帕茉抵達了王都。雖然有終於從擠了三天的狹小列車中出來的解放感,但那也只是一瞬間的事,隨即馬上就被來到這不熟悉的地方而產生的不安情緒給壓過。
在王都裡集結著為了決戰而從鄰近國家前來的軍隊。在混亂之中,帕茉一行人也排到了聯合軍的閱兵隊伍之中。
帕茉做為邊境戰鬥團的一員站在後方,幾乎完全看不到站在陽台上的女王。
基本上,對強行被湊在一起的這些邊境民族團體來說,就連在這裡到底有什麼意義跟價值都還沒搞清楚。
帕茉也在這之中浮現出不安的表情。不過,在一旁的希爾夫一直緊靠著站在她身旁。
前方發出大聲的吶喊。身材矮小的帕茉,完全不清楚前面到底發生了什麼事。
但是聽到那如同地震般詭異的聲音,讓帕茉緊緊地抱住希爾夫。
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閱兵典禮結束後,他們就留在王都周圍的野外營地。阿修羅告訴帕茉說,接下來就要前往戰場了。
「我們要去戰鬥嗎?一定得要殺人嗎?」
帕茉像是叫住阿修羅般地問道。
「妳是為此而來的。只要使用那頭野獸就好,很簡單不是」
阿修羅面無表情地回答道。
「……我做不到」
帕茉坦率的說出來。我的確與希爾夫在腦中可以溝通。而且在捕捉獵物時,或是被可怕的動物襲擊時牠都會幫助我。但是從來就沒有與手持武器的士兵戰鬥過。
「不戰鬥的話,你們的村子也會被帝國襲擊的。就當作是為了村子」
「但是……,我跟希爾夫都……」
「妳一定要去戰場,妳的力量是必須的」
帕茉咬著唇,再怎麼說敵方的士兵也是人。利用希爾夫去殺人這種事,怎麼可能做的到。帕茉的眼眶中泛著淚水,落下了眼淚。希爾夫像是安慰般地舔去帕茉的淚水,希爾夫的安慰伴隨著溫暖的觸感,一起流入帕茉的腦中。帕茉看著希爾夫點了頭。
「這是無法逃避,現在面臨的威脅就是無可反駁的現實」
對於阿修羅的那番話,帕茉完全無法反駁。
進到被分配好的帳棚裡後,馬上就與希爾夫一起躺下。閉上眼睛後,馬上就感覺到不習慣的長途旅行所造成的勞累。時常在森林中往來所培養出的體力,在這裡似乎發揮不了作用的樣子。
──好想,趕快回家。
在腦海中自言自語後,馬上就睡著了。
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第一次看到的戰場是那麼的奇特。周圍充斥著金屬跟金屬的敲打碰撞聲,塵埃和汗的臭味與熱氣攙混捲成旋渦。還沒有開戰,緊張的氣氛就已將全軍包圍。
「妳在這邊負責防禦」
帕茉跟希爾夫被分配在接近本營的後方。
「這邊的話,就不會發生戰鬥嗎?」
「是不會突然就與敵兵接觸沒錯。不過,也沒有地方可以逃」
阿修羅的眼神,不帶有任何的感情或憂慮,就只有冷冷地眼光。
「我才沒有要逃走……」
阿修羅回到本營之中。
接著,響亮的號角聲響起。在這同時,持著槍跟劍身穿盔甲身材壯碩的男子們,齊聲吶喊。
「什,什麼!?」
這些壯漢邊舉著槍邊吶喊著,帕茉對此感到害怕。在這裡的所有人,都只是為了殺人而存在。而且還有跟這些人一樣的人數,也同樣是為了要殺這裡的人而存在。帕茉的心中已經完全被漆黑的絕望所佔據了。
「……這裡,不是我應該待的地方」
帕茉依偎著希爾夫後,開始靜靜的哭。就算在心裡已經決定,眼眶泛淚也絕對不能哭,不過已經到了極限。
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不顧在一旁感到恐懼的帕茉,戰爭開始了。開始聽到成千的刀劍與槍炮的聲音作響,再加上那像地震般地聲響,讓帕茉感覺自己就好像在地獄。
「求求你,希爾夫……」
