梅莉專心地在筆記本上寫著字。
寫字聲在房間裡回響著。
梅莉的房間是一間普通的小孩房間。小小的床和桌子,可以放入最基本生活用品的衣櫥,以及陳列著孩童向的小說與教科書的小書櫃。
要說有什麼不同之處的話,那就是桌子上堆滿的筆記本了吧。
不管是已經用到破舊不堪的還是全新的筆記本,都整齊地堆放著。
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「梅莉,禮拜的時間快到了哦」
聽見敲門聲以及僧侶的聲音。
那個聲音讓梅莉放下了筆走去開門。
「大家都在等著呢,快點去禮拜堂吧」
「好的」
梅莉雖然心思都還在那沒寫完的筆記上,仍然還是往禮拜堂走去。
禮拜的途中,梅莉雖然聽著祭司說的話,但心卻不在那邊。一直掛念著,若不快點把內容繼續寫在筆記本上就會忘記了。
禮拜結束之後,梅莉馬上回到自己的房間,在還沒完成的筆記本上繼續寫了起來。
不知道就這樣寫了多久。黃昏時敲門的聲音總算讓梅莉的視線從筆記本上離開。
「梅莉,妳在房間裡嗎?」
梅莉把房間的門打開,看到的是白天來提醒去禮拜的女性僧侶,一臉擔心地站在門口。
「伊莎貝爾老師?怎麼了嗎?」
「啊~太好了。因為沒看見妳,想說不曉得到哪去了」
「沒有啊,我一直待在房間裡呀?」
「這樣啊……。還在寫嗎?」
那位叫伊莎貝爾的僧侶,看到了梅莉背後的筆記本。
「嗯!」
「現在在寫些什麼呢?可以給我看看嗎?」
「嗯!」
梅莉一邊微笑著一邊把寫完的筆記本拿給伊莎貝爾。
筆記本裡是少女用笨拙的字跡寫下的宏偉故事。
「這是什麼時候的夢?」
「嗯~是從前天開始做的夢。我是公主,哥哥是王子呢」
梅莉雖然有點害羞,但感覺很開心。
「這樣啊,是個開心的夢呢」
「然後啊,還到各個地方去冒險喔。今天早上啊,還去了海底的一個大神殿喲」
對著天真說著今早夢境有多麼厲害的梅莉,伊莎貝爾只能困擾地笑著一邊附和著。
梅莉因為被捲入了差不多半年前發生的悲慘事件,導致精神狀態失衡。她藉由把夢到的東西寫在筆記本上,才好不容易維持住自己的心理狀況。
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有一天,梅莉來到了離聖堂有些許距離且有點冷清的植物園。
由於人煙稀少的關係,即使是白天也十分安靜,感覺非常地詭異。
在之前,植物園是由擁有者叫做歐哈拉的老人,與一位叫做威廉的年輕男性在管理的。但現在是無人管理的狀態。梅莉一個人整理著可以說是雜草的花草樹木。
「妳又來這裡了。祭司大人不是說過不可以來這裡了嗎?」
伊莎貝爾發現在植物園角落整理著荒地的梅莉說道。
「對不起……。但是,哥哥說這裡就拜託我了……」
梅莉的話讓伊莎貝爾的臉色暗了下來。
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她所說的『哥哥』是和歐哈拉一起管理植物園的威廉。
這個年輕人是幾年前被梅莉發現他受了重傷倒地,由聖堂保護起來。之後傷勢痊癒,因為沒有地方可去,所以雇用他幫忙管理植物園並讓他住了下來。
他雖然不太說自己的事,但是一位心地善良,工作也很認真的年輕人。
但是,他在那個使梅莉精神生病的事件發生時,失蹤了。
根據目擊者歐哈拉的描述,植物園裡的管理小屋內遍佈血跡,而且還留有被無數銳利刀刃刺穿過的衣服被遺留在屋內。然後,像是被保護般似的,被那衣服包裹住且毫髮無傷的梅莉倒在地上。
被遺留在現場的衣服毫無疑問是那天威廉穿著的衣物,但他卻消失無蹤。直到現在尚未找到他本人,生死不明。
雖然說是個不可思議的悽慘事件,但嫌犯卻馬上被逮捕了。只是嫌犯不斷地否認涉案,事情的真相似乎很難解開了。
