魯卡被黑衣的年輕男子帶到一個小集落療傷。
接受治療後數日,已經恢復到可以重新踏上旅途的狀態了。
為了感謝受到的幫助,魯卡前往了集落長老所在的地方。
「這次受到這樣的照顧,真的非常感謝」
「不用這麼客氣。旅途中遇到這種事你也真辛苦」
「因為是旅途中,我只有這個可以當謝禮」
說完後,魯卡從懷中拿出了刻著王家印章的金色紋章。
「因為是黃金做成的,要是遇到什麼困難,請不要客氣地使用它」
轉交紋章的瞬間,原本沒什麼表情變化的長老突然臉色大變。
「這是……。旅人,不,王啊。請原諒我的無禮」
長老起身向魯卡下跪。
「怎麼回事?」
「我們是海登之民。依昔日盟約,侍奉著持有這個印章的王國」
『海登之民』似乎有聽過這個名詞。
據說是在渦發生之前的時代侍奉著魯卡的祖先,擅長武術的民族。
「長老啊,請您坐下吧」
「在王的面前怎能如此……」
魯卡安靜地搖搖頭。
「沒關係。時代已經變了。儘管祖先之間有什麼樣的盟約也好,請不要被古老的約定所束縛住」
「但是,我們不可以就這樣不管受傷的旅人。所以,在傷治好之前請留在村裡」
「如果只是留到傷治好的話」
這也是長老的一番好意。魯卡感謝地接受了。
|
魯卡再次前往廢墟。雖然因為太危險而被海登的長老阻止過,但那自動人偶所說的話很令他在意。通過白色的遺骸,來到了一開始與那個自動人偶拔刀相向的場所。
魯卡等著那個自動人偶出現。
不知道毫無氣息的機械會從哪邊襲擊過來。繃緊神經,仔細注意著四周。
聽到了好像是什麼被踩碎的聲音。魯卡在聽到聲音的同時拔出了刀。
同時,聽到了金屬的碰撞聲。
「唔!」
出現在眼前的是之前來襲擊的自動人偶,跟之前一樣向魯卡襲擊而來。
用刀頂開自動人偶的手後,魯卡先拉遠了距離。
「什麼!?」
不知在什麼時候,自動人偶的背後站著穿著黑衣的年輕男子。
這位準備好東方投擲武器的年輕人,被海登的長老稱為阿修羅。
雖然想要詢問清楚,但因為有眼前的自動人偶在,不能鬆懈分心。
自動人偶就那樣直轉向後方,用他尖銳的手向阿修羅襲擊而去。
在自動人偶的手快要碰到阿修羅的時候,阿修羅的身影就消失了。
失去目標的自動人偶,馬上轉向攻擊魯卡,完全以要殺死魯卡的氣勢飛奔而來。
魯卡的刀砍向自動人偶的手臂。發出了刺耳的金屬摩擦聲。
「唔喔……!」
雖然自動人偶想以驚人的力量壓制魯卡,但是魯卡那熟練的劍技沒有那麼容易讓他得逞。
阿修羅的投擲武器貫穿了自動人偶的腳部關節。因為關節被打中,自動人偶失去了平衡。魯卡沒有錯過這個機會。趁機推開了自動人偶的手,馬上砍斷了其手臂,頭部跟軀幹。
因為失去了下達指令的頭部,身體部份就當場崩解掉落。
「為何來到這裡?」
對突然現身的阿修羅,魯卡提出了疑問。
來這裡的事沒有告知長老以外的人。應該也沒有被別人看見才對。
「我只是在等待打倒這怪物的機會而已」
「……這樣啊」
魯卡調整呼吸後,撿起了被切斷的自動人偶頭部。
|
向集落傳達自動人偶已經破壞掉的消息後,長老們同時浮現安心的表情。
魯卡向海登的長老請求,借了在集落一角的小帳篷。
帶回來的自動人偶頭部反覆地發出參雜著雜音的單字。看來似乎很難理解他的意思了。
魯卡一句一句仔細地聽著自動人偶所說的話,並記錄著。
「渦 裡 米亞 甦」
雖然自動人偶只發出片斷的單字,但耐心地持續聽著,一個個單字拼湊出了句子。
|
|
「非常感謝讓我在這待了這麼長一段時間」
魯卡做好了旅行的準備,前往長老所在的地方。
「您已經要出發了嗎?如果允許的話,想請問您接下來要往何處。我們是否能幫上什麼忙」
「嗯,為了想要更了解前些日子帶回來的自動人偶,想要前往機械文化盛行的西邊」
「西邊……那麼能答應我們一個請求嗎?可以把阿修羅當成隨從一起帶去嗎?」
「這是為什麼?聽說海登之民是不會離開集落的」
「我們族人也不得不適應世界的變化。那傢伙身為下一任頭目必須要了解這個世界」
魯卡思考了一下後開口說道。
「如果是這樣的話,就請他跟我一起走吧」
