加入史達林與「渦」正面對抗的組織之後,米利安就開始過著忙碌的日子。
米利安決定與數名同伴一起參加這個組織。來到的地方是距離遠在故鄉敦刻爾克600里格外的荒野。「渦」蔓延四周,附近只有荒廢的土地。但是,後方有山,四面還聳立著工程師所建造的巨大結界。防禦看來是完備的。
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「這裡還真是驚人啊」
史達林來迎接長途跋涉旅程前來的米利安。
「決定在這個地點可是花了好一段時間。畢竟要是離「渦」太遠,無法維持崗哨的話也很麻煩啊」
「工程師們不是都會有些什麼好方法嗎?」
「那些傢伙不是戰略家,更不是戰術家。而且工程師裡有些人並不把這個連隊當做是地上的解放軍,而是當作科學角度來調查渦的調查隊,才會造成這樣的局面」
史達林將這個組織當做是一個軍隊的基本單位『連隊』在稱呼。後來才知道,周圍的人似乎也都只將這個組織稱為連隊──Regiment──。而且現在向渦挑起戰爭的也只有連隊而已,所以也就不需要什麼編號或是名稱了的樣子。
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在剛建成的大廳裡,史達林將男人們聚集於此。人數不到百人,看起來都是經驗豐富的軍人。別說是女性,連個年輕的男人也幾乎都沒有。史達林站上了設好的平台上,開始致詞。
「謝謝各位的加入。今日就是我們連隊結成的日子。在各位當中的有前軍人和前傭兵,熟知荒野的交易商,以及其他各種出身的人。但是現在大家都有相同的目標才會在這裡。那就是地上世界的解放。各位是為了要取回我們的世界這個大義,而聚集至此的男子漢!」
只是稍微看了下四周,就大概可以看的出男人們的出身。第一個團體很容易看的出來,就是史達林帶來的帝國士兵。雖然都沒有將階級及所屬單位章之類能識別的東西配戴在身上,但是一眼就看的出來穿的是軍服,全身散發著正規軍人的紀律。第二個就是就是傭兵跟私兵出身──自己應該也算在內──,他們的裝備跟服裝雖然參差不齊,但是身材體格看得出都是可靠的戰士。然後第三個,特別突兀的團體約有二十人左右。多彩的圍巾披掛垂下,穿著有點像是小丑或者說是古代故事中海盜的男人們。他們是遊走在危險的荒野負責貿易,人稱「暴風駕馭者<Storm Rider>」的集團。
「酒還沒好嗎!」
史達林的話都還沒說完,就有人叫囂著。主要是來自傭兵團的男子們。
「講的話太長啦」
跟著那聲音的同時玻璃杯被往台上扔了過去,看似帝國的軍人轉過頭激動的大聲喊道。
「適可而止!上校的訓詞還沒結束!」
「囉嗦,趕快上酒!要說你們自己去高興的說個夠,你們這些膽小的帝國兵!」
「你說什麼!」
突然發火的帝國兵跟雜亂的傭兵們還有荒野的走私客們,也就是說房子裡的所有人幾乎都打了起來,演變成為一場大亂鬥。
「好,很好!你們就打個高興吧!」
史達林看著房子裡的大亂鬥邊笑邊大聲的喊著,從台上走了下來。
從台上下來的史達林也直接從酒桶裡杓酒來喝。
「還真是聚集了一群吵鬧的人啊」
酒宴跟亂鬥持續著。酒保商人所帶來的酒桶已經都被推的東倒西歪,各式各樣的東西在頭上飛來飛去。
「沒關係,俗話說有膽識的男人就是喜歡這種傻傻的吵鬧」
米利安開始有點了解史達林這個人了,雖然身處帝國首都斐度的廢兵院院長這個閒職,但是是個深受士兵們的信用並且有人望的男人。他帶來的帝國軍人們都稱他為大佐。
「接下來我們要怎麼做?」
「首先是訓練,然後是渦的調查。到這邊為止都是照著工程師們的計劃來走。畢竟他們是贊助者。但是實際的戰鬥要由我們自己來掌握」
「這樣啊,看來要開始忙了」
他們在這樣對話的時候,腳邊還有玻璃的碎片飛過來。
「總之裝備跟設施,還有人都齊了。終於可以開始了」
史達林一臉高興的樣子喝著酒。雖然是已過六十的老兵,但在他說那些話的時候,總覺得看起來似乎變得年輕許多。
米利安也同樣喝起酒來,喝完的同時,有個男人誇張的滾倒在兩人之間。
「你這混蛋,竟然敢這樣對我!」
這個有著圓滾肚子,滿臉鬍子的傭兵男子,似乎是被一位體格很好的帝國兵給打飛了。米利安扶起倒下的男子。
「你腳受傷了,差不多該安份一點了吧」
「放開我,想對我提忠告,你還早一百年勒」
肥胖的男子正面,有著正舉著拳,保持戰鬥姿態的帝國兵。