希爾夫就像是要保護拼死抓著牠的帕茉般,將自己的身體拉長。儘管離前線還有一段很遠的距離,希爾夫也可以嗅到從那飄過來的血腥味。
在本營的側面,有被稱之為裝甲獵兵的恐怖鐵塊,拖著巨大的砲台走過。
那些運送著死亡的無機質鐵塊,帕茉沒辦法直視。
砲台就位之後,就伴隨著爆炸聲跟衝擊開始對著敵方發動炮擊。
爆炸聲之中,帕茉不斷的哭著。
在一旁的希爾夫動也不動的,只是緊盯著前方並且支撐著帕茉般佇立著。
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「為什麼像妳這樣的人會在這裡?」
大約是在開戰後過了兩個小時左右,有人向帕茉問道。帕茉臉上的淚水混著塵埃滿臉泥濘,希爾夫身上也滿是戰爭的塵埃。
突然被問話,帕茉連聲音都發不出來。抬起頭後,看到一位年老的戰士騎在馬上。
「……唔」
乾渴的喉嚨發不出聲音,只能讓嘴巴張張合合。希爾夫就像是要保護帕茉般擋在她的身前。
「……拿去喝吧,妳的喉嚨很乾的樣子」
老戰士取下繫在腰間的水壺遞向帕茉。帕茉嚇了一跳退後了一步。
「不用擔心,老朽不是敵人」
「………………」
帕茉戰戰兢兢地將手伸向水壺。然後一邊看著老戰士的臉,一邊將水筒中的水倒入自己的口中。
「好好喝……」
水壺裡裝的只是普通的水,不過卻讓帕茉的身體感到全身舒暢。可能連她自己都沒注意到,因為緊張跟流淚的關係,喉嚨才變得這麼乾渴。就那樣一口氣把水咕嚕咕嚕地喝下去,當水壺空了之後,帕茉才終於回過神。
「啊,對不起……」
老戰士將變輕的水壺收下,再次掛回腰間。
「沒關係。比起這個,我想問的是妳為什麼會在這裡?難不成,妳就是那位能操控聖獸的……」
「我,我是……」
在這地獄般的戰場中突然被溫柔對待,帕茉有點混亂。想說的話非常多,但是卻無法順利發出聲音。
「別害怕,敵人還沒到達這一帶。慢慢說,首先告訴我妳的名字。我叫魯卡」
「我,我叫做……帕茉」
「這樣啊。帕茉,能告訴我發生什麼事了嗎?」
老戰士那溫和地氣氛,讓帕茉終於比較正常地發出聲音。
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之後帕茉就吞吞吐吐地,訴說自己從森林被帶到這裡,雖然討厭戰爭,卻因為村子像是被當做人質般威脅,才不得已不參戰的來龍去脈。
「這樣啊……如果這是事實的話,我對妳感到抱歉。阿修羅是我的部下」
「咦,是這樣啊……」
「就算有再強大的力量,我也沒有打算把像妳這樣幼小的女孩送上戰場。我會跟阿修羅說清楚的」
「那我可以回家了嗎!?」
「嗯,當然。妳,還有妳的那位夥伴也一起」
魯卡溫柔地摸了摸帕茉的頭。這一次帕茉的眼眶中,溢出的是開心的眼淚。打從離開森林以來,帕茉終於回想起人性的溫柔。
「……非常感謝您,魯卡大人」
「哈哈哈,大人就不必了。那麼,跟著我來這裡」
魯卡溫柔地扶著帕茉站起來,摸摸她的頭。那股溫暖及大大的手,讓帕茉感到安心。希爾夫也覺得魯卡是可信之人的樣子,對魯卡碰觸帕茉的行為沒有任何抵抗。
「阿修羅是個冷血的男人。雖然他都願意接下誰都不願意做的,一些骯髒的工作」
魯卡的喃喃自語,並沒有流入正歡欣鼓舞的帕茉耳中。但是,只有希爾夫一直注視著魯卡的臉。
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「─完─」
3397年 「鉄」
パルモは王都へ到着した。三日ほど詰め込まれた窮屈な列車から出られた開放感はあったが、それも一時的なもので、すぐに知らない場所に来たのだという不安の方が勝っていった。