老實說,魯卡很敬佩這位名為阿修羅的年輕人的實力,甚至認為有像他這樣實力的人在已經文明化的王國中已經不存在了。
「真的非常感謝您。阿修羅,來向魯卡國王宣誓吧」
阿修羅從副頭目群中往前一步。
「接下來的旅途就拜託你了」
「遵從古老的盟約,發誓向您效忠」
阿修羅在魯卡面前跪下。
|
一邊避開渦一邊朝向西方前進,來到魯比歐那聯合王國與米利加迪亞的國境交界處的兩人,想在關隘街上找個落腳過夜的地方。
儘管還是大清早,街上已經非常地熱鬧,有點像是祭典般的氛圍。
「好熱鬧啊,是有什麼祭典嗎?」
魯卡向攤販買了水果後,像閒話家常般地詢問著老闆。
「怎麼,你不知道嗎?」
「嗯,我第一次來到這城鎮」
「快驚訝吧,The Eye被消滅了!聽城鎮的警備隊說,在那附近的渦和魔物也一併消失了!」
老闆興奮地說著。
「竟然……」
聽到數百年來一直困擾著人類的渦被消滅的消息,魯卡驚訝地說不出其他的話。
「不過,消息傳來這裡也只是兩天前的事而已。從那之後大家就一直像這樣歡慶著」
「……這樣啊,謝謝」
「沒什麼啦!」
魯卡離開攤販回到阿修羅等著的地方,將The Eye被消滅的事告訴了阿修羅。
阿修羅一瞬間貌似驚訝地睜大了眼睛,然後只默默地點頭回應。
突然,在籠子裡的自動人偶頭部發出哢噠哢噠的聲音震動著。
由於震動地太厲害,馬上回到投宿的地方將籠子的蓋子打開,確認自動人偶的狀況。
「為 為」
「樂 米亞大 米亞 怎麼 啊 我 米亞大人」
自動人偶像是在悲嘆而震動著。
「第一次看到這自動人偶像這樣」
「說不定跟渦有什麼關係」
「嗯……。首先需要掌握目前的狀況」
「遵命」
將自動人偶用層層的布包住不讓聲音透出後,魯卡和阿修羅就外出了。
他們分開二路,收集有關於The Eye被消滅的情報。
雖然渦確實全部都消失了,但參與該作戰的騎士們卻也都全數犧牲了,他們被當作英雄祭祀著。得到了這樣情報。
掌握了一定程度的狀況之後,回到了投宿地點確認自動人偶頭部的狀況。
雖然自動人偶發狂似地一直重覆著『米亞』這個單字,但可能是暫時沒電了,突然安靜了下來。
只剩下為了修理腦部的機械驅動聲,在投宿的房間裡響著。
「接下來要怎麼辦?」
「如果是和渦有關係的話,往The Eye的方向移動會比較好吧。而且現在也已經可以靠近那個區域的附近了」
魯卡確認著在城鎮買的西方地圖,決定了接下來的路線。
|
魯卡決定的路線是經過新興國家尹貝羅達的路。The Eye曾經存在的薩嵐州是尹貝羅達的領土。
可能是渦被消滅的關係,途中不需要仰賴暴風駕馭者們,也可以比較輕易接近目的地。
|
曾經存在The Eye的那一帶,是連草木都長不出來的荒野。
連隊帶領的人們似乎已經都撤走了,沒有留下任何人影的痕跡。
「看到了嗎?阿修羅」
「是的」
兩人以簡短的言語交談。魯卡與阿修羅的眼前,看到的是荒野中的熱霧。
像流動的水一樣搖晃的景色,逐漸變化並停留在此。
魯卡向阿修羅下指示,將自動人偶的頭從籠子中拿出來。
然後,自動人偶就在這安靜的國境街中開始說起話來。
「啊 米亞大 擬 在這」
自動人偶空虛的眼窩中,看著這扭曲的荒野中心。
「同 集 再 有 我們」
令人不舒服的金屬聲響著,自動人偶持續說著。
「我 那 去」
自動人偶讓下巴震動,跳出阿修羅的手中後掉落在地面上。然後以他那異常的執念,單用下巴的力量往前進。
這副景像實在是太過奇異,魯卡與阿修羅默默地看著頭部的動向。看看那顆頭部到底是對什麼那麼執著。
頭部暫時向前進之後,就在一個定點發出聲音消失了。
驚訝的魯卡,不自覺地打算往頭部消失的地方跑去。
「魯卡大人,接近會有危險」
被阿修羅阻止,魯卡停留在原地。
看起來就像是自動人偶的頭部完全被消滅了。
|
「─完─」
3389年「歪む目」
黒衣の若者に連れられたリュカは、小さな集落で傷の手当を受けた。
治療を受けて何日か経つと、再び旅に出られるまでに回復した。
