐称などしていません! この身分証は本物です」
「そんな姿をした貴族がどこにいるか。嘘をつかずに本物の身分証を出せ」
「疑いがあるのでしたら本国に問い合わせてください。そうすれば——」
「無駄無駄。いい加減にしろ。こっちは忙しいんだ。警備兵、こいつを叩き出せ!」
「……待って!」
検問所から追い払われたこの女性には見覚えがあった。
面識らしい面識は無かったが、特別な武装を駆るルビオナ王国軍のエリート部隊、オーロール隊の副隊長——フロレンス・ブラフォードという名だ——その人に間違いなかった。
更に言えば、先日起きたルビオナ王宮テロ事件でアレキサンドリアナ女王を救った英雄であり、その勇名はリュカの耳にも届いていた。
そのような人物が何故に浮浪者然とした風貌でラムバンの検問所にいるのか。疑問と違和感を拭えなかったリュカは、傍仕えにいくつかの指示を出してフォンデラート側の検問所に急ぎの書簡を出すことにした。
リュカはそのまま、検問所にある政府高官が利用する休憩室へと向かった。
程なくして休憩室にフロレンスが入ってきた。事の次第を知るためにリュカが呼び寄せたのだった。
フロレンスは上座にいるリュカが視界に入ると、ハッとした表情で固まった。リュカは彼女が入ってくるのを見て立ち上がる。
「ルビオナ王国軍オーロール隊所属のフロレンス・ブラフォード中尉とお見受けしたが」
「リュカ大公、あなたでしたか……」
儀礼的な挨拶を交わすと、リュカは本題に入る。
「ルビオナで英雄とも評される貴女が、何故そのような格好でこのような場所に?」
フロレンスを休憩所の椅子に座らせて尋ねるが、フロレンスは堅い表情のまま目の前のカップを見つめていた。
「遠慮は無用です。貴女のことを咎めるような者は、ここにはおらん」
リュカの言葉に、フロレンスは少しずつ話し始めた。
——王宮テロ事件では家族の命を盾にされ、テロ組織の内部に深く踏み込んでしまったこと。
——そこで見えた、少数民族と呼ばれる人々が抱える闇。
——間もなく発生したフォンデラートの暴動で、連合国に属する民に銃口を向けることに疑問を感じたこと。
——そしてその疑問を払拭することができず、ルビオナ王国軍を除隊し、養親に迷惑が掛からぬようにと国を去ったこと。
「私は、民族が違うというだけで銃を向けること、そのことをどうしても受け入れられなかったのです」
フロレンスの声は憔悴しきっていた。現在の情勢を鑑みれば、ルビオナからメルツバウの国境まで来るのに相当の気を張ったことだろう。
「ルビオナ国内はそのような事になっていたか。よく話してくれた」
王宮テロ事件で女王を救い、救国の英雄とまで言われた彼女でさえ、肌の色や出身が違うというだけで迫害される。リュカは、本当の意味での融和とは彼自身が思っていた以上に厳しいものであることを痛感した。
「お主はこれからどうするつもりだね?」
「決めかねております。実父や実母のいた故郷へは、今さら戻ることもできません」
「ならば我が国へ参られよ。肌の色も出身も、我が国では気にしない」
「ありがとうございます。しかし、今の私がお役に立てることなど何も……」
フロレンスの様子は明らかに打ち拉がれた者の姿だった。オーロール隊の戦士であった頃の意志や気高さを失っているようだった。
「なに、気にすることはない。お主の知るルビオナの情勢を儂に提供してもらおう。それが対価だ」
リュカの言葉にフロレンスは考えるように俯いていたが、暫くして立ち上がると、リュカの前に跪いた。
「大公のご好意に感謝いたします」
フロレンスのもたらした情報は、ルビオナの抱える暗部を明確にした。
特に、情報統制により掴みかねていた少数民族に関するルビオナの政治的思惑は、フロレンスの言葉とアスラの裏付け調査により明確なものとなった。これこそが融和の道を説くための材料となる。
