有點骯髒的天花板。凱倫貝克取回意識醒了過來的時候,印入眼簾的就是天花板。
然後就聽到身旁有什麼聲音,往聲音方向看過去,是一位任由鬍子亂長的中年男性在整理醫療器材。
「……這裡,是」
「你醒啦,凱倫貝克」
男性說出了一個衝擊性的字句。對方為什麼會知道自己的名字。凱倫貝克驚訝地睜大雙眼同時擺出臨戰架勢。
「你是組織的人嗎……」
「雖然我不會叫你不用防備我,但如果我是組織的人,早在你意識恢復之前把你交給組織了」
男性說他叫隆戈,以前在露比娜絲學園的併設醫院擔任研究者。
然後,簡單地說了在凱倫貝克體內植入超人種子的,就是他。
「怎麼會,什麼時候……」
「說是十歲的時候,你會想起些什麼嗎?」
這麼說來,凱倫貝克想起自己十歲的時候,因病入院到露比娜絲學園的醫院好幾個星期。
凱倫貝克一想到自己從那時候起,自己的身體就已經不是人類一事而顫抖。
「你,為什麼……」
「為什麼救你?還是為什麼離開組織?哪一個?」
「……兩個」
隆戈靜靜地嘆了一個氣,開始回答凱倫貝克。
--因為自己對組織內一再重覆殘酷的實驗有了疑問,於是用實驗的屍體假裝是自己的自殺屍體,從組織逃走。
--到了荒蠻廢境的自己,決定用從組織得來的這個技術來經營醫療業,想償還在組織時犯下的罪過。
--然後前幾天,瀕死的凱倫貝克被運到自己這裡來。
--拯救受傷的患者是不需要理由的。
隆戈嚴肅地說了這些。
「然後,你接下來打算怎麼辦?」
隆戈的眼神像是在說,這次輪到凱倫貝克說說自己的事了。
「我想救碧姬媞,就這樣而已」
凱倫貝克毫不迷惘地說出口,凱倫貝克心想自己活下去的理由只有這個了。
|
傷勢痊癒的凱倫貝克,開始進行掌控自己力量的訓練。
要想奪回碧姬媞,與組織的戰鬥就無可避免。
「你應該是擁有操縱音色的力量,小提琴的琴聲讓你的戀人感到痛苦,也是因為這一點」
為了找出這力量真正的樣貌,告訴隆戈了幾個自己的看法後,他這樣回答道。隆戈中意為了想救出愛人,而決心反逆組織的凱倫貝克,開始會給他一些助言。
凱倫貝克得到新的小提琴,進而訓練操縱超人之力,但是總覺得哪裡不對。
凱倫貝克覺得還是沒有扎吉不行,於是凱倫貝克決定潛入露比娜絲學園的宿舍。
自己的這個超人之力讓碧姬媞陷入過痛苦。但是為了對抗組織奪回碧姬媞的話,那就需要這個力量。
|
照著當初逃離宿舍的路線,回去宿舍。
趁宿舍周圍的警衛不注意,入侵宿舍後,先回到自己的房間。
原本自己的房間,東西都已經被處分掉了。但是,扎吉的回收十分容易。
幸虧當初因為傷害到碧姬媞,凱倫貝克就將扎吉封印在衣櫃下方自己挖開的洞裡了。
接下來雖然往碧姬媞的房間去看過了,但是碧姬媞不在房間內。
而且房間跟自己的房間一樣都被收拾乾淨了,碧姬媞到底去了哪兒了。
|
凱倫貝克潛入宿舍寮長的房間,寮長的話可能會知道碧姬媞的去向。雖然成功潛入寮長的房間,但寮長可能查覺到有人侵入,醒來了。
然後寮長看到凱倫貝克的臉,露出一臉恐懼樣。
「你,你這傢伙,為什麼會在這裡!?」
凱倫貝克用扎吉的音色拘束住想求救的寮長,雖然很久沒有維護扎吉了,扎吉卻還是完美地回應凱倫貝克的力量。
「你們把碧姬媞藏到哪裡去了?」
「……我,我不知道」
雖然寮長的聲音聽起來很害怕,但是全權管理所有寄宿生的寮長不可能不知道。
凱倫貝克覺得寮長在說謊,彈了一下扎吉的弦,低沉的音色傳到寮長耳裡後,寮長痛苦地呻吟。
「嗚,啊啊……」
「來,告訴我碧姬媞在哪裡?」
再次向寮長提問,寮長已經被扎吉的音色給支配。
「米,利……加迪亞……」
「米利加迪亞的哪裡?」
「靠近首都的……貧民區……現在,沒有人在用的,聖堂……」