王都には、決戦に備えて周辺国からの軍勢が集結していた。混乱の中、パルモ達も集まった連合軍の閲兵に並ぶことになった。
パルモは辺境の戦闘集団として後方にいた。バルコニーに立つ女王の姿など、殆ど見ることができない。
そもそも、強引に集められたであろう辺境民族の集団は、ここにいる意味も価値もわかっていない様子だった。
パルモもその中で不安げな表情を浮かべていた。ただ、傍らにいるシルフはずっと彼女に寄り添い、佇んでいた。
前方で大きな鬨の声が上がった。背の低いパルモでは、前で起きていることなどわかりはしない。
ただ、その地鳴りのような声が不気味に聞こえ、強くシルフを抱きしめた。
閲兵式が終わると、王都の外郭に作られた野営地に留められた。ここから戦地へ向かうことになると、アスラから告げられた。
「私たち、戦いに行くのですか? 人を殺めなければならないのですか?」
パルモはアスラを呼び止めるように聞いた。
「お前はそのために来た。その獣を使えば、簡単なことだ」
アスラは無表情に答えた。
「……無理です」
パルモは正直に言った。シルフとは確かに頭の中で意志を通じ合える。それに、獲物を捕る時や、怖い動物に襲われた時も助けてくれた。だが、武器を持った兵士との戦いなどしたことがない。
「戦わなければ、お前らの村も帝國に襲われるのだ。村のためだと思え」
「でも……、私もシルフも……」
「戦地には向かってもらう。力が必要だからな」
パルモは唇を噛んだ。敵の兵士といってもそれは人間だ。シルフを使って人殺しをするなんて、できるわけがない。パルモの目に涙が滲み、ぽつりと落ちた。シルフが慰めるようにその涙を舐める。暖かい感触と一緒に、シルフの慰めが頭の中に流れ込んできた。パルモはシルフの顔を見て頷く。
「逃げることはできない。やって来る脅威は紛れもない現実だ」
アスラの言葉に、パルモは何も言い返さなかった。
割り当てられたテントに入り、すぐにシルフと共に横になった。目を閉じると、慣れない長旅の疲労をずっしりと体に感じた。森を駆け回って培った体力も、ここでは発揮できない様だ。
——はやく、帰りたい。
頭の中で呟くと、すぐに眠りについた。
初めて見る戦場は異様だった。周囲には常に金属と金属が触れ合う音が響き、埃と汗の臭いが熱気と混ざって渦巻いている。戦端はまだ開いていない、緊張が全軍を包んでいた。
「ここで防御にあたれ」
パルモとシルフは本陣に近い後方に配置された。
「ここなら、戦いは起きないの?」
「いきなり敵兵と接触することは無いだろう。だが、逃げる場所は無い」
アスラの眼に感情や憂いは無く、ただ冷たく光っていた。
「逃げるだなんて……」
アスラは本陣に戻っていった。
すると、大音量でラッパの音が響き渡った。同時に、銃や剣を構えて鎧に身を包んだ屈強な男達が、一斉に雄叫びを上げる。
「な、なに!?」
銃を突き上げながら宙に向かって吠える男達の姿に、パルモは恐怖を感じた。ここにいる全ての人間が、ただ人を殺すためだけに存在する。そして、それと同数の人間が、こちらを殺そうと同じように存在しているのだ。パルモの胸を恐怖と絶望が黒く塗り潰した。
「……ここは、私がいるべきところじゃない」
パルモはシルフに縋りつくと、静かに泣き始めた。涙が滲むことはあっても、決して泣かないよう心に決めていたが、限界だった。
怯えるパルモを余所に、戦闘は始まった。すぐに幾千もの剣戟の音と銃声が聞こえ始めた。そこに地震かと間違える様な地響きが加わり、パルモは地獄にいる心地だった。
「お願い、シルフ……」