植物園因恐怖事件與歐哈拉年事已高的關係而關閉,現在也沒有人會想靠近那裡。
與威廉一起被捲進那事件的梅莉,不知是否因為目擊了可怕的現場,而失去了事件前後的記憶。
精神狀況不安定的她,自己編織出威廉遠行外出,而拜託自己要幫忙照顧園裡植物的故事。
所以,她才會多次跑出聖堂,擅自闖入這個荒寂的植物園內。
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「說的也是。但是,這次是最後一次哦」
「為什麼?」
「因為不可以違背與祭司大人的約定不是嗎?」
「但是,哥哥拜託我要照顧這裡……」
梅莉無法認同伊莎貝爾,仍不放棄以後要繼續來植物園的想法。
「無論如何都想來的話,那就去跟祭司大人談談吧」
「如果祭司大人同意的話,就可以來了嗎?」
「嗯,當然。所以一定要跟祭司大人說說看哦」
「好!」
伊莎貝爾看著喜出望外而不斷點著頭的梅莉,悄悄地嘆了口沉重的氣。
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過去雖然有嘗試過讓梅莉接受現實。但梅莉顯得相當狼狽不安,最後衝出聖堂。幸好那時被附近的聖達瑞斯大聖堂收容保護才沒有發生什麼事,但下一次就不保證也能像這次平安無事了。要是不小心闖進了貧民窟的話,以現在梅莉的狀況應該沒辦法活著回來。
現在的梅莉邊將夢境記錄在筆記本上邊等著那青年的歸來,才好不容易保持住精神的安定。只要不看那個部分,梅莉就只是一個愛作夢的普通少女而已。
祭司與包含伊莎貝爾在內的聖堂僧侶們認為,威廉的死以及寫下夢境之事,會隨著時間的流逝慢慢讓梅莉接受,所以決定對梅莉隱藏事實的真相。
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「如果哥哥可以快點回來的話那就太好了」
回聖堂的路上,梅莉還說出這樣的話。
只要一說到威廉,梅莉就露出天真無邪孩子貌。
「……對啊。一起來衷心祈禱他能平安地持續他的旅程吧」
「嗯!」
聽到伊莎貝爾的話,梅莉純真地笑著。
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在夕陽下,死者之群與異形們,在首都魯貝斯交戰著。
異形們以壓倒性的腕力與像是念力般不可思議的力量,掃蕩死者們。
而死者們,以不尋常的頑強承受住異形之力。
梅莉在大聖堂的塔上往下看著這景象。
看了一陣子後,就從虛空中叫來羽毛筆與紙,以流暢的手法將這個情節寫在紙上。
差不多把戰場都記錄過一遍之後,羽毛筆與紙就消失在虛空之中了。
「必須去找出來……」
梅莉小聲說完後,就從塔上跳下來。
就像無視重力般在半空中飄著,降落到戰場的正中間。
在泥沙橫飛遍地是血的戰場上,穿著粉紅色服裝的梅莉非常地突兀。
但是,不管是死者還是異形們,都沒有注意到梅莉。
|
「─完─」
3398年 「現」
広げられたノートに向かって、メリーは一心不乱に文字を綴っていた。
カリカリという音が部屋に響く。
メリーの部屋は何の変哲もない子供部屋だ。小さなベッドと机、最低限の生活用品を入れるためのクローゼット、そして子供向けの小説や教本が入った小さな本棚。
違うところがあるとすれば、それは机の上に堆く積まれたノートだろう。
使い込んでボロボロになった物から手付かずの新品まで、綺麗に積み上げられている。
「メリー、そろそろ礼拝の時間よ」
部屋の扉を叩く音と僧侶の声が聞こえてくる。
その声にメリーは手を止め、ペンを置くと部屋の扉を開けた。
「皆が待っているわ、早く礼拝堂に行きなさい」
「はぁい」
メリーは書き掛けのノートを気にしながらも、礼拝堂へ向かった。