「這樣啊」
凱倫貝克問完自己想問的事後,再次彈了一下扎吉的弦。
寮長就那樣痛苦地死去,外表雖然看不出來,但他的腦細胞已經被小提琴的聲音給破壞殆盡了。
|
某處傳來了小提琴的音色。
由作曲者悲傷轉化而來的旋律,響徹整個聖堂。
「嗚,呃……啊,啊……救,我……」
「這,呃,什麼,啊……!?呀啊,嘎啊啊啊啊啊啊啊!」
一個一個被小提琴的聲音給抹滅的悲鳴,大半夜的聖堂中充滿了悲慘的叫聲。
僧侶們的慘叫停下來後,凱倫貝克拿著小提琴走進聖堂。
在多數僧侶倒成一片之中,聖堂內只有兩個人影,好像什麼事都沒有發生似地站在那邊。
一邊是女性,一邊是男性。女性那邊由於披著僧侶的帽兜看不到臉。
「要肩負我們組織未來的年輕人,做這種事的話我們會很困擾的」
「康拉德祭司……。請把碧姬媞還給我」
「看來是我的教育失敗了,在神之名下,我將直接制裁你」
凱倫貝克與康拉德對峙,雙方的眼神看像是要射殺對方似地衝撞。
「我只要能解放碧姬媞,就不會對你們做什麼」
「這樣啊,那就去吧,碧姬媞」
披著帽兜的女性,聽到康拉德的話就奔向凱倫貝克。
「碧姬媞……?」
凱倫貝克看到奔向自己的女性而退了一步。
在那瞬間之後,被叫作碧姬媞的女性之手變化成像螳螂一樣,向凱倫貝克揮下。
雖然是突如其來的攻擊,但凱倫貝克冷靜地彈了一下小提琴的弦,她的身體就不會動了。
小提琴的聲音支配著女性。
「什,麼……!?」
女性的表情露出驚愕與恐懼。
「康拉德祭司,你算計我」
凱倫貝克看著在女性後方的康拉德。
「嗯,但是那又怎樣?」
凱倫貝克一瞬間就看出那位女性不是碧姬媞,雖然只有一瞬間看到一眼而已。雖然長得很像,但凱倫貝克還沒有遲鈍到會看錯長年都相處在一起的人。
凱倫貝克繼續彈小提琴,女性的身體就像在配合旋律一樣動著,然後將她的手朝向康拉德。
「去吧」
凱倫貝克一說完,就更強力地彈奏小提琴。
同時,女性就朝向康拉德舉起她的手鐮。
「……失敗了嗎」
「救救我……康拉德--」
康拉德那邊傳來了什麼東西被擊碎的聲音,康拉德手裡握著棍棒,棍棒前端都是血與腦漿。
「祭司……你這個人……」
凱倫貝克眼裡充滿了絕望都不足以形容的神色。
凱倫貝克沒想到康拉德會一擊殺死向他求助的人。凱倫貝克所知道的康拉德,是毫無偏袒,無償地將愛施給所有學生的僧侶。
「我只是排除仇視我們神之人,我們不允許有威脅我們的存在」
康拉德舉起棍棒後,以常人看不清的速度拉近與凱倫貝克的距離。然後在進入攻擊範圍的瞬間,就將棍棒朝凱倫貝克的頭上揮下。
但是凱倫貝克向左大大地移動躲開。
凱倫貝克邊躲開邊彈奏扎吉。
「唔……」
扎吉的聲音一瞬間讓康拉德停止。
但是不知道是康拉德的超人之力,還是精神力,讓康拉德硬是逃離了扎吉的控制。
「太天真了!」
康拉德用棍棒追擊凱倫貝克,雖然動作比剛剛慢,但是這次瞄準了凱倫貝克的腹部。
凱倫貝克不知道是否是因為康拉德掙脫束縛,內心受到動搖而大意露出了破綻。
凱倫貝克連發出悲鳴的時間都沒有,就被打倒在地上了。
雖然吃了意外的一擊,但凱倫貝克還是藏住動搖馬上起身站穩。
早就知道康拉德很強。凱倫貝克躲開康拉德的追擊,邊拉遠距離邊一直彈奏扎吉的弦。
沒有彈奏曲子的餘力,總之只能讓康拉德盡量聽到扎吉的聲音,拼死命地彈。
「小聰明……」
躲開康拉德的攻擊好幾次後,被逼到了大聖堂的最裡面。
「以神之名毀滅吧,凱倫貝克!!」
康拉德的棍棒逼近,凱倫貝克無法躲開攻擊,再次彈奏扎吉。
這次總算,讓康拉德完全停下來了。
「什……」
血突然從康拉德的口鼻流出。
雖然因為同樣是超人所以花了些時間,但是以扎吉的音色振動康拉德的身體細胞,讓他從內部開崩潰的策略成功了。
