等我恢復意識時,發現雙手雙腳都被鎖鏈束縛著。
很勉強地轉動了頭部看了一下四周,看來這裡似乎是一間冰冷水泥地板與牆壁的牢房裡。望向裝了鐵格子的小窗外頭,也許是光線很微弱的關係,即使再努力也看不到什麼。
在身體進行了大規模再生之後,確實連續睡了好幾天。在這期間不管被做了什麼也沒醒過,更何況這次失去了一半以上的身體,完全不曉得究竟睡了多久。
「您醒了嗎」
不帶感情的女性聲音說道。被燈火照亮著的女子用冷淡的雙眼看著威廉。
怎麼會?為什麼?在威廉的腦中不斷地浮現這樣的疑問。
以前有見過這位女性。從老舊的記憶中,想起了這位女性叫作尤莉卡。而且還是一個危險組織裡的成員。
威廉是被尤莉卡所屬的組織認定他是『能使偉大首領甦醒的關鍵』,過去曾經被他們的研究人員操弄過身體。
以不直接造成致命傷為前提,不論日夜,持續給他所有能夠想像得到的傷害。
威廉回想起十幾年前的惡夢。
「不會吧……」
「沒想到你還活著,我聽到報告時很驚訝」
「我應該已經沒有利用價值了吧,為什麼要抓我……」
「嗯嗯,當時確實已經利用完了,但是你還活著的話那就另當別論了」
尤莉卡瞇了一下眼睛,從她那無神的眼睛,聯想起過去受到組織的各種迫害。
「這次又打算對我做什麼?」
「怪物不需要知道」
尤莉卡只說了這些話後,就轉身離威廉而去。
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在那之後沒多久,威廉被組織的研究者們束縛,帶往充滿消毒藥水味的房間。
手腳被像樹脂的東西固定在手術台,身體完全不能動彈。
眼前的研究者們,用看起來似乎很高興的表情看著威廉。
「你們的首領已經回來了吧,應該不再需要我了……」
「難得有趣的實驗材料回來了,怎麼可以錯失這個機會呢」
「一切都是為了大善世界」
「像你這樣的怪物可能成為世界的基石耶,感謝我們都來不及了,更不該恨我們啊」
研究者們毫不掩飾臉上欣喜的表情,一個一個接著說道。
切開皮膚、砸碎骨頭、甚至連心臟被取出也能夠再生的威廉,對他們來說只是個最好不過的研究材料。
研究者們並沒有將威廉當作『人類』看待。對他們來說,威廉是無論重覆多麼殘酷的實驗也能夠無限再生的『活著的玩具』。
|
「啊……唔……」
威廉低聲呻吟著。
腹部和頭部被移植了某種植物,將威廉當作養分生根。
雖然有被注射抑制痛楚的藥物,但是對藥效退得遠比常人快的威廉來說,沒有什麼意義。
威廉只能一味地忍受痛苦撐過去,沒有其他辦法。
「再生能力沒有什麼變化,也檢查過植物的基因構造了,沒有什麼異變」
「就算當成養份吸收了,也沒有影響啊」
「要怎麼辦?」
「將植物切除,換別的實驗。植物不行的話,接下來換昆蟲吧」
「也是。等這次再生之後,接著進行下一個實驗吧」
威廉無法昏厥,所以只能兩眼發直地聽著研究者們所說的話。
沒有盡頭的實驗、沒有盡頭的痛楚、沒有盡頭的苦難。
「我已經,受夠了……」
如果能就這樣心靈崩壞的話多輕鬆啊,只能一邊這樣想著一邊任人擺佈。
「哦,還有餘力可以講話呀。喂,用那個吧」
「那個嗎?那個還在臨床階段不是嗎,對腦部會有強烈的影響」
「所以才要用啊,反正之前因為藥物發瘋的時候,沒多久就會恢復。之前的實驗已經証實過了呀」
從研究者的對話中,才第一次知道自己曾經精神崩潰過數次。在那前後的事完全沒有記憶,原來自己的異常體質包括了心靈。並不是心靈不會崩壞,只是心靈和肉體一樣再生了而已。
「那就沒問題了,馬上開始吧」
威廉心中只剩下絕望。繼續承受著苦難,而且還是乾脆神智清楚地死去還比較好的痛苦。
在被施與對腦部有強烈作用的藥物後不久便頭昏腦脹,失去了意識。