そして自分を助けてくれた礼をすべく、リュカは集落の長のところへと赴いていた。
「この度は斯様に丁重な扱いを受け、大変感謝しております」
「礼には及びません。旅の最中に大変でしたな」
「いえ。旅路の途中のため、このようなものでしか礼ができぬのですが」
リュカはそう言うと、懐から王家の印章が入っている金の紋章を差し出した。
「金で出来ています故、お困り事がありましたら遠慮なくお使いください」
紋章を手渡した途端、あまり変化のなかった長老の顔色がさっと変わったのがわかった。
「これは……。旅人、いえ、王よ。大変な無礼をお許しくだされ」
長老は立ち上がるとリュカの前に跪いた。
「どうなされました?」
「我らはハイデンの民。かつて盟約により、この印章を持つ王国にお仕えしておりました」
『ハイデンの民』という言葉には聞き覚えがあった。
渦が発生する以前の時代にリュカの先祖に仕えていた、武術に長けた民族であると伝え聞いている。
「長老よ、どうかお座りください」
「王を前にしてそのような……」
リュカは静かに首を振った。
「良いのです。時代は変わりました。祖先の間でどのような盟約があったにせよ、古い約束事に囚われてはいけない」
「しかし、怪我をしたままの旅人をそのままにしておくことはできませぬ。ですので、怪我が治るまで滞在されてはいかがでしょうか」
「そういうことでしたら」
これは長老の好意でもあるのだろう。リュカはありがたく受け取ることにした。
リュカは再び廃墟を訪れていた。ハイデンの長老には危険すぎると止められたが、オートマタの発した言葉が気に掛かっていた。白い遺骸を通り過ぎ、あのオートマタと最初に刃を交えた場所までやって来た。
リュカはあのオートマタが動き出すのを待った。
気配の無い機械がどこから襲ってくるかわからない。神経を研ぎ澄ませ、周囲を注意深く探る。
何かを踏み潰すような音が聞こえた。リュカは音と同時に抜刀する。
同時に、金属同士がぶつかる音が聞こえた。
「くっ!」
目の前には先日襲ってきたオートマタが、変わらぬ様子でリュカを襲ってきた。
刀でオートマタの腕を押し返すと、リュカは一旦距離を取った。
「何!?」
オートマタの背後に、いつの間にか黒衣の若者が立っていた。
東方の投擲武器を構えたその若者は、ハイデンの長老からアスラと呼ばれていた。
問い質しそうになるが、目の前のオートマタを前にそのような隙を曝すことはできない。
オートマタは姿勢をそのままに背後に回転すると、その鋭い腕を振り抜いてアスラに襲い掛かる。
オートマタの腕がアスラに触れそうになる直前、アスラの姿が掻き消えた。
アスラの姿を見失ったオートマタは直ぐに狙いをリュカに替えると、襲い掛かった勢いを殺さずにリュカに飛び掛る。
リュカの刀がオートマタの腕をいなす。金属同士が擦れ合う不快な音が響いた。
「ぬう……!」
もの凄い力でリュカを圧倒しようとするオートマタだが、熟練の剣技がそれを容易にさせない。
アスラの投擲武器がオートマタの足関節を貫いた。関節がやられたことにより、オートマタは姿勢を崩す。その隙をリュカは逃さなかった。リュカはオートマタの腕を弾き返すと、返す刃で腕と首と胴を分断した。
指令を下す頭脳を失ったことで、胴体はその場に崩れ落ちた。
「何故ここへ?」
不意に現れたアスラに、リュカは疑問をぶつける。
ここへ来ることは長老以外には告げていない。誰かに見られていたようなことも無かった筈だ。
「この化け物を倒す機会を待っていただけです」
「……そうか」
リュカは呼吸を整えると、切り落とされたオートマタの首を拾い上げた。
オートマタを破壊したことを集落に伝えると、長老達は一様にほっとしたような表情を浮かべた。
リュカはハイデンの長老に頼み込み、集落の一角に小さな天幕を借り受けた。