アレキサンドリアナ女王本人の意思が判明しないことだけが懸念点ではあったが、王宮テロ事件に際しての態度を聞く限りでは、排除派とは異なる思想を持っている可能性は低くないであろう。
リュカとアレキサンドリアナ女王代行の執政官との政治会談が行われた日の夜のことであった。
帰路の途中、不意にリュカの乗った馬車が止まった。邸宅の門が目視で確認できる場所である。
「何があった?」
「門に人影が見えました。様子を見ます」
「私が調べてきましょう」
御者に答えたのはフロレンスであった。リュカが説く融和の思想に共感した彼女は、護衛の任務を自ら申し出ていたのだった。
フロレンスは周囲を警戒しながら馬車を降りると、足音を消して門へと近付く。
リュカは馬車の中で剣の柄を握り、じっと精神を研ぎ澄ませていた。フロレンスを自分から引き離して警護を手薄にさせる、その可能性に備えていた。
フロレンスが馬車から降りてさほども経たぬ内に、門から少し外れた場所で争うような音がした。発砲音と声が収まると、フロレンスから合図が送られてきた。馬車が門を潜り抜ける。
邸宅から発砲音に気が付いた警備兵達が出てきた。リュカの馬車が門の傍で止まっているのを見ると、警備兵は馬車を守るような配置に就く。
リュカが馬車から降りると同時に、フロレンスが痩身の男を縛り上げて連行してきた。
「リュカ様、テロリストと思しき者を捕らえました」
「やはりか……」
リュカは眉を顰めた。少数民族の中にも融和の道を疑問視する者が存在している。いずれはこのような事が起こる予感はあった。
「何が目的だ?」
「お前さえいなくなれば、連合国なんてまやかしは無くなる」
「そんなことはさせない。誰の命令だ」
フロレンスはテロリストを縛る縄に力を込めた。どう考えても単独の行動とは考えられなかった。
「裏切り者の女になど、何も言うことはない」
「貴様!」
テロリストの目には強い意志の光があった。ここで何をしても、テロリストは何も答えないであろう。
「フロレンスよ、その者を警備兵に引き渡せ。ここでは埒があかぬ」
「……承知しました」
警備兵にテロリストを引き渡そうと縄を渡した一瞬だった。
全身を使って暴れたテロリストが警備兵を振り切り、リュカを目掛けて突進した。
リュカは咄嗟に鞘に入ったままの剣を振り抜き、テロリストを殴打しようとする。彼らの思惑を知るためにも、できれば生かしておく必要があった。
しかし、テロリストはリュカの一撃を躱すと、不自由な体勢にも関わらず再びリュカとの距離を縮めようとした。
「取り押さえろ!」
誰かの怒声がしたのとほぼ同時だった。テロリストの背後に黒い人影が現れ、テロリストの首を掻き斬ったのが見えた。
「アスラか……」
リュカは黒衣の男がアスラであることに気付くと、一言漏らした。
「なぜ殺した!? 生かしておけば黒幕を——」
力なく崩れ落ちたテロリストを見て、フロレンスがアスラに言った。
「こいつの懐を探ってみるといい」
フロレンスが絶命したテロリストの懐を探ると、小型の爆弾が姿を現した。
「このような奴等は手段を選びません。このままこの者を生かしておいたならば、間違いなく爆発に巻き込まれていたでしょう」
「そのようだな。助かった、アスラよ」
「いえ。それよりもリュカ様、緊急にご報告があります」
アスラは血の付いた武器を懐にしまうと、リュカの前に跪く。
「何があった?」
「ルビオナ王国とグランデレニア帝國を結ぶ交易都市プロヴィデンスが、死者の軍勢により陥落しました」
その一言に、その場にいた全員に衝撃が走った。トレイド永久要塞を陥落させたグランデレニア帝國軍の死者の軍勢。トレイド以来鳴りを潜めていたそれが再び現れたことに、一同は動揺した。