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再次恢復意識時,自己滾落在一開始的那個牢房裡,手和頭被鎖練緊繫。
「唔……嗚……」
腹部傳來疼痛感。往腹部一看,看到只做了不讓細菌入侵的簡單處置。從繃帶裡滲出的鮮血,可以得知還在再生的途中。
威廉在牢房裡深深地嘆了一口氣。
要是可以讓再生的速度延緩些的話,是否可以讓他們拋棄自己呢。思考著這些事。
突然間,想起了從死者軍隊手中得救的事。當時,想著絕不能倒在這裡,那是自發性的強烈意志。
威廉心想著說不定,咬了自己的手臂。即使疼痛,也繼續啃咬至破皮。
直至血的味道在口腔內擴散開來才停止啃咬。然後將意識集中在印著明顯齒痕的手臂,想像著傷口自癒的過程。過了一會兒,傷口比平常恢復得還要快。但撥開包裹在腹部的保護布,這邊的傷口則是沒有什麼變化。再生的速度反而大幅下降。
威廉心想著果然沒錯。這個異常的能力逐漸可以靠自己的意志去控制,已經得到了確信。
|
威廉決定逃離組織。即使像過去那樣讓自癒的速度變慢,被丟棄的可能性也很低。但也無法接受不知道什麼時候才能結束的這種狀況。
沒多久,這個機會終於來了。
「今天還真能忍啊」
「好,那就再挖深一點吧。找一下之前移植進去的昆蟲卵」
二位研究員,像是在嘲笑著一邊死命忍耐著痛楚一邊等待機會的威廉似的,用手術刀將腹部切開。
威廉一心只想著無論如何都要忍耐到實驗結束解放束縛為止,為了不昏厥過去咬緊牙根。
「找不到耶」
「也沒有幼蟲的影子,被排出去了嗎?如果是的話還就需要再觀察看看了」
研究員們一人一句一邊說著,一邊將威廉開了洞的腹部蓋上簡單的保護布。
「再把卵移植進去一次,這次不能讓皮膚再生」
「需要開發阻礙再生的藥」
對於下次的實驗有著明顯好奇心聊著的其中一位研究員,將威廉的束縛解開。就在這時候,威廉將那研究員緊緊抓住後壓倒。
「喂,你在做什麼」
「他突然朝我倒了過來」
「小心一點」
就在來看發生什麼事的研究員視線離開的瞬間,威廉想像著自己吸取緊抓著的研究員生命力的感覺。
「啊,啊啊……痛,好痛,好痛好痛好痛好痛!!!肚、肚、肚子啊啊啊啊啊!」
研究員的腹部噴出了鮮血,發出慘叫聲。同時,威廉感受到自己的腹部疼痛逐漸消失。研究員因為自己突如其來的疼痛滾動,撞到實驗台,兩人一起倒在地。
「怪,怪物你做了什麼!」
另一位研究員將手邊有的手術刀跟道具什麼的,抓到的東西都往威廉丟去。剛才發出悲鳴的研究員因為太痛而昏厥,持續痙攣著。
威廉不顧砸到他的道具,抓住了另一位研究員的臉。然後跟剛剛一樣吸取了他的生命力。
「噫…不要……!」
「我不會,殺你……。我只要能逃走就可以了」
確認研究員們都不會動之後,奪走他的衣服,打開實驗室與休息室之間的門。休息室裡很安靜,看起來沒有人會進來。看向進入視野的窗外,建築物旁有著一條小河。
不知道河有多深,但是除了這裡沒有別條路可以逃了。威廉早就知道,就算跳下去因為太淺而著水失敗,頂多骨折而已馬上就可以恢復了。
這時候實驗室那邊開始騷動了起來。應該是其他研究員們發現有事情發生了吧。
還好,窗戶的大小足夠一個人穿過。威廉急忙翻出窗外,順勢跳進河裡去了。
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幸好,河川有一定的深度,這個位置的水流也算蠻強的。
威廉將臉冒出水面,開始游起來。可能是因為吸收了研究員們的生命力吧,身體輕快到令人驚訝的地步。
總之得離開那個實驗設施,配合河川的水流,威廉朝著下流游去。
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「−完−」
3394年 「指嗾」