持ち帰ったオートマタの首は雑音交じりの単語を繰り返し発している。意思の疎通を図ることは難しそうであった。
リュカはオートマタの言葉を一つ一つ丁寧に聞き取り、記録していった。
「ぷろ なかに みあ よみががが」
オートマタの言葉は断片的であったが、根気よく聞き続けることで、一つ一つの単語の形がはっきりしていった。
「長い間の滞在を許していただき、ありがとうございました」
リュカは旅支度を整え、長老のところへ赴いていた。
「もう旅立たれるのですかな? 差し支えなければ、次の行き先をお尋ねしたい。何か力になれることもありましょう」
「ええ、先般持ち帰ったオートマタのことを更に詳しく知るために、機械文化の盛んな西へ赴こうと思います」
「西……ならば一つ頼みを聞いてもらえませんでしょうか。 あのアスラを供として連れて行っては下さりませんか」
「一体何故? ハイデンの民は集落を出ることはないと伝え聞いておりますが」
「我らも世の変化に適応しなければなりませぬ。あやつは次期頭目として世界を知る必要があります」
リュカは少々の間を置いてから口を開いた。
「そういうことならば、謹んでお引き受けいたしましょう」
実はといえば、リュカはアスラという若者の技量に大いに感心していた。ここまでの使い手は文明化された王国には決して存在しないと思っていた。
「ありがたいことです。アスラよ、リュカ王に改めて誓いの言葉を述べよ」
アスラが副頭目達の中から一歩進み出る。
「道中よろしく頼むぞ」
「古の盟約に従い、忠誠を誓います」
アスラはリュカの前に跪いた。
渦を避けながら西へと向かう道中、ルビオナとミリガディアの国境にある、関所を兼ねた街に宿を取ろうと立ち寄った。
昼間にも関わらず街はとても活気付いており、さながら祭のような雰囲気を醸し出していた。
「ずいぶんと賑わっているが、何か祭でもあるのかね?」
リュカは露店で果物を購入すると、世間話のついでのように店主に尋ねた。
「なんだ、知らないのかい?」
「ああ、この街に来たのは初めてでな」
「驚け、ジ・アイが消滅したのさ! 街の警備隊が言うには、近くにあった渦も魔物も一緒に消えちまったって話だ!」
店主は興奮して言い募った。
「なんと……」
数百年もの間人類を悩ませ続けていた渦の一斉消滅の報せに、リュカはそれ以上言葉が出なかった。
「ま、この街に知らせが来たのもつい二日前の話でな。それからずっとこんな感じよ」
「……そうか、ありがとう」
「いいってことよ!」
リュカは露店を後にするとアスラを待たせていた場所へ戻り、ジ・アイ消滅の事を伝えた。
アスラは一瞬だけ驚いたように目を見開いたが、黙って頷くだけだった。
突然、籠の中にあるオートマタの首がガタガタと音を立てて震えだした。
あまりに揺れるため、早々に宿に入って籠の蓋を開け、オートマタの様子を確認した。
「な どうし」
「らく みあさ みあ そんな ああ わた みあさま」
オートマタは嘆くように頭蓋を震わせていた。
「このようなことは初めてだ」
「渦と関係があるのかもしれません」
「そうだな……。まずは今の状況を掴んでおく必要がある」
「承知しました」
オートマタの首を入れた籠を何重にも布で包み込んで音が漏れ出ないようにすると、リュカとアスラは宿の外へ出た。
そこで二手に分かれると、ジ・アイ消滅に関する情報を収集した。
渦は確かに全て消失したが、その作戦を行った騎士達は全滅しており、彼らは英雄として祭り上げられている。といった状況が明らかになった。
ある程度の状況を把握したところで宿へ戻り、オートマタの首を確認する。
オートマタは『ミア』という単語を狂ったように繰り返していたが、暫くしてエネルギー切れでも起こしたのか、急に静かになった。
頭脳を生かすための駆動音だけが、宿の部屋に響いた。
「如何致しますか?」