「赫姆霍茲,我跟你介紹一下。這是米利安。就像你所看到的,很強壯。好好相處吧。然後正在當你的對手的是維多。他是在軍中擔任格鬥術教官的男人」
有點醉了的史達林,將周圍的男人介紹給那個名為赫姆霍茲的胖男人。
「喔。米利安,等等我再當你的對手」
赫姆霍茲說完後,就把米利安的酒杯搶走含了幾口酒,然後將酒連同嘴裡的血一起吐到地上去。之後就保持低低的姿勢向維多撞過去。那速度相當的快,簡直就像是一顆球滾過去似的。維多與赫姆霍茲就那樣滾到大廳正中間,然後在那邊繼續對打。
「很好,你們兩個人都加油!」
史達林單手拿著酒杯,邊看著他們邊笑著。
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結團典禮的隔天,男人們好像什麼事都沒有發生似的開始工作。首先每三十人分成一個組,分成了A·B·C三個中隊,然後開始發放調查渦的裝備並且開始訓練。
預定上各中隊將與約六名的工程師會合,然後組成一個調查小隊。米利安所屬的是A中隊。每個中隊都分別接受過與渦相關的說明之後,就開始在機庫跟射擊場進行訓練。
「喲,米利安。狀況如何?」
在射擊訓練的途中,同一中隊的赫姆霍茲向米利安搭話。剛配給的連隊制服完全不適合他,因為他本來就是球狀體型。看起來是將最大尺寸的制服袖子捲起來,當外套穿才好不容易穿上的感覺。
「你穿的還真難看」
「囉嗦。打從娘胎出來,就從來沒穿過什麼制服,我也很無奈啊。而且這裡也沒別的東西可以穿了」
「至少把鬍子剃掉如何」
頭髮跟鬍子都放任它亂長,所以外觀才更是好不起來。
「那種事太麻煩了啦」
就在哈拉這些不重要的事時,告知射擊訓練的聲音響起。
「根本就不需要什麼射擊訓練,那不是這裡應該要教的事吧?」
A中隊隊長的米爾格倫大聲的說,之後要在機庫進行操作訓練。
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機庫有很多還沒有組合好的機械散在地上。機體除了被拆開的本體裝有推進裝置之外,乍看之下有著像船一樣的外觀。旁邊的中年工程師站起身開始說明。
「我是兵裝工程師達威爾,是這個調查專用機『嘉達』的開發負責人」
「雖然外表看起來還不怎麼樣,不過之後要請你們使用這個到荒野的渦去調查」
「至於操作的部分就交給你們任務組的隊員」
在旁邊聽到此話的赫姆霍茲,邊用手指發出聲響邊說道。
「對嘛對嘛,就是在等這個啦」
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花了三個月左右,大致上訓練過一輪之後。最初的調查隊成員決定了。
米利安所在的第四調查小隊,是由帝國出身的豪斯哈特,前暴風駕馭者的布魯貝克,面熟的前傭兵赫姆霍茲,以及調查工程師的梅魯魯等人組成。看來是將不同出身的人組合在一起的樣子。
米爾格倫站在,被聚集在一起的第四調查小隊面前。
「雖然你們隊伍比其他隊少一個人,不過就忍耐一下吧。反正有兩個大個子就沒問題了吧」
米爾格倫看著米利安及赫姆霍茲說道。
然後小隊長是豪斯哈特,但是赫姆霍茲卻對這個發表不屑的說。
「結果帝國兵最偉大啊。真無法接受」
「一開始先這樣吧。之後小隊的組合還會變更,掌握你們適合的領域後也會更動職位」
米爾格倫看著大家說道。
「赫姆霍茲,你操縱嘉達技術聽說還蠻不錯的,就靠你的實力幫助大家了」
「喔,喔哦」
米爾格倫是史達林所信賴的,像是副官般的人物,對整合隊員這件事是相當的熟練。
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調查隊一隊一隊的向目的地出發了,米利安他們A中隊的第四小隊是在第三天出發的。
「終於輪到我們了」
赫姆霍茲在操縱席小聲說著。
「嗯,可別失手哦」
坐在操縱席後方的米利安回應著。
「囉嗦,你這傢伙才最好不要讓你那個大頭去撞到,好好抓緊啦」
米利安與赫姆霍茲的對話旁,布魯貝克跟梅魯魯在交換對這次調查地區的意見。
「這附近的渦隨著季節會改變它的侵襲方式,先從西邊這裡的路線看看狀況比較好」
調查地區是在麥因斯塔特山脈的南邊,舊桑德蘭平原上的古渦。
「你去過很多次了嗎?」
米利安向布魯貝克問道。布魯貝克是一個瘦瘦,又有黑眼圈的男人。他的外觀跟赫姆霍茲剛好相反。