康拉德終於撐不下去,從身上所有的洞流出血來倒在地上。
因為凱倫貝克還有事想問康拉德,所以沒有攻擊他的腦細胞,但是只要把他丟在這裡就會因失血過多而死了吧。
「康拉德祭司,請問碧姬媞在哪裡?」
凱倫貝克邊彈奏扎吉,邊向康拉德的精神問道。
「碧姬媞,在……聖……達瑞斯大聖堂……裡……」
康拉德邊喘息,邊回答碧姬媞的所在地點。
他已經沒有從扎吉的音色中,逃開的精神力與體力了。
「至少……要將你,由我……親手……」
凱倫貝克瞥一眼說完後就不動了的康拉德之後,就離開聖堂了。
並且抱著一線希望,往在米利加迪亞首都的聖達瑞斯大聖堂走去了。
|
「─完─」
3258年 「ザジ」
薄汚れた天井。意識を取り戻したカレンベルクの視界に入ったのはそれだった。
すぐ横で何かを片付ける音がする。その方向を見やると、無精髭を生やした中年男性が医療機器を片付けていた。
「……ここ、は」
「気が付いたか、カレンベルク」
男性は衝撃的な言葉を口にした。何故自分の名を知っているのか。カレンベルクは衝撃に目を見開き、同時に身構えた。
「組織の関係者か……」
「警戒するなとは言えんが、私が組織の関係者なら、君の意識が戻る前に組織に引き渡している」
男性はロンゴと名乗った。以前はルピナス・スクールの併設病院で研究者を務めていたという。
そして、カレンベルクに超人となるための種を植え付けたのは自分だと、簡潔に語った。
「そんな、いつの間に……」
「十歳の頃。と言われれば、心当たりがあるだろう?」
そう言われ、カレンベルクは十歳の頃を思い出した。ちょうどその頃、病を患ってルピナス・スクールの病院に数週間入院したことがあった。
その時から自分の体は人間でなくなっていたのかと思うと、カレンベルクは身震いした。
「貴方は、何故……」
「何故君を助けたのか?それとも、何故組織を抜けたのか?どちらだ?」
「……両方です」
ロンゴは静かに息を吐き出すと、カレンベルクの疑問に答えた。
——苛酷な実験を繰り返す内に組織の活動に疑問を持ち、実験体の死体を自身の自殺死体に偽装して組織を出奔したこと。
——サベッジランドに辿り着いた自分は、組織で得た技術を利用して医療業を営むことで、組織で犯した罪を償おうと決意したこと。
——そしてつい先日、瀕死のカレンベルクが自分のところに運び込まれてきたこと。
——怪我をしている患者を救わない理由は無いこと。
それらを粛々と語った。
「それで、お前はこれからどうする?」
今度はカレンベルクの番だ。ロンゴの視線はそう告げていた。
「ビアギッテを助けたい。それだけです」
迷いは無かった。自分が生き存えた理由はこれだけだと、カレンベルクは思っていた。
傷の癒えたカレンベルクは、自らの力を正しく扱えるように特訓を開始した。
ビアギッテを取り戻そうとする以上、組織からの攻撃は避けられない。
「お前は音の力を操る能力を持っているのだろう。バイオリンの音によって恋人が苦しんだというのは、それが原因だ」
力の正体を知るためにいくつかの心当たりをロンゴに告げると、彼はそう返した。ロンゴは愛する人を助けるために組織に反逆しようというカレンベルクの覚悟を気に入り、あれこれと助言をするようになっていた。
カレンベルクは新たなバイオリンを入手して超人の力を操る訓練を進めていったが、何かが違う。
やはりザジでなければ駄目だ。そう断案したカレンベルクは、忌まわしきルピナス・スクールの寄宿舎へ忍び込む決意をした。