気が付くと、両手両足を鎖で縛られていた。
辛うじて動く頭を動かして周囲を見回す。どうやら冷たいコンクリートの床と壁に囲まれた牢屋のようだ。小さな窓に取り付けられた鉄格子の外を見やる。明かりの数が少ないようで、目を凝らしても先は伺えない。
大掛かりな身体再生を行った後は、確実に何日も眠り続ける。その間は何をされても目を覚ますことはない。ましてや身体の半分以上を失った上での再生だ。一体どれ程眠っていたのか見当もつかなかった。
「お目覚めですか」
感情が籠もっていない女の声が響く。ランプに照らされた女は冷たい目でヴィルヘルムを見ていた。
何故。どうして。そのような疑問ばかりがヴィルヘルムの頭を駆け巡る。
女には見覚えがあった。古い記憶から、この女がユーリカと呼ばれていたことを思い出す。そして、とても危険な組織の構成員であるということも。
ヴィルヘルムはユーリカが属する組織で『偉大なる首領を蘇らせるための鍵』だと言われ、研究者達に身体を弄り回された過去があった。
あからさまに死ぬような目には遭わなかったものの、昼も夜も関係なく、想定しうる限りのあらゆる傷害を負わされた。
十数年前の悪夢がヴィルヘルムの中に蘇る。
「そんな……」
「生きているとは予想外でしたね。報告を聞いたときは驚愕しました」
「もう俺は用済みだろう。何故こんな……」
「ええ。あの時は確かに用済みでした。でも、生きているのなら話は別です」
ユーリカは目を細める。光の宿っていないその目から、過去に組織から受けた仕打ちを連想させられた。
「これから俺をどうするつもりだ?」
「化け物がそれを知る必要はありません」
それだけを言うと、ユーリカはヴィルヘルムに背を向けてどこかへと去っていった。
それから間もなく、ヴィルヘルムは組織の研究者達に拘束され、消毒液の臭いが充満する部屋に運ばれた。
手足は樹脂のようなもので手術台に固定され、身動きが取れない。
目の前の研究者達は皆、どこか嬉々とした表情でヴィルヘルムを眺めている。
「お前らの首領は戻ってきたんだろう、もう俺は必要ないはずだ……」
「せっかく面白い実験材料が戻ってきたんだ。この機を逃すわけがないだろう」
「全ては善き世界のためだ」
「化け物が世界の礎となるんだぞ? 感謝はされど、憎まれる筋合いはない」
研究者達は喜びの表情を隠すことなく、口々に言う。
皮膚を切り裂き、骨を砕き、心臓さえ取り出しても再生するヴィルヘルムは、格好の研究材料でしかない。
研究者達はヴィルヘルムを『人間』として見てなどいない。彼らにとってヴィルヘルムは、どれだけ過酷な実験を繰り返しても無限に再生する『生きた玩具』であった。
「が……うぐ……」
ヴィルヘルムは低い呻き声を上げる。
腹部と頭部に移植された何かの植物が、ヴィルヘルムを養分にして根を張っていた。
痛みを抑える薬物を投与されてはいたが、常人より遙かに早く薬の効果が切れるヴィルヘルムには、あまり意味を成さなかった。
ただひたすら痛みに耐えてやり過ごす。ヴィルヘルムにはそれしか方法がなかった。
「再生能力に変化は見受けられん。植物の遺伝子構造も検査したが、そちらにも変異なしだ」
「養分にはなれど、影響はないか」
「どうする?」
「植物を切除し、別の実験に切り替える。植物が駄目だとすると、次は昆虫だな」
「そうだな。これの再生を待って、次の実験に取り掛かろう」
気絶することもできず、ヴィルヘルムは研究者達の言葉を虚ろな表情で聞いていた。
終わらない実験、終わらない痛み、終わらない苦しみ。
「もう、嫌だ……」
このまま精神が壊れてしまえばどれ程楽だろうか。そんなことを思いながら、為すがままにされていた。