必死にしがみつくパルモを護るように、シルフは体を伸ばした。前線から遠く離れているにも関わらず血の臭いが漂い、シルフは鼻をひくつかせる。
本陣の脇から装甲猟兵と呼ばれる禍々しい鉄の塊が、巨大な砲台を引きながら通り過ぎていった。
死を運ぶ無機質な鉄の塊を、パルモはそれ以上見ることができなかった。
砲台は位置に着くと、衝撃と爆音を轟かせて敵を砲撃し始めた。
爆音の中、パルモは泣き続けていた。
その傍でシルフは微動だにせず、ただ正面を見据えて彼女を支えるように立っていた。
「なぜお前のような者がここにいる?」
そう声を掛けられたのは、戦闘開始から二時間ほどが経ってからだろうか。パルモの顔は涙と埃でドロドロになり、シルフもまた戦塵に塗れていた。
急に話し掛けられて、パルモは声を出すことができなかった。顔を上げると、老齢の戦士が馬上にいた。
「……っ」
ひゅうっと喉が鳴り、口をぱくぱくさせる。すっとシルフがパルモを護るように立ちはだかった。
「……これを飲むといい。喉が枯れているのだろう」
老戦士は腰に付けていた水筒をパルモに差し出した。びっくりして一歩下がる。
「大丈夫、儂は敵ではない」
「………………」
恐る恐る手を伸ばして水筒を掴む。そして、老戦士の顔を見ながら水筒の中身を喉に流し込んだ。
「おいしい……」
水筒の中身は只の水だったが、それはパルモの体に甘く染み渡っていった。自分でも気が付かなかったが、緊張と涙のせいで喉が渇ききっていたのだ。そのままごくごくと飲んでしまい、水筒が空になってようやく我に返った。
「あ、ごめんなさい……」
老戦士は軽くなった水筒を受け取り、再び腰に付ける。
「構わぬ。それより、どうしてこんな所にいる? まさか、聖獣を操るというのは……」
「わ、わたしは……」
地獄の様な戦場で急に優しくされて、パルモは戸惑った。言いたいことが溢れて、上手く声に出せない。
「怯えるな、ここまで敵は来ておらん。ゆっくりと話せ。まずは名を聞こう。 私はリュカ」
「わ、わたしはパルモ……です」
「そうか。パルモ、話してくれるか?」
老戦士の穏やかな雰囲気に、パルモはようやくまともに声を出すことができるようになった。
それから、パルモはつっかえつっかえながらも、自分が森から連れてこられたこと、戦争はイヤだが、村を人質に取られたことを話した。
「そうか……それが事実なら、すまないことをした。アスラは私の部下だ」
「えっ、そうなんですか……」
「いくら強い力があるといっても、君のような幼い女の子を戦場に出すつもりはない。私からアスラに言って聞かせよう」
「帰れるんですか!?」
「ああ、もちろんだ。君も、その相棒も一緒にね」
リュカは優しくパルモの頭を撫でた。パルモの目に、今度は嬉し涙が溢れた。森を出てから初めて、パルモは人の優しさを思い出すことができた。
「……ありがとうございます、リュカ様」
「ははは、様はいらん。それじゃあ、こっちへおいで」
リュカはパルモを優しく立たせると、頭を撫でた。その暖かさと手の大きさに、パルモはホッとした。シルフもリュカのことを信用した様子で、パルモが触られても抵抗しなかった。
「アスラは冷徹な男でな。 誰かがやらなければならない汚い仕事を引き受けてくれているのだが」
その呟きは、嬉しさで舞い上がっているパルモの耳には入らなかった。ただ、シルフだけがじっとリュカの顔を見つめていた。
「—了—」
パルモは王都へ到着した。三日ほど詰め込まれた窮屈な列車から出られた開放感はあったが、それも一時的なもので、すぐに知らない場所に来たのだという不安の方が勝っていった。