「渦の消滅が関係しているのならば、ジ・アイへ向かうのが良いだろう。今ならば近付くこともできる」
街で買った西方の地図を確認しながら、リュカはこの先の道筋を決定した。
リュカは進路を新興国インペローダへと取ることにした。ジ・アイが存在していたサラン州はインペローダの領地にある。
渦が消滅した影響か、道中はストームライダー達に頼らずとも、比較的簡単に進むことができた。
ジ・アイがあったとされる一帯は、草木さえ生えていない荒野だった。
レジメントを率いていた者達はすでに引き揚げたのか、人がいたという形跡さえ無かった。
「見えるか、アスラ」
「はい」
二人は短く言葉を交わす。リュカとアスラの目には、荒野に揺らぐ陽炎のようなものが見えていた。
流れる水のように揺れる景色は、変化を見せつつもそこに留まっていた。
リュカはアスラを促し、オートマタの首を籠から出した。
すると、国境の街で静かになったままだったオートマタが言葉を発する
「ああ みあさ ま あな ここ」
オートマタの虚ろな眼窩が、歪む荒野の中心点を見つめていた。
「なか あつめ まだどこ に われわ 」
不快な金属の音を立てて、オートマタは喋り続ける。
「わた そこ へ」
顎を振るわせ、手元から跳ねるように首は地面に落ちた。そして異常な執念を見せるかのように、そのまま顎の力だけ前に進んでいく。
あまりの奇態な姿に、リュカとアスラは首の動きをその場で黙って見つめていた。この首が何に執着しているのかを見極めるために。
首は暫く前に進むと、ある一点で音を立てて消失した。
驚いたリュカは、思わず首の消失した場所に駆け寄ろうとした。
「リュカ様、近付いては危険です」
アスラに押し止められ、リュカはその場に留まった。
オートマタの首は完全に消滅してしまったかのように見えた。
「—了—」
黒衣の若者に連れられたリュカは、小さな集落で傷の手当を受けた。
治療を受けて何日か経つと、再び旅に出られるまでに回復した。
そして自分を助けてくれた礼をすべく、リュカは集落の長のところへと赴いていた。
「この度は斯様に丁重な扱いを受け、大変感謝しております」
「礼には及びません。旅の最中に大変でしたな」
「いえ。旅路の途中のため、このようなものでしか礼ができぬのですが」
リュカはそう言うと、懐から王家の印章が入っている金の紋章を差し出した。
「金で出来ています故、お困り事がありましたら遠慮なくお使いください」
紋章を手渡した途端、あまり変化のなかった長老の顔色がさっと変わったのがわかった。
「これは……。旅人、いえ、王よ。大変な無礼をお許しくだされ」
長老は立ち上がるとリュカの前に跪いた。
「どうなされました?」
「我らはハイデンの民。かつて盟約により、この印章を持つ王国にお仕えしておりました」
『ハイデンの民』という言葉には聞き覚えがあった。
渦が発生する以前の時代にリュカの先祖に仕えていた、武術に長けた民族であると伝え聞いている。
「長老よ、どうかお座りください」
「王を前にしてそのような……」
リュカは静かに首を振った。
「良いのです。時代は変わりました。祖先の間でどのような盟約があったにせよ、古い約束事に囚われてはいけない」
「しかし、怪我をしたままの旅人をそのままにしておくことはできませぬ。ですので、怪我が治るまで滞在されてはいかがでしょうか」
「そういうことでしたら」
これは長老の好意でもあるのだろう。リュカはありがたく受け取ることにした。
リュカは再び廃墟を訪れていた。ハイデンの長老には危険すぎると止められたが、オートマタの発した言葉が気に掛かっていた。白い遺骸を通り過ぎ、あのオートマタと最初に刃を交えた場所までやって来た。
リュカはあのオートマタが動き出すのを待った。
気配の無い機械がどこから襲ってくるかわからない。神経を研ぎ澄ませ、周囲を注意深く探る。