自分の超人の力はビアギッテを苦しめてしまった力だ。だが、それよりも組織に対抗してビアギッテを取り戻す力を得たい、その願望が勝った。
脱出した時のルートを遡る形で、カレンベルクは寄宿舎へ向かう。
建物の周囲を見回る警備員をやり過ごして侵入すると、まずは自室へと向かった。
自室だった場所は、すでに荷物が処分された後であった。だが、ザジの回収は容易だった。
ビアギッテを害してしまった時に、クローゼットの底に穴を開けてザジを封印していたのが幸いした。
次にビアギッテの部屋へ向かったが、そこにビアギッテの姿は無かった。
それどころか、自分の生活していた部屋と同じように荷物が処分されている。ビアギッテは何処へ行ったのか。
カレンベルクは寄宿舎の寮長室に忍び込んだ。寮長であればビアギッテの行方を知っている可能性がある。寮長は寝室で寝入っていたが、不審者の侵入を察知したのか、目を覚ます。
そして、寮長はカレンベルクの顔を見ると、その表情を恐怖に歪ませた。
「き、貴様、何故ここに!?」
助けを呼ぼうとする寮長をザジの音色で拘束する。碌にメンテナンスをしていないにも関わらず、ザジはカレンベルクの力に完璧に応えた。
「ビアギッテを何処へ隠した?」
「……し、知らん」
怯えた声で話す寮長だが、この寄宿舎の全権を任されている彼が寮生の所在を知らぬ筈がない。
寮長が嘘を吐いていると考えたカレンベルクは、ザジの弦を一つ弾く。低い音色が寮長の耳に届くと、寮長は苦悶の呻き声を上げた。
「お、ああ……」
「さあ、ビアギッテは何処だ?」
再び寮長に問う。ザジの音が寮長の脳を支配していた。
「み、リ……ガディア……」
「ミリガディアの?」
「首都近く……スラム……今は、使われていない、聖堂……」
「そうか」
聞きたい事を聞き終えたカレンベルクは、再びザジの弦を弾く。
寮長は苦悶の表情を浮かべたまま悶死した。外見ではわからないが、彼の脳細胞はバイオリンの音によって破壊し尽くされているだろう。
何処からともなく響くバイオリンの音色。
作曲者の悲しみを旋律とした曲が、聖堂に響き渡る。
「ぐ、ぎゃ……あ、あ……たす、た……」
「な、何だ、これは、あぐ……!?ぎぇ、があああああああ!」
次いで、バイオリンの音を掻き消すように悲鳴が響き渡る。真夜中の聖堂は阿鼻叫喚に包まれた。
僧侶達の絶叫が収まると、カレンベルクはバイオリンを携えたまま聖堂の奥へと進んだ。
累々と横たわる僧侶達の中、聖堂の奥にいる二つの影だけは、何事もなかったかのように立っている。
片方は女性で、もう片方は男性だった。女性の方は僧侶のフードを目深に被っており、表情は窺い知れない。
「我らの組織を背負って立つ若者が、このようなことでは困る」
「コンラッド祭司……。ビアギッテを返していただきます」
「私の教育は失敗だったようだな。神の名の下に、私が直々に裁きを下してやろう」
カレンベルクとコンラッドは対峙する。相手を射殺さんとする両者の視線がぶつかり合う。
「僕はビアギッテさえ解放してくれれば、貴方がたには何もしません」
「そうか。ならば行け、ビアギッテ」
フードを被った女性が、コンラッドの言葉に促されるようにカレンベルクに駆け寄った。
「ビアギッテ……?」
カレンベルクは駆け寄ってくる女性を見て一歩後退る。
その直後、ビアギッテと呼ばれた女性が蟷螂の鎌のように変化した腕を振り翳して、カレンベルクに襲い掛かる。
突然の攻撃に見えたが、カレンベルクは冷静にバイオリンの弦を一度弾いた。すると、彼女の体は金縛りにあったかのように動かなくなる。