王都には、決戦に備えて周辺国からの軍勢が集結していた。混乱の中、パルモ達も集まった連合軍の閲兵に並ぶことになった。
パルモは辺境の戦闘集団として後方にいた。バルコニーに立つ女王の姿など、殆ど見ることができない。
そもそも、強引に集められたであろう辺境民族の集団は、ここにいる意味も価値もわかっていない様子だった。
パルモもその中で不安げな表情を浮かべていた。ただ、傍らにいるシルフはずっと彼女に寄り添い、佇んでいた。
前方で大きな鬨の声が上がった。背の低いパルモでは、前で起きていることなどわかりはしない。
ただ、その地鳴りのような声が不気味に聞こえ、強くシルフを抱きしめた。
閲兵式が終わると、王都の外郭に作られた野営地に留められた。ここから戦地へ向かうことになると、アスラから告げられた。
「私たち、戦いに行くのですか? 人を殺めなければならないのですか?」
パルモはアスラを呼び止めるように聞いた。
「お前はそのために来た。その獣を使えば、簡単なことだ」
アスラは無表情に答えた。
「……無理です」
パルモは正直に言った。シルフとは確かに頭の中で意志を通じ合える。それに、獲物を捕る時や、怖い動物に襲われた時も助けてくれた。だが、武器を持った兵士との戦いなどしたことがない。
「戦わなければ、お前らの村も帝國に襲われるのだ。村のためだと思え」
「でも……、私もシルフも……」
「戦地には向かってもらう。力が必要だからな」
パルモは唇を噛んだ。敵の兵士といってもそれは人間だ。シルフを使って人殺しをするなんて、できるわけがない。パルモの目に涙が滲み、ぽつりと落ちた。シルフが慰めるようにその涙を舐める。暖かい感触と一緒に、シルフの慰めが頭の中に流れ込んできた。パルモはシルフの顔を見て頷く。
「逃げることはできない。やって来る脅威は紛れもない現実だ」
アスラの言葉に、パルモは何も言い返さなかった。
割り当てられたテントに入り、すぐにシルフと共に横になった。目を閉じると、慣れない長旅の疲労をずっしりと体に感じた。森を駆け回って培った体力も、ここでは発揮できない様だ。
——はやく、帰りたい。
頭の中で呟くと、すぐに眠りについた。
初めて見る戦場は異様だった。周囲には常に金属と金属が触れ合う音が響き、埃と汗の臭いが熱気と混ざって渦巻いている。戦端はまだ開いていない、緊張が全軍を包んでいた。
「ここで防御にあたれ」
パルモとシルフは本陣に近い後方に配置された。
「ここなら、戦いは起きないの?」
「いきなり敵兵と接触することは無いだろう。だが、逃げる場所は無い」
アスラの眼に感情や憂いは無く、ただ冷たく光っていた。
「逃げるだなんて……」
アスラは本陣に戻っていった。
すると、大音量でラッパの音が響き渡った。同時に、銃や剣を構えて鎧に身を包んだ屈強な男達が、一斉に雄叫びを上げる。
「な、なに!?」
銃を突き上げながら宙に向かって吠える男達の姿に、パルモは恐怖を感じた。ここにいる全ての人間が、ただ人を殺すためだけに存在する。そして、それと同数の人間が、こちらを殺そうと同じように存在しているのだ。パルモの胸を恐怖と絶望が黒く塗り潰した。
「……ここは、私がいるべきところじゃない」
パルモはシルフに縋りつくと、静かに泣き始めた。涙が滲むことはあっても、決して泣かないよう心に決めていたが、限界だった。
怯えるパルモを余所に、戦闘は始まった。すぐに幾千もの剣戟の音と銃声が聞こえ始めた。そこに地震かと間違える様な地響きが加わり、パルモは地獄にいる心地だった。