何かを踏み潰すような音が聞こえた。リュカは音と同時に抜刀する。
同時に、金属同士がぶつかる音が聞こえた。
「くっ!」
目の前には先日襲ってきたオートマタが、変わらぬ様子でリュカを襲ってきた。
刀でオートマタの腕を押し返すと、リュカは一旦距離を取った。
「何!?」
オートマタの背後に、いつの間にか黒衣の若者が立っていた。
東方の投擲武器を構えたその若者は、ハイデンの長老からアスラと呼ばれていた。
問い質しそうになるが、目の前のオートマタを前にそのような隙を曝すことはできない。
オートマタは姿勢をそのままに背後に回転すると、その鋭い腕を振り抜いてアスラに襲い掛かる。
オートマタの腕がアスラに触れそうになる直前、アスラの姿が掻き消えた。
アスラの姿を見失ったオートマタは直ぐに狙いをリュカに替えると、襲い掛かった勢いを殺さずにリュカに飛び掛る。
リュカの刀がオートマタの腕をいなす。金属同士が擦れ合う不快な音が響いた。
「ぬう……!」
もの凄い力でリュカを圧倒しようとするオートマタだが、熟練の剣技がそれを容易にさせない。
アスラの投擲武器がオートマタの足関節を貫いた。関節がやられたことにより、オートマタは姿勢を崩す。その隙をリュカは逃さなかった。リュカはオートマタの腕を弾き返すと、返す刃で腕と首と胴を分断した。
指令を下す頭脳を失ったことで、胴体はその場に崩れ落ちた。
「何故ここへ?」
不意に現れたアスラに、リュカは疑問をぶつける。
ここへ来ることは長老以外には告げていない。誰かに見られていたようなことも無かった筈だ。
「この化け物を倒す機会を待っていただけです」
「……そうか」
リュカは呼吸を整えると、切り落とされたオートマタの首を拾い上げた。
オートマタを破壊したことを集落に伝えると、長老達は一様にほっとしたような表情を浮かべた。
リュカはハイデンの長老に頼み込み、集落の一角に小さな天幕を借り受けた。
持ち帰ったオートマタの首は雑音交じりの単語を繰り返し発している。意思の疎通を図ることは難しそうであった。
リュカはオートマタの言葉を一つ一つ丁寧に聞き取り、記録していった。
「ぷろ なかに みあ よみががが」
オートマタの言葉は断片的であったが、根気よく聞き続けることで、一つ一つの単語の形がはっきりしていった。
「長い間の滞在を許していただき、ありがとうございました」
リュカは旅支度を整え、長老のところへ赴いていた。
「もう旅立たれるのですかな? 差し支えなければ、次の行き先をお尋ねしたい。何か力になれることもありましょう」
「ええ、先般持ち帰ったオートマタのことを更に詳しく知るために、機械文化の盛んな西へ赴こうと思います」
「西……ならば一つ頼みを聞いてもらえませんでしょうか。 あのアスラを供として連れて行っては下さりませんか」
「一体何故? ハイデンの民は集落を出ることはないと伝え聞いておりますが」
「我らも世の変化に適応しなければなりませぬ。あやつは次期頭目として世界を知る必要があります」
リュカは少々の間を置いてから口を開いた。
「そういうことならば、謹んでお引き受けいたしましょう」
実はといえば、リュカはアスラという若者の技量に大いに感心していた。ここまでの使い手は文明化された王国には決して存在しないと思っていた。
「ありがたいことです。アスラよ、リュカ王に改めて誓いの言葉を述べよ」
アスラが副頭目達の中から一歩進み出る。
「道中よろしく頼むぞ」
「古の盟約に従い、忠誠を誓います」
アスラはリュカの前に跪いた。
渦を避けながら西へと向かう道中、ルビオナとミリガディアの国境にある、関所を兼ねた街に宿を取ろうと立ち寄った。
昼間にも関わらず街はとても活気付いており、さながら祭のような雰囲気を醸し出していた。