礼拝の最中、メリーは祭司の唱える文言を聞いてはいたが、心は別のところにあった。早くノートに続きを書かないと内容を忘れてしまう。そんなことばかりを考えていた。
礼拝が終わると、メリーは足早に自室に戻り、書き掛けのノートに向かって再び文字を綴り始めた。
どれくらいそうしていただろうか。日が暮れる頃に扉を叩く音でようやっとノートから視線を外す。
「メリー、部屋にいるの?」
メリーが部屋の扉を開けると、昼の礼拝の際に呼びに来た女性僧侶が心配そうに立っていた。
「イザベル先生? どうしたの?」
「ああよかった。姿を見かけなかったから、どこに行ったのかと思って」
「ううん、ずっと部屋にいたよ?」
「そう……。また書いていたの?」
イザベルと呼ばれた僧侶は、メリーの背後に見えるノートを見やる。
「うん!」
「今はどんなことを書いているの? 見てもいい?」
「いいよ!」
メリーはニコニコと笑いながら、イザベルに書き終えたノートを差し出した。
ノートの中には少女の拙い字で、壮大な物語が綴られていた。
「これはいつの夢?」
「えーっと、一昨日から見てる夢だよ。私がお姫様で、お兄さんが王子様なの」
メリーは少し恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうだった。
「そう、楽しそうな夢ね」
「それでね、いろんなところを冒険するの。今朝はね、海底にある大きな神殿に行ったんだよ」
今朝夢に見た情景がどんなに凄いものだったかを無邪気に語るメリーに、イザベルは困ったような笑みを浮かべながら相槌を打つしかできなかった。
メリーは半年ほど前に起きた凄惨な事件に巻き込まれてから、精神の均衡を崩している。彼女は夢に見たものをノートに書き綴ることで、辛うじて自身の心を保っていたのだった。
ある日、メリーは聖堂から少し離れた場所にある閑散とした植物園にいた。
人気の無いそこは昼間にも関わらず静まり返っており、酷く不気味であった。
少し前までは、植物園の所有者であるオハラという老人と、ヴィルヘルムと名乗る若い男が管理をしていた。しかし今は放置されており、メリーが一人で雑草同然となった草木を手入れしている。
「またここにいたのね。 ここに来てはいけないと祭司様に言いつけられているでしょう?」
植物園の片隅で土の手入れをするメリーを見つけたイザベルが声を掛けた。
「ごめんなさい……。 でも、お兄さんにここを頼むって言われてるし……」
メリーの言葉にイザベルは暗い顔をした。
彼女の言う『お兄さん』とは、オハラと共に植物園を管理していたヴィルヘルムのことだ。
この青年は数年前に大怪我を負って倒れていたところをメリーに発見され、聖堂によって保護された。そして怪我が治った後も、行く当てが無いということから、植物園の管理を手伝う住み込みの従業員として雇った経緯があった。
自分のことはあまり話さなかったが、心優しい人物であり、仕事も真面目にこなす青年であった。
だが、彼はメリーが精神を病む原因となった事件の際、行方不明となった。
事件の発見者であるオハラの言葉によれば、植物園の管理小屋におびただしい量の血が撒き散らされており、その中に鋭利な刃物で無数に貫かれた痕跡のある衣服が残されていた。そして、守られているかのように、その衣服に包まれた無傷のメリーが倒れていたのだという。
残されていた衣服は間違いなくヴィルヘルムがその日に着ていた物だったが、持ち主である彼の姿は忽然と消えていた。そして現在に至るまで彼は発見されておらず、生死も不明の状態であった。