「ほう、言葉を喋る余裕があったか。おい、あれを使うぞ」
「あれか? あれはまだ臨床の段階ではないぞ。脳に強い作用がある」
「だからこそだ。どうせ薬で発狂したところで、暫くすれば元に戻るんだ。かつての実験で実証済みだよ」
研究者の言葉で、自分が何度も正気を失っていたことを初めて知った。その前後のことは全く記憶にない。己の異常さは心にも及んでいたのだ。別に心が壊れなかったわけではない、ただ身体と同じように、心も再生しただけだったのだ。
「なら問題ないな。すぐに始めよう」
まだ苦しみが続く。それも、正気のまま死んだ方がましのような苦しみが。ヴィルヘルムは絶望するしかなかった。
脳に強い作用があるという薬物が投与されてさほど経たぬ内に酩酊し、そのまま意識が途絶えた。
気が付くと、最初にいた牢屋の中で手と首に鎖が繋がれた状態で転がされていた。
「ぐ……うぅ……」
腹部が痛い。その箇所を見ると、菌が入らないように最低限の処置だけが施された腹が見えた。包帯から滲む鮮やかな血が、まだ再生の途中であることを窺わせた。
ヴィルヘルムは牢屋の中で深い溜め息を吐いた。
少しでも再生が遅くなればどこかへ放逐されないだろうか。そんなことを考える。
ふと、死者の軍勢から助かった時のことを思い出した。あの時は、ここで倒れる訳にはいかないと思っていた。あれは自らの強い意思だった。
もしやと思い、ヴィルヘルムは自分の腕に思い切り歯を突き立てた。痛みが走るも、そのまま食い千切らん勢いで皮膚を破る。
血の味が口腔内に拡がったところで腕から口を離す。くっきりと歯の形に傷付いた腕に意識を集中させ、その傷が治っていく過程をイメージする。ややあって、自身が認識しているよりも早く傷は治った。腹部に付けられた保護布を剥ぎ取って傷口を見てみるが、そちらはあまり変化がない。むしろ、再生する速度はかなり落ちている。
やはり、とヴィルヘルムは思う。この異常な能力を自分の意志で操れるようになりかけていると、確信めいたものを感じた。
ヴィルヘルムは組織からの脱出を決意した。過去のように傷の治りが遅くなっても、捨て置かれる可能性は低い。このままこの場所でいつ終わるともわからない状況を受け入れることはできなかった。
程なくして、その機会はやって来た。
「今日はずいぶんと耐えるな」
「よし、もう少し深く抉ることにしよう。前に植え付けた昆虫の卵探しだ」
二人の研究員は、必死で痛みに耐えながら機会を伺うヴィルヘルムを嘲笑うかのように、腹部をメスで切り裂く。
実験が終わって拘束が解かれるまでは何としても耐えなければ、という一心で、ヴィルヘルムは気絶しないように歯を食いしばる。
「見つからんな」
「幼虫の姿もない。排出されたのか? もしそうなら観察が必要だな」
研究員達は口々に言いながら、ヴィルヘルムの穴の開いた腹部に簡単な保護布を当てるだけの処置をする。
「もう一度卵を植え付けて、今度は皮膚が再生しないようにする必要がありそうだ」
「再生を阻害する薬を開発しなければな」
次の実験への好奇を隠すことなく会話する研究員の一人が、ヴィルヘルムの拘束を解く。その際に、ヴィルヘルムはその研究員にしがみつくようにして倒れ込んだ。
「おい、何をしている」
「急に倒れ込んできたんだ」
「気をつけろ」
様子を見やった研究員の視線が外れたその瞬間、ヴィルヘルムはしがみついた研究員の生命力を吸い上げる感覚をイメージした。
「あ、がが……い、痛い、痛い痛い痛い痛い!!! は、腹、腹がああああああ!」