「嗯,但是只從旁邊經過而已。渦的活動頻繁時並不會特地去接近的」
布魯貝克回答了米利安的問題。
「要出發了,抓好囉」
赫姆霍茲的聲音蓋過了布魯貝克的回答,嘉達就浮了起來。然後那個加速的力道讓後座的隊員們深深坐進了座椅中。
保持巡航速度及高度之後,就以梅魯魯為中心開始確認作戰了。不管是誰都是第一次的作戰,大家都一樣的緊張。
大致確認完作戰之後,機艙內一片沉默。
嘉達的機艙並不大,到渦為止需要十八個小時,調查要花四十八到七十二個小時,回程又需要十八個小時。最少需要花四到五天的調查,其中所必要的武器,食糧,水都裝載在機艙內了。而且嘉德的機艙大小被設計成是所需要的最低限度。
「喂,布魯貝克。你們暴風駕馭者為什麼會加入連隊啊?聽說你們不太會跟外人接觸的啊」
在荒野生活的他們,原本也是有故鄉的普通人。但是在數百年的渦混亂中,為了生存,他們開始擔負起城塞都市間的交易了。
「那個你去問史達林吧,那個不是我們能說的」
「這樣啊」
「是錢吧?我有聽說了哦。聽說你們暴風駕馭者拿比我們多三倍的契約金不是嗎」
赫姆霍茲從操縱席那邊加入了話題。
「只靠錢是無法讓身為自由人的我們『駕馭者』,跟你們這些『被囚禁者』接觸的」
他們稱自己為自由人,而窩在都市裡的人稱為『被囚禁者』。
「呸,什麼被囚禁者!你們不是一直錢,錢,錢的嗎」
赫姆霍茲豪不打算隱藏他對暴風駕馭者的歧視。對小的都市國家來說,擔任交易的暴風駕馭者們,都被當做是賺取暴利的貪商,因此很多人討厭他們。
「赫姆霍茲,別說了」
豪斯哈特警告赫姆霍茲的無禮。
「哼,裝好人」
機艙裡再度沉默,米利安在那擁擠的位置中閉上眼,決定睡上一覺。
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「─完─」
3373年 「調査」
スターリングと共に『渦』へ立ち向かう組織に所属したミリアンに、忙しい日々が訪れた。
ミリアンは数人の仲間と共にこの組織に参加することにした。やって来たのは、故郷ダンカルクから600リーグ程離れた荒野だった。周りには渦がはびこり、荒れ果てた土地しかない。ただ、背後に山があり、エンジニアの作った巨大なウォードが四方に立てられていた。防御は完全に思えた。
「随分な場所にあるんだな」
スターリングが長い旅路を経てやって来たミリアンを迎えた。
「この場所を決めるのに相当な時間が掛かった。渦から離れても、兵站の維持ができなくても面倒だからな」
「エンジニアがうまくやってくれるんじゃないのか?」
「奴らは戦略家じゃない。ましてや戦術家でもない。この連隊のことを地上の解放のための軍ではなく、渦の科学的な調査隊だと考えている連中もいる始末だ」
スターリングはこの組織を単なる軍の基本単位として『連隊』と呼んでいた。後でわかったことだが、周りの皆も連隊——レジメント——としか呼ばないようだった。今、渦との戦争に挑んでいるのはこの連隊しか存在しないのだから、番号も名前も必要無いということらしい。
出来たてのホールにスターリングの男達が集められた。数は百人もいない、皆経験豊富な兵に見えた。女はもちろん、若い男すら殆どいなかった。スターリングが設えられた壇上に上がり、声を発した。
「よく集まってくれた。 今日が我が連隊の結成の日だ。 諸君らの中には元軍人や傭兵、荒野を熟知した交易商、色々な出自の者がいる。しかし、皆が同じ目的を持って今ここにいる。 それは地上の解放だ。 諸君らは失われた我々の世界を取り戻すという大義のために集ってくれた男達だ」
さっと周りを見渡すだけで、何となく男達の出自がわかった。一つ目のグループはわかりやすい。スターリングが連れてきた帝國の兵士だ。階級章や所属がわかるようなものは着けていないが、一見して帝國のものとわかる軍服を着ており、規律正しい軍人らしさを全身から醸し出している。二つ目は傭兵や私兵上がり——これに自分も含まれるのだろうが——、彼らは装備も服装もばらばらだが、体格や身なりは戦士として頼りになりそうな者達だ。そして三つ目、異質なグループが二十人程いる。色取り取りのスカーフをぶら下げ、ちょっとした道化か太古の物語の海賊の様な格好をした男達だ。彼らは危険な荒野を旅して交易を担う『嵐の乗り手<ストームライダー>』と呼ばれる男達の集団だった。