「ずいぶんと賑わっているが、何か祭でもあるのかね?」
リュカは露店で果物を購入すると、世間話のついでのように店主に尋ねた。
「なんだ、知らないのかい?」
「ああ、この街に来たのは初めてでな」
「驚け、ジ・アイが消滅したのさ! 街の警備隊が言うには、近くにあった渦も魔物も一緒に消えちまったって話だ!」
店主は興奮して言い募った。
「なんと……」
数百年もの間人類を悩ませ続けていた渦の一斉消滅の報せに、リュカはそれ以上言葉が出なかった。
「ま、この街に知らせが来たのもつい二日前の話でな。それからずっとこんな感じよ」
「……そうか、ありがとう」
「いいってことよ!」
リュカは露店を後にするとアスラを待たせていた場所へ戻り、ジ・アイ消滅の事を伝えた。
アスラは一瞬だけ驚いたように目を見開いたが、黙って頷くだけだった。
突然、籠の中にあるオートマタの首がガタガタと音を立てて震えだした。
あまりに揺れるため、早々に宿に入って籠の蓋を開け、オートマタの様子を確認した。
「な どうし」
「らく みあさ みあ そんな ああ わた みあさま」
オートマタは嘆くように頭蓋を震わせていた。
「このようなことは初めてだ」
「渦と関係があるのかもしれません」
「そうだな……。まずは今の状況を掴んでおく必要がある」
「承知しました」
オートマタの首を入れた籠を何重にも布で包み込んで音が漏れ出ないようにすると、リュカとアスラは宿の外へ出た。
そこで二手に分かれると、ジ・アイ消滅に関する情報を収集した。
渦は確かに全て消失したが、その作戦を行った騎士達は全滅しており、彼らは英雄として祭り上げられている。といった状況が明らかになった。
ある程度の状況を把握したところで宿へ戻り、オートマタの首を確認する。
オートマタは『ミア』という単語を狂ったように繰り返していたが、暫くしてエネルギー切れでも起こしたのか、急に静かになった。
頭脳を生かすための駆動音だけが、宿の部屋に響いた。
「如何致しますか?」
「渦の消滅が関係しているのならば、ジ・アイへ向かうのが良いだろう。今ならば近付くこともできる」
街で買った西方の地図を確認しながら、リュカはこの先の道筋を決定した。
リュカは進路を新興国インペローダへと取ることにした。ジ・アイが存在していたサラン州はインペローダの領地にある。
渦が消滅した影響か、道中はストームライダー達に頼らずとも、比較的簡単に進むことができた。
ジ・アイがあったとされる一帯は、草木さえ生えていない荒野だった。
レジメントを率いていた者達はすでに引き揚げたのか、人がいたという形跡さえ無かった。
「見えるか、アスラ」
「はい」
二人は短く言葉を交わす。リュカとアスラの目には、荒野に揺らぐ陽炎のようなものが見えていた。
流れる水のように揺れる景色は、変化を見せつつもそこに留まっていた。
リュカはアスラを促し、オートマタの首を籠から出した。
すると、国境の街で静かになったままだったオートマタが言葉を発する
「ああ みあさ ま あな ここ」
オートマタの虚ろな眼窩が、歪む荒野の中心点を見つめていた。
「なか あつめ まだどこ に われわ 」
不快な金属の音を立てて、オートマタは喋り続ける。
「わた そこ へ」
顎を振るわせ、手元から跳ねるように首は地面に落ちた。そして異常な執念を見せるかのように、そのまま顎の力だけ前に進んでいく。
あまりの奇態な姿に、リュカとアスラは首の動きをその場で黙って見つめていた。この首が何に執着しているのかを見極めるために。
首は暫く前に進むと、ある一点で音を立てて消失した。
驚いたリュカは、思わず首の消失した場所に駆け寄ろうとした。
「リュカ様、近付いては危険です」
アスラに押し止められ、リュカはその場に留まった。
オートマタの首は完全に消滅してしまったかのように見えた。
「—了—」