研究員の腹部から血が噴出し、悲鳴が上がる。同時に、ヴィルヘルムは自分の腹部の痛みが消えていくのを感じた。研究員は突然発生した痛みに転げ回り、実験台にぶつかった。二人揃って床に倒れこむ。
「ば、化け物め、何をした!」
もう一人の研究員は手元にあったメスや道具を手当たり次第ヴィルヘルムに投げつけた。悲鳴を上げていた研究員は痛みのあまり気を失ったらしく、痙攣を繰り返している。
ヴィルヘルムは道具が身体に当たるのにも構わず、もう一人の研究員の顔を掴んだ。そして、先程と同じように生命力を吸い上げる。
「ひ……やめ……!」
「殺しは、しない……。俺は、逃げられればそれでいい」
研究員達が動かなくなったのを確認すると、その衣服を奪い、実験室から休憩室に繋がる扉を開けた。休憩室は静かだった。誰かが入ってくる様子はない。視界に入った窓から外を覗くと、建物のすぐ傍を川が流れていた。
川の深さはわからない。だが逃げ道はここしかない。多少浅くて着水に失敗したところで、骨折程度ならすぐに回復するのはわかりきっている。
一時の痛みと、脱出に失敗した後に続く拷問の如き痛みとどちらが良いか。
躊躇うようなことではなかった。迷うことなく前者を選んだヴィルヘルムは窓を開ける。
そこで実験室の方が俄かに騒がしくなる。他の研究員達が異変に気付いたようだ。
幸い、窓は人一人程度ならば潜り抜けられる大きさであった。ヴィルヘルムは急いで窓から身を乗り出すと、その勢いのまま川へ向かって飛び込んだ。
幸い、川はそれなりの深さがあり、そこそこ強い流れがある箇所だった。
ヴィルヘルムは水面から顔を出すと、泳ぎ始めた。研究員達の生命力を吸ったせいか、身体が驚く程に軽いのも助けになった。
とにかくあの実験施設から離れなければ。川の流れに合わせるように、ヴィルヘルムはひたすら下流を目指した。
「—了—」
気が付くと、両手両足を鎖で縛られていた。
辛うじて動く頭を動かして周囲を見回す。どうやら冷たいコンクリートの床と壁に囲まれた牢屋のようだ。小さな窓に取り付けられた鉄格子の外を見やる。明かりの数が少ないようで、目を凝らしても先は伺えない。
大掛かりな身体再生を行った後は、確実に何日も眠り続ける。その間は何をされても目を覚ますことはない。ましてや身体の半分以上を失った上での再生だ。一体どれ程眠っていたのか見当もつかなかった。
「お目覚めですか」
感情が籠もっていない女の声が響く。ランプに照らされた女は冷たい目でヴィルヘルムを見ていた。
何故。どうして。そのような疑問ばかりがヴィルヘルムの頭を駆け巡る。
女には見覚えがあった。古い記憶から、この女がユーリカと呼ばれていたことを思い出す。そして、とても危険な組織の構成員であるということも。
ヴィルヘルムはユーリカが属する組織で『偉大なる首領を蘇らせるための鍵』だと言われ、研究者達に身体を弄り回された過去があった。
あからさまに死ぬような目には遭わなかったものの、昼も夜も関係なく、想定しうる限りのあらゆる傷害を負わされた。
十数年前の悪夢がヴィルヘルムの中に蘇る。
「そんな……」
「生きているとは予想外でしたね。報告を聞いたときは驚愕しました」
「もう俺は用済みだろう。何故こんな……」
「ええ。あの時は確かに用済みでした。でも、生きているのなら話は別です」
ユーリカは目を細める。光の宿っていないその目から、過去に組織から受けた仕打ちを連想させられた。
「これから俺をどうするつもりだ?」
「化け物がそれを知る必要はありません」
それだけを言うと、ユーリカはヴィルヘルムに背を向けてどこかへと去っていった。
それから間もなく、ヴィルヘルムは組織の研究者達に拘束され、消毒液の臭いが充満する部屋に運ばれた。