「酒はまだか!」
スターリングの話は終わっていなかったが、男達から声が上がった。主に傭兵上がりらしい男達からだ。
「話が長いぜ」
その声と共にグラスが壇上の袖に投げ込まれた。激高した帝國の軍人らしい男が大声を上げて振り返る。
「いい加減にせんか! 大佐の訓辞はまだ途中だぞ!」
「うるせえ、とっとと酒にしろ! 楽しいお話し合いはてめえらだけでやりやがれ、この腰抜けの帝國兵が!」
「何だと!」
いきり立った帝國兵達と風体のだらしない傭兵上がりの男達や荒野の密輸人達、つまり、ホールにいたほぼ全員による大乱闘に発展した。
「よし、いいぞ! せいぜい楽しめ!」
スターリングは大乱闘のホールに向かって笑いながらそう大声で叫び、壇から降りた。
壇から降りたスターリングも酒樽から直接酒を汲み、飲んでいる。
「騒がしい連中を集めたな」
酒盛りと乱闘が続く。酒保商が集めた酒樽は逆さにされ、ありとあらゆるものが頭上を飛び交っている。
「なに、昔から胆力がある男というのは、馬鹿な騒ぎが好きなものよ」
ミリアンはスターリングの人となりが少しずつわかってきた。帝國の首都ファイドゥで廃兵院の長という閑職にいたが、兵士からの信望の厚さは折り紙つきの男だった。彼の連れてきた帝國の軍人達は、彼を大佐と呼んでいる。
「これから何をするんだ?」
「まずは訓練、そして渦の調査だ。 とりあえずそこまではエンジニア達の計画に沿ってやる。 奴らがスポンサーだからな。 だが、実際の戦いではしっかりとこちらが手綱を握る」
「そうか、忙しくなるな」
そう語り合っている間も、足下に砕けたグラスの破片が飛んでくる。
「とりあえずの装備と施設、人は揃った。 いよいよだよ」
スターリングは嬉しそうな顔をして酒を呷った。齢六十をとうに過ぎた老兵だが、その言葉と顔には若々しさがある。
ミリアンも同じ酒を呷った。呷り終えると同時に、一人の男が派手に転がりながら二人の間に突っ込んできた。
「て、てっめえ、やりやがったな!」
まるまると太った腹と髭面から傭兵と思われるその男は、体格のいい帝國兵に殴られて飛んできたのであろう。ミリアンは倒れた男を引き上げてやった。
「足にきてるな、そろそろやめておけ」
「放せ。俺に忠告なんぞ、百年早え」
太った男の正面には、拳を構えたままの帝國兵がステップを踏んでいる。
「ヘルムホルツ、紹介しておく。 ミリアンだ。 見ての通りの大丈夫だ。 仲良くやってくれ。 それとお前の相手になっている奴はヴィット。 軍じゃ格闘術教官だった男だ」
少し酔った調子のスターリングが、ヘルムホルツと呼んだ太った男に周りの男達を紹介した。
「おうよ。 ミリアン、てめえの相手はまた後でやってやる」
ヘルムホルツはそう言うと、ミリアンから酒杯を奪って口に含み、口中の血を濯ぐと床に吐き出した。そして低い姿勢のままヴィットに向かってタックルを仕掛けた。そのスピードは中々のもので、まるで跳ね回るボールの様だった。ヴィットとヘルムホルツは転がりながらホールの真ん中で組み合った。
「いいぞ、二人とも!」
スターリングは酒を片手に、その様子を見ながら笑っていた。
結団式の次の日から、男達は何事も無かった様に仕事を始めた。まず三〇人ずつのグループに再編して、A・B・Cの三つの中隊が作られた。そして渦の調査に向かうための装備の支給と、訓練が開始された。
各中隊に六名程のエンジニアが合流して、調査小隊が組織される予定らしい。ミリアンはA中隊所属となった。それぞれの中隊毎に渦に関するブリーフィングが行われ、その後、ハンガーとグラウンド射撃場で訓練が開始された。
「おう、ミリアン。 調子はどうだ?」
射撃訓練の途中、同じ中隊のヘルムホルツが声を掛けてきた。支給されたばかりの連隊の制服が全く似合っていない。そもそも鞠のような体型の男だ。一番大きいサイズの制服の袖を捲り、羽織るようにしてどうにか着ているといった感じだった。
「ひどい格好だな」
「うるせえ。 産まれてこの方、制服なんぞ着た事ねえんだから、仕方ねえだろ。 それに、他に着るものもねえしな」