「家臣団に緊急招集を掛けよ。儂もすぐに王宮へ戻る」
「承知しました」
リュカは王宮へと引き返す馬車の中で、強い危機感を募らせていた。
死者の軍勢が再び現れた状況で連合国が分裂すれば、全てが終わる。そんな予感がリュカを支配していた。
「—了—」
リュカはメルツバウとフォンデラートとの検問所を兼ねた大都市、ラムバンを訪れていた。
ラムバンは関所を兼ねた土地のために予てより人の往来が激しい。現在では多数の少数民族が流れてきており、難民の受け入れ対策が急務で行われている。
「リュカ様、このような場までお越しいただき、我らラムバンの民、心より歓迎いたします」
「そう畏まるな。それで、今までこちらに流入した者達はどうしておる?」
恭しく礼をするラムバン代表との挨拶もそこそこに、リュカは手渡された書類に目を通す。
リュカの父、祖父、そしてそれ以前の代にも《渦》から逃れてきた難民を受け入れたことがあったため、今回の受け入れに関しても即応することができた。
「全ての民族をラムバンで保護することは難しい状況です」
「そうか……。情勢は厳しい。これ以上の流入が増加するようであれば、森林地帯や丘陵地を整備して対応する他あるまいな」
「陛下の通達どおり、一部を除いた近隣の国有地に関しては既に整備に着手しております」
連合国議会でフォンデラートやルビオナが主張した『異民族排除』の方針を知った少数民族が、安全を求めてメルツバウやコルガーへと流れてきていた。
特にルビオナ王国では、少数民族が主体のテロリストが起こした王宮テロが尾を引いていた。王宮テロ事件以降、少数民族の排斥運動が強まり、民族が違うといっただけで暴行を受ける事件が多発する有様であった。
そのため、制限なく国境を越えられる内にと、大勢の少数民族が異民族に寛容な国へ逃れようとしていたのだ。
メルツバウ独自の調査によれば、ミリガディア王国やマイオッカ共和国、果てはカナーン等の南方へと流れる民族も、後を絶たない様子だった。
それを受けたリュカは、流れて来た民族が暮らせる場所を提供すべく、メルツバウが管理する森や山などの整備を命じていた。
「国有地でも足りぬのであれば、それなりの額で私有地を買い取るしかあるまい。だが、くれぐれも無理な買収は行うでないぞ」
「重々、承知しております」
「頼む。我々は同じ人間だ。何人たりとも差別すべきではないのだ」
リュカはラムバンで難民受け入れに関する指導を行った後、その足でフォンデラートへと入国した。フォンデラートの代表官邸において会談が行われるためだ。
「連合国の解体は、グランデレニア帝國に付け入る隙を与えるだけです」
「我々は、我々や貴方の国が第二のルビオナになることを危惧しています。内乱の発生を未然に防ぐためには、その要因を早急に排除すべきです」
「全ての少数民族が初めからテロを考えている訳ではないでしょう。害を為さぬ民族を内乱要因だと決めつけて排除するのは、全く益とならない」
「貴方の言うことも間違いではないのでしょう。ですが、暴動やテロが起こってからでは遅いのです、大公」
会談は平行線を辿った。終わりの時間を迎えても、フォンデラート代表らの言葉は連合国議会の時と変わらなかった。
植えつけられた不信感はそう簡単には拭えない。リュカは己の力不足を悔やみながら、フォンデラートを後にした。
フォンデラート側にあるラムバンの検問所に戻ってきたが、俄に所内が騒がしい。
職員と女性の争う声が聞こえてくる。
「身分詐称などしていません! この身分証は本物です」
「そんな姿をした貴族がどこにいるか。嘘をつかずに本物の身分証を出せ」
「疑いがあるのでしたら本国に問い合わせてください。そうすれば——」
「無駄無駄。いい加減にしろ。こっちは忙しいんだ。警備兵、こいつを叩き出せ!」