「お願い、シルフ……」
必死にしがみつくパルモを護るように、シルフは体を伸ばした。前線から遠く離れているにも関わらず血の臭いが漂い、シルフは鼻をひくつかせる。
本陣の脇から装甲猟兵と呼ばれる禍々しい鉄の塊が、巨大な砲台を引きながら通り過ぎていった。
死を運ぶ無機質な鉄の塊を、パルモはそれ以上見ることができなかった。
砲台は位置に着くと、衝撃と爆音を轟かせて敵を砲撃し始めた。
爆音の中、パルモは泣き続けていた。
その傍でシルフは微動だにせず、ただ正面を見据えて彼女を支えるように立っていた。
「なぜお前のような者がここにいる?」
そう声を掛けられたのは、戦闘開始から二時間ほどが経ってからだろうか。パルモの顔は涙と埃でドロドロになり、シルフもまた戦塵に塗れていた。
急に話し掛けられて、パルモは声を出すことができなかった。顔を上げると、老齢の戦士が馬上にいた。
「……っ」
ひゅうっと喉が鳴り、口をぱくぱくさせる。すっとシルフがパルモを護るように立ちはだかった。
「……これを飲むといい。喉が枯れているのだろう」
老戦士は腰に付けていた水筒をパルモに差し出した。びっくりして一歩下がる。
「大丈夫、儂は敵ではない」
「………………」
恐る恐る手を伸ばして水筒を掴む。そして、老戦士の顔を見ながら水筒の中身を喉に流し込んだ。
「おいしい……」
水筒の中身は只の水だったが、それはパルモの体に甘く染み渡っていった。自分でも気が付かなかったが、緊張と涙のせいで喉が渇ききっていたのだ。そのままごくごくと飲んでしまい、水筒が空になってようやく我に返った。
「あ、ごめんなさい……」
老戦士は軽くなった水筒を受け取り、再び腰に付ける。
「構わぬ。それより、どうしてこんな所にいる? まさか、聖獣を操るというのは……」
「わ、わたしは……」
地獄の様な戦場で急に優しくされて、パルモは戸惑った。言いたいことが溢れて、上手く声に出せない。
「怯えるな、ここまで敵は来ておらん。ゆっくりと話せ。まずは名を聞こう。 私はリュカ」
「わ、わたしはパルモ……です」
「そうか。パルモ、話してくれるか?」
老戦士の穏やかな雰囲気に、パルモはようやくまともに声を出すことができるようになった。
それから、パルモはつっかえつっかえながらも、自分が森から連れてこられたこと、戦争はイヤだが、村を人質に取られたことを話した。
「そうか……それが事実なら、すまないことをした。アスラは私の部下だ」
「えっ、そうなんですか……」
「いくら強い力があるといっても、君のような幼い女の子を戦場に出すつもりはない。私からアスラに言って聞かせよう」
「帰れるんですか!?」
「ああ、もちろんだ。君も、その相棒も一緒にね」
リュカは優しくパルモの頭を撫でた。パルモの目に、今度は嬉し涙が溢れた。森を出てから初めて、パルモは人の優しさを思い出すことができた。
「……ありがとうございます、リュカ様」
「ははは、様はいらん。それじゃあ、こっちへおいで」
リュカはパルモを優しく立たせると、頭を撫でた。その暖かさと手の大きさに、パルモはホッとした。シルフもリュカのことを信用した様子で、パルモが触られても抵抗しなかった。
「アスラは冷徹な男でな。 誰かがやらなければならない汚い仕事を引き受けてくれているのだが」
その呟きは、嬉しさで舞い上がっているパルモの耳には入らなかった。ただ、シルフだけがじっとリュカの顔を見つめていた。
「—了—」