「ヒゲぐらい剃ったらどうだ」
髪も髭も伸び放題であることが、さらに風采を上がらなくしていた。
「んなもん、めんどくせえだろうが」
馬鹿な話をしていると、射撃訓練の終わりを告げる声がした。
「射撃訓練なんか必要なものか。 ここで教わるようなことじゃねえだろ」
次はハンガーでの操縦訓練だと、A中隊長のミルグラムが大声でそう告げた。
ハンガーには未だ組み立て途中らしき奇妙な機械が転がっていた。剥き出しのフレームに推進装置が取り付けられている以外は、一見、船のような姿形をしている。傍らに中年のエンジニアが立って説明を始めた。
「私は兵装エンジニアのダヴィル、この調査専用機『カッター』の開発責任者だ」
「まだ不格好だが、これを使って荒野の渦へ調査に行ってもらう」
「そして、操縦は君達タスクフォースの隊員にやってもらうことになる」
隣でその言葉を聞いたヘルムホルツが、指を鳴らしながら呟いた。
「そうそう、こーゆーのを待ってたぜ」
三ヶ月ほど掛けて一通りの訓練が終わった後、最初の調査小隊の組み合わせが発表された。
ミリアンは第四調査小隊で、帝國出身のハウスホッター、元ストームライダーのブルベイカー、顔見知りの元傭兵ヘルムホルツ、そして調査エンジニアのメルルが他のメンバーとなった。どうやら違うグループ出身者で小隊を組ませたようだ。
集まった第四調査小隊の前に、ミルグラムが立った。
「お前らのところは一人少ないが我慢してくれ。でかいのが二人いれば問題なかろう」
ミルグラムはミリアンとヘルムホルツを見て言った。
そして小隊長はハウスホッターだと告げられたが、その発表にヘルムホルツが噛み付いた。
「ふん、結局帝國兵がお偉いさんか。 気に食わねえな」
「最初はこれでやらせてもらう。 いずれ小隊の組み合わせは変わるし、適性を把握すれば役職も変わる」
ミルグラムは皆を見つめて言った。
「ヘルムホルツ、お前のカッターの操縦技術は中々らしいじゃないか。まずは腕で皆を助けてやってくれ」
「お、おう」
ミルグラムはスターリングが信頼している副官とも呼べる人物だった。隊員を纏める事には慣れている風だった。
調査隊は次々と目的地に向かって出発した。ミリアン達のA中隊第四調査小隊は、三日目に出発となった。
「いよいよだぜ」
ヘルムホルツが操縦席で呟く。
「ああ、ドジを踏むなよ」
操縦席の後ろに陣取ったミリアンがそれに答えた。
「うるせえ。お前こそ、そのでかい頭をぶつけねえように、しっかりと掴まっておけ」
ミリアンとヘルムホルツの会話の向こうでは、ブルベイカーとメルルが今回の調査地域についての意見を交わしていた。
「この辺りの渦は季節によって荒れ方が変わる。 まずは西からのルートで様子を見る方がいい」
調査地域はマインシュタット山脈の南、旧サンダランド平原にある古い渦だった。
「何度か行ったことがあるのか?」
ミリアンがブルベイカーに訪ねた。ブルベイカーは痩身で、窪んだ目が特徴の男だ。その姿はヘルムホルツと対照的だった。
「ああ。だがすぐ横を通り抜けただけだ。渦の活動が活発な時期にわざわざ近付いた事など無い」
ミリアンの質問にブルベイカーが答えた。
「出発するぜ、掴まんな」
ブルベイカーの答えに被さるようにヘルムホルツが言うと、カッターが浮遊した。そして加速度が後席の隊員達に加わり、皆、力を込めて椅子に深く座った。
巡航速度と高度を保つと、またメルルを中心に作戦の確認が始まった。誰もが初めての作戦であり、皆一様に緊張している。
一通り作戦の確認が終わると、キャビンは沈黙に包まれた。
カッターのキャビンはそう広くない。渦に近付くまで一八時間、調査に四八時間から七二時間、帰還にまた一八時間、最低でも四から五日は掛かる調査に必要な武器と食料、水を積んでいるのだ。そして、カッターの大きさは最低限に切り詰められていた。
「なあ、ブルベイカー。 なぜストームライダー達はレジメントの設立に加わったんだ? あんたらは外部の人間とは関わらないと聞いていたが」
荒野に生きる彼らも、元々は故郷のある普通の人間達だった。が、数百年の渦の混乱の中で生きる術として、城塞都市間の交易を担う存在となっていった。
「それはスターリングから聞いてくれ。 俺達の口からは言えん」