バイオリンの音が女性の行動を支配していた。
「な、に……!?」
女性の顔が驚愕と恐怖に彩られた。
「僕を嵌めましたね、コンラッド祭司」
カレンベルクは女性の先にいるコンラッドを見据えていた。
「ああ。だが、それがどうしたというのだ?」
フードを被った女性がビアギッテでないことは、一目見たその瞬間に把握していた。確かによく似ていたが、長い年月を共に過ごした人を見間違うほど、カレンベルクは鈍感ではない。
カレンベルクはバイオリンの弦を弾き続ける。そのリズムに合わせるように女性の体が動き、ついにはその腕の鎌をコンラッドに向ける。
「行け」
言葉と共に、カレンベルクは一層強くバイオリンの弦を弾いた。
それを合図に、女性がコンラッドに向かって鎌を振り上げる。
「……失敗か」
「た、助けて……コンラッドさ——」
何かが潰れるような音が響き渡る。コンラッドの手には棍が握られており、その先端は血と脳漿で濡れていた。
「祭司……貴方という人は……」
カレンベルクの目には絶望ともつかない色が宿っていた。
まさか、助けを求める者を一撃で殺害してしまうとは予想しなかった。カレンベルクの知るコンラッドは、分け隔てのない無償の愛を生徒達に与える僧侶であった。
「我らの神に仇なした者を排除したのみ。我々は我々を脅かす者の存在を許さぬ」
コンラッドは棍を構えると、常人では見切れぬ速さでカレンベルクとの距離を詰める。間合いに入ったその瞬間、カレンベルクの脳天に向かって棍が振り下ろされた。
しかし、カレンベルクはその一撃を左に大きく避けることで回避した。
回避しながら、カレンベルクはザジの弦を弾く。
「ぐ……」
ザジの音により、コンラッドの動きが一瞬だけ止まる。
しかし、超人としての力かそれとも精神力の賜物か、コンラッドはザジの音色から無理矢理抜け出した。
「甘い!」
棍の追撃がカレンベルクを襲う。先程よりも鈍い速度ではあったが、今度はカレンベルクの脇腹を捉える。
呪縛が振り解かれたことに対する動揺が、カレンベルクに隙を作っていた。
カレンベルクは息と共に悲鳴とも呻きともつかない声を吐き出すと、床に叩き付けられた。
不意の一撃をもらってしまったが、カレンベルクは動揺を隠して体勢を立て直す。
コンラッドが強いであろうことは想定済みであった。カレンベルクはコンラッドの更なる追撃を回避し、距離を取りながらザジの弦を何度も強く弾く。
曲を奏でる暇は無い。とにかくコンラッドにザジの音を何度も聞かせ続けなければと、必死に弦を弾く。
「小癪な真似を……」
コンラッドの攻撃を何度も回避していく内に、聖堂の最奥へと追い詰められた。
「神の名の下に滅せよ、カレンベルク!!」
コンラッドの棍が迫る。カレンベルクはその攻撃を躱すことなく、再びザジの弦を弾く。
今度こそ、コンラッドの動きが完全に止まった。
「な……」
コンラッドの口や鼻から血が流れ出た。
同じ超人であったため時間は掛かったが、コンラッドの体細胞をザジの音色で振動させ、内部からの崩壊を狙っていたのだ。
ついに耐え切れなくなったコンラッドは、穴という穴から血を流しながら床へと倒れ付した。
聞くべき事があったため、脳細胞には攻撃をしていない。だが、このまま放置しておけばじきに失血死を迎えるだろう。
「コンラッド祭司、ビアギッテは何処にいるのです?」
カレンベルクはザジの弦を弾き、コンラッドの精神に問う。
「ビアギッテ、は……聖……ダリウス大聖堂に……いる……」
コンラッドは息も絶え絶えながら、ビアギッテがいるらしい場所を口にする。