「……待って!」
検問所から追い払われたこの女性には見覚えがあった。
面識らしい面識は無かったが、特別な武装を駆るルビオナ王国軍のエリート部隊、オーロール隊の副隊長——フロレンス・ブラフォードという名だ——その人に間違いなかった。
更に言えば、先日起きたルビオナ王宮テロ事件でアレキサンドリアナ女王を救った英雄であり、その勇名はリュカの耳にも届いていた。
そのような人物が何故に浮浪者然とした風貌でラムバンの検問所にいるのか。疑問と違和感を拭えなかったリュカは、傍仕えにいくつかの指示を出してフォンデラート側の検問所に急ぎの書簡を出すことにした。
リュカはそのまま、検問所にある政府高官が利用する休憩室へと向かった。
程なくして休憩室にフロレンスが入ってきた。事の次第を知るためにリュカが呼び寄せたのだった。
フロレンスは上座にいるリュカが視界に入ると、ハッとした表情で固まった。リュカは彼女が入ってくるのを見て立ち上がる。
「ルビオナ王国軍オーロール隊所属のフロレンス・ブラフォード中尉とお見受けしたが」
「リュカ大公、あなたでしたか……」
儀礼的な挨拶を交わすと、リュカは本題に入る。
「ルビオナで英雄とも評される貴女が、何故そのような格好でこのような場所に?」
フロレンスを休憩所の椅子に座らせて尋ねるが、フロレンスは堅い表情のまま目の前のカップを見つめていた。
「遠慮は無用です。貴女のことを咎めるような者は、ここにはおらん」
リュカの言葉に、フロレンスは少しずつ話し始めた。
——王宮テロ事件では家族の命を盾にされ、テロ組織の内部に深く踏み込んでしまったこと。
——そこで見えた、少数民族と呼ばれる人々が抱える闇。
——間もなく発生したフォンデラートの暴動で、連合国に属する民に銃口を向けることに疑問を感じたこと。
——そしてその疑問を払拭することができず、ルビオナ王国軍を除隊し、養親に迷惑が掛からぬようにと国を去ったこと。
「私は、民族が違うというだけで銃を向けること、そのことをどうしても受け入れられなかったのです」
フロレンスの声は憔悴しきっていた。現在の情勢を鑑みれば、ルビオナからメルツバウの国境まで来るのに相当の気を張ったことだろう。
「ルビオナ国内はそのような事になっていたか。よく話してくれた」
王宮テロ事件で女王を救い、救国の英雄とまで言われた彼女でさえ、肌の色や出身が違うというだけで迫害される。リュカは、本当の意味での融和とは彼自身が思っていた以上に厳しいものであることを痛感した。
「お主はこれからどうするつもりだね?」
「決めかねております。実父や実母のいた故郷へは、今さら戻ることもできません」
「ならば我が国へ参られよ。肌の色も出身も、我が国では気にしない」
「ありがとうございます。しかし、今の私がお役に立てることなど何も……」
フロレンスの様子は明らかに打ち拉がれた者の姿だった。オーロール隊の戦士であった頃の意志や気高さを失っているようだった。
「なに、気にすることはない。お主の知るルビオナの情勢を儂に提供してもらおう。それが対価だ」
リュカの言葉にフロレンスは考えるように俯いていたが、暫くして立ち上がると、リュカの前に跪いた。
「大公のご好意に感謝いたします」
フロレンスのもたらした情報は、ルビオナの抱える暗部を明確にした。
特に、情報統制により掴みかねていた少数民族に関するルビオナの政治的思惑は、フロレンスの言葉とアスラの裏付け調査により明確なものとなった。これこそが融和の道を説くための材料となる。
アレキサンドリアナ女王本人の意思が判明しないことだけが懸念点ではあったが、王宮テロ事件に際しての態度を聞く限りでは、排除派とは異なる思想を持っている可能性は低くないであろう。