「そうか」
「金だろ? 噂で聞いたぜ。 ストームライダー達には俺達の三倍の契約金が支払われたって話じぇねえか」
ヘルムホルツが操縦席から話に加わった。
「金だけで自由人である俺達『乗り手』が『囚われ人』のお前らと関わることは無い」
彼らは自分達のことを自由人、都市に引き籠もった人間達を囚われ人と呼んでいた。
「へっ、何が囚われ人だ! お前らはいつも金、金、金じゃねえか」
ヘルムホルツはストームライダー達への差別心を隠そうともしない。小さな都市国家では、交易の担い手であるストームライダー達を、暴利を貪る商人、として嫌うことも多かった。
「やめるんだ、ヘルムホルツ」
ハウスホッターがヘルムホルツの無礼を諫めた。
「けっ、いい子ぶりやがって」
再びキャビンに沈黙が広がった。ミリアンは窮屈な席の中で目を閉じ、眠ることにした。
「—了—」
スターリングと共に『渦』へ立ち向かう組織に所属したミリアンに、忙しい日々が訪れた。
ミリアンは数人の仲間と共にこの組織に参加することにした。やって来たのは、故郷ダンカルクから600リーグ程離れた荒野だった。周りには渦がはびこり、荒れ果てた土地しかない。ただ、背後に山があり、エンジニアの作った巨大なウォードが四方に立てられていた。防御は完全に思えた。
「随分な場所にあるんだな」
スターリングが長い旅路を経てやって来たミリアンを迎えた。
「この場所を決めるのに相当な時間が掛かった。渦から離れても、兵站の維持ができなくても面倒だからな」
「エンジニアがうまくやってくれるんじゃないのか?」
「奴らは戦略家じゃない。ましてや戦術家でもない。この連隊のことを地上の解放のための軍ではなく、渦の科学的な調査隊だと考えている連中もいる始末だ」
スターリングはこの組織を単なる軍の基本単位として『連隊』と呼んでいた。後でわかったことだが、周りの皆も連隊——レジメント——としか呼ばないようだった。今、渦との戦争に挑んでいるのはこの連隊しか存在しないのだから、番号も名前も必要無いということらしい。
出来たてのホールにスターリングの男達が集められた。数は百人もいない、皆経験豊富な兵に見えた。女はもちろん、若い男すら殆どいなかった。スターリングが設えられた壇上に上がり、声を発した。
「よく集まってくれた。 今日が我が連隊の結成の日だ。 諸君らの中には元軍人や傭兵、荒野を熟知した交易商、色々な出自の者がいる。しかし、皆が同じ目的を持って今ここにいる。 それは地上の解放だ。 諸君らは失われた我々の世界を取り戻すという大義のために集ってくれた男達だ」
さっと周りを見渡すだけで、何となく男達の出自がわかった。一つ目のグループはわかりやすい。スターリングが連れてきた帝國の兵士だ。階級章や所属がわかるようなものは着けていないが、一見して帝國のものとわかる軍服を着ており、規律正しい軍人らしさを全身から醸し出している。二つ目は傭兵や私兵上がり——これに自分も含まれるのだろうが——、彼らは装備も服装もばらばらだが、体格や身なりは戦士として頼りになりそうな者達だ。そして三つ目、異質なグループが二十人程いる。色取り取りのスカーフをぶら下げ、ちょっとした道化か太古の物語の海賊の様な格好をした男達だ。彼らは危険な荒野を旅して交易を担う『嵐の乗り手<ストームライダー>』と呼ばれる男達の集団だった。
「酒はまだか!」
スターリングの話は終わっていなかったが、男達から声が上がった。主に傭兵上がりらしい男達からだ。
「話が長いぜ」
その声と共にグラスが壇上の袖に投げ込まれた。激高した帝國の軍人らしい男が大声を上げて振り返る。
「いい加減にせんか! 大佐の訓辞はまだ途中だぞ!」
「うるせえ、とっとと酒にしろ! 楽しいお話し合いはてめえらだけでやりやがれ、この腰抜けの帝國兵が!」
「何だと!」
いきり立った帝國兵達と風体のだらしない傭兵上がりの男達や荒野の密輸人達、つまり、ホールにいたほぼ全員による大乱闘に発展した。
「よし、いいぞ! せいぜい楽しめ!」
スターリングは大乱闘のホールに向かって笑いながらそう大声で叫び、壇から降りた。
壇から降りたスターリングも酒樽から直接酒を汲み、飲んでいる。