ザジの音色から逃げおおせるだけの精神力も体力も、彼にはもう無かった。
「お前は……せめて、私の……手で……」
その言葉を最後に動かなくなったコンラッドを一瞥すると、カレンベルクは聖堂を後にした。
そして一縷の希望を胸に、ミリガディアの首都にある聖ダリウス大聖堂へと向かうのだった。
「—了—」
薄汚れた天井。意識を取り戻したカレンベルクの視界に入ったのはそれだった。
すぐ横で何かを片付ける音がする。その方向を見やると、無精髭を生やした中年男性が医療機器を片付けていた。
「……ここ、は」
「気が付いたか、カレンベルク」
男性は衝撃的な言葉を口にした。何故自分の名を知っているのか。カレンベルクは衝撃に目を見開き、同時に身構えた。
「組織の関係者か……」
「警戒するなとは言えんが、私が組織の関係者なら、君の意識が戻る前に組織に引き渡している」
男性はロンゴと名乗った。以前はルピナス・スクールの併設病院で研究者を務めていたという。
そして、カレンベルクに超人となるための種を植え付けたのは自分だと、簡潔に語った。
「そんな、いつの間に……」
「十歳の頃。と言われれば、心当たりがあるだろう?」
そう言われ、カレンベルクは十歳の頃を思い出した。ちょうどその頃、病を患ってルピナス・スクールの病院に数週間入院したことがあった。
その時から自分の体は人間でなくなっていたのかと思うと、カレンベルクは身震いした。
「貴方は、何故……」
「何故君を助けたのか?それとも、何故組織を抜けたのか?どちらだ?」
「……両方です」
ロンゴは静かに息を吐き出すと、カレンベルクの疑問に答えた。
——苛酷な実験を繰り返す内に組織の活動に疑問を持ち、実験体の死体を自身の自殺死体に偽装して組織を出奔したこと。
——サベッジランドに辿り着いた自分は、組織で得た技術を利用して医療業を営むことで、組織で犯した罪を償おうと決意したこと。
——そしてつい先日、瀕死のカレンベルクが自分のところに運び込まれてきたこと。
——怪我をしている患者を救わない理由は無いこと。
それらを粛々と語った。
「それで、お前はこれからどうする?」
今度はカレンベルクの番だ。ロンゴの視線はそう告げていた。
「ビアギッテを助けたい。それだけです」
迷いは無かった。自分が生き存えた理由はこれだけだと、カレンベルクは思っていた。
傷の癒えたカレンベルクは、自らの力を正しく扱えるように特訓を開始した。
ビアギッテを取り戻そうとする以上、組織からの攻撃は避けられない。
「お前は音の力を操る能力を持っているのだろう。バイオリンの音によって恋人が苦しんだというのは、それが原因だ」
力の正体を知るためにいくつかの心当たりをロンゴに告げると、彼はそう返した。ロンゴは愛する人を助けるために組織に反逆しようというカレンベルクの覚悟を気に入り、あれこれと助言をするようになっていた。
カレンベルクは新たなバイオリンを入手して超人の力を操る訓練を進めていったが、何かが違う。
やはりザジでなければ駄目だ。そう断案したカレンベルクは、忌まわしきルピナス・スクールの寄宿舎へ忍び込む決意をした。
自分の超人の力はビアギッテを苦しめてしまった力だ。だが、それよりも組織に対抗してビアギッテを取り戻す力を得たい、その願望が勝った。
脱出した時のルートを遡る形で、カレンベルクは寄宿舎へ向かう。
建物の周囲を見回る警備員をやり過ごして侵入すると、まずは自室へと向かった。
自室だった場所は、すでに荷物が処分された後であった。だが、ザジの回収は容易だった。