手足は樹脂のようなもので手術台に固定され、身動きが取れない。
目の前の研究者達は皆、どこか嬉々とした表情でヴィルヘルムを眺めている。
「お前らの首領は戻ってきたんだろう、もう俺は必要ないはずだ……」
「せっかく面白い実験材料が戻ってきたんだ。この機を逃すわけがないだろう」
「全ては善き世界のためだ」
「化け物が世界の礎となるんだぞ? 感謝はされど、憎まれる筋合いはない」
研究者達は喜びの表情を隠すことなく、口々に言う。
皮膚を切り裂き、骨を砕き、心臓さえ取り出しても再生するヴィルヘルムは、格好の研究材料でしかない。
研究者達はヴィルヘルムを『人間』として見てなどいない。彼らにとってヴィルヘルムは、どれだけ過酷な実験を繰り返しても無限に再生する『生きた玩具』であった。
「が……うぐ……」
ヴィルヘルムは低い呻き声を上げる。
腹部と頭部に移植された何かの植物が、ヴィルヘルムを養分にして根を張っていた。
痛みを抑える薬物を投与されてはいたが、常人より遙かに早く薬の効果が切れるヴィルヘルムには、あまり意味を成さなかった。
ただひたすら痛みに耐えてやり過ごす。ヴィルヘルムにはそれしか方法がなかった。
「再生能力に変化は見受けられん。植物の遺伝子構造も検査したが、そちらにも変異なしだ」
「養分にはなれど、影響はないか」
「どうする?」
「植物を切除し、別の実験に切り替える。植物が駄目だとすると、次は昆虫だな」
「そうだな。これの再生を待って、次の実験に取り掛かろう」
気絶することもできず、ヴィルヘルムは研究者達の言葉を虚ろな表情で聞いていた。
終わらない実験、終わらない痛み、終わらない苦しみ。
「もう、嫌だ……」
このまま精神が壊れてしまえばどれ程楽だろうか。そんなことを思いながら、為すがままにされていた。
「ほう、言葉を喋る余裕があったか。おい、あれを使うぞ」
「あれか? あれはまだ臨床の段階ではないぞ。脳に強い作用がある」
「だからこそだ。どうせ薬で発狂したところで、暫くすれば元に戻るんだ。かつての実験で実証済みだよ」
研究者の言葉で、自分が何度も正気を失っていたことを初めて知った。その前後のことは全く記憶にない。己の異常さは心にも及んでいたのだ。別に心が壊れなかったわけではない、ただ身体と同じように、心も再生しただけだったのだ。
「なら問題ないな。すぐに始めよう」
まだ苦しみが続く。それも、正気のまま死んだ方がましのような苦しみが。ヴィルヘルムは絶望するしかなかった。
脳に強い作用があるという薬物が投与されてさほど経たぬ内に酩酊し、そのまま意識が途絶えた。
気が付くと、最初にいた牢屋の中で手と首に鎖が繋がれた状態で転がされていた。
「ぐ……うぅ……」
腹部が痛い。その箇所を見ると、菌が入らないように最低限の処置だけが施された腹が見えた。包帯から滲む鮮やかな血が、まだ再生の途中であることを窺わせた。
ヴィルヘルムは牢屋の中で深い溜め息を吐いた。
少しでも再生が遅くなればどこかへ放逐されないだろうか。そんなことを考える。
ふと、死者の軍勢から助かった時のことを思い出した。あの時は、ここで倒れる訳にはいかないと思っていた。あれは自らの強い意思だった。
もしやと思い、ヴィルヘルムは自分の腕に思い切り歯を突き立てた。痛みが走るも、そのまま食い千切らん勢いで皮膚を破る。
血の味が口腔内に拡がったところで腕から口を離す。くっきりと歯の形に傷付いた腕に意識を集中させ、その傷が治っていく過程をイメージする。ややあって、自身が認識しているよりも早く傷は治った。腹部に付けられた保護布を剥ぎ取って傷口を見てみるが、そちらはあまり変化がない。むしろ、再生する速度はかなり落ちている。