「騒がしい連中を集めたな」
酒盛りと乱闘が続く。酒保商が集めた酒樽は逆さにされ、ありとあらゆるものが頭上を飛び交っている。
「なに、昔から胆力がある男というのは、馬鹿な騒ぎが好きなものよ」
ミリアンはスターリングの人となりが少しずつわかってきた。帝國の首都ファイドゥで廃兵院の長という閑職にいたが、兵士からの信望の厚さは折り紙つきの男だった。彼の連れてきた帝國の軍人達は、彼を大佐と呼んでいる。
「これから何をするんだ?」
「まずは訓練、そして渦の調査だ。 とりあえずそこまではエンジニア達の計画に沿ってやる。 奴らがスポンサーだからな。 だが、実際の戦いではしっかりとこちらが手綱を握る」
「そうか、忙しくなるな」
そう語り合っている間も、足下に砕けたグラスの破片が飛んでくる。
「とりあえずの装備と施設、人は揃った。 いよいよだよ」
スターリングは嬉しそうな顔をして酒を呷った。齢六十をとうに過ぎた老兵だが、その言葉と顔には若々しさがある。
ミリアンも同じ酒を呷った。呷り終えると同時に、一人の男が派手に転がりながら二人の間に突っ込んできた。
「て、てっめえ、やりやがったな!」
まるまると太った腹と髭面から傭兵と思われるその男は、体格のいい帝國兵に殴られて飛んできたのであろう。ミリアンは倒れた男を引き上げてやった。
「足にきてるな、そろそろやめておけ」
「放せ。俺に忠告なんぞ、百年早え」
太った男の正面には、拳を構えたままの帝國兵がステップを踏んでいる。
「ヘルムホルツ、紹介しておく。 ミリアンだ。 見ての通りの大丈夫だ。 仲良くやってくれ。 それとお前の相手になっている奴はヴィット。 軍じゃ格闘術教官だった男だ」
少し酔った調子のスターリングが、ヘルムホルツと呼んだ太った男に周りの男達を紹介した。
「おうよ。 ミリアン、てめえの相手はまた後でやってやる」
ヘルムホルツはそう言うと、ミリアンから酒杯を奪って口に含み、口中の血を濯ぐと床に吐き出した。そして低い姿勢のままヴィットに向かってタックルを仕掛けた。そのスピードは中々のもので、まるで跳ね回るボールの様だった。ヴィットとヘルムホルツは転がりながらホールの真ん中で組み合った。
「いいぞ、二人とも!」
スターリングは酒を片手に、その様子を見ながら笑っていた。
結団式の次の日から、男達は何事も無かった様に仕事を始めた。まず三〇人ずつのグループに再編して、A・B・Cの三つの中隊が作られた。そして渦の調査に向かうための装備の支給と、訓練が開始された。
各中隊に六名程のエンジニアが合流して、調査小隊が組織される予定らしい。ミリアンはA中隊所属となった。それぞれの中隊毎に渦に関するブリーフィングが行われ、その後、ハンガーとグラウンド射撃場で訓練が開始された。
「おう、ミリアン。 調子はどうだ?」
射撃訓練の途中、同じ中隊のヘルムホルツが声を掛けてきた。支給されたばかりの連隊の制服が全く似合っていない。そもそも鞠のような体型の男だ。一番大きいサイズの制服の袖を捲り、羽織るようにしてどうにか着ているといった感じだった。
「ひどい格好だな」
「うるせえ。 産まれてこの方、制服なんぞ着た事ねえんだから、仕方ねえだろ。 それに、他に着るものもねえしな」
「ヒゲぐらい剃ったらどうだ」
髪も髭も伸び放題であることが、さらに風采を上がらなくしていた。
「んなもん、めんどくせえだろうが」
馬鹿な話をしていると、射撃訓練の終わりを告げる声がした。
「射撃訓練なんか必要なものか。 ここで教わるようなことじゃねえだろ」
次はハンガーでの操縦訓練だと、A中隊長のミルグラムが大声でそう告げた。
ハンガーには未だ組み立て途中らしき奇妙な機械が転がっていた。剥き出しのフレームに推進装置が取り付けられている以外は、一見、船のような姿形をしている。傍らに中年のエンジニアが立って説明を始めた。
「私は兵装エンジニアのダヴィル、この調査専用機『カッター』の開発責任者だ」
「まだ不格好だが、これを使って荒野の渦へ調査に行ってもらう」
「そして、操縦は君達タスクフォースの隊員にやってもらうことになる」
隣でその言葉を聞いたヘルムホルツが、指を鳴らしながら呟いた。