不可思議で凄惨な事件だったが、容疑者はすぐに捕まった。だが、容疑者は犯行を否定し続けており、事件の真相究明は難航していた。
植物園は事件とオハラの高齢を理由に閉園され、今では寄りつく人もいない。
彼と共に事件に巻き込まれたメリーは、衝撃的な場面を目撃してしまったせいか、事件の前後の記憶を失っていた。
そして精神的に不安定となった彼女は、ヴィルヘルムはどこか遠くへ旅に出ており、留守中の植物の面倒を頼まれた、という夢想を自分の中に作り上げていた。
そのため、度々聖堂を抜け出しては、この寂れた植物園に勝手に入り込んでしまうのだった。
「そうね。 でも、もうお終いにしましょう」
「どうして?」
「祭司様の言いつけを破ってしまうのは、駄目なことでしょう?」
「でも、お兄さんがここを頼むって……」
メリーはイザベルの言葉に納得できず、植物園を訪れることを諦めようとしなかった。
「どうしてもここに来たいのなら、ちゃんと祭司様に相談なさい」
「祭司様がいいって仰れば、来てもいいの?」
「ええ、もちろん。 だから、ちゃんと祭司様に相談するのよ」
「うん!」
イザベルは嬉しそうに頷くメリーを見て、ひっそりと重い溜め息を吐いた。
以前にもメリーに現実を教えた事はあった。しかしメリーはひどく狼狽し、しまいには聖堂を飛び出してしまった。その時は運よく聖ダリウス大聖堂の近くで保護されて事無きを得たが、次に同じような事があっても無事に保護されるとは限らない。間違ってスラムにでも入り込んでしまったら、今のメリーでは生きて帰ってくることは不可能だろう。
今のメリーは夢の内容をノートに綴りながら青年を待つことで、何とか精神の均衡を保っている。そこの部分に目を瞑れば、メリーは少しだけ夢見がちな普通の少女なのだ。
ヴィルヘルムの死も、夢を書き綴ることも、年単位の時が流れれば、メリーは少しずつ現実を受け入れてくれるだろう。そう考えた祭司とイザベルを含めた聖堂の僧侶達は、メリーに真実を隠し続けることにしたのだった。
「お兄さん、早く帰ってくるといいなぁ」
聖堂への帰り道、メリーは何も疑問に思うことなく、そんな言葉を口にした。
ヴィルヘルムのことを話すとき、メリーは一際無邪気に振る舞う。
「……そうね。 彼が無事に旅を続けられるように、お祈りをしましょうね」
「そうする!」
イザベルの言葉に、メリーは無邪気に笑うのだった。
夕闇の中、蠢く死者の群れと異形達が、首都ルーベスで交戦していた。
異形達は圧倒的な腕力と念力とも言えるような不思議な力で死者の群れを薙ぎ払う。
対する死者の群れは、尋常ならざる頑強さで異形の力に耐え切っていた。
メリーはその様子を大聖堂の塔の上から見下ろしている。
暫くの間眺めていたが、羽根ペンと紙を虚空から呼び寄せると、慣れた手付きでその様子を紙へと綴った。
一通り戦場の様子を記録すると、羽根ペンと紙を虚空へと消す。
「探さなければ……」
メリーは小さく呟くと、塔から飛び降りた。
そのまま重力を無視したように宙を漂うと、戦場の真っ只中に降り立った。
泥と埃と血に汚れた戦場で、奇麗な桃色の衣装を身に纏うメリーの姿は奇矯だ。
だが、街を闊歩する死者の群れも異形達も、メリーに気付くことはなかった。
「—了—」
広げられたノートに向かって、メリーは一心不乱に文字を綴っていた。
カリカリという音が部屋に響く。
メリーの部屋は何の変哲もない子供部屋だ。小さなベッドと机、最低限の生活用品を入れるためのクローゼット、そして子供向けの小説や教本が入った小さな本棚。
違うところがあるとすれば、それは机の上に堆く積まれたノートだろう。