ビアギッテを害してしまった時に、クローゼットの底に穴を開けてザジを封印していたのが幸いした。
次にビアギッテの部屋へ向かったが、そこにビアギッテの姿は無かった。
それどころか、自分の生活していた部屋と同じように荷物が処分されている。ビアギッテは何処へ行ったのか。
カレンベルクは寄宿舎の寮長室に忍び込んだ。寮長であればビアギッテの行方を知っている可能性がある。寮長は寝室で寝入っていたが、不審者の侵入を察知したのか、目を覚ます。
そして、寮長はカレンベルクの顔を見ると、その表情を恐怖に歪ませた。
「き、貴様、何故ここに!?」
助けを呼ぼうとする寮長をザジの音色で拘束する。碌にメンテナンスをしていないにも関わらず、ザジはカレンベルクの力に完璧に応えた。
「ビアギッテを何処へ隠した?」
「……し、知らん」
怯えた声で話す寮長だが、この寄宿舎の全権を任されている彼が寮生の所在を知らぬ筈がない。
寮長が嘘を吐いていると考えたカレンベルクは、ザジの弦を一つ弾く。低い音色が寮長の耳に届くと、寮長は苦悶の呻き声を上げた。
「お、ああ……」
「さあ、ビアギッテは何処だ?」
再び寮長に問う。ザジの音が寮長の脳を支配していた。
「み、リ……ガディア……」
「ミリガディアの?」
「首都近く……スラム……今は、使われていない、聖堂……」
「そうか」
聞きたい事を聞き終えたカレンベルクは、再びザジの弦を弾く。
寮長は苦悶の表情を浮かべたまま悶死した。外見ではわからないが、彼の脳細胞はバイオリンの音によって破壊し尽くされているだろう。
何処からともなく響くバイオリンの音色。
作曲者の悲しみを旋律とした曲が、聖堂に響き渡る。
「ぐ、ぎゃ……あ、あ……たす、た……」
「な、何だ、これは、あぐ……!?ぎぇ、があああああああ!」
次いで、バイオリンの音を掻き消すように悲鳴が響き渡る。真夜中の聖堂は阿鼻叫喚に包まれた。
僧侶達の絶叫が収まると、カレンベルクはバイオリンを携えたまま聖堂の奥へと進んだ。
累々と横たわる僧侶達の中、聖堂の奥にいる二つの影だけは、何事もなかったかのように立っている。
片方は女性で、もう片方は男性だった。女性の方は僧侶のフードを目深に被っており、表情は窺い知れない。
「我らの組織を背負って立つ若者が、このようなことでは困る」
「コンラッド祭司……。ビアギッテを返していただきます」
「私の教育は失敗だったようだな。神の名の下に、私が直々に裁きを下してやろう」
カレンベルクとコンラッドは対峙する。相手を射殺さんとする両者の視線がぶつかり合う。
「僕はビアギッテさえ解放してくれれば、貴方がたには何もしません」
「そうか。ならば行け、ビアギッテ」
フードを被った女性が、コンラッドの言葉に促されるようにカレンベルクに駆け寄った。
「ビアギッテ……?」
カレンベルクは駆け寄ってくる女性を見て一歩後退る。
その直後、ビアギッテと呼ばれた女性が蟷螂の鎌のように変化した腕を振り翳して、カレンベルクに襲い掛かる。
突然の攻撃に見えたが、カレンベルクは冷静にバイオリンの弦を一度弾いた。すると、彼女の体は金縛りにあったかのように動かなくなる。
バイオリンの音が女性の行動を支配していた。
「な、に……!?」
女性の顔が驚愕と恐怖に彩られた。
「僕を嵌めましたね、コンラッド祭司」
カレンベルクは女性の先にいるコンラッドを見据えていた。
「ああ。だが、それがどうしたというのだ?」