「そうそう、こーゆーのを待ってたぜ」
三ヶ月ほど掛けて一通りの訓練が終わった後、最初の調査小隊の組み合わせが発表された。
ミリアンは第四調査小隊で、帝國出身のハウスホッター、元ストームライダーのブルベイカー、顔見知りの元傭兵ヘルムホルツ、そして調査エンジニアのメルルが他のメンバーとなった。どうやら違うグループ出身者で小隊を組ませたようだ。
集まった第四調査小隊の前に、ミルグラムが立った。
「お前らのところは一人少ないが我慢してくれ。でかいのが二人いれば問題なかろう」
ミルグラムはミリアンとヘルムホルツを見て言った。
そして小隊長はハウスホッターだと告げられたが、その発表にヘルムホルツが噛み付いた。
「ふん、結局帝國兵がお偉いさんか。 気に食わねえな」
「最初はこれでやらせてもらう。 いずれ小隊の組み合わせは変わるし、適性を把握すれば役職も変わる」
ミルグラムは皆を見つめて言った。
「ヘルムホルツ、お前のカッターの操縦技術は中々らしいじゃないか。まずは腕で皆を助けてやってくれ」
「お、おう」
ミルグラムはスターリングが信頼している副官とも呼べる人物だった。隊員を纏める事には慣れている風だった。
調査隊は次々と目的地に向かって出発した。ミリアン達のA中隊第四調査小隊は、三日目に出発となった。
「いよいよだぜ」
ヘルムホルツが操縦席で呟く。
「ああ、ドジを踏むなよ」
操縦席の後ろに陣取ったミリアンがそれに答えた。
「うるせえ。お前こそ、そのでかい頭をぶつけねえように、しっかりと掴まっておけ」
ミリアンとヘルムホルツの会話の向こうでは、ブルベイカーとメルルが今回の調査地域についての意見を交わしていた。
「この辺りの渦は季節によって荒れ方が変わる。 まずは西からのルートで様子を見る方がいい」
調査地域はマインシュタット山脈の南、旧サンダランド平原にある古い渦だった。
「何度か行ったことがあるのか?」
ミリアンがブルベイカーに訪ねた。ブルベイカーは痩身で、窪んだ目が特徴の男だ。その姿はヘルムホルツと対照的だった。
「ああ。だがすぐ横を通り抜けただけだ。渦の活動が活発な時期にわざわざ近付いた事など無い」
ミリアンの質問にブルベイカーが答えた。
「出発するぜ、掴まんな」
ブルベイカーの答えに被さるようにヘルムホルツが言うと、カッターが浮遊した。そして加速度が後席の隊員達に加わり、皆、力を込めて椅子に深く座った。
巡航速度と高度を保つと、またメルルを中心に作戦の確認が始まった。誰もが初めての作戦であり、皆一様に緊張している。
一通り作戦の確認が終わると、キャビンは沈黙に包まれた。
カッターのキャビンはそう広くない。渦に近付くまで一八時間、調査に四八時間から七二時間、帰還にまた一八時間、最低でも四から五日は掛かる調査に必要な武器と食料、水を積んでいるのだ。そして、カッターの大きさは最低限に切り詰められていた。
「なあ、ブルベイカー。 なぜストームライダー達はレジメントの設立に加わったんだ? あんたらは外部の人間とは関わらないと聞いていたが」
荒野に生きる彼らも、元々は故郷のある普通の人間達だった。が、数百年の渦の混乱の中で生きる術として、城塞都市間の交易を担う存在となっていった。
「それはスターリングから聞いてくれ。 俺達の口からは言えん」
「そうか」
「金だろ? 噂で聞いたぜ。 ストームライダー達には俺達の三倍の契約金が支払われたって話じぇねえか」
ヘルムホルツが操縦席から話に加わった。
「金だけで自由人である俺達『乗り手』が『囚われ人』のお前らと関わることは無い」
彼らは自分達のことを自由人、都市に引き籠もった人間達を囚われ人と呼んでいた。
「へっ、何が囚われ人だ! お前らはいつも金、金、金じゃねえか」
ヘルムホルツはストームライダー達への差別心を隠そうともしない。小さな都市国家では、交易の担い手であるストームライダー達を、暴利を貪る商人、として嫌うことも多かった。
「やめるんだ、ヘルムホルツ」
ハウスホッターがヘルムホルツの無礼を諫めた。
「けっ、いい子ぶりやがって」
再びキャビンに沈黙が広がった。ミリアンは窮屈な席の中で目を閉じ、眠ることにした。
「—了—」