使い込んでボロボロになった物から手付かずの新品まで、綺麗に積み上げられている。
「メリー、そろそろ礼拝の時間よ」
部屋の扉を叩く音と僧侶の声が聞こえてくる。
その声にメリーは手を止め、ペンを置くと部屋の扉を開けた。
「皆が待っているわ、早く礼拝堂に行きなさい」
「はぁい」
メリーは書き掛けのノートを気にしながらも、礼拝堂へ向かった。
礼拝の最中、メリーは祭司の唱える文言を聞いてはいたが、心は別のところにあった。早くノートに続きを書かないと内容を忘れてしまう。そんなことばかりを考えていた。
礼拝が終わると、メリーは足早に自室に戻り、書き掛けのノートに向かって再び文字を綴り始めた。
どれくらいそうしていただろうか。日が暮れる頃に扉を叩く音でようやっとノートから視線を外す。
「メリー、部屋にいるの?」
メリーが部屋の扉を開けると、昼の礼拝の際に呼びに来た女性僧侶が心配そうに立っていた。
「イザベル先生? どうしたの?」
「ああよかった。姿を見かけなかったから、どこに行ったのかと思って」
「ううん、ずっと部屋にいたよ?」
「そう……。また書いていたの?」
イザベルと呼ばれた僧侶は、メリーの背後に見えるノートを見やる。
「うん!」
「今はどんなことを書いているの? 見てもいい?」
「いいよ!」
メリーはニコニコと笑いながら、イザベルに書き終えたノートを差し出した。
ノートの中には少女の拙い字で、壮大な物語が綴られていた。
「これはいつの夢?」
「えーっと、一昨日から見てる夢だよ。私がお姫様で、お兄さんが王子様なの」
メリーは少し恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうだった。
「そう、楽しそうな夢ね」
「それでね、いろんなところを冒険するの。今朝はね、海底にある大きな神殿に行ったんだよ」
今朝夢に見た情景がどんなに凄いものだったかを無邪気に語るメリーに、イザベルは困ったような笑みを浮かべながら相槌を打つしかできなかった。
メリーは半年ほど前に起きた凄惨な事件に巻き込まれてから、精神の均衡を崩している。彼女は夢に見たものをノートに書き綴ることで、辛うじて自身の心を保っていたのだった。
ある日、メリーは聖堂から少し離れた場所にある閑散とした植物園にいた。
人気の無いそこは昼間にも関わらず静まり返っており、酷く不気味であった。
少し前までは、植物園の所有者であるオハラという老人と、ヴィルヘルムと名乗る若い男が管理をしていた。しかし今は放置されており、メリーが一人で雑草同然となった草木を手入れしている。
「またここにいたのね。 ここに来てはいけないと祭司様に言いつけられているでしょう?」
植物園の片隅で土の手入れをするメリーを見つけたイザベルが声を掛けた。
「ごめんなさい……。 でも、お兄さんにここを頼むって言われてるし……」
メリーの言葉にイザベルは暗い顔をした。
彼女の言う『お兄さん』とは、オハラと共に植物園を管理していたヴィルヘルムのことだ。
この青年は数年前に大怪我を負って倒れていたところをメリーに発見され、聖堂によって保護された。そして怪我が治った後も、行く当てが無いということから、植物園の管理を手伝う住み込みの従業員として雇った経緯があった。
自分のことはあまり話さなかったが、心優しい人物であり、仕事も真面目にこなす青年であった。
だが、彼はメリーが精神を病む原因となった事件の際、行方不明となった。