やはり、とヴィルヘルムは思う。この異常な能力を自分の意志で操れるようになりかけていると、確信めいたものを感じた。
ヴィルヘルムは組織からの脱出を決意した。過去のように傷の治りが遅くなっても、捨て置かれる可能性は低い。このままこの場所でいつ終わるともわからない状況を受け入れることはできなかった。
程なくして、その機会はやって来た。
「今日はずいぶんと耐えるな」
「よし、もう少し深く抉ることにしよう。前に植え付けた昆虫の卵探しだ」
二人の研究員は、必死で痛みに耐えながら機会を伺うヴィルヘルムを嘲笑うかのように、腹部をメスで切り裂く。
実験が終わって拘束が解かれるまでは何としても耐えなければ、という一心で、ヴィルヘルムは気絶しないように歯を食いしばる。
「見つからんな」
「幼虫の姿もない。排出されたのか? もしそうなら観察が必要だな」
研究員達は口々に言いながら、ヴィルヘルムの穴の開いた腹部に簡単な保護布を当てるだけの処置をする。
「もう一度卵を植え付けて、今度は皮膚が再生しないようにする必要がありそうだ」
「再生を阻害する薬を開発しなければな」
次の実験への好奇を隠すことなく会話する研究員の一人が、ヴィルヘルムの拘束を解く。その際に、ヴィルヘルムはその研究員にしがみつくようにして倒れ込んだ。
「おい、何をしている」
「急に倒れ込んできたんだ」
「気をつけろ」
様子を見やった研究員の視線が外れたその瞬間、ヴィルヘルムはしがみついた研究員の生命力を吸い上げる感覚をイメージした。
「あ、がが……い、痛い、痛い痛い痛い痛い!!! は、腹、腹がああああああ!」
研究員の腹部から血が噴出し、悲鳴が上がる。同時に、ヴィルヘルムは自分の腹部の痛みが消えていくのを感じた。研究員は突然発生した痛みに転げ回り、実験台にぶつかった。二人揃って床に倒れこむ。
「ば、化け物め、何をした!」
もう一人の研究員は手元にあったメスや道具を手当たり次第ヴィルヘルムに投げつけた。悲鳴を上げていた研究員は痛みのあまり気を失ったらしく、痙攣を繰り返している。
ヴィルヘルムは道具が身体に当たるのにも構わず、もう一人の研究員の顔を掴んだ。そして、先程と同じように生命力を吸い上げる。
「ひ……やめ……!」
「殺しは、しない……。俺は、逃げられればそれでいい」
研究員達が動かなくなったのを確認すると、その衣服を奪い、実験室から休憩室に繋がる扉を開けた。休憩室は静かだった。誰かが入ってくる様子はない。視界に入った窓から外を覗くと、建物のすぐ傍を川が流れていた。
川の深さはわからない。だが逃げ道はここしかない。多少浅くて着水に失敗したところで、骨折程度ならすぐに回復するのはわかりきっている。
一時の痛みと、脱出に失敗した後に続く拷問の如き痛みとどちらが良いか。
躊躇うようなことではなかった。迷うことなく前者を選んだヴィルヘルムは窓を開ける。
そこで実験室の方が俄かに騒がしくなる。他の研究員達が異変に気付いたようだ。
幸い、窓は人一人程度ならば潜り抜けられる大きさであった。ヴィルヘルムは急いで窓から身を乗り出すと、その勢いのまま川へ向かって飛び込んだ。
幸い、川はそれなりの深さがあり、そこそこ強い流れがある箇所だった。
ヴィルヘルムは水面から顔を出すと、泳ぎ始めた。研究員達の生命力を吸ったせいか、身体が驚く程に軽いのも助けになった。
とにかくあの実験施設から離れなければ。川の流れに合わせるように、ヴィルヘルムはひたすら下流を目指した。
「—了—」