リュカとアレキサンドリアナ女王代行の執政官との政治会談が行われた日の夜のことであった。
帰路の途中、不意にリュカの乗った馬車が止まった。邸宅の門が目視で確認できる場所である。
「何があった?」
「門に人影が見えました。様子を見ます」
「私が調べてきましょう」
御者に答えたのはフロレンスであった。リュカが説く融和の思想に共感した彼女は、護衛の任務を自ら申し出ていたのだった。
フロレンスは周囲を警戒しながら馬車を降りると、足音を消して門へと近付く。
リュカは馬車の中で剣の柄を握り、じっと精神を研ぎ澄ませていた。フロレンスを自分から引き離して警護を手薄にさせる、その可能性に備えていた。
フロレンスが馬車から降りてさほども経たぬ内に、門から少し外れた場所で争うような音がした。発砲音と声が収まると、フロレンスから合図が送られてきた。馬車が門を潜り抜ける。
邸宅から発砲音に気が付いた警備兵達が出てきた。リュカの馬車が門の傍で止まっているのを見ると、警備兵は馬車を守るような配置に就く。
リュカが馬車から降りると同時に、フロレンスが痩身の男を縛り上げて連行してきた。
「リュカ様、テロリストと思しき者を捕らえました」
「やはりか……」
リュカは眉を顰めた。少数民族の中にも融和の道を疑問視する者が存在している。いずれはこのような事が起こる予感はあった。
「何が目的だ?」
「お前さえいなくなれば、連合国なんてまやかしは無くなる」
「そんなことはさせない。誰の命令だ」
フロレンスはテロリストを縛る縄に力を込めた。どう考えても単独の行動とは考えられなかった。
「裏切り者の女になど、何も言うことはない」
「貴様!」
テロリストの目には強い意志の光があった。ここで何をしても、テロリストは何も答えないであろう。
「フロレンスよ、その者を警備兵に引き渡せ。ここでは埒があかぬ」
「……承知しました」
警備兵にテロリストを引き渡そうと縄を渡した一瞬だった。
全身を使って暴れたテロリストが警備兵を振り切り、リュカを目掛けて突進した。
リュカは咄嗟に鞘に入ったままの剣を振り抜き、テロリストを殴打しようとする。彼らの思惑を知るためにも、できれば生かしておく必要があった。
しかし、テロリストはリュカの一撃を躱すと、不自由な体勢にも関わらず再びリュカとの距離を縮めようとした。
「取り押さえろ!」
誰かの怒声がしたのとほぼ同時だった。テロリストの背後に黒い人影が現れ、テロリストの首を掻き斬ったのが見えた。
「アスラか……」
リュカは黒衣の男がアスラであることに気付くと、一言漏らした。
「なぜ殺した!? 生かしておけば黒幕を——」
力なく崩れ落ちたテロリストを見て、フロレンスがアスラに言った。
「こいつの懐を探ってみるといい」
フロレンスが絶命したテロリストの懐を探ると、小型の爆弾が姿を現した。
「このような奴等は手段を選びません。このままこの者を生かしておいたならば、間違いなく爆発に巻き込まれていたでしょう」
「そのようだな。助かった、アスラよ」
「いえ。それよりもリュカ様、緊急にご報告があります」
アスラは血の付いた武器を懐にしまうと、リュカの前に跪く。
「何があった?」
「ルビオナ王国とグランデレニア帝國を結ぶ交易都市プロヴィデンスが、死者の軍勢により陥落しました」
その一言に、その場にいた全員に衝撃が走った。トレイド永久要塞を陥落させたグランデレニア帝國軍の死者の軍勢。トレイド以来鳴りを潜めていたそれが再び現れたことに、一同は動揺した。
「家臣団に緊急招集を掛けよ。儂もすぐに王宮へ戻る」
「承知しました」
リュカは王宮へと引き返す馬車の中で、強い危機感を募らせていた。
死者の軍勢が再び現れた状況で連合国が分裂すれば、全てが終わる。そんな予感がリュカを支配していた。
「—了—」