フードを被った女性がビアギッテでないことは、一目見たその瞬間に把握していた。確かによく似ていたが、長い年月を共に過ごした人を見間違うほど、カレンベルクは鈍感ではない。
カレンベルクはバイオリンの弦を弾き続ける。そのリズムに合わせるように女性の体が動き、ついにはその腕の鎌をコンラッドに向ける。
「行け」
言葉と共に、カレンベルクは一層強くバイオリンの弦を弾いた。
それを合図に、女性がコンラッドに向かって鎌を振り上げる。
「……失敗か」
「た、助けて……コンラッドさ——」
何かが潰れるような音が響き渡る。コンラッドの手には棍が握られており、その先端は血と脳漿で濡れていた。
「祭司……貴方という人は……」
カレンベルクの目には絶望ともつかない色が宿っていた。
まさか、助けを求める者を一撃で殺害してしまうとは予想しなかった。カレンベルクの知るコンラッドは、分け隔てのない無償の愛を生徒達に与える僧侶であった。
「我らの神に仇なした者を排除したのみ。我々は我々を脅かす者の存在を許さぬ」
コンラッドは棍を構えると、常人では見切れぬ速さでカレンベルクとの距離を詰める。間合いに入ったその瞬間、カレンベルクの脳天に向かって棍が振り下ろされた。
しかし、カレンベルクはその一撃を左に大きく避けることで回避した。
回避しながら、カレンベルクはザジの弦を弾く。
「ぐ……」
ザジの音により、コンラッドの動きが一瞬だけ止まる。
しかし、超人としての力かそれとも精神力の賜物か、コンラッドはザジの音色から無理矢理抜け出した。
「甘い!」
棍の追撃がカレンベルクを襲う。先程よりも鈍い速度ではあったが、今度はカレンベルクの脇腹を捉える。
呪縛が振り解かれたことに対する動揺が、カレンベルクに隙を作っていた。
カレンベルクは息と共に悲鳴とも呻きともつかない声を吐き出すと、床に叩き付けられた。
不意の一撃をもらってしまったが、カレンベルクは動揺を隠して体勢を立て直す。
コンラッドが強いであろうことは想定済みであった。カレンベルクはコンラッドの更なる追撃を回避し、距離を取りながらザジの弦を何度も強く弾く。
曲を奏でる暇は無い。とにかくコンラッドにザジの音を何度も聞かせ続けなければと、必死に弦を弾く。
「小癪な真似を……」
コンラッドの攻撃を何度も回避していく内に、聖堂の最奥へと追い詰められた。
「神の名の下に滅せよ、カレンベルク!!」
コンラッドの棍が迫る。カレンベルクはその攻撃を躱すことなく、再びザジの弦を弾く。
今度こそ、コンラッドの動きが完全に止まった。
「な……」
コンラッドの口や鼻から血が流れ出た。
同じ超人であったため時間は掛かったが、コンラッドの体細胞をザジの音色で振動させ、内部からの崩壊を狙っていたのだ。
ついに耐え切れなくなったコンラッドは、穴という穴から血を流しながら床へと倒れ付した。
聞くべき事があったため、脳細胞には攻撃をしていない。だが、このまま放置しておけばじきに失血死を迎えるだろう。
「コンラッド祭司、ビアギッテは何処にいるのです?」
カレンベルクはザジの弦を弾き、コンラッドの精神に問う。
「ビアギッテ、は……聖……ダリウス大聖堂に……いる……」
コンラッドは息も絶え絶えながら、ビアギッテがいるらしい場所を口にする。
ザジの音色から逃げおおせるだけの精神力も体力も、彼にはもう無かった。
「お前は……せめて、私の……手で……」
その言葉を最後に動かなくなったコンラッドを一瞥すると、カレンベルクは聖堂を後にした。
そして一縷の希望を胸に、ミリガディアの首都にある聖ダリウス大聖堂へと向かうのだった。
「—了—」