事件の発見者であるオハラの言葉によれば、植物園の管理小屋におびただしい量の血が撒き散らされており、その中に鋭利な刃物で無数に貫かれた痕跡のある衣服が残されていた。そして、守られているかのように、その衣服に包まれた無傷のメリーが倒れていたのだという。
残されていた衣服は間違いなくヴィルヘルムがその日に着ていた物だったが、持ち主である彼の姿は忽然と消えていた。そして現在に至るまで彼は発見されておらず、生死も不明の状態であった。
不可思議で凄惨な事件だったが、容疑者はすぐに捕まった。だが、容疑者は犯行を否定し続けており、事件の真相究明は難航していた。
植物園は事件とオハラの高齢を理由に閉園され、今では寄りつく人もいない。
彼と共に事件に巻き込まれたメリーは、衝撃的な場面を目撃してしまったせいか、事件の前後の記憶を失っていた。
そして精神的に不安定となった彼女は、ヴィルヘルムはどこか遠くへ旅に出ており、留守中の植物の面倒を頼まれた、という夢想を自分の中に作り上げていた。
そのため、度々聖堂を抜け出しては、この寂れた植物園に勝手に入り込んでしまうのだった。
「そうね。 でも、もうお終いにしましょう」
「どうして?」
「祭司様の言いつけを破ってしまうのは、駄目なことでしょう?」
「でも、お兄さんがここを頼むって……」
メリーはイザベルの言葉に納得できず、植物園を訪れることを諦めようとしなかった。
「どうしてもここに来たいのなら、ちゃんと祭司様に相談なさい」
「祭司様がいいって仰れば、来てもいいの?」
「ええ、もちろん。 だから、ちゃんと祭司様に相談するのよ」
「うん!」
イザベルは嬉しそうに頷くメリーを見て、ひっそりと重い溜め息を吐いた。
以前にもメリーに現実を教えた事はあった。しかしメリーはひどく狼狽し、しまいには聖堂を飛び出してしまった。その時は運よく聖ダリウス大聖堂の近くで保護されて事無きを得たが、次に同じような事があっても無事に保護されるとは限らない。間違ってスラムにでも入り込んでしまったら、今のメリーでは生きて帰ってくることは不可能だろう。
今のメリーは夢の内容をノートに綴りながら青年を待つことで、何とか精神の均衡を保っている。そこの部分に目を瞑れば、メリーは少しだけ夢見がちな普通の少女なのだ。
ヴィルヘルムの死も、夢を書き綴ることも、年単位の時が流れれば、メリーは少しずつ現実を受け入れてくれるだろう。そう考えた祭司とイザベルを含めた聖堂の僧侶達は、メリーに真実を隠し続けることにしたのだった。
「お兄さん、早く帰ってくるといいなぁ」
聖堂への帰り道、メリーは何も疑問に思うことなく、そんな言葉を口にした。
ヴィルヘルムのことを話すとき、メリーは一際無邪気に振る舞う。
「……そうね。 彼が無事に旅を続けられるように、お祈りをしましょうね」
「そうする!」
イザベルの言葉に、メリーは無邪気に笑うのだった。
夕闇の中、蠢く死者の群れと異形達が、首都ルーベスで交戦していた。
異形達は圧倒的な腕力と念力とも言えるような不思議な力で死者の群れを薙ぎ払う。
対する死者の群れは、尋常ならざる頑強さで異形の力に耐え切っていた。
メリーはその様子を大聖堂の塔の上から見下ろしている。
暫くの間眺めていたが、羽根ペンと紙を虚空から呼び寄せると、慣れた手付きでその様子を紙へと綴った。
一通り戦場の様子を記録すると、羽根ペンと紙を虚空へと消す。
「探さなければ……」
メリーは小さく呟くと、塔から飛び降りた。
そのまま重力を無視したように宙を漂うと、戦場の真っ只中に降り立った。
泥と埃と血に汚れた戦場で、奇麗な桃色の衣装を身に纏うメリーの姿は奇矯だ。
だが、街を闊歩する死者の群れも異形達も、メリーに気付くことはなかった。
「—了—」